ようこそ後輩のいる教室へ   作:かりん糖さん

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無人島試験のグループが決まります。


無人島試験に向けて③

 

翌日、私達1年生は各クラスの代表生徒数人でカラオケルームにやって来た。

Aクラスからは石上京と高橋修と私、Bクラスからは八神拓也と島崎薫、Cクラスからは宇都宮陸と椿桜子、Dクラスからは宝泉和臣と七瀬翼。

 

 

何故Aクラスの生徒が3人いるのかと言われるが、まず石上はリーダーだから、高橋は補佐だから、私は契約書の立会人兼提案者だからとしか言いようが無い。

元々参加したい訳では無かったのだが、契約書の件もあるため仕方なく参加する事になってしまったのだ。

 

 

Bクラスの島崎薫は真面目だが優しい生徒だ。

学力はB–と高く身体能力や機転思考共にBランク台であり、バランスの取れた生徒である。

 

 

今回の話し合いの目的は、1年生のグループが特別試験で1位を獲るためのグループ決めだ。

最強の4人を作り、その他のグループ分けをどうするかというところまで纏めなくてはならない。

 

 

「とりあえず、ドリンクでも頼もうか。」

 

 

集まってから誰も何も言わないので沈黙を破りソフトドリンクを注文する。

受話器を取りフロントに繋がるのを待つ。

 

 

『はい、こちらフロントでございます。』

 

 

「すみません、人数分の飲み物を注文したいのですが…皆何飲む?」

 

 

ソファに座る8人を見やると無言が続く。

これでは埒があかないといった様子で高橋が口を開いた。

 

 

「とりあえず俺はコーラ。京は…うん、アイスコーヒー。拓也はどうする?」

 

 

流石石上の補佐、彼に頼りにされる程はある。

このコミュニケーション能力の高さは大きな武器となるだろう。

 

 

「僕もアイスコーヒーにしようかな。島崎さんはどうしますか?」

 

 

「…アイスティーで。」

 

 

「CクラスやDクラスの皆さんはどうします?」

 

 

八神が機転を効かせてくれたおかげで注文はスムーズに決まりそうだ。

宇都宮、椿の両名はアイコンタクトで何かを確認しあった後、「同じもので」「あたしも同じものが良いわ。」と同意した。

 

 

「アイスティー3つだね。宝泉君と七瀬さんはどうする?」

 

 

「……コーラ。後はポテトだな。」

 

 

宝泉満喫しすぎだろ、カラオケ大会しにきた訳じゃ無いんだから。

七瀬が不満そうな顔をしながらも口を開いた。

 

 

「私も同じものをお願いします。」 

 

 

これで全員分が決まったな。

改めて受話器に話しかける。

 

 

「遅くなってすみません。アイスコーヒー2つとアイスティーが3つ、コーラが3つ、最後にピーチティーを1つ。後サイドメニューでポテトお願いします。」

 

 

『かしこまりました。すぐお待ち致します。』

 

 

しかし問題はここからだ。

1番問題なのは、この5人の仲の悪さである。

 

 

この面子は正直、まとまりにかける。

私が言うのもあれだが。

 

 

そんなことを思っていると部屋の扉が開かれて店員が現れた。

注文したものを持ってきてくれたようだ。

 

 

各自にドリンクが行き渡り、ようやく話し合いが始められる。

 

 

「とりあえず最重要事項から話そうか。私達1年生の中で最強の4人を決めてグループを作る。各クラスの代表格、八神君や宝泉君、宇都宮君には是非ともグループ入りをして貰いたいかな。」

 

 

私は議題を提示し他クラスの反応を伺う。

高橋が頷き口を開いた。

 

 

「まあ、1年生の最強メンバーとなると、拓也と陸、和臣が選ばれるのは必然だな。拓也は学力が高いし、陸は身体能力に優れてる。和臣は学力も身体能力も上位に入る。」

 

 

確かにスペックだけ見ればそうなるか。

高橋の言葉に今の所間違いも無いため、八神も宇都宮も頷いている。

 

 

「はっ、だからどうした?俺が最強なのは当然だ。無人島で大グループを作る時はDクラスのメンバーも入れてもらうぜ?で、いつになったらこの議論を先に進めるんだ?」

 

 

宝泉は早く本題に入れと急かすように煽ってくる。本当に面倒臭い奴である。

 

 

このグループ作りにおいて最も大切なのは団結力である。

それが理解出来ないような者はどのグループに入ったとしても足手まといになる。 

 

 

そんな奴はこの話し合いが終わるまで、1人で歌でも歌っていてくれ。

 

 

そして私達は話し合いを進めるべく再び話し合いを始めた。

 

 

「八神君と宇都宮君は最強グループに入ってくれるかな?」

 

 

「僕は構いません。クラス内でもこうなるであろう事は伝えているので反対者もいないでしょうね。」

 

 

予めクラスにも話しを通してくれたいたらしく、Bクラスの統治も完璧なようだ。

 

 

「俺も構わない。だが、3位までに入賞した場合、Dクラスが得られるプライベートポイントがかなり多くなってしまう。そこの調整をしてもらいたい。」

 

 

確かに宇都宮の言う通りだ。

 

 

仮に1位を獲った場合、1人100万プライベートポイントの報酬が手に入る。

このグループには宝泉の他に2人Dクラスの生徒が入る事になっており、Dクラスに300万プライベートポイント、残り3クラスに100万プライベートポイントと、200万プライベートポイントの差が出来てしまう。

 

 

これは不平等なので、6人グループならプライベートポイントを均等に分け合うという契約を結んだ方が良さそうだ。

 

 

「宝泉君、3位までに入賞したら、プライベートポイントはグループの人数で均等に分け合うって契約を結んでくれないかな?」

 

 

私は宝泉に向き直り契約書を提示する。Dクラスだけが得をすると言う事態にはならないだろう。

 

 

契約書を見ると、少し考えた後、渋々といった様子でペンを握りサインをした。

これで契約書の記入は完了だ。

 

 

その後、リーダーである石上と八神、宇都宮も同意しサインをした。

 

 

「とりあえず、僕と宇都宮君、宝泉君は確定していますが、Aクラスからは誰を出しますか?」

 

 

今回の試験では学力と身体能力以外にも、様々な技能を活かす事になるらしく、得意な事が多い人が有利だ。

頭脳面での石上、コミュニケーション能力や身体能力に秀でた高橋、最終兵器天沢。

 

 

とれる選択肢として天沢が最も適切ではあるが、どうやら最強グループに入りたく無いそうだ。

つまり高橋か石上のどちらかが最強グループに入るしか無いという事だ。

 

 

体力面で考えれば、高橋なのだが武闘派のみのチームになるのは学力面で不安が残るため、どうしたものかと悩んでいた。

 

 

「普通に考えたら修の方がバランスは良いか?だが石上の頭脳は1年1だからな。ここかで捨てるのも勿体無い。」

 

 

高橋はOAAの評価を見ても欠点のないバランスの良い生徒だ。

対して石上は頭脳特化の天才であり、身体能力は低い。

 

 

「京はどう思う?」

 

 

高橋が石上に視線を送り尋ねる。

 

 

「天沢を入れたいのが本音だが、修を入れるべきだ。」

 

 

確かに、現状だとそれが1番無難で最善の策となる。

八神は石上の意見を認め、追加の提案を行なった。

 

 

「分かりました。ただ最強グループ一つだけでは動きにくいでしょう。準最強グループのようなものを幾つか作る必要があるかと思います。」

 

 

「準最強か。悪くはないな。」

 

 

宇都宮も八神の意見に賛同する。

 

 

「へっ、勝手にやってろ。」

 

 

宝泉もポテトを食つまみながら一応承認してくれたのだ、メンバーの選定が始まった。

私はひとまずメンバー案を出す事にした。

 

 

「じゃあ、Aクラスだと石上君と一夏ちゃんかな?」

 

 

この2人に関しては文句無しの能力の高さを誇る。

私の問いかけに八神が口を開いた。

 

 

「そうなりますね。ウチのクラスからは島崎さん、Cクラスだと椿さん、Dクラスだと七瀬さん。Aクラスに関しては九条さんも該当者しますからね。」

 

 

私は体力も無いし、学力という点においては天沢と石上がいるから問題無いと思うんだけどな。

 

 

「私はそこに入れてもらえるほどの価値はないと思うけどなぁ。」

 

 

「謙遜しなくて大丈夫だよ、美空ちゃんはOAAの成績も上位に入るしさ。」

 

 

何故かBクラスの島崎にフォローされてしまった。島崎の方が今回の試験において圧倒的に必要とされている人材なのに。

 

 

私とは違う。

 

 

「薫ちゃんの方が凄いと思うんだけどなぁ。まあ、私は私で出来る事をやるだけだよ。」

 

 

話がだいぶ纏まった所で組み分け案を八神が出していく。

 

 

「石上君、まずは君と九条さんと天沢さんで組む。残った七瀬さんと椿さんと島崎さんで組むというのはどうでしょう?」

 

 

「試験中に合流する事を考えるなら、後1人は男が必要だ。いや、その場合メンバーを考え直す必要が出てくるか。なら、別々のグループとして考えて男女バランスを整えよう。」

 

 

石上君の意見はアリだ。

下位になった場合Aクラスのみのグループが背負うペナルティはかなり大きくなるが、高位を狙うのであれば考える必要が無いため、Aクラスのみの精鋭メンバーを決めるのは良い考えだと思う。

 

 

男女間の力差というものは無視できない問題だ。

私と石上君以外のメンバーが幾ら身体能力に自信があるとしても、男手はサバイバル生活を送る上で必要となる可能性が高い。

 

 

「ならば、各クラスの精鋭部隊を作るというのはどうだ?」

 

 

「いや、その提案はあまり意味がないと思う。あくまで準最強のメンバーを決める事が目的だからね。」

 

 

八神がやんわりと宇都宮の提案を退ける。

別に宇都宮の提案も間違ってはいない。

 

 

気心の知れたクラス内で最強のメンバーを選ぶ。

これはクラス間の協力が不可能な場合、つまり自クラス以外の全生徒が敵の場合に勝ちに行くための手段だ。

 

 

しかし今回協している大きな目的が他学年に対抗するためなので、宇都宮線の提案だとメリットが薄れてしまう。

だが各クラスのメンバーのみで作る利点があるのは総合評価の高いAクラスや優等生の多いBクラスくらいだ。

 

 

失礼を承知で言わせてもらうと、CクラスとDクラスの生徒のみで組む場合総合力やバランス面で他学年と対抗するには馬力不足だ。

だからこそ、八神が宇都宮の提案に頷けなかったのだろう。

 

 

「ではとりあえずOAAの成績順に組むというのは如何ですか?」

 

 

「七瀬さんに賛成かな。ひとまずOAAの成績上位者から選ぼう。」

 

 

島崎が七瀬の案に賛成し、成績下位者から仮グループを作って行く。

総合評価が高い者を残して仮グループを組み終わった。

 

 

仮グループについては持っているカードと相性の良い者と組んでいく方針らしく、半減カードは成績下位者のグループに優先して持たせる事になっている。

逆に上位を狙えるグループには先行と追加を優先して持たせる事になっている。

 

 

「だいぶ候補が絞れてきました。Aクラスが良ければ、石上君、九条さん、天沢さん、昴君の4人グループ。島崎さん、椿さん、七瀬さん、レン君のグループ。残りの余った生徒は強い順に2人グループと3人グループに分け、石上君のグループに増員カード、僕達のグループに試練カード。他は要相談で、この3つのグループには先行カードを必ず持たせる。現状を纏めるとこんな感じです。」

 

 

八神が話し合いの内容を纏め紙に書き出していく。

 

 

新たに出てきた昴とレンに軽く説明しておくと、昴は神谷昴という名前のAクラスの男子生徒で、レンは桜井レンという名前のCクラスの男子生徒だ。

2人とも総合順位は上位10%に入る優秀な生徒で、学力はAランク台で身体能力もAランク台の素晴らしい生徒だ。

 

 

「俺達Aクラスは八神の意見に従おう。九条と修もそれで良いな?」

 

 

「ああ、良いぜ。」

 

 

「うん、私も問題ないよ。」

 

 

こうしてようやくグループが決まった。

この組み分けなら坂柳との契約が理論上守る事が出来る。

 

 

しかし人生にはイレギュラーが存在する。

理論で出来るのはイレギュラーが存在しない世界線の未来予想のみ。

 

 

イレギュラーに対応できる様な策や組み分けがあれば良いのだが、いかんせん私は頭の出来が悪いので閃きはゼロだ。

 

 

「じゃあとりあえず解散にしましょう。このメンバーのグループを作っておくので、招待されたら参加して下さいね。」

 

 

「チッ、面倒くせぇな。」

 

 

八神の善意にも宝泉は吠える。

グループ決めは七瀬に任せて携帯をいじりながらポテトを食べていたやつがして良い態度では無いだろ。

 

 

「宝泉!!いい加減にしろよ!!!!」

 

 

宇都宮が宝泉に飛びかかろうとするが、八神と高橋に抑えられ、なんとか踏みとどまった。

この部屋には監視カメラが設置されているため、暴力行為はクラスポイントが減点される事は確定で、Dクラスに訴えられる可能性だってある。

 

 

今後協力関係を築いていくのにいざこざなんて持ち出されては堪らない。

 

 

「落ち着けよ、陸。和臣も参加しないとは言ってないんだからさ。」

 

 

「そうですよ、陸君。ここで彼に危害を加えては宝泉君の思うツボです。まずは冷静になりましょう。」

 

 

2人に宥められ宇都宮は形だけだが冷静に振る舞う様になった。

 

 

「はっ、威勢だけかよ。つまんねぇな。」

 

 

「なんだと?!」

 

 

「宝泉君、問題を起こされては困ります。」

 

 

「落ち着いて陸君。」

 

 

「落ち着こう?宇都宮君。深呼吸して。」

 

 

色々スッキリしないまま宝泉は七瀬に背を押されカラオケルームを去っていった。

ちなみに料金は全員で割り勘の予定だったが、2人が消えてしまったので後日七瀬からクラスの代表当てにポイントが送られてきた。

 

 

話し合いの帰り道、予定があるからと高橋はどこかへ行ってしまい、私と石上の2人で寮まで一緒に行く事になった。

事務的な会話以外した事が無かった為互いに無言だった。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

無言は物凄く気まずい。

何か話さなければならないが、何を話すべきかなかなか決まらない。

 

 

決まらないから中学の事で良いか。

 

 

「あ、あのさ。石上君って同じ中学だったよね?」

 

 

「ああ。」

 

 

「特進クラスのトップだったよね、有名人だから知ってるよ。話したことはないけど…。」

 

 

「そうだな。…九条は音楽科の生徒だったか。」

 

 

「え、うん。よ、よく知ってるね。」

 

 

「君は有名人だっただろ。1年の音楽祭でドビュッシーのアラベスクを演奏していたからな。」

 

 

まさか私の事を知っていたとは意外だ。

彼は興味のないものには無関心な人間だと思っていた。

 

 

意外と人間味があるのかもしれない。

私にとって天才とは神様の気まぐれであり、一種の万人には理解されないようなアート作品、芸術なのだ。

 

 

彼は芸術作品そのものだと思っていたのだが、意外と人工的な面があるのかもしれない。

神様の作った作品に加えられた人工的な技術がよく馴染んでいるからこそ、多くのクラスメイトに慕われているのだろう。

 

 

「アラベスクを演奏していた事がどうかした?」

 

 

「音楽科の生徒が選んでいた曲はショパンやベートーヴェンのものが多かった。その中でもテンポが速くて音数が多く運指が難しいものが好まれていた。」

 

 

「そうだね。特に1年生程自分の実力を示したがる傾向にあるから、あの時の音楽祭はショパンで溢れていたな。」

 

 

確かにピアノを弾いているものは意外と難易度の高い曲を弾きたがる。

音楽科の生徒程高いプライドとプロ意識を持って、人からの賞賛を得ようと躍起になる。

 

 

後はプロのピアニストを目指している者はショパンコンクールを意識している事が多い為、ショパンの曲を選ぶ人が多くなってしまう。

これも理由の一つだと思う。

 

 

「だからドビュッシーの曲を選んだ君は目立っていたんだ。」

 

 

確かにそんな人の中で1人表現力で勝負しようとした私は珍しく映るかもしれない。

 

 

「激しい曲の中で優雅に泳ぐアラベスクの調べは脳裏に焼き付いて離れなかった。」

 

 

「…そ、そうなんだ。」

 

 

恐らく彼なりの感想なのだろうが、演奏自体の評価が一切ない為返答に困る。

褒められているのかいないのか分かりにくいんだよ。

 

 

私の反応に彼は何も言わず前を向いて歩き続ける。

その後会話が弾む訳もなく、虚しさが募ってゆく。

 

 

しかし、このままではいけない気がする。

どうにかしなければ。

 

 

「その……石上君はどうしてこの学校を選んだの?やっぱり希望する進路のためとか?」

 

 

「希望する進路を叶える為というのも理由の一つだが、尊敬する人にこの学校へ進学する事を勧められたんだ。」

 

 

「尊敬している人?」

 

 

「ああ。詳しくは言えないが素晴らしい考えを持つ御方だ。」

 

 

「ふーん。そっか。」

 

 

これ以上は聞かない方が良さそうだ。

石上が誰に憧れているのか分からないが、私が知ってもどうにもならない。

 

 

天才が尊敬するというのだから、相当の奇人なんだろうなぁ。

その後寮に着くまで沈黙が続いたが、私はちっとも気まずさを感じる事は無く、少し心地よさすら感じていた。

 

 

「じゃあ、また明日ね。」

 

 

「ああ、お疲れ。」

 

 

私は石上に手を振った後、自分の部屋に戻った。

 

 

「アラベスク」は8分連符と3連符が多く、意外と小指が酷使される曲なのだ。

あの時の私は敢えて表現力で勝負しようとひたすら曲を弾き、楽譜研究をせずにがむしゃらに練習を続けていた。

 

 

その結果本番では今までで一番の演奏を披露する事が出来、学内のコンクールではあるが受賞しトロフィーと図書カードを手に入れた。

あの曲のおかげで指遣いがより滑らかになり、超絶技巧と呼ばれる「ラ・カンパネラ」を形だけだが弾く事ができる様になった。

 

 

勿論まだまだ技術が足りていない為、完璧とは程遠いが苦手だったショパンの曲も上達してきた。

「アラベスク」を完璧に仕上げた経験は、いろんな曲を弾く上で役に立ってくれた。

 

 

だからこそ、良い意味でも悪い意味でも私の音が誰かの記憶に残ってくれたのならそれは何よりも喜ばしい事なのだ。

たとえその相手は天才だったとしても。

 

 

石上がもし音楽の天才であったなら彼の言葉を皮肉としか捉える事は出来なかったが、彼が頭脳面での天才であればその言葉は寧ろ歓迎すべきだ。

天才の脳に残る価値のある演奏をしたという事なのだから、私の演奏の腕前が向上している事の証であり、その演奏は天才による評価によって箔がついている。

 

 

彼の言葉は受け入れる価値があるものだ。

 

 

「……たまにはアラベスクでも弾こうかな。」

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