仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第四十八話 「激突の赤! 闇降臨」

空は茜色ではあるが、雲が泳いでいる。

八神はやての病室にはまだ、月村すずか、アリサ・バニングス、高町なのは、フェイト・テスタロッサがいるだろう。

シグナムとシャマルがいる限り、あの二人は下手なことはしないだろう。

「ここなら余程の事がない限り、邪魔は入らねーぜ?」

「みてーだな……」

モモタロスが連れてきたのは河川敷だった。

普段はどうかは知らないが、今は人は全くいない。

今この河川敷にいるのはモモタロスとヴィータ、そして海鳴大学病院前で屯していたウラタロス、キンタロス、リュウタロス、デネブ、ザフィーラ(獣型)と急遽呼ばれたコハナがいる。

「ちょっとどういうことコレ?ウラ、わかってるなら教えなさい」

コハナは恐らくこの事態を把握している石段に腰掛けているウラタロスに詰め寄る。

いきなり理由もわからず呼ばれたのだから無理もないことだ。

「ええとね。詳しい事は僕もわからないんだけどさ。どうやらセンパイとヴィータちゃんが一対一で戦うみたいなんだよ。それで全力で戦うからハナさんにパスを持って来させろって言うもんだからさ……」

ウラタロスが把握している範囲で説明した。

「つまり私はパスの配達人って事ね?」

「まぁ、そうなるわな」

コハナの解釈にウラタロスより上の石段に座っているキンタロスが腕を組んでウンウンと首を縦に振る。

「ハナちゃん。持ってきたの?パス」

石段の一番下でザフィーラの隣にいるリュウタロスが顔を向けて訊ねた。

「ええ、持ってきたわよ」

石段を降りながらコハナはパスを見せる。

「ヴィータのワガママに付き合せて申し訳ない」

ザフィーラがコハナに頭を下げる。

「ええと、そのね……。そうやって謝られる程の事でもないのよね……。だから頭上げてくれない?ええと、ザフィーラでいいのよね?」

コハナは居心地が悪そうにザフィーラの頭を上げるように頼む。

「?」

「私個人としてはさ、その……貴方達と深い面識があるわけじゃないからどういう感情持てばいいのかわからないのよね。モモ達や良太郎の話を聞く限りでは色々と深いワケはあるみたいだしね」

「我々を憎むとか敵愾心を持ったりとかは?」

ザフィーラは確認するようにコハナを見る。

「貴方達がしている事って管理局からしたら悪い事なんだろうけど、何ていうのかなぁ。私欲のためにやってるわけじゃないし、目的を終えたら捕まる覚悟を決めてるわけだし……何かね……」

歯切れ悪く言うコハナ。

「まぁハッキリ言えることはね。私はもちろん、モモ達や良太郎も貴方達を憎んだりとかそういう感情は持ってはいないってこと」

「そうか……」

ザフィーラはコハナの言葉を信じる事にした。

「おいコハナクソ女!パスよこせ!パス!」

河川敷中央にいるモモタロスがパスを催促する。

「人にモノ頼む態度じゃないでしょぉぉぉ!!」

コハナが大きく振りかぶってモモタロスに向かって投げつけた。

ガン、とモモタロスの眉間にパスが直撃した。

「ザフィーラ!結界張って!!」

河川敷の中央にいるヴィータが叫ぶ。

「始まるな」

ザフィーラは白色の魔法陣を展開して、河川敷全体に結界を張った。

 

「これでもう邪魔は入らねー」

ヴィータは右手に握られているグラーフアイゼンを振り回しながら、向かいにいるモモタロスに告げる。

「コハナクソ女めぇ!投げなくたっていーじゃねぇかよぉ。コブできたらどうすんだよったく……」

パスが直撃した部分を擦りながらモモタロスは愚痴りながら、地面に落ちているパスを拾い上げる。

「ったくよー。こんな時にも緊張感保てねーのかよ?オマエは」

これから真剣勝負が始まるというのに、あまりの緊張感のなさにヴィータは脱力してしまうところだった。

初めて会った時もそうだった。

ふざけているのか真面目なのかどうかはわからない。

だが、『強い』という事だけは確実にわかった。

同時にどうしようもなく気に食わない相手だという事も。

(今まで気に食わねーヤツはたくさんいたけどよ。こんなに気に食わねーって思ったのは初めてだ……)

過去に命令遂行の際に邪魔をしてきた相手や、はやて以外の『闇の書』の主もそうだ。

命令遂行の障害物は潰せばいい。

『闇の書』の主はどんなに気に食わなくても主従関係は絶対なのでどうしようもない。

しかし、眼前のイマジンはそのどちらも当てはまらない。

気負う必要がなく遠慮なく戦えるのだ。

恐らく初めてだろう。

高町なのはでさえ、管理局の民間協力者という立場だからこそ下手に仕掛けられない。

グラーフアイゼンを握る力が強くなる。

「さぁ始めるぞ!赤鬼!!」

グラーフアイゼンを振ると、足元に紅色でベルカ式の魔法陣が展開して、私服から紅色が目立つ騎士甲冑へと切り替わった。

(コイツとの因縁もこれで終わりだ!!)

全身に闘気と殺気を噴出す。

 

「最初に言っとくぞ!あたしはギィガァ強い!!」

 

そこにいるのは『鉄槌の騎士』のヴィータだった。

 

正面から自分に向けてくる闘気と殺気をモモタロスを受け止めていた。

(へっ、決着をつけるってのは本気ってわけかよ……)

冗談ではないと本当に理解すると、ごくりと固唾を呑む。

(面白え!別世界に来てこーいう戦いが出来るとは思わなかったぜ!!)

全身が『喜び』に震えていた。

『時の運行』を守るとか仲間を守るとかを抜きに出来る戦いが出来るのだから。

純粋な闘争をカッコよく楽しむ。自分にとってプリンを食べる事と同じくらい好きな事なのだから。

パスを持っていない手が拳を作り、震えていた。

また手を開く。

デンオウベルトを出現させて、腰に巻きつける。

「言っておくが、俺は最初から最後までクライマックスだぜ?」

パスをターミナルバックルにセタッチする。

モモタロスの姿がプラット電王へとなり、赤いオーラアーマーが出現して装着し頭部のデンレールを介して桃をモデルとした電仮面が走り、縦一文字にパカッと分かれて仮面としての役割を果たす。

 

「俺、参上!!」

 

自身を右親指で差してから、左腕、左足を前に右腕、右足を後ろにして大仰なポーズを取る。

ソード電王へと変身することでフリーエネルギーが噴出す。

それらはすべて正面にいるヴィータに向かっていく。

ヴィータをみると、怯えるどころか笑みを浮かべていた。

デンガッシャーの左パーツを手にして、横に連結させてから頭上に放り投げる。その間に右側のデンガッシャーのパーツを手にとって、両手で上下に挟むようにして縦連結をする。

先端から赤色のオーラソードが出現する。

Dソードを左手に持ち、右腕をぐるんと回すと左手から右手へと持ち替えて突き進む。

「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜぇぇぇぇ!!!」

大きく上段に振り上げてヴィータとの距離がゼロになった瞬間に一気に振り下ろす。

だがそこにはヴィータの姿はなく、Dソードは地面の草が宙に舞っただけだ。

「やああああああ!!」

ソード電王が体勢を整えて、ヴィータの声がする方向に顔を向けると自分の頭上に浮上していたヴィータがグラーフアイゼンを両手持ちにして落下する勢いを巧みに利用して、振り下ろした。

「ちぃ!上か!!」

グラーフアイゼンが届くか届かないのタイミングでソード電王は後方に退がる。

Dソードで受けて反撃に繰り出してもヴィータには『飛行』がある以上、攻撃を受け止めてから反撃からの一撃でダメージを与える事はないことは確かだ。

ヴィータも次の一撃を繰り出すために、距離を開ける。

「遠慮するなよ?俺は最初から最後までクライマックスだって言ったはずだぜ?」

Dソードを肩にもたれさせて左手を前に出して、くいっくいっと挑発する。

「そうだったよなぁ!!」

ヴィータは左手に小型の鉄球を三個呼び出してから、宙に浮かす。

『シュワルベフリーゲン』

紅色の魔法陣を展開させてグラーフアイゼンを振り上げて、宙に浮いている鉄球に狙いをつけて下ろす。

ビキキンという音を立て、魔力を帯びた鉄球はソード電王に向かっていく。

「またその技かよ?芸がねーな」

ソード電王はヴィータに向かって走り出す。

「またそのパターンかよ?芸がねーな」

ヴィータが以前にも使ってきた手口を繰り出そうとするソード電王に呆れる。

「同じじゃねーよ!!」

ソード電王はヴィータの頭上を跳び越えて上手く着地する。

魔力を帯びた鉄球がこちらに向かってくる。

ヴィータの頭上、左右を抜けて自分に向かってくる。

ヴィータはソード電王がいる方向に向き直る。

三個の鉄球は思考の停止をしているかのように一箇所に集まって停まってからこちらに向かってくる。

「もらったぁぁぁぁぁ!!」

Dソードを上段に振り上げ、両手で握って勢いよく鉄球に向かって振り下ろす。

鉄球はすべて真っ二つになって爆発して煙を立てる。

「あたしの意識が一時的に中断してる間を狙って鉄球全部を一回の振りで終わらしたってワケかよ……」

「だから言ったじゃねーかよ。同じじゃねーって」

互いに睨みあう。

煙はまだ晴れないが、ソード電王とヴィータは同時に駆け出し、Dソードをグラーフアイゼンを繰り出した。

 

 

「カメの字、どう思う?この戦い」

結界の中で石段に座ってギャラリーと化しているキンタロスは同じ立場になっているウラタロスに訊ねた。

「今のところ五分五分だけどさ、長くなればなるほどセンパイには不利になるかもしれないね」

「何でよ?ウラ」

「どうして?カメちゃん」

ウラタロスの一言はコハナとリュウタロスに疑問符を浮かべるものだった。

「二人とも今までの戦い思い出してみてよ。あそこまで身長差のある相手はいなかったじゃない?」

コハナとリュウタロスはウラタロスに指摘されてから、ソード電王とヴィータの身長を目測してみる。

「「あ」」

ようやく気付いた表情になる。

「確かに俺等もあそこまで身長差のあるヤツと闘うんを見るんは初めてやなぁ」

キンタロスも今まで闘ってきた相手の慎重さとヴィータを比較する。

「逆にヴィータちゃんは僕達クラスの身長の相手とは何度も戦ってるはずだからね。慣れてると思うよ」

「だからモモタロスが不利って言ったんだね。カメちゃん」

ウラタロスの言葉に耳を傾けるリュウタロス。

「でもウラ。身長差を問題にするならモモにだって有利に働くんじゃないの?戦いにおいて、長身って有利になるのは常識だし」

コハナの言うとおり『戦い』において身長は長身、体重は超重量が有利というのが常識だ。

長身はリーチを生み、重量は繰り出す一撃の重みを表す。

事実、今目の前で行われている戦闘においてもヴィータが詰めるのに数歩かかる間合いをソード電王は一、二歩とはるかに少ない歩数で詰めている。

これも長身によって生かされた特権だ。

「それに体重も大きく関係するわよ。ヴィータちゃんの体重が外見どおり軽かったとしたら、モモとぶつかり合っても吹っ飛ばされるのがオチよ」

Dソードとグラーフアイゼンが火花を立ててぶつかり合うが、ソード電王がのけぞる事はなく、ヴィータの方が弾かれるたびにのけぞっていた。

これは重量によって繰り出される一撃の重みによるものだ。

「確かにね。身長も体重もセンパイの方が上。これは事実だよ。普通に考えればセンパイがヴィータちゃんに負ける要素は一つもないしね。でもね……、それだったらすぐに決着がつくでしょ?それこそ開始早々一分以内に」

ウラタロスが言うように、身長差と体重差で全てが決まるなら一分以内にソード電王が勝利するだろう。

しかし、現実には一分は軽く経ってるのに決着はついていない。

「モモの字が攻めの態勢に入ってへん。乱撃が続いてもモモの字はヴィータの攻撃止めるんで精一杯やな」

キンタロスが戦闘をじっと見ながら、異変に気付いた。

「え?モモタロス、攻撃してるじゃん」

リュウタロスの目からしたらソード電王は攻撃しているように見える。

「ヴィータの攻撃を受け止めてから返しよるだけや。モモの字自体は攻めてへん。カメの字の言うようにヴィータの方に分がありそうやで」

キンタロスの声にも『おふざけ』な部分はなりを潜めていた。

「クマちゃん……」

リュウタロスもこの戦いは『おふざけ』が通じないと二体のイマジンの様子を見てじっと見ることにした。

「モモ……」

イマジン達が真面目に観戦している以上、コハナもただ見ている以外できなかった。

 

 

「クソっ!受けて返しても全然意味がねぇ!!ノれてねぇ!全くノれてねぇぜぇ!!」

焦りと苛立ちが混じった声を出しながらソード電王はヴィータが繰り出すグラーフアイゼンをDソードで受け止めて返すが、望む反撃が出来ていなかった。

上下斜めとあらゆる方向から繰り出される攻撃を受けるたびにヴィータは軽量故にのけぞるのだが、その反動を利用して次なる攻撃を繰り出してくるから、反撃の一手としても腰の入っていない弱いものになってしまう。

「やるじゃねぇかよテメェ!燃えてきたぜぇ!!」

焦りと苛立ち以上に戦いに対する楽しみも湧き上がる。

自分を奮い立たせるように口に出しながらもどうすれば決定的な一撃を与えられるかを考える。

「弾丸は使わねぇのかよ?それとも故障中かぁ?」

鍔迫り合い状態に持ち込みながら、カートリッジの事を訊ねるようにも見えるが実際は挑発だ。

「なわけねーだろ。オマエ相手に使うまでもねーんだよ」

ヴィータは挑発的な笑みを浮かべずに挑発で返す。

(ケッ、挑発にも乗らねーってか……)

ソード電王は膠着状態のまま左に走りながら、ヴィータを見る。

ヴィータも自分からこの状態を解くつもりはないらしく、くっついたまま左に浮遊している。

「動いたって無駄だ!あたしがそんな単純な行動で放せると思ったのかよ!?」

「うるせぇ!!」

(ん?ちょっと待てよ……)

ソード電王は左方向へと進めている足を停めて、もう一度確認するようにしてヴィータの足元を見る。

正確にはヴィータの足ではなく地面を見ていた。

そしてもう一度ヴィータを見る。

(コイツが俺と同じ位置に顔を持ってくるって事は魔法使ってんだよな……)

魔法を用いて身長を変えたのではなく、自分の体そのものをすべて上の位置に持っていっているのだと理解した。

それは本来その位置にないものがそこには現在あるという事だ。

(見えてきたぜ。赤チビ必勝法!!)

「うらあああああ!!」

膠着状態を先に破ろうとソード電王は動いた。

Dソードを前に押し出して、ヴィータを下がらせる。

両手持ちからDソードを片手持ちへと替えて、空を裂くようにして軽く振る。

「行くぜ。赤チビ」

そう言うと同時に、水を得た魚のように焦りも苛立ちを吹っ切るようにしてヴィータに向かっていく。

今までと違う勢いにヴィータは思わず身構える。

右手で持っているだけのDソードの振りは先程までの両手持ちほどの威力はない。

そのため、ヴィータはグラーフアイゼンで受け止める事は出来た。

「何だよ?ない知恵振り絞った結果がコレかよ?考えるだけ時間の無駄になったんじゃねーか?」

「へっ、そう言ってられるのも今のうちだぜ」

ヴィータの挑発にソード電王は乗ることなく、次の行動に移す。

空いている左手がヴィータに向かって動く。

「つっかまぁえーた!」

おどけた感じでソード電王はヴィータの右足を掴んでいた。

「なっ!?テメェ離せぇ!!」

「離せといって離すバカはいねぇよぉぉぉぉ!!」

ヴィータの抗議を律儀に返しながらソード電王はブンブンと左手で左右に揺さぶってから前方へと放り投げる。

追い討ちをかけるためにソード電王はDソードを両手持ちにして駆け出す。

「りゃああああああ!!」

「んなもんでやられっかよぉぉぉぉぉ!!」

Dソードから振り下ろされる一撃をヴィータはグラーフアイゼンで受け止める。

だが単純な腕力による一撃ではなく、腕力+速度によって繰り出される一撃なので今までの腰が入っていない状態で繰り出される反撃の一手とは威力が違っていた。

「ぐうっ!!」

ヴィータの表情が険しくなっている。

ソード電王にとって初めての攻めの一手となった。

 

(コイツ!さっきとは全然違う一撃繰り出しやがって!!)

ソード電王が繰り出した上段振りをグラーフアイゼンで受け止めながら、ヴィータはソード電王を睨んでいた。

(この様子からみてあたしとの戦い方に慣れてきたってワケか……)

今まで自分が優勢でいられたのは身長差に生じる感覚のズレが大きかったからだ。

そのズレに対する対処法を得たのならば平等な条件という事になる。

(この後にあるかもしんねぇ高町あろまとその仲間達に備えて……、ん?)

ヴィータは自身の考えを中断した。

(何後の事考えてんだ!?そんな考えが通じるほど甘ぇ相手じゃねーってのに……)

知らず知らずにまだ病院ではやての見舞いをしている管理局側魔導師の戦闘を見越していたのだ。

ギリギリギリとグラーフアイゼンでDソードを受け止めている。

「赤鬼……、見せてやるよ。オマエが見たがっていたカートリッジの力をなぁ!!」

「そいつぁ楽しみだぁ。早くやって見せてくれてよ?」

ソード電王は応じる姿勢だ。

「グラーフアイゼン!カートリッジロード!!」

ヘッド部分が柄に向かってスライドされる。

ガシュンという音を立てて蒸気が噴出されると、ヘッド部分がハンマー状態から菱形のスパイクと噴射口に切り替わった。

ガタガタガタとヘッドが震えながら、噴射口が点火される。

「いいっ!?」

バシュウッという音を立てながら、ヴィータは驚愕の声をあげるソード電王のDソードを押し上げてそのまま空中に移動する。

グラーフアイゼンを剣術でいう八双の構えを取って、ロケット噴射の勢いに任せて急降下する。

自身も身に降りかかるGに耐えながら。

「うりゃあああああああ!!」

ソード電王は受けようとせず、バックステップで退がる。

「遅ぇよぉぉ!!」

だが、追いかける自分のほうが速い。

間合いがほぼゼロになったところでグラーフアイゼンを振り下ろす。

「ヤロォ!なんつー速さだっ!?」

ソード電王はDソードでグラーフアイゼンを受け止める。

「さっきまでと同じだと思ったら大怪我するぜ?赤鬼ィィ!!」

Dソードのデンガッシャー部分をグラーフアイゼンのスパイクがガリガリガリガリと削りだす。

デンガッシャーの破片が飛び散っていくのがヴィータの視界にも入る。

「油断大敵って言葉知ってるのかよ!?赤チビぃ!」

がしっとヴィータはソード電王に頭を掴まれた。

「痛たたたたたぁ、テメェ!何しやがる!?離せぇぇぇ!!」

ギリギリギリとこめかみ辺りから痛みが襲い掛かってくる。

「俺の武器がぶっ壊れるのが先かテメェの頭が壊れるのが先か勝負といこうじゃねぇか?」

「いだだだだだぁ!!このヤロォ!」

ヴィータはグラーフアイゼンをDソードから自分の頭を掴んでいる左手へと矛先を変える。

「があああっ」

スパイクが左下腕に触れてから、すぐにソード電王の左手はヴィータの頭を離した。

「なんつぅバカ力なんだよ!テメェはぁ!!」

頭を押さえて涙目になりながらヴィータはソード電王を睨む。

「うるせぇ!そのドリル、人に向けちゃいけねーって母ちゃんに教わらなかったのかよ!?」

損傷を受けている左下腕の様子を見ながらもソード電王はヴィータを睨んでいた。

 

 

「戦況、かなり変わってきてるわね……」

「センパイのやった事ってあまりに単純明快なことだけど、盲点といえば盲点だしね……」

コハナとウラタロスは転々と変わる戦況を見ながらソード電王が取った行動を振り返っていた。

「ヴィータも本気だ。純粋な闘争であいつを本気にさせるとはモモタロスの底力、侮れん」

結界を維持しながらもザフィーラはソード電王を称賛する。

「ザフィーラぁ、モモタロスに言っちゃダメだよ。すーぐ調子に乗るからね」

リュウタロスが隣にいるザフィーラを撫でながら嗜める。

「そろそろどちらとも“詰み”にかかろうとするやろな……」

キンタロスは親指で首を捻ってからこの戦いがそろそろ終局に迎えようとしていると感じた。

 

 

ソード電王とヴィータが互いの武器をぶつけ合い、時には手が出たり足が出たり頭が出たりしていたが一進一退の攻防を繰り広げているが互いに『奥の手』をいつ繰り出すかを思案していた。

「グラーフアイゼン!!」

ガシュンという音を立てながら足元に紅色の魔法陣を展開させて、噴射口を点火させてその場でぐるぐると回る。

「ラケェェェェェェテン!!」

ドォンという音が鳴るような勢いで、ヴィータがこちらに向かってくる。

「逃げ切れねぇ!?」

遠心力で振りかぶりながら狙いをソード電王の胸部に定める。

Dソードで防がなかったのは武器を犠牲にした場合、次の一手がなくなるからと考えての事だろう。

「ハンマァァァァァァ!!」

躊躇いなく胸部を叩きつける。

ゴォンという音を立てて直撃し、ソード電王は後方へと吹き飛ばされた。

ここは河川敷なので、壁になってくれるものは殆どない。

ただ飛ばされていくだけだ。

ガシャアアアアンという音が立つと、沈黙が訪れた。

「はあ……はあはあ……はあ……」

ヴィータはその場に座り込んでしまう。

『大丈夫ですか?』

グラーフアイゼンが主の容態を気遣う。

「どってことねーよ。さすがに今まで戦ってきた中ではダントツに強ぇけどな……」

虚勢を張るが、正直体の節々が痛い。

「頼むからバカみてーに走ってくんじゃねぇぞ」

ヴィータはソード電王が飛んでいった方向に視線を向けながら呟いた。

 

公衆のゴミ箱に直撃したソード電王は身体全身をピクピクしながらも、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。

「コイツに直撃してなかったら俺、どこまで飛んでたんだろうな……」

両腕両脚をプラプラさせたり、回したりと体調を確認する。

ヴィータがいる場所を睨む。

かなり距離がある。戻るだけでも体力を消費する。

右手に握られているDソードを見る。

スパイクで削られた部分が抉れ、そこを中心に亀裂が入っている。

(決め手となる攻撃が出来るのはあと一、二回か……)

その限られた回数で勝ちの一手を振るわなければならない。

「ふぅーっ」

深呼吸をしてから持てる力を振り絞って走り出した。

体力の消耗は歩きよりも激しい。しかも、身体の節々が余計に悲鳴を上げてくる。

だが、それでも走る。

歩けば何故か『負ける』と思ったからだ。

「ぐっ……」

足が地を蹴るたびに全身に痛みが走る。

「赤チビィィィィ!!」

ソード電王がヴィータの名を叫びながら走った。

「げっ、バカみてーに走ってきやがった……」

座って休憩していたヴィータは立ち上がって、グラーフアイゼンを構える。

ヴィータの姿が見えると、ソード電王は足を停める。

肩で息を切らしていた。

「テメェはゆっくり休んでたってワケかよ……」

「……あんまり休めなかったけどな」

それでも自分よりは息は乱れていないのは確かだ。

「そろそろケリをつけようぜ?」

「ああ、そーだな」

ガシュンとヘッドがスライドしてグラーフアイゼンがカートリッジロードした。

ラケーテンフォルムから更に形状を変化させていく。

今までの変化と違うとしたらサイズが今までとは別次元と思えるほど大きいハンマーだ。

「テメェ……これどう見たって反則だろ!!」

ソード電王が吠えるのも無理はない。

こんなハンマーで殴られたら確実に死亡確定だからだ。

常識的にはヴィータの体格で持てる筈のないのに軽々というほどでもきちんと持ち上げている。

「クッソォ。魔法使えるヤツってのは何でもアリのように思えるぜ……」

魔導師が聞いたら間違いなく抗議しそうな事を言いながらもソード電王もパスを取り出して、ターミナルバックルにセタッチする。

『フルチャージ』

「さらに」

『フルチャージ』

もう一度ターミナルバックルにセタッチする。

「最後に」

『フルチャージ』

更にセタッチする。

デンオウベルトからフリーエネルギーが噴き出て、Dソードに伝導されていく。

オーラソードが通常の数十倍の長さと幅広さになる。

バチバチバチバチと稲妻状のフリーエネルギーがオーラソードに纏わりついている。

 

「轟天……」

「俺の……」

グラーフアイゼンとDソードを互いに構える。

 

「爆砕……」

「必殺技……」

ヴィータがグラーフアイゼンを振り回して持ち上げると更に巨大化する。

ソード電王はDソードを右下段に構えて、半歩詰め寄る。

 

「ギガントォシュラァァァァクゥゥ!!」

「なのはバージョォォォォン!!」

ヴィータが両手持ちで一気に振り下ろした。

ソード電王が応じるようにしてDソードを掬い上げた。

同じタイミングでブォンという風を切り裂く音が鳴り響き、結界内を眩しい光が発生した直後に爆発音が鳴った。

 

 

「結界が持たない!?何かに捕まってろ!飛ばされるぞ!!」

ザフィーラの忠告に従うようにして、リュウタロス、コハナはザフィーラにウラタロスとキンタロスは

うつぶせになっていた。

ビシビシビシビシと結界に亀裂が入り、その隙間から爆煙が外へと漏れていった。

煙が晴れて視界がハッキリしていく中で小さな人影が立っていた。

「ヴィータちゃんの勝ち?」

「センパイは?」

「姿が見えへんで」

「ま、まさか跡形もなくなっちゃったとか……」

コハナはヴィータが勝利したものかと確信を持ち始めたが、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスはソード電王の姿を探していた。

 

 

「はあ……はあはあ……はあ……」

グラーフアイゼンもハンマーフォルムに戻り、ヴィータは肩膝を着いて息を切らしていたが立ち上がる。

「勝った。勝ったんだ!」

ヴィータは対面にソード電王の姿がなくなった事は跡形もなくなったと思った。

正直、普段ならばそれだけに考えが凝り固まることはないのだが満身創痍の状態では冷静な判断も出来なくなっていた。

 

「俺がな」

 

「!?」

ヴィータが背後からした声に反応して振り向くと、背を向けていたソード電王が立っていた。

(あの爆発の中、上に移動してたってワケかよ!?)

「ぐっ……」

身体全身が悲鳴を上げている。

(動けねぇ!?)

最後の力で精一杯睨むがその行為でソード電王は止まるはずもなく、

『フルチャージ』

そのような音声が耳に入った。

 

「一発しか撃てねぇけど、俺の超必殺技ぁぁぁ!!」

 

ソード電王のフリーエネルギーが纏っている踵が自分に向かってきた。

こめかみに直撃すると、自分が右に吹っ飛んでいく事がわかった。

その事を自覚するとヴィータは意識を手放した。

 

「ん……うん。あれ、あたし……」

ヴィータが目を開けると外見年齢からして自分より少し上の年齢の少女が映った。

「あ、気がついた?」

「ええと……誰?」

ヴィータはコハナを見ても、疑問符を浮かべるしかない。

「私はハナ。モモ達の仲間よ」

初対面なのに失礼な事を言ったのにコハナは気分を害する事はなかったらしい。

「どのくらい気を失ってたんだ?」

「一時間くらいかしら?モモなんて倒れて五分で目が覚めてあれだけ動き回ってるわよ」

「え?マジかよ?」

コハナが指差す方向をヴィータは見る。

そこにはウラタロス、キンタロス、リュウタロスとバカをしているモモタロスがいた。

動き回ってはいるが、他の三体に比べて鈍かった。

「とんでもねーバカだな……」

あまりのタフさに呆れを通り越して笑みを浮かべてしまうヴィータ。

「ねぇヴィータちゃん。一つ聞いていいかしら?」

「何だよ?」

「どーして今になってモモと戦おうと思ったの?」

「スッキリさせたかったんだよ……」

「それでスッキリした?」

ヴィータは首を縦に振る。

「ああ。何かややこしく考える事って、あたしの性にあわねーって改めて思った!」

そう言いながらヴィータは立ち上がる。

「もう行くの?」

「ああ」

コハナの表情からして自分はまだ安静にしておいた方がいいのかもしれないが、不思議と身体は軽く感じた。

ザフィーラもこちらに駆け寄ってきた。

海鳴大学病院に戻る中で、もう一度ヴィータは河川敷を見る。

「どうした?ヴィータ」

「いんや、何でもねー。先行っててよ」

ザフィーラを先に行かせると、まだいるのだろうと予測してヴィータは誰もいないから今は言う事にした。

 

「ありがとう。赤鬼」

 

と。

 

 

空は暗くなり、雨雲が泳いでいた。

野上良太郎は桜井侑斗との会話を終え、帰り支度をしている仲良し四人組(なのは、フェイト、すずか、アリサ)と合流して海鳴大学病院を出た。

入口までシグナムとシャマルが付き添ってくれた。

シグナムは腕を組んだままで、シャマルは笑みを浮かべて手を振っていた。

すずか、アリサと別れてから、なのはとフェイトは真剣な表情を浮かべていた。

「もしかして、シグナムさん達に何か言われた?」

二人は顔を見合わせてから首を縦に振る。

「今から一時間後に○□ビルの屋上に来てほしいって」

フェイトが打ち明けた。

「わたし達、そこで『闇の書』の事を言おうと思うんです」

ユーノ・スクライアのレポートを見たなのはは、決意の眼差しで告げた。

話を聞き終えた良太郎は、ケータロスを取り出して時間を見てから、自動販売機を見る。

さすがに冬だけあってホット系が幅を占めていた。

「今から一時間後か。時間あるから何か飲む?奢るよ」

「え?でも、わたしお小遣い持ってますよ」

『奢る』と言われて、なのはは躊躇う。

「ホットコーヒー二つ。お願いできる?なのはも飲めるよね?」

「あ、うん」

フェイトは慣れているように良太郎に告げると、自動販売機でホットコーヒーを三つ購入した。

壁に瀬を預けているなのはとフェイトに渡す。

なのはは奢られ慣れていないためおずおずと受け取るが、フェイトは慣れているため何の躊躇いもなく受け取った。

「あ、ありがとうございます」

「ありがとう。良太郎」

二人の感謝の言葉を聞きながらコーヒーのプルトップを開けて、一口飲む。

誰一人として口を開かない。

一時間後に何が起こるかはわからないが、それに対して不安を抱いているのだ。

良太郎としても下手な言葉を投げかけようとは思わない。

「二人とも、この事件が終わったらさ。みんなで騒がない?」

良太郎は事件が解決してからの切り出した。

「それってパーティーをするって事ですか?だったら賛成です!」

「いいね。わたしも賛成!」

なのはとフェイトは先ほどと違い、表情に明るさが浮かび上がっていた。

「よかった」

良太郎も笑みを浮かべて、これから起こることの覚悟を決めていた。

 

一時間後。

 

○□ビルの屋上に良太郎、なのは、フェイトが到着するとそこには既にシグナム、シャマル、侑斗が待ち受けていた。

恐らく侑斗が買ってきたのだろう。非常階段の側に空になっている缶が三つ置かれていた。

先に来ていた事がわかる。

誰一人として明るい表情を浮かべているものはいなかった。

口で語らずともわかっているのだろう。

明るい出来事ではない事を。

シグナムが告げた一言は良太郎にとっては既に周知の事実であって、なのはとフェイトにとっては衝撃的なものだった。

「………」

「はやてちゃんが……『闇の書』の主……」

侑斗にしてみれば二人の反応からして良太郎が教えていないと判断した。

『時の運行』に影響すると思ってのことだろう。

「悲願は後わずかで叶う……」

「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達でも……」

シグナムとシャマルは声を荒げることなく、静かに言う。

侑斗は彼女等の想いが痛いほど理解できる。

(何でだ?ヴィータの言ってた事が今更になって気になるなんて……)

以前ヴィータは「何か引っかかるようなものがある」というような事を言っていた。

チケットをかざしても芳しい結果を得る事が出来なかったし、ヴィータ自身も根拠のない出来事なので今ひとつ自信がなかったため、そのまま保留になっていた。

「待って!待ってください!話を聞いてください!」

なのはが前に出る。

「駄目なんです!『闇の書』が完成したらはやてちゃんが!!」

ゴォォォォォォという音を立てながら、何かがなのはに向かってきた。

「りゃああああああああ!!」

「!?」

それがヴィータだとわかり、右手から魔法障壁を展開して振り下ろされたグラーフアイゼンを防ぐ。

バチバチバチという音を立てながらも防ぐが、不意打ち寸前で受けたので正直完全に防ぎきれる自信はない。

「ひゃああぁ!!」

魔法障壁はヴィータの一撃に耐え切れなくなり、後方のフェンスへと飛ばされてしまった。

「なのは!」

「なのはちゃん!」

フェイトと良太郎が叫ぶが、立ち上がる素振りを見せない。

「フェイトちゃん!来る!」

「わかってる!」

シグナムがレヴァンティンを抜刀している所を良太郎が見つけ、恐らく標的にされているだろうと思われるフェイトに警告する。

跳躍して、フェイトに向かって振り下ろす。

しっかりと見切ってフェイトは後方へと退がる。

先ほどの一撃は食らえば無事ではすまないということはレヴァンティンに砕かれたコンクリートの床が物語っていた。

ヴァルディッシュ・アサルトを喚び出して両手で構える。

「管理局に我等の主のことを告げられるのは困るんだ……」

シグナムはフェイトに顔を向けているが、瞳はフェイトを見てはいなかった。

顔を俯きにしている---直視したくないという表れだった。

「私の通信防御範囲から出すわけにはいかない……」

シャマルもクラールヴィントを起動させて、既に周囲に通信妨害の結界を展開させているのだろう。

「ヴィータちゃん……」

なのはは自分を見下ろしているヴィータを見る。

服装は至って普通だが、露出している肌は汚れていた。

まるで一戦交えたように。

ヴィータの足元から魔法陣が展開して、私服から騎士甲冑姿になる。

「邪魔すんなよ……。もうあとちょっとで助けられるんだ。はやてが元気になって、あたし達のところにに帰ってくるんだ!」

右手に握られているグラーフアイゼンがカタカタカタと震えている。

「必死になって頑張ってきたんだ……。もう後ちょっとなんだ……。」

ヴィータがグラーフアイゼンを振り上げる。

主の意思に応じるようにして、カートリッジをロードさせる。

ガシュンという音が鳴り、蒸気が噴出す。

 

「邪魔するなぁぁぁぁ!!」

 

力いっぱいに、何の迷いもなく振り下ろした。

ドォンという音を立て、爆発が起こり、爆煙がたってから炎が燃え盛る。

屋上にいる誰もがヴィータの行動に目を点にしていた。

口では精一杯の懇願に思える抗議をしていたが、その直後に繰り出された行動には一切の躊躇も迷いもなかった。

「はあ……はあはあ……」

ヴィータは肩を上下に揺らせながらも息を整えている。

炎の中をゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。

バリアジャケットを纏ったなのはがゆっくりと悲しげな、でも決意を秘めた眼差しを向けていた。

「悪魔め……」

ヴィータは睨みながら、なのはを罵る。

「……悪魔でいいよ」

下げていた左手を水平にして、レイジングハート・エクセリオンを喚び出す。

なのはがしっかりと握ると、『アクセルモード。ドライブイグニッション』と音声を発してヘッド部分にあるカバーがスライドしてカートリッジをロードする。

ガシュンという音が鳴る。

左下段に両手持ちで構える。

 

「悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらうから!」

 

決意を込めた瞳をぶつけるが、ヴィータはそれに怯むことなく受け止めていた。

 

「シャマル。オマエは離れて通信妨害の準備をしていろ……」

フェイトがどういう出方をするのかを伺いながらも、シグナムは後方にいるシャマルに指示をする。

「うん……」

シャマルは現在位置より数歩下がってから騎士甲冑姿になる。

「『闇の書』は過去に悪意ある改変を受けて壊れてしまっている。今の状態で完成させたら、はやては……」

フェイトはバルディッシュ・アサルトを構え、シグナムから視線を逸らさずに告げるべきことを告げる。

「我々はある意味で『闇の書』の一部だ」

レヴァンティンの刃をフェイトに向けるシグナム。

互いに譲り合うつもりはない。

フェイトも覚悟を決める。

バルディッシュ・アサルトが『バリアジャケット、ソニックフォーム』と音声を発すると、現在の姿が金色に包まれ、バリアジャケットを纏っていく。

それは今までとは違って露出している肌は今まで以上に目立ち、ボディラインがくっきりとわかるほど薄いものだった。

防具としては両手両脚に装着されている手甲と足甲のみ。

それ以外は防具らしいものはない。

手甲と足甲の上に金色の翼のような物が展開されていた。

それは速度を徹底的に極めた象徴といってもいい。

『ハーケン』と続けて発してから、内蔵されているシリンダーを回転させてからカバーがヘッドへと戻っていく。

黄金の鎌刃がバルディッシュ・アサルトから出現して、フェイトは構えた。

「薄い装甲を更に薄くさせたか……」

「その分速く動けます」

フェイトは自らの姿の利点を述べる。

「緩い攻撃でも当たれば相当のものになるぞ。正気か?テスタロッサ」

(やっぱり見抜かれてる……)

シグナムの指摘どおり、この状態は『速度』が特化している分、『防御』という面は極限まで低くなっている。

今までと違い、一発でも食らえばそれが致命的なダメージにだって有り得る。

長期になればなるほど不利になるのだ。

だが、今までのままでは絶対に勝てないのだから、危険は承知で挑むしかないのだ。

「貴女に勝つためです。強い貴女に勝つためにはコレしかないと思ったから……」

フェイトは強い眼差しをシグナムに向ける。

シグナムもフェイトの決意に応じるようにして、天を仰いでから全身を紫の炎に包まれるようにして騎士甲冑姿へと切り替わる。

「こんな出会いをしていなければ私とお前は一体どれほどの友になれたのだろうか……」

「まだ間に合います!」

フェイトは留まるように言う。

「止まれん……。」

シグナムは正眼にレヴァンティンを構える。

ガシュンとレヴァンティンがカートリッジをロードすると、足元から紫色の魔法陣が展開される。

「我等守護騎士。主の笑顔のためなら騎士の誇りさえ捨てると決めた……」

それが本意ではない事はフェイトにはすぐに理解できた。

「心残りは『騎士』としてお前や野上と決着をつけたかった……」

最後にシグナムは騎士としての心残りを吐露した。

「もう止まれんのだ!!」

涙を流しながら、シグナムはこちらを見ている。

「フェイトちゃん……」

良太郎が言おうとしている事を理解したのか、フェイトは首を縦に振る。

強い笑みを浮かべて。

「止めてみせます!わたしとバルディッシュが!」

バルディッシュ・アサルトを構え、足元に金色の魔法陣を展開させた。

 

なのはとヴィータは場所を空へと変えて、戦闘を繰り広げていた。

突進するヴィータをなのはは右手をかざして魔法障壁を展開させて防ぐ。

(ヴィータちゃんの勢いが前と違って、弱い?)

なのはは正面から受け止めながらも違和感を感じていた。

魔法障壁越しに伝わる力は以前よりもはるかに弱く感じた。

それどころか、戦闘が始まってさほど時間が経っていないのにヴィータは息を切らしている。

「ヴィータちゃん。もしかして……」

なのははある仮説を立てた。

それはヴィータは既に満身創痍なのだと。

「シグナムの続きを言うと、あたし達が一番『闇の書』の事をわかってんだぁ!!」

ヴィータの一言は、なのはに決定的な疑問を抱かせるものだった。

「じゃあ、どうして!?」

レイジングハート・エクセリオンは次の一手を繰り出そうとする。

『アクセルシューター』

なのはの足元に桜色の魔法陣を展開させる。

ヴィータが警戒するように、上昇しながらも離れる。

なのはの周りに桜色の魔力弾が八個出現する。

「どうして『闇の書』なんて呼ぶの!?何で本当の名前で呼ばないの!?」

なのはの一言にヴィータは目を丸くしていた。

言われるまで気付かなかったというような感じだった。

「本当の……名前……」

ヴィータの呟きが風に流れて、なのはの耳に入った。

「本当の名前があったでしょ?」

なのははヴィータにレイジングハート・エクセリオンを構えてもう一度言った。

「………」

ヴィータはグラーフアイゼンを下ろしていた。

(攻撃をやめた?)

自信がないので疑問形になってしまうが、ヴィータから先ほどまでの鬼気迫るものはなりを潜めていた。

「あ」

ヴィータが目を大きく開いていた。

なのはは何故、そんな表情をしているのかがわからなかった。

ヴィータの視線を追うように周囲を見回すと、自分の周りに水色の鎖のような物が逃げ場を作らないようにあらゆる方向を囲っており、一気に縮まって絡み付いてきた。

ギシリともギチギチともいえるような音が鳴って、なのはの自由を奪った。

「く、ふうぅ!バ、バインド!?何故!?」

なのはは何故、誰が自分にバインドを仕掛けたのか皆目見当もつかなかった。

桜色の魔法陣も桜色の魔力弾も維持が出来ずに消えてしまっていた。

 

「野上、アレはなんだ。高町の身体に何か絡みついているぞ!?」

侑斗はバインドを知らないのだから無理はない。

「アレはバインドっていって、魔法で出来た鎖みたいなもので相手の動きを封じるのに使うんだよ……。でも何で!?」

侑斗の隣まで走り寄って良太郎はバインドで拘束されているなのはを見る。

「気をつけろ。何かいる……」

「うん……」

侑斗の表情はガラリと変わり、周囲を警戒する。

良太郎も侑斗が何を言いたいのかすぐに理解し、同じ様に周囲を警戒する。

この二人、人の『気』を感知するというような事は出来ない。

だが幾多の実戦によって培われた『勘』のようなものが働くのだ。

「人の姿が見えないのにいるように思える……。魔法でも使って姿をくらませているんじゃ……」

良太郎が見回すと、シャマルがいて鍔迫り合い状態になっているフェイトとシグナムがいた。

自分からは三人が見えるが、なのはとヴィータの戦闘を見るために移動しているここはシャマルを除く二人には死角となっているため視認できない位置になっていた。

「ぐわっ」という悲鳴のようなものが聞こえ、ドサっという音がした。

良太郎は振り向くと、そこには侑斗を気絶させたと思われる仮面の男がいた。

「侑斗!」

「人の心配より自分の心配をしたらどうだ?」

仮面の男は瞬時に懐に入り込んで、良太郎の鳩尾に一撃を見舞う。

「ぐほっ」

警戒はしながらも、何の対処も出来なかった。

「お前が最もこれからの事には障害になるからな。しばらく眠ってもらうぞ……」

くの字に曲がっている状態の良太郎の鳩尾に更に一撃を見舞う。

「がっ」

膝を折って、良太郎は前のめりに倒れて良太郎は意識を手放した。

既に仮面の男の姿はなかった。

 

「良太郎?」

眼前のシグナムのレヴァンティンを受け止めながらも、フェイトは先ほど良太郎の悲鳴のようなものが耳に入った。

「野上がどうかしたか?テスタロッサ」

「いえ、何でも……」

本当は良太郎の安否が気になるが、戦いに集中する。

「なのは?」

今度はなのはの悲鳴のようなものが耳に入った。

(変だ。何だろ。上手く言えないけどここには、わたし達以外の誰かがいるように思える)

単純な腕力ではシグナムには敵わないのでフェイトは速度を駆使して、後方へと退がる。

地に足着くと、バルディッシュ・アサルトを前にかざす。

『プラズマランサー』

バルディッシュ・アサルトをぶぉんと振ると、稲妻を帯びた黄金の魔力球が一個出現する。

バチバチバチバチという音を立てたまま、魔力球は留まっている。

(相手が魔導師で魔法を用いてるなら必ずどこかに糸口があるはず!)

フェイトは周囲を注意深く見る。

そこだけ空間の揺らぎのようなものが見えた。

「そこぉ!!」

迷わずに黄金の魔力球を向けて発射する。

魔力球は発射と同時に、形状を『球』から『槍』へと変えて飛んでいく。

揺らぎはさらに範囲を広くして揺らいでいた。

「はあああああああ!!」

フェイトはそのまま一気に間合いを詰めるようにして飛翔する。

風と一体になったかのような感覚が身体に来る。

凄まじく軽くバルディッシュ・アサルトを、目には捉えられない速度で振り下ろす。

三回切り付けてから、後方へと素早く下がる。

揺らぎが消え、そこには胸元に傷を負った仮面の戦士がいた。

(この人は!!)

以前に自分のリンカーコアを奪った相手だとわかると、警戒を強めバルディッシュ・アサルトを正眼に構える。

「この前のようにはいかない!!」

バルディッシュ・アサルトのカバーがスライドしてシリンダーが回転してまたカバーがヘッドに向かってスライドされると蒸気が噴出した。

更に攻撃を加えるために間合いを詰めようとする。

「ふんっ!!」

横から衝撃が走ってそのまま下に落下していく。

落下しながら自分を攻撃した犯人を見ると、そこには仮面の男がいた。

仮面の男がカードのような物を出現させて、消した。

「そ、そんな……」

フェイトの身体にも、なのは同様に水色の鎖のようなものが絡みついていた。

緊縛状態のなのはが「二人!?」なんて言っているのがフェイトの耳に入った。

 

仮面の男(便宜上:仮面A)は更に手元から七枚のカードを出現させて、自身の周囲に展開させる。

それらは水色の鎖となって、蛇のように動きながらシグナム、シャマル、ヴィータの身体に絡みついた。

その表情は共通して「何故!?」だった。

「この人数ではバインドも通信防御もあまり長くは持たん。早く頼む」

「ああ」

仮面の男(便宜上:仮面B)は仮面Aの言うように手早く仕事に取り掛かることにした。

右手を水平にして『闇の書』を出現させる。

シャマルからくすねたものだ。

『闇の書』のページを開いて、シグナム、ヴィータ、シャマルに向ける。

三人の胸元からリンカーコアが摘出される。

苦悶の声をあげるが、仮面Bはどこ吹く風で作業を続行する。

『闇の書』から黒ずんだレールのようなものが三人に向かって走り、黒ずんだレールは三人の魔力光の色に染まっていく。

「最後のページは不要となった守護者が差し出す。これまでも幾度かそうだったはずだ……」

仮面Bは淡々と『闇の書』に告げる。

『蒐集』

仮面Bに唆されるかたちで『闇の書』は蒐集活動を始める。

三人のリンカーコアを蒐集していく。

その兆候として、シャマルの身体が粒子状になって消え始めていく。

「あ……ああ……ああああああ」

シャマルの悲鳴が空しく響き、そこにはシャマルの姿はなくなり彼女が着用していた衣服が抜け殻のように残っていた。

「ぐ……ぐあぁ……あああああああぁ」

続いてシグナムもシャマル同様に、足元から粒子状になって悲鳴を上げながら消えていった。そこには着用していた衣服のみが残っていた。

「シャマル!シグナム!何なんだよ!?何なんだよ!?テメェ等ぁ!?」

緊縛状態のヴィータは仮面二人を睨みつける。

「プログラム風情が知る必要はない」

仮面Bはヴィータの問いに答えることなく、作業を続行する。

ヴィータは悲鳴を上げる。

「うおおおおおおおおお!!」

右耳に男の声が入ってきた。

右手をかざして水色の魔法障壁を張る。

男---ザフィーラ(人型)が右正拳を繰り出してきたが、難なく弾き飛ばす。

ザフィーラの振り上げた拳から血が噴き出た。

「そういえばもう一匹いたな……」

仮面Bは思い出したかのような口振りでザフィーラのリンカーコアを摘出する。

「ぐうぅ……ぐあああああああ」

リンカーコアが蒐集されるが、ザフィーラは拳を振り上げて仮面Bに向かってもう一度放つ。

水色の魔法障壁がザフィーラの拳を防ぎきった。

ザフィーラが落下していった。

ヴィータは顔を俯いたまま十字にバインドで緊縛されて宙にぶら下がっていた。

ザフィーラはうつぶせになって放置されていた。

「あの四人---なのはとフェイト、野上良太郎と守護者と共にいた男は大丈夫か?」

仮面Aが仮面Bに訊ねる。

「野上良太郎は電王にならなければただの人間、守護者と共にいた男も魔導師ではないから問題にはならん。なのはとフェイトには四重のバインドにクリスタルケージに閉じ込めてある。抜け出すまで数分の時間がかかるだろう」

「十分だ」

仮面Aは納得した。

「『闇の書』の主の目醒めの時だ」

仮面Bはカードを持ったまま自身の顔を撫でるようにして滑らせると、なのはへと変身した。

区別がつかないと思われるが、なのはのバリアジャケットのポイントカラーが青に対して、仮面Bが変身したなのははポイントカラーが赤色だった。(以後:赤なのは)

「因縁の終焉の時だ」

仮面Aもカードを持って顔を撫でるようにして滑らせると、フェイトへと変身した。

赤なのは同様にこのフェイトもバリアジャケットの赤でカラーリングされた部分が薄い紫となっていた。

(以後:紫フェイト)

準備が整ったところで倒れているザフィーラのそばに水色の魔法陣を展開させた。

 

「?」

はやては何故自分がここにいるのかわからなかった。

多分魔法なのだということは理解できた。

ここはどこなのだと周囲を見回す。

海鳴市の数あるビルのひとつの屋上だという事はわかった。

(何でわたし、ここにおんねやろ?)

「ザフィーラ!ザフィーラ、どないしたん!?」

いくら呼びかけてもザフィーラは起き上がる様子はない。

「君は病気なんだよ。『闇の書』の病気って呪い……」

赤なのはが告げた。

「なのはちゃん!?」

はやては声のする方向に顔を向けると、赤なのはがいた。

病室で見せた元気な笑顔はなく、とても冷たく恐ろしく感じた。

「もうね。治らないんだ……」

紫フェイトが続ける。

「フェイトちゃん!?」

やはりフェイトも病室で見せてくれた慎ましやかな笑顔はなく、冷たかった。

「え?」

二人に告げられた言葉を聞いても、今ひとつピンと来ない。

「『闇の書』が完成しても助からない……」

「君が救われることはないんだ……」

赤なのはと紫フェイトが交互に非情な宣告を告げていく。

「うっ!!」

『治らない』『助からない』と告げられて正気でいられる病人は殆どいないだろう。

はやても例外ではなく、そのように言われると内に秘めていた自身の覚悟が粉々に砕けてしまうほどだ。

だが何とか正気を保とうとしていた。

「……そんなんええねん。ヴィータを放して。ザフィーラに何したん?」

現在、絶望的な状況に置かれている自分よりも目の前でぐったりとしている二人を気にかけてしまう。

「この子達ね。もう壊れちゃってるの……。わたし達がこうする前から……」

「とっくの昔に壊された『闇の書』の機能をまだ使えると思って無駄な努力を続けてたんだ……」

赤なのはと紫フェイトはまだ続けている。

「無駄って何や!シグナムは!?シャマルは!?」

はやては良くない事とわかっててもひたむきに必死になっていたと思われる皆の努力を否定した事に怒鳴り、ここに姿のない二人の所在を訊ねる。

紫フェイトは顎でくいっと合図する。

はやてはおそるおそる後ろを振り向こうとする。

(大丈夫やんな。だってシグナムとシャマルやもん……)

はやては後ろにヴィータやザフィーラと同じ様に倒れているものだと思いながら振り向く。

「!!」

声にならない悲鳴を上げてしまう。

自分の目には風でバタバタとなびいているシグナムとシャマルが着用している服が映っていた。

正確には服以外、何も映っていなかった。

それが何を意味するのか、はやては瞬時に理解した。

大きく目を開いてしまう。

辛うじて保っていた自我までが崩壊しはじめようとしていた。

「壊れた機械は役に立たないよね……」

赤なのはが言う。

「だから壊しちゃおう」

紫フェイトが言う。

(な、何でこの二人。こんなに楽しそうに言うのん?みんな機械ちゃうで……。ちゃんとした人間やで……)

気分が悪くなる。

腹の底から湧き上がるモノがある。

それが何なのかはわからないが、決してよくないものだという事は理屈でなく、心が反応していた。

はやては二人がいる方向にもう一度、身体を向けるとヴィータとザフィーラを破壊しようとする赤なのはと紫フェイトがいた。

「あかん!お願い!!やめてぇぇぇ!!」

はやては必死に懇願する。

動けない足を引きずって、ヴィータとザフィーラの側まで行こうとする。

「やめてほしかったら……」

「力づくでどうぞ……」

挑発的な台詞と笑みを浮かべて、赤なのはと紫フェイトは破壊を実行する。

「何で!?何でやねん!?何でこんな!?」

はやてはやはり納得できないという言葉を二人に向けて放つ。

あまりに無慈悲だ。

あまりに理不尽だ。

自分達が一体何をしたというのだろうか。

わからない、わからない。

何故自分がこのような目に遭わないといけなのだろうか。

そう言いたかったが、それすら言う時間が惜しいとはやては思ってしまう。

「ねぇ、はやてちゃん……」

「運命って残酷なんだよ……」

二人が無慈悲な言葉をはやてに投げかけて実行した。

「やめてええええええ!!」

はやては涙を流し、手を差し伸べるがそれが届く事はなかった。

 

「うう……うん。クソぉ、まだ頭が痛い……。誰だか知らないが思いっきりやりやがって……」

気絶していた侑斗は目を覚まして、ダメージを負った後頭部を擦りながら立ち上がる。

横にはまだ気を失っている良太郎がいた。

そのうち目が醒めるだろうと判断すると、移動を開始する。

正直まだふらつくが歩くくらいなら問題ない。

そこには一人うずくまっている少女がいた。

「八神?何故?」

はやてが一人でここに来れる筈がない。

そもそもここで事を起こす事自体、はやてが知っているはずがないのだから。

「八神」

侑斗は、嗚咽を漏らしているはやての側まで歩み寄ってしゃがむ。

はやては涙を流しながら、顔を上げる。

「侑斗さん?侑斗さぁぁぁぁぁぁん!!うわあああああああああああん」

はやては侑斗だと認識すると胸に飛び込み、あらん限りの声で泣いた。

侑斗は、はやての背中を擦りながらも周囲を見回す。

そこには誰もいなかった。

あるのはシグナムとシャマルが着用していた服のみで後は何もなかった。

そうまるで最初から存在していなかったように。

「シグナムがシャマルがザフィーラがヴィータが、みんな、みんな居らんようになってもうたんやぁぁぁ!!」

はやては泣きながら、ここで起こった事をすべてを話してくれた。

自分の後ろでたたずんでいる赤なのはと紫フェイトを侑斗は睨みつける。

「こいつ等、高町やテスタロッサじゃないな……」

侑斗は睨みながら言うが、宙に浮いている二人は侑斗を見ていた。

「早く逃げた方がいいよ」

「とばっちりに遭わないうちにね」

二人は侑斗にそう警告した。

「ぐうぅっ」

はやては胸元を押さえてうずくまっていた。

「くはぁ……かはぁ……」

苦しみながらも息を吐いているはやての頭上には蒐集を終えた『闇の書』が、足元にはベルカ式の魔法陣が展開していた。

「八神!どうしたんだ!?おい、八神!」

「ゆ、侑斗さん……」

はやては苦しみながらも、笑顔を浮かべている。

「馬鹿!俺の事なんか気にかけずに自分の事を考えろ!お前、どう見たって普通じゃないぞ……」

「早よ逃げて……。な?お願いや……」

はやてが笑顔を浮かべながら自分に懇願する。

こんな事を言うという事は、はやて自身変化が訪れることを予測しているのだろう。

 

「うわあああああああああああああああ!!」

 

はやてがあらん限りの声を上げた。

まるで獣の咆哮のように。

紫と黒が混じったかのような柱が、はやてを中心に生じた。

「我は『闇の書』の主なり……。この手に力を……」

その中で虚ろな目をしているはやては『闇の書』を手にしていた。

 

「封印解放……」

 

はやてが短く告げると『闇の書』は『解放』と短く発して、はやては肉体がどんどん変化していく。

成人女性の身体になってからショートヘアがロングヘアになり、露出している左足には赤いバンドのようなものが絡みつき、同じ様に右腕にも赤いバンドが絡みつく。

左腕には赤い紋様が施され、閉じていた瞳ははやてとは違って真っ赤だった。

両頬にも赤い紋様が浮かび、こめかみ辺りに羽飾りのようにも思える黒い翼が施されており、衣装も黒をメインとしてポイントカラーとして金色の装飾がなされていた。

背部にも黒い翼が展開され、完了した。

 

「八神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

侑斗の叫び声が海鳴の夜に空しく響く。

 

この日、一つの家族が消滅し、一つの『闇』が降臨した。




次回予告


第四十九話 「八神はやてをめぐる二人の男」
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