仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第二十話 「海鳴 冬の陣 下編」

シグナムの中では最初、野上良太郎の評価は決して高くなかった。

桜井侑斗の呈示してくれた電王の情報も、実物を目にするまでは半信半疑だった。

そのくらいの存在であり、驚異にもならないし、敵ではないと思っていた。

侑斗は身内びいきしているのだろうと考えた事くらいだ。

だが、それは誤りだった。

彼---良太郎と対面した時、侑斗の言っている事が身内びいきでも脚色でもないとハッキリと確信した。

今まで自分が対面してきた男性とは明らかに違う。

一見すると、脆弱そうに見えるがその実質は強靭。気が弱そうな表情をしてはいるが、双眸の瞳には揺るぎのない強さが宿っていた。

そして、何より彼一人の存在で先程まで戦っていた魔導師の雰囲気が変わったのだ。

自分の剣戟で、一時的に抱かせた『不安』や『恐れ』というものが、一瞬で『安心』と『希望』に変わったのだ。

ただ、そこにいるだけで人が纏う雰囲気を変えてしまえる人間はそうはいないだろう。

そういう者を自分は躊躇いなくこう格付けするだろう。

『強者』と。

 

自分で自分を抑えられそうにないと発言されてからは良太郎の身体に纏っていた『違和感』という鎖が引きちぎられた。

(これから始まるのは『乱取り』じゃない。レヴァンティンが竹刀に換わっただけの『実戦』だ!)

鍔迫り合い状態から解放するために、後方へと退がる。

シグナムが放つ殺気を堂々と受け止めながら、前へと前進する。

構えも正眼からDソードを扱う際に慣れている無形に変えている。

竹刀を両手ではなく、右手だけで持っているのだ。

足さばきも剣道のそれではなく、実戦で用いていた足さばきになっている。

「はああっ!!」

良太郎はシグナムとの間合いを詰めると、片手持ちから両手持ちへと変えて、胴を狙う。

バシンとシグナムが竹刀で防ぐ。

「ようやく本気になってくれたな……」

笑みを浮かべていた。

だが良太郎は笑みを浮かべる余裕なんてない。

シグナムが本気で来るという事は、初めて戦った時のあのヒリつくような緊張が来るのだから。

実戦を何度も体験している良太郎だが、正直慣れない。

「ぐぐっ……」

「ふん!」

シグナムの竹刀が絡み合っている良太郎の竹刀を弾く。

竹刀は良太郎の手元には離れないが、身体が後方へとグラついた。

「もらったぁ!」

シグナムが両手で上段に構えて、一気に間合いを詰めてきた。

竹刀が面に届く。

(これは乱取りで、剣道の試合じゃない。そして、今僕とシグナムさんがしているのは試合でもない!)

フリーとなっている左手でフックを放って、竹刀の軌道を変えた。

「何!?」

こんな体勢で、攻撃をしたことにシグナムは驚いていた。

だが、良太郎も無事ではない。バランスをとれずに仰向けになって崩れ落ちた。

シグナムも倒れかけるが、何とかバランスを保っていた。

「邪魔だな……」

彼女はそう言うと、背を向けた。

 

良太郎とシグナムの乱取り時間は先程で一分を終了していた。

だが、それで収まるような雰囲気はなかった。

むしろこれからヒートアップするくらいだ。

(完全に剣道ではなくなっとるのぉ。まぁシグナム君が認める相手なのじゃから、ワシとて興味がないといえば嘘になるしのぉ)

館長はこのまま二人の戦いを中断させる気はないようだ。

「館長。あの二人、今乱取りだって事忘れてるのでは……」

男性講師が館長に二人のことを報告する。

「忘れとるのぉ」

「止めたほうがいいのでは?」

「今のあの二人を止められるかえ?」

男性講師は館長に「止めれるなら止めていい」というニュアンスが混じった台詞を聞く。

良太郎とシグナムを見る。

「……無理ですね。とても止めれそうにない」

「じゃろ?あの二人は放っておいて、残りの面々で乱取りをしおってくれ」

「はい」

館長の指示に良太郎とシグナムを除く全員が従った。

 

良太郎が起き上がって、背を向けたシグナムを目で追うと彼女は防具を外していた。

そこには剣道着姿のシグナムがいた。

正面を向き、こちらを見る。

「野上、防具を外せ。その方がいいだろう?」

シグナムは良太郎にも防具を脱ぐように促す。

「……わかりました」

良太郎も従うようにして防具を外していく。

剣道着姿の良太郎が竹刀を持って、シグナムのいる場まで歩み寄る。

「……行きます」

そう言うと同時に、良太郎は間合いを詰める。

剣の構えは上段ですぐさま振り下ろす。

シグナムは体勢を左横にするだけで避けてしまう。

それと同時に良太郎の背後に回る。

「!!」

良太郎はそのまま、シグナムとは向き合わずに前進する。

「読んでいたか……」

シグナムは次に放つ手を潰されたのに、表情に乱れはなかった。

向きを直して、対峙する。

「あの場で突進してたら確実にやられてたと思います」

良太郎は率直な意見を述べる。

「そうだな。お前の読みは正しい」

シグナムは自然と笑みを浮かべて竹刀を正眼に構える。

これが彼女の基本姿勢なのだろう。

「防具を外した以上、互いの一撃が相当のダメージとなる。一手を放つことで自分の勝利にも敗北にもなるのだからな」

シグナムは饒舌に語る。

「そうですね」

良太郎は彼女の言葉に素直に頷く。

自分の放った攻撃で命運が決まるのは実戦でしか味わえないものだ。

「行くぞ!」

そう言うと同時に、シグナムが間合いを詰めてきた。

先程のようにな上段ではなく無形なので、どのように繰り出すかわからない。

(読めない!剣の勝負ならシグナムさんのほうが圧倒的に有利なんだ。なら!)

何かが吹っ切れたのかそれとも、何かを思いついたのか竹刀を、

「なっ!?」

いいっ!?

シグナムと乱取りをしてた面々が良太郎の行動に驚いた。

竹刀を放り捨てたのだから。

 

 

試合が終了した後、翠屋JFCとその応援者達は翠屋で昼食を取っていた。

メニューはボロネーゼ(ミートソース)スパゲッティだった。

選手達は空腹をも満たすために、がつがつと食べていた。

「今回は僕もタダで食べれるんだぁ!」

リュウタロスも選手達に混じって食べていた。

前回は参加したにも関わらず、食事代は負担する羽目になっていたのだ。

「小僧!いくらタダでも食いすぎて腹壊すんじゃねぇぞ!?」

自分の金でプリンを食べているモモタロスがすでに三杯目に突入しているリュウタロスに注意する。

「わかってるよぉ!うるさいなぁ。モモタロスぅ」

リュウタロスは真剣に受け止めているのかどうかわからない返答をする。

「今日の夜も豪勢にするって言ってたからね」

ウラタロスがコーヒーの香りを楽しんで嗅いでいる。

「今日、何かの記念日やったか?」

ウラタロスの隣に座っているキンタロスは夕食を豪勢にするのは記念日なのだと思い、向かいでコーヒーを飲んでいるコハナに訊ねる。

「さぁ、結婚記念日だったらもっと盛り上がってるわよ」

「「たしかに」」

コハナの言葉はウラタロスとキンタロスが同時に首を縦に振るほど、説得力のあるものだった。

高町家で生活するようになって、わかったことが彼女達にはある。

なのはを除く、高町家の仲睦まじさは少々度を越していることだ。

仮面家族になるよりはいいが、正直毎日になるとげんなりしてくる。

「小僧のレギュラーの祝いじゃねぇのか?」

今までプリンの味を堪能していたモモタロスが言う。

「それが一番有力だけど、昨日にするんじゃない?そういうのって」

「言われてみればそうやな。試合が終わってリュウタのレギュラーの祝いって変やな」

「あ!」

ウラタロスとキンタロスがまた真剣に悩み始める中で、モモタロスが何かが閃いたような声を出した。

「どうしたの?モモ」

コハナは隣にいるモモタロスが何を言い出すのか待っている。

「理由なんて何でもいいんじゃねぇのか?俺達だって、似たような理由でバカ騒ぎするじゃねぇか?」

「確かに、特に理由もなくデンライナーで盛り上がるわよね」

コハナもそれに交じっているので、偉そうな事はいえない。

「桃子さんがするかなぁ。そんな事」

ウラタロスの中では高町桃子はのほほんとしているが、知的な人だと思っていたりする。

「カメの字。奥さんだって人間やで?突拍子のないことだってするがな」

キンタロスは強引だが納得する事にした。

「でも、本当にどうして豪勢にするのかしら?親睦会?うーん」

コハナは納得していないらしく一人で唸っていた。

 

リュウタロスを除くイマジン三体とコハナが考え込んでいる頃、翠屋の別のテーブルでは高町なのはを筆頭に仲良し四人組が談話していた。

本日のサッカーの試合の事でネタが尽きると、話題はフェイト関連に向かってきた。

フェイトが住んでいた国の事。

フェイトの趣味は何なのかという事。

どのような経緯で、なのはと出会い友達になったのかという事。

そして、アリサ・バニングスと月村すずかが一番に気になっているのが野上良太郎との関係だろう。

兄弟ではないという。では何なのだろう。

ビデオメールの中でも唯一出てこなかった存在で、フェイト・テスタロッサが多分だが一番信頼している人間だ。

気にならないはずがない。

「フェイトと良太郎さんって、どうやって知り合ったの?」

アリサは色々と聞きたいことがあるのだが、とりあえず一番平和的だと思われる質問をする。

「そうだね。凄く気になるね」

「うん!実を言うと、わたしも知らないんだよね」

すずかとなのはも乗り気だ。

これからその事に回答しなければならないフェイトはというと。

滅茶苦茶困っていた。

(どどどどどどうしよう。良太郎と初めて出会った時の事なんて言える訳ないよ……)

初めての出会い---それは半年前に遡る事になる。

当初から仲がよかったわけではなく敵対関係というより、狩る側と狩られる側の関係だった。

事実、自分はジュエルシードを持っていた良太郎を気絶させて奪おうとしていたのだから敵対関係という対等なものではない。

その後、返り討ちに遭って良太郎の温情で目的の品を入手する事ができたわけだが。

今、思い返しても自分にとっては『恥ずべき過去』の部類に入ることは確かだろう。

(穴があったら入りたいよぉ。うううう)

今回は、なのはもフォローはしてくれないだろう。

何せ知らないのだから。

「えーっとね。わたしが捜している物を良太郎が偶然持ってて、それを譲ってもらえたのが最初の出会いかな……」

フェイトは現在持てる頭脳をフルに活かして、最もベストだと思われる回答をした。

(フェイトちゃん。捜し物って……)

なのはは念話の回線を開いて、自分の推測が正しいことを確認するかのように訊ねた。

(なのはの考えている通りだよ)

(やっぱり……)

捜し物が『ジュエルシード』だとわかると、なのはは念話の回線を閉じた。

「じゃあ、それからの縁で良太郎さんと?」

すずかの言葉にフェイトは首を縦に振る。

「何か羨ましいなぁ。運命の出会いって感じがするし……」

アリサも羨望の眼差しでフェイトを見ている。

「そ、そうかな……」

そのような眼差しで見られたことがないので、照れが入ってしまうフェイト。

実際の出会いはそんな、羨ましがれるものではなかったりする。何せバチバチと戦っていたし。

上手く誤魔化す事はできたが、友人に真実を語れないことに後ろめたさを感じるフェイトだった。

 

 

道場内にいる誰もが良太郎の行動に驚愕の表情を浮かべずにはいられなかった。

竹刀を放り投げて、シグナムへの間合いを詰めたのだ。

両手を拳にして、右ストレートを放つ。

「速い!」

乱取りをしていた講師の一人が手を止めて言った。

この講師だけではない。道場内にいる全員が良太郎とシグナムの『実戦』に釘付けとなっていたのだ。

「あの兄ちゃん。ボクサーかよ?あのストレート、素人じゃねぇぞ!」

ボクシングをかじったことがある無料体験者の一人が目を大きく開いていた。

シグナムは肉眼で捉えているのか、上体を傾けて避ける。

シグナムは竹刀を『打つ』から『突く』へと構えを変更してから放つ。

良太郎も避けようとするが右頬に掠る。

掠った箇所が切れて血がたらりと出る。

出方をうかがうようにして良太郎はじりじりとシグナムを見据えたまま左に左に動く。

シグナムも良太郎を見据えたまま同じ様に動いている。

両者の足が停まる。

その次に両者が何かを仕掛けるということはその場にいる誰もが何故か理解できた。

 

「「!!」」

良太郎が間合いを詰めて、左拳をシグナムの腹部に狙いをつけて放つ。

「うぐっ!?」

シグナムがくの字に身体を曲げてしまう。

確実に動きを止めた。

そのまま、右肘をシグナムの右脇の下に入れ、肩越しに投げる。

背負い投げだ。

シグナムの身体が宙に浮く。

「え!?」

良太郎は投げた瞬間に、違和感を感じた。

シグナムの背中を床に叩きつけるつもりで投げたのだ。

だが、シグナムは正面に立っている。

竹刀を前に突きつけて警戒の姿勢を崩していない。

「はあはあはあ……はあはあ……」

良太郎は緊張による疲れで息を乱し始める。

(おかしい……。投げたはずなのに、ダメージに繋がる感じがしなかった……)

投げたのは確かだ。でも、それでシグナムが正面に立っているはずがない。

(自分から飛んだ?)

今の状態を作り出す方法としては一番現実的な方法だ。

(確実に投げでダメージを与えるために、ボディブローで身体を停めたのになぁ)

そんな状態でも危機回避として、これだけの芸当をやってのけたのだ。

正直、こんな人物と本当に一度戦ったのかと疑いたくなる。

「はあはあ……、動きを停めた上で背負い投げに繋げてきたか……。よい発想だ。私以外なら確実にそれで終わっていただろうな」

シグナムも息を乱している。

(竹刀で戦っても、僕には分がないと思ったから素手で仕掛けてみたけど決定打にはならなかった……)

剣の技術では勝負にはならない、だからといって素手で戦っても先程以上に警戒されるのは確実だ。

(何とか竹刀をシグナムさんの手から離さないことには……)

竹刀を手にして、小手を狙って離すという方法もあるがシグナムがそれを見逃すはずがない。

良太郎は自分の両手を見る。

(もうひとつだけあった。シグナムさんの手から竹刀を離す方法!)

顔を上げて、自分が投げ捨てた竹刀を手に取る。

(チャンスは一回……。二度目はない!)

正眼に竹刀を構えてから、そのまま駆け出した。

 

(危なかった。竹刀を離して、打撃に転じて投げ技を仕掛けてくるとはな……)

過去の戦いから現在に至るまで、投げ技を食らったのは初めてだ。

咄嗟に反応していなければ、確実にさっきの投げで終わっていただろう。

自分が守護騎士---戦うための存在だということがこの時ほどありがたいと感じたことはない。

良太郎が投げ捨てた竹刀をもう一度、手にして正眼に構えていた。

(竹刀を手にしたか。また何か仕掛けてくるつもりか)

良太郎の瞳を見ると、まだ闘志は消えていない。

その瞳を見た瞬間、全身に今までとは違うものを彼女は感じた。

(確かにここまで、私を相手に粘る人間はいなかったな……)

シグナムは良太郎と人間は既に自分を打ち負かした時点で認めていた。

(何故だ。私は何故野上をこうまで強く意識しているのだ……)

彼女はまだ自分の心にざわめいているものが何なのかわからない。

雑念を払うようにして首を左右にぶんぶんと振って、正面の敵に対峙する。

良太郎はこちらに向かってきたので、迎撃態勢をとることにした。

 

竹刀と竹刀がぶつかり合う。

シグナムが上段に振り下ろせば、良太郎は受けに入ると同時に強引に押しのけて攻守の立場を逆転させる。

良太郎は押しのけたまま、すぐに袈裟斬りに狙いをつけて振り下ろす。

シグナムは竹刀で受けに入ることが間に合わないと判断したのか、後方へと飛びのく。

そして、構えを正眼から八双に移行する。

「これで終わりにしよう。野上」

シグナムが静かに勝利宣言をする。

「………」

良太郎は何も発しなかった。

発するだけの余裕もないからだ。

両者が同時に駆け出して、竹刀を振り下ろす。

バシンという音が道場内に響く。

状態は×の字になって竹刀がぶつかりあっていた。

その状態のまま、二人とも動かない。

良太郎は竹刀を握っていた両手のうち左手を柄から離して、シグナムの竹刀を握った。

「何!?」

シグナムは良太郎の行動に驚愕の表情を浮かべていた。

竹刀を握っていた右手を離して、さらにシグナムの竹刀を握った。

「貴女から竹刀を離すにはこれしか浮かばなかったものですから!」

良太郎の竹刀を握る力が先程よりも強くなっている。

「まさか私から竹刀を離すために、もう一度持ち直してこの体勢に持ち込むように仕向けたのか!?」

シグナムの問いに良太郎は首を縦に振る。

良太郎はこのまま力任せに竹刀を奪えば、正気を見出せると確信した。

 

「発想はよかったが、自分の竹刀を側に捨てたのは失策だったな」

 

シグナムの一言が、良太郎の思考を停止させた。

良太郎が我に返ると、握っていたシグナムの竹刀が異様に軽かった。

まるでシグナムが握っていない感じだった。

良太郎の目の前にはシグナムの姿はなかった。

自分が握っている竹刀の柄を見ると、シグナムが握っていなかった。

ではシグナムはどこで何をしているのか。

「もらった!」

シグナムの声がする方向に、良太郎は顔を向ける。

「面!」

その叫びと同時に、良太郎の頭にシグナムが竹刀を振り下ろしていた。

バシィィィィンと道場内に音が響いた。

良太郎は後ろに身体が勝手に傾いていく中で、シグナムの右手に握られている竹刀を見た。

(もしかして、僕が使っていた竹刀を……)

そこまで推測すると、良太郎の意識は完全に途切れて仰向けになって倒れた。

 

「う……うん……。僕、どこかで寝てたのかな……」

良太郎はゆっくりと閉じていた瞼を開いていた。

最初に映ったのは見たことがない天井だった。

ゆっくりと起き上がって周囲を見回す。

布団がかぶさっており、先程の道場とは違うようだ。

「気がついたようだな」

シグナムが茶と羊羹二人分を乗せた盆を持って、入ってきた。

「えーと……、僕はどうなったんですか?」

良太郎は歩み寄ってくるシグナムに訊ねる。

「私の最後の一撃を食らって気を失ったんだ。あのままにしておくわけにもいかなかったので、ここに運んできたというわけだ」

「他の人達は?」

「無料体験者達なら皆帰ったぞ。私達の闘いを見て、いたく感動していたようだな」

「はあ……」

良太郎としては特に感動を呼ぶようなことをした憶えはない。

「もしかして、僕が目覚めるまでずっといてくれたんですか?」

シグナムは先程と同じ剣道着姿だ。

「ずっとではないがな。それに、これは付き合わせた侘びだ」

そう言いながら、シグナムは茶と羊羹を良太郎に差し出す。

「ありがとうございます」

良太郎は遠慮なくいただく事にした。

シグナムも自分の分をいただくことにした。

羊羹を食べて、茶をすする。

その間、その場はとても静かだった。

湯飲みを置くタイミングはほぼ同じだった。

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまで」

互いに食した後の礼儀の言葉を口にする。

「今、何時なんですか?」

「三時だ。お前はあれから二時間近く眠っていたのだ」

シグナムは、壁時計を見て教えてくれた。

「そうですか……」

良太郎は理解すると一息吐く。

「……僕は負けたんですね」

「ああ。だが、私も圧勝というわけではなかったがな」

シグナムはそう言って、笑みを浮かべる。

良太郎も釣られて笑みを浮かべた。

この時だけは敵対関係を超えた友情めいたものが二人の場を覆っていた。

 

 

海鳴の空は夕焼けから星が輝く夜となる。

ハラオウン家の本日の夕飯はアルフの希望で焼肉となっていた。

良太郎とアルフ(人型)は遠慮なくガツガツと食べている。

「君達。ちゃんと噛んで食べろ」

クロノ・ハラオウンが肉を焼きながら、肉食獣のように食べる二人に注意する。

「クロノ君も早く食べないとなくなっちゃうよ。良太郎君もアルフも凄い勢いだし……」

エイミィ・リミエッタが隣でクロノが焼いていた肉をひっくり返すと同時に食べた。

「エイミィ!それは僕の焼いた肉だぞ!」

「ふっふーん。焼肉において大事なのは生き馬の目を抜く心構えだよ」

エイミィが勝ち誇ったような顔をしている。

「エイミィ。どうしたの?何か別人みたいだよ」

フェイトが焼きたてのタマネギを皿に入れながら、いつもと違う雰囲気を纏った同居人に困惑の表情を浮かべる。

「困ったわねぇ」

今までいなかったリンディ・ハラオウンが頬に手を当てて明らかに『困っている』というポーズを取りながら、リビングに入ってきた。

「どうしたんですか?リンディさん」

「お風呂の調子がよくないのよ。エイミィ、明日でいいから見てくれないかしら?」

この部屋内のあらゆる設備を把握しているのはエイミィだ。

「わかりましたぁ」

エイミィは了承しながら、もやしを食べていた。

「あの、リンディさん。今日はどうするんですか?」

「桃子さんから聞いたのだけれど、近くに銭湯があるから今日はそこで済ませようと思うの♪」

フェイトの疑問にリンディは即答した。

「良太郎、セントウって何?」

「ええとね。お風呂場の拡大版、かな……」

良太郎は自分なりに解釈している事をフェイトに伝えた。

 

海鳴市の夜は始まったばかりである。




次回予告

第二十一話 「海鳴 冬の陣 完結編」
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