今日も翔のミュージックバーは賑やかだ。常連客で賑わっている中、一際元気な声で盛り上がってるのは玲音だ。
純 「相変わらず騒々しい」
玲音「ほっとけ」
龍介 「またケンカしてるww」
玲音 「ケンカなんかするわけないだろ!家を行き来する程、仲がいいんだから!」
純 「何言って…」
龍介「ほらほらー」
龍介と玲音がやんや言い合いしてるのを横目で見ながら、やれやれと溜息をつく。
仲間の前では、つい素っ気無い態度を取ってしまう。ムキになる玲音を見ると嬉しい気持ちもあるが、わかってないなーと複雑な気持ちにもなる。
いつからこんな気持ちになるようになったんだっけ…
かかってる音楽や店長の翔大の人柄に惹かれて会社帰りにミュージックバーに通い始めたのがきっかけだった。
初めて会った頃は、玲音が苦手だった。プログラマーで自他共に認める夜型で陰キャの純にとって、いつでも元気いっぱいの玲音はうるさくて暑苦しい存在だった。
ある日、いつもより早い時間に店へ行くと他の客は誰もいない中、玲音だけが奥の席で静かに本を読んでいた。
意外に思い、翔に小声で話しかけた。
「玲音って本読むんだ…」
「え? 玲音はこの店で一番の読書家だと思うけど? 小説家になる夢を持ってるらしいし。昼間は介護施設とかで働いてるけど」
「は???」
よっぽど顔に出たんだろう。翔が笑うのを必死にこらえてる。「ちゃんと話してみれば気が合うと思うけど? 歳も一緒だし。音楽の趣味とか合いそうだよ。」
同じ陽キャでも、陸樹とはすぐに仲良くなった。高級車のディーラーをしている陸樹はよくビリヤードをしにやってくる。誰とでも分け隔てなく接する陸樹は相手の懐に入るのがうまく、話も面白いが、空気も読めるタイプなので、一緒にいて楽だった。陸樹はやる事がスマートなのだ。それに比べて玲音はうるさいから苦手、というのが第一印象だ。
その翌日、週に2日ある出勤日で会社に行くため、駅に向かう道の先に玲音を見つけた。話しかけられないよう、距離を取って歩く。
何やってんだ?
玲音は何の変哲も無い空の写真を撮ったり、野良猫に話しかけたりして、ひどくのんびり歩いていた。その上、急に立ち止まるとしゃがみこんで動かない。
好奇心に負けて玲音に話しかけてみた。
「何してるの?」
「あれ、Jだっけ? いや、カエルがさ、元気無さそうにしてて…」
「カ、カエル?」
「この辺、水場無いから、土手辺りに離してくるよ」
「駅と反対方向だろ?遅刻しないの?」
「あぁ、俺心配性で1時間位余裕持って出てきてるから、大丈夫! ありがとな! じゃっ!」
玲音は宝物のように、小さなカエルを大きな手の中に包み込んで、来た道を戻って行ってしまった。
呆気に取られた純を残して。
その後、気になって玲音を観察してると、見る度に人に限らず何か生き物を助けてるみたいだった。
生き物のSOSを感じ取るセンサーがついてるのかな?大型犬ぽいから匂いを嗅ぎつけるって感じの方がしっくりくるかも…。あいつにとって、誰かを助けるのは本能なのか?
そんなある日、サーバーの問題が発生して徹夜明けにも関わらず、出勤して対応に当たらなければならない朝
マジで眠いし、勘弁して欲しい…もう、仕事辞めたいなぁ
「J!!!」
驚いて振り返ると息を切らした玲音に肩を叩かれた。
「おはよう!!!」
額に汗を光らせ、エクボが目立つ満面の笑顔に、何故かドキっとした。
さっきまでどんよりしていた気分が急に晴れてきて、心臓がドクンドクンいってる。
玲音は元気の無い純を見つけて、わざわざ走って追いかけて来たんだろう。
その顔は反則だろ!
顔が熱い…耳まで赤くなってる気がする…
顔を見られたくなくて、踵を返すと急ぎ足になった。
「急にどうした?!」
「遅れそうなんだよ!」
「そんな時間だっけ??」
「と、とにかく、急いでるから!…今晩、翔の店で…じゃ、また!」
答えを確かめる余裕もなく、唖然とする玲音を置いて小走りに駅へ向かった。
その夜、店に行くと既に玲音がカウンターにいて、翔と話し込んでいた。
隣に座ると、ホッとした顔を向けられた。
「よかった! 何か怒らせたのかと思って。急に走って行っちゃったからww」
「急いでるって言ったろ」
つい言い方が素っ気なくなる。
「玲音って、俺が昔飼ってた犬に似てる」
「誰が犬じゃ?!」
元気な時はうるさいくらいにじゃれてきて、落ち込んでいる時はそっと傍に寄り添ってくれた愛犬。キュルキュルの目もそっくりだ。
だから惹かれたのかな?
ちゃんと話をしたら、翔の言う通り、音楽や映画の趣味も合って、意気投合した。
一緒にいると気持ちが明るくなるし、安心できる。家を行き来して一緒に映画を見たり、夢を語ったりした。
自分の気持ちが友情だけとは言えない事に薄々気がついているけど、初めての感情に名前をつけれずにいる。
「J!! 俺達、仲いいよな?」
龍介に言い負かされたのか、子犬みたいな目をキュルキュルさせて訴えてくる。
だから!! その顔は反則だって!
思わずハグしたくなるのをグッと堪えて
「そんな当たり前の事いちいち確認しなくていいだろ…。龍介、玲音で遊ぶな」
恐らくキレ気味のオーラが出たんだろう、龍介はそそくさとキッチンへ消えていき、玲音も真琴達の輪に戻っていった。
はーっと盛大に溜息をついた。一人になって酒を飲んでると陸樹が傍にやってきた。
「荒れてるなー。なんか仄めかした方がいいんじゃない? 一生気付かないかもよ」
「え?! な、何だって?」
「顔に出てる」
狼狽えてると、「色んな愛の形があってもいいんじゃね? 俺なら全然大丈夫だけど?」とウインクされた。
からかってる、という訳では無いらしい。
「陸樹は優しいな」
今度、お揃いのアクセサリーでも贈ってみようかな
プレゼントを贈った時の玲音の笑顔を想像して、つい頬がゆるむ。
そんな自分の横顔をじっと見つめる陸樹の視線には全く気が付かなかった。
END