時間を昼に遡ってみる。
海鳴市にあるが、高町家やハラオウン家とは違う地区にあると思われる八神家。
桜井侑斗、八神はやて、デネブが月村家から徒歩で戻ってくるとシグナムとシャマルが温かく迎え入れてくれた。
「はあぁ。落ち着いたぁ」
はやてが家に入って開口一番出た台詞だ。
「お疲れ様です。主はやて」
シグナムが労いの言葉をかける。
「あはは。遊びに行っといてお疲れ言うんもアレやけど……」
はやてが苦笑いを浮かべて返す。
「侑斗君とデネブちゃんもお疲れ様。何か飲みます?」
シャマルが侑斗とデネブに労いの言葉をかけながら、飲み物のオーダーを訊ねる。
「熱いものより冷たいものがいい。水くれ」
「俺は大丈夫だからいい」
侑斗は水を催促し、デネブは特にないと言う。
「シグナム。昨夜とか不自由なかったか?」
はやての問いに、シグナム以外の二人と一体も表情が一瞬だが引き締まる。
「いえ、何一つ。夕食も美味しくいただきました」
シグナムはしれっと何事もなかったかのように言った。
はやてとシグナムのやり取りを見ながら、侑斗、デネブ、シャマルは小声で話し合っていた。
「シグナムも嘘が上手くなったな……」
侑斗にしてみれば内心複雑である。
『嘘も方便』という言葉もあるが、シグナムには似合ってほしくない言葉だと思っていたりする。
「いいえ、夕食は美味しく食べたのは本当だから嘘は言ってないわ。それに私達、管理局と一戦交えたけど、イマジンの乱入や得体の知れない仮面の男のせいで大きな痛手は負ってないのよ」
「イマジンが現れたのか?」
侑斗の表情がまたも険しくなる。
「ええ。でもヴィータちゃんが言うには仮面ライダー電王が現れて倒したそうよ」
「野上達が……。なら安心だ」
イマジンが出現した場合、野上良太郎不在だった場合は自分達が出なければならないが、戦場に良太郎達がいたのならば余程厄介なイマジンでない限りは、自分達が出る必要はないだろう。
デネブは電王がイマジンを倒した事を聞くと、ほっと胸をなでおろした。
「ヴィータとザフィーラは?」
はやては見回しながら、姿のない一人と一匹の所在を訊ねる。
「一緒に町内会の集まりに行っています。夕方には戻るかと」
「ヴィータちゃん、町内会のお爺さん、お婆さんに人気がありますから」
二人の言葉は事前に口裏を合わせているが、アリバイを探られると厄介な嘘だ。
(八神が調べるはずがないと見越しての嘘だけどな)
侑斗は内心ヒヤヒヤしていたりする。
はやては家族を疑うようなマネはしない。
正直、自分達が嘘を吐けば吐くほど罪人になっていくかのような感じがしてならない。
(
侑斗が自身を罪人呼ばわりする要因としてはゼロノスカードの使用だろう。
どんな理由があろうとも、代価として他者の記憶から自身の記憶を忘却させる事は侑斗にしてみれば『悪』と思わざるを得ない事だ。
侑斗は決して忘却される側を責めたりはしない。非はないのだから。
リビングに突如、『闇の書』が宙に出現した。
その出現は、はやてはもちろんのこと、シグナムやシャマルにも予期せぬ事なのだろう。
驚いているという事が何よりの証拠だ。
「どうしたの?急に現れたりして」
シャマルが訊ねても『闇の書』は何も答えない。
『闇の書』はキィィィィンという音を鳴らしている。
「起動はしていませんね。待機状態のままです」
シグナムが冷静に検証する。
「うーん。一晩家空けたんは久しぶりやから、もしかして寂しかったんかな……。おいで『闇の書』」
はやてが両手を広げて、受け入れ態勢ををとると『闇の書』はふわりふわりとはやての元へと向かっていく。
「ふふ。ええ子や。よしよし」
はやてが『闇の書』を撫でている。
「まるで八神は母親だな」
「そうかぁ?俺にはペットと飼い主にも見えるがな」
デネブは『闇の書』とはやてを『子供と母親』と言い、侑斗は『ペットと飼い主』と言った。
「『闇の書』は前にも増して、はやてちゃんに懐いてますね」
「今までもこういう事はあったのか?」
「いや、我々の記憶の限りではなかったと思う」
侑斗はシャマルに訊ねるが、シグナムが代わりに答えてくれた。
「すごいなぁ。八神は」
デネブは感心していた。
はやては『闇の書』にじゃれつかれている。
ちょっと妙な後景ではあるが、見慣れると面白い。
「ふぁーあ」
はやては欠伸を出してしまう。
「欠伸とは珍しいな。お前、あまり寝ていなかったのか?」
「うん。昨日すずかちゃんと話しこんでしもうて……。すずかちゃん家のベッド、ごっつフカフカでなんや緊張したし。侑斗さんはグッスリ寝れたん?」
「グッスリというわけじゃないが、お前ほど緊張していたわけじゃないからな」
「八神、夜更かしはよくない」
侑斗は眠気を感じさせない表情で答え、デネブが注意し、はやてが苦笑する。
「では少しお休みになりますか?」
「そうやね。夕飯はデネブちゃんとシャマルにお願いしよかな」
「了解!」
「まかせて、はやてちゃん」
はやての言葉にデネブとシャマルは快く了承した。
シグナムが前に出ようとするが、侑斗が前に出て遮った。
侑斗は完全に振り向かずに、アイコンタクトで「ゆっくりと休んでろ」と伝える。
シグナムは首を縦に振る。
「運んでやる。しっかり掴まってろよ」
侑斗がはやてを車椅子から抱きかかえる。
「え?ちょっ……侑斗さん」
はやてはいきなり抱きかかえられたので、戸惑いの表情を浮かべる。
「何だよ?」
抱きかかえている侑斗は何故、はやてが戸惑っているのかわからない。
「わたし、重ない?重かったらシグナムに代わってもらうで」
はやては自身の体重を気にしているのか、頬を赤く染めながら侑斗に言う。視線もどこか侑斗を見ようとはしていなかった。
「バーカ。お前なんか軽い軽い」
「桜井。その……主が恥ずかしがっているように見えるのだが……」
「お前等やデネブには散々運ばせているのに今更恥ずかしがることか?」
シグナムはどこかいつもと違い、咳払いをしてから侑斗に諫言する。
だが侑斗は、はやてが何故恥ずかしがっているのかはわからない。
「それじゃ運んでくる」
侑斗は、そのままはやての私室へと向かっていった。
シグナムとシャマルは二階を見上げていた。
「シャマル」
「なぁに?シグナム」
「男というのは、誰も彼もがあのように鈍いものなのか?」
シャマルは両目を丸くして、シグナムを見ていた。
「どうした?」
シグナムは返答がないので、怪訝な表情でシャマルを見る。
「え?ええと、貴女の口からそのような事が出てくるとは思わなかったから……。それにどうして、はやてちゃんが恥ずかしがっているってわかったの?」
シグナムはシャマルに顔を近づける。
大真面目な表情で、身体全体には殺気が少々吹き出ていたりする。
「ザフィーラにもデネブにも言わないと誓えるか?」
「え、ええ」
「ヴィータや桜井、そして主にも言わないと誓えるか?」
「シ、シグナム?貴女どうしたの?」
凄まれながらもシャマルはシグナムの言葉に首を縦に振る。
「私にも男---異性に抱きかかえられたことがあるからだ」
「その相手って仮面ライダー電王?」
「……ああ」
シグナムはシャマルの視線から逃れるように短く答えた。
「経験者は語るってことなのね」
「……まぁな。それよりも主は本当にただの寝不足か?『闇の書』の影響が何か出ているんじゃ……」
「調べたけど何もないみたい。昨日までと何も変わらないわ」
シグナムは話題を切り替えて、はやての容態を訊ねるがシャマルは問題ないと言う。
「何も?」
「ええ。『闇の書』がはやてちゃんの身体とリンカーコアを侵食してるのも今はまだ足の麻痺以外は健康が保たれているもの……」
「そうか……。それと一つ気になる事がある」
「え?」
シグナムが疑念を口に出すのは割と珍しい方なので、シャマルは聞き返す。
「昨夜、主はやてと電話でお話している時に主は私の事を『烈火の将』と呼ばれた」
「まぁ……」
「ヴォルケンリッター烈火の将ともあろう者がそんなに落ち込んではいけないと……」
シグナムが話した内容に、シャマルは驚愕の表情を浮かべる。
「その二つ名って……」
「私達の間で、わざわざ使う名ではない。私をそう呼ぶのは『闇の書』の『管制人格』だけだ」
「まさか……」
シグナムの推測を耳に入れながらも、シャマルは驚愕の表情を浮かべたままだった。
*
次元空間の中に我が物顔で建っている時空管理局本局。
野上良太郎、フェイト・テスタロッサ、高町なのは、イマジン四体、コハナが足を踏み入れていた。
目的はフェイトの嘱託魔導師の手続きである。
フェイトは配布されていく資料にサインを入れていく。
なのはやイマジン達、コハナが集まるまでの間も良太郎とは一言も話していない。
(どうしよう。あれから全然良太郎と話してないし、何でかわからないど避けちゃうし……。これで良太郎に嫌われたらどうしよう)
サインをしながらもフェイトは良太郎とのギクシャクした関係を何とか打破したいと悶々としていた。
(アリサに指摘されてから変になってる。わたし……)
今までどおりに気軽に良太郎に接する事が出来ない。
眼を合わせただけで心臓が高鳴って、言いたい事も何一つ言えない。
心臓の鼓動を何とか平常にするための即効の方法として良太郎を避ける行動を取ってしまう。
そのたびに自己嫌悪に陥ってしまう。
そんな事ばかりがこれから続くなんて自分には耐えられない。
(わたしは良太郎が好き…なのかな)
自信がない。それに確信もない。自分が良太郎に抱いている感情に。
確かなのは『嫌い』と訊ねられたら即座に否定するだろう。
(これが『好き』ってことかな……)
心臓が高鳴るが、やがて落ち着き始める。
(うん。好きなんだ。わたしは良太郎が好きなんだ)
身体中の血液が正常に流れているような感じがした。
フェイトは確信した。
これが『恋』なのだと。
「あの……終わりました」
「そうですか。あれ?」
フェイトが提出した書類を見ながら事務系の局員が困った表情をしている。
「すいません。もう一度全書類やり直しです」
「え?何か不備がありましたか?」
局員は提出した書類をもう一度見せた。
「いつから、野上良太郎になったのですか?貴女は?」
「あ……」
全ての書類の名前欄が『野上良太郎』になっていた。
(誰もいなくてよかった……)
久しぶりにポカをやらかしてしまったフェイトだった。
無限書庫前ではユーノ・スクライアとウラタロスが立ち呆けを食らっていた。
「ここって誰もが入れるわけじゃないんですか?」
「はい。使われていなくても正規の局員でない方が自由に出入りすることは出来ないんです」
ユーノの質問に受付嬢をしている女性局員が丁寧に答えてくれた。
「手続きか何かいるってわけ?」
ウラタロスが訊ねる。
「はい。中央センターで無限書庫への入室手続きの書類に記入をしてからもう一度こちらにいらしてください」
「そうですか。ありがとうございます」
「どうも」
ユーノが頭を下げ、ウラタロスが軽く手を挙げた。
「ユーノ君!」
「ウラタロス」
なのはと良太郎を筆頭にモモタロス、キンタロス、リュウタロス、コハナが歩み寄ってきた。
なのはの手にはバスケットが握られていた。
「みなさん。どうして?」
「何か問題でも?それなら良太郎だけが来れば済む話だけど……」
ユーノとウラタロスはいつものメンバーで来ていることに訝しげな表情を浮かべる。
「フェイトちゃんの嘱託魔導師の手続きの付き添いに来たんだよ」
良太郎がここに来た動機を話す。
「ユーノ君、ウラタロスさん。はい、差し入れ」
なのはがバスケットをユーノに渡す。
「なのは、ありがとうって言いたいんだけど……」
「僕達、何にもしてないんだよね」
バスケットを受け取ったユーノは申し訳なさそうな顔をし、ウラタロスは両手を挙げて「お手上げ」としていた。
「ふえ?」
「カメ、どういう事だよ?」
なのはが疑問となる声をあげ、モモタロスがウラタロスに訊ねる。
「何かね。いくら使ってないところって言っても、民間人には勝手に使わせる気がないらしくてね。入室するのに手続きがいるんだってさ」
「面倒やなぁ。図書館入んのにそんなことせなあかんのかい……」
「ええ。そうみたいなんですよ」
ウラタロスの言葉を聞き、ぼやいたキンタロスにユーノは相槌を打つ。
「僕、退屈だから探検していーい?」
「待ちなさいリュウタ。私も行くわ」
痺れを切らしたリュウタロスはその場から離れ、コハナも後を追うようにその場から離れた。
「俺もヒマだしな。おい小僧、コハナクソ女!待てよ!」
モモタロスも追いかけていった。
「騒がしいやっちゃで」
キンタロスは腕を組んで、走る事はせずともモモタロス達についていく事にした。
「良太郎さん。わたし、フェイトちゃんを迎えに行きますけど一緒に行きます?」
「そうだね。そうしようか」
なのはの誘いに良太郎は応じる事にした。
時空管理局の中央センターではユーノとウラタロスが無限書庫に入るための手続きをとっていた。
「全くお役所ってのは書類の手続きが多いよね」
ウラタロスが皮肉を述べながら、隣で書類を書いているユーノを見ている。
「仕方ありませんよ」
ユーノは苦笑しながら配布された書類に目を通しながらサインをしていく。
「ユーノ。ひとつ聞いていい?」
ウラタロスがどこか真面目な口調で切り出す。
「何ですか?」
ユーノはサインをしながら返事をする。
「クロイノの依頼とはいえユーノはさ、無限書庫に行く事をどう思ってるの?」
「僕の部族は探索とかそういった類を生業としてますから、悔しいですけどクロノの処置は適切だと思いますよ」
ユーノの回答にウラタロスは苦笑している。
「子供とはいえ口達者だったね。ユーノは……」
彼は、なのはやフェイトとは違う。同世代よりむしろ目上の人間との付き合いが多いのだ。世を渡る処世術に長けているのは当然だった。
「は?」
「ソレ、本音じゃないでしょ。当たり障りなくお茶を濁すような言葉じゃない?」
ウラタロスはユーノの言葉が本音だとはまるで信じていなかったので特に驚いてはいない。
「……やっぱりバレるんですね」
ユーノはため息を吐いて白状した。
「嘘吐きはね。嘘を見抜くのも長けているんだよ」
ウラタロスは悪戯っぽく言う。
一通りの書類にサインを終えてユーノは提出すると、近くのカウチ(長椅子)に座る。
ウラタロスも隣に座る。膝の上には、なのはからの差し入れが入っているバスケットが乗っかっている。
「本音は、なのは達と共にあの騎士達と戦いたいってのが本音なんです。でも、僕では戦えても勝つ事はどだい無理なんです」
「僕達が来るまでにイマジンと戦っていたのに?」
ウラタロスの中ではヴォルケンリッターがイマジンより強いとは思っていない。
ユーノは平静に言っているように見えるが、その実は悔しさが滲
にじ
んでいた。
証拠としては太股の上に乗っている両拳がぶるぶると震えていた。
「『攻撃は最大の防御』って言葉はありますけど『防御は最大の攻撃』なんて言葉はないんです。だから、防ぎきって勝つって事はないんですよ。僕は、なのはやフェイト、クロノのように攻撃魔法を持っているわけでもありませんから……」
(やっぱりね……)
ウラタロスはユーノの心境になにがしかの変化が起こっている事は何となく察していた。
原因はユーノ自身が戦闘で前線に立てないこと、そして、自分が魔法の世界に巻き込んだなのはが自分より危険な場所に立っている事だろう。
(男のプライド……だよね)
ユーノの気持ちはウラタロスにはわかる。いや、男なら誰もが理解できる事といってもいいだろう。
「僕は、正直言って悔しいんです……。いくらなのはが僕より魔法の資質があるとわかっていても、危険な場所に立たせてしまっていることが……。巻き込んでおいて何も出来ない、何の役にも立てない、足を引っ張ってしまうかもしれない自分がどうしようもなく悔しいんです!」
ユーノの両目には悔し涙が浮かび上がっている。
「………」
ウラタロスはユーノの頭に手を軽く置く。
「強くなりたいって思ってるんだったらさ。強くなれると思うよ」
ウラタロスは『強くなれる』と断定はしなかった。なるならないはユーノ次第だからだ。
*
私室のベッドではやては仰向けになってうとうとと眠ろうとしていた。
「主。我が主……」
はやてはその声が引き金となって、寝ぼけ眼をゆっくりと開いていく。
「なんやぁ。ご飯まだやで」
「昨夜は失礼しました。騎士達が用意したセキュリティの範囲外においででしたので、私の備蓄魔力を使用して探知防壁を展開しておりました。睡眠のお邪魔だったかもしれません」
シグナムでもシャマルでもヴィータでもない。知らない女性の声だ。
「そんなことないよ。何や守られてる感じがしてた……」
声が申し訳なさそうに言うので、はやては首を横に振る。
「この家の中は安全です。『烈火の将』と『風の癒し手』もついておりますし、私からの精神アクセスも一時解除します。予定の時間までごゆっくりお休みください」
「うん、了解や。お休みな」
声の言葉を一通り聞いて、はやては了承した。
「はい。我が主」
声は聞こえなくなり、はやては夢の世界へと向かっていった。
はやてが私室で夢の世界へと向かっている頃、一階ではというと。
「まさか管制人格が起動しているの?だってまだあの子が起動するまでの規定ページ数も蒐集し終えていないし、はやてちゃんの起動許可だって……」
「無論、実体具現化までには至っていないだろう。だが少なくとも人格の起動はしている。そして主はやてとの精神アクセスも行っている」
シャマルとシグナムが現在『闇の書』に起こっている出来事に驚きながらも状況を検証していた。
「まぁそれ自体は悪い事じゃないんだけど……」
(シャマル、ザフィーラだ)
シャマルが思案に耽ろうとすると、ザフィーラからの念話を受信した。
(ザフィーラ、ちょうどいいところに今どこ?)
(かなり遠くだ。わずかだがコアを手に入れたので、『闇の書』を受け取りたい)
ザフィーラが獣か人型かはわからないが、冷静な声であることに変わりないところからすると何事もなく事をなせているのだろうとシャマルは安心する。
(今、『闇の書』に行ってもらうけど……)
(どうかしたのか?)
シャマルは平静を保とうとするが、内に抱えている不安が表に出てしまった。
(管制人格が目覚めているらしい。そして、主はやてと精神アクセスを行っている)
シャマルとザフィーラの念話の回線にシグナムが入り込んで、シャマルの代わりに代弁した。
(そうか)
ザフィーラが概要を聞き、理解した。
(対策を考えていたの。貴方の意見は?)
(管制人格は我々よりも上位のプログラムだ。彼女の行動について我等が直接干渉する事はできん)
(正規起動するまでは対話も出来ないしな)
(彼女も我等も想いは同じはずだ。アクセスだけなら害はないだろう。そして彼女と出逢えたのならば我等が主は彼女も労わってくださるだろう)
ザフィーラは、はやてならば管制人格の心情も理解してくれると信じていた。
(現状維持がザフィーラの結論?)
(無用な不安を与えないためにヴィータには伏せておく事を提案する)
(そうね……。私も同意見、というかそれしかできないんだけど……)
ヴィータを除く話し合いは終了した。
シグナムとシャマルの側で浮揚している『闇の書』が輝きだす。
(『闇の書』が転移準備を始めた。直にそちらに到着するだろう。ザフィーラ、引き続きよろしく頼む)
(心得ている)
『闇の書』がその姿を完全に八神家から消えると、念話の回線が閉じられた。
「何も出来ないのは心苦しくて不安ね……」
「そうだな……。だが何も出来ないならせめて良い方に考えよう。あの子との接触で少しでも主の病の進行が遅れてくれればいいがな」
「うん。そう考えましょう」
「そういえば、お前が『闇の書』に施した仕掛けは大丈夫か?」
はやてがヴォルケンリッターの行動に疑いをもたない根拠としては『闇の書』が蒐集されていないという部分が大きかったりする。
「偽装スキンの事?大丈夫よ。私達四人以外がページは白紙のままだし、普通に調べたところで魔力反応も出ない。完成までは、はやてちゃんが私達の蒐集に気づく事はないわ」
はやてに疑問を持たせないようにシャマルは『偽装スキン』という魔法を仕掛けていた。
ヴォルケンリッター以外が『闇の書』を閲覧しても、無記入の白紙という視覚を惑わすものだ。
「主はやてに真実を偽るのは心苦しいがな……」
好き好んでこのような事をしているわけでもないので、シグナムは苦しい表情を浮かべていた。
「言い出したのは私だし、行ったのも私。貴女が気に病むことじゃないわ」
シャマルは責任は全て自分にあるからとシグナムが背負おうとする重荷を軽くしようとした。
リビングに設置してある電話が鳴り出した。
次回予告
第三十七話 「星の数と人の想い」