時空管理局本局で停留している次元航行艦アースラ。
フェイト・テスタロッサの容態も回復し、普段と変わらない生活を送ってもよいという医者の許可が下りた。
現在彼女は、海鳴へと戻る準備も出来たので食堂で野上良太郎、アルフ(人型)と共にババ抜きをしていた。
がらんとした食堂でたった三人でババ抜きをするというのも少々シュールな後景に思えなくもない。
「次、良太郎の番だよ」
フェイトがどこか呆けている良太郎を急かす。
「あ、ああ。ごめん」
良太郎はアルフの手札から一枚抜き取る。
数が揃ったので、山の上へと置いていく。
「何ボケーっとしてたのさ?良太郎」
アルフが興味でも湧いたのか両耳をピクピクさせながら訊ねてくる。
「いや、大した事じゃないんだ。シグナムさん達と仮面の男って『闇の書』を完成させるまでは目的は共通してるよね?」
「うん。それがどうしたの?」
フェイトは良太郎の手札から抜き取りながらも、彼が何を言いたいのか今ひとつ理解できない。
「完成させてからはどうなるんだろうって思ってさ……」
良太郎の一言にフェイトとアルフは目を丸くしてから、真面目な表情になる。
「クロノが言うにはいい事はないって言ってたけど……」
フェイトとしても『闇の書』に関する事を風聞の域でしか知らない。
「ユーノとウラタロが何か情報を持ってきてくれるとは思うんだけどねぇ。そういや、アイツ---ザフィーラは妙な事を言ってたっけ……」
アルフはフェイトの手札から抜き取りながら、砂漠世界での出来事を思い出す。
「妙な事?」
ババ抜きどころではないと三人は判断したのか、手札を表向きにしてテーブルの上に置いた。
事実上、ババ抜き終了という事だ。
「自分達は主に命令されて行動しているのではなく、自分達の意思で動いているってさ。あと自分達がやっている事を『闇の書』の主は知らないって言ってたねぇ」
「シグナムさん達は下剋上でもするつもりなのかな?……」
良太郎は口に出してはみるものの、シグナムがそのような事をするようには思えないという気持ちが強いため信憑性に欠けるものになってしまう。
「良太郎、ゲコクジョウってなに?」
日本文化、しかも日本の古い風習など知るわけがないフェイトが首を傾げて訊ねてくるのは当たり前だ。
「えーとね。部下が上司に反逆する事、かな」
「ザフィーラの口ぶりからしたら、それはないと思うけどねぇ」
良太郎の下剋上の説明を聞き、一番に反応したのはアルフだ。
「どうして?アルフさん」
「いやね、アイツの口振りはどう考えても『闇の書』の主に対して敬意を持っているようにも思えたからさ……。ま、あたしの勝手な考えかもしれないけどね……」
アルフの言葉に良太郎とフェイトも下手な言葉は出さない。
食堂内に着メロが鳴り出した。
フェイトの携帯ではなく、良太郎のケータロスだった。
通話状態にする。
「もしもし……」
『野上か……』
自分のことを名字で呼ぶ人間はわずかしかいない。ましてやケータロスの番号を知っているのならば本当に限られた人間だけだ。
「侑斗?」
『お前に話したい事と聞きたい事がある。明日会えないか?』
通話の相手は桜井侑斗だった。
「ちょうどよかった。僕も侑斗には伝えなきゃいけない事や聞きたい事があったんだ。構わないよ」
『どこで会えばいい?』
「『翠屋』ってわかる?そこに来てほしいんだけど」
『わかった。調べてそっちに行く。昼頃で構わないか?』
「明日ならいつでも構わないよ」
そう言うと侑斗からの声は聞こえなくなり、ツーツーツーという音が良太郎の耳に入ってきた。
ケータロスを通話状態から解除する。
「名前からして、女じゃないね。男みたいだけど誰なんだい?教えなよぉ」
「ちょ、ちょっとアルフ。ダメだよ!」
アルフが好奇心を剥き出しにした瞳で良太郎を見ている。
フェイトもアルフの行動をたしなめる。
「何だい?フェイトは気にならないのかい?ユウトってヤツの事……」
「そ、それはその……気になるけど……。あ、でも良太郎が教えたくないなら無理に聞かないし……」
フェイトもアルフ同様に本音では気になるようだ。
無理もないことだろう。フェイトもアルフも良太郎の周辺に関することは殆ど知らないと言ってもいいからだ。
彼女達が知っていることといえば、良太郎がイマジン四体やコハナ、デンライナーを使って『時の運行』を守るために戦っている事と、別世界の住人であるという事ぐらいだ。
それ以外のことは良太郎自身があまり語らないから知らなくて仕方のないことだが。
「別に恥ずかしい事とかじゃないからね。いいよ」
良太郎の表情は至って平静だ。
「電話の相手は桜井侑斗。僕と同じ様に『時の列車』を使って、『時の運行』を守っているんだ」
「もしかして、その人もこっちに来てるの?」
今度はフェイトが身を乗り出すようにしていた。
「うん。僕達が来るより一ヶ月早くね」
「一ヶ月!?そんなに早く来て何してるんだい!?」
「『時間の破壊』を阻止するための調査に来てたんだよ」
フェイトとアルフの質問に良太郎は的確に答えていく。
「良太郎はその人と明日会って、伝えなきゃならない事と聞きたい事があるんだね」
フェイトの確認に良太郎は首を縦に振る。
「もしかしたら今の僕達が知らない事を知る事も出来るかもしれないね」
良太郎はテーブルの上に置かれているトランプを片付け始めた。
*
八神家のリビングには家主である八神はやてを抜きにしてのとある会議が行われていた。
参加者はヴォルケンリッターとチームゼロライナーである。
「助けてもらったってことでいいのよね……」
ソファに腰掛けているシャマルが最初に口を開く。
表情は瞳の色には嬉しいとかではなく、どこか懐疑的なものだ。
「少なくとも奴が『闇の書』の完成を望んでいる事は確かだ」
ソファに腰掛けて腕組をしているシグナムが現段階でハッキリとしている事を口にする。
「完成した『闇の書』を利用しようとしているのかもしれんな」
床に座っているザフィーラ(獣型)が仮面の男の目的を推測する。
「ありえねー!」
隣に座っているヴィータが否定して立ち上がる。
「だって完成した『闇の書』はマスター以外は使えないじゃん!!」
「完成した時点で主は絶対的な力を得る。脅迫や洗脳に効果があるはずもないしな」
ヴィータの意見にシグナムも賛同する。
「まぁ……家の周りには厳重なセキュリティが張ってあるし、万が一にもはやてちゃんに危害が及び事はないと思うけど……」
「念のためだ。シャマルはなるべく主から離れないようにした方がいい。桜井、デネブ。お前達もできるだけ主にいてやってほしい」
ザフィーラがシャマルに指示を下し、侑斗とデネブに頼む事にした。
「うん」
シャマルは首を縦に振る。
「ああ」
「了解。ザフィーラ」
椅子に座っている侑斗も首を縦に振り、デネブは椅子から立ち上がってお決まりの了承のポーズを取る。
「ねぇ『闇の書』を完成させてさ、はやてが本当のマスターになってさ、それではやては幸せになれるんだよね?」
ヴィータは俯きながらそうであってほしいという切実な思いが言葉の中には篭められていた。
「何だ?いきなり」
シグナムが怪訝な表情でヴィータを見る。
「『闇の書』の力は大いなる力を得る。守護者である私達が誰よりも知っているはずでしょ?」
シャマルも何故ヴィータが『迷い』を現すような台詞を吐くのかがわからないが諭す。
「……そうなんだよな。そうなんだけどさ。あたしは何か大事な事を忘れてるような気がするんだ……」
シャマルに諭されてもヴィータの表情は晴れない。むしろ、より一層暗くなっていた。
リビング内の空気が沈みがちになる。
「ヴィータ、それはどうしても思い出さなきゃいかないものなのか?」
今まで黙って聞いていた侑斗がヴィータに訊ねる。
「侑斗?」
「わかんない。違和感みてーなもんがあるんだよ……。凄く気持ちワリーんだ……」
「ちょっとそのままでいろよ」
侑斗は椅子から腰を上げて歩み寄りながらズボンのポケットから無記入のチケットを取り出して、ヴィータに向けてかざす。
だが、年号表示はデタラメでイラスト表示で出てくる人物は出てこなかった。
「やっぱり無理か……」
侑斗は結果は予想できていたのか落胆の色はなかった。
「侑斗君、何をしたの?」
「ヴィータの過去へ行くためにチケットを作ろうとしたんだが無理だったらしい」
シャマルの問いにデネブが答えてくれた。
「過去に行けばヴィータの言う違和感がハッキリ出来ると思ったんだけどな」
侑斗は失敗作のチケットをシャツのポケットの中に入れる。
「いいよ。侑斗、ありがと」
ヴィータは自分の迷い事に真剣に耳を傾けてくれた侑斗に感謝の言葉を述べた。
「あと、最後に言っておかなきゃならないことがある。明日……」
侑斗の言葉にヴォルケンリッターは真剣な表情で耳を傾ける。
「野上に会う」
その一言にヴィータとシャマルは目を丸くする。
「侑斗!電王と戦うつもりかよ!?」
「侑斗君!どうして今になって……、シグナムから聞く限りでは今の仮面ライダー電王は侑斗君が知ってる時とは明らかに……」
ヴィータもシャマルも考え直すように諫言してくる。
「お前等、何か勘違いしてないか?」
侑斗は何故自分が良太郎に会うことを反対されているのかがわからない。
「俺は野上に戦いを仕掛けるわけじゃない。聞きたい事と伝える事があるから会うんだ」
どうも、先の砂漠世界での戦闘を一部始終見ていたシグナムの報告を聞いてからヴォルケンリッターは電王に対しての警戒を強めているようだ。
侑斗にしてみても、良太郎に対する認識をまたも改めなければならないと考えさせられる事だ。
*
翌日となり、良太郎と侑斗が別世界で初めて顔を会わせる日となった。
時間的には昼が近づいてきた。
『翠屋』は不思議とがらんとしていた。
高町夫妻が言うには、「たまにこういう事もあるらしい」との事だ。
モモタロスとウラタロスは暇なのでフロアのモップ掛けをしていた。
キンタロスは荷物運びをしており、リュウタロスは外で窓拭きをしていた。
良太郎もテーブルを拭いていた。
コハナは高町桃子と共に昼食をこしらえていた。
「オイ良太郎、侑斗は今日来るって言ってたけどまだかよ?」
モモタロスが同じ事を良太郎に訊ねてきた。
「侑斗自身は昼頃ここに来るって言ってたけどね。もしかしたら遅れるのかもしれないしね……」
良太郎としてみれば今日に来てくれるのならばそれでいいと考えている。
「侑斗からわざわざ連絡つけてくるなんて、何やろな?」
キンタロスがタオルで汗を拭きながら、フロアに入ってくる。
「犯人がわかったとかかな~?」
リュウタロスが侑斗がコンタクトする目的を予想する。
「だったらいいけどね……」
良太郎としてもそうであってほしいと願ってしまう。正直あれやこれやと出口のない迷路を延々と歩き回るような心地の悪さから抜け出たいのだ。
「みんな、一休みしましょうかぁ?」
「今日は焼きそばよぉ!」
桃子とコハナが人数分の昼食を持ってきてくれた。
高町士郎を始めとした男性陣が我よ我よと手にしていく。
良太郎も手にして、口の中に収めようとしたときだ。
カランカランとドアに付いているベルが鳴った。
「申し訳ありません。今休憩中で……」
士郎が来店しようとする一人の青年に申し訳なさそうに言う。
「いえ、客じゃないんです。こちらに野上君はいらっしゃいますか?」
聞き覚えのある声に良太郎は席を立ち、入口前まで移動する。
「士郎さん。どうしたんですか?」
「ああ、こちらの人が君に用があるみたいでね」
良太郎はその人物を見る。
「久しぶりだな」
「そうだね」
侑斗と良太郎。別世界では初のコンタクトだった。
良太郎と侑斗は現在、対面で座っている。
二人のテーブルには焼きそばが置かれている。
「話す前にまず、食べよう。焼きそばは嫌いじゃなかったよね?」
「大丈夫だ」
良太郎が促し、侑斗も箸を手にして焼きそばを口の中に含み始めた。
両者共に食べている間は一言も発さない。
二人を基点にしているためか、『翠屋』全体の雰囲気も静かなものだった。
良太郎と侑斗が食事を終えるとイマジン三体は士郎と桃子を連れて、フロアから外へと出ていた。
現在フロアにいるのは良太郎と侑斗しかいない。
「僕達より一月早く別世界ここに来て何かわかった事はあった?」
良太郎から切り出した。
「イマジンが『闇の書』になにがしかの興味を持っているのは確かだろうな。俺がここで最初に戦ったイマジンは『闇の書』を強奪しようと企んでいたくらいだしな」
「強奪?侑斗が来た頃ってシグナムさん達はページ蒐集を?」
「やっていた。だが『闇の書』は全ページを蒐集し終えて初めて真の力を発揮するんだ。未完成の『闇の書』を奪ってもメリットはない。それに『闇の書』を狙って行動を起こしたのはその一回だけで、後は全くといっていいほどないんだ」
侑斗は自分が来て間もない頃の事を報告する。
「奪うどころか、完成を手伝うようになった……」
良太郎の言葉に侑斗は首を縦に振る。
「海鳴市で二回目の事を構えた時はそうらしいな……」
今度は侑斗の言葉に良太郎が首を縦に振る。
「あれ以来イマジンは静かなもんだよ。誰かが統率しているようにも考えられなくもないけどね」
「イマジンと共闘する人間もしくはイマジンを束ねているイマジン、か」
「うん。それと侑斗、これを」
良太郎は懐から一枚の写真を侑斗に渡した。
「?」
受け取った侑斗はその写真を見る。
ピンボケはしているが、『時の列車』が映っていた。
「『時の列車』だな。ボケてるけどそれは間違いないが、見たことがない種類だな。所有者は誰かわかっているのか?」
「ううん。まだわかってないよ。僕は写真の『時の列車』の持ち主こそが『時間の破壊』を企んでいると思ってるよ」
「それがイマジンの親玉、となるわけか……」
「多分ね。確証はないけど」
侑斗は良太郎の推測は間違ってはいないと思っている。
「僕に伝えたい事があるって言ってたけど……」
良太郎は立ち上がって、水差しとコップを探しに行く。
「ああ、『闇の書』の主と仮面の戦士についてだ」
良太郎の瞳に『闘志』のようなものが宿ったように見えたのは侑斗の気のせいではないだろう。
「まず仮面の戦士についてだが、シグナム達の仲間じゃない事だけは俺が太鼓判を押して言える」
身近にいる侑斗の証言だから間違いはないと判断し、良太郎は胸をなでおろした。
「それと『闇の書』の主だが……、正体は子供だ。年齢から察するに九歳くらいで名前は八神はやてだ」
「子供……だったんだ」
良太郎は予想の範囲外ではあるが、さして驚きはしなかった。
「驚かないな」
侑斗としても良太郎があまり大きな反応を示さない事が意外だったようだ。
「そのくらいの年齢の子達が命懸けで事件を追っている姿を見ているからね……」
良太郎は正直な感想を述べる。
「そうか……。お前の側にもいるんだな」
「それで僕に聞きたいことって言うのは?」
良太郎は席から立ち上がり、水差しと二人分のコップを持ってきた。
「仮面の戦士の事だ。あと、お前が怪しいと思っていること洗いざらい教えろ」
侑斗は良太郎からコップを受け取り、容器を傾けて水をコップに注いでいく。
「仮面の戦士は管理局内部の誰かだと思うよ。ただ、あの姿は本来の姿じゃなくて魔法で扮した姿だから正体を見つけるのは時間がかかるけどね……。あと、怪しいと感じるのは仮面の戦士は何で『闇の書』の完成を手伝ってるのかなって事かな……」
「『闇の書』はマスター、つまり主以外は使えないって聞く。脅迫や洗脳も無意味だとも言っていたから、仮面の戦士がシグナム達を手伝ってもメリットはないんだけどな……」
「ねぇ侑斗」
「ん?何だよ」
良太郎は水を一口飲んでから、息を吐いてから侑斗を見る。
「シグナムさん達はどうしてページ蒐集をしているの?アルフさんから聞いたけど、八神さんだっけ?八神さんはあの人達がページ蒐集をしている事を知らないみたいだし、下剋上じゃないよね?」
アルフの勘を確信にさせるために良太郎は訊ねる。
「下剋上?八神がマスターである限りは絶対にないことだ。あと、あいつ等がページ蒐集をしているのは八神のためなんだ」
「八神さんの?」
「ああ。あいつ等辛そうな顔して言ってたよ。『闇の書』の呪いのせいで、八神の身体は蝕まれてるってさ」
言っている侑斗自身も辛そうだった。コップを持つ手が小刻みに震えていた。
怖いからではない。自身の使命に対して歯痒さを抱いているのだ。
「侑斗、八神さんって家族は?」
「血の繋がり及び親戚等はいない。あいつには悪いが親御さんの私物などを調べてみたけど、両親共にそういった人間はいないみたいだ。つまり今『家族』と呼べるのはシグナム達だけって事になる」
「侑斗やデネブは違うの?」
良太郎の一言に侑斗は目を丸くする。あまりに意外な内容だからだ。
「……違うだろ。勝手に現れて勝手に消えちまうような奴等を『家族』って呼べるか?」
侑斗の言っている事は良太郎には痛いほど理解できた。
「……今に至るまでで何枚使ったの?」
「二枚だ。一枚目はあいつ等と会って、名前を知らなかった時に使ったからカウントされなかったのかもしれないが二枚目は間違いなく、カウントされているはずなんだけどな……」
「八神さん達は侑斗の事を憶えているんだ……」
「ああ」
「親御さんがいないのに経済面はどうなってるの?」
良太郎はこれ以上は話が重くなる上に脱線しそうなので強引に戻す事にした。
「あしながおじさんがいるみたいだ。その人が経済面をバックアップしてくれているらしい」
侑斗は『あしながおじさん』に関しては懐疑的に見ているようだ。
「侑斗はその『あしながおじさん』をどう思ってるの?」
良太郎としては心当たりが一人いるのだが、今ひとつ繋がらないため口には出さない。
「打算なしで援助してるなら『善人』だ。何か打算があるなら『ただの人』、その打算が八神やヴォルケンリッターの人生を狂わせる目的ならそいつにどんな理由があろうと『悪人』、かもな……」
侑斗の一言を良太郎はただ黙って聞いていた。
*
『翠屋』での良太郎との談義は終了し、侑斗は土産としてスイーツの入った紙箱を手に持って八神家への帰路を辿っていた。
八神家の面子は全員、この手のものを嫌っている素振りはなかったのでよい土産になるだろう。
「ただいま、あれ?」
いつもならば、はやてかシャマルが出迎えてくれるはずなのに一人も来ない。
「侑斗ぉぉぉぉ!!」
ドタドタとけたたましい音を鳴らしながら、デネブが狼狽しきった表情で玄関に向かってきた。
「何だよ?デネブ、何があった?」
侑斗にはデネブが何故ここまでうろたえているのかがわからない。
「八神が、八神が……」
デネブは続きを言いたくないのだろう。
だが、それは現実に起こったことで覆しようのないことなのでデネブは言う。
「八神が倒れたんだ!」
侑斗の双眸は大きく開き、手にしていた紙箱はボトリと床に落下して形がぐにゃりと変わった。
次回予告
第四十四話 「夜天の魔導書」