境界の桜 作:阿頼耶
初回のヒーロー基礎学は屋内での戦闘訓練を行うそうだ。『ヒーロー』と『ヴィラン』に別れて2対2で戦う。状況設定は『ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しなくてはならない』。ヒーロー側の勝利条件は制限時間内にヴィランを全員捕まえるか、核兵器を回収すること。ヴィラン側の勝利条件は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーロー全員を捕まえること。核兵器の回収はタッチで、捕まえるには捕縛テープを相手に巻き付ければ良くて、チーム分けはくじ引きだった。
私はチームI。葉隠さんと同じチームだ。
1戦目は緑谷・麗日のチームA対爆豪・飯田のチームD。ヒーローはチームAだ。
私達はモニタールームで訓練を見ていたが、かなり危ない場面が何度もあった。爆豪くんが建物の一部を吹き飛ばしたり、緑谷くんが建物をブチ抜いたりとかなりヒヤヒヤしたが大事にはならずにヒーローチームの勝利となった。後の講評では飯田くんがMVPだったが。
2戦目は轟・障子のチームB対浅儀・葉隠のチームI。ヒーローはチームBだ。
先程の戦闘でビルが半壊したので使うビルを変えて続行する。ビルの最上階の部屋に核を置き、スタートの時間まで待ちながら作戦会議をする。
「よろしくね、桜ちゃん!」
「あぁ。よろしく。さっきはもったいぶったが、オレの個性は『歪曲』。視界の中のものを曲げられる」
「私の個性は見ての通り『透明化』!」
「了解だ。それで、ハガクレは轟か障子の個性知ってるか?」
「うぅん、どっちも知らないや。知ってるのは桜ちゃん以外の女子のだけ。でも個性把握テストの時に轟くんは氷出してたから凍らせる系の個性なのかな?っていうのと障子くんも握力測定の時に腕増やしてたから腕を増やす個性かなって」
「そうだな。あと、トドロキは出した氷を溶かしてたから炎も扱えるか、分子操作の個性って確率が高い。オレが真正面から戦って、ハガクレがその隙をついて捕縛テープを巻くって感じでどうだ?」
「おっけー!それなら、手袋とブーツは脱いどいた方が良いね」
「よし、それじゃハガクレはこの部屋の入り口近くで隠れててくれ」
私と葉隠さんが位置に着いたときにちょうどスタートの時間になった。それと同時に温度が下がり、パキパキという音が聞こえてくる。
「なんだ?…………ッ!」
それがビルが凍っている音だと気付き、眼を変えて見えた線を咄嗟に取り出したナイフでなぞる。なんとか部屋が凍る前に止めることが出来たが、凍らせようと作用しているものを殺したのでそれなりに頭が痛む。直死の魔眼のままでいると更に頭痛が大きくなっていっている気がしたので眼を戻す。
「ハガクレ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫ー!ギリギリのところで止まったみたい!」
「ならハガクレはこのまま待ち伏せしててくれ。オレはトドロキを妨害してくる!」
「了解ー!」
私は核がある部屋から出て、一つ一つ部屋を確認しながら降りて行く。寒さと頭痛が気になるが問題なく行動できるレベルなので無視する。
「お、よう。トドロキ」
轟くんには3階のちょうど真ん中辺りの廊下で遭遇した。障子くんの姿は見えない。轟くんは少し驚いたみたいだが即座に身構える。私も既にナイフを抜いて臨戦体制だけど時間稼ぎを兼ねて話しかける。
「オマエ1人か?ショウジはどうした?」
「……さぁな」
「つれないな。もう少し会話を楽しめよ」
「……お前、個性は?」
「すぐにでも戦闘になりそうな時に答えると思うか?」
「そういうことじゃねぇんだが……そうだな、俺の個性は『半冷半燃』。左は炎、右は氷を操れるんだが、左は使わねぇ」
「…はぁ、分かったよ。オレの個性は『歪曲』。視界の中のモノを曲げられる個性だ」
「個性把握テストで見せた瞬間移動もその個性の応用か?」
「あれはもう一つの個性の力だ。どうしてそんなことを聞く?」
轟くんの目つきが少し鋭くなった。
「個性婚って知ってるか?強力な個性を持った者同士で子供を作って更に強力な個性を生み出すって前時代的でくだらねぇことだ。お前がそれで産まれたのか知りてぇ」
「オレの母親は無個性だ。恋愛結婚かは知らないが個性婚じゃないことは確かだし、2人ともお互いのことを愛し合っていたぞ」
「そうか、変なこと聞いて悪かったな」
そういうと同時に轟くんは氷塊を発生させてぶつけようとしてくるがそれを歪曲で捻じ切る。
「凶れ」
それを合図に、轟くんはまた氷を発生させて攻撃してくるがそれを私がまた捻じ切る。それを何度か繰り返していると廊下の気温が下がり、動きづらくなってくる。寒さで体が動かなくなる前に壁を壊して逃げ込むが、轟くんはゆっくり歩いて追いかけてくる。
「俺に時間かけてっと障子が核んところ行っちまうぞ?」
「クソッ………凶れ!」
氷塊をまた捻じ切る。一度だけ避けられない氷を殺したが、それだけでかなりの頭痛がしてくる。隙を見て轟くんの足元を捻じ曲げようとするが、すぐに気付かれて氷で視界を遮られてしまう。轟くんの言う通り、障子くんが核へ辿り着くのは時間の問題だろう。だが、葉隠さんは個性によって見えない。見つかりさえしなければ捕縛テープを巻くことは容易いはずだ。
「障子の個性は腕を増やすこととパワーだけじゃねぇ」
心臓が大きく跳ねた気がした。
「あいつは個性を応用して索敵もできる。葉隠も見つけられるから早く行った方が良いんじゃねぇか?」
焦らせる作戦だとは分かっているがそれでも焦ってしまう。焦りと眼を酷使しすぎているのか大きくなっていく頭痛のせいで動きが精彩を欠いていく。今まで余裕を持って避けるか、砕けていた氷結攻撃も掠りそうになる。
「焦ってんのか?大技いくぞ」
轟くんが凍っているビルの床に右手をつく。瞬間、そこから広がるように氷が突き出していく。歪曲で捻じ曲げても後から後から生成しているのか、押し留めるので精一杯だった。氷は放射状に放たれている為左右に逃げ場はない。数秒目を離しただけで氷は私に到達しそうな速度の為、床を捻じ曲げて落ちることもできない。
頭が回らなくなってきたのか、正常ではない考えになっていく。直死の魔眼はまだ戦いで使えるほど習熟できていない。そして、これは訓練だが内容は真剣勝負そのもの。経験値を積むには絶好の機会だ。そして、ここからの勝ち筋は直死の魔眼しかない。
誰かに思考を操作されているのか疑いそうになる程、直死の魔眼を使う理由がスラスラ出てくる。そして、鈍くなった私の頭はそれを良しとした。
瞬間、景色が変わる。頭痛が引いていき、頭の中が妙にクリアになる。見えるモノ全てにある線。今まさに私に辿り着こうとしている氷にもそれは見える。見えたのならばあとは殺すだけである。右手のナイフで線をなぞっていく。放射状に放たれていた氷が全て殺されるが轟くんが氷を生成し続ける限りまた殺さなくてはならない為まだ危機を脱したとはいえないだろう。だがその予想に反して何故か氷の生成が止まったので、その隙を逃さず攻勢に出る。
「ハッ」
短く息を吐くと共に距離を殺して轟くんの後ろに回り込む。轟くんはまだ反応できていない。そのまま、私はナイフで轟くんの線をなぞろうとして……ブレーキをかける。
結果私はつんのめって地面にダイブしてしまうが、今はそれどころではなかった。まだ会ったばかりとはいえクラスメイトを殺そうと動いた事実に対するショックと短時間に何度も眼を切り替えたせいか今までの比じゃないレベルの頭痛が私を襲う。思わず頭を抱えて四つん這いのようにうずくまってしまったタイミングでアナウンスが鳴る。
『ヒーローチームwin!!!』
わたしは目から温かいものが溢れ落ちて氷の上に赤黒い染みつくっているのを見ながら、意識を失った。
目を開けると、数人のクラスメイトとオールマイトが私を覗き込んでいた。頭痛は引いていて体の違和感もないので、ゆっくり体を起こそうとする。
「無理に体を動かさない方が良い。意識はハッキリしてるかい?」
「はい、大丈……大丈夫だ。血涙も気絶も個性の副作用だから心配ない」
素の口調が出てしまいそうになって、慌てて言い直して聞かれてないことまで話してしまう。だがみんな気付かなかったか、あえて触れずにいてくれているようだった。
「一応リカバリーガールに見てもらうかい?」
「いや、単なるオーバーヒートみたいなもんだから心配ない。講評に移ってくれ」
実際、今までも気絶してしまうことはあった。直死の魔眼のままでいたり、概念的なモノを何度も殺したりするとブレーカーが落ちるように意識が無くなる。だが今回のように激しい頭痛と血涙を流して気絶すると言うことは今までなかった為、私自身も驚いているが気絶した理由は明白だ。短時間で複数回の眼の切り替え。とりわけ直死の魔眼から歪曲の魔眼に切り替える時の負担が大きい。
「分かった。だが不調が現れたら直ぐに言いなさい」
「あぁ」
そばで心配そうにしていた葉隠さんの手を借りて立ち上がる。
「悪い、ハガクレ。負けちまった」
「そんなことより本当に桜ちゃんは大丈夫なの!?血の涙は流してるし気絶してるし本当に心配したんだからね!」
いかにも怒ってます。と言う身振りで詰め寄ってくる葉隠さんに、私は頰に張り付いた血を擦りながら微笑む。
「オレは本当に大丈夫だ。心配かけて悪かったな」
「もー、次からは気絶しないようにしてね!」
許してもらえたみたいでよかった。
「さぁ、講評に移ろうか!今回のMVPは障子少年だ!Vを見ながら解説し…」
「待てや、オールマイト。講評に行く前に聞きてぇことがある。」
「なんだい?爆豪少年」
「着物ジャンパーの個性だ。ワープ系の個性かと思ってたがそれじゃ半分野郎の氷を砕けねぇし核の部屋の凍結を防げねぇ。かと言って念力系の個性じゃ瞬間移動はできねぇ。それに推測しようにも材料が少なすぎてこれ以上は憶測になっちまう。だから教えろ、テメェの個性はなんだ?」
「確かに、個性がわからないまま解説したところで本人はともかく他の子たちには得られるものが少ない。よければ、教えてくれるかい?」
私の個性はネタが割れれば対策は容易いので安易に話すべきではないが、それでも歪曲の魔眼だけなら話せただろう。だが直死の魔眼のことは話すわけには行かないだろう。その気になれば身一つで殆どのものを殺せるなんて冗談でも笑えないし、恐怖されるのは目に見えている。だが3年間同じクラスで過ごすことになる者たちに隠し通せる訳もない。なら…早く打ち明けた方が良いんじゃないだろうか?
「……オレの個性は、『歪曲の魔眼』だ。視界内の物を物理的な強度に関係なく捻じ曲げることができる。右眼は右回転、左眼は左回転で曲げられるが、障害物の後ろにあるものは曲げられない。瞬間移動は別の力の応用だが…今は明かせない」
結局、私は言うことはできなかった。拒絶される恐怖が勝ってしまった。隠せば隠すほどバレた時に傷付くと分かっていたけれど、私には一歩踏み出す勇気がない。せめて嘘はつきたくないと思って隠してることがあるとは言えたがそれは私の心の慰めにしかならない。
「……聞きたいことはもうねぇ」
「浅儀少女の個性もわかったところで、改めて講評していこう!」
意外と爆豪くんからの追及は無く、他の面々もこの説明でひとまず納得してくれたようですぐに講評に移ってくれた。
「ねぇ桜ちゃん!みんなで反省会するんだけど、参加しない?」
放課後になってすぐ、反省会をしようという話をしていたのは聞こえていた。しかし私に反省会に参加する気はない。
「悪いな、今日は用事があるんだ」
他人の話を聞く分には良いが、私の個性の話題などになると少し不味い。だからあえて個性の話を避けることで私には個性の話題はNGだとでも思ってくれればバレるまでのタイムリミットが少しは長くなるだろう。
「じゃあしょうがないかー。また明日ね!」
「あぁ、またな」