伏黒兄の呪術奇譚   作:ノワールキャット

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第五話 全力戦闘

「【大蛇(おろち)】」

 

俺が唱えると巨大な蛇が顕現し呪霊に向かって突撃していく。大蛇は片手で影絵を作れるから奇襲に向いている。

 

「グオォォォオ!!!!!」

 

呪霊の叫び声と共に数多の小型の呪霊が顕現する。俺は対抗するためにすぐさま影絵を作り顕現させる。

 

「【脱兎(だっと)】、【玉犬(ぎょくけん)】」

 

新たに三体の式神を顕現させると脱兎で壁を作り、分断させる。玉犬に小型の呪霊は任せて本体を叩く為に大蛇の背中に飛び乗り、呪霊を目指した。

 

大蛇は呪霊を咥えて拘束しており、そのまま噛み砕こうとしている。だが、そう簡単に上手く行く訳もなく。

 

「...!戻れ大蛇」

 

─────パシャ!

 

巨大な蛇が液体のように溶けて影の中に消えていった。大蛇が解除されたことで呪霊の姿が露わになる。呪霊は大きさはさほど変わっていないがその体は頭部から手足に赤いラインが走っており、頭頂部と手足の関節に当たる部分が円環を成した赤い輪っかが浮かび上がっていた。そして、注目すべきは体の中心部分。赤い瞳孔を持つ、一つの目玉に

 

─────ドクン!ドクン!

 

と聞こえてくる人間の心臓のような鼓動音。目玉が心臓の役割を果たし、常にエネルギーを頭、手足に送っている。

 

「大蛇を解除して良かったな」

 

(あのまま拘束していたら破壊されていた可能性がある。目玉で各地にエネルギーを送り、運動機能を高めているのか?)

 

「グオォォォオ!」

 

呪霊が雄叫びを上げる。黎斗は腰を低くし、自身の影で生成した短剣を構える。すると

 

─────ヒュッ

 

先ほどよりもスピードを上げた呪霊が黎斗の目の前に迫り、鋭利に尖った爪を振り下ろす。

 

─────ドゴン!

 

黎斗は体を捻り、呪霊の攻撃を避ける。常人を超えた五感は音速に迫るほどの速度を持つ呪霊の攻撃を見切り、最小限の動きで避けることを可能にした。

呪霊の攻撃が当たった場所は地面が大きく抉れ、土煙が舞っていた。

 

「戻れ」

 

─────パシャ!

 

脱兎と玉犬を解除する。幸いにも玉犬が小型の呪霊を全て処理を終えた状態だった。

黎斗は自身の影で生成した短剣の形を変える。手のひらで影の形が変形していき丸い円を形作っていく。

 

「【虚翳(きょえい)】」

 

手のひらで影を変形させ形を整えていく。影は短剣から手裏剣へと形を変え、黎斗は呪霊へと投擲する。

 

─────【輪月(わずき)

 

虚翳・輪月(きょえい・わずき)】...影を手裏剣のように丸みを帯びた形状に変化させ相手を切り裂く拡張術式であり、輪月は黎斗の術式の一つである【虚无ノ導(きょなのしるべ)】の術式効果を付与させたものであり直撃した相手の存在を削ぐことが可能である。

 

そしてそれを呪霊の目玉に向けて

 

─────シャキン!

 

放った。

 

「...そう簡単にはいかないか」

 

黎斗の攻撃は当たったが削ぐことができたのは呪霊の片足で本体を削ぐことは叶わなかった。

呪霊は失った片足を再生させすぐさま攻撃に移る。左、右、左、右と交互に地面を抉るほどの重い攻撃を黎斗に向けて放つ。

 

呪霊の攻撃を躱し、時には攻撃を与えつつ黎斗は呪霊の術式について考えていた。

 

(あの目玉が一体どういう仕組みなのかがまだいまいち分からないな。心臓のような役割をしているのは分かるけど...運動能力の上昇?いや、そんな単純なものじゃないか)

 

「グガァァァア!」

 

呪霊の腕が振り下ろされ黎斗は呪力で強化した腕で受け止める。凄まじい重さが腕にかかり、ミシミシと音を立てる。もし、先ほどの状態だったならば腕を折られていただろ。伏黒甚爾の魂が憑依した瑞樹と繋がっているからこそ受け止めることができたのだ。

 

黎斗は自身の影を操り呪霊に攻撃を仕掛ける。尖らせた影で呪霊を串刺しにしようと試みるがガキン!と音を立てる。

 

(ちっ!やっぱ術式効果を付与させないとまともなダメージは与えられないか)

 

呪霊の体はとてつもない硬度を持っていた。先程まで使用していた大鎌や刀などの呪具でも傷を負わせるのは難しいだろう。

 

目玉へと目掛けて影で生成した短剣を振り、斬り付けようと試みるが呪霊の腕によって妨害され、その巨体で押し潰そうと体を倒す。

 

「【大蛇】」

 

大蛇を顕現させ呪霊の体を持ち上げさせ再度、呪霊を噛み砕こうと試みるが歯が通らない。ならばと大蛇を解除し、短剣に術式効果を付与し足を刻む。バランスが不安定になった呪霊は倒れ...ることはなく、自身の体を変形させて、触手を伸ばして攻撃してくる。それを斬り落とし目にも止まらぬ速さで呪霊に接近する。呪霊が腕を振るい、黎斗の接近を阻止しようとする。

 

「ここだ!」

 

黎斗は常人離れした身体能力をさらに呪力で強化し呪霊の攻撃を躱すと足に力を込めて、上空に飛び上がる。

 

(呪霊の術式は単純な運動能力を上昇させるものだ。体の硬度や変形させてるのは術式の派生のようなもの)

 

通常、呪霊は頭部などが核に当たる。だから頭を潰せば呪霊を殺すことが可能だ。だから勘違いした(・・・・・)。核は呪霊の目玉部分つまり中心部!弱点を晒して術式効果を高め、さらに心臓のような役割を持たせることで血液のように呪力を循環させている。だからこそあの異常なまでの力を生み出している。だが、この術式は四肢が満足な状態でない限り真価を発揮することは出来ない!だからまず動きを封じる。

 

「【虚翳・芯貫(きょえい・しんかん)】」

 

両手で先が鋭く尖った針のようなものを影で生成する。術式効果を先端に集中させ貫通特化にさせている。そして、足に向かって打ち付ける。

 

─────ドスッ!

 

「グオォォォオ!」

 

呪霊の雄叫びが森に響き、木々が揺れる。俺の目論見通り、呪霊の足を潰すことができた。後はこの状態で一撃必殺の攻撃を喰らわせる。だけどまだ俺にそんな攻撃手段は無いだから"合わせる"。調伏は完了してないが上手くいけば呪霊を殺すことも、式神の調伏もできる。

 

「さぁ、呪霊...これに耐えられるか?」

 

─────【満象(ばんしょう)

 

両手を重ねると顕現する巨大な象。アフリカゾウやアジアゾウと違い、褐色肌ではなく桃色の肌をし、額には十種神宝(とくさのかんだから)の一つである辺津鏡(へつかがみ)が刻まれている。重力に任せて落下して行き

 

─────ドゴッ!

 

大地を砕き、大地を震わせた。さすがの重さに呪霊もそう簡単には動くことができず踠いている。

 

「止めだ!【虚翳・芯貫】」

 

呪霊の中心部に向けてありったけの呪力を込めた技を撃ち込む。

 

─────ドガーン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が地面に降りると酷い有様になっていた。俺が最後に攻撃を落とした場所は大きく凹んでいる。まるでこの場所だけ隕石や噴石が落ちたみたいだ。満象の姿もないところを見ると調伏も完了したようだ。

とりあえずやるべきことは完了した。今回で俺はまた強くなることができた。良い意味であの呪霊は役に立った。

 

「さて帰ります。もう、反魂の共生(クロススピリット)も解いていいだろう...痛たたた!」

 

反魂の共生を解いた瞬間、今まで経験したことのない痛みが襲ってきた。これはあれか?あの異常な身体能力に体が追いつかなかったのか?どのみちどうしようもないのでこの状態で帰らなくてはいけない。

 

「まぁ、力の反動がこれぐらいなら安いもんか」

 

溜め息を溢し、俺は体の痛みを我慢しながら帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2009年4月■日。埼玉県△■市◇●山にて巨大な呪力反応を窓が確認。現地住人から爆発音などの音が聞こえている、現場にて争った形跡があることから呪霊の存在を確認。また、呪霊はすでに祓われており呪霊の残穢と呪霊を祓ったと思われる呪術師の残穢を確認。呪霊の残穢から1級呪霊がいたことを確認。

 

上記の呪霊を祓除(ばつじょ)したと思われる呪術師の残穢を調査したところ未登録の呪術師と判明。過去の未解決の呪詛師案件の事件と残穢が不一致だったことから犯罪歴は無しとし、1級案件の任務とする。




黎斗くんの術式名称を公開しましたが後で変更するかもしれません。

(術式の説明)
虚无ノ導(きょなのしるべ)
影を操ることが出来る術式で対象の空間ごと削ぐことが可能な術式です。攻撃に特化した術式ですが細かい対象を決めることが難しく、範囲が広いほど呪力消費量が多くなる術式です。
空間ごと体を削がれた呪霊の場合、空間が修復されないと体の再生を行うことができません。
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