次の土曜日、玲音は純と会う約束をしていた。
純から、あらたまって話したいことがあると言われていた。
もし、聞きたくなければ、来なくていいとメールには書いてあった。
玲音は純が何を言おうとしているか、何となく気が付いてはいた。
でも、ずっと気が付かないようにしていた。
今のまま、みんなでワイワイとできれば、それでいいと思っていた。
純のことは好きだが、その好きが純の気持ちと一致しているのか、正直わからない。
親友と恋人の境界線って何なんだ?
純は男友達で、大事な親友で、ずっと傍にいて欲しい人だ。
ずっと一緒にいたいと思える友達は中々巡り会えない。
失いたくない。
でも、自分の気持ちが友達としてなのか、それ以上なのかは、わからない。
何度考えても、頭の中がぐるぐるして、考えがまとまらないので、翔の店に行ってしまった。
純の姿が見えないことにホッとして、翔にそれとなく相談してみる。
翔はすぐに誰のことかわかったらしく、
「そんなに悩むってことは、もう、答えが出てるんじゃないの?」と言った。
「答えが出てる?」
「ああ。後は、お前の中のフィルターを外せるかどうかだと思うよ。
男だとか、女だとか、考えずにJのことだけ考えてみれば?」
「Jのことだけ……って、いつJのことって言ったんだよ!?」
「お前、わかりやす過ぎwww」
土曜日、約束の時間が迫っていた。
もう家を出ないと間に合わない。
一歩を踏み出す勇気が中々持てない中、外は雨が降り出した。
まさか、傘持ってないとか無いよな?
純のことが心配になり、ようやく急いで行く気になった時、
ドンドン!と勢いよく玄関を叩く音がして、心臓が飛び上がった。
玄関に出ると、陸樹が立っていた。
「やっぱり、まだいた!ほら、急いで行くぞ!遅れるだろ!車で送ってやるから!」
と引っぱり出しそうな勢いで言われた。
「ちょ、ちょっと待てって!なんで陸樹が?」
「Jの悲しむ顔は見たくないんだよ!どうせ傘持ってないし、迎えに行くって言ってあるから。
お前が行かないんなら俺だけで行く!」
陸樹の勢いに押されたことは間違いなかったが、玲音の気持ちも決まっていた。
「悪い。俺も乗せて行ってくれ!!!」
純は、カフェの軒先でかろうじて雨宿りをしながら玲音を待っていた。
やっぱり、来ないかな…
自分の気持ちを隠したまま、親友として傍にいるという選択肢もあった。
でも、自分に嘘をついているみたいな気持ちがつきまとって、自分を許すことができなかった。
玲音の前で嘘をつくのは、嫌だった。
でも、やっぱり、やめておけばよかったかな…
この後、翔の店とかで顔を合わせるのは辛い。会いたいけど、会いたくない。
急に惨めな気分になって、涙がにじんできた。
その時、急に前に影がさした。
顔を上げると、玲音が目の前に立っていた。
「え?うそ...」
「ごめん!ちょっと遅れちゃって!Jの気持ち、聞きに来た。」
純の頬に涙が流れた。来ないと思ってたのに…。
「玲音、俺は、玲音が好きなんだ。友達としてじゃなくて。
今は、ただ、受け止めてくれるだけでもいい。
玲音の前で自分の気持ちに嘘をつきたくなかっただけだから...」
「J、俺は、まだ自分の気持ちがはっきりわかってるか、自信が無い。
でも、Jに傍にいて欲しい。失いたくない。それだけは、はっきり言える。
だから、来たんだ。今は、それでもいい?」
「うん、来てくれただけで十分だよ…」
その時、バサッとタオルが降ってきた。
陸樹が憮然とした顔で立っていた。
「2人とも、俺の事、無視し過ぎ。濡れてるだろ。早く車に乗って、今日はもう帰ろうぜ。」
真っ赤になって、狼狽える玲音と純を後部座席に乗せて、陸樹が車を出す。
「ありがとう、陸樹」
車に乗り込む直前に純が花のように微笑んで耳打ちした。
その顔を見ると、陸樹は、敵わないな、と観念してしまう。
玲音はタオルで純の体を拭いたり、前髪を直してやったり、照れながらも満面の笑顔で世話を焼いていた。
純も、はにかみながらも、嬉しそうにニコニコしている。
そんな2人をミラーで見ながら、陸樹は、心の中で、
(チクショー。いつか、正々堂々リベンジしてやるからな!今日のところは、純の笑顔が戻っただけで、よしとしてやる。)
と秘かに闘志を燃やしていた。
END