ちょっと箸休め回。
新学期が始まって筆が遅くなってまうけど許してや…。
【前回のあらすじ】
・OH〜!ナイトメア〜!
・よわよわ友希那ちゃん。アッ、カワイイ…
・次の日の地元朝刊の見出し『怪奇!猿女現る!』
「はぁ…」
ガールズバンド『Poppin Party』のリーダー、戸山香澄は困ったようにため息をついた。
「どうしちゃったんだろ皆んな…」
香澄の悩みはただ一つ。今日も今日とて次のライブに向けた演奏の練習をしようとしたのだが、なんと香澄以外の4人が体調不良で休んでしまったのだ。
しかも今日だけの話ではない。ここ数日ずっとだ。メンバーたちの様子を見に家にも行ってみたのだが、あまり寝付けない、変な夢を見る、うまく演奏ができない。これ以外は何もわからなかった。
それは香澄が思っていたよりも深刻で、チョココロネ教狂信者のりみがチョココロネをあまり食べなくなったと言われれば嫌でもその異常性を理解できるだろう。
(それにしても夢かぁ…、確かに最近変な夢は見るけど…)
最初は怖かったが、あの星のような綺麗な目を見ていると寧ろだんだんと調子が良くなっていったのだ。いつも見ている星の声…とは少し違う気がするが、見ているだけで幸せな気分になって不思議と希望が湧いてくる感覚。
(アオハルさんのライブを見た時もこんな感じだったなぁ)
アオハルのライブはある意味香澄の理想だった。演奏そのものがキラキラと光り輝いて皆んなに生きるエネルギーを与えられる演奏。それは香澄がライブを通して観客に伝えたいこととよく似ていた。その姿を思い出すだけで新しい音楽のイメージが湧き上がってくる。どうにかしてあのキラキラの光を表現したい。
だから正直今すぐにでもみんなとそれを共有したかったのだが、そうはならなかった。なのでこうして1人で『SPACE』に足を運んで歌詞作りや練習に励んでいたわけなのだが…
(…大丈夫かな、皆んな)
やはりメンバーのことが心配なわけである。有咲は今日病院に行くらしいし、正直心配だ。心配だが今すぐこのインスピレーションもどうにか表現したい自分もいる。
香澄の中にはその二つの感情がせめぎ合って現在大いに悩みの種となっていた。
「行き詰まってるのかい、戸山」
「あ、オーナー…」
スタジオの一室から出てきた詩船は香澄の隣に腰をかける。
「ごめんなさい、最近はチームで練習もできなくて…」
「いや、良いんだよ。それにこうなった責任もアタシにあるからね。とやかく言う権利は無いさ」
「原因って…アオハルのことですか?」
「…ああ。戸山、アンタは怒ってるかい?あんな娘をライブに出したことに」
「い、いえ!そんなわけないです!寧ろ良かったと思ってます!あんな凄いキラキラした演奏が世界にあるって知れたんですから!」
その言葉を聞いて詩船は少し驚いたような顔をした。
…考えてみれば香澄だけはアオハルの演奏を聴いた後は、多少ぼうっとしていたが、他の人と比べても普段通りだった。
そういえば、以前彩が自分の音楽を聴く人にも相性があるなんて言葉をこぼしていたことを思い出す。
「…戸山、アンタあのアオハルの演奏を見てどう思った?」
「…え、どう思ったって、それはもう凄かったですよ!キラキラーってしてドキドキーって興奮して、まるでお星様を見てるみたいで!やっぱりオーナーが言うだけあってすっごいバンドでしたよ!」
そう嬉しそうに言う香澄の瞳はキラキラと星のような細やかな輝きがある。元気いっぱいで希望に溢れた振る舞い。…まぁ、つまるところいつも通りの戸山香澄であった。
「…そうかい、やっぱりアンタはあの娘と相性が良かったのかもね」
「あの娘?あの娘って、ハルカさんのことですか?」
「ああ、あの娘は少し特殊でね。端的に言えば市ヶ谷たちの不調はあの娘が原因だよ」
「そういえば皆んなあのライブを見てから調子が悪くなったような…」
その次の瞬間、別のスタジオの扉が勢いよく開けられ、大量の機材を背負いながら誰かが飛び出してきた。
「詩船おばちゃーん!新曲できたぜー!今回のは超☆上出来!新しく取り入れたヴァイオリンが一際輝く傑作!正に現代とクラシックの古代の機械融合!!ちゅーわけでご試聴如何?」
「丸山、アンタ自分で設定した予約時間が何時か覚えてるかい」
「10時間!」
「2時間だよこの馬鹿タレが!朝っぱらからスタジオに引き篭もってからに!今日が人が来ない日だから良かったものの、予定が狂ったらどうするつもりだったんだよ!それともまたタダ働きさせられたいのかい?」
「おおっと、それは勘弁…。あ、でもでもその代わり凄いのができて…」
突然オーナーに押しかける彼女に香澄は困惑する。というよりあの独特なピンクの毛髪、どこかで見たことある気が…。それにしても何だかハルカに似てるなー。そういえばオーナーがさっき丸山って…
「ってあれ?香澄ちゃんじゃん!ライブぶり!」
「え?私のこと知ってるの?」
「…………あ」
ピシリと石のように停止する。
彩は自分がハルカとしてライブに出ていたことをすっかり失念していた。なんとか真っ白な頭の中で爆速に言い訳を考える。
「ちょちょちょ、ちょ、ちょーっと知り合いに似てただけなんだナノーネ」
「知り合い?」
「そ、そうそう、こう黄色くて、星星してて、ぴょんぴょん飛び跳ねて、食べたら触れるもの皆傷つける悲しきモンスターになれる…」
「一体私は何と比べられてるの!?というか黄色の時点でだいぶ違うよ!」
「いや、虹色だったかな?」
「虹色でも違うよ!?」
そんなやりとりを見てた詩船は、諦めたようにため息をついて、2人の間に口を挟んだ。
「もうやめな丸山。これ以上誤魔化してもボロが出るだけだよ」
「うべぇ…」
「あ、あのオーナー、その人は…?」
「こいつは丸山彩。さっき話してたアオハルのハルカだよ」
「え?」
ふいっと彩の方を見る。
「で、でも髪が…」
「ありゃカツラだよ。変装してライブに出てたのさ」
香澄は彩を凝視する。
確かに雰囲気というか、行動とか諸々全部あの時会ったハルカそのものだ。
香澄の記憶にあるハルカフィルターと目の前のピンクちゃんの顔が完全一致する。
「えへっ♡隠してごめんっちゃ」
「………え?」
ーーー
丸山彩と言えば花咲川では知らぬ人の方がいない程のヤバイ人である。
その破天荒さは香澄も聞き及んでいる次第で、曰く、日常的に重箱を持ち歩いていて中には必ず天ぷらセットが入っている。曰く、中学の体育祭で上杉謙信並の無双っぷりを披露しながら流れで校長のカツラをとった。曰く、校長先生の激レアカット写真を何故か油絵で100号サイズのキャンパスに模写して、全校集会中、壇上で晒す。
その唐突すぎる突発的すぎる行動と発想のぶっ飛び具合から学校内からも一線を引かれている生徒。それが丸山彩。
しかし忘れてはいけない。彼女、戸山香澄もまた丸山彩と同系統な人間であるということを。
「バーガー美味い!」
「ポテト美味しい!」
「ピクルス美味い!」
「ジャガイモ美味しい!」
「「あははははははーっ!」」
「…こりゃ、出会わせちゃいけなかったかもねぇ」
詩船はムシャムシャとジャンクフードを貪る2人を見て、後悔まじりにため息を落とす。
スタジオでの活動をひと段落させた2人は夕飯を食べるために近くのファストフード店で腹ごしらえのための食料を買って食べていた。
「美味そうに食べるのは結構だけど、夕飯にジャンクフードってのはどうなんだい…」
「美味しいから問題なし!それに世界には不健康なものは美味いという原始時代からの法則があるのサ!」
「うんそうだよね!いつだってフライドポテトは美味しいけど、練習終わりのは特に悪魔的!」
「わかるー!それにまだ日も暮れてないしー、夜食じゃないから平気さ!おばちゃんにはキツイかもだけどー」
そう小馬鹿にするように言う彩。一々頭にくることを宣う彩に痺れを切らし、詩船はそのまま彩の購入したバーガーを一つ取って齧り始めた。
「あーーっ!!?私が買ったクワトロチーズバーガーが!?」
「ふん、いつもの迷惑料だよ。…しかし言うだけあって美味いね」
バーガーをペロリと平らげ、ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ彩を他所に爪楊枝で歯の手入れをする詩船。
因みに詩船の健康状態は超良好で、たかがバーガー1つ分の添加物では彼女の健康城壁は崩せないということを付け加えておく。
すると突然、香澄はあっと思い出したようなそぶりを見せて、彩に向かい合って机に乗り出した。
「彩さん!この前のライブ凄かったです!あんなキラキラした演奏初めてだったもん!どうやったら私もあんな音楽を出せるようになるのか、是非ご教授を!」
「んー?そりゃいっぱい練習することと、いっぱいご飯食べることと、あと演奏を楽しむことだよね!」
「うーん…、練習はこれからいっぱいするし、ご飯も毎日3食お腹いっぱい食べてるし、ライブも最高に楽しんでるし……うーーん…?」
「考えるだけ無駄だよ。丸山の音楽に原理やら理由やらなんぞ、あるもんじゃ無いからね」
「でも私どうしてもあのキラキラを演奏で出したいんです!彩先輩はどうやってあのキラキラを出してるんですか!?」
「じゃあ一緒に演奏する?」
「……え?」
●●●
「よし!じゃあ早速やろう!」
「ええっ!?」
2人が立っていたのは街道のど真ん中だった。日が沈み、学校や会社から帰宅する人で溢れかえっている。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「んー?」
黒のカツラを調整している彩に香澄は慌てて今の状況に突っ込む。
「演奏するならSPACEで十分ですよ!それに私たち音合わせもしてないですし…」
「フフフ、香澄ちゃん。私は香澄ちゃんともっと仲良くなりたいのだ」
「はいっ!それは私もです!」
「人と人が仲良くなる最短距離はいつだって本番!ぶっつけ本番だからこそ、なんか良い感じに覚醒して、仲間同士のユウジョウが深まる!…ってこの前読んだ雑誌に書いてあった!」
「それ少年雑誌ですよね!?」
「それに空を見よ!」
「??」
そう彩が指差す空には街の光で見えにくいがいくつかの星があった。
「聞いたよ、星が好きなんだよね。だったら星の下、ギャラリーに囲まれて演奏する方がより星になれそうな感じしない?」
「………確かに!そうかもしれません!そっちの方がよりキラキラを見れるかも!」
「よし決定!弾く曲はポピパの曲で良いよね?あのライブで演奏してたやつ」
「え?あれ?コードとか教えましたっけ?」
「聞いたの覚えてるから問題ないぜよ!……よし、チューニングおけ!私ベースやるからギターとボーカルお願いね?」
サクサクと話を進める彩に対して流石に困惑の色が出る香澄。…だが逆に言えばこれは絶好の機会だ。既にギャラリーもそれなりに集まってきている。
覚悟を決めた香澄は持っているギターを構えて真っ直ぐ彩を見据える。
そうだ、唐突事なんてポピパじゃいつもの事!いつも通り、この人とやり切る演奏をする!
「彩さん!準備OKです!」
「あいさー!じゃいくよ。……せーのっ!」
ベースとギターの音で2人の路上ライブが始まった。
弾き始めた瞬間、香澄は感じたこともない感覚に襲われた。まるで押しつぶされるかのようなプレッシャーにも似た感覚。それが彩から発せられていることは即座に理解できた。一瞬でも気を抜けば音全体が彩に持って行かれてしまう。
だが不思議と弾いている腕はぶれなかった。いやそれどころか普段の何倍も自由にピックを持つ手が動く、歌声が出せる、音が表現できる。光がまるで背中を押してくれているかのように今までで最高の音が身体から出てくる。
(彩さんが、支えてくれている…!初めて一緒に弾くのに、ずっと一緒に連れ添ってきたみたいな安心感…!この人となら合わせられるって、信じれる!!)
今の香澄が見ている景色は最高にキラキラしていた。
星と言うにはあまりに眩しく、しかしあの時見た光に比べればはるかに弱い。だが、この光の景色を自分が生み出している。そう考えるだけでワクワクが止まらなかった。
曲の間奏、ふと香澄は上を見る。相も変わらず鈍く光る星々。だが今の香澄にはそれが満点の星空に見えた。
(…もっと、もっと出せるはず!私の全力全開!彩さんの音に乗せれば!もっと先に!もっと遠くに!あの満点の星空まで!!)
再び歌が再開する。
結論から言えば、今の香澄は言ってしまえば1人走りをしてしまっていた。仮にこの状態でポピパの面子と演奏をすればこっぴどく注意される事だろう。しかし、それでも曲として成立しているのは、彩との演奏の波長が奇跡的なレベルでマッチしているからに他ならなかった。
いや、正確には彩のいるレベルにまでどんどんと香澄の音のレベルが上がってきているのだ。まるで引っ張り上げられるかのように。
(これが、ラスト…!今までの最高で決める!!)
最後のサビ。これまでにない程の集中、そして気分の高まり。
そして最後の最後に香澄と彩が同時に歌声を重ねて、今日1番の光が辺りに爆発し、そうして曲は終わった。
しん、と音が静まり、はっと香澄は正気に戻る。
(おわ…)
ピックを下ろした瞬間、ギャラリーから大量の歓声が押し寄せた。
「うわわっ!?」
「やったぜ香澄ちゃん!大成功!!」
彩が後ろから飛びついてくる。その表情はとても嬉しそうで、見ているこちらもつい笑ってしまう。
ギャラリーを見ると、沢山の人が自分たちの演奏を笑顔で讃えていた。仕事帰りの中年男性も、部活帰りの少年たちも、買い出しに来ていた主婦も、みんなみんな。
(…これを、私たちが作ったんだ)
あの時のポピパの演奏に負けないくらいの満足感と充実感。あの時と違って聴いた人の表情がより鮮明に見える分、やり遂げた達成感も鮮烈だった。
気が緩み、疲労でふらついて倒れそうになる。観客がザワリと動揺する。
「おっとと、大丈夫?」
「えへへ、ちょっと気が抜けちゃいました」
「はいティッシュ。鼻血出てるよ」
「え?…あ、本当だ。ありがとうございます」
香澄にティッシュを渡して、鼻の血を拭く。観客がホッとしていると、その空気を突き刺すように怒声が聞こえてきた。
よく見るとそれは紺色の服と帽子を着用した男性3人で…
「お前たち!そこで何をしている!」
「やっべ、警察だ」
「ええっ!?」
考えなくても当然で、香澄と彩はここを無断で利用している。誰かに通報されればこうして警察に詰め寄られるのは自明の理である。
しかしこのままではお縄になった挙句、長い説教と面倒な処遇まで加えさせられるかもしれない。慌てて香澄は逃げようとするが、足に力が入らない。
「あ、あれ…?なんで…。イタッ!?」
頭に鈍痛のようなものが響く。思わず地に手をついてしまう。
「ダメダメ!疲れてるんだから」
「で、でも逃げなきゃ…」
警察はすぐそこまで来ている。このままでは…
「……しゃーない!香澄ちゃん、ちょっとギター借りて良い?」
「え、良いですけど…」
彩は香澄からギターを受け取ると、爆速でチューニングを終わらせて、倒れていたマイクを構える。
『第二ステージだヨ。みんな楽しんじゃってね♡』
キラリと瞳の星が輝いた。
ーーー
ーー
ー
「ふぅー、危なかったぁ。でも超スリルあったよね!」
「………」
「香澄ちゃーん?」
「…ハッ!…あ!ご、ごめんなさい!何だかぼうっとしちゃってて…」
「ホントに大丈夫?」
「はい!もう大丈夫です!」
「ならおけ!鼻血出てたからねー。ちょっと心配してたんだよ」
(………本当、凄い演奏だったなぁ…)
その歌はあまりにも鮮烈だった。
香澄と歌った時とは勿論、あのアオハルとしてのライブの時以上の眩しい光。まるで一つの恒星、完全な丸山彩の独壇場。
暗闇を照らすような発光ではなく、キラキラしていたのだ。香澄フィルター抜きで見てもそうとしか表現できない。
アニメや漫画でしか見ないような綺麗な光のアーチがそこら中で暴れ回るあの光景は正に圧巻の一言に尽きた。向かってくる警察も、見ている人々も纏めて全てを忘れさせる演奏。
もしかすればアレが自分の求めていた音楽なのかもしれない。誰かの希望になれるくらいあんなキラキラする音を出せれるように…
「…で、どうだった?キラキラできた?」
「はい!!最高でした!おかげで私もっと頑張れそうです!」
今日のライブは最高だった。
ただ楽しかったのではなくて、自分の新しい可能性とも言えるものが垣間見えたのだ。新しい世界、自分の求めてやまなかった煌めき、そして観客のあふれんばかりの笑顔。この経験を通して香澄は自分の中にある未来のバンド像が形になりつつあった。
「…彩さん。やっぱり私、彩さんみたいになりたいです!あんな風にみんなをキラキラな笑顔にできる人に!」
「おー!本当!?私超嬉しいよ!いやー、ついに私もここまできたって感じー?流石私ね!」
どこか自慢げに喜ぶ彩。こういうところでついつい調子に乗ってしまうところは実に丸山彩である。こういう何事も笑顔で肯定してしまうところが彼女の長所の一つなのかもしれない。
「でも、香澄ちゃんは私みたいになっちゃダメだよ」
「…え?」
だからこそ、否定されるとは思わなかった。しかもこんな、諭すような表情で。
「ど、どうしてですか?私じゃ力不足なんですか!?」
「そういうわけじゃないよ。ただ1人はダメってこと。香澄ちゃんにはバンドのメンバー皆んなで私を目指して欲しいんだ!」
その方が楽しいでしょ?とニヒルに笑う。
なんだそういうことか。とホッと胸を撫で下ろす。憧れの人に夢を否定される時ほど恐ろしいことはないのだから。
「あ!そろそろ着くよ!」
「…そういえば、どこに向かってるんですか?山奥だけどここ…」
「すぐにわかるよ〜。香澄ちゃんと演奏した時からここを一緒に見たかったんだ」
そう言いながら、茂みをガサゴソと掻き分けて2分ほど。ようやく開けた場所に出る。
「ほら着いたよ!私自慢の穴場スポット!」
「わぁ…!」
星が溢れる空。
香澄は星をよく見るが、この眼前の星空は今まで自分が見てきたどの景色よりも美しい空だった。
「ここ街の光があんまり届かないから、よく星が見えるんだよねぇ」
「……凄い。キラキラがいっぱい…!」
強い高揚を感じる。これまで見たこともないような、自然の光に香澄は見惚れてしまう。
「…人間ってね、当たり前だけど宇宙のスケールで見たら一瞬しか生きれないの。それこそ、この星の光が目に届く頃にはもう私たちが死んでる可能性があるくらいには」
「…彩さん?」
「私はそんな宇宙に私自身の名前を残したい!あの星にも負けないくらいに輝いて、この丸山彩とそのバンドの名前を宇宙世紀に刻んでやるのだ!そして丸山一等星として太陽にも負けない光になってみせる!!!」
それが丸山彩の野望。
彼女が前世からずっと心のうちに抱えてきたもの。完全な絵空事だ。他人に言えば無駄で無為で無謀だと言われること請け合いだろう。それに宇宙への刻み方など今の彩には見当もついてない。
だが、それでも彼女は止まるつもりなどさらさら無い。
誰かに認めてもらうのではなく、無理矢理認めさせるのが彼女流なのだから。
「……」
香澄は彩の語る夢に圧巻される。その瞳に光る星を見るだけで彼女が嘘でも冗談でもなく、本気で言っていると理解できた。
スケールが違った。彼女は先を見ているとかそんなレベルではない。
今まで香澄は演奏経験が浅いながらも色んなバンドに関わってきた。皆が皆、素晴らしい演奏をして、そして眩い夢を持っていた。ある人は世界をハッピーにしたい、ある人は世界に自分たちの名を轟かせたい、ある人は頂点を取りたい。
しかし、技量云々を抜いても彩の考え方はそのどれとも当てはまらないような、一線を画すものだった。
彼女は最初から見ている場所が違った。上ではなく、空を見ていた。
幼子が空を最初に見て思うような絵空事を本気で叶えようとしていたのだ。
「…彩さんは、やっぱり凄いです。私、そんなの考えたこともなかった。…星になりたいって考えたことはあったけど」
「それはそれで気になる!宇宙とか行ったらなれる方法とか見つかるかな?あはは!」
「…」
ああ、やっぱり眩しいなぁ。
香澄は、彼女の目指す夢は既に半分叶えられていると思っていた。何故なら香澄にとって最早彩は星そのものだったからだ。みんなにたくさんのキラキラと言う名の希望を与えてくれる最高の人。自分が無意識に望んでいた存在の具現化。
(私もいつか、彩先輩みたいな星になりたい…!)
そんな一等に輝く星を見て、胸の鼓動を抑えられなかった。
「彩さん!」
「んー?」
「お願いが、あります!」
●●●
次の日の放課後、天文学部の部室には3人の影がいた。
1人は黒服を連れ添った部長の弦巻こころ。もう1人は今日部活が休みの氷川紗夜。そして最後の1人は勿論我らが丸山彩…ではなく、
「入部!!しにきました!」
そう高らかに宣言した少女、戸山香澄はダンとこころの前に入部届を叩きつけた。
「「……」」
2人は反応できなかった。
いや、部員が増えること自体は喜ばしいことだろう。正直部員2人だけと言うのは、若干の寂しさを覚えていないと言えば嘘になったし、紗夜からすれば活動報告を書くのも一苦労だったからだ。
しかし、意図が全く見えてこなかった。2人からすればあまり接点もない戸山香澄という少女が唐突にこの天文学部に入るというのは、何か打算的なものを感じざるを得ない。
普段なら飛んで喜んでいるであろうこころが笑顔のまま何も言わないのも空気の張り詰め具合に拍車をかけている。
嫌な汗が紗夜と黒服たちの頬を伝う。
「……戸山様、その、一応入部理由をお聞かせいただいても?」
空気を読んだお付きの1人が香澄に問うた。紗夜は内心その勇気ある黒服さんの行動にサムズアップする。
「あ、それはね…」
「こんにちワンタン麺ー!先生の追跡を免れた私が独特なポーズで来たーーッ!!…ってあれ?」
「あっ!こんにちは彩さん!」
「あ、香澄ちゃん!どうしたの部室にまで来て……ハッ!?ま、まさか弦巻財閥に借金…!?絶望…ッ、圧倒的…!ごめん香澄ちゃん…、流石の私も現金をどうにかすることは…!」
「ち、違う!違うよ!ほらこれ、入部しにきたんですよ!天文学部に!」
「え?ホント!?やったー!!」
嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる彩。
「あ、そういえばもうバンドの方は大丈夫なの?」
「はい!彩さんから貰った動画をみんなに送ったらちゃんと元気になりました!この後も皆んなで練習する予定です!」
「そっかぁ、よかったよかった。それでそれで?なんで入ろうと思ったの?」
「それは勿論彩さんがいるからですよ!やっぱり彩さんみたいになるなら彩さんのことをもっと知るべきだと思いましたから!」
「わーい、やった!部員GETだぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
喜び抱き合う2人に紗夜が割って入る。彼女は未だ現状を整理しきれていないようだった。
それはそうである。たった2日の土日休日、目を離していたら、ライブ中に変装姿で知り合ったバンド女を引っ付けてご帰還したのだから。
「その、ふ、2人はどういう関係で…?」
「あ、それはね…」
「ふっふっふ!何を隠そう私、Poppin Partyが戸山香澄、この丸山彩さんに弟子入りしたのです!!」
「…でし、いり…?」
……でしいりというのはアレだろうか。あの、三つ編みの老人が赤の鉢巻をつけた若者に厳しい鍛錬のもと武術を教授する的なヤツだろうか?つまり戸山さんは将来的に体に螺旋状のエネルギー体を纏いながら突撃したり、身体がゴールドレアになったりするのだろうか??はれ?はれれ??
「あ、紗夜ちゃんがバグった」
「だ、大丈夫ですか氷川先輩…」
「アレはもうダメだ。直に爆発する」
「しませんよッ!!」
「あ、戻った。お帰りー」
「お帰りじゃありません!というか弟子ってなんなんですか!私そんなの聞いてませんよ!?」
「だって弟子になったの昨日だし」
「はい!私、彩さんの演奏に惚れたんです!なので彩さんの事を勉強するために天文学部に入りたいんです!」
そのまま香澄は彩に抱きつく。紗夜の怒りボルテージが一気に跳ね上がる。
「ダメです!却下します!そんな不純な動機で入部なんて断じて認めません!」
「?? 不純って、どこがですか?それに氷川先輩って天文学部に入ってるわけじゃないですよね?そういうのって部長のこころちゃんが決める事なんじゃ…」
「うぐっ!」
純粋な目から繰り出される正論パンチに思わずたじろいでしまう。しかしそれでも紗夜は退き下がるわけにはいかなかった。
「だっ、ダメダメダメ!!ダメなんです!!そんなの私は絶対に認めませんからね!!」
「えー…」
子供のように駄々をこねる紗夜に流石の2人も少し引いた。何が彼女をそこまでさせるのかが、さっぱり理解できない。
すると、いつの間にか席を立っていたこころが、彩に抱きついてきた。
「あ、こころちゃん!こころちゃんからも言ってよ〜。部員増えるのは最高じゃん!こころちゃんならこの嬉しさがわかるよね!」
「ええ、よく分かったわ。彩、貴女が目を離しちゃいけない人だってことがね」
「…あれれ?こころちゃん、ちょっと力強くないですかね?アッ、し、締まる!私のパーフェクトぼでーが!?」
「ぶげぇ!?私も巻き添え!?」
「ちょ、助けて黒服さん!貴女のお嬢様、ご乱心ですよ!?このままじゃ私たちのウェストがクラッチでクラッシュですよ!?」
そんな彩の魂の叫びに対する回答は、『無理です』と書かれたホワイトボードの提示だった。彼女たちも命は惜しいのである。
「あ!凄い持ち上がってるよ!こころちゃん力持ち!すごーい!だから下ろしてお願いします!」
「あ、私なんだか天井にお星様が見えてきた…。とってもキラキラ…」
「それは多分見えちゃダメなやつだぜ香澄ちゃん!あっ!紗夜ちゃんタスケテ!紗夜ちゃんが最後の希望なの!」
「…………」
「あれれぇ?おっかしいぞ〜?どうして紗夜ちゃんも一緒に締めに入ってるの〜?」
「自分で考えてください」
「うぼぼぼぁ!?このパワーッ!?流石弓道部!」
「ウッ」(失神)
「うわぁーっ!?香澄ちゃんが落ちたぁ!しっかり!貴女がここで倒れたら私に誓った夢はどうなっちゃうの!?ここを乗り切れれば、きっと夢は叶うんだから!」
「誓ったって何をかしら?」
「誓ったってなにをですか?」
「ナムサンパワーーッ!!?」
この後黒服さんたちの尽力で2人は無事生還し、香澄もなんとか無事に入部できた。
彩ちゃん:キラキラ☆
香澄ちゃん:きらきら!
詩船おばさん:アンタら食い終わった後ぐらい片付けてから出ていけやぁ!!
転生彩ちゃんのヒミツ⑧:作業中はよく眼鏡を着用しているぞ!視力が特別悪いわけではなく、単純に頭が良くなる感じがするからという理由だ!実際集中力は二段階くらい上昇するぞ!
あと…!あと少しで完結までのルートが…!