伏黒兄の呪術奇譚   作:ノワールキャット

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第七話 2回目のコンタクト

禪院家(ぜんいんけ)と言う封建的な古臭い因習に取り憑かれた家の連中が最近見えなくなった。やはり、あの脅しが効いたのだろうか?家の奴らは俺たちの術式が欲しいが俺が従わない。ならば連れ去ろうとするが徹底的に抗戦される。貴重な術式を持つため下手に傷付けることが出来ず、おとなしく俺の要求に従うしかない。

 

成果は上乗だ。今のところ、恵にも津美紀にも実害はない。中学に上がれたら限られるが働けるはずだ。肉体労働でも、デスクワークでもなんでもやってやる。兄っていうのは自身を二の次、妹、弟が第一だ。

 

「兄さん」

 

「どうした、恵?」

 

「今日、サングラスを掛けた全身黒い格好の男に話しかけられたんだけど」

 

恵からの不審者情報に俺は目を細めた。また禪院家の人間が接触しに来たのかと思った。サングラに全身黒づくめか...俺の説得は無理だから恵から囲むつもりか?

 

「俺の言った通りすぐに逃げたか?」

 

「うん」

 

「そうか...何かあったらすぐに言ってくれ。何とかするから」

 

「ありがとう、兄さん」

 

感謝を伝える恵に「いいんだよ」と応える。母さんとの約束もあるが兄が弟を守るのは当たり前だ。だから、気にしないで欲しい。津美紀と一緒に恵が笑ってくれるだけで俺は満足なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伏黒黎斗(ふしぐろくろと)くんだよね」

 

だからこそ、こういう男には心底腹が立つ。

 

「君の弟の(めぐみ)くんにも声を掛けたんだけど直ぐに逃げちゃったからね」

 

軽薄を擬人化したような男で得体の知れなさがあった。

 

「君が言い聞かせてるんだろ...凄いね、教育の賜物だね」

 

禪院の連中と違い横柄な態度は無いが俺達を引き入れようとしていることだけは分かる。そもそも、従う理由が無い。

 

「あぁ、まだ名前言っていなかったね。僕の名前は五条悟(ごじょうさとる)...呪術師だ」

 

最悪なことに俺の事情をある程度把握しているらしい。この容姿に、この声は間違い無く父さんの仇(・・・・・)だ。

 

「もし、俺に話があるんでしたら自宅で伺います」

 

「そっ、じゃあお邪魔しよっかな〜」

 

五条悟...俺はその名前を何度も心の中で反復させていた。俺の今の感情は憎悪や怒りに満ちているに違いないだろう。なのに...この人に任せれば俺が頭を悩ませている問題を解決出来るのではないかと思ってしまう。その事実に俺は怒りを募らせるばかりだ。己の不甲斐なさに腹が立ってしょうがないのだ。

 

「ただいま」

 

「お帰りなさい!」

 

自宅に帰ると津美紀が笑顔で出迎えてくれた。

 

「お客さん?」

 

「そう、話すことがあるから居間を借りるよ。悪いけど部屋で待ってくれない?」

 

「うん」

 

津美紀の頭を撫で、五条悟と名乗った男を居間に案内する。

 

「悪いね〜家にまで上げて貰っちゃって」

 

「構いません...何用で?」

 

目の前の男を睨みつけるが何ともないように飄々としている。

 

「君、本当に小学生?」

 

「...」

 

この男は侮ることが出来ない。直感で感じたことだがあながち間違っていないかもしれない。自分と同じ人間かと疑ってしまうほどだ。

 

「君はさ、父親のことについてどれだけ知ってる?」

 

「...禪院家と言う封建的な家の出身であることだけだ」

 

「へぇ...そこまで知ってんだ。そう、黎斗くんと恵くんのお父さんは禪院って言う良いとこの呪術師の家系なんだけど、僕が引くレベルのろくでなしで、お家出てって、君たちを作ったってわけ。君と恵くんは見える側だし、持ってる側でしょ?」

 

「あぁ、恵は呪霊が見えるし、術式も持っている。だから何だ?お前も、禪院家と同じように俺の家族に危害を加えるつもりか?それとも俺たち家族をバラバラにするきか?」

 

己の口からゾッとするほど低い声が出た。禪院家が接触した日から俺は凄い神経質になっていたこと、家族が突き放されるかもしれないと言う思いと何より、己の家族を部外者に語られるのがものすごく癪に触った。

 

今の俺は言葉で言い表せないほどの怒気と殺意を孕んでいる。今だったら躊躇いなく人間を殺せることが出来るだろう。

 

「お〜、こっわ。まぁまぁ、落ち着いてよ。確かに僕は禪院家と同じ呪術師の家系だけど君の敵じゃないよ」

 

「どう信じろと?そもそも禪院家と同じ呪術師の家系の人間をどうやって信じればいい?」

 

「...君ってさ、妹や弟を一番優先しているんでしょ?今のままだといつ禪院家が攻撃してきてもおかしくない。禪院家は術式(さいのう)大好きでね、手に入れる為なら汚い手も平気で使う。君を手中に収めるために君の家族を殺すかもしれない」

 

「俺がやらせると思うか?」

 

「...確かに君は強いよ。先日の1級呪霊を祓ったのも君だろう?君の実力は呪霊に対してのみ今の所、1級の下か中くらいだろう。呪術師としての才能は凄いあるよ。でもね、君は圧倒的に対人戦の経験が足りない。理性や知性の無い呪霊と違って策力を練って来るし君に並ぶほどの実力を持つ呪術師を禪院家はゴロゴロと持っている。これでも君は確実に守り切れると言えるのかい?」

 

ぐうの音も出ない。反転術式は未だに不安定、体術では体格差で負ける可能性がある、己の術式を完璧に扱えるわけでもない。俺は一対一の対人戦を考えていた。相手が必ず一人で攻めて来ると言うわけでは無い。

 

「だからこそ、妹と弟を守りたい君には僕の手をとって欲しいんだ」

 

「...3分だけ時間をくれ」

 

俺がそう願い出ると五条は「どうぞ」と頷いた。

 

呪術師の闇は自分が考えていた以上に相当深いようだ。最早、日本の法律なんて当てに出来ないレベルでだ。あの一件から禪院家が押し掛けて来ないのは単純に運が良かったからだろう。呪術師に関しての情報の少なさが己の弱点となった。そもそも、他者を平気で見下す連中だ、法律に則っるなんて大抵考えられない。

自身の不甲斐なさが物凄く腹立たしい。もし今、選択を誤れば津美紀と恵を危険に晒すことになるのだ。二人が死んでしまえば俺は毒薬を飲んだ上で己の体を火で炙り、包丁で急所を外しながら刺し続けなければ到底償えない、いやこれでも生温いに違いない。

 

結局、最初からこの人を頼る以外に選択肢は存在しなかった。目的を見誤ってはいけない。俺の目的は恵と津美紀を守ることだ。

 

「五条さん...恵と津美紀を守るために協力してください」

 

「そう選択してくれて嬉しいよ。あとは任せなさい」

 

あとはもう流れに身を任せよう。家族を守れればそれでいい。

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