八神家では現在、夕飯の支度に取り掛かっていた。
取り掛かっているのは家主の八神はやてと居候のイマジン---デネブである。
「一ヶ月経つけど、デネブちゃんは謎やね」
はやては笑みを浮かべて器用に車椅子で移動しながら食事の支度をしていく。
「何が?八神」
デネブは自分が何故謎扱いされているのかわからない。
「だって、そんなゴツゴツした手であれだけ器用に料理できるんやもん」
「うーん」
はやてに指摘されてデネブは自分の両手を見てうなる。
「シャマルが不器用と同じ理屈だろ」
風呂場を掃除していた桜井侑斗がデネブに助け舟をよこした。
「そうかもしれへんね。あ、侑斗さん、ありがとうな」
はやては侑斗の一言で納得した。
「湯はまだいれてないぞ。いいのか?」
はやては壁時計を見る。
「まだみんな帰ってへんし、もうちょっと経ってからいれてな」
「わかった」
侑斗は頷くと、ソファに座ってテーブルに置いてある今日の新聞を手にして、テレビ欄を開く。
「さすがに年末になると、特番が増え始めてるな」
どの年代でも変わらないものだと侑斗はしみじみ思ってしまう。
「侑斗さんはどんな番組が好きなん?」
はやてはキッチンからこちらに移動してきた。
食事の準備を粗方済ませたか、デネブに任せたかのどちらかだろう。
「特にコレといって好きなものはないな」
侑斗はテレビ番組を見るとき、退屈しのぎを前提に見ているため特に好んでみるわけではない。
これはゼロノスカードを手にし、デネブと共に戦う以前から変わっていないものだ。
「お前はどうなんだ?八神」
今度は侑斗がはやてに訊ねる。
「わたし?」
「ああ、どうなんだ?」
「そうやね。まあ、お料理番組も好きやし、お笑いも嫌いやないし、ドラマやアニメも好きやな」
はやては指で数えながら言い始める。
「その割にはどれも見ているところをみたことないぞ」
侑斗は、はやてが述べた全てを彼女が見ているところをこの一ヶ月間、あまり見たことがない。
「あいつ等や俺達に気を遣ってるんだったら遠慮するな。お前は家主といっても子供なんだからな」
侑斗はそう言いながら、テレビのリモコンをはやてに渡す。
「夕飯はデネブがやるんだろ?お前はゆっくりとくつろいでろ」
侑斗はそう言いながら、テレビ欄から地方記事へと目を通していく。
「う、うん」
はやては侑斗の厚意に甘えながら見たい番組を見ることにした。
その直後、電話が鳴り出した。
「誰やろ?」
「俺が出る。必要なら代わる」
はやてが受話器を取ろうとするが、侑斗が遮る。
「もしもし……」
『侑斗君、シャマルです』
「どうした?八神に代わる必要があるなら代わるが……」
『実はですね……』
シャマルが言いたい事がわかったので、侑斗ははやての視線に自分の表情が入らないような体制で受話器を持つ。
「野上達がこっちに来た?それでシグナムとヴィータが戦っているってわけか……。ザフィーラは?」
侑斗は小声で訊ねる。
『今、似たようなタイプの女の子と交戦中です』
シャマルの言う似たようなタイプという言葉だけで侑斗には自ずと想像できた。
つまり、獣にも人にもなれるということだ。
「どちらが野上と戦ってるんだ?」
『多分、シグナムだと思います』
「どのタイプの電王で戦うかにもよるな。どんな電王かわかるか?」
『時間をかければ何とか……』
侑斗は、はやての目を気にしながら続ける。
はやてはテレビに夢中だった。
こちらの会話は聞こえていないだろう。
「とにかく無茶だけはするな。野上達の事は一応教えたが、それはあくまで俺が知る範囲でのことだからな」
『わかりました。なるべく早く帰ります』
そうシャマルが告げた直後に、侑斗は受話器を切った。
「侑斗さん。誰?」
「シャマルだ。オリーブオイルが見つからないから遠出したみたいだな。あと、他の連中も拾って帰ると言っていたぞ」
「そか。ありがとうな」
はやては笑みを浮かべて軽く頭を下げる。
「侑斗。さっきの電話は……」
デネブは夕飯の支度を終えたらしく、侑斗に電話の内容を尋ねる。
「おまえの予想通りだ」
侑斗がそう告げると、デネブは沈んだ表情となった。
「デネブ、八神の前でそんな顔をするな。いつも通りに振舞ってろ」
侑斗はデネブの心中を理解しながらも、非情な言葉を投げかけた。
*
封鎖領域が張られている海鳴市のとあるビルの屋上。
緑色をメインにした衣服を着用している女性---シャマルがいた。
彼女の足元には買い物袋が置かれていた。
彼女が見つめる空にはオレンジ色と青色の魔力光がぶつかり合っていた。
「……そう。なるべく早くに確実に済ませます」
シャマルは右手の人差し指と薬指にはめている指輪を見る。
「クラールヴィント。導いてね」
そう告げると、二つの指輪---クラールヴィントは応える様にして動き出した。
指輪型である『リンゲフォルム』から振り子型の『ペンダルフォルム』へと変形して、作業を開始した。
彼女の表情は真剣なものだった。
アルフとザフィーラは空中で激しい戦闘を繰り返していた。
「良太郎が電王になった!アンタの仲間は負けるよ」
アルフが構えを解かず、自信を持って対峙している男性---ザフィーラに告げる。
「負けるのは電王だ。シグナムが負けることなどない」
ザフィーラは拳を強く握り締めてシグナムが勝つ事が当然、電王が負ける事が当然というような口調で言う。
「そうかい。だったら言ってやるよ。良太郎はあたし達の常識が通じない奴だってね」
アルフは右拳を前に出して、笑みを浮かべてザフィーラに告げた。
ライナー電王がデンカメンソードを中段に構え、シグナムもレヴァンティンを中段に構えていた。
この膠着状態が続いてから、既に一分が経過していた。
(良太郎もあの人もさっきから全く動こうとしない……)
互いの出方、もしくは一瞬の隙をうかがっているのだろうとフェイト・テスタロッサは推測した。
二人から噴き出ている空気が更に重くなる。
(息が苦しい……。何て張り詰めた空気なの……)
シグナムの足がゆっくりと半歩、ライナー電王に近付く。
(動いた!良太郎は?)
フェイトはシグナムの行動を見てからライナー電王を見る。
ライナー電王も怯まずに一歩、シグナムに近付いた。
「行くぞ……」
「どうぞ……」
シグナムの宣言にライナー電王は応じた。
両者共に駆け出して、各々の得物を振り下ろす。
ガキィンという音を立てて、火花が飛び散る。
ライナー電王はデンカメンソードを右手で持ち、左手を離して拳を作って殴りかかる。
「なっ!?」
シグナムは咄嗟に後方へと退がる。
ライナー電王の左フックは空を切るかたちとなり空振りとなった。
「なるほど、剣を持ってはいるがそれを『主』とするわけではないようだな」
シグナムは笑みを浮かべていた。
「剣のぶつかり合いで勝てても、そこから先の乱撃で勝てるとは思いませんから」
フェイトはデンカメンソードとレヴァンティンを比べる。
デンカメンソードは剣としては大型で一撃の威力は大きいが、乱撃には向かない。
乱撃をするためには巧みに、そして素早く剣を操る必要があるからだ。
対してレヴァンティンは剣としてはごく一般的な長さであり、その一撃の威力はデンカメンソードよりは劣るだろう。
だが、乱撃の際には素早く操る利点がある。
乱撃に持ち込まれれば、ライナー電王が負ける可能性は高いだろう。
(初撃は良太郎の勝ち、でも問題はこれからだよ。良太郎)
フェイトは良太郎の勝利を信じながら、これからの戦いを観戦する事にした。
「レヴァンティン。私の甲冑を」
シグナムがレヴァンティンを何か儀式めいていた構えを取ってそう愛刀に指示を下した。
全身に紫色の魔力が纏われる。
「甲冑……、鎧……。防御系」
ライナー電王はシグナムの言葉をヒントにして彼女が何をしたのかを推理した。
デンカメンソードのターンテーブルを回転させるためのレバーであるデルタレバーを左手で握り、三回引く。
『ウラロッド、キンアックス、リュウガン』
デルタレバーを離してライナー電王は先程までとは違い、不規則なステップを踏みながら間合いを詰める。
片手で持ったデンカメンソードを右袈裟に振り下ろす。
バシィンという音を立てて、弾かれた。
その場でクルリとターンしてデンカメンソードでシグナムの胸元にに突きを入れる。
しかし、これもバシィンと音を立てて弾かれる。
弾かれた勢いで二、三歩退がる。重力に逆らえず正確には退がってしまったといったほうがいいだろう。
「悪くない一撃だ。さっきの突きも通常なら確実にダメージを与える事が出来るだろうな」
シグナムの全身を纏っていた紫色の魔力は消える。
(一時的なもので持続は出来ないんだ……)
ライナー電王はシグナムと間合いを開ける。
攻撃としては失敗だが、相手の手の内を得るという点では十分に成功だった。
「だが、ベルカの騎士に一対一を挑むには……まだ足りん!!」
そう告げたと同時に眼前のシグナムがライナー電王の視界から消えた。
「消えた?」
「良太郎!上!」
フェイトの言葉にライナー電王は頭上を見上げる。
「!!」
上段の構えを取ってレヴァンティンを振り下ろそうとしているシグナムがいた。
「遅い!」
(剣で防ぐか、でも次の乱撃に持ち込まれたら防ぎきれない!こうなったら!)
デルタレバーを素早く引く。
『モモソード』
そして、デンカメンソードをシグナムの眼前に向かって投げ、自身は後方へと飛び退いた。
「何っ!?」
「ええっ!?」
シグナムとフェイトは驚愕の声を上げた。
しゃがみ込む姿勢をとりながら、右手で下がる勢いを殺すために地面に付ける。
足の裏からコンクリートの粉塵が舞う。
デンカメンソードをシグナムは左手で払いのけて、地に足を着ける。
払いのけられたデンカメンソードはまるで伝説の勇者の剣のように地に刺さった。
「正気か?貴様……」
「良太郎……」
ライナー電王は立ち上がり、腰元にあるデンガッシャーのパーツを外していく。
四つのパーツは一つの形となり、赤いオーラソードが出現する。
デンガッシャーソードモード(以後:Dソード)となった。
何事もないようにライナー電王は八双の構えを取る。
「得物は一つではない、か。面白い」
シグナムは中段にレヴァンティンを構えながら言う。
(来る!)
ライナー電王がそう感じた時にはシグナムは逆袈裟を狙って刃を振り下ろす。
Dソードで受け止める。
チチチチと火花が飛び散る。
鍔迫り合いから離れると、間合いを開けずに右薙ぎに狙いをつけようとするのでDソードの柄となる部分でハンマーを振り下ろすようにレヴァンティンに叩きつける。
「くっ!」
レヴァンティンから伝わる衝撃がシグナムの両腕にまで来る。
一時的な麻痺だ。
「やああああああ!!」
そのままライナー電王の攻撃が始まる。
逆袈裟、袈裟、右切り上げと斬撃を繰り出していくが二撃をレヴァンティンで受け止められ、最後にいたっては半歩退がるだけで避けられてしまう。
「はあああああ!!」
シグナムが唐竹、左薙ぎと狙い、最後に刺突を繰り出してくるが、一撃目をDソードで受けて、二撃目も素早くDソードを運んでレヴァンティンを防いで三撃目は上半身を捻って避けた。
「はあ……はあはあ……はあ……」
ライナー電王が息を乱し始めた。
生きるか死ぬかの戦いは何度もやっているが、こうまで相手に決定打を与えさせずに、また与えずに長丁場になったケースはほとんどない。
「どうした?息切れか。ならば仕留めさせてもらうぞ」
シグナムがレヴァンティンを正眼に構える。
レヴァンティンの刀身の一部がスライドし、薬莢のようなものが排出されると蒸気が噴出される。
「良太郎!気をつけて!強力なのが来るよ!」
「わかってる!」
フェイトのアドバイスにライナー電王は頷いた。
「うらああああああ!!」
モモタロスが憑依したユーノ・スクライア---Mユーノがヴィータと空中戦を繰り広げていた。
振り下ろしたグラーフアイゼンを両手で受け止める、そのまま背負い投げのようにして投げ飛ばした。
「うわああああああ!」
ヴィータは上下逆さまになって後方へと飛ばされた。
「逃がしゃしねぇぞ!!」
Mユーノは後方へと飛んでいくヴィータを追うようにして空を翔ける。
(す、すごい。僕が飛んでる時よりずっと速い)
深層意識の中にいるユーノが自身と現在を比較した。
「へっ、そうかよ。ユーノ、身体借りといて何だけどよ。下手するとボロボロになるかもしれねぇぞ?」
(わかってます。あの子と戦うと決まったときから覚悟は決めてましたから)
「上出来だぜユーノ。じゃあ、行くぜぇぇぇぇ!」
二人の会話が終わると、Mユーノが拳を作って右腕を振りかぶってヴィータに狙いを付ける。
体勢を立て直したヴィータは逆さまから正位置に戻って左手に小型の鉄球を出現させる。
「食らえええ!!赤鬼ぃぃぃぃぃ!!」
シュワルベフリーゲンを放つ。
魔力を帯びた鉄球がMユーノを狙ってくる。
「ユーノ!魔法使うぜ!」
Mユーノは右拳を解いて開手にしてから翡翠色の魔法陣を展開させる。
バチィンと音を立てて鉄球の一個はそれで防ぐ事が出来たが、まだ二個ほどが後方へ移動して狙ってくる。
(後ろから来ます!)
ユーノのナビを聞きながらMユーノは方向を転換しながら左手を薙ぎ払うようにして空を掻く。
「よしっ!」
Mユーノは成功したことに喜びの声を上げる。
左掌には二個の鉄球が納まっていた。
(あの鉄球をキャッチしたんですか!?)
「避けるより楽だから……な!!」
そう言いながら鉄球二個を持ち主に向かって投げ返すMユーノ。
「直球だったのがまずかったなぁ!赤鬼ぃ!」
鉄球が射程内に入ると、グラーフアイゼンを振るヴィータ。
鉄球にまた魔力を帯びて、Mユーノに向かってくる。
(モモタロスさん、またさっきのやつできませんか?)
「無茶言うなよ。さっきのは完全にマグレだぞ」
(えええ!?自信満々だったじゃないですか!)
「うるせぇ!こうなったら赤チビに当てさせるしかねぇな!」
(あの鉄球はあの子の意思でコントロールしてると思います。自滅は無理ですよ)
ユーノの解説にMユーノは悔しがる。
「だったら!」
Mユーノはヴィータと間合いを詰める。
「これならどうだぁ!!」
ヴィータとの間合いが詰まると右足を突き出して蹴りの姿勢をとり、矢もしくはミサイルのようにヴィータに向かっていく。
空を切り裂くような勢いで真っ直ぐに向かっていく。
右脚には掌で展開する応用で翡翠色の魔法陣が展開される。
迫ってくる鉄球二個を破壊しても勢いはそのままだ。
「思ったより速い!?」
グラーフアイゼンの棒部分で受け止める。
「ぐっううううう!!」
勢いは凄まじいのかヴィータは踏ん張る。
だが、それでも後ろへと下がっていく。
Mユーノの蹴りの勢いが止まると、ヴィータも止まった。
「休んでる暇はねぇぜ!赤チビ!」
右フック、左フックと繰り出すがヴィータは一歩、二歩と下がって避ける。
「今度はこっちの番だああ!!」
グラーフアイゼンを上段に構えて、振り下ろす。
「甘ぇよ!」
その隙に乗じて、ヴィータとの間合いをゼロに右ボディブローをヴィータに叩き込む。
「ごほっ」
ヴィータはくの字になって身体を曲げていることを勝機と狙ったMユーノはグラーフアイゼンをひったくってから左足を軸足にして右回し蹴りを放つ。
「うわあああああああ!!」
防御も取れないヴィータはそのままビルに叩きつけられた。
ドコォンという音を立てて壊れたビルの壁がパラパラと地上に降っていく。
「ぐっ」
Mユーノは右手で胸元を押さえる。
「やべ。無茶しちまったからな。身体にガタがきだしたぜ」
(もしかして、この状態でいられる時間が……)
「オメェの予想通りだ。もうそんなに長くは憑けねぇ……」
ユーノの心配している事にMユーノは頷く。
その証拠に身体全身が急に悲鳴を上げるかのように震えていた。
その震えを強引に押さえるようにして、拳を作る。
「次でケリつけるぜ」
(はい!)
Mユーノは左手に握られているグラーフアイゼンを右手に持ち替えた。
更に、上下を逆にしてキャッチする。
ヴィータがいるビルまで来ると、Mユーノは素手でこちらを睨んでいるヴィータと対峙する。
「もう終わりかよ?赤チビ」
「言ったなぁ!赤鬼!!」
Mユーノの挑発に乗ったヴィータは両手で鉄球を四個出現させて、投げつけた。
「これで終わりだぁ!赤チビィ!」
Mユーノは上下逆のグラーフアイゼンを右薙ぎに振って、鉄球四個を全て、弾き飛ばしてからヴィータの喉元に突きつけた。
「はあ……はあはあはあ……。これまでだよな?赤チビ」
「ぐっ」
ヴィータは心底悔しい表情をしていた。
その直後、Mユーノからユーノとモモタロスに分離した。
「ユーノ君とモモタロスさん、どうしてるかな……」
ユーノが張ってくれた魔法陣の中で高町なのはは先程戦いにいった二人(正確には一人と一体)の安否が気になった。
「まあ、あの状態がどんなものかわかんないけどさ。センパイが憑いてるから無茶はしそうだね」
ウラタロスがモモタロスの性格を考えてありえそうなことを口に出す。
「しかし、カメの字。イマジンが魔導師に憑いたらどうなんねやろな?」
キンタロスは今まで憑依した中では未知ともいうべき存在に憑いた場合の事を考える。
「クマちゃんが珍しく考え事してるよ!」
リュウタロスが考え込んでいるキンタロスをはやし立てた。
「リュウタ。その内寝るからほっときなさい。ったくバカモモにも困ったものね」
コハナが予測できる展開を告げてから、モモタロスの行動に苦笑していた。
「にゃはは……」
『半年経ってもこの光景を見るのはいいですね』
なのははこの光景を見るたびに思う。
とても力強く、そして優しい空気が漂っていると。
彼等から噴出すこの空気に自分はどれだけ励まされ、どれだけ勇気付けられたか。
『マスター』
レイジングハートがなのはに呼びかけた。
「レイジングハート……」
なのはは自分同様に傷を負っているレイジングハートを見る。
レイジングハートは桜色の翼を展開する。
『撃ってください。スターライトブレイカーを』
「「「「ええええええ!!!!」」」」
レイジングハートの宣言に驚いたのは、なのはではなくイマジン三体だった。
「マジで撃つの!?」
「その状態で、なのはバージョンを撃つんか?やめとき!」
「そうだよ!なのはバージョンなんて撃ったら木っ端微塵になっちゃうよ!」
ウラタロス、キンタロス、リュウタロスがレイジングハートに止めに入ろうとする。
「なのはちゃん、レイジングハート。考え直した方が……」
コハナもレイジングハートの発言には反対のようだ。
「あの……、みなさん。どうしてスターライトブレイカーをなのはバージョンなんて言うんですか!?」
なのはは涙目で訴える。
『なのはバージョン』というのは彼女のトラウマにさえなりかねない単語だ。
三体のイマジンの反応はというと、
「「「え?アレってなのはバージョンじゃなかった(んか)の?」」」
「スターライトブレイカーですっ!!」
なのはは大声で三体にそう告げた。
「でも無理だよ。そんな状態じゃ……」
なのははレイジングハートの容態を気遣う。
『撃てます』
レイジングハートは短く告げた。
それはまるで撃つ事を急かしているかのように。
「本当にいいの?」
なのはは念を押すように訊ねる。
『私は貴女を信じています。だから貴女も私を信じてください』
「レイジングハートが信じてくれるなら、わたしもレイジングハートを信じるよ!」
ユーノが展開した魔法陣は消え、代わりに桜色の魔法陣が展開して、なのははレイジングハートを夜空に向かって掲げた。
「しょうがない。後の責任は僕等が持つよ」
ウラタロスは大人な態度でなのはに告げる。
「なのは、思いっきり撃ったれ!骨は俺等が拾ったる!」
キンタロスが右親指で首を捻ってから堂々と言う。
「なのはちゃん。やっちゃええ!」
リュウタロスは精一杯の台詞で別世界の友達を応援する。
「なのはちゃん。後のことは私たちに任せて、全力で撃っちゃって!」
コハナもなのはとレイジングハートの意思を尊重した。
別世界の仲間たちの声援を受けて、なのはは念話の回線を開く。
相手はユーノ、フェイト、アルフだ。
(ユーノ君、フェイトちゃん、アルフさん。わたしが結界を壊すからタイミングを合わせて転送を!)
((無理!))
(ええええ!?)
ユーノとフェイトから即答された。
なのはとしてみれば意外な返答だった。
(アンタ達、無理って何があったんだい!?)
即答した二人にアルフが訊ねる。
(僕は全身激痛が走って動けないんだ。とてもじゃないけど転送なんてデリケートな作業は出来ないよ)
(まだ良太郎が戦ってるんだ。転送するなら良太郎達も一緒じゃないと!)
二人の意見を聞き、なのはは考えてから確認するかのように三人に訊ねる。
(転送は無理でも、結界を破壊する事によってクロノ君達にこっちの状況を見せることは出来るんだよね?)
(そりゃ、まあそうだけど……)
(クロノ達の情報収集になるだけでも撃つ価値はあると僕は思うよ)
(なのは。わたし達の事は気にせずに、なのはの気の済むようにやっていいよ)
アルフ、ユーノ、フェイトがなのはの意見を後押しした。
「ありがとう。みんな!」
なのはは決意が篭った瞳で夜空を見上げながら、レイジングハートを夜空に向けた。
桜色の魔法陣が宙で展開された。
桜色の光が収束されていった。
シグナムが炎を纏っている状態のレヴァンティンでライナー電王へと切り込むために、間合いを詰めてきた。
(恐らく、あの状態の剣がフェイトちゃんのバルディッシュをあんな状態にしたんだ)
ライナー電王は再会して直後のフェイトが持っているバルディッシュを思い出した。
溶けたような切断面。
何か焼けるようなものでもない限り、あんな風になるはずがない。
(デンガッシャーで防げるかな……)
手にしているDソードを見てから、自分からして右に突き刺さっているデンカメンソードを見る。
目測して約五メートル。
(よし!チャンスは一回しかない!)
ライナー電王はDソードを構えて右に二歩ほど歩む。
「逃がさん!」
(かかった!)
シグナムの台詞でライナー電王はこちらの思惑には気づいていないと判断した。
紅蓮の炎を纏ったレヴァンティンとDソードがぶつかる。
「くっ!うううう」
Dソードで押さえている両腕にも炎の熱さが伝わる。
左手をDソードから離して、ケータロスのチャージアンドアップスイッチ(中央の銀色のボタン)を押す。
『フルチャージ』
電子音声で発すると同時にデンオウベルトからフリーエネルギーがDソードへと伝導されていく。
「やああああ!!」
Dソードが粉々になるのを覚悟して、鍔迫り合い状態のままにしながらゆっくりと右へと足を運ぶ。
Dソード全体に亀裂が走り、箇所から煙が立ち始める。
「今だ!」
「なにっ!?」
ライナー電王はDソードを離して、右へと飛ぶ。
Dソードは爆発し、シグナムの視界を奪うように爆煙が立った。
ライナー電王はそのまま前転してから起き上がり、突き刺さっているデンカメンソードを引き抜く。
「あの光は……、フェイトちゃん!なのはちゃん、何かする気!?」
ライナー電王は桜色の光を見ているフェイトに訊ねた。
「アレを撃つよ!」
フェイトはシグナムの手前を考えて『アレ』と称した。
ライナー電王にはそれだけで何を意味するのか理解できた。
「結界を壊すんだね」
「うん」
ライナー電王はDソードの爆発で生じた爆煙を払いのけたシグナムを見る。
「やってくれたな。武器の爆発を利用して目くらましにし、もう一振りの剣を手にしたか」
「その剣でやられたバルディッシュを見ましたからね」
見ていなかったらこの作戦を思いつき、実行など出来なかっただろう。
「なるほどな。どうやらお前は私の予想よりも遥かに強いようだな」
シグナムは笑みを浮かべる。
そして、レヴァンティンのグリップ部分に弾丸のようなものを放り込んだ。
「私はベルカの騎士ヴォルケンリッターの将、シグナム。そして我が剣レヴァンティン。お前達の名は?」
そしてレヴァンティンを構える。
「僕は、野上良太郎。この姿は電王で、これはデンカメンソードです」
ライナー電王はシグナムの自己紹介の真似をして、デンカメンソードを構える。
「ミッドチルダの魔導師。時空管理局嘱託フェイト・テスタロッサ。この子はバルディッシュ」
二人の戦いを観戦していたフェイトもまた同じ様に自己紹介をした。
「野上にテスタロッサ。そして、バルディッシュか……。その名は忘れん」
レヴァンティンは主の思いを察するかのように薬莢を排出させた。
それはまた、あの技の発動を意味する。
「そろそろ終わりにしよう。野上」
「そうですね」
この戦いを終わらせるような台詞をはくと同時にレヴァンティンの刀身に炎が纏われ、ライナー電王はデルタレバーを押し込んだ。
『モモソード』
デンカメンソードは電子音声でそう発した。
ヴィータは『死』を覚悟した。
生きるか死ぬかの戦いに身を投じた以上、それは当然の心構えだった。
(はやて、ごめん。おデブのキャンディー食べたかったなぁ)
ヴィータはそんなことを思いながら、モモタロスもしくはユーノのとどめの一撃を受け入れる事にした。
だが、その一撃はいつまで経っても来なかった。
目を開いてみると、グラーフアイゼンを持ったモモタロスが立っており、ユーノは仰向けになっていた。
「赤鬼……」
「よぉ、目ぇ閉じて死ぬ覚悟でもしたのかよ?」
モモタロスがヴィータの内心を読むかのような台詞を吐く。
「う、うるせぇ!やるんだったらさっさとやれよ!」
モモタロスはグラーフアイゼンを二回ほど宙に浮かせてから、ヴィータに向かって投げつけた。
それはヴィータには当たらずに、後ろにいるヴィータの壁に当たった。
「んな事、誰がするかよ。仮にやったとしたら俺が良太郎にどやされるぜ」
「りょうたろう?」
「ま、とにかくだ。俺はオメェを殺す気はねぇから安心しろ。赤チビ」
そう言いながら、モモタロスは仰向けになっているユーノを背に乗っける。
「すいません」
モモタロスの背に乗っかっているユーノが弱弱しく言う。
「気にすんなよ。それより戻ろうぜ」
「待てよ……」
ヴィータがユーノをおぶっているモモタロスを呼び止める。
「オマエ、マジで電王がシグナムに勝てると思ってるのかよ?」
モモタロスは振り返らずに告げる。
「当たり前ぇだろ。アイツ舐めんなよ」
と。
デンカメンソードの刃先からオーラレールが出現し、地面スレスレのところで敷かれる。
ライナー電王がオーラレールに飛び移り、滑るように走っていく。
その中で構えを取る。
刃先は袈裟を狙う位置となっている。
ライナー電王を覆うようにしてオーラライナーが出現する。
シグナムはレヴァンティンを上段に構えたままこちらに向かってくる。
正面から挑むということだ。
「電車斬りぃぃぃぃぃ!!」
「紫電一閃!!」
オーラライナーと紅蓮の炎がぶつかる。
「くっうううううう!!」
「ぬううううううう!!」
ライナー電王とシグナムが睨みあう。
互いに渾身の力を振り絞っての一撃。
目の前の相手を倒すための一撃だ。
勝てばいい。
その後のことはその後で考えればいい。
今二人の身体を支配しているのはそんな感情だ。
「うっ!」
ライナー電王が徐々に押されていく。
「桜井の予想は覆る事はないようだな!」
シグナムが押されているライナー電王を勝利宣言のような言葉をぶつける。
(侑斗の予想?)
恐らく自分がシグナムに勝つ事はないといったのだろう。
更にライナー電王は押されていく。
地面が抉れていく。
(このままじゃ……負ける!!)
敗北を予感したときだ。
「良太郎!」
フェイトの声がした。
ライナー電王はフェイトを見る。
自分の勝利を信じてくれている目だ。
フェイトは拳を作ってグッとする。
大丈夫。良太郎なら勝てるよ!と物語っていた。
ライナー電王は首を縦に振ってから、シグナムを睨む。
「やあああああああああ!!」
自分とて別世界
ここ
に来るまでの間、遊んでいたわけではない。
命ギリギリの出来事に何度も出くわし、それでも乗り越えてきたのだ。
その経験が今、彼の殻をひとつ破った。
「な、何!?」
シグナムが驚愕の表情を浮かべる。
ライナー電王がまた押しているのだ。
シグナムが押されていく。
「私とて負けられぬ理由がある!」
踏ん張るような台詞をはくが、それでも退がっていく。
「ああああああああ!!」
獣のような咆哮を挙げ、ライナー電王はあらん限りのフリーエネルギーを込めた一撃をデンカメンソード漉しにシグナムにぶつけた。
「ふ、防ぎきれん!?うわあああぁぁぁぁ」
シグナムはライナー電王が放った一撃をまともに受けて、後方へと吹き飛ばされた。
宙に舞い、何もしないシグナムをライナー電王は見る。
「はあ……はあはあはあ……。どうして、飛ばないの!?」
「多分、さっきのでシグナムの魔力は尽きたんだと思う……」
フェイトが良太郎の側に駆け寄ってから言う。
「助けないと……」
ライナー電王はデンカメンソードのデルタレバーを三回引く。
『ウラロッド、キンアックス、リュウガン』
デンカメンソードを左手に持ち替えて、右手で何がしかのサインをする。
デンバードⅡがひとりでにこちらに走って、停車した。
「シグナムさんを助けたら、多分僕もダウンすると思うから後は任せていい?」
「もちろん!任せてよ」
フェイトは笑顔で応じてくれた。
デンバードⅡをモード2(スライド変形状態)にすると、飛び乗り、落下していくシグナムより速く降下していく。
そして、フェイトを助けたときと同じ要領でシグナムを抱きかかえる事に成功した。
「ん……。野上……何故……」
「よかった……。てっきり空を飛ぶなりして対処すると思ったんですけど、まさか魔力がゼロになったなんて思いませんでしたから」
シグナムは先程の一撃で意識を失っていたらしく、ライナー電王に抱きかかえられ、先程の戦場となったビルの屋上に戻っていく中で意識を取り戻した。
「野上」
「ん?何です」
「すまないが、そろそろ降ろしてくれないか……。この状態はその……あまり……」
シグナムは自分が抱きかかえられている状態に羞恥心があるのか、頬を染めている。
「屋上に着いたら降ろします。それまでは我慢してください」
ライナー電王はシグナムの意見を流して、デンバードⅡの速度を速めた。
屋上に着くと、デンバードⅡから降りる。
シグナムをゆっくりと地面に寝かすと、フラフラな足取りでフェイトに歩み寄る。
デンオウベルトを外すと、野上良太郎に戻る。
「……もう限界」
膝に地を着け、そのまま良太郎は前のめりに倒れた。
「お疲れ様。ありがとう良太郎」
とフェイトの声が聞こえたような気がした。
「まさか……ヴィータに続いてシグナムまで……」
「言ったろ?良太郎はあたし達の常識なんて簡単に破るってさ!」
獣状態になっているアルフとザフィーラは睨みあい、互いの出方を窺いながらもそのような対話をする。
ザフィーラとしみてればヴィータの敗北はありえなさそうでありえるといったところだった。
感情的になりやすいという欠点を知っているからだ。
だが、シグナムが負けることに関しては万が一にもありえないことだった。
いくら電王が強いといっても侑斗から聞いた情報では負けることはないと思った。
それが覆された。眼前にいる自分と似たタイプの者の予言通りに。
「だが……、勝負に負けても戦いには勝つ!」
「はあ?何言ってんだい?アンタ」
ザフィーラの言葉にアルフはそれが何を意味するのかわからなかった。
なのはは空に向けて、レイジングハートを掲げている。
桜色の魔法陣が足元と、レイジングハートの前に展開されている。
更にその前には桜色の魔力が凝縮されている球が練り上げられている。
「レイジングハート!カウントを!」
『オーライ!カウント9』
球が更に大きくなる。
「威力は絶大だけど、時間もかかる。長所と欠点がもろにわかりやすい技だよね」
ウラタロスはスターライトブレイカーについて客観的な意見を述べる。
『8、7、6』
レイジングハートが更にカウントを数える。
「何かこの瞬間、好きかも……」
「あ、僕もー」
キンタロスとリュウタロスは今か今かと発射されるのを心待ちにしていた。
「アンタ達、お正月になるまでのカウントダウンじゃないんだから……」
コハナは呆れながらも無事に発射されることを祈るばかりだ。
『5、4、3……』
レイジングハートのカウントが停まる。
『3、3……』
さっきからカウントが進まない。
「レイジングハート、大丈夫?」
なのははが不安げな表情で相棒に気遣う。
『大丈夫です。カウント3、2……』
掲げていたレイジングハートを振りかぶる。
『1』
誰もが次でスターライトブレイカーが発射されると思ったときだ。
「!!」
なのはの身体が得体の知れないものが身体に入り込んだ感覚が支配された。
「あ……ああ……」
「ええ!?な、なのはちゃん!?」
ウラタロスがなのはの胸元から出ているそれを見て驚きを隠せない。
「な、何ソレー!?」
リュウタロスはあまりの出来事に腰が抜けたのか、へたり込んだ。やはりそれを見たからだろう。
「手品か何かか!?」
キンタロスはそれを見て驚くが、先の二体よりは冷静だった。
「魔法だと思うけど、どういう原理?」
コハナとしてみても、それをどうにかしてやりたいという気持ちが逸るばかりで、どうしたらいいのかわからないというのが本音だったりする。
三体と一人が見て驚いているそれとは……。
なのはの胸元から出ているシャマルの腕だった。
「しまった!外しちゃった」
シャマルはなのは達や良太郎達がいるビルとは違う場所で、緑色の空間に左手を突っ込んでいた。
一旦抜いてからもう一度左手を突っ込む。
シャマルの手に目当てのものを入手した感触があった。
(よし!)
「リンカーコア捕獲。蒐集開始!」
シャマルは開いた状態になっている闇の書に触れる。
『蒐集』
闇の書の真っ白になっていたページに文字が刻まれていく。
(まさか、この状態で撃つつもり!?)
シャマルは右手からくる感触でなのはが何をするのかなんとなく理解できた。
『カウント0!』
「スターライトブレイカァァァァァァァァ!!」
なのははふらつきながらも振りかぶったレイジングハートを完成された特大の桜色の魔力球にぶつけて、発射させる事に成功した。
一直線の柱のような光となって天に向かって飛ぶ。
やがて桜色の光は結界を貫き、消えた。
*
次元航行艦アースラではというと。
なのはがスターライトブレイカーを撃って、結界を破壊してくれたおかげで映像が映った。
なのはやフェイト、ユーノやアルフはもちろんのこと。
良太郎やイマジン四体にコハナといったチームデンライナー。
そして、正体不明の四人組。
などが映っていた。
エイミィ・リミエッタが超速でキーボードを叩きながら、逃げていく四つの光の検索を試みるが、焦るばかりだ。
「に、逃げる!ロック急いで!転送の索敵を!」
『やっています!』
それでもキーボードを叩く速度は落ちない。
映像の中に何か本のようなものが映った。
エイミィの横にいたクロノ・ハラオウンがそれをみて、驚きを隠せなかった。
「あれは……」
それから数分が経過し、エイミィの行動は失敗に終わった。
バンと叩きながらエイミィは突っ伏した。
「クロノ君、ごめん。クロノ君?」
エイミィはクロノを見る。
クロノは真剣な表情をしていた。
「第一級捜索指定遺失物ロストロギア……闇の書……」
クロノは拳を強く握り締めていた。
*
「なのはがやったみたいですね……」
「みてぇだな。ん?」
空を見上げながら、モモタロスとユーノはなのは達がいるビルまで戻る中で夜空を見上げた。
四つの光が空に昇ったのを一体と一人は見た。
「何だあの光?」
「……逃げたのかもしれません」
ユーノは四つの光が自分達を襲った連中だと推測している。
「どうやらまだまだ厄介事は起こりそうだぜ。良太郎」
モモタロスはユーノをおぶりながらもこれからのことを予感していた。
ここの時間が滅ぶこと。
なのは達を襲った連中たちのこと。
そして、良太郎が持っていた写真に写っている正体不明の『時の列車』
新たなる戦いの幕はこうして開いたのだ。
次回予告
第七話 「チームデンライナー、本局へ」