うっ!作者のあやさよを書かなければ死んでしまう病がここでッ!
【前回のあらすじ】
・第一次丸山大戦の火蓋切られる!
・日菜ちゃん怖すぎンゴ
・アヤサヨキテル‼︎
「ただいまーっと」
「…お邪魔します」
その部屋は想像よりも質素だった。
八畳ほどの畳の敷かれた部屋と、キッチン、お手洗い、浴槽。いくつか楽器がおいてこそあるが、それ以外はなんら変哲のない借用マンションの一室。
ただ丸山さんが住んでいると考えると少しばかり意外だと思う感情が先出た。
「思ったより、落ち着いているんですね。もっとこう、変なものが置いていたり、散らかっているものとばかり思ってました」
「マッカーサー、私家じゃさながら修行僧みたいな生活送ってるんだぜ」
「今日も冗談の質が良いようで何よりです」
「私の信頼値が少なすぎる!」
他愛のないことを話しながら2人は手を洗い、畳の上の丸机の前に座る。
「あ、ご飯いる?」
「……そうですね、よろしければ頂きます」
「ん、おっけ。ちょっと待っててね。何かリクエストとかある?」
「…では丸山さんの気分で」
「りょーかい!あ、待ってる間自由にしていいからね」
彩はキッチンへ行き、冷蔵庫を物色。適当に食材を引き出すと、流れるように開封し、そのまままな板の上で包丁を使い細かく切り始めた。
1人でさせてしまうのも申し訳なかったので、手伝おうとしたが、思ったよりも彩の手際は良く、素人の自分では余計な足を引っ張るだけだろうと、立つのをやめた。
「〜♪」
「………」
それにしても楽しそうに料理を作る。こういう姿は音楽をしていても、部活動をしていても、変わりない。
紗夜は改めて部屋を見渡す。質素な部屋だが、きちんと手入れはされていて、決して怠惰な生活を送っているわけではないことが伺える。置いてある楽器も同様だ。使ったままケースにしまっていないであろう幾つかは、使い倒された跡がありながらも、まるで新品同様の清潔さを保っている。
特に目が行ったのは台座に立てかけられた黒のエレキギター。外殻の塗装は殆ど剥がれ、弦も何度も交換した跡が見える。まるで何十人の人間が使い込んだ後のような状態。彼女がいつも使っているものとは違う代物だった。
畳から立ちあがり、ギターのそばに近寄る。
(…私のギターもそこそこ長く使ってるけどこんなことにはなってない)
ここまで来ると買い替えたほうが早いだろう。ギターをここまでの状態にまでするほどの努力と熱量。それを将来を全く考慮していない趣味などと言ってのける彼女は正しく天才なのだろう。
ふとギター横の押し入れに目が行く。この部屋にはやたらと押入れがある。この部屋だけではない。他のわけられた一室にもほぼ全てにも存在した。
何の気なしに襖を開くと、中には無数の楽器がぎっちりと仕舞われていた。無論ケースには入っているが、それにしても数が異常だ。まさかと思い隣の襖も開ける。そこも同様の有様だった。中には学生では到底手の届かない高価な代物もあった。
(動画やバイトの収入がどこに消えてるのかと思えば…)
こんなところに消えていたとは。しかもホコリ一つ載っていない。毎日手入れをしているというのだろうか。
そういえば彼女はやたらに食べる。食費のことも考えると、意外と彼女は金使いが荒いのかもしれない。
しかしこれ程の楽器の数。一体彼女はいつから…
「…丸山さん」
「なにー?」
「丸山さんはいつ頃から音楽を始めたんですか?」
「んー、覚えてないくらい昔!物心ついた時にはーってやつ」
「…丸山さんは昔から音楽が好きなんですね」
「あはは、実のところ最初はそうでもなかったり」
「…そうなんですか?正直かなり意外です」
「まぁ色々あったんだよ。色々」
そう言う彩の表情は普段よりも少しばかり沈んでいるような気がした。
「……丸山さん、私も手伝います」
「え、ホント?じゃあそこのニンジン洗ってもらおうかな!」
「………」
「冗談だって!だからそんなジト目でこっち見ないで!可愛いだけだから」
ー
「よしできた!今日のご飯はハンバーグだぜー!」
机に置かれる小皿たち。ハンバーグをメインに据えた他、白米に野菜や漬物などの青物もあり非常に健康バランスが良い献立となっている。
「紗夜ちゃん意外と手際良くてビックリしたなー」
「親が共働きで家にいないことが多いので」
「じゃあさ、今度紗夜ちゃんの家行ってもいい?この彩ちゃんのフルコースを見舞ってやるぜ!」
「………それ天ぷらオンリーになりそうな気がするんですが。…まぁ、日菜がいない時であれば」
「よし!言質ゲット!」
「それより早く食べましょう。冷めてしまいます」
いただきます、と声をあげて二人は料理に箸をつける。
(…美味しい)
優しい味だ。どこか郷愁を感じる物思いにふけさせるような風味。心に安心感を落とし込んでくれる。まるであの頃の母が作った料理のようだ。
ふと脳裏に浮かぶ妄想。使い古したギターを背負って帰ってきた自分を暖かな食卓と共に迎え入れてくれる丸山彩。おかえりと優しい言葉をかけてくれて、そのあとは一緒にギターを弾いたりして、それで休日には一緒に小さな箱ライブで音を合わせたりしてその夜には……
「紗夜ちゃん、美味しい?結構自信作なんだけど」
ハッと現実に心が戻される。
「……はい、相変わらず上手ですね。今度教えてもらっても?」
「いいよー、私も紗夜ちゃんの料理食べたいし!」
…いつも彼女は1人でこんな風に食事をしているのだろうか。
そんな彼女を想像すると胸が痛くなる。そもそもなぜこんなマンションで一人で暮らしているのか。彼女の両親と何かトラブルでもあったのだろうか。トラブルがあったとしても娘を1人マンションで暮らさせるのは如何なるものか。
勝手な想像と理解していても、そんな考えが頭に浮かばずにはいられなかった。
(……私なら絶対に独りにしないのに)
ー
「ふぃー、ご馳走様っと」
相変わらずよく食べる。積み上がった皿を見上げながら紗夜はそう思う。
彼女が大食漢であることは今更とはいえ、いったい栄養が何処に行っていっているのかが気になるところである。
「そんなに胸見ないで。えっち」
「チッ」
「…大丈夫だよ。貧乳はステータスじゃない、希少価値だ。紗夜ちゃんはひんぬーであることを誇るべきなんだよ。ほらもっと胸張って!」
「成程、ハンバーグと同じ姿になることがお望みならそうと言えば良いのに。大丈夫ですよ、やり方は丸山さんの作り方を見てしっかり覚えましたので」
「誠に申し訳ありませんでした」
「次はありませんよ」
美しい彩の五体投地を他所に紗夜は食器を片付け始める。
「……ところで、丸山さんはどうしてここで一人暮らしを?」
「んー…、まぁ親と反りが合わなかったって感じ。家族とも何年も会ってないよ」
何年もって…
「……あの、いつから一人暮らしを」
「中学入る前くらいかな。ホント最初は大変だったんだよ!音楽用に部屋を超改造するところから始めたんだからね!管理人の頭が堅くて堅くて。全然許可降りなかったんだよねー」
「……」
…数年間1人で生活していたとは。明らかに小学生の少女がすることではない。何か、奇妙だ。
「………独りは、寂しくないんですか?」
「? 全然」
「そ、そうですか…」
まぁ確かに彩が1人寂しくてべそべそしている姿など想像し難い。自分と出会うまで友人もいない様子だったし、意外と1人には慣れているのかもしれない。しかしそれにしてもサッパリし過ぎな気もするが。
「あっ、そう言えば話したいことって何?」
「えっと……いえ…特別なことではないのですが、その、これを……」
「んー?」
そう洗い物を終えた紗夜が机に置いたものは、箱ライブの案内チラシだった。
「2週間後にCIRCLEというライブハウスでRoseliaのライブをするので良ければ…」
「行く行く行く!絶対行く!!」
予想はしていたが即答だった。
…今この話をするわけではなかった。本当は彼女の人間関係について徹底的に洗い出したかったのだが、彩のこれまでの人生を想像すると中々口に出せなかった。
彼女にようやくたくさんの友人ができたというのにそれを振り払うような真似をするのはどうなのだろうか。そんな良心に葛藤される。
「いやーそれにしてもRoseliaも完全復活だね!復活の一助した私としてもノーズがトールだぜ!」
最近は戻ってきたリサも遅れを取り戻すように恐ろしい勢いで上達しているという話だ。次のライブは彩的にも大いに期待できた。
「いつまでも足踏みをしているわけにもいきませんから。…それにフェスの予選エントリーも近いですし」
「ふぇす?」
「FUTURE WORLD FES。世界中のバンドグループが集って頂点を決める場です。Roseliaはそこでの優勝を目標に現在活動してます」
「なんか凄そう!」
「凄いも何も、有名から隠れた無名まで世界中の凄腕バンドマンが集う場ですよ。特に今はガールズバンドの戦国時代。プロありきでも激戦は避けられないと思います」
仮に彩が参加しても一筋縄では行かないだろうと紗夜は踏んでいる。それほどまでに昨年までのフェスのレベルは高かった。
「私たちに今最も足りないのは経験です。練習もしつつ場数を増やすのが今できる精一杯なのが現状ですね」
「成程!なら私と紗夜ちゃんもどこかのライブに出るべきだね!」
「………えっ?そ、それって丸山さん──!」
まさかフェスに…!
「紗夜ちゃんの経験のために!」
「…………そうですね」
「よーし、そうと決まれば早速練習だぜ!いっぱい歌も用意してあるんだ」
そう言って部屋の棚の中から山のような紙束を取り出した。見てみると一枚一枚に歌詞と楽譜がびっしりと書かれている。どれも動画では見たことのない歌詞。つまり全て新作だ。ほぼ毎週チャンネルに曲を更新しているのにも関わらずこの数とは。相変わらず彼女の創作能力には恐れ入る。
同時に、それ程紗夜とのライブをするのを楽しみにしていたことが窺えて少し嬉しい気分になる。
「早速セッションからやろう!」
「はぁ…、わかりました」
いつも使っているギターを手に笑顔を浮かべる彩。それに絆されて紗夜も少しだけはにかむような笑顔を浮かべる。
(………もし仮に、丸山さんがフェスに出場すると言い出したら、私はきっと…)
ー
「あ、すごく良い感じだよ紗夜ちゃん。最近ますます磨きがかかってきやがりましたね!流石歩くシンギュラリティマシン!これならフェスも優勝間違いなし!」
「そんな甘いわけないでしょう。…ふぅ、少し休憩しても大丈夫ですか?」
「ん、おっけ。そこにお冷置いといたよ」
「ありがとうございます」
紗夜は畳に腰を落ち着ける。相変わらず彼女とのセッションは気を削る。勿論楽しいには楽しいのだが、知らぬうちに疲労が溜まってしまうので夢中になれば卒倒してしまうかもしれない。頬を伝う汗を拭いながらコップの水を飲む。
「そういえばもうお外暗いけど紗夜ちゃん何時頃帰るの?」
「今日はここに泊まります」
「了解ー……………ん?」
「着替えは行きしなに買ってきたのでご心配なく」
「あ、おい待ちなYO!え、泊まるの?泊まっちゃうの!?あの頑固紗夜ちゃんが!?家出ビュー!?親に反逆!?沸き立つ観客(私)!?今日は狂宴!?ヒャッハーッ!!」
「落ち着いてください」
「はい」
「全く、少し調子に乗ればこうなんですから…」
「いーじゃん別に。それより本当どうしたの?私のお家に乗り込んできただけでなく、そのままお泊まりなんて!最近紗夜ちゃんの積極性が鰻登りひつまぶしだよ!」
「…別に、気が向いたからです。友人同士ならば特別珍しいことでもないでしょう」
「確蟹!じゃあ今日はお祭りだね!」
そう言って彩は紗夜の向かい側に座り、汗を拭く紗夜をじっと見つめる。
「…な、なんですか?」
「いやー?えへへー、やっと紗夜ちゃんが素直になってきたなーって」
「……そうかもしれませんね。誰かさんに毒されたんでしょう」
「毒でも適量なら薬だよ。最近は日菜ちゃんのことで悩むことも減ったでしょ?」
「……そうかしら。確かに日菜の事で頭を抱えることは減ったように感じたけど…」
悩みがないと言われると言葉が濁る。何せ特大の悩みが目の前の人間を中心に発生しているのだから。
「ふふっ、やっぱり私のメンタルケア法は間違っていなかったってことね!流石私!」
「ふふ、丸山さんが私に良い影響を与えてくれたと言うのは間違い無いと思いますよ」
「そうだよね、初めて会った時の紗夜ちゃんは色々見ていられなかったからさ」
彩は紗夜の隣に歩いてきて、優しく抱きついてきた。
「ま、丸山さん…?」
「……紗夜ちゃんもさ、家だと色々大変なんでしょ?妹のこととか、親のこととかさ」
「…ぇ、ど、どうしてお母さんのことを…」
「やっぱり不仲なんだね」
「…あっ」
「いいよいいよ、誰だって親と仲が悪いことくらいある!私もそうだったし。…あ、今もそうか。あははっ」
そう笑いながらも、彩は自分の背中を優しくさすってくれる。紗夜はそこに母性にも近い安心感を覚えた。
…母に最後こうして撫でられたのは一体どれほど前だったろうか。今はもう碌に関わっていない両親との短い思い出が追憶される。
もう何年も感じていなかった温かさに胸の奥が締めつけられる感覚に襲われる。
「その、丸山さん。もう私は…」
「気にしないで。気にしないで良いんだよ」
「……んっ」
「私はね、紗夜ちゃんに我慢して欲しくないんだ。性分だっていうのも分かってる。紗夜ちゃん超真面目だからねー」
彩はそのまま包み込むように紗夜を自分の胸に寄せる。
「けどさ、私と一緒の時くらい全部捨てて素直になってほしいんだ。ほら、私の家を第二の家だって思えるくらいにさ!」
(…家、ここが、私の…?)
「よしよし」
安心感。多幸感。
それらが紗夜の中でゆっくりと巡り会う。
「ぁっ、ま、丸山さん…」
体から力が抜けていく。
多分きっと、これが誰かが隣にいるという幸せなのだろう。安心なのだろう。
いつからか自分のことなどいないように扱ってきた両親。中学に入ってからは最低限の物以外は何も施されたことがなかった。親に何度も何度も比較され、いつしか失望され、劣等感だけが積み上がっていた毎日。食事だって妹か自分で作った料理を食べていた。紗夜にとってもはや自分の家は心休まる場所では無くなっていた。
けれど彩といる時はそんな失った安心感が取り戻せたような気がした。
(…きっと私が丸山さんに求めていたのはこれなのかもしれない)
隣に大事な人がいる安心感。本来は家族に感じるはずであろうそれを、彼女は彩から感じていた。
彼女は自分を肯定してくれる。努力を認めてくれる。隣に寄り添ってくれる。幸せが欠けた紗夜にとってこれ以上に幸福なことはなかった。
「よしよし、今までよく頑張ったね。超偉いよ」
嗚咽と涙を漏らす自分にただ隣に寄り添ってくれる彼女。できるのならば、ずっとこうしていたかった。
ー
「その、すみません。こんなみっともない姿を…」
「全然みっともなくないよ。誰だって泣きたい時とか弱音を吐きたい時はある。それって当たり前なことなんだよ。私だってあるしね!」
「そう、ですか。なら丸山さんが泣きそうな時は私が隣に来てあげますね」
「うん!その時はお願いね。えへへ、言質取り付けちゃった!」
まぁ正直彼女が泣くなんて姿想像がつかないのが正直なところではあるが。というかそもそもネガティヴな感情自体彼女の中で発生しているのかも怪しい。
それは偏に、丸山彩という人間の強さなのだろう。
「…私も丸山さんのように強く在れたら」
「なにー?羨ましいのかい?この私が!」
「はい、羨ましいです。誰よりも自由に振る舞って、何にも縛られていない貴女が、とても」
何もかもに縛られている自分とはまるで真逆で、羨ましい。
「そんなこと言ったら私だって紗夜ちゃんの努力できるところ羨ましいなって思うよ。ほら、私真面目になりきれないからさ」
「…そう、なんですか?」
「ウン!隣の芝生は青いって言うじゃん。悩みだって、幸せだって、苦痛だって人それぞれ。私は紗夜ちゃんが紗夜ちゃんらしく在れたら、最強になれちゃうって知ってるんだから!」
「ん…」
「隣ばっかり見ても仕方ないよ。正面だよ正面!前向いて頑張れば、きっと他人より自分の方が好きになれる」
「できるんでしょうか…、私に」
家族から何もかもを否定された自分を好きになんてなれるのだろうか。前を向いて生きていけるのだろうか。
「大丈夫!なんたって紗夜ちゃんが大好きな私がいるんだからね!」
そう快活な笑顔で言う彩。
…確かに、一緒ならば怖い道も歩いていけるかもしれない。大好きな彼女となら。
「丸山さん、もう少しだけ練習しましょう」
「うん、いいよ!あ、そうだ折角だから歌とか歌って見る?これとかデュエット専用で…」
「…ふふっ」
ーーー
好きな人と過ごす時間とは不思議なもので、一緒にいるうちに嫌なことや腹の立つこともすっかり忘れてしまうものだ。
少なくとも私はそうだ。今日あった出来事の大半は今の幸せに呑まれて気にも留めなくなっている。
正直自分でも意外だった。丸山さんに詰め寄って問い詰めるくらいはしてしまうと思っていたのに、今や彼女の手玉に取られているのだから。
けれどもそれは無理もないことだと私は思う。なぜなら現在進行形で私は幸せの絶頂に呑まれているのだから。
「zzz……あっ、天ぷら……えへへ」
「………」
…寝れない。
いや寝れるわけがない。今私と丸山さんの間にはなんの仕切りも無い。それどころか一緒の布団の中に入っているのだから。
一緒に湯船に入った時もそうだが、丸山さんにそう言う感情を持ってしまっている私としては少し、いや凄くハードルが高い。
そうだ、羊を数えてみよう。迷信じみている話だけれど、このまま心臓が破裂するよりかはマシ。…確か自分の好きなものでも効果があったと聞いた覚えがある。なら…
(丸山さんが1人、丸山さんが2人、丸山さんが3人、丸山さんが4人、丸山さんが……えへへ…)
私は馬鹿か?
丸山さんが隣にいて寝れないのにどうして頭の中でデフォルメ丸山さんを量産したのだろうか。
というか本物が隣にいるのに頭の中で数えると言うのも少し馬鹿馬鹿しい。
「………」
私は丸山さんに助けてもらってばかりだ。
一緒に演奏をする楽しさを教えてもらって、達成感を教えてもらって、自分を肯定してもらって、そして私に家族を思い出させてくれた。
(…温かかったな)
実際の親の温もりなどもう覚えてはいないが、彼女の優しさは間違いなく私に安心を与えてくれていた。
丸山さんは私に足りないものを埋めてくれる。欠けたところを優しく補ってくれる。
こうして過ごしていると改めて思う、私には丸山さんが必要なのだと。そして私も丸山さんの足りないところを補ってあげたい。
けれどもそう言い張るにはあまりにも敵が多いことも、また理解していた。特に白鷺千聖。彼女だけには取られたくない。
これは争奪戦だ。まだ私が知らないだけで伏兵もきっといるだろうし、これから敵が増えることだってあるだろう。
それに今日白鷺さんと話して理解した。私は消極的で臆病だ。どうしてもそれが足を引っ張って私に一歩踏み出した行動をさせてくれなかった。
だから勇気を出して丸山さんの家で一夜を明かす決断をしたが…まだ、足りないのかもしれない。
「……」
私はこの一年彼女の何を見てきた?引いてばかりでは手に入らないことぐらい嫌ほど思い知ってるだろう。
目の前の彼女を見習おう。いつだって丸山さんの突発的行動には呆れると同時に感心していた。私も今だけは常識を捨てるべきだ。
(なら私がこれからするべきことは…)
静かに布団から抜け出して立ち上がる。
「……いつもの仕返し、とでも思ってください。彩さん」
●●●
紗夜ちゃんがいねぇ。
朝起きたら布団にいたのはこの丸山様だけ!家にも誰もいない!玄関見たら靴なかったし、帰ったのかな?でも持ってきてた荷物はあるしなー…。
むぅ、折角朝食はフライドポテトフルコースジェットストリームアタックにしようとしてたのに、いないとは残念だ。仕方なし、今日遊ぶ時にポテトで釣り上げてからかってあげよっと!
ってあれ、呼び鈴?こんな時間に誰ー。もしかしてまた管理人?うっ、まさかまた私が違法改築をしているのがバレた!?また説教かなー。嫌だなー。はいはい今出ますよーっと。
「おはようございます丸山さん。昨日ぶりですね」
「…紗夜ちゃん?どしたの急にいなくなって。もうごーとぅーほーむしたかと思っちゃったじゃん」
「すみません、少し準備に手間取りまして…」
「準備?」
……ていうか荷物多くね?
キャリーバッグ2つにリュック、手掛け鞄。すごい荷物だね。そんなに膨らんだ鞄漫画でしか見たことないよ。旅行でもこんなに盛らないよ?
「えーっと、どしたの?駆け落ちかなんかだったりする?」
「それも悪くは…ごほんっ!まぁ、私なりの決断です」
「決断?」
紗夜ちゃんはどさりと荷物を廊下に置く。
「私、ここに住みますので」
「………んぇ?」
「確か使っていない物置き部屋が一つありましたね。そこを使います」
「いや、え、ちょっと!?もう決定事項な感じ!?」
「大丈夫です。管理人さんとは先ほど話をつけたので」
「ウッソでしょ!?え、じ、実家は!?ほら両親!日菜ちゃん!」
「あそこにはもう一片の未練もありません。それにここで過ごした方が練習的な意味でも有意義だと判断しましたので」
あ、ダメだこれ。完全に目が据わってらっしゃる。
「……紗夜ちゃんが不良になっちまっただ」
「ふふ、これからよろしくお願いしますね。丸山さん」
転生彩ちゃんのヒミツ⑫:実は手品が得意!握った手から鳩を出したり、髪の毛から鳩を出したり、紗夜ちゃんのスカートの中から鳩を出したりできるぞ!