OAAを立ち上げ、橋本と須藤の評価を確認しながら教室へ向かう事にした。
ながらスマホは危ない為、周囲に気を配る事も忘れない。
私には綾小路にぶつかったという前科がある為、本当に気を付けないと事故に繋がってしまう。
曲がり角でぶつかっていいのは食パン咥えた少女漫画のヒロインだけだ。
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1ーA 橋本正義(はしもと まさよし)
1年次の成績
学力 B(74)
身体能力 B+(79)
機転思考力 B(68)
社会貢献性 B(65)
総合力 B(72)
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2ーD 須藤健(すどう けん)
1年次の成績
学力 E+(20)
身体能力 A+(96)
機転思考力 C+(40)
社会貢献性 C+(19)
総合力 C(47)
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須藤は身体能力に特化した生徒であり、橋本はAクラスらしく全体的にバランスの良い生徒みたいだ。
OAAのおかげで簡単に生徒の情報をチェックできるのはありがたい。
今回の試験において須藤のような生徒からしたら一之瀬帆波はまるで聖女の様に見える筈。
試験一之瀬がどれ程1年生から慕われているか楽しみだ。
教室に戻ると見知らぬ生徒が数人 Aクラス内を外から観察している事が分かる。
訝しげに見ていると、高橋が話しかけて来た。
大方石上の指示で情報提供を求めて来たのだろう。
「九条、交流会行って来たんだろ?さっき小西と栗原に聞いたんだ。どんな様子だったんだ?」
「えっとね────」
交流会に参加した人間の特徴や2年生のDクラスと Aクラスの偵察、目的についても簡単に話した。
高橋は考える素振りをしてから感謝を述べ携帯を操作し始める。
「…石上君に頼まれたんでしょ?」
「……あはは、まあな。今回の試験、俺は見ての通り成績が宜しくは無いから優秀なパートナーが必要だ。その為の情報収集でもあるんだぜ。」
「なるほどね。」
「ポイントも毎月欲しいし、ここは手堅く行きたいんだよな。」
高橋修はお世辞にも成績が良いとは言えない生徒だ。
しかし下位者という訳でもなく、OAAの評価ではC+中の中から中の上程度の学力は有している為、B–からCくらいのパートナーを選んでも十分に戦える。
彼は石上の代わりに外交官として働いている為、今回の試験を万全な状態でクリアしたいのかもしれない。
「そういえば、Aクラスを外から監視している生徒がいるけど、彼らは2年生だよね?」
「ああ。さっき2年Aクラスの坂柳先輩に話しかけられてさ、パートナーに誘われたんだが、まだ承認してはいない。石上がプライベートポイントを交渉に使ってくるまで承認するなってグルチャで言ってたからな。」
え、そんな連絡来てたっけ?
慌てて端末を操作しメッセージを確認すると私が体育館に向かったのとほぼ同時のタイミングでメッセージが送られていた。
入れ違いになってしまい気付かなかったようだ。
「まあ、了解。Aクラスだからパートナーに困る事は無いけど、私も出来るだけ優秀な人と組みたいな。ほら、数学が壊滅的だからさ。」
「確かに九条の成績は酷いよな。20点満点の小テストで12点ってA評価台でお前だけだぞ。」
高橋はケラケラと笑い転げる。
ちょっとイラっと来たが、数学に関しては高橋の方が上なので何も言う事は出来ない。
無念。
そこから数日の内に1年生の優秀な生徒の多くがプライベートポイントを使った交渉によってパートナーが決まっていった。
2年Cクラスの龍園やAクラスの坂柳がそれぞれの駒を使って1年生に交渉を行い、プライベートポイントを支払う代わりにパートナーを組む様迫って来たのだ。
我らがリーダー曰く、自分の価値に見合った金額だと思えば交渉を受けても良いと言っていた。
そして今や組んでいないのは成績下位者と一部の中間層、後は私くらいだろう。
Dクラスの成績優秀者も最近龍園だか坂柳だかのクラスとポイントで取り引きし、パートナーが決まったと風の噂で耳にした。
「はあ、パートナーが決まらないなぁ。」
私の呟きに天沢はニヤリと笑った。
そういえば彼女もまだ決まっていなかった筈だ。
「これでAクラスも残り数人。美空ちゃんも頑張った方がいいよ〜!」
「そういう一夏ちゃんもまだでしょ?」
「私は2年の須藤先輩と組むことになったからさ。」
え、もう決まってるの?
てか、須藤って成績下位者の先輩だよね?
「え、なんで須藤先輩と組むの?一夏ちゃんはてっきりボーナスを目指すものだとばかり思ってたよ。」
彼女の成績なら余裕でボーナスは獲得できる。
組む人にもよるが総合5組にも入る事だって夢じゃない。なのに何故だ。
「実は気になる先輩にどうしてもってお願いされたんだよね。それで仕方なくね。」
「ふーん、そうなんだ。でも一夏ちゃんはそれでいいの?」
「うん!全然問題ないよ。むしろ嬉しいくらい。ちょっとは面白いものも見れたし。」
天沢は楽しそうに笑う。
須藤も大変だなと同情する反面、天沢を口説き落とすなんて見る目があるとも思った。
いや、実際に頼んだのは気になる先輩の方か。
「あはは、一夏ちゃんらしいや。」
「じゃあそろそろ時間だし、行こうか。」
「そうだね、次は水泳かあ。」
そろそろ私もペアを組まなければ。
他の生徒に話を聞いてみると、みんな2年の先輩から誘われたらしい。
私はどうして一度も誘われていないのだろう。
一応学力A–だからそこそこ優秀だと思うのだが、まさか数学が苦手な事がバレている…?
もう73組が決まっている。
もう直ぐ半分を超えてしまい、有料物件はほぼ売り切れ状態だ。
その日の放課後。
「皆んな席に着け。特別試験まではまだ時間があるのでしっかりパートナーを決めておくように。」
パートナーという言葉はとても重い鉛のように私の肩にのしかかる。
「それから、九条。区内のピアノコンクールで金賞を取った時のトロフィーと受賞品が送られて来た。放課後職員室にとりに来る様に。」
「え、凄い!!」
「美空ちゃん流石だね!!」
「凄いね美空ちゃん。」
教室がざわつき拍手や祝福の言葉が送られる。
担任は言葉を続ける。
「区内のコンクールなので賞金の5万円は5万プライベートポイントとして振り込まれる。今回は大会の規模が小さい為クラスポイントの増加はないが、大きな大会になれば順位や功績によってプライベートポイントやクラスポイントが支給される事になっている。」
という事は部活動に入っている者や一芸に秀でた生徒にもチャンスがあるという事だ。
プライベートポイントだけだなくクラスポイントまで手に入る事もあるのだ、皆才能を思う存分発揮してほしい。
そして私の所持金は17万1241ポイントとなったのだ。
私は数学と社会科の勉強をしながら、パートナー探しを始めた。
OAAを確認してめぼしい人を探すが、学力の高い生徒はほとんど残っていない。DクラスはDクラス同士で組むのだと週明けに七瀬さんが言っていた。
残るはCクラスとAクラスの生徒のみ。
様子見し過ぎてしまった様だ。
「おい、九条。」
高橋が突然私の声を掛けてきた。
「何?」
ついに我らがリーダーの耳にも入ってしまったらしい。
「そろそろパートナー決めねぇと、やばいぜ?石上も言ってるし。」
高橋の言葉にちらりと斜め後ろのリーダー様を見るが、読書に集中している様だった。
「分かってる。選り好みしている暇なんか無いもんね。」
「なら良かった。頑張れよ。」
その時、ちょうど良くチャイムが鳴った。
不安が募る中数学の時間だった為集中して授業に取り組んだ。
帰りのホームルームで担任が私の目を見つめて口すっぱく警告をしてくる。
「それでは今日は終わりにする。試験前日までにパートナーを決めておくこと。以上解散。」
私はあてもなく校舎を徘徊する。
残り4日、4日しかないのだ。
焦らずにはいられないだろう。
廊下ですれ違う上級生に何度も声をかけたが、既にパートナーは決まっているらしい。
「あ、九条さん。」
聞いた事のある声で名前を呼ばれ振り返ると、そこには坂柳有栖と橋本正義が立っていた。
「お久しぶりです。」
「やあ。」
2人は笑顔で私に手を振る。
「えっと、坂柳先輩と橋本先輩ですよね?」
「実はパートナーの事でお困りだと風の噂で耳にしたのです。」
そういえば、先程すれ違った生徒がそんな事を喋っていた気がする。
しかしそれは噂でしかない筈だ。
一体どこから漏れたのか……。
私の思考を読んだかのように坂柳先輩は続ける。
その瞳は怪しく煌めいていた。
「実はAクラスには1人だけパートナーが決まっていない生徒がいるのです。九条さんさえ良ければパートナーになって頂き対と思いまして。」
どうやら私のパートナー探しもここまでの様だ。
「有難いお話ですが、生徒さんの名前を教えて頂いても宜しいですか。」
「山村美紀さんです。」
その名は以前OAAを確認した際に目にしていた。
Aクラスの中でも際立って高い学力を持ち、テストの成績でも全体の上位10%に入っている生徒だ。
そんな優秀者が何故ここまで残っていたのかはついさっきはっきりした。
2年生では私の成績に関するマイナスな噂、数学が苦手だという事実が流れていた。
恐らくリークしたのは同クラスの人間だろう。
大方Aクラスの優秀な生徒をあてがう代わりに情報を寄越せとでも言って交渉を持ちかけたんだ。
そしてAクラスの生徒のマイナスな情報をリークし、試験のパートナー操作が行われた。
噂の根元はAクラスの坂柳有栖だろう。
なんでかは知らないが、わざわざこのタイミングで偶然Aクラスの生徒が余っているなんておかしいのだから。
本来ならA–の評価を持っている。
私が余っていること自体がおかしいのだ。
2年生の中でなんらかの取引が行われた事により、私は龍園率いるCクラスからポイントで引き抜かれる事もなく、意図的にここまで残されてきたのだろう。
「その申し出受けさせて頂きます。ですが、わざわざこのタイミングまで待ったのでしょう?何がお望みですか。」
私が坂柳の行った事を理解しているのだと誇示するかの様に尋ねれば、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「話が早くて助かります。九条さんにはとある事柄について私のサポートをして頂きたいのです。」
坂柳は私に向かって手を差し伸べる。
「もちろんタダとは言いません。相応の対価を払いましょう。例えばプライベートポイントなんていかがですか?」
恐らく今日までの間私を観察していたのだろう。
今考えれば試験の説明があった日の放課後、教室の外には2年生の生徒が監視をしていた。
あの日から既に私に目を付けていたという事だろうな。
確かあそこにいた生徒はよく坂柳と話しているのを見かけた事がある。
何故私なのか、私に何を期待しているのか。
私には検討もつかないが、天才様の思考を理解できない事はいつもの事なので気にしない様にしている。
暫く考えを巡らせた結果私は決めた。
「先にお支払いしていただくポイントを決めましょう。先輩が今回の依頼に対していくらの価値を考えているのか教えて頂きたいです。」
「ええ、そうですね。計り知れない程の金額になってしまいます。ですから、レートをこの学園に合わせて考えるなら、ざっと2億といったところでしょう。」
いくら彼女がAクラスのリーダーであっても払える額では無い。
そもそも持っている事自体があり得ない金額である。
そんな額到底払えるとは思えない。
彼女の目的は一体なんなのだろうか。
一体私に何をさせる気なんだ?!
「…さて、龍園君。いつまで隠れているつもりですか?」
坂柳が近くの空き教室の方へ視線を向けると扉ががらりと音を立てて乱暴に開けられた。
どうやら私達が話し出す前から空き教室に潜んでいた様だ。
「そいつが契約してまで駒にしようとした女、か。どうもそこまでの価値があるとは思えないな。」
私を舐め回す様に見てから龍園は乾いたこえで笑った。
龍園も坂柳も人も駒としてしか見ていない様だ。
「ふふ、龍園君は案外見る目が無い様ですね。彼女はとても優秀な方ですよ。」
「ハッ、お前の目が曇ってるだけだろ。」
龍園は捨て台詞を吐いてどこへ去っていった。
彼を見送り坂柳は口を開いた。
「橋本君、そろそろ予約の時間になりますよね?」
橋本は時間を確認すると頷いた。
「ええ、そろそろ向かった方が良さそうです。」
「え、どういう事ですか?」
説明を求めても微笑まれて終わり。
まともに話してもくれず目的地に到着した。
そこは教師や学校関係者の重役が利用する様なロシア料理の高級レストランだった。
「待って下さい、払えません!」
「何を言っているのですか?私の奢りに決まっているでしょう。」
ふふっと意地悪そうな顔で笑う彼女は悪魔だ。
この日私は豪華な料理に舌鼓を打ち、最高の気分で契約書にサインをさせられた。
口止め料と前金として50万プライベートポイントを貰い、今後坂柳に情報を流したり場合によっては行動もしなければならないのだ。
その他にも毎月10万ポイントが支払われる為、ポイントに困る事も無い。
後悔をしても遅いので言われた通りに動くしか無いのだ。
坂柳から頼まれた事は極めて難しい事だったが、こちらへの見返りやメリットが大きい為受け入れるべきだと判断した。
断ったとしてもデメリットは無いが、今後上級生と協力する様な試験が行われた時の事を考えたらデメリットも0とは言えない。
そして、試験を行いついに結果が発表される。
5月1日がやって来た。
チャイムが鳴ると教室内へ担任が入って来た。
「では、特別試験の結果を発表する。」
クラス内に緊張が走る。
初めての試験、1年Aクラスはどこまでやれたのか。
見極めさせて貰おうか。