伏黒兄の呪術奇譚   作:ノワールキャット

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第九話 入学

東京都立(とうきょうとりつ)呪術(じゅじゅつ)高等専門学校(こうとうせんもんがっこう)】...通称呪術高専(じゅじゅつこうせん)。全国に二校しかない呪術師を育成する教育機関。呪術師の教育のみならず呪術師の拠点から任務の斡旋を行う呪術会の要。

 

「おはようございます。五条さん」

 

「おはよ〜。制服のサイズはどう?問題ない?」

 

「はい、問題ありませんしこの制服、動きやすいですね」

 

黒ずくめで渦巻きのボタンが特徴な呪術高専の制服...制服特有の窮屈さが無く、非常に着心地が良い。

 

「高専の制服は特別性だからね。着心地良し、通気性良し、下位の呪霊の攻撃なら傷付かない丈夫さ、なんと!今ならお値段!「さっさと学長のところに連れて行ってください」...せめて最後まで言わせてよ」

 

「着いて来て」と言葉を溢した五条先生に俺は着いて行った。呪術高専は神社や寺と言った和風な木造建築が多く、緑に溢れていた。

階段を登るとさらに緑が増え、太陽の日差しを遮った。歩き続けるとお堂のような建物が見えて来た。中に入ると蝋燭で薄暗く照らされお堂の奥にぬいぐるみを作っているサングラスを掛けた強面の男性が居た。

 

「珍しいな、悟が遅刻をしないとは」

 

「僕だってたまには時間通りに来ますよ」

 

「偶にでは無く常にそうしろ」

 

「はい、は〜い」

 

(絶対に守らないなこの人)

 

「さて、自己紹介がまだだったな。私はここ呪術高専で学長をしている夜蛾正道(やがまさみち)と言う」

 

「すでに五条さんからお話を伺っていると思いますが伏黒黎斗(ふしぐろくろと)です」

 

「あぁ、悟から話は聞いている。そして問おう。何しにここ(呪術高専)に来た?」

 

真剣な眼差しで夜蛾学長は俺に問い掛けた。

 

「家族を守るためです」

 

「...」

 

「俺達に両親と呼べる存在はいません。津美紀はまだしも恵は母親の顔も父親の顔も知らないで育ちました。だから呪霊のような存在に殺されるわけにはいかないんです」

 

「...何故?」

 

「恵も津美紀も幸せな幼少期を送ったとは言えません。だからこそ、二人は幸せになる権利がある。二人が自分達の幸せを手に入れられるまで...手に入れた後も俺が呪霊と言う脅威を取り除く。その術を得るためにここに来た」

 

「...後悔はしないか?呪術師は常に危険が付き纏う仕事だ。熟練の術師でも死ぬ時は死ぬ。そんな世界だ。それでもか?」

 

「後悔は絶対にしない。そもそもそう簡単に死ぬつもりも無い」

 

「...良いだろう、合格だ。ようこそ呪術高専へ、私達は君を歓迎しよう」

 

「ありがとうございます」

 

夜蛾さんは僅かに口角を上げ笑みを浮かべた。

 

「君もまだ子供だ。困った時があればいつでも頼りなさい。私も、悟も、君の味方だ」

 

「はい」

 

俺は素直に頷いた。

自分の周りには頼れる大人が居なかった。いつも自分で何とかしようと頭を巡らせてきた。信じれるものは自分と家族のみで常に神経を研ぎ澄ませ、己の私情を捨て、妹弟を優先して生活してきたのだ。

 

「はいはい、面談終わったでしょ〜。セキュリティやら寮を説明するから着いて来て〜」

 

「「...」」

 

この人、マジでクズだな。空気を読んでほしい。

 

 「...今行きます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、入学まで凄いあっという間だったね〜!」

 

「それには同感します」

 

確かに五条さんが俺達の元に訪れ、呪術師になると決めてから時間の流れがとても長く感じたものだ。家事に勉強に修行やらをこなし、任務を受けて実践経験を積む。勉強の中には呪術界の歴史や名家について、修行は術式と呪力の訓練と体術が主なメニューだった。おかけでその見た目とは裏腹にとても鍛え抜かれた体になった。

 

「ここが共用スペースね。男子寮と女子寮の中継地点でもあるから気を付けてね」

 

「他には?」

 

「あとは...教室に運動場、倉庫ぐらいかな?その説明は後日でも大丈夫でしょ。それに明日から授業はあるから、今日はもう休みな」

 

「分かりました。では」

 

黎斗は共有スペースで五条と別れ、男子寮へと入って行く。部屋の場所は制服と共に鍵と一緒に送られて来たのだ。入学が近づくと必要な荷物を纏め、既に高専へ送っていた。

 

私物が非常に少ない黎斗の部屋は非常に単純だ。棚には民族文化や歴史に関しての本や一般教材などが置かれ、タンスには必要最低限の下着と衣服しか置いていない。

 

ガチャリと扉を開く。1LDK少し狭めたくらいであろう部屋は学生の寮にしてはそれなりに広い。黎斗はベッドに身を沈めるとこれからの予定について考えた。

 

(今後は任務と授業をこなしながら禪院家を監視すればいいだろう。昔と比べ常に神経を尖らせておく必要もないからな。ムカつくがあの人のおかげで余裕が生まれたのも事実だ)

 

過酷...いや、少し特殊な幼少期を送った黎斗は自分の欲を押し殺し、津美紀と恵を優先して生きてきた。金銭管理や健康管理など本来、大人がやるべき仕事全てを黎斗が請け負い、家族を守りながら過ごして来た。一人の大人が二人の子供の世話をしながら家庭に関する仕事の全てを請け負う、簡単に言えばシングルマザーやシングルファザーのことを黎斗は行っていたのだ。

 

「今まで休む時なんて寝る時ぐらいしかなかったからな...こうも自由な時間が増えると落ち着かんな。...自分の趣味でも見つけてみようかな」

 

(俺が成果を出せばタゲはこっちに向くはずだ。感知式の呪具を置いてあるから禪院家の連中が接触すればすぐに分かる)

 

「...兄さんが絶対に守るからな。津美紀、恵」

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