伏黒兄の呪術奇譚   作:ノワールキャット

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第三話 貪食

「オイデ!オイデ!オイデ!オイデェェェエ!」

 

「タベヨォォォオ!」

 

─────ザシュッ!

 

俺は群がる呪霊達を大鎌で斬り続けた。俺の予想通り大鎌はとてつも無い殲滅力を見せた。この大鎌の特徴は以下の三つ。

 

1.軽く振るだけで鉄すらも両断する切断力

2.見た目に反してとても軽量であること

3.常に呪力が漏れ出ていること

 

この大鎌のおかげで今の俺は生きているだろう。もし術式を使用して殲滅を図ろうとしたなら俺は蹂躙され殺されているに違いない。この大鎌の刃は切断力が高いのと同時に常に呪力が漏れ出ているため、さらに切断力が上がる。鉄を豆腐のような感覚で斬ることができた。

 

「クワセロ!クワセロォォォオ!」

 

背後から鋭利な爪を持った呪霊が襲いかかるが...

 

─────【翳刃・散(えいは・さん)

 

影が渦巻くように黎斗(くろと)を囲み呪霊の体を削ぐ。影はそのまま辺り一体を飲み込み、呪霊も森も影に削がれ黎斗の立つ半径20m弱が荒地になる。

 

「やっぱりこの術式は破壊力があるけど細かく対象を指定できないのがデメリットだね」

 

黎斗の影は有機物、無機物、生命体、呪霊その全てを削り取る。影で範囲を指定し、黎斗の攻撃意思が伝わると影は範囲内を空間ごと削る。

 

術式は"必殺"であるが"必中"ではない。必殺の術式を"必中必殺"へと昇華するには呪術の極意を習得しなければならないが黎斗はまだ知らない。黎斗の術式は自身の影を起点として発動しており範囲内にいるものを"必ず"削ぐ。黎斗の攻撃範囲にいる限り呪力や術式、結界での防御は不可能となる。

 

まとめると黎斗の影を起点として空間の全てを削る圧倒的な殺傷力を持つ影を展開するのが黎斗の持つ術式の"一つ"である。

 

「奥にもっと強いのがいるな」

 

瑞樹に大鎌を返し漆黒の刀を取り出してもらう。大鎌でもいいがなるべく機動力を上げるには片手でも使える刀の方が使い勝手が良い。

 

「【翳具(えいぐ)】」

 

左手に黎斗の影で生成された黒い短剣。機動力を上げ最短で呪霊に接近し短剣を突き刺す。短剣には黎斗の術式効果が付与されている。短剣は黎斗の影が濃縮されて生成されており術式の効果範囲は狭まるがその分、威力が上がっている。短剣を呪霊の核にさえ突き刺せば空間を削ぎ、呪霊を消滅させることが可能だ。黎斗は呪霊に突き刺せさえすれば勝利出来ると確信していた。

 

「突き刺せばどうにかなるだろうけど...保険は掛けておくべきだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い森を駆けながら少しずつ黎斗は目標に近づいていく。森の奥に向かうほど呪いの気配が強くなっていく。黎斗は直感で今まで相対してきた呪霊よりも格上であることを感じ取った。

 

「...見つけた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────バキッ!グチャッ!ゴキッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗がりの森の中で肉を引きちぎり、骨を噛み砕く咀嚼音が響く。口元から血を滴らせ、森の木々と地面は赤く染まり、辺りは血の海と化している。人間と思しき体が散乱しており、脳や胃、肝臓といった内臓が露出しており、体を支える筋肉や骨も露出し辺り一体に飛び散っている。

 

黎斗の目の前には熊のような姿をした呪霊が人間を貪り喰らっている。今もなお人間を喰らい呪霊の周りにはいくつもの人間の亡骸が打ち捨てられており、ほとんが原型を留めておらず性別を判断するのも不可能になっている。

 

呪霊は黒い澱んだ姿で体の形が不定型に変化し続けている。口元は血で染まっており、長く尖った牙が見え隠れしている。熊の姿をしているがその大きさは優に4mを超え、立ち上がれば6mにまで届くのではないかと思うほどの巨体を有していた。

 

─────ダッ!

 

(あいつはヤバい!今まで殺してきた呪霊とはレベルが違う!気づいていない今がチャンスだ!この一撃で確実に殺す!)

 

早期決着を黎斗は選択し、迷うことなく呪霊に向かって走り出し、呪霊の脳天目掛けて短剣を刺した。

呪霊を目指す途中、呪霊は黎斗に気づいたが、黎斗の動きの方が早く、行動を起こそうと直立した時には既に、短剣は呪霊の脳天にまで迫っていた。

 

「捉えた!」

 

─────ドスッ!

 

「グオォォォオ!!!!!」

 

短剣が突き刺さった痛みで呪霊は鼓膜が破裂しそうなほどの雄叫びを上げ、森の木々を震わせた。雄叫びは次第に止み、呪霊は直立したまま動かなくなる。

 

(最初の一撃で仕留めたのか?仕留めたならそれでいいが...いや!)

 

「体が崩壊していない!」

 

─────ヒュッ!

 

呪霊の鋭利に尖った爪が迫り黎斗はギリギリで躱すが完全に躱しきることは出来ず額に傷を負ってしまう。

 

「くそっ!核が一つだけではなかったか!」

 

「グルァァァア!!!!!」

 

呪霊が目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出し、黎斗はほぼ直感で攻撃をいなす。刀と短剣で呪霊の鋭利な爪を弾きながら応戦するが少しずつ傷を負っていく。

直後、黎斗は直感で守りの体勢に入り全身を呪力で強化する。すると、体が弾き飛ばされる。木々を薙ぎ倒されながら後ろに飛ばされ大きな岩に激突する。

 

「ぐっ!げほっ!」

 

黎斗は血を吐き出し、痛みに悶えた。今まで感じたことのない死の圧が襲い掛かり、"死"というものが近づいてるのを感じる。

 

「...完全...に...見誤った」

 

(咄嗟に呪力で全身を守ったからいいが、もう少し遅れてたら間違いなく死んでいた。さっきの攻撃で保険も解除されたヤバい...意識が)

 

『黎斗、恵をお願いね』

 

今は亡き母の声

 

『恵を守るんだったら俺をさっさと倒してみろ』

 

今も行方不明の父の声

 

「シャー」

 

黎斗の意識はそこで途切れた。

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