伏黒兄の呪術奇譚   作:ノワールキャット

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第四話 覚醒

─────ドサッ!

 

「また俺の勝ちだな」

 

「大人気ないな父さんは」

 

「はっ、呪霊はそんなのお構いなしだぞ」

 

「分かってる」

 

晴れ渡った空の下で黎斗は父親である伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)と組み手を行っていた。だが何度挑んでも拳を食らわせることは叶わない。相手は大人で一般の成人男性よりも体格が良いため余計に相手が悪い。

 

黎斗には懐かしい思い出だった。呪霊が見えることが分かってから呪術や呪霊に関する知識を教えてもらい、自衛のために体術を教わっていた。

 

父さんから体術を教えてもらい、母さんの手料理を食べ、家族一緒に眠る。これがずっと続くと、世界の残酷さを知らなかった当時の俺は思っていたんだ。新しい家族ができると当時知った俺はすごい喜んでいた。

 

俺は父に憧れていた。不器用で無愛想な父だったが俺にも母さんにもこれから生まれてくる子にも愛情を注いでくれた父に憧れていた。なのに、世界はどこまでも残酷だ。

 

妊娠5ヶ月目ぐらいの時に発覚した。母さんは重い病気を患っていたようで発見が遅れた。今すぐ治療をすれば母さんの命は助かるらしいがお腹の子は亡くなってしまうらしい。かといってこのまま放置すると出産をした日には体力が残っておらず体が保たないらしい。

 

どうしてここまで世界は残酷なのだろうか。病気を患ったのが俺か父さんだったらまだ生き残れたのかもしれないのに。

 

母は子どもを産むことを決心した。今よりも子供だった俺は母の決めたことに異論はなかったが父は最後まで納得していなかったようだ。当時の俺でもよく分かった。命の天秤を突き付けられているのだから。他人からしたら燃えかすのような天秤だとしても俺達、家族にとっては宝石やお金よりもずっと重い天秤を突き付けられている。

 

父はその後、母の願い通りに子供のことを優先した。生まれてきた子供、恵は俺と父さんと同じ黒髪、黒目で少し癖っ毛があった。

 

母は恵を出産してから3日後、すごく満足したような、幸せな顔で息を引き取った。新しい家族が生まれた喜びと母が死んだ悲しみの感情に塗れ、頭が痛くなった。結局、その場で泣くことができず家に帰ってきてから現実を認識し泣き崩れた。

 

母が亡くなってから父はまるで抜け殻のようになり消失感に囚われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006年、俺たちの名字が禪院(ぜんいん)から伏黒(ふしぐろ)に変わり津美紀(つみき)が新しく家族に加わった。

 

同年、父が仕事に向かうと言い、俺に蛇型の呪霊、瑞樹(みずき)を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『【虚式・茈(きょしき・むらさき)】』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あと2、3年もしたら俺の子供(ガキ)共が禪院家に売られる好きにしろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分かってるさ、もうとっくに父さんが死んでいる(・・・・・・・・・)ことくらい。だからって死ぬ瞬間を見せることはないだろう。結構、トラウマになるよ、これ。体抉れてるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほら、禪院。お前が探していた呪具だ』

 

『あぁ、ありがとよ』

 

『そんなもんいったい何に使うんだ?』

 

『...これ、使っとかねぇと息子にどやされる』

 

『はっ、何だよそれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特級呪具:反魂の装具(はんこんのそうぐ)

 

術式効果:自身の血や髪などの体の一部を付着させることで反魂の装具を装着した生物もしくは呪霊に自身の魂を降霊させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、不器用すぎなんだよ。それに俺たちは絶対に三人で一緒にいなくちゃいけないんだ。禪院家なんてゴメンだよ、父さん」

 

「グゴォォォオ!!!!!」

 

呪霊の爪が俺に向けて振り下ろされる。内臓が傷つき、骨が折れている俺は死を待つはずだった。

 

「【陽刃・集(ようじん・しゅう)】」

 

俺は片手を上げ、指先を下に振り下ろすとシャキン!と呪霊の爪を切断し、そのまま呪霊の肘に当たる部位近くまで掻き消した。

 

(これが"反転術式(はんてんじゅつしき)"。まさか父さんの仇から教わるなんてな)

 

反転術式とは負のエネルギーである呪力を掛け合わせ、正のエネルギーを作り出す高等技術。正のエネルギーは負のエネルギーで構成されている呪霊の天敵と言える。

 

黎斗は死の間際で見た記憶で反転術式を習得し、自身の傷を治癒させた。

 

「シャー」

 

陰から這い出て来た瑞樹が黎斗の首周りに巻き付きその水色の双眼で呪霊を睨み付ける。

 

「ずっと近くに居たのかよ...力使わせてもらうよ」

 

「【反魂の共生(クロススピリット)】」

 

そう唱えると意識が研ぎ澄まされていき、暗闇に包まれているというのに先程よりも呪霊の姿をはっきりと捉えることができる。そして体の底から湧き出てくる生命力の塊と言える圧倒的な力。人間の持つ能力を限界まで底上げした肉体の完成系と言うべき状態だろう。

 

「グガァァァア!!!!!」

 

腕を再生した呪霊が俺に向けてまた爪を振り下ろすが、今の俺にはとても遅く見える。足に力を込め、地面を蹴ると今までにないスピードが出た。体を捻り爪を避けると捻った反動を利用し、左腕に力を込め、呪霊を殴り飛ばした。

 

呪霊は俺の予想以上に吹っ飛び、姿が見えなくなった。呪力を纏っていない生身のパンチでここまで吹っ飛ぶのだ。呪力を纏っていたなら先程の攻撃で呪霊を殺せていただろう。

 

「良い機会だ...今の俺の全力をぶつけてやる。かかって来いよ!呪霊!」

 

俺が叫ぶと呪霊がのそり、のそりとこちらに向かってきた。さっきよりも遅いがその巨体は10m近くまで大きくなっており怒りを露わにしている。

 

「行くぞ」

 

俺は手を構えてある形を作り、唱える。

 

─────【大蛇(おろち)

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