まるやまっ!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・千聖「彩ちゃんが地味になった時は世界の終わりだと思っています」
・私はリサちゃんと彩ちゃんの演奏を融合!いでよ暗黒パリピ・リサチャーン!
・紗夜「浮気の気配がする…」









【前回の舞台裏】


 弦巻こころは自身の携帯の画面を見る。そこに映るのはネットで広まった路上で香澄と楽しそうに演奏をするハルカの姿が。

「…こころ様。投稿されている動画、及びネット情報。全て削除が完了いたしました」

 ネットに存在した演奏動画は、投稿されてからわずか数分でネットの海から姿を消した。それもこれも弦巻家の力を最大限使った結果。
 きっと彩はいずれ世間にその姿を現し、侵略とも言える影響力を発揮し始めることだろう。しかし、それはまだ早いと思っている。しかし彼女は傍若無人だ。己の姿が世間に明るみに出ることなどカケラも戸惑わないことだろう。だからこそ自分が抑えておかなければならない。まだその時では無いのだから。

「ありがとう、今後もこういうのが投稿されたらすぐに消してちょうだい」

「畏まりました」

 黒服は一礼をして部屋を出る。
 部屋に1人残されたこころは再び画面を見る。視界にはハルカの隣にいる香澄の姿が。

 己の将来の宝物に集る虫、埃。
 彼女だけではない。黒服から聞くに彼女の虜になった人間はそれこそ水田に集るユスリカ程にいるのだから。

「…そろそろ、お手入れの一つくらいしないといけないわね!」

 そう言葉を溢すこころの表情は恐ろしいほどに、いつも通り満天の笑顔だった。







ぱすぱれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人には誰しも苦手な人の1人や2人いるもので、学校の先生やバイトの上司、関わり難い同級生なんてのはよくいる例だろう。

 大和麻弥にとって白鷺千聖はそういう苦手な部類に入る人に違いなかった。もちろんそこに優しさがあることも理解はしているが、ストイックな部分ばかりを見てきたからかどうも関わりづらいのだ。

 そして今日は何故かそんな千聖からお呼び出しを受けてしまっていた。

 

「マヤさん!おはようございます!」

 

「あ、おはようございますイヴさん。今日は一際元気っスね」

 

「元気も出て来ますよ!何たって今日はあのチサトさんがお友達を連れてくる日なんですから!」

 

「そうっスか…まぁ確かに会ってほしい人がいるなんて、千聖さんが言い出すのはちょっと驚きっスけど」

 

 2人の中の千聖のイメージは厳格で真面目な人、である。こうして自分たちと関わっているのも飽くまでビジネス部分が大きく、仕事以外では最低限しか関わってこない。そんな人だと思っていた。いや、事実以前まではそうだった。

 ごく最近になって急にメンバーのケアや活動環境の改善に努めるようになり、それに加えて今回の事だ。理由はわからないが、2人にしてみれば嬉しいことには変わりなかった。

 

「チサトさんのお友達ってどんな人なんでしょうか?」

 

「分からないですけど、千聖さんのことですしお仕事関係の方かもしれませんね。態々こうしてお店を予約してまで時間を空けるくらいですし…」

 

 麻弥は軽く周囲を見渡す。

 ここはそれなりに高い代物を扱っている料理店だ。有名人が来ることもあるくらいには名が知れている場所でもある。そんな大人びた店にはその2人の少女は少しばかり不相応だった。

 

「それでも千聖さんの方から歩み寄ってくれていることには変わりませんよ!すごいパフォーマンスをするにはメンバー間の距離感を縮めることは必須!今回もその一環に違いありません!」

 

「そうかな…?……そうかも」

 

「千聖さんのおかげでどんどんパスパレは良くなって来てます!最初こそビックリしましたけど…」

 

 2人の頭に思い出されるのは、ここ数日の激動の日々。唐突に激しい入れ替わりを見せたスタッフ。事務所主体からメンバー主体の活動方針への転換。そしてメンバーへの手厚いメンタルケアの確保などなど。大変なこともあったが、以前と比べれば格段に活動環境は良くなったと言えるだろう。それもこれも、全ては千聖が尽力したおかげだと2人は理解していた。

 

「本当、千聖さんには頭が上がらないっス。ジブンたちのためにここまでしてくれるなんて…」

 

「今度のライブが上手くいったら皆んなでエンカイをしましょう!私エンカイゲイというものが見たいです!」

 

「あはは…そうっスね。それも良いかもしれません…」

 

 テーブルに置かれているお冷を見つめる。自分の顔がぼんやりと写っている。

 

「……これからジブンたち、どうなっちゃうんでしょうか。環境は良くなっても、ジブンたちのお先は真っ暗ですよ」

 

「…頑張るしかありませんっ!私たちがアイドルを続けていく限り必ず光明は見えてきます!だからそれまで…!」

 

「それって、いつまでなんですか?一週間?一ヶ月?…それとも数年後?ジブンそれまで耐えられる自信無いですよ…」

 

「それは…」

 

 はっきり言えば麻弥は限界だった。終わらぬバッシングと停滞する現状に彼女の心は悲鳴をあげている。そんな苦悩している麻弥を見てきたイヴは下手な言葉を出せなくなる。

 

 そんな重苦しい空気の中、2人の机の前に店員らしき人が現れた。その両手にはクローシュが被せられた料理の皿がある。

 

「あ、あっ!料理が来たみたいですよマヤさん!」

 

「…え?まだ千聖さん来てないのに。それにジブンたち何か頼んだ覚えなんて…」

 

「お待たせしやした!マルヤマ天ぷら盛り合わセットお雑煮添えだぜ!」

 

 どかりと目の前に出される金色の山。料理に関しては殆ど素人の2人から見ても素晴らしい完成度だと見るだけでわかる。実に食欲をそそる色だ。

 一つ問題点があるとすれば、ここは西洋料理店であり、天ぷらなどここのメニューには存在しないと言うことだけである。

 

「……あの、ジブンたちまだ何も頼んでいないのですけど…」

 

「フッ、お客様。料理店においてメニューを頼んだか頼まなかったなんてものは実に些細な問題なのですよ!店とは料理人の領域!この店に入った時点で既にユーたちは料理人の好みを食らうことは確定しているのだ!」

 

「成程…!私たちはいつの間にか受ける側になってしまっていたのですね!これがJapanese restaurant…!」

 

「いや全然違いますからね!?イヴさん騙されないでください!この人の言ってること全部出鱈目ですから!」

 

「いえマヤさん…一概にそうとも言えません。以前読んだJapanese mangaで見たことがあります。ニホンの料理人は皆自分のパーソナルスペースを展開可能であり、その中ではあらゆるものが必中必殺なると…」

 

「いろんなものが混ざった上での偏った知識!そんな事実は無いっス!」

 

「取り敢えず冷めちゃうのでモシャモシャとっとと食ってモシャモシャくだせぇ」

 

「うわぁ!食べられてる!?そっちが天ぷら頂いちゃってどうするんですか!?ジブンたちまだ一口も食べてないのに!」

 

「隙を見せた方がわろし」

 

「くっ、これがJapanese culture!やはり素晴らしくも侮れないデス!」

 

「日本人皆んなこんな変人と一緒にしないでほしいっス!」

 

「あっ!いたぞ!」

 

 野太い男の声。その先には長いコック帽を被った彫の深いいかにもな人がいた。

 

「あ、やべバレた」

 

「勝手にお客様に品物を振る舞うなど許せぬ!成敗してくれる!」

 

 怒り心頭の料理長は、華麗に警棒を構えて武人さながらの突きを見舞う。それを怪しい方の店員は紙一重で避ける。突然始まった戦闘に麻弥はついていけず、イヴは目を輝かせた。

 

「仕方ない、残りの天ぷらはくれてやる。私は逃げなければならないからね!ではサラダバー!」

 

「待ちなさーい!」

 

 そう言って謎の少女は店の外へ走り去ってしまった。

 

「……なんだったんスか今の」

 

「面白い人でしたね!コックさんも店員さんも素晴らしい動きでした!それにしても、さっきの店員さんどこかで見たことある気がするんですよね。何処でしたっけ…」

 

 …まぁ、もうすぐ夏だ。季節の変わり目には変な人が増えるとも言うし、たいして気にする必要も無いだろう。

 そんなことを考えながら、麻弥は適当に皿に残った海老の天ぷらを齧る。

 

(めちゃくちゃ美味しい…)

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

「2人ともお待たせ。…って貴女たちもう頼んでいたの?」

 

「むっ…!?ち、千聖さん違うんですこれは…」

 

「Japanese Cookさんに持ってきてもらったんデス!とっても美味しいデスよ!チサトさんも如何ですか?」

 

「いえ、私は良いわ。…それよりも日菜ちゃんがいないみたいだけど」

 

「あー…、その、実は朝から連絡が取れなくて…」

 

「またサボりね。全く、あれだけ釘を刺していたのに…」

 

 氷川日菜はメンバーの中でも特に集まりが悪い。兎に角気まぐれで気分屋だ。特に最近は酷く、こうした活動関係なしの集まりにすら来ず、半ば幽霊メンバーとなっている。千聖がメンバーをまとめるのに苦労している原因も、8割は彼女だ。

 

「…まぁ今は良いわ。今はそれよりも今日の本題なのだけれど…」

 

「そうですチサトさんのお友達デス!姿が見当たりませんが、一緒に来てないんですか?」

 

「おかしいわね。先に来ているって言っていたのだけれど…。2人とも見なかったかしら。ピン…黒髪で癖のある髪の子なのだけれど…」

 

「黒髪…すみませんが見てませんね…」

 

「私もデース」

 

 彼女はアレでも約束は律儀に守る人だ。もしかすれば何かトラブルでもあったのかもしれない。そう思い携帯を取り出したその瞬間、視界が暖かさと共に黒になった。千聖はすぐに察する。

 

「だーれだ!」

 

「ふふ。…ハルカちゃんよ」

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 待たせたな!皆んな大好き天ぷら大好き高級カツラは大嫌い、丸山彩ちゃんだぜ!

 何でかカツラを装備して来て欲しいという千聖ちゃんの要望に応えて今回はハルカちゃんとして参上だぜ!まぁどの道この店で追われの身になっちゃったから変装必須なんだけどね!

 

「…ハルカちゃん?」

 

「フッフッフッ、本当にそうかな?」

 

「?」

 

「千聖ちゃんは今私の姿を視認していない。つまりそれはまだ背後にいるのがまる…ハルカだということが確定していないと言うこと!そう、今の私はさながらシュレディンガーの猫!さぁその上で当てて見せよ!」

 

「声が聞こえる時点でその理論は破綻してるわハルカちゃん」

 

 あ、ホントだ。彩ちゃんうっかりだぜ。

 

「あの、千聖さん…。その人が?」

 

「ええ、友人のハルカちゃんよ」

 

「しくよろー」

 

(どことなくさっきの店員の人と似てるような…)

 

「はじめまして!私若宮イヴです!ニホンサムライブシドー大好きです!よろしくお願いします!」

 

「むむっ…、ならばこちらも日本の礼儀で応えねば、無作法というもの…。皆んな大好きハルカちゃんでーす!そう!今日本で1番輝いている女とは私のことだ!」

 

 彩はそう叫び控えめに言って超ダサいポーズをキメる。どこか侍らしい雰囲気が無いこともないので彼女なりの日本のイメージなのだろうが、正直表現力の欠如と言わざるを得ない。麻弥はどうリアクションして良いか困ってしまう。

 

「おお!これが日本式の自己紹介!これは日本力が試されている証拠…!私も続きます!」

 

「続かなくて良いっスよ!」

 

「ででで?貴女は?」

 

「うわっ!?や、大和麻弥っス…」

 

「やまと…まや…!?つまり、逆から読んでもやまとまや!」

 

「え、は、はいそうですね…?」

 

「くっ!負けた!」

 

「いや何に!?」

 

「日本力で!」

 

「だから日本力って何ですか!?」

 

「逆さ言葉なんて…そんなの生身の人間がザーボンさんに挑むようなもの!今の私では勝てない…!」

 

「正直その例えは複雑っス…」

 

「ふふ、仲良くなれてるみたいでよかったわ。ほら、ハルカちゃんもお店の迷惑だから席に座って」

 

「あ、そうだお腹減ってたんだった!私食べたいのあったんだよねー!」

 

 そう言って席に座る彩。千聖とイヴと一緒にキャッキャとメニューを見始めた。

 

(…何というか、すごく子供らしい人っスね)

 

 理性的な千聖に対して感情的に動くハルカ。まさに真逆。正直千聖はああいうタイプは苦手だと思っていたので少し意外である。ここにいないメンバーのこともあるから尚更。

 

(…まぁ、怖い人じゃなくて良かったっス)

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

「ぷはぁ、お腹いっぱい!」

 

(10人前は食べましたよこの人…)

 

 積み上げた皿の山に戦慄しながら、麻弥は食器を重ねる。

 

「千聖ちゃんから聞いたけどみんなバンドやってるんだよね!うーん青春!麻弥ちゃんは何やってるの?」

 

「え、っと…ジブンはドラムっス…」

 

「私はキーボードです!」

 

「千聖ちゃんがベースとボーカルだから…あれギターは?」

 

「その…日菜さんは…」

 

「ギターの子は今日は来てないの。今日も声をかけていたのだけれどね…」

 

「サボりってこと?」

 

「そうね、最近は練習にも全然顔を出さなくて困ってるのよ」

 

「ふむふむ…ヨシ!今日やること決まり!」

 

「え?」

 

「今からそのギターの子を探しに行こう!サボってるんだったら練習だって出来ない!それじゃあ千聖ちゃんのライブが見れなくなる!それは困る!せっかく作った千聖ちゃん応援グッズが無為に帰しちゃう!」

 

「でも何処にいるのか…」

 

「ふふ、ならまずは身辺調査だ!サボるからには理由があるはず!」

 

「今回はすぐ外に飛び出さないのね」

 

「ふふ、あy…ハルカちゃんは日々アップデートを繰り返す生き物!私も反省を活かすのだ!そんなわけで最近そのギターちゃんに変わった様子とかあった?」

 

「変わったというか…」

 

「最近のヒナさんすごく怒ってる様子でした!レッスンに来ても常にイライラしているって言うか、心ここに在らずというか…」

 

「それでも演奏とダンスは完璧でしたけどね」

 

「ふむふむ成歩堂…」

 

「それに空いてる時間に何かと携帯を見たり、メモ帳を取り出して何か書くことも多くなりました。何をしてるのかは頑なに教えてくれませんでしたけど…」

 

「サボりが増えたのもそれと同じくらいの時期でした!」

 

「って言っても日菜さんは最初からあんな感じでしたけれど…」

 

「ムッ、ビビッと来た!!」

 

「な、何ですか?」

 

「私はそのギターちゃん、もといヒナちゃんの異常はズバリ家庭事情と読んだ!携帯をよく見るのも家族のことを気にしてるからに違いない!」

 

「じゃあメモは…」

 

「あれは……多分反省文かなんかでも書いてるんだと思う!」

 

「ちょっと無理がある気が…」

 

(……反省文は兎も角、他は案外的を射てるわね)

 

 話し合う3人の他所、千聖は冷静にそう思う。

 というのも、千聖は日菜の異変の原因の大体の見当がついていた。無論本人の口から聞いたわけでは無い。なので飽くまで予想ではあるが、恐らくは家族関係だろう。

 というのも日菜は側から見ても自身の姉に対する執着が隠しきれていない。彼女は何でも興味のあるものなら手をつけて、飽きたら放置する。そんなタイプだ。実際このパスパレがそうなのだから。彼女のパスパレに対する興味は最早米のデンプンの味ほどしか残っていないだろう。何もしなければ近いうちにパスパレを抜ける確信すらあった。寧ろ今に至るまでよくいたと感心するくらいだ。

 しかし、どうやら姉だけは違うらしい。先ほど述べた通り、日菜は姉である氷川紗夜に異常な執着を見せている。理由はわからないが、家族なのだ。特別な想いを寄せることもあるだろう。

 そうして思い返すこれまでの日菜の異変。同時期に彩と紗夜が行ったライブ。そこからより親密になった2人の関係性。無関係とは断言できない。というよりそれしか考えられない。

 日菜があのライブを見たのかは知らないが、何かの拍子で姉の異変に気がついたのだろう。それで彼女なりに悶々と悩んでいる状態。それが今の日菜の現状…というのが千聖の推測。

 

 …まぁ要するにこの推測が導くところは、結局また彩のせいだということだ。

 

「兎に角!メンバーなら向かい合わないと!」

 

「ですが、やっぱり居場所が…」

 

「簡単簡単、ご自宅に殴り込みに行けば良いのだよ」

 

「えぇっ!?それは流石に迷惑というか…」

 

「向こうが勝手にサボったのだ。ならこっちも勝手にやらせても結構でしょ?」

 

「私も良いと思うわよ。そろそろあの子には一言言わないといけない頃だと思ってたし」

 

「私も賛成です!」

 

「けど…やっぱり悪いですよ。態々こうしてハルカさんが来てくれたのにこんなジブンたちの都合に巻き込んで…。もっとパスパレとは関係のないことをしてみませんか?ほら、何処かに遊びに行ったりとか。ジブン良いお店知ってて…ってもういない!?」

 

 店のカウンターを見ると既に会計をしている千聖の姿が。行動が早い。

 

「ほら行こう!」

 

「わわっ!ちょっとハルカさん!?」

 

 ハルカは麻弥の腕を引っ張って立ち上がらせる。

 軽快に笑いながら自分の腕を引いて走らせるその様は、麻弥にこれから起こる災難を感じさせるには十分だった。

 

(本当に大丈夫なんスかこの人…)

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「ここが日菜ちゃんの家よ」

 

「チサトさんヒナさんの家知っていたんですね」

 

「ええ、ちょっと知る機会があってね」

 

 事務所を乗っ取った時にメンバーの個人情報を一通り網羅したのは秘密である。

 

「へー、紗夜ちゃんと同じ苗字なんだー」

 

(………ここは敢えて黙っておこうかしら)

 

 そうして彩は迷いなく呼び鈴のボタンを押す。すると中から足音が聞こえてきて、ガチャリと玄関の扉が開く。

 

「…どちら様でしょうか?」

 

「暗黒の使者ハルカちゃんです!」

 

「……えっと」

 

「ちょっとハルカさん、初対面の人に失礼っスよ!…あ、スミマセン。ジブンたち日菜さんに会いにきたんですけれど、日菜さんのお母さんでよろしかったでしょうか?」

 

「はい、そうですが…、確か…貴女たちはPastel✴︎palletの皆さんでしたよね?ごめんなさい、せっかく来てくれて申し訳ないのだけれど、丁度日菜は出かけているのよ」

 

「どこに行ったか分かりますか?」

 

「ごめんなさい、あの子自由奔放だから。私にもどこに行ったのかは…」

 

「うーん、心当たりとかも無い感じですかね?」

 

「はい。…それで、あの子に何か御用でしたか?」

 

「いえ…、実はヒナさんの様子が最近おかしくて…。心配で来たんですけれど、何か心当たりとかありますか?」

 

「……いえ、分からないわ。家でもあまりものを言わない子ですし…」

 

「そうですか…」

 

 親にもわからないとなると、もう手詰まりだろう。正直もう少し聞きたい気持ちがあったが、これ以上時間を使わせるのも迷惑だろう。そう思い一旦この場から退こうとする。

 

「あ、そうだ!ヒナちゃんってお姉ちゃんとかいたりする?ちょっと垂れ目だけど、超怖い様相してる!紗夜ちゃんって言うんだけどさ!」

 

「…………いえ、私の家は日菜の1人っ子よ。他人の空似じゃないかしら」

 

「そっかぁ残念。似てると思ったんだけどなぁ…」

 

「……」

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「ヒナちゃん見つからず!」

 

「どうしましょう…。完全にアテが無くなっちゃいました」

 

「そうっスね…、ジブンたちも日菜さんがどこに行ったかなんて分かりませんよ」

 

「まだ諦めるには早いよ2人とも!打つ手は残っている!」

 

「と言うと?」

 

「ふふ、名付けてカブトムシ作戦!」

 

「か、カブトムシ?」

 

「道中で言ってたよね。ヒナちゃんは面白そうなものに飛びついてくる習性があるって!これを利用しない手は無いよ!」

 

「習性って…」

 

「作戦は単純!私たちが最高に面白いことをしてヒナちゃんを誘き寄せる!近づいてきたところで待機組が捕獲する!どう?」

 

 まるで昆虫のような扱いをされる日菜に同情を禁じ得ない。

 しかし日菜が興味のあるものに飛びついてくるのは事実。現状打つ手が無い以上、これが最善手なのかもしれない。

 

「でも面白いことって一体何を…?」

 

「うーん…、今日楽器とか持ってきてないしなぁ…。千聖ちゃん何かあるー?」

 

「そうね、日菜ちゃんが興味を示すものといえば…」

 

 やはり1番はライブだろう。路上なりステージなりで彩が演奏をすれば、少なくとも寄りかかってくる可能性はある。楽器もツテですぐに取り寄せられるだろう。

 しかし日菜の居場所がどこなのかがわからない以上必ず来るとは言い難い。それにまだ彩の魅力を大衆に知らしめる時では無い。それはまだ早いのだ。まぁ本人の破天荒さのせいで漏れ出しつつあるが…。兎も角、ライブという手段は使えない。勿論それで手段が無くなったというわけではないが、ここは自分がとやかく言うよりも有効な手段がある。

 

「…私は貴女がやりたいことをするのが1番だと思うわ」

 

「んー??」

 

「要するに、貴女の行動そのものが日菜ちゃんの興味を惹くに値するのよ」

 

 これは断言できる。

 丸山彩はその次の瞬間を楽しむために生きている。だからやることなすこと全てが私たちの予想を上回る。周りの人間も振り回される。究極の自己中心的思想。

 そんな瞬間瞬間を目を輝かせながら生きている彩に日菜が惹かれない訳がない。故にシンパシーも合う。

 

(そうなれば日菜ちゃんがパスパレに留まる理由もできる)

 

「よくわかんないけど…、私が考えたのならなんでも良いってことだね!よーし、なら張り切っちゃうぞー!」

 

「だ、大丈夫なんスか千聖さん…」

 

「大丈夫よ。………多分」

 

「千聖さん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませい!ご注文はなんでしょーか!」

 

「えっと、まんまるDXクレープ一つくださいっ」

 

「はーい!イヴちゃん具材お願い!」

 

「わかりました!」

 

 そう言ってイヴは鮮やかな果物を華麗な包丁さばきで適切なサイズに切っていく。

 

「ほあちゃーっ!」

 

 果物たちが宙を舞う。だが、舞う先にはいつのまにかクレープの生地を完成させていた彩が。果物を綺麗にキャッチし、慣れた手つきでクリーム付きで巻いていき、包装に入れた後棒チョコを5本差し込む。

 

「へいお待ち!300円だじぇ!」

 

 商品を受けとった少女はお駄賃を渡したあと、嬉しそうにその場を離れていった。

 

「ふぅー、健気な幼女の笑顔は健康に効くぜ!」

 

「……あの」

 

「どうした麻弥ちゃん!もしかしてクリーム作るの疲れた?代わろっか?」

 

「いやそうじゃなくて…」

 

「麻弥ちゃん、言うだけ無駄よ。私たちにできることはもうないわ」

 

 そう言う千聖の目は少しばかり死んでいた。それと同時に嬉しそうでもあったが。

 

「それにそれなりにお客さんも来てるわ。これなら日菜ちゃんも騒ぎに気がついて来る可能性もある」

 

「そ、そうかもしれないっスけど…」

 

「それにしてもハルカさん、こんな手押し屋台どこから持ってきたんですか?」

 

「いやー、私バイトでクレープ屋さんに勤めててさー。そこの店長からもらったんだー」

 

「凄いですよそれ!すごく信頼されてる証拠じゃないですか!」

 

「売り上げ出さないとドヤされるけどねー。それよりもヒナちゃんいた?」

 

「うーん、見当たらないですね」

 

「ならもっと盛り上げよう!今回は特番振る舞い!パフェもケーキも追加だ!」

 

「クレープだけでも結構クタクタなんですけどジブンたち…」

 

「大丈夫私がいる!下準備も全部終わらせてるし、盛り付けだけだしさ!それに今よりお客が増えれば日菜ちゃんも見つかる可能性がある!」

 

「そうです!今の私たちに不可能はありませんよ!イザブシドー!」

 

「「おー!!」」

 

「変にシンパシー合ってるっスね2人とも…」

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 少しだけ客行きが落ち着いてきた。

 麻弥は近くのベンチに疲れを落とすように腰掛ける。

 

「はぁ〜、疲れたっス…」

 

 ふと屋台の方を見る。未だに彩とイヴは張り切ってお客の対応をしている。よく体力が持つものである。すると突然視界の端にジュースが現れる。

 

「お疲れ様、麻弥ちゃん」

 

「あ、千聖さん。どうもっス」

 

「どうかしら、私のお友達は」

 

「…どうって、もう無茶苦茶っスよ。初対面なのに遠慮も何も無いですし、やることすること突拍子もないですし…。正直日菜さん相手にするより疲れるっス…」

 

「……でも、悪くないって思ってるところもあるんじゃないかしら」

 

「………そう、っスね。ちょっとだけ楽しいとは思ってます。まぁ、最近が最近だったからだと思いますけど。フヘヘ…」

 

「そうね、正直ここまでのパスパレの活動は散々と言わざるを得なかった。私も何度抜けようと思ったか分からないわ」

 

 寧ろリアリストの彼女が日菜同様今日に至るまで残っていることが奇跡と言えるかも知れない。千聖は自分のキャリアに色が付くと言う理由だけでパスパレに入っていたのだから。

 

「それに阻害物が無くなったとはいえ、今までのことが帳消しになるわけじゃない。パスパレは今後も厳しい視線に晒されるでしょうね」

 

「………まぁ、そうっスよね」

 

「そんな私たちがこれからこの芸能界で生き残るには決定的な何かが必要なのよ。そう、例えば私たちをまとめて引っ張ってくれるリーダー的な存在、とかね」

 

「…何が、言いたいんスか?」

 

「私はハルカちゃんをパスパレに入れたいと思ってるわ」

 

「…えっ」

 

 唐突な言葉に思わず目を丸くして言葉を詰まらせる。

 

「今回2人に会ってもらったのはハルカちゃんのことを知ってもらうため。本当は日菜ちゃんもいて欲しかったのだけれどね」

 

「…それってつまり、パスパレのリーダーをハルカさんにするってことっスか?」

 

「ええ。…今までは私が纏め役を買って出ていたけれど、貴女やイヴちゃんだけならともかく、正直日菜ちゃんは私じゃ手に余るわ。だから私たち4人を一つにしてくれる統率者が必要なの」

 

「…そうなんですか。でも言っては失礼ですけどハルカさん1人入っても特別状況は好転しないと思いますよ」

 

「いえ、変わるわ。今とは比べ物にならないほど良い方にね」

 

「…随分自信ありげなんですね。その自信がどこから出てくるのかジブンにはよく分からないっスけど…」

 

「そのうち分かるわ、そのうちね」

 

 そう笑う千聖の表情は嬉しそうであると同時に少しだけ不気味で、妙な底知れなさを感じ取った。

 

(まぁ、今のジブンたちは千聖さんに従うしかないっスけど…)

 

 千聖に推薦されてパスパレに入った時はこんなことになるとは思ってなかった。何度も何度も見たくも聞きたくもないものを浴びせられてきた。アイドルはもっとキラキラしたものだと思っていたのに、実際にあったのはその真逆。苦しくて苦しくて今すぐにでも逃げたい気持ちだ。だが千聖はまだ諦めていない。このパスパレの現状をどうにかしようともがいている。意図はわからないが千聖が自分たちのために必死になっているのなら逃げるのはきっと卑怯なのだろう。

 それは果たして逃げたくないのか逃げられないのか。どちらなのかなどとうに忘れてしまった。

 

「麻弥ちゃん!千聖ちゃん!お客さんが雪崩の如く押し寄せてきやがったぜ!手数が足りぬ!このままでは私の腕が4本に増えてしまう!」

 

「ヒナさんがいるのか分からないデス!ミッケ!みたいな難易度でーす!」

 

 屋台の方には大繁盛と言って過言なしの客で溢れかえっていた。帰宅ラッシュもあるかもしれないが、それにしても良く繁盛しているものだ。少しばかり行くのが億劫になる。

 

「…お呼びみたいね。行きましょう麻弥ちゃん」

 

「そうっスね。お互いお客さんに潰されないよう頑張りましょう」

 

 未だ今後に対する不安は拭いきれていない。ハルカが仲間になってどうにかなるとも思えない。そもそも仲間になってくれるのかさえ。

 

 ただまぁ、彼女がいれば辛いことも乗り越えられそうな、そんな気はした。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局見つからなかったぁ!」

 

「でも大繁盛でしたね!在庫も全部売り切れ!素晴らしい戦果でした!」

 

「最後の方とかお客さん来すぎて逆に見つけにくかったですからね…」

 

「良いじゃない。売り上げも出たことだし、アルバイト代も貰えたでしょう。…それにしても良かったのかしらハルカちゃん。こんなに貰って…」

 

「いーのいーの。この屋台は実質私が店長みたいなもんだし、給料の振り分けも私の勝手なのだ!」

 

 色々問題が出そうな発言だが、まぁ彼女らしいと言えばそこまでだろう。

 

「…そろそろ日が沈むわね。この辺りで解散にしようかしら」

 

「そうですね、親も心配しますし。明日もレッスンがありますしね…」

 

「そうだ!ハルカさんも見にきてくださいよ!見てもらった方が練習にも良いですし!」

 

「あー、ごめんね。私明日は友達と約束あるんだ。だからまた今度誘っておくらー」

 

「残念です…」 

 

 しょんぼりと落ち込むイヴ。どうやらイヴは彩と親しくなれたらしい。向いている向きが一緒だからか馴染むのも早い。

 

「あ、じゃあジブンたちはこっちなので」

 

「サヨナラです2人とも!今日はとっても楽しかったですよ!」

 

「私もー!じゃーねー!あ、ライブやる時はチケットちょうだいねー!絶対だよー!」

 

「分かりましたー!」

 

 そう言ってイヴと麻弥は別れ道の先へ消えていった。

 2人の姿が見えなくなった頃、彩と千聖は再び歩き始める。

 

「いやー、凄い面白い人たちだった!また遊びたいなー」

 

「ふふ、また時間が取れれば会えるわよ。それこそレッスンの日に来てくれれば良いし」

 

「あれ、でも千聖ちゃんのバンドって事務所に管轄されてるんでしょ?なら部外者が行くのって不味そうな気がするけど」

 

「それくらいの融通は利くわ。日程さえ押さえれば容易だし、彩ちゃんなら歓迎よ」

 

「まじ?やった!」

 

「それで、彩ちゃんから見て2人はどうだったかしら?」

 

「愉快な人たち!」

 

 ボケとツッコミを高水準でこなせる人たちだと思いますな。芸人向いてるぜ。

 

「ふふ、確かにそうね。あの2人隙を見せればすぐに漫才を始めるんだもの。とっても愉快よ」

 

「だよねー!千聖ちゃんが言うだけあって面白い人だった!みんなの言うヒナちゃんに会えなかったのは残念だったけど、過ごしてて楽しそうな人たちだった!」

 

「…彩ちゃんが望むのならいつだって過ごせるようにしてあげられるわ」

 

「ん、ドユコト?」

 

 きょとんと首を傾げる彩。

 少し早いかも知れないが、今が彩ちゃんの真意を確かめる絶好の機会。

 

「もし、もしの話よ。今私が彩ちゃんに私たちのバンドに入ってほしいって言ったら、どうする?」

 

「そりゃ断るよ」

 

 即答。

 流石に虚を突かれるが、予想の範囲内だ。

 

「…それは、どうしてかしら」

 

「私事務所とか管轄されるとか苦手だし、バンド組むなら私1人で作るって決めてるからね!」

 

 成程、彼女らしい理由だ。それならあの時氷川紗夜と組んで演奏していたのも頷ける。

 要は紗夜は彼女に見染められたのだ。隣に立つに相応しいと彼女が思ったから、あそこにいる。

 胸の内に醜く混ざり合った黒が現れる。

 

「それに選ばれないのは、私たちが力不足だから?」

 

「まぁ…そうとも言えるかも」

 

「ふふ、もっとはっきり言っても良いのよ。それは事実だから」

 

 私と氷川さんは同じ凡才だ。

 互いに秀でたところはあれどそれは努力で作り上げたもの。長年ギターに触れてきた氷川さんと数ヶ月前に始めたばかりの素人では差が出るのは当然。

 芸能に全てを捧げてきた私と、ギターに全てを捧げてきた彼女。

 

 何が違うというのか。

 

 仮に、私が幼いころから音楽に出会っていれば、ドラムでもピアノでも、楽器ならなんでも良い。出会って努力していれば、きっと彼女の目に留まれた筈なのに。私にも選ばれる権利があった筈なのに。

 どうしようもないことばかりが頭の中を駆け巡る。

 

「…私がもっとベースを弾くのが上手くなったら、彩ちゃんの作るバンドに入れてくれるの?」

 

「うーん、でも千聖ちゃんは今いるバンドがあるんでしょ?そっちを大事にするべきだよ」

 

「私は彩ちゃんのバンドに入りたいの」

 

「ダメだよ。千聖ちゃんは──」

 

「彩ちゃん」

 

 腕を掴んで彩ちゃんを引き留める。

 こんなに頑なだとは思わなかった。こんなに今あるバンドのことを考えてくれているとは思わなかった。こんなにも、優しい目で見られるなんて思ってなかった。

 

 だから、もう我慢できない。

 

「…千聖ちゃん?」

 

「彩ちゃん。私ね、貴女が欲しいの。欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて堪らないのよッ」

 

「うわっ」

 

 私はそのまま彩ちゃんを家の璧に押し当てる。目の前の彼女はまっすぐ私を見据えている。

 手に触れる彼女の肌、顔の肌に当たる吐息、カラーコンタクト越しから僅かに見える紅い眼差し。その一つ一つがどれも愛おしく思えてしまう。

 そのまま私は彼女の頬に優しく触れる。

 

「嗚呼、綺麗…」

 

「くすぐったいよ」

 

「御免なさい。でも本当に綺麗で、愛おしくて…」

 

「あはは、私のことを知らない人はみんなそう言うよ」

 

「…?」

 

「それより、そろそろ離してくれないかにゃー。ちょっと距離近いし…」

 

「ふふ、嫌よ。だって今の彩ちゃん…」

 

「ん…」

 

「とっても可愛いんだもの」

 

 きっと同性にこんな感情を持つことは間違っているのだろう。女優という世間の目に晒される立場なら尚更。それでも彼女を手にしたいと思っていた時からずっと想い重ねていた感情。

 私は強く彩ちゃんを抑えながら、少しずつその顔の距離を近づけていく。

 

 

 そうして距離が0に──

 

 

「だめだよ」

 

「!」

 

 寸前に彩ちゃんの人差し指に阻まれる。彼女の目に映る光が私を射抜く。

 

「のいて」

 

 ああ、ダメだ。逆らえない。

 せっかく詰めた距離が元に戻ってしまう。…本当、時折こんなカリスマを垣間見せるのだから彼女は一筋縄ではいかないのだ。

 

「ふふ、そういうのは将来のお婿さんに取っておくべきだよ。きっと私のこと手元におきたくて堪らないんだろうけど、私はそんな安くないのです」

 

「………」

 

「今日も1日楽しかった!それで良いじゃん。それ以上を求めるなんて贅沢だぜ」

 

 やっぱり彼女はどこまでも不羈だ。今の私程度じゃその歩みを引き留めることすらままならない。

 

「それに私が欲しいんだったらそんな程度じゃ全然足りないよ。もっと、もっと、もっと、全部投げ打つくらいガンギマリで来ないと!」

 

 でもだからこそ、ますます欲しくなる。諦めるなんてもってのほかだ。絶対に、絶対に私の手元に置いてみせる。今回は駄目だったけど、いつか絶対に、

 

「ほら、帰ろうぜ。千聖ちゃん」

 

 

 丸山彩を奪ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁー、カツラキツかった!今度からハルカちゃんに変身する時は髪染めようかな?頭皮のダメージがデカデカのデッカーなんだよね!カラコンなんてまだマシな方だよ!

 

 それにしても千聖ちゃんにも困ったもんだぜ!私じゃなかったら即死だった。あれは魔性の女ですよ。

 まぁ、前世でもあんな感じの人珍しくなかったしね!それにあの手の人は突き放すよりも焦らす方が面白いことしてくれるんだよねー。いやー今後が超楽しみ!

 

 さーて、今日は晩御飯がハンバーグだ!早く帰って作らなきゃだし、今日の私は走る彩ちゃんだ!ヒュー、今晩は私の料理の腕前が火を吹くぜ!

 

 …ってムムッ、あのアイスグリーンの髪!華奢な体つき!そしてあの自信満々の立ち姿!我が友、紗夜ちゃんではないか!こんなところで会うなんて非常に珍しい!これは猛アタック不可避だね!

 

「ふははは、紗夜ちゃんみっけ!おーい紗夜ちゃーん!丸山ダーイブ!」

 

「わぁっ!?」

 

 イェーイ!捕獲完了!

 紗夜ちゃんGETだぜ!このままジムリーダー全員フルボッコにしてチャンピオンになろうぜ!ダイジョブ!私たちならできる!目指せバンドリマスター!

 

「いたた…」

 

「…?」

 

 凄い違和感。触り心地が違う?なんかいつもよりちんまいような…。

 

「なんなの急にー…」

 

 顔は似てるけど、なんか違う。というか紗夜ちゃんじゃない。

 

「いや誰?」

 

「…それこっちのセリフなんだけど」

 

 

 …どうやら私は人違いをしてしまったようだ!てへっ!彩ちゃんのドジっ子!コツン!

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 彩ちゃんと交差点で別れ、1人住宅が立ち並ぶ道を歩く。

 

 …はぁ、分かっていたけれど想像以上に厳しいわね。あの様子じゃ囲い込みも駄目そうだし、ちょっと手詰まり気味ね。むしろ明確な拒絶をされなかっただけ幸運と思うべきだろうか。まぁ、諦める気は毛頭無いけれど。

 

「……」

 

 …思えば、私は安全な道ばかりを歩いてきた人生だった。だからこそ、無意識に安牌で確実な方法を取っていたのかも知れない。彼女のいう通り今の私に必要なのは覚悟。何もかもを投げ打つくらいの覚悟。

 ふふっ、危ない橋なんて生まれてこの方渡ったことなんてなかった。怖く無いと言えば嘘になる。けれど、彩ちゃんを手に入れるためなら私はなんだって利用してみせる。もう何も怖くなんてない。

 

 だからこそ、今私がするべきことは──

 

 

 

「……さて、いい加減出てきてもらって良いですか。氷川さん」

 

「………」

 

「たまたま会った、という顔ではないわね」

 

「──お話が、あります」

 

「奇遇ね。──私もよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 








補足:千聖ちゃんが彩ちゃんをハルカちゃんとして会わせたのは、パスパレではハルカちゃんとして共有。そして自分のプライベートでは彩ちゃんとして独り占めしようとしたからだぞ!できる女は抜け目ないのだ!


転生彩ちゃんのヒミツ⑩:実は私服のセンスが絶望的!クローゼットには数多のダサTが眠っているぞ!普段着ているのは紗夜ちゃん直々にコーディネートしたものだ!安心!


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