境界の桜   作:阿頼耶

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第2話

「「「「個性把握テストぉ?」」」」

 

 私の2回目の入学初日はかなり荒れるらしい。個性把握テストは確かにやったけどそれはもう少し後でのことだった。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。そして、それは先生側もまた然り。お前たちも中学の頃からやってるだろ?個性使用禁止の体力テスト」

 

 そう言って私達に種目表を見せる。私にとってはやったことがあるものばかりだ。私の場合問題なのはそういったものに個性が関係しないということ。個性ありの身体能力測定では私はかなり不利だ。それに、何故だか少しだけ嫌な予感がする。

 

 相澤先生は一通り話を終えて、実技入試で1位だったらしいバクゴーくんに個性ありでボールを投げさせる。体を爆発させることができる個性なのか、ボールを投げる瞬間に手から爆発させてボールに勢いを乗せた。ヒーロー科らしからぬ掛け声が聞こえたような気がしたけど気のせいということにしておく。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

「705mってマジかよ」

 

「何これ!面白そう!」

 

 あ、これはちょっとヤバそうだ。ピンク色の女の子の言葉を聞いて、心なしか相澤先生の目が光ったように見えた。

 

「面白そうか…ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」

 

 相澤先生はまだ話を続けていて、それはしっかり聞いているのだが、それ以上に私の内心は穏やかではなかった。1回目の入学の時にやった個性把握テストでは私は堂々の最下位だ。冷や汗が止まらない。

 

「さて、デモンストレーションは終わり。こっからが本番だ」

 

 はじめの種目は50m走。ここで一つ、更に問題があるのだが何か分かるだろうか。ヒントは私の名前だ。

 

「じゃあ浅儀、芦戸。位置に付け」

 

 そう、苗字が「あ」から始まるのだ。大体一番最初にやらなければならず、他の人を参考にもできない。何か、何かなかっただろうか。今の私にはこの死を見る眼、直死の魔眼もある。

 

 ……そういえば、この直死の魔眼は生物非生物に留まらず概念的な物でさえ殺せると識は言っていた。なら、ゴールまでの距離も殺せるのではないだろうか。眼を直死の魔眼に切り替える。少しだけ頭が痛むがそれを無視して立ったまま線に集中する。

 

 スタートの合図と同時に指で線をなぞる。何かを殺した感覚がしたと同時に私はゴールラインの向こう側に立っていた。

 

「浅儀桜、0.7秒」

 

 これだけでも少し疲労感がある。もっとこの眼に慣れて行かなければ。この程度のものを殺しただけで疲れていては戦闘ではとても使えないだろう。

 

「うぉぉぉ!スッゲェ!なんか目ぇ光ってたけどどんな個性なんだ!?瞬間移動とか!?」

 

 黄色と黒の髪色で、いかにもチャラそうな男子に話しかけられる。

 

「あぁまぁ、オレの個性の応用でな。聞いてたと思うが浅儀桜だ。よろしくな」

 

「俺は上鳴電気で、個性は帯電!よろしくな!」

 

 それを皮切りに、何人かが寄ってくる。芦戸さん、切島くん、瀬呂くんと挨拶を交わしたところで先生がこちらを睨んでることに気付き、計測に戻る。

 

 握力は個性を使えないので、そのまま測った。万力を使っていたのは流石に驚いたが個性の産物である為OKらしい。走り幅跳びは跳んで空中で距離を殺そうと思っていたが、実際にやってみると上手くなぞることができずに普通に走り幅跳びをしただけになってしまった。跳んだ時に紫色の髪のちっちゃい子がうるさかったのはなんなんだろうか。反復横跳びでも私の個性は使えない。そして紫のちっちゃい子がうるさかった。

 

 ソフトボール投げでも私の個性は使えない。ミドリヤくんという子が投げる際に指導を受けたりしてたが彼の指が折れて紫に変色したり、バクゴーくんがミドリヤくんに突っかかってたり、個性を消せる眼の個性なのにドライアイで勿体無かったり何か色々なことが起きていたが、私にはあまり関係がない。

 

 残りの持久走、上体起こし、長座体前屈でも変わらず個性は使えないので素の身体能力で計測した。もしかして私ってかなり危ない順位なのではないだろうか。50m走以外にパッとした記録がない。私と同じく一部の種目以外パッとした記録がないミドリヤくんだが、私はいくつかの種目で彼に負けている。

 

 全種目を終え、総合順位が発表される。私は……ギリギリの19位。なんとか除籍は免れることができそうで安心する。最下位だったミドリヤくんには悪いが、私はこんなところで辞めさせられるわけには行かない。

 

 ちょっとした罪悪感を感じていると、相澤先生が衝撃の一言を放つ。

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」

 

 ミドリヤくんが悲鳴を上げていたがその気持ちが分からなくもない。除籍かどうか、人生が掛かっているのに悪びれもせず嘘と言われたら悲鳴の一つも上げたくなるだろう。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類あるから目ぇ通しとけ。緑谷、保健室で婆さんに治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。覚悟しとけ。」

 

 さっさと更衣室に戻って着替えようとしていたところを、相澤先生に呼び止められる。

 

「浅儀、お前個性を偽ってたのか?」

 

 思いもしなかった質問が来て、少し面食らう。でも、確かにそうだ。今までの授業とかには識はほとんど出ず、私の歪曲が個性ということになっていた。それなら今日やった瞬間移動を見て疑問に思われるだろう。

 

「いや、昏睡から醒めたときに新しく使えるようになってたみたいだ」

 

「…………そうか、ならいい。もし今後また新しい能力が使えるようになったら申告しろよ」

 

「分かった。」

 

 正直大分怪しい言い訳だったのだが大丈夫だろうか。でもこのクラスには氷と炎の二つを使える生徒もいたし多分大丈夫だろう。いい加減汗の染みた肌着が気持ち悪い。

 

 

 

 少し時間が過ぎた後、グラウンド

 

「………あと、浅儀少女の個性は歪曲だったはずだけど、あの瞬間移動はなんだったんだい?」

 

「…どうしてそんなことを?」

 

「ただの興味本位さ!」

 

「本人曰く昏睡から目覚めた時に新しく使えるようになっていた、らしいです。真偽は定かじゃありませんがね」

 

「そうか。ならいいんだ!ありがとね!………………オール・フォー・ワンは彼女に個性を…?」

 

 

 

 私が更衣室に入ると、みんなが一斉に話しかけてくる。その勢いに驚いて少しだけ素が出てしまいそうになった。

 

 流石ヒーローを目指してる者達と言ったところか、まだ会ったばかりなのにもう打ち解けていた。私は自分から友達を作りに行ったことがない。友人はいるが、みんな向こうから話しかけてきてくれた人ばかりだ。だからこうして向こうから話しかけて来てくれると嬉しいのだが……流石にちょっと圧が凄い。

 

 一通り自己紹介を終えて、連絡先を交換して先に帰る。

 

 復帰の日ということで少し緊張していたのに初日から全てすっ飛ばしていきなり除籍の危機、なんてかなり濃い1日だったから精神的に疲れていたのだ。でもみんな良い人だったからもう少し仲良くなりたいと思ったけど、これは識として正しい思考なのだろうか?

 

 

 

 結論が出ない考え事をしながら歩いていると、あっという間に家に着く。今まで住んでいた屋敷とは別に、復帰に合わせて借りた安いアパート。今まで住んでいた屋敷は普通に歩きで通える距離だったが、今の私には過ぎたものに思えてならない。だから雄英生限定で格安になっていたこのアパートを借りたのだ。

 

 シャワールームとトイレは付いていて、キッチンもある。小さめの冷蔵庫と寝るためのマットレスも屋敷の倉庫から持ってきた。着替えの服や下着もある。私にはこれで十分だ。シャワーを浴びて、買ってきたコンビニ弁当を手早く食べてゴミを捨てる。後の時間は無心で内職のバイトをして、それでも時間が余ったらひたすら勉強をする。時々、あの事故が無かったら…なんて考えるけど事故の原因である私にはそんな事を考える資格もない。

 

 明日は普通の授業だ。それでも初日から個性把握テストなんて事をしたクラスだ。何が起こるかわからない以上余裕を持っていた方がいいだろう。今朝だけは気合を入れて朝食を作ったけど、明日からやめよう。あぁでも、材料は消費しないとだから、夕食の時に付け合わせでも作って消費することにした。明日は穏やかな一日だと良いな、なんて思いながら睡魔に身を任せる。

 

 

 

 翌日、午前中は驚くほどに普通の授業だった。変わったことと言えば先生がヒーローでコスチュームのままなことだが、それも気にならなくなった。授業の内容は高度で、気を抜いたらすぐにでも置いて行かれてしまいそうだ。置いて行かれることがないように精一杯努力しなくては。

 

 昼食の時間、大食堂では安価で一流の料理が食べられるらしいが私には過ぎたものだ。教室に残っている人達も何人かいるが、みんな手作りの弁当のようで私のコンビニ弁当がかなり浮いて見える。

 

「桜!学食行かない…ってありゃ、弁当派だったか〜」

 

 芦戸さんが陽気に私を誘ってくれる。でも、その誘いを受けることはできない。

 

「オレはこれで十分なんだ。それよりアシド、早く行かないと席がなくなるんじゃないか?」

 

「うわそうじゃん!また今度、一緒に学食行こーね!」

 

「あぁまた今度、な」

 

 芦戸さんは小走りで教室を出て行く。また今度は、多分ずっと来ないだろう。私に行く気がないのだから。こんな良い人達にすら、私はいつか見放されそうでそれが怖い。けどそれも私への罰なんだろう。

 

 

 

 午後。

 

「わーたーしーがー普通にドアから来た!」

 

 本鈴と共にオールマイトが教室に入ってくる。筋骨隆々で、多くの人々を安心させ、または畏怖させてきたよく通る声。そんな人が目の前にいきなり現れるものだから私は内心かなり驚いていた。

 

 自身の担当教科と、その概要を説明しながら教壇に立ったオールマイトは「BATTLE」と書かれているプレートを突き出す。

 

「早速だが今日はコレ!戦闘訓練!そしてそいつに伴ってコチラ!入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチーム!着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!」

 

 

 

 更衣室にて、コスチュームに着替えてる途中、制服を脱ぎながら葉隠さんが話しか けてくる。

 

「ねーねー、桜ちゃんの個性って何?」

 

「確かに!アタシも気になる!」

 

「昨日は早く帰ってしまわれましたものね」

 

 みんなが興味津々と言った顔でコチラを見る。こうなってしまってはもう逃げ道がない。……だが、戦闘訓練前にわざわざ手札を晒さなくても良いんじゃないだろうか。

 

「この後は戦闘訓練だろ?それが終わるまでは秘密だ」

 

「……なるほど、そうだね!後でまた聞く!」

 

 私の個性自体は隠すべきものでもないが、もう一つの目の方はダメだ。死が見える眼なんて到底受け入れられないだろう。

 

「…それより、オマエらのコスチューム凄いな。着てて恥ずかしくないのか?」

 

「私は恥ずかしい………」

 

「アタシもちょっとね」

 

「私のコスチュームはむしろ注文より隠されてしまっていて…」

 

「私は手袋とブーツ以外無し!透けてるから恥ずかしくない!」

 

 なんでも、八百万さんの個性は体から直接物を生み出す為露出が多い方が良いらしい。だとしても布面積少なすぎだと思うが。葉隠さんはそれで良いのだろうか。液体でもかけられたらとんでもないことになると思うのだが。

 

「そういう桜のコスチュームは?」

 

「オレのはこれだ。デザインは私服で、素材をコスチューム用の強化繊維に変えただけだ」

 

「着物に…ジャンパーですの?なかなか見ないスタイルですわね。今の流行りはこういうものなのでしょうか?」

 

「オレ以外でこんな格好してるやつ見たことないし流行じゃないだろ。多分」

 

 一応着ているインナー、袖を外した青の着物に、赤のジャンパー。背中側の帯に隠された刃を潰してある6寸のナイフ。特に挙げるべきところはないブーツ。これが私のコスチュームだ。デザイン自体は私服と全く変わらず、耐火耐刃となかなかの性能になっている。よく伸びるのか、動きが阻害される感じもしない。

 

 コスチュームに着替え終わり、グラウンドβへ向かう。

 

 

 

「さぁ!始めようか!有精卵共!」

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