龍化術師   作:天網恢恢

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ようやく主人公の術式と戦闘シーンのお披露目です。


戦闘

「始め」

 

 僕は肺に力を溜め、炎を吐き出した。

 

 僕の術式は恐らく「竜化」。行使によって自身の肉体が竜に変身する。そしてそれは自分の肉体を上書きしていくように変わるのだ。この火を噴く肺は中学1年生の頃に呪霊に身体の中心をぶち抜かれたときに獲得したものだ。心臓と肺を失って死に瀕して僕は、薄れる意識の中で体の中心に術式を発動した。それによって僕は竜の肺と心臓を獲得したのだ。

 

 炎を凝縮させる。はじめは視界いっぱいに広がっていた炎を細く、濃く凝縮する。薄めた炎では五条悟を害することなどできやしない。吐いたそばから肺に炎を生成していく。そうして人一人を覆う程度まで凝縮させたところで違和感に気づく。焼ける匂いがしない。肉にせよ服にせよ、火がかかればものは焼けるはずだ。その匂いがしない。火を吐き出すのを止めるとそこには。無傷の五条悟が立っていた。先ほどまで火の海に居たことなどまるで感じさせない自然体で。

 戦慄を禁じ得ない。これが現代最強。これが五条悟。この程度では服にすらダメージを与えられないか。ならば接近戦。身体を動かすのに自信はあるが、五条悟に果たして届くか。

 

 僕は突撃する。勢いを乗せたまま貫手を行うと、五条悟は手首を掴みそれを止める。ここだ。指先に術式を行使する。指に急速に白い鱗が生え、竜の爪が伸びる。驚く気配を感じる。そして爪が五条悟の腹に刺さろうとして。

 服の直前で止まった。

 

「!」

 

 僕は驚きながらも、腰に術式を発動し尻尾を生やす。制服は破れてしまうが構うまい。そして尻尾で薙ぎ払おうとして。

 やはり服にぶつかる直前で止まった。

 

「!?」

 

 至近距離で炎を吐く。今度は放射型の炎ではなく礫のようにぶつけるタイプだ。

 それも当たる直前で空中で止まってしまう。

 

「なるほど、これがあなたの術式ですか。」

 

 五条悟に睨みながらそう言葉をかける。彼はそれに笑みを返して。

 

「ダメだよ、術式はなしでって言ったじゃん。罰としてこっちも反撃するよ」

 

 そう言って、僕は弾き飛ばされた。白線で区切られたエリアを越えて、建物の壁に激突する。

 

「!?!?!?!?」

 

 ダメージはない。しかし、何で攻撃されたのか分からなかった。透明な何かに殴られたわけではない。風でもない。突然斥力が発生したような感触。彼の術式は『停止』ではなかったのか。二つの術式?いや、術式は一人に付き一つの筈だ。……分からない。

 ふふっ。面白くなってきた。そうこなくては。そうでなくては。わざわざ上京してきた甲斐があったというものだ。

 

 背中に術式を行使し翼を生やす。翼で風を掴み、低空飛行で突撃する。頭部に術式を行使。角を生やす。後ろ向きに生える角を無理やり前に捻じ曲げる。助走は足りないが音速に迫る突撃。五条悟は避ける素振りを見せない。よほど防御に自信があると見える。衝突。

 やはり止まる。しかし今ならわかる。止まっているんじゃない。遅くなっている。ごく僅かに、極小だけ、少しずつ、動いているのが分かる。即ち、五条悟の術式は『減速』。

 

「ぐはっ!」

 

 止まったところを五条悟に打ち上げられる。腹に響くような一撃。掬い上げられるように腹にアッパーをくらった。いままで受けたどの呪霊の攻撃よりも重い。

 殴られた勢いを利用して空に飛び上がる。何か作戦を考える隙を。

 いないっ。地上を見下ろすと五条悟が先ほどいた場所にいない。どこに。

 とつぜん影がさす。

 

「ぐふっ」

 

 拳で地面に叩き落される。

 なるほど、敵わない。圧倒的だ。勝てる気がしない。それでも諦める気はしない。まだ戦いたい。

 全身に術式を発動する。身体中に鱗が生え、内臓も竜のそれに置き換わる。心臓を強引に鼓動させる。竜の炉心からエネルギーを全身に循環させる。血液が沸騰しているようだ。

 

 芸もなくまた突撃。反撃の手刀がとんでくる。しかし、今なら反応できる。翼でそれを受け、五条悟に抱き着く。そして上昇。高く、遠く、遥かに、(そら)へ飛翔する。雲を飛び越え、まだ飛ぶ。その間五条悟から反撃はとんでこない。むしろ逃がさないとばかりにこちらを掴んで離さない。お手並み拝見とでもいいたいのか。後悔させてやる。

 さらに上昇し続けていると、五条悟の力が少し弱まったのを感じた。これを待っていた。僕の目的は「高山病」だ。低気圧と酸素の欠乏により起こる、めまいや倦怠感。悪化すれば昏倒から死に至る。そうでなくても呼吸困難に至れば術式の行使は困難。そうすればこちらの攻撃も通る。五条悟といえども所詮は人間。こちらは竜。頑丈さ・生命力は折り紙付きだ。先に倒れるのはあちらの方だ。

 彼もこちらの意図を察したのか離れようともがく。しかし、絶対に離さない。逃せばチャンスはもうない。

 

「なめんな」

 

 絞り出すような声が聞こえた。五条悟が呪力を練る。先ほどの斥力で弾くつもりか。しかし、くると分かれば対応もできる。絶対に離さない。

 

「虚式:茈」

 

 何!、翼がもがれた。今のは何の攻撃だ!!。分からん!!。なら今はいい!!。翼はもう一度生やせばいい。く、翼の生え際を掴んで握り潰されている。これじゃ生やせない。

 なら、このまま落下して。

 

「うおおおおおお」

 

 

 そうして落下の速度は加速し続け、それはさながら彗星のように。隕石のように。

 

 

 地球に衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

「残念、君の負け」

 

 衝突に際して五条先生は例の減速術式を使ってダメージなく着地した。こちらはそれもなく衝突のダメージを受けてしまい、疲労困憊。もう同じ手は使えないとなれば勝ち筋はないだろう。

 

「はい、僕の負けです」

 

 そういって、僕は大人しく敗北を認めた。

 そもそも五条先生が空を飛ぶ最中、こちらの動きを見るために暴れなかったからこそ途中まではうまくいったのだ。もしあのまま先生が気絶したとしても僕はそれを勝利だとは認めなかっただろう。相手はこちらを倒す気はなくて、こちらは全力だった。秤くんの場合と同様だ。

 ……というか冷静になって考えると、組手ということで始めたのに盤外戦術に出たのはよくなかった気がする。他の二人を放置して天空旅行したの怒られそうだなぁ。どうしよ。

 

「うん、だいたい君の実力は分かったよ。七海が推薦するだけはあるね。ちゃんと知識つければ今すぐ一級でも通用するんじゃない」

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

「というか、それ戻るの?」

 

 五条先生はそう言って僕の身体を指さす。…やっぱり指を指されていい気持ちはしない。

 

「はい、えっとまぁ。呪力をひっくり返して術式に流すと戻ります。完全に定着しちゃうと戻らなくなるんですけど」

 

「え、何。反転術式使えるの」

 

「反転術式っていうのは知らないですけど、あれですよね。身体に流すと傷が治ったり、術式に流すと逆の効果がでたりするやつ」

 

「うん、そうそう。え、すごいじゃん。その年で反転術式身に着けてんの」

 

 僕は裏返した呪力を術式に流し込み発動した。途中でもげていた翼も、角も、尻尾も、全身の鱗も霞にとけるように消えてなくなる。

 

「うわ、ホントだ。しっかり使えてる。マジで将来有望じゃん」

 

 何故かご機嫌になった五条先生。心なしか口調も軽くなっているように感じる。生徒が強いと教師の給料が上がったりするのだろうか。部下の手柄は上司の手柄みたいな。

 

「よーし、それじゃ3人の実力も分かったし、指導に移っていくよ。はーい、みんな集合」

 

 二人がこちらに集まってくる。星くんと心なしか距離を感じるのは気のせいだろうか。物理的にも精神的にも。

 

「まず星ね。星は身体の動かし方を覚えるのが最優先かな。呪力の扱いは結構できるっぽいし、動けるようになればできることも増えるよ。

秤はね、逆に呪力の扱いの勉強かな。呪力の流し方に無駄が多いからそれを直すべきだね。呪力の流れから次の動きが先読みされちゃうよ。颯はね、うーん」

 

 微妙な沈黙が流れる。二人の方を見るとそれぞれ対照的な目をしていた。秤くんは、やるじゃねぇかとでも言わんばかりの親しみを感じる目。星くんはまるで化け物でも見るような目をしていた。やりすぎたかもしれない。いやでもなぁ、楽しかったしなぁ。

 

「うん、領域展開できるようになろう。そのためにも結界術の勉強がんばろうね」

 

 領域展開?

 

「領域展開ってなんですか?」

 

「呪力で構成した生得領域に術式を付与する呪術の秘奥だよ。効果は色々だけど、領域内で発動した術式は絶対に当たるんだ。必殺の術式を必中必殺に昇華するってことだね」

 

「僕の術式に攻撃性はないんですけどどうなるんです?」

 

「それはまぁ人により色々だね。自分への強化に特化するとか、新たな性質を得るとか、術式対象が広がるとか。同じ術式でも同じ領域とは限らない。領域展開は呪術師の集大成にして、自らを映す鏡でもあるのさ」

 

「なるほど」

 

 僕の場合はどうなるのだろうか。相手も竜になったりするのだろうか。それだと相手を強化するだけでは?

 

「それじゃあ星の面倒は僕が見るから、残りの二人は組手をしてて。休憩は各々自由にとっていいよ。術式は禁止だからね。お昼までやったら今日の授業は終わりってことで」

 

「わかりました」

 

「うす」

 

「星は隣の武道場で練習だね、ついてきて」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介だ。俺は秤金次、好きなやつは熱のあるやつ。いやぁ~、教室で最初に見たときはガッカリしたんだぜ、熱の無ぇつまんねぇ目をしたやつと4年間一緒なのかよって。でも五条さんと戦ってるときのお前はすげぇいい()をしててよぉ。気に入ったぜ」

 

「うん、自分でも驚いたんだ。僕のなかにあんな衝動があったなんて。高専に入るまでは全部がつまんなくて、でもきっと他の皆にとっては大事なことなんだろうなって思いながら生きてきたんだ。そしてそれに合わせなくちゃって。でもさ、絶対に届かない壁が目の前にあって、それと対峙したときに、これを越えてみたいって思ってさ全力でぶつかったんだ。それが今日」

 

「いいね、ますます。気に入った」

 

「ありがとう。ところでさ、失礼かもしれないんだけど、もしかして年上?同い年には見えないんだけど」

 

「あぁ、まあな。中学の時にダブっちまってよ。だからお前もダブってねぇなら一個上の筈だぜ」

 

「え、一個しか違わないの」

 

「おいてめぇ、幾つだと思ってたんだよ」

 

「てっきり5歳くらい上かと」

 

「俺が5年もダブったてか!」

 

「いやいや、そうじゃなく。中卒で働き始めて、数年経ってから入学みたいな」

 

「あぁ、なるほど」

 

 不愛想な人かと思ってたけど、かなり話しやすい人だな。仲良くできそうで良かった。

 

「そういやよ、お前の術式って何なんだよ。ドラゴンに変身するのは見て分かったけどよ」

 

「うーん、自分でもよくわかんないんだよね。竜に変身した後もそのまんまじゃ戻らないし」

 

「あぁ?あれ戻んねぇのか」

 

「うん、一回なっちゃうと反転術式?ってやつで人間の身体に戻さないといけないんだ。しかも竜のままでいすぎると定着しちゃって竜のまま戻んないの」

 

「面倒な術式だな」

 

「まあね、ほらここ。髪に隠れてるけど角が生えてそのまんまでしょ。これ治せないの」

 

「大丈夫かよそれ」

 

「平気、平気。散髪にいけないくらいしか困んないよ。それにほらパーカーで隠せるようにしてるし」

 

「いや結構困るだろ、自分で髪切るのかよ」

 

「うん、自分で切ってるよ。といっても短く揃えるくらいだけどね」

 

 父さんにも呪術については黙っていたので、自分で髪を切るようにし始めたときは心配されたけど。それ以外では特に困ったこともない。

 

「逆に聞くけど、そのドレッドヘアーってどこでセットしてもらってるの?」

 

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 そんな他愛ない話を続けている間にも時間は過ぎ、お昼の時間になってしまった。

 

「やば、組手せずに終わっちまった」

 

「まぁ、初めてだしいいんじゃない?明日から頑張ればいいよ。それじゃあね」

 

「おう、またな」

 

 そう言って、僕たちは寮に帰っていった。




 鱗をビット・ファンネルにして遠距離攻撃!とかバルファルクを模倣して大気圏までゴー!とかも考えたんですが流石にやりすぎだなと思い断念しました。
 軽く調べたら、成層圏まで気球で昇ってスカイダイビングに成功した人がいるんですね。宇宙服を着て飛び降りたそうですよ。
 自然にオリ主の術式について説明しようとして長々と会話する形になってしまったのは反省です。

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