beginning
恋愛ゲームは魅力的だ。
ヒロインがどんな窮地に陥っても、どんなに過酷な状況になろうとも最後の最後に主人公がたいていのことは解決する。
だから、アニメやゲームは見ていて安心する。結末は作品ごとに異なるが、たいてい、主人公たちの未来には希望が残されている。
だが、現実はあまくはない。
何故なら、どんなに過酷な状況に置かれても、助けてくれるものはいない、そして必ずしもすべて解決し幸福になるとは限らないからだ。
「何をしてやがるんですか?」
「いや、ちょっと黄昏てただけ」
現実の世界もゲームと同じだったらいいのに・・・・・
彼女と一緒にいる、空に一番近い場所で、叶うはずのない願いを胸に抱いて、まるで彼女の髪の色と同じ、透き通った青い青空を見つめる・・・・
「ふふふ キスをするという選択肢と頭を撫でるという選択肢か」
外部からの光が完全に遮断されているとある個室、そこで相原陽は一つのモニターから発せられる光に目が釘付けになっていた。
否、自らモニター、パソコンの画面を熱心に見ていた。
そのパソコンの画面には、黒髪の、制服を身に纏った少女が視線を右にそらして頬を赤らめている姿が映しだされていた。
その少女の姿が陽の理性を激しく揺さぶる。
「あー 駄目だ・・ はるるのこの、お兄ちゃん大好き視線マジたまらん!はあ・・ はあ・・」
急に息が荒くなる陽。
おそらく、いや確実に画面の中の少女を見てもだえているのであろう。
「はあ・・ おっと! 俺としたことが、あまりにも可愛いはるるのしぐさに心を奪われていた」
我に返った陽は再び下に映し出されている二つの選択肢を見る。
「キスをするにはまだ好感度が足りない気もする。 だが、ここはしてしまってもいいのではないのか?・・」
頭を抱えて悩む陽。
「うん よしキスをしてしまおう」
頭をかかえるのをやめて右手をマウスに乗せる陽。
ネットで答えを見る、という手もあるが、それではつまらないという気持ちもあるのでここは自分の判断にまかせる。
ゆっくりとマウスの左をクリックしようとする。
しかしその瞬間陽の身に異変が起った。
「っく・・・・・頭が・・・!」
激しい頭痛が陽を襲う。
そのあまりの痛さに陽の肌からには無数の冷や汗が出ていた。
そして同時に吐き気がするほどの気持ち悪さに全身が支配される。
「うぐ・・・はあ・・・はあ」
マウスに乗せていた手を放し、地面に仰向けで倒れこむ陽。
天井を見ながら荒くなっている息をゆっくり整えて現状の確認を始める。
「一体、何が起ったんだ・・俺は選択肢を選ぼうとしただけなのに・・」
周囲を確認しながら理由を考えるが、思い当たる節がない。
結局原因と思われるパソコンに視線を向ける。
「壊れたかな・・ いやないな・・ もう一度確認するか・・」
仰向けになって倒れている体を持ち上げて、パソコンが置いてあるデスクに向かう。
そして目の前まで行くと、再びマウスに手を置く。
「・・・マウスに手を置くこと自体が原因、ではなさそうだな なら・・」
マウスが原因ではないことを悟ると、陽は画面を見る。
「・・まさか、な」
陽は、自らが思った疑問を払拭すべくマウスの左をクリックして、画面の中のキスをする、という選択肢を選択しようとする。
だがここで陽の思惑通り、先ほどの不快な感じが一瞬、陽を襲う。
理由はわからないが、どうやらこの選択肢を選ぼうとするとさっきの症状が出るみたいだ。
陽はそれを確認すると、呆れた顔で画面の右下のセーブと書かれたボタンをクリックする。
「はあ・・ もうやる気なくなっちまったよ・・」
気分がそがれたのか、陽はギャルゲーの画面を消して、さらにパソコンをシャットダウンする。
暗い部屋を照らしていた一際大きな光が消えて、部屋がまっくらになる。
しかし、カーテンの外の光が、若干だが部屋を少し明るくする。
その明かりをうまく使い、陽はデスクに置いてある時計を見る。
その時計の大きな針と小さな針は両方ともその時計の6の部分を指していた。
「うわ・・・ もうこんな時間かよ・・」
時間を失ったことを痛感するが、後悔はしない。
陽はそう思いながら、カーテンのそばまで行ってカーテンを思いっきり左に引っ張る。
その瞬間、薄暗かった部屋に朝の日差しが一気に部屋に入ってくる。
「やべ・・・・ ねてない・・・」
昨日の午前7時から一睡もしていない。
故に彼の目にはクマができていた。
「・・・・・・・」
そんなことを考えていると、ふと陽は窓に寄りかかっているある物体を真剣な表情で見る。
その物体の本体は竹刀袋に収められていた。
「そういえば、これのことはすっかり忘れてたな」
この竹刀袋に入っているものは、陽が昔とある人物からもらったものだ。
しかしその人物は、人間ではなかった。
「・・自らを神とかいうやつ、初めて見たよ」
陽が自称神と出会ったのは5年前、陽が剣道をやめて途方に暮れているときだった。
何故途方に暮れていたのかは置いておいて、とにかくその際に渡されたのがこの竹刀袋なのだ。
当時剣道が原因で心が折れかけていた彼の怒りを買ったのは言うまでもない。
ちなみに、何度も捨てようとした。
「なんでこれ捨てなかったのかな俺」
過去の自分に対して不思議に思う陽。
それと同時に神の言葉も思い出す。
「あなた、やっぱり面白いわ」
「は? 面白いってなんだよ」
陽がそう答えるとふふふ、と神はまるで悪役のような不気味な声を出し始めた。
「そう、私があなたに惹かれてたっていうのも納得するわ」
全身白い何かに包まれている女の神がまるで陽のことを知っているような発言をする。
「まあ そんなことはいいわ それよりこれは返しておくわね もうあなたには意味のないものでしょうけど」
神は竹刀袋を地面に置くと再び陽の方をむく。しかし何かを躊躇っているのか、陽にはしばらく口元が震えているように見えた。
そして同時に初々しさもなぜか少々感じられた。
「じゃあね 陽 ・・・きだったわ」
最後の言葉をうまく聞き取ることができないまま、神はその場から、瞬間移動でもするかのごとく消えた。
とある私立高校、それもどこでもあるような普通の高校。
そこに相原陽は通っている。
そして現在その平凡な高校に登校中なのである。
「ふぁ ねみー」
昨日の七時から寝ていない訳であるから、それは眠いはずだ。
「だーれだ!]
そんな幸運を逃してしまいそうな陽のクマが出来ている目を何者かの手が隠す。
当然陽の視界は真っ暗になって何も見えなくなる。
「・・・・・・・」
陽はあえて黙っていた。
こんな行為をする人間は陽の知っている中では1人しかいなかった。
だからある意味安心したので、ほっとくことにしたのだ。
「・・・・あんたこのまま無視する気?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙り続ける陽。
「ほっとけよそんなやつ、それより早く学校行くぞ愛華」
陽に対して皮肉めいた口調で言ったのは、陽と越生愛華と同じクラスの五十嵐剣祐。
彼はいつも愛華と一緒に登校しているので、陽にとって今日も彼が愛華と一緒にいることはそれほど不思議なことではなかった。
そんな愛華と仲が良い彼が陽に対してこのような態度をとるのは入学式の一件が原因である。
その一件とは陽が愛華と校庭で話している最中にいきなり陽に竹刀で斬りかかり、それをかわされ、逆に腹に蹴りをいれられた、という一件である。
陽にとっては最早どうでもよいことなのだが、彼にとっては、自分の繰り出した攻撃を回避されたという悔しさが残っていた。
ちなみに、何故彼が陽に斬りかかったのかというと、彼の中で陽が愛華を口説いているように見えたからである。
しかし、実際は別のことを話していたので、陽にとって彼の怒りは思い切り理不尽なことだった。
「なんでよ 陽と一緒に行こうよ」
「駄目だ そいつといるとお前が変になる」
ピクッ
剣祐の今の発言に、陽の表情が少し変わる。
その表情は少なくとも友好的ではなかった。
「ふーん 変人に変人扱いされたよ」
明らかに不機嫌そうな陽の声、しかしそんな陽の声に恐れることなく剣祐は睨み付ける。
まさに一触即発な感じだ。
「そもそも俺と越生が一緒にいることが気に入らないなら、さっさと越生を自分の物にしろよ そうすれば俺も越生とあまり話さないようにしてやるよ」
「え? 話さないって・・・」
陽が真っ直ぐに剣祐を見据えて、少し挑発気味で言う。それと対照的に愛華はなぜか悲しそうな顔をしていた。
「てめえ からかうのもいい加減にしろよ!」
そういって剣祐は陽を殴ろうと右手を構える。
しかし、そんな彼の視界に入ってきたのは、陽の隣で悲しそうにしている愛華の姿だった。
「ちっ・・・・」
そんな彼女の顔を見て剣祐はその場から1人立ち去る。
立ち去った理由が愛華のせいだと理解した陽は止まっていた足を再び動かし、学校に向けて何事もなかったように歩き出す。
愛華はしばらく状況を理解できずにその場で動きを止めていたが、歩いていく陽を見てハッと我に返り後を追う。
「ちょっと、まってよ」
愛華は彼の隣までたどり着くと、自分の歩く速度と彼の歩く速度が同じになるよう調整する。
「ほんとあなたってよくわからない人よね」
「それ馬鹿にしてる?」
「別に馬鹿にしてる訳じゃないけど・・」
「ていうか、よくわからないってどういう意味だよ」
そんな何を考えているのか分からない男の隣を愛華は歩いていく。
彼の隣を歩く。
でも彼は私と少し距離をとる。
前から感じていたことだ。
今もそうだ。
愛華が自分と同じように歩いている陽に少し近づく。
しかし、陽は愛華が近づくごとに確実に距離をとる。
私が近づくとこうやって距離をとる。
おそらく、その行為は彼が無意識に行っていることだろうと私は予想する。
この想いはそんな彼にいつか届くのであろうか。
いや、届くことはないのであろう一生。
だからこの想いは胸にしまっておこう。
すぐそこまで迫っている死の時まで。
本日12月20日。
運命の日に刻々と近づいていた。
キーんコーンカンコーン。
一日の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴る。
担任のホームルームが終わるのと同時に少々にぎやかになり、生徒達がぞくぞくと教室から出て行く。
生徒達が次々と出て行く中、陽の視界にある女子生徒の姿が映った。
その女子生徒は紫色の髪をしていて、髪飾りや髪留めは一切していないロングの髪、そしてこの学校の女子生徒の中では美貌はトップクラス。
そう、越生愛華だ。
そんな越生が教室から出て行く姿を陽はまじまじと見る。
見た目だけはいいからなー。
そんな悪口を心の中で呟く陽。
彼がそんな悪口を言うのには理由がある。
それは以前、いや現在も彼が愛華にされていることが原因だ。
先生~ 相原君が18禁のいやらしいゲームをしてます~というあからさまなうそをついて邪魔をしてくる。
ていうか、PS○のソフトに18禁なんてないんだよ!!
休み時間携帯いじっていると、何してるの?女落とし?と公開処刑を実行してくる。
そして挙句の果てには、ギャルゲーのキャラの真似までしてくる・・
何がお兄ちゃん大好き!だ。
それははるるが言ってこそ意味があるんだ。
以上のことから自分に対してのいやがらせと受け取ってしまっている陽。
しかし、彼女は陽のことが気になっているから話かけているだけであって悪意は全くなかった。
「そういえば、あいつ剣道部のマネージャーだったんだよな」
登校時や休み時間に彼女から邪魔されている陽だが、放課後だけはこれのおかげで絡まれずに済んでいる。
「剣道、か・・」
剣道という言葉に少々懐かしいものを感じる陽。
それは昔、自分も剣道をしている時期があったからなのかと自己解決する。
「別に、どうでもいいけどな」
もうやめてしまったものに対してあれこれ考えるのはあまり良くないと思う陽。
しかし、彼自身剣道に思い入れがあるのは事実だ。
そもそも思い入れ以前に疑問なのは、彼が今気にしているのは、剣道のことなのか、それともそのマネージャーのことなのか、である。
剣道は、もうやらないって決めたんだ。
中学のときに陽が剣道部で体験した出来事。
そしてその剣道部をやめる大きな原因となったとある女性。
それを再び思い出すと、陽は剣道に関わる気が全くなくなっていた。
「行くか・・・」
生徒がいなくなり静まり返る教室。
そんな中、陽は自らの席を立ち、教室の後ろにある扉に向かう。
そしてその扉をくぐると、愛華の行った右方向とは逆の、左方向、に足を進めた。
時間は流れ、12月21日午前0時。
深夜の人の気配が全くしないとある道。
しかも光を発するものが一切存在しない。
いやあるのだが、壊れてしまっっているためか正常に作動していない。
そんな道でとある高校の制服を身に纏った女子高生が息を切らしながら走っていた。
「はあ・・・はあ・・・・」
女子高生が走る度に辺りに音が響く。
「はあ・・はあ・・・ くっ」
女子高生は近くにあった電柱に寄りかかり、右頬を自らの右手で抑える。
その抑えた右頬からは生々しい血が大量に出てきていて、さらにそれは右手首を蔦って地面にポツンポツンと一秒ごとに落ちていた。
抑える手を離し、右頬を電柱にくっつけて体重を電柱に預ける。
少々楽にはなったが、少量の血が電柱の下を目指して流れていく。
「・・・・・」
やっと息が整ってきて余裕が出来たのか、女子高生は自分が走ってきた方角を見つめる。
しかし、その瞬間。
彼女が走ってきた方角から黒い何かが飛んでくる。
「ぐっ・・ もうきたの・・」
女子高生の目の前で斜めに地面に突き刺さる黒い日本刀と思われるもの。
その全体的に黒い日本刀の刃の先の部分、すなわち地面に突き刺さっている部分には少量の血が付着していた。
その血はおそらくさきほどの女子高生の右頬から出ていた血と同じものであろう。
「くそ・・・」
女子高生はそういうと、自分が走ってきた方角とは逆の方角へ走っていく。
その1分後、女子高生が先ほどまでいた電柱の側には白いドレスのような物を着た女性らしき人間がいた。
何故女性と分かるかと言うと、顔を隠している般若の仮面から長い黒髪が何本か出てしまっているからだ。
その白いドレスを着て般若の仮面をしている女性は自分の目の前で地面に突き刺さっている刃の部分が黒い日
本刀の柄の部分を右手で掴み地面から抜き取る。
そしてその日本刀についている血を振り払う。
「後、10日・・・」
そういって仮面をした女性は暗闇へと姿を消した。
「優勝は、相原陽君です!!」
パチパチパチパチパチパチ。
表彰状をもらった彼は、まっすぐある人物のもとに行く。
「やったよ先生! ついに優勝だよ!」
明るい無邪気な顔で優勝の報告をする陽。
それに応えるように先生と呼ばれた人物もニッコリ笑う。
「さすが陽だね そんな陽に私からプレゼントがあります」
先生はどこにでもある竹刀袋を陽に渡す。
「ありがとう先生!あっ!」
しかし、陽がそれを受け取った瞬間、それを落としてしまった。
何故かというと、その竹刀袋の重さが普通の重さではなかったからだ。
明らかに中に何か重いものが入っている。
それも竹刀より重いものだ。
「ごめんね陽 これはちょっと重いから私が後で君の家に持ってくよ」
そういって先生は陽が地面に落とした竹刀袋を両手で拾い上げる。
「・・・・・・・・・」
その間、陽はじっと竹刀袋を見ていた。
しかし、突然強い光が出てきて、そして・・
「は!」
陽はベッドから起き上がる。
「夢、か・・・・」
夢の世界から開放される陽。
夢の中の竹刀袋から発せられた光があまりにも迫力があったせいか、目覚めは普段より良かった。
そしていつも通り学校に行く準備をし、マンションから出て、いつもの通学路に出る。
「それにしてもあの夢に出てきた竹刀袋、なんかあれに似ているような・・」
確かに、色も同じ黒だ。
しかし、夢の中で出てきた竹刀袋の中身を実際に見たわけではないので、判断はできない。
「おかしいな・・ あの竹刀袋は中学生の時、自称神からもらったもののはずだ・・ なのになんで小学生の
時の俺がそれをもらっている・・ ていうか、あの先生は何者だ・・」
あれこれ考える陽。
しかし、決定的な証拠がない限り、過去の竹刀袋と現在の竹刀袋の関係性を繋げるのは不可能だ。
「・・何言ってんだ俺は・・」
そもそも自分が見た夢が実際にあった出来事とは限らない。
陽はそう思い、竹刀袋のことを考えるのをやめる。
「はあ あれこれ考えてても仕方ない それよりゲームのつ・・」
最後の言葉を言おうとした陽の動きが完全に停止した。
まるで石像のように動きが停止している陽がまっすぐ見据えているのはどこにでもある普通の電柱。
しかし、その電柱のある部分は他と決定的に違っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
あまりの惨状に言葉も出ない陽。
何故なら彼の視界には大量に血が付いた電柱と、その周りに飛び散っている複数の血痕が映し出されていたからだ。
彼はこの時ふと思い出した。
ここ最近学校周辺で起っているとある事件のことを・・・・・・・・。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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