仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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第六十四話 「繋がりの兆し」

野上良太郎がフェイト・テスタロッサの告白によって気絶している頃。

告白を終えて戻ってきたフェイト、高町なのは、八神はやてはアリサ・バニングスと月村すずかに自分達のもうひとつの『顔』を明かす決意で月村邸へと足を運んでいた。

フェイト、なのは、はやては自分達の素性から許しを得ているので、良太郎やモモタロス達の正体や桜井侑斗、デネブの事まで現在に至るまでの素性を全て包み隠さず打ち明けた。

アリサもすずかも眼を大きく開いてパチパチと瞬きしてから、その事実を受け入れようとしていた。

「あんた達の事も驚きだけど、モモタロス達の事の方がもっと驚きよねぇ」

アリサは紅茶を口にふくんでから率直な感想を述べた。

自分の友人三人が『魔法』なんてTVゲームや漫画の世界でしか存在しないものに直面している事にも驚きだが、その経由で絶対に切り離せないデンライナーやゼロライナーの事を知ってしまい、そちらの方がインパクトが大きかったのだ。

「別の世界の十年後から来たなんて……。しかもモモタロスさん達の姿、仮装じゃなくてアレが素なんだよね?」

すずかがケーキを一口食べてから脳裏に思い浮かべている。

「でもモモタロスさん達は凄くいい怪人さんなんだよ」

なのはがイマジンだからといって必ずしも『悪』ではない事を訴える。

「あと、凄く楽しいし」

フェイトもモモタロス達の馬鹿っぷりには何度も笑わせてもらい、楽しい気分にさせてもらったので弁護する。

「デネブちゃんなんて炊事、洗濯、何でもござれやで。ほんまにイマジンなんと疑いたくなる時あるもん」

はやては最も付き合いの長いデネブに対しての心証を告げる。

三人の言葉にアリサとすずかはというと。

「落ち着きなさいってば。モモタロス達がイマジンっていう怪人だっていわれても、ピンとこないのよねぇ」

「うん。わたし達、イマジンっていう怪人が悪い事をしているところって見たことないし……」

「むしろあいつ等が悪い事してる方が想像できないわよ」

アリサとすずかはモモタロス達やデネブが怪人である事は理屈で理解するが、彼等に対して『恐怖』のようなものが湧いてこないのだ。

むしろ彼女達にとっては馬鹿なことを言ったり、やらかしたりしてコハナにお仕置きされるという図式が瞬時に浮かび上がるくらいのイメージだ。

それを聞いて、三人はほっと胸を撫で下ろしていた。

「でも不謹慎かもしれないけど嬉しいな」

「すずかちゃん?」

すずかの発言になのはは首を傾げる。

「だって本物の仮面ライダーと知り合いになれるなんてすごい事だもん!」

すずかの言葉になのは、フェイト、はやてははというと。

「「「ははははははは……」」」

三人は苦笑するしかなかった。

彼女のイメージを壊したくはないので言わないが、『仮面ライダー』となる者達は聖人ではなくむしろ凡人なのだということを。

 

その夜、高町家では高町士郎、高町桃子、高町恭也、高町美由希にもリンディ・ハラオウン、なのは、フェイト、良太郎、イマジン四体、コハナが自分達の素性を打ち明けていた。

反応としてはアリサやすずかと同じであり、自身の家族の一人やその友人及び家族が『魔法』というものに関わっていることには驚きだったが、更に驚いたのは良太郎やモモタロス達の素性だろう。

「良太郎君達がただの一般人とは思えなかったのは間違いではなかったんだな」

士郎は自身が良太郎達に抱いていたモノが間違いではなかったと確信した。

「モモタロス君達の姿も仮装じゃなくて本物だったなんて……」

桃子はモモタロス達の外見が特殊メイクではないことに驚いていた。

「イマジンという怪人に、その怪人を倒す電王に時を駆ける列車のデンライナーか……。あっさり鵜呑みにするのも難しいな」

恭也もモモタロス達がこういう場面で嘘を言う事はしないとわかっているが、あまりに現実離れしすぎているためすぐに信じる事は出来なかった。

「でも恭ちゃん。良太郎君達の説明で納得できる事もいくつかあるんだよ。ほら、良太郎君達って携帯電話持ってるけど、番号を一向に教えようとしなかったじゃん。私達だけでなく良太郎君にとっては最も信頼しているフェイトちゃんにも教えていなかったしね。それって何か不都合があるからだって考えたら納得できるんだよね」

「もしかしてタイムパラドックスを恐れての事なのか?良太郎」

美由希の推測を参考にして恭也は自信の推理を良太郎にぶつけてみる。

「うん。未来人(僕達)は原則として過去に足跡を残すような真似はしてはいけないんだ。他には僕達の時間のものを過去に残したりしてもいけないんだ」

「携帯電話の番号はもちろんの事、写真も残してはいけないのよ」

良太郎が解説して、コハナが締めくくった。

「てことは良太郎君はこの時代だと何歳になるの?」

「僕はここから十年後の時間から来てる訳だから九歳かな……」

十九歳の良太郎が十年前の時間に来ているわけだから十九-十で九歳となる。

「ということは、なのはやフェイトと同い年ってことか……」

「そうなるね」

恭也の率直な感想に良太郎は首を縦に振った。

 

こうして後に語られる『闇の書事件』とその陰で蠢いていた『ネガタロスの逆襲事件』が解決した。

 

 

モニュメントバレーを髣髴させる『時の空間』

デンライナーは元の十年後の時間に戻るために、線路の敷設と撤去をする工程を急ぎながら速度を速めていた。

食堂車にいる良太郎は変わり映えしない外の風景を眺めていた。

コハナとナオミはカウンターで談話をしており、オーナーはナオミが作ったチャーハンを刺さっている旗を倒さないようにするために思案しながら食していた。

イマジン四体は現在は入浴中である。

オーナーは上手くチャーハンを食べようとするが、最後の最後でスプーンが旗に当たってしまいポテッと倒れてしまった。

それが彼にとっての食事終了となり、腰にかけていたナプキンで口元を拭いてから、壁にもたれさせていたステッキを手にして、良太郎の元へと歩き出した。

「事件が解決したというのに腑に落ちない顔をしていますねぇ」

オーナーの声に良太郎は正面を向く。

オーナーは良太郎の対面に座る。

「腑に落ちないといいますか、そのまだハッキリとわかっていない事があるんでそれが引っかかるといいますか……」

「はやてさん達が何故侑斗君を忘れていないかって事と半特異点の事ですか?」

オーナーは良太郎が頭を抱えている問題を口にした。

良太郎は素直に首を縦に振る。

「そうですねぇ。あれから時間も経っていますし私も駅長にお願いして半特異点の事はわかりましたしぃ、はやてさん達が何故侑斗君を忘れずに済んだのかっていう事も説明できますがどうします?」

「お願いします」

「わかりました。ご説明しましょう。その前に、ナオミ君。私と良太郎君に飲み物を」

「はーい。わかりましたぁー」

ナオミがコーヒーを二つ持ってきてくれた。

オーナーが一口飲んでから口を開き始めた。

「まず、はやてさん達が侑斗君を忘れなかった件ですがこれはさして難しい事ではありません。我々の思い込みから生まれた疑問なんですからねぇ」

「思い込み、ですか?」

「はい。ところで良太郎君、今更このような聞くのもなんですけどゼロノスカードは何を消費しますか?」

「桜井さんがいた頃は桜井さんの記憶を使い、それが追いつかなくなっているから侑斗の記憶を消費しているんでしたよね?今は桜井さんは消えてしまったわけですから侑斗の記憶が使われていると考えていますけど」

「ご名答です。さすがですねぇ。桜井さんが完全に消えてしまっている今は侑斗君の記憶のみがゼロノスカードの消費材料になっています」

良太郎とオーナーは同時にコーヒーを飲む。

一息ついてからオーナーは語りだす。

「では『記憶』とはどういうものですか?」

オーナーは更なる疑問を良太郎にぶつける。

「『記憶』って、ゼロノスカードが認識しているものっていうなら一人の人間に対して『顔と名前が一致』していないと『記憶』とは認めていないんですよね」

「そうです。我々は別世界でも同じ考えでゼロノスカードの効力を定めていたんですよ。それが我々の思い込み(・・・・)だったんです」

「でも消去対象が侑斗の記憶であることには間違いはないんですよね?」

「ええ。それは間違ってはいませんよ。しかし、『記憶』という概念が違っているのですよ」

「概念?」

良太郎は首を傾げる。

「良太郎君、以前にこちらで特別に演奏をしてもらっていたピアノ演奏者をご存知ですか?」

「忘れるわけありませんよ」

良太郎にとってそのピアノ演奏者は電王としての黒星---しこりが残る結末を味わったものだからだ。

「あの時に初めて知ったんですよね。『記憶』というものは一人の人間に対して『顔と名前が一致』していないと成立しないって」

この時、良太郎は『顔を知っている』だけだったために『記憶』として認識されずに『時の空間』へとさまよう状況を作り出してしまったのだ。

そしてゼロノスカードも同じ原理で『記憶』を消去材料にしている。

頭の中でおさらいしていく中でオーナーが何を言いたいのか良太郎には理解できてきた。

「それって『顔と名前が一致』しなくても、つまり『顔は知っているけど名前は知らない』や『名前は知っているけど顔は知らない』でも『記憶』として認識されるって事ですか?」

「その通りです。良太郎君が述べた二つが『記憶』として定義づけされている以上、はやてさん達のように侑斗君と縁が深い上に『顔と名前が一致している』という条件が当てはまっている方々は必然的に一番最後に回されるというわけです」

「そうなると、侑斗は別世界で外をウロウロするだけでカードの消費材料を手に入れているって事になりますよね」

「そうですねぇ。侑斗君にとっては幸せな事かもしれませんねぇ。彼は覚悟して戦っているとはいえその事に関して何も感じてはいないとは思えませんしねぇ」

戦う力を得るために、自分の事に関することを他人が忘却していく。

わかっていてもその寂寥感ははかりしれないものだろう。

それが少しでも緩和されているのならば覚悟した者にはどれほどありがたいものになるだろうか。

「そうですね……。侑斗にとっては今回が初めて救われた(・・・・)戦いになったんですね」

「そうなりますねぇ」

二人は同時にコーヒーカップを口につける。

「それと半特異点(もうひとつ)の方は?」

良太郎は先に空になったコーヒーカップをテーブルに置く。

「そうですねぇ。半特異点の方はまさに『神をも恐れぬ所業』とでも言った方がいいのかもしれませんねぇ」

オーナーの婉曲的な表現に良太郎の眉がピクリと上がった。

「オーナー、もしかしなくても半特異点は僕達の世界で誕生する事って限りなくゼロに近いんじゃないでしょうか……」

「マスコミが流していないだけでしょうねぇ。流せば寿命がいくつあっても足りませんからねぇ」

「じゃあ、やっぱり半特異点というのは……」

 

「ええ。良太郎君の推測どおりですよ。半特異点となる存在は特異点のような突然変異ではなく、人工的に生み出された生命ならば誰でもなれるんですよ」

 

『人工的に生み出された生命』と聞いて良太郎が思い当たるものは今のところ一つしかない。

プレシア・テスタロッサが着手し、フェイトを生み出したプロジェクトだ。

良太郎はプロジェクト名は知らない。だが人工的に生命を生み出している時点で、彼にしてみれば『神をも恐れない所業』と思うには十分なものだった。

だがそのプロジェクトがなければ自分がフェイトと出会うことがないのも事実なので、良太郎としてみれば複雑なものだ。

「まさに発達しすぎた技術の闇、ですよね……」

「そうですねぇ。自然摂理に誕生した生命同士でも小競り合いが絶えないというのに、そこに人工生命まで加われば間違いなく行き付く先は混沌になりますねぇ」

「人工生命はどうして半特異点なんですか?」

ナオミがコーヒーのお代わりを空のカップに注いでくれるのを見ながら良太郎は訊ねる。

「これは私の考えですが、人工生命というのは本来ならば『生まれるはずのない存在』もっとひどく言えば『生まれてはならない存在』と捉えられているため、時間に干渉されないのではなく干渉できない(・・・・)のではないでしょうかねぇ」

「特異点と同じ能力を持っていながら存在理由がまったく逆なんて……」

時間に干渉されないという権利を持った特異点。

時間に干渉できない義務を背負わされている半特異点。

「………」

良太郎は半特異点が誰なのかはわかっているが、名前を口に出す気はならなかった。

「良太郎君。今後もあちらに関わる以上、先程の事はゆめゆめ忘れないでくださいね。我々はもしかしたら近いうちにその『闇』と戦わなければならないかもしれませんからねぇ」

「はい」

オーナーの警告に良太郎は静かに、だが覚悟を決めて返事をした。

デンライナーは『時の空間』を抜けて、良太郎が生活している時間へと抜け出た。

 

 

デンライナーから降車して『時の空間』へと線路を敷設・撤去を繰り返して走っている姿を見送ってから、良太郎は『ミルクディッパー』へと戻る事にした。

ちなみにデンバードⅡはオーバーホールをするために、オーナーが預る事となったので今手元にはない。

「何かさっきまで冬だったから季節の感覚が狂っちゃうなぁ」

良太郎は尤もな事を言いながら、『ミルクディッパー』へと入る。

そこにはカウンターでコーヒーを淹れている姉の野上愛理と追っかけである三流ゴシップのジャーナリストである尾崎正義と自称スーパーカウンセラーである三浦イッセーがいつものように愛理をめぐって口論していた。

(姉さんは侑斗の事をどう思ってるんだろ……)

愛理と侑斗が結ばれる、良太郎としてみればそれは難しい事だと思っている。

何故なら愛理の中には今なお消えてしまった桜井侑斗(未来)がいるからだ。

侑斗もその事を承知しているため、積極的にはなれないでいる。

それに侑斗を想っている人間がこのたび一人増えている。

仮に侑斗がはやてを選ぶとした場合、自分は侑斗責めないだろう。

むしろ、侑斗が自分の時間を歩む事に積極的になったとして喜ぶくらいだ。

「あらぁ。良ちゃん。お帰りなさい」

「「おかえりぃ。良太郎君」」

愛理と尾崎と三浦が店内に入っている良太郎に気付き、笑顔で迎えてくれた。

「ただいま」

良太郎は笑顔で応えた。

 

夜となり、良太郎は食器を洗いながらカウンターやテーブルを布巾で磨いている愛理を見ていた。

「姉さん」

「なぁに?良ちゃん」

愛理はいつもの通り笑顔で良太郎を見るが、弟が真剣な表情をしていたので自身もそれに応えるべく真面目な表情になる。

愛理は布巾を置いて、テーブルに座る。

良太郎も向かいに座る。

「姉さんは侑斗の事をどう思ってるの?」

「良ちゃん……」

弟の質問に姉は真剣に答える事を決意する。

いつの間にか弟は成長していたのだ。

自分が思っているよりもはるかに逞しくなっていた。

きっと多くの人と出会い、想いを知り受け入れてきたのだろう。

これからも大きくなっていくのだろう。

これは過大評価かもしれないが、弟はいずれ多くの人々の希望になるかもしれないと思っている。

「私はね、桜井君には彼の時間を歩んでほしいと思ってるの。私の中では桜井君と侑斗は元が同じでも歩んだ時間の内容が違う以上、別人なのよ」

姉の回答は良太郎としては範疇内の回答だった。

「それは侑斗が姉さん以外の人を選んでもいいって事なの?」

良太郎はストレートに訊ねる。

「そうね。私は桜井君には侑斗が出来なかった事をやってほしいと思ってるわ。消えてしまった侑斗もそれを望んでいると思うの」

「そう……」

姉がこの手のことで嘘を言うとは思えない。

これは姉の本音だと思ってもいいのだろう。

「ありがとう。姉さん。正直に言ってくれて」

「いいのよ。でも良ちゃんがそのような事を訊ねてくるなんて、もしかして女の子と何かあった?」

「え?」

「だって、良ちゃんからこんな話するの初めてだし……」

「ええと、それはその……」

良太郎は頬を人差し指でかきながら返答に詰まる。

(言えないよね。フェイトちゃんに告白された上に頬にキスまでされたなんて……)

「きっとその女の子は良ちゃんのことが大好きなのね。そして良ちゃんもその事を大切に想っているのね」

「姉さん……」

図星を突かれて良太郎は何も言えなくなってしまっていた。

『ミルクディッパー』の外を出て、良太郎は夜空を見上げる。

「いつかは話さなきゃいけないんだよね……」

良太郎がフェイトの告白に応えるには一つだけやらなければならないことがある。

それはプレシアの生存に関することである。

それを打ち明けない限り、自分はフェイトの告白に向き合えないのだと良太郎は考えていた。

夜空に月は出ていなかった。

寂しい夜空だと良太郎は思った。

 




次回予告

第六十五話 「桜舞い剣が舞う 前編」
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