店で仕込み中の翔と龍介。
ご機嫌に包丁を奮ってる翔の横で龍介は黙々と下拵えを手伝っている。
龍介は高校生のアルバイト。
龍介の家庭教師をしていた女性が翔と結婚しておめでたとなり、店の手伝いが難しくなったため、龍介にバイトをお願いしたのだ。
バイトをする前から度々店に来て勉強をしていた龍介は常連客とも馴染みで仕事覚えも早く、重宝されている。
当初の目的は翔の奥さんであり、元家庭教師の彼女と少しでも一緒にいたかったからだったが、翔の人柄と翔の元に集まる友人達に惹かれ、この店が自分の居場所だと感じている。
みんな、年齢も職業も違うが誰も自分を子供じゃなく、一人の人間として接してくれる。
あんな大人になりたいな…
でも、恋心は又別で、2人でいると、しばしばのろけてくる翔に時々殺意を覚える。
「龍介!ちょっと、聞いてる? ほら、美味いミニトマト入ったから、食ってみ?」
にっこり笑いながらミニトマトを差し出す翔を見ると、女性が惚れる瞬間ってこういう時なのかもなと妙に納得するが、同時にイラっとする。
「そういうのいらないから」
冷たく言い放って作業に戻る。
翔は肩をすくめるが、お構いなしで独り言のように話しかけながら、料理を作っていく。
結局、いつの間にか龍介の顔にも笑顔が戻ってしまうのだ。
敵わないな、と思う。
友人達も、いつも何かに悩むと翔に聞いてもらいにやってくる。
自分も気持ちに決着をつけて、前に進まなきゃな…
片耳だけのイヤリング
昔、彼女が家庭教師をしに来ていた時の忘れ物だ。
いつか返そうと思いながら、ずっと返せずにいた。
今更、忘れてたと言って返すには時間が立ち過ぎてしまった。
ダメ元で告白する事も一度は考えたが、迷惑になるだけだと諦めてしまった。
もっと早ければ、気持ちだけでも伝えておけば良かったと思うが、幸せの邪魔はしたくない。
翔なら心配ない。心からおめでとうと言える相手だ。
もう一度手のひらのイヤリングを見つめ、自分の気持ちに決着をつける。
「ありがとう…サヨナラ。」
思い切って、海に投げ、自分の気持ちに踏ん切りをつけた。
店に行くと、玲音が翔と話込んでいた。
なんだか、暗い顔をしている。
よくわからないけど、純のことで何か悩んでいるらしい。
純と玲音は男同士だけど、お似合いなんだよな。
でも、玲音はそういう目で純を見ていないんだろうという気はしていた。
純が時々、溜息を付いているのを見て、心配に思っていた。
恋って難しいな…
自分にもいつか運命の相手が現れるんだろうか
2人がうまくいくことを心の中で祈る龍介だった。
END