ようこそ後輩のいる教室へ   作:かりん糖さん

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本日2話目です!


無人島試験に向けて②

無人島試験に向けて②

 

 

7月1日

 

 

坂柳からの10万ポイントと毎月のお小遣いを足した22万5000プライベートポイントが振り込まれた。

 

 

残金 124万8000ポイント

 

 

着々とポイントは貯まっているが、退学のペナルティがある為後75万2000ポイントを貯めたいが、ポイントを稼ぐ手段が少ない為手詰まりとなってしまった。

試験前に先輩に借りるにしたって、先輩がその額を貸してくれるとは限らないので難しいところだな。

 

 

放課後帰ろうと支度を始めた時、高橋に声をかけられた。

石上に何か頼まれたのだろうか。

 

 

「なあ、九条。クラス同士の話し合いがあるってグルチャに伝えたろ?京が行かないっていうから俺がいく羽目になったんだが、お前も来てくれないか?」

 

 

申し訳なさそうに頼む高橋だが、私としても都合が良い。

ここで断ればグループの交渉に困る事になるかもしれないし、坂柳との契約もあるのでむしろ有難い。

 

 

私としては好都合だ。

 

 

「分かった、私も行くよ。」

 

 

「悪いな、助かるよ。」

 

 

私がそういうと高橋は安堵した表情を見せた。

 

 

「高橋君は今回の試験どう思う?私達1年生は不利だからどうするのが良いかよく分からないんだよね。」

 

 

「難しいなあ。今回の試験はクラスポイントが学校から支給されるんじゃなく、俺達の中で変動する。俺もまだ考えは纏まってない。」

 

 

無人島サバイバルで上位を取る事は重要だが、最終的にAクラスで卒業する事が一番の目的だ。

1年生が負けたとしても、私達の本当のライバルは同学年の他クラスなのでプライベートの報酬は狙いつつ下位5組に入らない立ち回りが求められる。

 

 

今回のグループ決めに関する戦略の考えがまとまらないのだろう。

 

 

「石上君はどうしたいって言ってたの?」

 

 

 

「いや、アイツはまだ何も言ってないな。他クラスの意見を聞いてから考えるって。まあ、俺も同意見だけどな。協力して他学年に対抗するのが最善って言ってたが、このまま宝泉が動かないなら3クラスで組むしか無い。」

 

 

理想を求めるにも時間は限られている。

そろそろグループを決めていかないと報酬を狙うのは難しいだろう。

 

 

そしてタイムリミットの放課後。

私と高橋は待ち合わせ場所の廊下へ向かった。

 

 

各クラスの代表の集まりといっても、機密性を上げないために簡単な形で集まることを八神が提唱したらしい。

彼はBクラスのリーダとしてクラスに貢献しており、学年内でもかなり優秀な生徒として周知されている存在だ。

 

 

「あー!陸に拓也!やっぱりお前らか。」

 

 

高橋は大きな声で手を振りながら彼らに近づいていく。

 

 

「修くんが来たという事は、また面倒事を押し付けられた形ですか?」

 

 

「まあな。ウチのリーダーは面倒な事が嫌いなタイプだからな。こういう場は俺なのさ。」

 

 

「まあ、修が来てくれた方が話が進むからな。…で、隣の彼女は誰だ?」

 

 

私に気づいた宇都宮は訝しげな顔をしながら私を見つめる。

高橋が私を紹介しようとした時、八神が口を開いた。

 

 

「九条さんもいらしたという事は石上君の意向という事ですか?」

 

 

「まあ、そんなところだ。彼女はウチのクラスの九条だ。生徒会もやってるから、拓也は氏っているよな?」

 

 

実際に石上が私を連れていくように指示を出したとは思えない。

高橋の独断だと予想しているが、この場では石上の意向で参加したと話した方が都合が良いだろうし、話は合わせておこう。

 

 

八神は高橋の言葉に頷く。

 

 

「初めまして、Aクラスで生徒会役員を務めている九条美空です。宜しくね。」

 

 

自己紹介をして挨拶をする。

 

 

「僕は生徒会で一緒なので宇都宮君は彼女の事を知らなくても無理はありません。彼女はとても優秀な人ですよ。」

 

 

八神の援護射撃のおかげで宇都宮は感心したように「宜しく」と握手を求めてきた。

私は宇都宮の手を取り、握り返す。

 

 

「後は和臣のヤツだけか。」

 

 

高橋のフレンドリーな性格故か、あの宝泉を下の名前でしかも呼び捨てで呼んでいる事は流石としか言いようがない。

 

 

「いっそ、この段階で組んでしまった方が良いんじゃないのか?Dクラスを孤立させて早めに叩き潰しておきたいのが俺の本音だ。」

 

 

「無人島での試験では学力以外の要素も問われると言います。Dクラスは学力の部分だけを見ると学年最下位ですが、身体能力という点においては1位と僅差の2位。グループ作りにおいては重要な役割を担ってくれる可能性があります。」

 

 

「陸の言いたい事は分かるぜ、ウチのクラスもこの状況に相当苛立ってる。けど見放すにはまだ早いんじゃないか?今回みたいな学年で協力し合う試験が今後も無いとは言い切れないだろ?」

 

 

八神の言う事は最もであり、今回の試験における理想論でもある。

高橋が八神と宇都宮の両方の気持ちを考え、中立の立場で2人の意見を纏めつつフォローする。

 

 

宇都宮は退学になった波多野が宝泉に嵌められたのでは無いかと考えているようで、Dクラスに対する敵対心は1年1強いと言える。

気持ちは分からなくは無いが、Dクラスを潰すのは学年内の特別試験でも良いので今Dクラスを潰すのは学年としてマイナスにしかならない。

 

 

特に今回の特別試験は学年として責任を負う事になっている為、今回の試験の敵は他学年だ。

これは共通認識なので、流石に宇都宮も高橋や八神の意見を無視する事は出来ないだろうな。

 

 

「やっぱり来たみたいだね、宝泉くん。」

 

 

暫く話し合っていると宝泉がやって来た。

 

 

「良いタイミングで現れるじゃ無いの。和臣。」

 

 

高橋は物怖じする事なく、フレンドリーに宝泉へ話しかける。

彼には怖いものがないのだろうか。

 

 

「馴れ馴れしく名前を呼ぶんじゃねぇよ、殺すぞ。」

 

 

そんな高橋を威圧し、宝泉は改めて八神と宇都宮に目を向ける。

初めて近くで見るがやはりかなり怖い顔をしている。

 

「金を出す気になったか?」

 

 

「笑えない冗談だな。お前に出す金など1ポイントもない。」

 

「まあまあ、落ち着きましょう。最初から喧嘩腰じゃ話し合いにもなりませんからね。」

 

 

「んじゃ全員揃ったことだし話し合いを始めるとするか、グループの──」

 

 

「勝手におっ始めようとするんじゃねえよ」

 

 

宝泉が高橋を突き飛ばそうとした時、咄嗟に体が動いた。

高橋を庇うように彼を押し、宝泉の手は空振る。

 

 

「っとと、助かったぜ。九条。」

 

 

「ちっ、そういえばこの女は何だ?」

 

 

宝泉が高橋を突き飛ばせなかった事に対して苛つきながら私を見つめる。

 

 

「初めまして、宝泉君。Aクラスの九条美空だよ。あんまり手荒な事をされると困っちゃうからここはどうか、穏便にお願いしたいかな。」

 

 

「はっ、俺の邪魔をするってか?俺は女にも容赦はしないぜ。」

 

 

私のお願いを笑い飛ばし、宝泉にギロリと睨まれる。

怖くて震えそうだが、ここで対等な立場にあると言う事を示すためにも私は平気なフリをした。

 

 

暫くの沈黙を得て、宇都宮が口を開く。

 

 

「暴力をこの場に持ち込むのは辞めて貰おう。」

 

 

「あぁ?お前も俺の邪魔をするつもりか?」

 

 

「必要ならそうする。」

 

 

「はっ、面白れぇ。やれるもんならやってみろ。」

宝泉が左手を振り上げた時、高橋が慌てて声をあげる。

 

 

「待て待て、待てって。ここで暴力を振るうのはダメだ。」

 

 

「生憎、俺は高橋のように優しくはない。」

 

 

「だったら見せてもらおうじゃねぇか。」

 

 

宝泉によって握り拳が作られると同時に、その腕を宇都宮が掴む。

宇都宮はOAAの成績で身体能力が87でA評価だった。

 

 

彼の身体能力の高さは本物だった。

荒事に関わった事があるとはとても思えない真面目な男と認識していたが、どうやらそれだけではないようだ。

 

 

「ほう……?」

 

 

握り込まれた握力の強さを感じ取り宝泉は嬉しそうに笑う。

宇都宮の視線は単なる見せかけだけではなく必要に応じてこの場で戦う意志も見てとれた。

 

 

この場で戦う事も面白そうだと思った宝泉だが、思い直したようだ。

 

 

「お前とは面白く遊べそうだな。楽しみは取っておいてやるよ。」

 

 

「暴力を遊びだと考えているのか?」

 

 

「ああ、遊びだな。」

 

 

「くだらない。だが、お前がそれを望むなら後に取っておかないで今ここで応えてやってもいい。ただし、二度とクラスメイトに手を出さないという条件を飲むならだがな。」

 

 

一触即発といった空気の中、両者が譲らぬ形で視線を交える。

 

 

「オイオイ、どう言う意味だそりゃ。」

 

 

「俺はお前が波多野を退学させたと睨んでいる。あいつは安易に不正に手を出すような生徒じゃなかった。」

 

 

「雑魚が退学にビビった結果、自爆しただけだろ。」

 

 

「俺は退学が決まった後の波多野の顔をよく覚えている。あいつは確かに嵌められた。」

 

 

「それが俺だと?」

 

 

「貴様以外に誰がいる。」

 

 

一度は宝泉から下がろうとしたものの再び火がつく。

 

 

「2人とも落ち着けよ。陸も不用意に喧嘩腰になったら和臣の思うツボだぞ。」

 

 

「高橋くんの言う通りです。今重要なのは、無人島サバイバルに注力する事です。」

 

 

小西のメールの件から考えると宝泉はシロだとしか思えない。

だが今この場で小西のメールの件を宇都宮に話すと八神が犯人の場合目を付けられてしまう為それは避けたい。

 

 

結局私は黙った彼らのやり取りを見る事しか出来なかった。

 

 

「ああ、そういや次の特別試験じゃ他所のクラスとグループを組めるんだったな。」

 

 

まるで今まで気にも留めていなかったというような宝泉の口ぶり。

 

 

「それがどうした。お前はクラス間での協力を否定した、関係のない話だろ。」

 

 

「どうしてもって頼み込むんなら、お前と組んでやっても良いんだぜ。」

 

 

「冗談はよせ。最後に残った1人がお前だったとしても、俺が組む事は無い。」

 

 

「冷たいことだぜ。」

 

 

宇都宮が宝泉の腕からゆっくりと手を放す。

その様子を見ていた八神が、タイミングを計った様に切り出す。

 

 

「時間も無駄にしている事だし始めない?」

 

 

「誰が話し合いに参加するって言った。始めようとすんじゃねえよ。」

 

 

「では君がここへ来た理由は?単なる暇つぶしですか?」

 

 

「そうだと言ったら?」

 

 

「信じないですね。君はそれ程バカじゃない。」

 

 

宝泉相手に、八神は臆する事なく微笑んで答える。

宝泉のOAAは学力が76でB+とかなり高い為、八神の分析も的を得ている。

 

 

「無人島でのサバイバルなんて突拍子もない話だけど、2年生や3年生はそれぞれ一度経験している。僕達1年生は圧倒的に不利な状況で試験に挑まなきゃならない。」

 

 

「けど俺達にはハンデキャップも付くんだろ?」

 

 

楽観的な高橋に対して、八神は柔らかい物腰のまま説明を続ける。

彼の話し方は思わず聞き入ってしまう程だ。

 

 

高橋程とは言わないがコミュニケーション能力の高さが伺える。

 

 

「学力も身体能力も、年齢を重ねている分2、3年生が有利な事に変わりない。連携出来なければ一方的に上級生に食い物にされるかも知れないよ?」

 

 

だからこそ4クラスの協力が必要不可決であると八神が強調する。

 

 

「ぬるい事抜かしてやがんなぁ、八神。俺ぁ2年だろうと、3年だろうと、潰せる自信があるぜ。」

 

 

「もちろん、個々の才能では上回っている生徒もいる。でも、総合力で見た時に1年生が劣っている事は隠し用のない事実だよ。誰も彼もが宝泉君のように、恵まれている訳じゃないからね。」

 

 

常に柔らかい物腰と、宝泉を高く評価する姿勢を見せ話し合いが崩れないよう維持する。

この場に代表として集まる中、彼は宇都宮や高橋の上を行く実力者であると理解した。

 

 

この話し合い方法はなかなか出来るものじゃない。

彼はただコミュニケーション能力が高いだけでなく、人に合わせて接し方を適切に選んでいるのだ。

 

 

人によって忖度するという訳ではなく、どうしたら相手が話を続けてくれるかを瞬時に考えて言葉を選んでいるのだ。

元々の頭の回転の速さ、彼の持つ知識はこの場にいる誰よりも上である。

 

 

「そこで───僕ら1年生で力を合わせて強力な『4人グループ』を最低でも1つは作る必要があると考えた。まさに宝泉くんが言ったように2年生や3年生を相手にしても絶対に負けないと言い切れる生徒達を集結させてね。」

 

 

「つまり俺達はこの特別試験でクラスポイントを競い合わない、ということか。」

 

 

Aクラスにとって現状維持は都合が良いが、他クラスはそうじゃない。

特に下位のクラスからしたらクラスポイントの差を縮めたい筈だ。

 

 

ここでCクラスとDクラスが賛同してくれるか、どうか。

理想論を叶える為には何かを諦めなければならない。

 

 

理想論とは言わば綺麗事なのだ。

綺麗事を採用出来るかは時と場合によるが、基本的には採用されにくい傾向にある。

 

 

「学年同士での協力を難しくさせているルールだからこそ、残り時間が少ない2年生や3年生は、この特別試験の機会損失手わかたを受け入れ難い。だけど僕達にはまだまだ2年以上の時間が残されている。だからこそ、あえてクラスポイントの事は捨てるべきだ。」

 

 

まだAクラスからDクラスまでクラスポイントの開きは300ほど。

慌てる必要は無いと説く八神に対し、宇都宮は考えが異なるようで眉間にしわを寄せる。

 

 

「他クラス同士で組むメリットは薄い。クラスポイントを捨てる無駄な行為だ。」

 

 

「上級生に食い物にされてしまったらそれどころじゃ無いよ。」

 

 

「だが1年の中で優劣がつくことはない。」

 

 

戦った上でそうなるのなら仕方がない事だと宇都宮が言う。

暫く議論は続く。

 

 

「君だけでも十分先輩達と戦える事は理解した上で、手を貸して欲しい。」

 

 

ついに八神が宝泉と向き合った。

これ以上の言葉を彼が宝泉にかける事も無いだろう。

 

 

「おい、そこの女。お前はどう思ってんだ?話し合いに来て何も言わずに帰るのか?お前は人形なのか?おい。」

 

 

まさかの展開に顔が強張る。

ここで私が何を言うかが大切だ。

 

 

宝泉を協力させる為には八神の言葉をなぞるだけでは足りない。

考えろ、どうしたら宝泉からYESを引き出せるのかを。

 

 

「私が他学年の先輩が取る戦略を考えた時、まず2年生は学年内で争うと思っているんだ。3年生は学年全体を南雲会長が支配しているから、彼がコントロールして妨害班と最強のグループを作る事に注力すると思う。」

 

 

「どうして2年生が学年内で争うと思っているの?」

 

 

八神の質問に私は答える。

 

 

「2年生は各クラスに癖の強いリーダーがいる。先程八神君も話していた通り、2年生の特別試験も後何回あるか分からない。今回の試験って主にクラス間でポイントが動く試験なんだよ。だからこそこの試験をものにしたいと思うのも当然の心理だよね。」

 

 

大きなクラスポイントが動く試験だ。

少しでもクラスポイントが欲しいと思うのは当たり前の感情だ。

 

 

「ただ彼等も他学年を警戒して一部協力するとは思うよ。クラスポイントの差がある内は協力出来るからね。AクラスとCクラス、BクラスとDクラスで組むんじゃ無いかな。」

 

 

「ほぅ」と宝泉がにやりと笑いながら声を漏らす。

 

 

「結局お前は何が言いてぇんだ?」

 

 

威圧的な態度に声は十分恐ろしいが、ここで引いては八神の努力が無駄になってしまう。

宝泉と接するには対話を続けるしか無いのだ。

 

 

私はあくまで平然とした態度を装って言葉を続ける。

 

 

「私達が南雲会長率いる3年生をターゲットにするより、協力体制が万全では無い2年生をターゲットに、最強のチームを作ると言うのは良いと思う。メンバーは宝泉君、宇都宮君、八神君、石上君でも高橋君でもどちらでも良いと思う。残り2人はお任せするけど、ここからが大事なんだ。」

 

 

「どう言う事だ?」

 

 

私の言葉に宇都宮が訝しげな顔をする。

八神や高橋も同様に私の言葉の真意を測りかねているようだ。

 

 

宝泉は何も言わずに私をじっと見つめて威圧する。

見られていると話し難いが、これも仕方のない事だ。

 

 

「まずここにいる各代表者が納得する契約書を作成する。具体的な内容はグループ決めに関する事と試験中の同学年の邪魔を禁止する、後はこの契約をこの学年の全生徒に結ばせて、違反者のいたクラスが他クラスに支払う罰金も決めよう。立会人も必要だから、学校を通して正式な契約書にする。私は話し合いの結果以上に、協力する場合の内容を詰めた契約書が必要だと思ってるよ。」

 

 

私の言葉は八神と殆ど同じだが、契約書というワードは彼は使わなかった。

口約束なんていつでも破る事が出来る。

 

 

だからこそ、契約書が必要なのだ。

これがどこまで効力を持つかは分からないが、一定の抑止力にはなると信じている。

 

 

真面目な宇都宮なんかは絶対破らないだろうし、宝泉だって簡単に破ってデメリットを被るのはごめんな筈だ。

何よりポイントを欲している宝泉が契約書を嫌がった場合、私達に協力する気がないと見做され孤立する事になる。

 

 

優等生の八神だってこの場で嫌がる事は無い筈だし、同じクラスの高橋も嫌がる筈が無い。

 

 

「ハッ、ただの優等生にしてはなかなかやるじゃねぇか。八神の提案には穴がある。口約束なんて簡単に破れちまう。だがお前はその穴を埋めて理想論を述べた。」

 

 

「なるほどね……契約書は盲点だった。流石は九条さんだね。」

 

 

クックックっと宝泉が笑っており、どうやら私の言葉に気分を害した訳でも無さそうだ。

八神も納得したように頷いて私の提案に賛同してくれた。

 

 

八神なら口約束の穴に気づいているはずだが、わざと穴を作った上でこの提案を成就させようとしたのだろうか。

 

 

しかしそれだと八神に利点が無い。

となると八神は宝泉が協力しない事を望んでいた事になる。

 

 

勿論たまたま気づかなかったという可能性の方が大きいが、優秀な八神が穴を作るという点がどうしても気になってしまうのだ。

 

 

「良いぜ、契約書を作った上で学校を通してお前らと協力してやっても良い。」

 

 

「どういうつもりだ、宝泉。」

 

 

宇都宮が警戒心を露わにして宝泉を睨み付ける。

 

 

「言葉通りの意味だ。」

 

 

宝泉の変わり身の早さに、八神は時間の無駄とばかりに催促する。

 

 

「空いた2枠にはDクラスの生徒を入れること。これが絶対条件だ。」

 

 

「その生徒をAクラスBクラスCクラスが指名する事は出来る?」

 

 

「まあ、要相談ってところだな。」

 

 

「しかし、任意にグループを組めない場合はどうしますか?」

 

 

「言っただろ。Dクラスの生徒を2人入れる事が最低条件だと。」

 

 

「なるほど。Dクラスの生徒を迎えられない場合は4人でクリアしろという事ですね。」

 

 

「最強の4人を用意するんだ、勝敗には無関係になるだろ?」

 

 

「ふざけるな、宝泉。」

 

 

「ふざけてねぇよ。気に入らないならテメェが抜けろ。」

 

 

「貴様……」

 

 

横暴な要求をしてくる宝泉に宇都宮が詰め寄ろうとするが、八神が2人の間に滑り込む。

 

 

「落ち着いて下さい宇都宮くん。僕はその条件でも良いと思います。」

 

 

「Dクラスに塩を送ると?」

 

 

「最優先すべきは、僕ら1年生が団結する事。絶対に他学年に負けない事です。」

 

 

「ごね得を許せば今後も宝泉はつけあがる。」

 

 

「では、今ここで宝泉くんのDクラスを見捨てたら何かが変わりますか?」

 

 

「それは……」

 

 

「今度の試験は1年生が勝つ事こそが重要なのです。それ以外は損害にあたりません。」

 

 

私は彼らの言葉を聞きながら紙にペンを走らせる。

 

 

「俺も賛成だぜ陸。気持ちは分かるが、まずは1年生で協力しないとな。」

 

 

露骨な舌打ちをした宇都宮だったが、八神と高橋の説得を受けて踏み止まる。

この2人がいればどんな交渉も成立させられそうだ。

 

 

「それ以上の要求はなしだ。いいな宝泉。」

 

 

「では最後にもう一つ。僕ら1年で団結しておくべきものがあります。報酬アイテムは揉めないよう学年全体で微調整し、最大の効果を発揮できる様統一させましょう。下位に沈みそうな能力不足の生徒を集め、半減カードを持たせる事も重要です。それにも承諾頂けますよね?宝泉くん。」

 

 

「好きにしな。」

 

 

宝泉が去って行こうとしたので、すかさず口を開く。

 

 

「今日決まった事をこの契約書にまとめたよ。

時間が無いから、完璧とは言い難いけどサインして欲しいんだ。」

 

 

契約書を見せてから彼らに手渡していく。

 

 

内容は簡単に言えば以下の内容が書かれている。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

●次の話し合いまで学年全員がグループを決めない

 

●チームの編成においては宝泉和臣、宇都宮陸、八神拓也、高橋修(リーダー代理)or石上京の4名による話し合いを行い決める

 

●最強のチーム4人の他に2人はDクラスの生徒を入れる

 

●無人島サバイバル試験が終了するまで学年内で裏

 切りを禁止する

 

●無人島サバイバル試験において不正を禁止する

 

●カードのトレードは学年全員で統一して行う

 

●契約違反をした者が出たクラスは各クラスに罰金100万プライベートポイントを支払う

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「お前は俺達を信じれねえって言うのか?」

 

 

挑発的な笑みを浮かべて宝泉が私に詰め寄る。

泣きたいが我慢だ、私は絶対に引かない。

 

 

「宝泉君はさっき契約書にサインをしても良いって言ってたよね?忘れたとは言わせないよ。」

 

 

「チッ、小賢しいヤツだな。」

 

 

「口約束だと言い逃れも出来ちゃうし、この試験勝つには絶対に協力が不可欠だよ。宇都宮君、八神君、宝泉君をタダで信じるのは怖いから、この契約書にサインして欲しいんだよね。」

 

 

暫くすると宇都宮が口を開いた。

 

 

「俺は良いと思うぞ。少し細かい内容だと感じたが、今回本気で勝つならこれくらいきっちり規制する方が良い。」

 

 

「罰金100万はちょっと高いような気もするけど、内容自体は問題ないと思います。」

 

 

「俺も良いと思うぞ。流石は生徒会役員だな。」

 

 

八神と高橋も契約書を認めサインをしてくれた。

 

 

「チッ、仕方ねぇな。書きゃいいんだら、書きゃ。」

 

 

最後に渋々と言った様子で宝泉がサインする。

この紙を今から5人で職員室に持って行き、正式な契約が成立した。

 

 

宝泉は苛ついていたが、これで牽制も出来たので最低限の仕事は出来ただろう。

話し合いの続きは明日の放課後、Aクラスの教室で行われる事になった。

 

 

私は高橋と一緒に寮へと戻る事にした。

 

 

「九条、今日は助かったぜ。ありがとうな。」

 

 

昇降口を出てすぐに高橋が私に頭を下げた。

 

 

「気にしないで。お役に立てたのなら良かったよ。」

 

 

私は高橋に軽く微笑んでからとある疑問を口にする。

 

 

「どうして高橋君は私を今回の代表会議に誘ってくれたの?私は特にAクラスのリーダーでも無いし、メリットが思いつかなかったんだよね。」

 

 

私はただ、純粋に不思議だった。

Aクラスで私がリーダーでない事など誰だって知っているはずだ。

 

 

それなのに高橋は私を呼ぼうとしたのだ。何か狙いがあると考える方が自然である。

しかし彼は、何の裏表もなく私の目を見て言った。

 

 

「お前は信用出来る奴だからな。生徒会役員で今やクラスの主要人物だ。それに……お前は今のままで本当に良いのか?」

 

「どういう事かな?」

 

 

彼が何を言っているのか理解出来なかった。

今のクラスは居心地が良い、友人と呼べる仲間がいる。私は満足しているのだが、彼の表情は真剣そのものだった。

 

 

「京は天才だし、Aクラスには優秀な生徒がいる。俺だってコミュ力は高いと自負しているが、リーダー格の持つ思考には及ばない。今の現状を打破するには頭の良い人間が必要なんだよ。そして選んだのが九条だ。」

 

 

 

「ふうん。まあ、分かった。だけど、私じゃなくても他にいたでしょ?」

 

 

私より優れた人間が他にもいる事は明らかだ。

 

 

「まあな、確かにいる。でもお前の生徒会という肩書きと冷静な判断力は今回の話し合いにおいて役に立つと思ったんだ。」

 

 

そこまで言われると悪い気がしなかった。

他愛無い話をしながら寮へと続く道を進む。

 

 

寮に着くと別れを告げ自室に戻る。

今日の事を石上に一応報告しておいた。

 

 

ついでに坂柳にも今回の特別試験中の不正対策を行った事を伝えておこう。

契約書の為にもかなり重要な一手となったはずだから。

 

 

暫くすると坂柳から返信が届いた。

 

 

『ありがとうございます。では報酬の20万プライベートポイントを送っておきます。無人島試験でもしっかり対応をお願いしますね。』

 

 

残金 144万8000ポイント

 

 

頑張ってもっとポイントを貯めるぞ。

 

 

そこからは期末試験に向けての勉強を行い、シャワーを浴びて夕食を食べる。

今日は無料商品の鶏肉と野菜を使ったホワイトシチューだ。 

 

 

パンとの相性はバッチリで美味しい。

寝る前に高橋からメッセージが届いていた。

 

 

『夜遅くに突然だが、京から準最強チームのピックアップを頼まれたんだ。男子の方は確認しておくから、女子の方をお願い出来ないか?』

 

 

頼むのは良いんだけど、これって急ぎなのかな。

もう寝る気満々だったけど、OAAを総合順に並べるだけだし10分もあれば終わるだろ。

 

 

『了解、調べておくよ。とりあえず時間もあれだし、明日までにAクラスの女子はピックアップしとく。』

 

 

メッセージを返信してOAAを立ち上げる。

Aクラスの女子を総合順、学力順、身体能力順に並べ替えて行く。

 

 

翌朝、昨夜作った表をPDFとしてメールに添付し高橋に送信しておいた。

今日は放課後に話し合いもある為気合いを入れていこう。

 

 

教室に向かうと高橋が声を掛けてきた。

 

「九条、昨日はありがとな!送ってもらった表も見やすかった!」

 

 

 

「そう言って貰えて良かった。相変わらず石上君にパシられてるね。」

 

 

「いや、別にパシリじゃないぞ?あいつが人使いが荒くてだな……」

 

 

「はいはい。」

 

 

苦笑いしながら返事をする。

 

 

「そう言えば、九条は基本カードは保険だったか?」

 

 

「うん、これで体調不良になっても1日で回復すれば戻って来られるね。つまり大したカードじゃ無いって事だけど。」

 

 

このカードは使えるシチュエーションが限られている為、アタリとは言い難い。

だが、体の弱い生徒や持病を持っている生徒には有り難いものだろうし、全くのハズレという訳でも無い。

 

 

「そういう高橋君は?」

 

 

「俺は追加だ。プライベートポイント報酬が2倍される。まあ上位に入らないと意味ないけどな。」

 

 

「へぇ、良いカードだね。」

 

 

特別試験について雑談をしているとチャイムが鳴った。

慌てて席に戻ると担任がやってきてホームルームが始まる。

 

 

今日は1時間目から数学が入っているので本気でやらないとやばい。

 

 

この学校、過去問とか無いのかなぁ……過去問って先輩持ってたりするかな?

 

 

私はホームルーム後に一之瀬にメッセージを送る。

思いついたら即行動だ。

 

 

『先輩、1学期期末テストの過去問をお持ちだったりしませんか?』

 

 

『持ってるよ!もうすぐ期末だし、しっかり勉強してるみたいだね。』

 

 

メッセージがすぐに返ってきた。

 

 

『はい!ただ数学がどうしても伸び悩んでいて。過去問を譲っていただけませんか?』

 

 

『勿論大丈夫だよ!数学苦手って噂本当なの?』

 

 

『はい、実は昔から数学が苦手なんです。』

 

 

一之瀬に昼休み過去問を譲ってもらった。

そしてこの学校が毎年同じ問題が出題される事を知り、一之瀬から全科目の過去問を譲り受けた。

 

 

ポイントを支払うと言ったが、一之瀬は無償で提供してくれた。

善意なのは分かるが、価値ある過去問を貰ってしまった事で罪悪感を感じている。

 

 

とりあえず過去問は写メってグルチャに貼っておいた。

これでAクラスから満点者が続出だろうな。

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