仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第十四話 「命を救う手段 前編」

桜井侑斗の朝は規則的か不規則的かといわれると不規則的だ。

そもそも住処がゼロライナーであるため、規則正しく起きる必要がないのだが。

だが、今はそういうわけにはいかない。

自分はあくまで居候。立場的には一番低い。

それにグータラな生活をすると悪い見本になってしまいかねない年頃の少女もいるのだ。

前途有望な少女に悪影響を与えるような趣味は彼にはないのだ。

「ふぁーあ。流石に一ヶ月も繰り返すと慣れちまうな」

侑斗は新聞受けに入っている今朝の新聞を手にする。

彼の貴重な仕事の一つだ。

歩きながら読んでもいいのだが、マナーとしてはよくないためリビングに入るまでは読まないようにする。

「侑斗さん。おはよーさんや」

リビングに入り、キッチンから声がしたので見ると八神はやてが朝食の準備をしていた。

「相変わらず早いな。八神」

侑斗はそう言いながら、テーブル席に着いて新聞を開いて記事を読み始める。

「侑斗さん。コーヒー飲む?それともホットミルク?」

はやてが侑斗に飲む物のリクエストを訊ねる。

「ホットミルク」

侑斗は即答した。

彼は一度も、はやてが淹れたコーヒーを飲んだことがない。

元々、コーヒーを飲む時に砂糖を甘党なのでは?と疑われるくらいに入れてから飲むのだ。

コーヒーの味なんてわかるわけがない。

流石にはやてが淹れてくれたコーヒーもそのように無下に扱うわけにはいかないので、飲むことを避けている。

「はい。侑斗さん」

「おう」

侑斗は新聞をテーブルに置いて、ホットミルクが入っているカップを手にする。

「今日も検診だったな」

「うん。でもシグナムは剣道場に行かなアカンし、ヴィータはおじいさんやおばあさん達とゲートボールの紅白戦みたいやし、シャマルはデネブちゃんに料理を教わるって言ってたし……。完全に空いてるのは侑斗さんとザフィーラだけやねん。だから侑斗さん、お願いや!」

はやては両手を合わせて侑斗に同伴を求める。

身内がそれぞれの私用を持って行動する事は良い事だと思っている。

同時にちょっと寂しくもあるが。

「病院の同伴だろ?だったら俺も何度かしてるだろ。何を今更……」

侑斗はホットミルクを一口飲み、彼なりの了承の返事をする。

「ありがとうな。侑斗さん」

はやては笑顔で言う。

「で、検診は何時だ?」

「ええと、今日は午前十一時からや」

「そうか」

侑斗はもう一度テーブルに置いた新聞を手にとって広げる。

その中で昨日の事件が大きく記載されていた。

『海鳴市連続殺人事件犯人逮捕』という記事が載っていた。

卓に置かれているテレビのリモコンを取って、テレビの電源を入れる。

一人の身なりボロボロの男がスーツ姿の男達---私服警官達に囲まれてカメラのフラッシュを浴びながらパトカーに乗せられている映像が映った。

ニュースキャスターが説明する。

侑斗はその説明を真剣な表情で聞いていた。

「侑斗さん?」

はやては突如、表情を変えた侑斗に戸惑う。

「……いや、何でもない」

侑斗はまたいつもの無愛想な表情に戻る。

(この事件、イマジンが絡んだかどうかなんて結局わからずじまいだな……)

イマジンが絡んでいたとしてもそれをテレビが報道するわけがないし、『イマジンがいた』と証明できるものは目撃者の証言しかないのだ。

証言が真実ならば採用されるが、信憑性のない真実ならばまず聞き流されるだろう。

今回の証言は、後者として受け止められる可能性は極めて高い。

『民衆が知る真実』はテレビに映っている映像とニュースキャスターが言っている事で丸く収まるだろう。

だが侑斗が望んでいるのはそんな都合のいい真実ではなく、『本当の真実』だ。

(イマジンが絡んでいればあいつに聞けば済むか……)

あいつ---野上良太郎のことだ。

イマジンが絡んでいない場合。つまり只の殺人事件の場合は彼が真相に辿りつくどころか事件に関与する必要性がないので、永久に真実を知る事はできないわけだが。

「あの殺人事件、解決したんや……。怖い事件やったもんな」

はやては事件が解決した事を知り、安堵の息を漏らす。

「おはようございます」

二階で眠っていたシグナムが降りてきた。

ザフィーラ(獣)も一緒である。

「シグナム、ザフィーラ。おはよーさん」

「おう」

はやてと侑斗がそれぞれ挨拶を交わす。

一人と一匹は満足したかのように首を縦に小さく振った。

「シャマルとヴィータは?」

はやてがまだ起床していない二人のことを訊ねる。

「昨日は遅かったのでしょう。まだ眠っています」

シグナムは、はやてに疑われないように当たり障りなく答えた。

ドアが開き、パタパタと音を立ててリビングにやってきたのはデネブだった。

「みんな、おはよう!あら、シャマルとヴィータは?」

デネブは買い物袋を持って、リビングにはいない二名を捜す。

「デネブ、その買い物袋は何だ?」

「今日はシャマルに料理を教えるから、食材を買ってきたんだ」

「まだ、午前八時だぞ。開いてる店なんかあったのか?」

侑斗は食材の買い物に積極的に行くわけではないので、店の開店時間等に関しては疎い方だ。

「ここから三キロ程離れているところに行ったら、あった!」

デネブは何故か胸を張って言う。

「何で胸張って言うんだよ……」

侑斗は今更ではあるが、デネブのこのズレた部分に呆れてしまう。

シャマルとヴィータがリビングに来たのはそれから三十分後のことだった。

 

 

野上良太郎は翠屋でアルバイトをしていたが、どこか元気はなかった。

接客をする際には無理して笑みを浮かべていた。

それは高町夫妻はもちろん、彼と共に戦ってきたイマジン四体にコハナにもすぐにわかることだった。

「良太郎君、今日は元気がないな。モモタロス君達は何か心当たりはあるかい?」

「さあな……」

モモタロスが代表して高町士郎の質問に返答した。

今朝のニュースで流れた『海鳴市連続殺人事件』の結末は良太郎はもちろんのこと、イマジン四体にコハナ---『時の運行を守る者』にとっては大きな痛手となる出来事だった。

『イマジンを倒せば丸く収まる』という考えを完全に覆されたのだから。

「何があったかは知らないが、彼はつまずいたからといって誰かが手を貸すまで這いつくばっているわけではないのだろう?」

士郎はカウンター席に座っているモモタロスに確認するように訊ねる。

「当たり前ぇだろ。よくわかってるじゃねぇか。とっつあん」

モモタロスは良太郎の事がわかっている人物がまた増えた事が嬉しかった。

 

 

八神家では寝室に侑斗とシャマルがいた。

シャマルはベッドに腰掛けて、侑斗はその向かいに立っていた。

身なりは外出するために厚着をしていた。

「じゃあ、侑斗君。はやてちゃんのことお願いしますね」

「ああ。それは?」

シャマルの横に置いてある小さな箱を目にする。

箱の大きさは高級な腕時計や指輪を映えるために用いられるような箱くらいだ。

「これ?これはね」

シャマルは箱を開ける。

そこには弾丸らしきものがギッシリ詰まっていた。

四×四の計十六個だ。

「弾丸?シャマルが使うのか?」

侑斗はシャマルが用いるのだろうと思ってそのように訊ねるが、シャマルは首を横に振る。

「ううん、違うわ。シグナムやヴィータちゃんが使うのよ。それにこれは弾丸じゃなくてカートリッジって言うのよ」

シャマルはそう言いながらカートリッジのひとつを取り出して侑斗に見せてから渡す。

「カートリッジ?」

「これ自体は今は何の意味もないのよ。このカートリッジに魔力を注入する事で、このカートリッジを使用する者は様々な用途で使うわ。魔力の底上げに使ったり、デバイスの変形や魔法発動の補助に使ったりと、色々ね」

「ふーん」

侑斗はシャマルの説明を理解しながらカートリッジをシャマルに返す。

「侑斗さーん。そろそろ行くでー」

一階からはやての声がした。

「おう。わかった」

侑斗は短く返事した。

「侑斗君」

寝室を出ようとした侑斗をシャマルが呼び止める。

「ん?」

「その、気をつけてくださいね。はやてちゃんを守るためとはいえ、その……」

「カードを使うなって言いたいんだろ?心配するな。俺だってなるべくは使いたくはないからな。野上が何とかできるんだったら、あいつに任せるさ」

侑斗とて進んでカード---ゼロノスカードを使っているわけではない。

イマジンが自分の近辺に出現して良太郎がその近辺にいない場合や、自分でどうにかしなければならない状況下に陥った時にしか使わないようにしている。

ゼロノスカードによって消費される代価とは『桜井侑斗に関する記憶』なのだから。

桜井が存在していた時は、片面緑色と片面黄色のカラーリングが施されているゼロノスカードは『桜井に関する記憶の消去』で、片面緑色と片面赤色のカラーリングが施されているゼロノスカードには『侑斗に関する記憶の消去』という効力がある。

桜井が消失した現在はどちらのゼロノスカードを用いても、『侑斗に関する記憶』が消去されるようになっている。

効力はほぼ絶対といってもいいほどで、『時の列車』を使って時間遡行をして知らない限りは、ゼロノスカードで消去された部分を知る術はないだろう。

つまり、常人はどう頑張っても消去された部分を取り戻す事は出来ないという事だ。

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。お気をつけて」

侑斗は寝室のドアを閉めて、一階へと降りていった。

 

海鳴大学病院。

待ち受けやフロント等も人はさほど多くなかった。

病院の場合、人が多いと金になるがそれは決して喜ばしい事ではなかったりする。

通院者が多いという事はそれだけ病に苦しんでいる人間が多いという事だからだ。

『医は仁術なり』で心がけている医者ならばこの状況を喜ぶはずもなく、『医療は金儲け』と割り切っている医者ならば患者が多ければ多いほど自分の懐にお札が入ってくるので、よだれが止まらなくなるだろう。

現在、はやてを診察してカルテを睨むようにして見ている石田医師は前者だろう。

「うーん。やっぱりあんまり成果が出てないかな……」

石田医師は苦虫を潰したような表情をしながらカルテをピラピラと揺らしていた。

「でも副作用は出ていないようだし、もう少しこの治療を続けていきましょうか」

はやてと侑斗に笑顔を向ける。

「はい。えと……お任せします」

はやての一言に石田医師は目を丸くする。

「おまかせって……」

「お前なぁ……」

はやてのどこか投げやりに近い一言は石田医師と侑斗を呆れさせるには十分だった。

「自分のことなんだからもうちょっと真剣に取り組もうよ」

何とか笑みを作っている石田医師。

「えと……。わたし、先生を信じてますから」

はやては笑顔でそのように言う。

隣にいる侑斗としてはそれでも投げやりのように感じて仕方がなかった。

「桜井さん」

「はい」

石田医師がはやての隣にいる侑斗に視線を向けて声をかけてきた。

「少し、時間をいただけます?」

「わかりました。八神、少し外で待ってろ」

石田医師が自分に話を持ちかけてくる事は何度かある。

恐らく内容は似たようなものだろう。

「うん」

はやては診察室を後にした。

少女の姿が診察室からなくなると、侑斗は回転椅子に腰掛ける。

「はやてちゃん。日常生活はどうです?」

「足の麻痺を除けば至って健康です」

侑斗は、はやての日常生活を思い出しながら答えた。

「そうなんですよね。お辛いとは思いますが私達も全力を尽くしております」

「はあ……」

「今はなるべく、麻痺の進行を緩和させる方向ですすめています」

石田医師は今後の治療策を侑斗に告げる。

「これからだんだん、入院を含めた辛い治療になるかもしれません」

「そうですか……」

石田医師は、はやての今後で一番ありえる可能性を侑斗に話して侑斗はそれを受け止めた。

(この人の言い方からして、手術や投薬でどうにかなるような病気じゃないんだろうな……。あいつ等が夜な夜な行動しているのと関係があるのか……)

侑斗はヴォルケンリッターの行動に、はやての病状と何がしかの関係があるのかと思い始めた。

診察室を出て、侑斗とはやてと石田医師で入口までいた。

「それでは次の検診は一週間後に」

「「ありがとうございました」」

侑斗とはやては石田医師に頭を下げる。

「あら……」

石田医師は一組の夫婦を視界に入れた。

侑斗とはやても釣られるようにして見る。

「先生。どないしたんですか?」

はやてが石田医師に訊ねる。

「あの夫婦。また来てるわね」

石田医師は深刻な表情となる。

「あの夫婦?」

侑斗が訊ね返す。

「ええ。お子さんが重い病気なのよ」

侑斗はもう一度、その夫婦を見る。

身なりからして特別裕福というわけでもないが、ドがつくほどの貧乏というわけでもない。

いわゆる中流家庭といったところだろう。

あの夫婦の切羽詰ったような表情を侑斗は思い出す。

「保険外の治療が必要なんですか?」

侑斗が石田医師に思いついたことを告げてみる。

「ええ。恐らく数千万はかかるでしょうね」

「あの様子からして治療代のメドは立ってないんでしょうね……」

石田医師は侑斗の言葉に首を縦に振った。

 

八神家へと向かう帰路の中、侑斗は先程の夫婦の事が気になっていた。

「侑斗さん。お昼何にする?」

(あの夫婦。イマジンと契約を結ぶには最適な条件が整っているな……)

はやてが昼食の献立を訊ねるが、車椅子を押している侑斗の耳には入っていない。

「侑斗さん」

(俺の考えすぎってこともあるけどな……)

はやてが名を呼ぶが、やっぱり耳には入っていない。

「侑斗さん!」

「おわっ!?何だよ八神、大声出すなよ」

はやても堪忍袋の緒が切れたのか、今まで以上の大声で侑斗の名を呼んだ。

今まで考え込んでいた侑斗はその声に驚いて、はやてを見る。

「侑斗さんが無視するから悪いんや」

はやてが頬を膨らまして、いかにも『わたしは怒ってるで』という事をアピールしている。

「それは悪かったな」

侑斗は素直に謝罪した。

「で、何考え事してたん?」

「あの夫婦の事だ」

「何か気になることでもあったん?」

会話は進む。車椅子の車輪が規則正しく回っているのと同じ様に。

「俺の思い過ごし、かもしれないから気にするな」

侑斗ははやてに余計な心配をかけさせないように話題を打ち切ることにした。

「で、侑斗さん。話は戻すけどお昼何がええ?」

「そうだな……」

侑斗はこれといって食べたいものが浮かんでこない。

椎茸さえ入ってなければ何でも食べるからだ。

「あそこにするか」

侑斗は車椅子を押すことを止めて、ある場所を指差す。

それはファーストフード店だった。

「あそこで食べて帰ろうぜ。八神何が食べたい?」

「え?ええの?」

はやては何故か遠慮気味だ。

恐らく人にご馳走する事には慣れていても、ご馳走になることには慣れていないのだろう。

「遠慮するなよ」

侑斗は車椅子を押すことを再開した。

「うん。ならお言葉に甘えるわ。ありがとうな侑斗さん」

「だから遠慮するなって言ってるだろ」

侑斗はそう言いながら、はやての頭を撫でてからファーストフード店へと足を向けた。

 

 

海鳴市のとあるアパート。

「ようやく、これだけ集められたな」

「ええ。でも、全然足りないわ」

海鳴大学病院で切羽詰った表情をしていた夫婦---梅垣夫妻は床に広げた通帳と募金で募ったお金を数え終えていた。

現在、犯罪に抵触しない手段で集めた金額は合計五百万円だった。

この手段の中にはギャンブルは含まれていない。

梅垣はもちろん梅垣夫人も博打の才能である『博才』に恵まれているわけではないので、手は出していない。

手を出して失敗したら元も子もないからだ。

この夫婦が子供のために必要な費用は三千万円である。

保険が適用されていない治療であるため、費用は莫大なものになる。

借りれる所から借り尽くしている。金策をするにしても、もうどうしようもないのだ。

「あと二千五百万どうしたらいいか……」

「いっそ生命保険で!」

梅垣夫人が自身にかけられた生命保険で補おうと考える。

「それはダメだ!それではあの子に一生重い十字架を背負わせる事になる」

母親の命を代価にした金で自分の命が助かったという事実はいずれ知る事になる。

そうなった時、その子供は感謝どころか自責の念で苦しむ事になるのは確実だろう。

梅垣は顔を伏せて拳を揺らしており、梅垣夫人は自身の無力に涙を流してむせび泣いていた。

二人が八方塞な状況に陥った時だ。

二つの光球が二人の身体の中に入った。

梅垣夫妻の身体から砂が噴出し上半身と下半身が逆転した怪人が二体、現れた。

「あ、あなた……」

「な、何だ!?これは……」

梅垣夫妻は抱き合って目の前にいる怪人に恐れをなす。

怪人二体は梅垣夫妻に告げる。

 

「「お前達の望みを言え。どんな望みも叶えてやろう。お前達が支払わなければならないものはたったひとつ……」」

 

側から見ればそれは『悪魔の誘惑』そのものと言っていいほどだが、切羽詰った段階の梅垣夫妻には『救いの神』に見えた。

 




次回予告


第十五話 「命を救う手段 後編」
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