仮面ライダー電王LYRICAL A’s   作:(MINA)

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最新話を投稿します。


第九話 「新結成 D・M・CwithR」

高町なのはとイマジン四体にコハナが海鳴市に転送される時間帯には人の姿もなければ道路を走っている車の姿もなかった。

『眠らない街』といっても、本当に眠らないわけではない。

そのように街を演出している人間達には睡眠が必要なのだから。

「これからどう言い訳したらいいのかなぁ」

なのはとしてみれば家族に嘘をついて誤魔化すのは良心が痛むのだ。

だが、魔導師の事を明かすわけにはいかないので誤魔化すしかないのだ。

「んなの、カメに任せとけばいいじゃねぇか」

「え?僕?何で?」

モモタロスに指名されたウラタロスは驚く。

「カメの字の専売特許でなのはの親御さん等を納得させるんや」

キンタロスはモモタロスの意図が理解できているようだ。

「カメちゃん。頑張れー」

リュウタロスもウラタロスに丸投げする気満々なので応援している。

「ま、この中で私達のことや、なのはちゃんの外出を納得させるように仕向けられるのはウラだけよね」

コハナもウラタロスの話術に期待しているのだ。

「しょうがない。やりますか」

ウラタロスは渋々承知した。

 

高町家に着くと、高町恭也と高町美由希が門前にいた。

「よぉ、バカ兄貴(恭也のこと)に美由希。久しぶりだな」

モモタロスが二人に向かって軽く手を挙げた。

「モモタロス!それにお前達まで!?」

恭也はモモタロスの声に反応すると同時に、他の面々も見る。

そこには半年前にいきなり現れ、去っていた謎のバンドマン集団(実情を知らない者達はこちらで認識している)がいた。

「ウラ君、キン君、リュウ君にハナちゃん。久しぶり」

「お久しぶり。美由希さん」

「元気しとったか?」

「美由希ちゃん、恭ちゃんも元気だった?」

「え?うん。元気してたよ」

リュウタロスの質問らしき台詞に美由希は正直に答えた。

「どうした恭也、美由希。騒がしいぞ」

「ご近所の迷惑になるわよ」

寝巻き姿の高町士郎と高町桃子が出てきた。

「なのは!それにモモタロス君達まで!?」

「なのは。どこに行ってたの?て、貴方達は……」

士郎と桃子もモモタロス達のいきなりの来訪に驚く。

「ここでは落ち着いて話すことも出来ない。みんな、中に入るんだ」

士郎の一声で門前にいた全員が中に入っていった。

高町家のリビングには半年振りに懐かしい顔ぶれがあった。

といっても、今は明るい話が出来るわけではない。

なのはがこんな時間に何故、外出したかという点をどうにかしなければならないのだ。

テーブルには高町夫妻になのは、そしてウラタロスが座っている。

ウラタロスが何かを言い始めている。

その内容が嘘だというのはイマジン達とコハナ、なのはにはすぐにわかることだった。

「ここから先はカメの出番だよな」

「うん。上手くやってくれるとは思うけどね」

モモタロスとコハナはソファから覗くような形でウラタロスと士郎の舌戦を見ていた。

「カメの字、頑張りや」

「カメちゃん。ファイトー」

キンタロスとリュウタロスもソファから覗くような形で見ていた。

「お前達、何をやっているんだ?」

そんなシュールな光景に恭也は呆れている。

「あ、お父さん。納得し始めているよ」

美由希が実況中継している。

「「「「よしっ!」」」」

大声を出さないようにしているが、小声で出てしまう。

三体と一人は『いける!』と予感した。

そして、それから五分後。

ウラタロスの話術によって士郎と桃子は納得したようだ。

「なのは、モモタロス君達に免じて今日の事は許そう。だが、彼等が帰ってきたのならば俺達にも教えてほしかったぞ」

「ごめんなさい。お父さん」

「今回はどのくらいまでいるつもりなの?」

桃子がウラタロスに訊ねる。

「えーと、十二月中はここにいると思うけど……」

その言葉に事情を知っている者達の雰囲気は変わった。

それはタイムリミットだ。

別世界の時間が破壊されるまでの。

「あ、そうだ。とっつあん、カミさん。明日によ、知り合いがこっちに来るぜ」

ソファから覗いていたモモタロスが顔を出して、明日確定となっている事項を簡潔に告げた。

「「知り合い?」」

士郎と桃子は首を傾げる。

「なのはの友達とその家族が来るんや」

キンタロスが付け足す。

「フェイトちゃんが来るんだよ!」

リュウタロスが更に付け足した。

「「「「!!」」」」

なのはを除く高町家の面々は目を丸くした。

 

 

時空管理局本局。

整備中のアースラの中で野上良太郎はフェイト・テスタロッサとアルフの私物をダンボールに詰め込む作業をしていた。

といっても、彼に任されているのは筆記用具や書物といったものばかりだ。

ダンボールに詰め終えると、ガムテープで封をする。

「こっちは粗方終わったよ」

良太郎は衣類をダンボールに詰めているフェイトとアルフに報告する。

「ありがとう。良太郎」

フェイトの方も粗方終わったようだ。

「うーん」

アルフ(人型)は胡坐をかいて、腕を組んで何かを考えているのか唸っていた。

「アルフ、どうしたの?」

フェイトが使い魔のいつもと違う態度が気になりだしたので、心配げな表情となる。

「ああ、いやね。あたしさぁ、この姿でいいのかなって思ってね……」

この姿というのは人型のことだ。

「どうして?その姿だと何か問題あるの?」

良太郎としてもアルフが何故そのことで悩んでいるのかがわからない。

「良太郎、あたし達が温泉に行ったの憶えてるかい?」

「うん。それがどうしたの?」

この三人が行った温泉というのは、半年前のジュエルシード捜しの際に赴いた『海鳴温泉街』のことだ。

「あん時ってさ。あたし達、なのはと敵対してたじゃないか。それでさ、その……なのはやその友達にさ。アヤつけたことがあってね……」

アルフは立ち上がって、苦笑いを浮かべながら語った。

「もしかして、人型でアヤつけたんだ……」

「うん。それでさ、通常の獣状態でいようかと思ったんだけどさ。あの姿も海鳴じゃかなり浮いているらしいし、あの姿でもさ、なのはの友達に助けられてるんだよねぇ」

人型だと悪印象。従来の獣型だと怪しまれる。

アルフは海鳴で問題なく生活するためには新たな姿をしなければならないと考えている。

「フェイトちゃん。新形態なんて出来るの?」

良太郎は使い魔の仕組みのようなものがわからないので、アルフを生み出したフェイトに訊ねる。

「アルフはね。大まかに分けると人型と獣型の二つに分かれるんだ。だから、その二つの枠内ならどんな姿にもなれると思うよ」

「アルフさんは決まった姿がないってこと?」

「うーん。アルフにとって動きやすい姿がアルフの姿だと思うよ」

フェイトの回答も曖昧なものだ。

「うーん」

アルフはまだ唸っている。

「一人にさせておこうか。もうやることも終わったしね」

「そうだね」

良太郎とフェイトはアルフを残して、部屋を出た。

 

廊下を歩いていると、聞き覚えのある声が飛び交っていた。

「エイミィ、これはこっちでいいのか?」

「ダメダメぇ。それはこっち!もう!」

クロノ・ハラオウンとエイミィ・リミエッタが引越しの準備をしているようだ。

「クロノとエイミィさんの声がするね」

「でも、エイミィが仕切っているように感じるね」

良太郎とフェイトは飛び交う声からどういう状況なのか分析する。

気になったので、二人は覗いてみることにした。

そこにはあれやこれやと仕切っているエイミィと普段の威厳や毅然とした態度がどこにもなく、ひたすらこき使われているクロノがいた。

「クロノだよね?」

フェイトは同じく覗いている良太郎に訊ねる。

「クロノだよ……」

良太郎は即答した。

クロノが両手で抱えているダンボールを床に落としてしまい、中身をぶちまけてしまった。

ガムテープで封をしていなかったのかもしれない。

「もぉ!何やってるのクロノ君!」

エイミィが腰に手を当てて、怒っていた。

「す、すまない。エイミィ」

クロノがぶちまけた中身をダンボールの中に放り込み始めた。

日頃のクロノからは比べ物にならないくらいのドジっぷりだ。

「……行こっか」

「……そうだね」

良太郎とフェイトはその場から離れると同時に、今見たことは出来る限りクロノのために忘れようと思った。

この事をモモタロス達に話せばネタにされるのは明々白々だからである。

 

「あ、二人とも準備は終わったんですか?」

しばらく歩き休憩場に着くと、そこには自販機でジュースを飲んでいるユーノ・スクライア(人間)がいた。

「僕は荷物がないからね。フェイトちゃん達の手伝いだよ」

「ユーノはもう終わったの?」

「僕は向こうに住むわけじゃないかし、こちらには何度か戻るかもしれないので特に準備はいらないんだ」

ユーノはそう言いながら、ジュースを飲む。

「良太郎さんは、フェイト達と住むんですか?」

確認するように良太郎に訊ねるユーノ。

「うん。そうなるね」

良太郎は即答した。

「前と同じですね」

イマジン四体とコハナは高町家で、良太郎のみ別の場所で住む。確かに前と同じだ。

「違う所といえばハラオウン家の居候になったことかな」

「前は、わたし達の居候だったよね。でも、良太郎は家事が出来るから、わたし達にしてみれば本当に助かったんだよ」

フェイトが付け足す。

「姉さんが入院していた時もあったし、最低限のたしなみとしてね」

良太郎は特に自慢する事もなく答える。

「そういえばクロノは?」

ユーノはクロノの所在を訊ねる。

「えーと、引越しの準備してたよね」

フェイトは先程のクロノを思い出しながらも彼の尊厳を傷つけないように答えた。

「まあ、進んでるかどうかはわからないけど……。それよりユーノ、車椅子から離れているけど大丈夫?」

良太郎はユーノが全身筋肉痛の後遺症がないのか訊ねる。

「ええ。普通に動くくらいならもう平気です」

ユーノは笑顔で答える。

「明日からはフェレットなんですよねぇ……」

ユーノは椅子に座って、暗い表情を浮かべていた。

「もしかして、フェレットになるの辛いの?」

「そういうわけでもないんですよ。ただ……」

ユーノはフェレット時にされたことを思い出しているようだ。

「猫かわいがりされるのが耐えられないんです……」

「なるほどね……」

ユーノの告白に良太郎は納得した。

「どうして?フェレットのユーノ、可愛いのに」

フェイトは何故かは理解できないようだ。

「女の子に可愛いと言われて、心の底から喜べる男はいないってことだよ」

良太郎の言葉にユーノは首を縦に振ったが、フェイトは首を傾げている。

どうやら理解できないようだ。

 

 

天候は晴れであり、季節は冬でも太陽の暖かさが肌に伝わりやすい時間帯。

高町家の近くにある海鳴市のマンションに一台の運送トラックが停車し、荷物を中へと運んでいった。ちなみにこの運送トラックの運転手もアースラスタッフだったりする。

マンション内に持ち込まれた私物が入っているダンボールを力自慢のイマジン四体と良太郎が運んでいた。

「思ったより軽い物ばっかりでよかったぜ」

モモタロスがダンボール箱を二箱持って、ハラオウン家の新居に入れていく。

「でも、何で僕達手伝ってるわけ?クロイノがいれば大丈夫だと思うけど……」

ウラタロスもダンボールを二箱持って、新居に入れていくが住人であるクロノが手伝わない事に異議を唱える。

「カメの字の言うとおりや。クロイノはどうしたんや?」

キンタロスはダンボールを四箱持って新居に入りながら、クロノを捜す。

「僕達手伝ってるのに、アイツだけサボってるのはずるいよ!」

リュウタロスはダンボールを一箱持って新居に入り、クロノに対して文句を言う。

「あー、そのね。クロノ君はね、こういうのダメなんだよ」

エイミィは宙に現れている半透明のモニターを見ながら、キーボードじみたもので打ち込んで、セットアップしながら引越しの手伝いをしているイマジン達に申し訳なさそうに告げた。

「どういう事だよ?」

モモタロスがダンボールを床に置いてからエイミィに訊ねる。

「クロノは多分だけど、家事とかはまるっきり駄目なんだと思うよ」

良太郎がダンボール箱を一箱持ってエイミィの代わりに答えた。

あくまで口調は予想で言い当てたという風に。

決して昨日のあの現場を覗いてたなんて事は悟らせてはいけない。

「うわぁ、すごい!すごい近所だぁ!」

「本当」

なのはとフェイトは先程から新居のベランダで海鳴市を眺めていた。

「ほら、あそこがわたしん家!」

なのはが指差してフェイトに高町家の所在地を教えていた。

リンディがそんな二人を見て、微笑む。

いつもの制服ではなく私服である。

「ユーノ君とアルフはこっちではその姿かぁ」

エイミィの視線にはオレンジ色じみた子犬とフェレットがいた。

「新形態!こいぬフォーム!!」

アルフが前脚を上げて、自慢げに言う。

「なのはやフェイトの友達の前ではこっちの姿でないと……」

ユーノ(フェレット)が頭を掻きながら言う。

良太郎は二匹の前にしゃがむ。

「アルフさん。あれから考えて、この姿になったの?」

「うん!いやぁ。結構頭使ったからねぇ」

アルフは胸を張って言う。

「ユーノは覚悟決めたんだ……」

良太郎は昨日のユーノの告白を知っているので、腹を括ったのだと察する。

「はい。もう覚悟は出来てます」

フェレットの姿でいい事言っても締まらないものは締まらない。

「君等も色々と大変だねぇ」

エイミィは動物となっている二人の気苦労を察する。

「「わああ!!」」

ベランダで眺めていた、なのはとフェイトはリビングに戻っており、愛らしい二匹を見つけて黄色い声を上げた。

「アルフ、ちっちゃい。どうしたの?」

「ユーノ君もフェレットモード、久しぶりだぁ!」

二人は愛らしい二匹の側に寄って、抱きかかえる。

「フェレット君がフェレットになってるし、ワンちゃんもちっちゃくなってるぅぅ!」

動物好きのリュウタロスも側に寄ってきた。

「カワイイだろ~」

アルフが自身の愛らしさをアピールする。

「はははは……」

ユーノはなのはに頬ずりされ、ある意味拷問に懸命に耐えていた。

「おい小僧ぉ、サボってねぇで……」

モモタロスはフェイトが抱きかかえているモノを見て、手に抱えていたダンボール箱を床に落とした。

割れ物が入っていなかったのが、せめてもの幸いだろう。

「あ、皆も見てよ。アルフ、こんなに可愛くなったんだよ」

フェイトはアルフを抱きかかえて、モモタロス達の側まで寄る。

 

「やめろぉ!こっちに来るんじゃねぇ!」

 

モモタロスの異常なまでの大声に、そこにいた誰もがモモタロスに視線を向ける。

「モモタロス?」

フェイトは何故、モモタロスがそんな事を言うのかわからない。

「何でさぁ?モモタロォ」

アルフはフェイトから離れて、とてとてとモモタロスに歩み寄る。

モモタロスがそのたびに後ろに下がる。

「い、犬。いやあああああああ!!」

モモタロスがあらん限りの悲鳴を上げる。

バタンと気を失って倒れた。

「センパイ!何やってんのさ!?」

「モモの字!だらしなさ過ぎるで!」

ウラタロスとキンタロスが気絶して倒れたモモタロスを助け起こそうとしていた。

「無理もないけどね……」

良太郎はモモタロスの犬嫌いに拍車をかける原因が、あのホームレス生活時にあったのだろうと察しているので慌てていない。

モモタロスの事はウラタロス達に任せることにして、良太郎はトラックの中に荷物が残っていないかを確認しに行った。

「リュウタ君。モモタロスさん、どうして気を失ったの?」

「モモタロスは犬嫌いなんだよ。ワンちゃん、あんなに可愛いのにねぇ」

リュウタロスはそう言いながらユーノの頬をつついていた。

ウラタロスとキンタロスがモモタロスをソファで寝かせてから、しばらくして私服姿のクロノが自室となる部屋から出てきた。

「クロイノ。何やってたのさ?」

「お前、まさか今まで自分の部屋の整理しとったんか?」

「でも、ガッチャンとかグッシャンとか音がしてたよね?」

ウラタロス、キンタロス、リュウタロスは自分達に雑用して、姿をくらましていたクロノに文句を言いたくて仕方がない。

「……エイミィ、すまないが部屋の整理手伝ってくれないか?」

「だからクロノ君、何もするなって言ったのにぃ!」

エイミィにはクロノの部屋がどんな状態になっているのか、わかっているらしく額に手を当てて呆れていた。

「……すまない」

いつものクロノと違って、どこか立場がないような感じだ。

インターホンが鳴った。

「見てこよう」

毅然とした態度をとって、クロノはその場を離れるようにして玄関へと向かった。

「逃げたね」

「逃げよったな」

「アイツ、逃げたよね」

イマジン三体には、クロノの行動がそのように見えた。

「なのは、フェイト。友達だ」

その言葉に、なのはとフェイトは笑顔になった。

 

友達というのはアリサ・バニングスと月村すずかだった。

「こんにちはぁ」

「来たよぉ」

二人は本来、なのはとフェイトに会いに来たのだが意外な人物達の姿を見て目を丸くする。

「ウラタロスにキンタロスにリュウタロスじゃない。いつこっちに来てたのよ?」

アリサはこの面々とは面識がある。

「みなさん、お久しぶりです」

すずかも礼儀正しく、イマジン三体に頭を下げる。

「久しぶり。二人とも」

「元気そうで何よりや」

「アリサちゃんとすずかちゃんも久しぶり!」

イマジン三体も三者三様に挨拶する。

なのはとフェイトが玄関を出る。

「アリサちゃん、すずかちゃん」

なのはが二人の名を呼ぶ。

「初めまして……ていうのも変かな」

「ビデオメールでは何度も会っているもんね」

アリサとすずかはビデオメール内のフェイトは何度も見ているが生のフェイトは初めて見るため、どうしたら対処したらいいのか戸惑う。

「でも……、会えて嬉しいよ。アリサ、すずか」

フェイトの一言がその場のぎこちない空気を緩和した。

「うん!」

「わたしも!」

アリサとすずかも笑顔で答える。

「フェイトさん。お友達?」

奥にいたリンディがフェイトに声をかけると、なのは、アリサ、すずかも視線を向ける。

「「こんにちは」」

「こんにちは。すずかさんにアリサさんよね?」

アリサとすずかが挨拶したので、リンディも返す。そして、確認するかのように訊ねる。

「「は、はいっ!」」

アリサとすずかは何故、目の前の女性が自分の名前を知っているのかわからないようだ。

「ビデオメールを見せてもらったの」

「そうですかぁ」

リンディの答えにアリサとすずかは納得したようだ。

「よかったら、みんなでお茶でもしてらっしゃい」

「あ、それなら、わたしのお店で……」

リンディの提案に、なのはは翠屋にくるように勧める。

「あ、そうね。折角だから私もなのはさんのご両親にご挨拶を……、ちょっと待っててね」

リンディはそう言うと、支度をするために奥に戻っていった。

「きれいな人だね」

「フェイトのお母さん?」

すずかとアリサはリンディをフェイトの母親だと思っている。

「え、ええと。今はまだ……かな」

キンとエレベーターが停まる音が四人の耳に入った。

ドアが開くと、出てきたのは運送トラックに荷物の確認をしにいった良太郎だった。

「あ、良太郎だ。もう荷物はないのかな……」

フェイトは嬉しそうな表情をする。

「ほんとだ。手ぶらだし、きっとないんだよ」

アリサとすずかはこちらに向かってくる青年の顔を初めて見る。

「ねぇ、なのは。あの人誰?なのはもフェイトも知ってる感じだけど……」

「え?」

アリサが良太郎の事を訊ねる。

すずかも似たような顔をしている。

「フェイトちゃんのビデオメールにもあの人のことはほとんど出てこなかったよね」

すずかはビデオメールでフェイトが言った台詞の中に、こちらに向かってくる青年に関する事は一言も言っていないと記憶している。

「あ……ええと、それはね……」

フェイトとしてみれば自分の恩人とも言うべき存在である良太郎の事は色んな人に知ってほしいと思う事もある。

だが、それは叶わない事だ。良太郎は今から十年後の別世界から来た人間。過去に足跡を残すような真似は極力避ける必要があったのだ。

「あれ?二人とも何やってるの?そっちの二人は友達?」

良太郎が四人の前に立ち、アリサとすずかを見てから訊ねた。

良太郎にしてみても、この二人は初対面なのだ。

「うん。アリサ・バニングスさんと月村すずかさんだよ」

フェイトが二人を紹介してくれた。

「アリサ・バニングスです」

「月村すずかです」

「アリサちゃんにすずかちゃん、だね。僕は野上良太郎。モモタロス達の仲間だよ」

少女二人の名を憶えてから、良太郎は笑みを浮かべて自己紹介する。

「あ、そうだ。さっきトラックに荷物残ってないか見てきたけど、残ってなかったよ」

「そっか。ありがとう良太郎。モモタロス達にもお礼言っててくれる?」

「うん。わかったよ」

良太郎は頷くと、家の中へと入っていった。

「なのはのお兄さんと同い年くらいだけど、全然タイプが違うわよね。喧嘩とかできなそうな感じだし……」

アリサが良太郎の第一印象を告げるが、なのはとフェイトは苦笑いを浮かべるしかない。

喧嘩どころか命がけの戦いを経験しているとは言えない。

「でもフェイトちゃんとすごく仲良いよね。ひょっとしてお兄さん?」

そう言われても仕方がないくらいさっきのやり取りは自然だったので、すずかはもしかしたら異母兄妹などではないかと勘繰っていたりする。

「え、ち、違うよ」

フェイトはしどろもどろになりながらも否定した。

 

これから居候する家に入ると、良太郎はリンディと出くわす。

「あ、リンディさん」

「あら、良太郎さん。荷物運びご苦労様。あとは私達でするからもういいわよ」

リンディは笑みを浮かべて感謝の言葉を述べると、外に出ようとする。

「あの、どちらに?」

「なのはさんのご両親に挨拶しに、翠屋に行くのよ」

翠屋と聞いて、良太郎はイマジン四体やコハナを滞在させてくれることへの感謝を込めて挨拶をしておいた方がいいと考えた。

「僕も行きますよ。モモタロス達を居候させてくれてるんです。挨拶はしておかないと……」

「そうね。なら皆で行きましょうか」

「皆?」

良太郎はリンディの台詞に首を傾げる。

リンディは笑顔で顔を向ける。

そこには、なのは、フェイト、アリサ、すずかも含めてという事だ。

「わかりました。皆、モモタロスの事頼むね」

良太郎はそう言うと、翠屋に向かった。

 

翠屋に着くと、良太郎とリンディは士郎と桃子に挨拶をし、なのは、フェイト、アリサ、すずかはテラスで談話していた。

「良太郎君。やっぱり君も来ていたのか」

「ええ、まあ。またモモタロス達が厄介になりますけど、よろしくお願いします」

良太郎は高町夫妻に深々と頭を下げる。

「なあに、モモタロス君達がいない半年間は何か忘れ物したみたいで、変な感じだったんだよ」

「そうよ。良太郎君が気にする事じゃないわ。ところで良太郎君は今回はどこに住むの?」

「こちらのリンディさんのところで厄介になります」

良太郎はそう言いながら、リンディにバトンタッチする。

「そんなわけでこれからしばらくご近所になります。よろしくお願いします」

リンディは深々と頭を下げた。

「ああ、いえいえこちらこそ」

「どうぞ、ごひいきに」

士郎と桃子も頭を下げながらも翠屋へのアピールも忘れないところが強かなところだろう。

「フェイトちゃん、三年生ですよね?学校はどちらに?」

士郎がフェイトの転入先を訊ねる。

「はい。実は……」

リンディが士郎の質問に答えようとした時だ。

カランカランとドアが開き、何かが入っている箱を持ったフェイト達が入ってきた。

「リンディていと……、リンディさん」

フェイトが両手で持っている箱の事を訊ねようとする。

「なぁに?」

リンディの声色は明らかにフェイトが訊ねにくるだろうということを想定していたものだ。

「あ、あの……これ……これって……」

フェイトが持っていた箱の中には聖祥学園の制服が入っていた。

それでフェイトの転入先が良太郎にはわかった。

「転校手続きとっといたから、週明けからなのはさんのクラスメイトね」

リンディは笑顔で言ってのけた。

「まあ素敵!」

「聖祥小学校ですか。あそこはいい学校ですよ」

高町夫妻が娘が通っている学校を褒める。

皆から祝福の言葉が送られるフェイト。

フェイトは戸惑っている。

彼女にとってこういう時に頼れるのはただ一人。野上良太郎だ。

フェイトは良太郎を見る。

良太郎と目が合い、彼は笑みを浮かべて首を縦に振った。

その仕種が「自分に正直に、ワガママになっていいんだよ」と言っているように思えた。

「あの……えと、はい。ありがとうございます」

フェイトは顔を真っ赤にしながら制服が入っている箱を大切に抱きしめた。

「ところで、良太郎君」

士郎が良太郎に声をかける。

「はい。何ですか?」

「君はどうするんだい?居候というのも肩身が狭いだろ。どうだい?翠屋で働く気はないかい?」

「え?いいんですか?」

士郎の提案に良太郎は戸惑う。

「ああ。ちょうど人手もほしかったしね」

「良太郎君さえよければ、私達は歓迎するわよ」

良太郎としてみてもオーナーからいくらかお金は貰っているが、それだけに頼る気はないので翠屋への雇用はありがたいものだった。

「じゃあ、短い間ですけどよろしくお願いします」

良太郎は高町夫妻の厚意に甘える事にした。

 

新居ハラオウン家ではクロノとエイミィ、イマジン四体にコハナがいた。

コハナはある物を持ってくるために、一時デンライナーに戻っていたのだ。

ちなみにそのある物とは高町家の道場に置かれており、彼女は今後の動向を知るために全力でここまで走ってきたのだ。

宙に出現しているディスプレイにはシャマルが持っている一冊の書物がアップで映っていた。

『闇の書』である。

「あれが闇の書……」

「何か派手な百科事典だな」

「ジュエルシードもそうだけど、ロストロギアって結構小さいんだね」

「小さくてとんでもない力を秘めとる。武器に使うんならもってこいやな」

「でもさぁ。あの本持ってるのに何で、なのはちゃん襲ったの?」

コハナはもちろんの事、イマジン四体も初めて見るロストロギアにそれぞれの感想を口に出す。

「ロストロギア『闇の書』の最大の特徴はそのエネルギー源にある。闇の書は魔導師の魔力と魔法資質を奪うためにリンカーコアを食うんだ」

クロノはこの場にいる皆に告げるようにして語った。

「クロノ、リンカーコアって何?」

コハナは聞きなれない言葉を訊ねる。

「魔導師の魔力の源だと思ってくれればいいよ」

エイミィが簡潔に教えてくれた。

「なのはのリンリンコアってのもあの百科事典に食わせるためってことかよ?」

モモタロスが自分なりにリンカーコアと闇の書を定着させてから、クロノに訊ねる。

「ああ。間違いない。闇の書はリンカーコアを食うと、蒐集した魔力の資質に応じてページが増えていく。そして、最終ページすべてを埋める事で闇の書は完成する」

クロノは頷き、説明を続けた。

「でも随分と手間のかかる代物だよね。気の短いセンパイみたいな人にはまず無理なものだね」

ウラタロスはクロノの説明からモモタロスみたいなタイプは闇の書をもつことは出来ないと判断する。

「一ページ、二ページで完成ってわけではないやろし、カメの字の言うとおり手間のかかる代物やな」

キンタロスがクロノに訊ねる。

「あのお姉ちゃん達から盗って燃やしちゃえばいいんじゃない?」

リュウタロスは闇の書が本の姿をしているから、燃やせば丸く収まると思っている。

「リュウタロス君、あれ見てくれは本だけど、紙で出来てるわけじゃないから燃えないんだよ。クロノ君、もし闇の書が完成したらどうなるのかな?」

エイミィはリュウタロスに説明してからクロノに訊ねる。

「少なくとも、ロクなことにはならない……」

クロノの言葉をその場にいる誰もが静かに聞いた。

 

夜となり、高町家道場ではご馳走が広げられ、お酒やらジュースやらがたくさん置かれていた。

ハラオウン家とチームデンライナーの再会の宴である。

大人達は大人達で盛り上がり、子供達は子供達で盛り上がっていた。

ちなみに道場にいるのは高町家、ハラオウン家、月村家とお付のメイド達にアリサとチームデンライナーである。

「ねぇ、本当に僕もやるの?」

良太郎は自分がこれからする事をもう一度モモタロスに訊ねる。

「コハナクソ女の嘘を本当にするためなんだからよ。仕方ねぇだろ」

モモタロスは「観念しろ」という思いを込めた口調で言う。

「センパイ。良太郎が入る以上、僕達のバンド名も変えないといけないね」

ウラタロスは良太郎の加入で『D・M・C』を改名すべきだと言う。

「何でや?カメの字」

キンタロスはウラタロスが何故改名しようとするのか意図がわからない。

「D・M・Cってのはさ。僕達四人で構成されているわけじゃない?そこに良太郎が入るとさ、やっぱり今までの名前ってワケにはいかないわけだと思うんだよ」

「でも、何て名前にするの?カメちゃん」

リュウタロスは言いだしっぺのウラタロスに訊ねる。

 

「良太郎の頭文字って『R』だからさ。『D・M・CwithR』ってのはどう?」

 

「「「「おおおおお」」」」

一人と三体はウラタロスのセンスに素直に感心の声を上げた。

「じゃあ、早速初陣と行こうぜ!」

「うん。行こう」

モモタロスの一声に良太郎は皆の前にマイクを持って立つ。

大人も子供もその場にいる誰もが、視線を良太郎とモモタロスに向ける。

他の三体はそれぞれのパートとなる楽器を持つ。

コハナは既に音響の準備を終えていた。

「あ、始まるよ。今回は良太郎さんが歌うんだ」

なのははこれから起こる事を予測していた。

「え?良太郎が歌うってどういうこと?」

フェイトには何が起こるのかわからない。

「モモタロスさん達はこの辺りでは有名なバンドチームなんだよ」

すずかがフェイトに説明してくれた。

「さ、始まるわよ!」

アリサは身体をウズウズさせていた。

良太郎は深呼吸をしてから、閉じていた両目を開く。

音楽が流れ出す。

そして、モモタロスと同時に声を出す。

良太郎のパートとなったので彼が一人で声を出す。

次にモモタロスのパートなので良太郎と変わるようにして、一人で発する。

今度は二人で合わせた。

それだけで、道場内は興奮冷めやらぬ状態となった。

その後もD・M・CwithRの合唱は続いた。

その日、高町家の夜はそれはそれは大変賑やかだったという。

 

高町家とは違う場所で海鳴市の路上。

一人の男が正面から斬られ、血を噴出して崩れ落ちた。

噴き出る血が地面を侵食するように広がっていく。

そのような状態を引き起こしたのは明らかに異形の姿をしていた。

「これで、一人目だな……」

それはその場から一瞬にして姿を消した。

 




次回予告

第十話 「海鳴の夜を乱すもの」
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