まるやまっ!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・時代を駆け抜けたHEISEIバンドラーたち
 今その無念が未来へと受け継がれる
 祝え!新たなる魔王の誕生を!
・ホクホク満足系主婦氷川紗夜
・日菜ちゃん「殺してやるぞ丸山彩!」






みさき!

 

 

 

 

 

 

 想像できるだろうが、夏場の着ぐるみの中は暑い。とんでもなく暑い。

 最近の着ぐるみは排熱機能やらなんやらが付いてはいるものがあるが、私の身につけているものには最低限しかない。誰だってアニメのデフォルメキャラの背中やらケツやらの穴から妙な機械の駆動音が鳴れば顔を顰めるものだろう。故にこれは子供の夢を守る必要な犠牲なわけだ。

 そう、この目の前の子供2人の夢と希望を守るために、通称『中の人』は暑さと疲労に戦い続けるのだ。それが我々きぐるまーの役目なのだから。

 

「ミッシェル!次はアレに乗りましょう!とても楽しそうだわ!」

 

「いやあっちが良いんじゃないかなぁ?空中分離するジェットコースターなんて初めて見た!」

 

 それは安全性という面で大丈夫なのだろうか。

 そんな疑問を飲み込みながらも、私は道化…もといクマさんを演じ続ける。まぁ黒服さんが大丈夫だと言うのだから問題ないだろう。弦巻家に限ってそんな安全性を度外視したプランを立てるわけもない。

 

「大丈夫だよ。ここミッシェルランドは皆んなに夢の時間を与える場所だからね!2人はめいいっぱい楽しめば良いさ!」

 

 二人を喜ばせるために私は歯に衣を着せた柔らかい言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 ──時は少し遡る

 

 

「ちょぼまき、さばまき、もんじょまき〜♪」

 

 休日の朝。見事な快晴である。こんなに天気が良いと、気分も良くなるというもの。思わず彩の口から漏れる歌がそんな上々な気持ちを表していた。

 

「おはよう彩ーー!今日は良い朝ねーー!」

 

「んぇ?」

 

 そんな中、唐突に彩の前に現れたのはスーパーお嬢様弦巻こころだ。現れたのは玄関からでは無く、向かいの窓の外からだが。

 マンションのすぐそばに滞空している弦巻家御用達のヘリがけたたましい音を鳴らしている。

 こころはそのままヘリから飛び降り、彩のいる部屋に転がり込んできた。

 非常識どころの行動ではないが、彩は特に疑問に思うこともなく、寧ろ目を輝かせてこころを迎え入れた。

 

「こころちゃんおはよー!ダイナミックな登場だね!」

 

「ええおはよう彩!…あら、それ紗夜の鞄よね。紗夜も来てるのかしら!」

 

「来てるっていうか、今ウチに住んでるんだよねー。今はバンドの練習で出かけてるけど」

 

 こころは一瞬真顔になる。

 

「……そう。それよりも彩!今から遊園地に行きましょう!」

 

「おっと唐突…って遊園地?」

 

「ええ、来週開園するのよ!」

 

 そう言われて、彩はいつの間にか部屋にいた黒服の人から遊園地のパンフレットを渡される。

 『ミッシェルランド』。どこかで見たことあるクマがマスコットのテーマパーク。そこに描かれているアトラクションの数々は彩の好奇心に炭酸をぶっかけていく。

 

「それでね彩、本当は来週からなんだけど、今日は黒服さんにお願いして遊べるようになったの!だから一緒に行きましょう彩!」

 

「うん!行く行く!超行く!ちょっと待って荷物持ってくる!」

 

 トントン拍子に話が進んでいく。この場には誰も二人を止める役が存在しないので、状況を置いて話だけが進んでいく。ツッコミ不在の恐怖とはこのことである。

 仮にライブ前日の追い込みで不在の紗夜がここにいたのなら、その身を賭けて全力で阻止していたことだろう。しかし現実はそうはならず、彩は満遍の笑みで荷物を持って来た。

 

「そうだわ彩!今日はもう1人一緒に遊んでくれる友達がいるのよ!」

 

「んー、誰?」

 

 その時、ヘリから1つの影が飛び出してきた。影は空中で一回転し、スタイリッシュに部屋の窓へ滑り込んできた。

 それはクマだった。というかパンフレットに描かれていたピンク色のクマ型マスコットそのものだった。クマは静かに立ち上がり、こころと彩に向かい合う。

 

「──やぁ、始めまして!僕はミッシェルランドの妖精ミッシェルだよ、今日はよろしくね!」

 

 あり大抵に言えばそれは着ぐるみだった。カラフルな衣装を着たクマ型マスコット。

 

「お、おぉーーっ!!?クマが喋ってる!!凄いどうなってるの!?突然変異!?」

 

「ふふ、当たり前じゃない。ミッシェルは妖精さんなのよ!」

 

 しかしこの銀河級のバカ2人には本物の生物に見えているようだった。近くにいた黒服は遠い目でとありし日の純粋だった幼き自分を重ね合わせる。薄々察していたが、丸山彩は自身の仕えるお嬢と同類だったようだ。

 

「ていうかこのクマさんこころちゃんのバンドでDJやってた子じゃん!」

 

「ええ、そうよ!ミッシェルは私たちハロハピのメンバーでもあるのよ!」

 

「すごー、さすが妖精さんだ…!」

 

「実は今日ハロハピのライブのリハーサルがあるからそれも彩には見てほしいの!」

 

「え、ホント!?前は舞台裏で見てたからなー。今度は観客席で見たいぜ!」

 

「ええ勿論よ!今日のお客さんは彩一人だもの!張り切っちゃうわ!ねぇミッシェル!」

 

「うん!僕も今日は特別DJ張り切っちゃうよ!」

 

「おぉー、DJができる喋るクマさん…はちみつも食べるのかな…!」

 

「ええ、きっと食べるわ!妖精さんだもの!」

 

「だよね!妖精だもんね!」

 

「「あははははーっ!」」

 

「あははー…」

 

 とんでもないメルヘン具合だ。今の二人の脳みそには花畑が咲き誇っているに違いない。

 

(……これからこの二人の相手するのかー…)

 

 今から押し寄せる災厄を憂い、ミッシェルの中の人こと奥沢美咲は着ぐるみの中で無機質な天井を仰いだ。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてやって来たミッシェルランド。

 元々廃園寸前だった遊園地を弦巻家の力で大幅リニューアルして建築されたこのテーマパークは、あらゆる最先端技術が盛り込まれている夢の場所でもあった。

 無重力空間を体験できる迷路の館、馬が自立して動くメリーゴーランド、明らかに物理法則を無視した挙動をするジェットコースター。これら全ての最先端テクノロジーが一堂に会する場は世界広しと言えどこのミッシェルランドのみだろう。

 

 弦巻家が莫大な資産を投じて完成したこのミッシェルランド。

 彼女奥沢美咲はそんな弦巻家に雇われ、ここのマスコットキャラの中の人として絶賛労働中なわけである。

 一介の学生兼アルバイターがどうしてこんなことになったのだろうか…。しかし考えても仕方のないことである。何故ならアルバイト先でミッシェルをスカウトしたのは弦巻こころその人だからだ。宇宙人の思考回路を理解しろなど土台無理な話である。

 

 目に映る遊具を一通り楽しんだ3人は、昼食のためにミッシェルランド常設のレストランに来ていた。

 

「はぁー、楽し!!ホント夢みたいな場所だなー!」

 

「そうでしょそうでしょ!私も初めて遊んだけど最高に楽しいでしょ!?」

 

「うん!遊園地がこんな楽しいなんて知らなかった!」

 

「もしかして彩ちゃんは遊園地に来るのは初めてかい?」

 

「うん、行きたいなーって思ったことはあるんだけど色々あって行けなくてさぁ」

 

「そうなの!じゃあ私は彩の初めてを貰っちゃった訳ね!」

 

「そーだね、初めてだね!あはははは!」

 

「……えへへ」

 

 頬に手を当てて噛みしめるように嬉しがるこころ。

 そんなこころを美咲は着ぐるみ越しにただ黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「おーい、こころーん!」

 

「あっ、はぐみ!」

 

「ふえぇ〜、ここ広すぎるよぉ〜」

 

「ふふっ、迷わなかっただけ成長だよ花音。…しかしこの異界の地で姫をエスコートしながら登場する私……フッ、儚い…」

 

 広場に現れたハロハピの3人。こころに負けず劣らずの尖りきった個性を持つ彼女らは間違いなくハロハピを支える大事な存在だ。

 

「あら、美咲は来てないのかしら」

 

「え、えっとね!美咲ちゃんはもう少し遅れるって…」

 

「そう、残念だわ…」

 

「そういえば会わせたい人がいるってこころん言ってたけど…」

 

「ええ、紹介するわ!私の友達の……ってあら?彩は?」

 

 辺りを見渡すがどこにも彩の姿は見えない。というかミッシェルもいない。ついさっきまでここにいたというのに、その影も形も見当たらなかった。

 

「ふ、二人が迷子になっちゃったわ!?」

 

「えぇっ!?」

「ふえぇ!?」

「儚い…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「迷子やー!」

 

「……うーん」

 

 商店の裏通りを模したショップエリア。そこに彩とミッシェルはいた。

 

「うごご…どないてこんなことに…」

 

「彩ちゃんが急に走り出すからだよー」

 

「だって猫ちゃんいたんだもん!ピンク色の可愛いのが!」

 

(多分それビジュアル用に用意された猫型アンドロイドなんだよなぁ)

 

 兎にも角にも二人はこの膨大な敷地を誇るミッシェルランドで迷子になってしまった訳なのだが、実のところ大した問題ではない。

 というのも美咲が装着しているミッシェルヘッドにはこころのお付きの黒服の人たちといつでも連絡が取れるツールが仕込まれている。なので、あと数分もしないうちにこちらの電波を逆探知して黒服の人たちが迎えに来てくれるだろう。今自分たちがするべきなのはここで動かず黙って待っていることなのだ。

 

「迷っちゃったのは仕方ないよ。もうすぐお迎えが来るから座って待ってよう」

 

「はーい」

 

 二人は近くのベンチに腰を下ろす。

 街の裏通りを模しているだけあって、日が当たりにくく薄暗い。だが優しいそよ風が入って来て涼しくもあった。通気性の良いミッシェルの鎧には程良い回復イベントだ。

 

「そーいえばさ、ミッシェルって何でこころちゃんのバンド入ったの?」

 

「…え?うーん、そうだね。普通に誘われたから、かな。最初は断ったんだけど強引にって感じ」

 

「あははっ、こころちゃんらしー。私も一人くらい強引に行こうかな?」

 

「彩ちゃんはバンドを作りたいの?」

 

「うん、宇宙で1番輝けるバンドを作りたいの」

 

「凄い夢だね」

 

「でしょ?私と友達で一緒に考えたんだよ。…昔ね、その友達に言われたことがあるんだ。貴女ならどんな場所にでも行けるって。私は今でもその言葉を信じてる!…それで叶うならみんなも連れて行ってあげたい。みんなで登った景色は私が知ってるものよりもずっと綺麗な筈だから」

 

「…そうなんだね」

 

「まぁ、まだ私以外の正式メンバー1人も決まってないんだけどね!あはは!」

 

 そう軽快に笑う彩。

 …良い人だ。夢があって、輝いていて、何より芯がある。こころと同じで自分の信じたものが一切ブレない人間。だから少し意外だった。彼女がいまだに他のメンバーが一人もいないことに。

 

「…僕はね、こころちゃんに誘われるまでは妖精さんじゃなかったんだ」

 

「えっ」

 

「唯のクマ…いやそれ以下だった。けどこころちゃんがあの時、笑顔で手を差し伸ばしてくれたから僕は今ここにいるんだ」

 

 脳裏に浮かぶはこれまで何度も自分たちのことを助けてくれた彼女の姿。奥沢美咲にとって弦巻こころは光だった。どんな世界も等しく照らしてくれる優しい光。

 

「こころちゃんがいたから僕は変われた。だから彩ちゃんも誰かに手を差し伸ばし続けたら自然と人は集まってくると思うよ。君とこころちゃんはよく似ているから」

 

「……あははっ、ありがとうミッシェル。うんそうだね!待っている人たちのためにも私は止まれないわ!いずれ宇宙を制してマルヤマキングダムを設立してやるのよー!」

 

 うおーっと闘志十分になった彩。そんな姿にこっちまで元気をもらってしまう。

 

(まぁ、バンドができたら見に行ってあげようかな…)

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

「彩!」

 

「おぎゃあっ!?」

 

「どこ行ってたの!心配したのよ!?」

 

「そーりそーり、ちょっと迷っちゃって…」

 

「…ねぇ、ミッシェルと何か話していたの?」

 

「ん、まぁ何でミッシェルがバンド入ったとかそんな事」

 

「そう!後で私にも聞かせて頂戴ね!」

 

「いーよ」

 

 すると、彩に長身の少女が近づいてくる。彩から見た印象はなんかキラキラのエフェクトがかかっている人という感じだ。

 

「やぁ、初めましてだね。私は瀬田薫。君のことはこころからよく聞いているよ、丸山彩ちゃん。話に聞いてた通りこころによく好かれているようだね」

 

「うむ!よろしく。…ほぉー、へぇー」

 

「…フッ、やめたまえ。そんなに私を見ても君を愛でる言葉しか出てこないよ」

 

「…どうやってそのキラキラ出してるの?ディ◯ニーマジック?」

 

「ディ…、ふふ、これは私の溢れんばかりの魅力が、可視のエナジーとなって現れているのさ。世界がこの瀬田薫を儚いと認めている証だよ」

 

「………お酒を飲んでもゲロは」

 

「吐かない…」

 

「お風呂に入るときに靴下は」

 

「履かない…」

 

「あれっ、前まであったお墓が…!?」

 

「墓無い…」

 

「夜にアサガオは」

 

「咲かない…」

 

「「イェーイ!!」」

 

「……???」

 

 美咲は頭の中が疑問符だらけになる。…いや本当によくわからない。一体今のやりとりで二人はなにを感じ取ったのだ?全くもって意味不明である。

 

「はいはーい!北沢はぐみだよー!北沢商店でコロッケ作ってます!てことで一個どうぞ!」

 

「mgmg…、美味すぎる!」

 

「えへへ、ウチのコロッケは世界一だからね!……ってあ"ーーー!袋のやつ全部無い!20個個くらい詰めて来たのに!?」

 

「うふふ、彩はとっても食いしん坊なのよ。油断してたら残りのコロッケもみんな食べられちゃうわ!」

 

「コロッケ…コロッケヨコセ…」

 

「わわわっ!残りはみんなの分だよ!」

 

 コロッケの亡者となった彩は黒服が用意した天ぷらを食べることで事なきを終える。そして天ぷらの山を頬張る彩におずおずと最後の一人が近寄ってくる。

 

「え、えっと私は松原花音ですっ。ドラムやってますっ。それで、えっと…」

 

「んぐっ…キャノンちゃんね!よろしく!」

 

「えっと、花音です…」

 

「アンノウンちゃんね!よろしく!」

 

「だから花音ですっ」

 

「サノス!」

 

「花音!」

 

「家紋!」

 

「花音!」

 

「波紋!」

 

「か・の・ん・ですぅ!!」

 

「うひょーっ!耳がキーンてする!」

 

「誰のせいだと思ってるんですかっ」

 

 すっかりご機嫌斜めになる花音。消極的な花音がこんなにも強く自分を出すのは珍しいのか、ハロハピの面子は皆驚いた様子だ。

 

「ふふ、やっぱり彩は不思議ね!私の知らない皆んなの面白いところが沢山出てくるんだもの!最高よ!」

 

「そうだね。…それに君の声を聞いているとなんだか他人のような気がしなくなる。もしかしてどこかで会ったことがあるかい?」

 

「早く美咲にも会わせてあげたいね!絶対気が合うよ!」

 

「そ、そうかな…?寧ろ強めなシャウトが飛んできそうだけど…」

 

「そうだね、美咲ちゃんは真面目さんだから(流石花音さん、私のことよく分かってる)」

 

 メンバー全員が揃ったハローハッピーワールド。みんながみんな、各々の個性を出していて愉快な集団だ。

 彩はそんな彼女たちを少しだけ遠い目で見る。

 

「こころ、そろそろリハーサルの時間だよ。練習時間も限られているからね。早く行こう」

 

「ええ、そうね!彩行きましょう!私たちの演奏を見せてあげる!」

 

「うんっ、今行くー!」

 

「あっそうだわ、彩!もう迷わないように手を繋ぎましょう!」

 

「ん、いいよ!」

 

「……」

 

 ふとミッシェルがこころの横に近寄ってくる。

 

「あら、どうしたのミッシェル?」

 

「あっわかったよ!ミッシェルはこころんと手を繋ぎたいんでしょ!」

 

「そうなの?ミッシェル」

 

「………え、あ、うんっ、久しぶりにこころちゃんをエスコートしたいなって」

 

「フフ、ミッシェルにも可愛いところがあるじゃないか」

 

「嬉しいわ!じゃあ一緒にいきましょうミッシェル!」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 ミッシェルランドの特設ステージ。屋外屋内両方に変形可能なハイスペック施設である。それ以外にも暖房完備に客席の配置の工夫、テーマパークならではのビックリシステムなど、どんな時でもお客様に最良のライブが楽しめる仕込みが満載である。

 そんな広々としたステージの真ん中にハロハピの5人はそれぞれの楽器を持って堂々と立っていた。

 

「ふえぇ〜、ひ、広すぎるよぉ〜。こんなところでお客さんに向かいながら演奏なんて…」

 

「大丈夫!あたしたちなら絶対できるって!それに今日はお客さんはあややん一人だけだしさ」

 

「その通りさ花音。嫌でも本番は来週。今のうちに慣れておくのが1番だよ。それに、本番にはそんな不安は綺麗さっぱり消えるさ。観客の熱気に当てられてね」

 

「そうだよ花音ちゃん。みんなでやって、それからできるか考えよう。弱音を吐くのはそのあとさ」

 

「…そ、そうだよね。私は変わるんだ。その為にドラムだって…!」

 

 その真正面を向いた花音の表情は覚悟が極まっていた。それを見てこころはいつでも演奏が始められることを確認する。

 目の前にいる観客は丸山彩唯一人だ。ステージの真ん前のど真ん中に綺麗な姿勢でサイリウムを持って着席している。

 

「そういえばキーボードはいないんだね」

 

「そうだね。でも何一つ問題無いよ」

 

「その通りよ!例えキーボードが無くても私たちの演奏は最高なんだから!彩、今から貴女に最高の時間をプレゼントしてあげる!」

 

 こころの掛け声と同時にけたたましく鳴り響くギター。

 それを皮切りに彼女たちの音が重なっていき、徐々にエネルギーを溜め込んでいく。風船のように膨らんだ燻りは、こころがとびきりの笑顔を見せた瞬間に、一気に爆発した。

 

「おおっ!」

 

 思わず声が漏れる。

 その声はハッピーの爆音によって掻き消されるが、湧き上がる心は止まらない。技量もあのライブの時より確実に上がっていて、より正確かつ軽やかに奏でられる音が彩のワクワクを刺激する。

 

 それはまるで夢のようだった。子供の好奇心が詰まった玩具箱があちこちで元気よく爆ぜていく。カラフルな音の紙吹雪が散る中、まるでパレードのように5人はとびきりの笑顔で演奏をしている。それに釣られて彩も席を立ち笑顔でサイリウムを振る。

 そうして最初の曲が終わり、こころは熱が冷めぬまま彩に声をかける。

 

『彩ーっ!楽しんでるーっ!?』

 

「あったぼーーーっ!」

 

『今日は彩のためだけに用意したとびきりスペシャルステージよーーーっ!!いっぱい楽しんでいってねー!!』

 

「いぇーーーい!!!」

 

 そうしてハロハピは時間が許す限り存分にその幸せを一人の観客に振る舞い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「ふぅー…」

 

 誰もいなくなったステージで、私ことミッシェル…ではなく奥沢美咲は静かに息を漏らした。

 ハロハピの面子と丸山先輩は予行練習が終わったあと、どこかに遊びにいった。流石にそろそろ奥沢美咲としてこころたちの前に行かないと不安がられる頃なので、ミッシェルは用事があると言って一旦はぐれ、現在休憩中だ。

 

(流石にミッシェルとの一人二役はキツイ…)

 

 ミッシェルとしてハロハピに付き合い始めてから随分と身体も鍛えられたと思う。それくらいにはミッシェルとの二人三脚はハードスケジュールだ。

 

 しかしそれにしてもだ。今回の予行練習、随分とこころは張り切っていた。もしかしたらいつものライブ以上に元気だったのではないだろうか。

 

(やっぱ、丸山先輩かなぁ)

 

 最近になってこころは彼女のことばかり話すようになった。前に学校で二人が話しているところを見たことがあったが、丸山先輩と過ごしている時は一際幸せそうだった。

 …正直、羨ましい、って思う。私もあんなふうにこころに笑顔を向けてほしい。いや、常日頃向けられているけどそう言うのじゃなくて、こう、もっと向けて欲しいっていうか…むぅ、なって言ったら良いのだろう…。

 

「あーもうっ、よく分かんない…!」

 

「何がわからないのですかな?」

 

「うわぁッ!?」

 

 突然背後からかけられた声に私は観客席から滑り落ちる。いった…思いっきり尻餅打った…。

 

「ありゃ、大丈ブイ?」

 

「…あー、はい。大丈夫です」

 

 そこにいたのは丸山先輩だった。ミッシェルとしていた時とは違う優しさの混じった笑顔を向けながら私に手を差しのべる。私はその手を取る。

 

「えーと、一応初めまして、ですよね。私奥沢美咲です…」

 

「丸山彩!21歳!」

 

「いや大嘘つかないでください。まだ高校生でしょう」

 

「いずれなるから問題ないんですよ。そしていずれなるということはもう既になっているということ!私ニジューイッサイ!イェーイ!」

 

「いやだから…はぁ、もうそれで良いですよ…」

 

「テンテレーン!私は21歳になった!つまり私は時空を超越した!」

 

「は?」

 

「時空を超越して今に顕現できる存在はただ一つ!そう、私は神なのだ!いやたった今神になったのだ!」

 

「えぇ…」

 

 もう訳がわからない。あの時ミッシェルとして話していた人とは別人なんじゃないんだろうか。

 

「そして神になったからには願いを一つ叶えてやろう!さぁ願いを言えぃ!」

 

「…じゃあ大人しくこころたちのところに戻ってください」

 

「……」

 

「な、なんですかそんな膨れっ面で…」

 

「じゃあ美咲ちゃんも連行ね!」

 

「へっ?ちょ、ちょっと待って!私まだ休憩中…!」

 

 せめてあと10分は休みたい!

 

「やーだね!私は丸山彩21歳職業神!弦巻こころの命により奥沢美咲をレンコウしにきたんだから!」

 

「神使いっ走りになってるじゃないですか!?兎も角嫌です!まだ私は休みますよ!」

 

「うわ力強っ!?畜生油断した!まさか美咲ちゃんが女子プロレス覇権志望者だったなんて!まったく予想してなかった!」

 

「本当にスクリュードライバー決めますよ!?こちとら鍛えてるんですから!!」

 

「ぬおぉー!負けるかぁーー!」

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

「…何やってんだろ私ら」

 

「美咲ちゃん強い…」

 

 アホなことをした私たちは二人揃ってダウンしていた。っていうか丸山先輩こそ女の子の力じゃない気がするんだけど。

 

「そーいえばさ、気になったんだけど美咲ちゃんってライブ出ないの?」

 

「…えっ」

 

「一応美咲ちゃんもこころちゃんのバンドメンバーなんでしょ?ならみんなで演奏した方が楽しいじゃん」

 

「…あー、ほら、私楽器弾けないですし」

 

「そんなの弾けるように慣れば良いだけだよ!ねーねー、なんか気になる楽器とかあるー?あ、ボーカルが良い?」

 

「いやあのちょっと、勝手に決めないで…」

 

「あっそうだ!」

 

 そう言って立ち上がると丸山先輩はステージに上がって、舞台裏から背丈ほどのケースを持ち出してきた。思わず私は制止しようとステージに上がる。

 

「ちょ、丸山先輩!勝手に備品持ち出すのは…」

 

「これをこうして…よし!美咲ちゃん、これ使ってみようよ」

 

 目の前に用意されたのはキーボードだった。このステージでは遊園地のスタッフも演奏で観客を盛り上げる。恐らくそのために用意された物だろうが…

 

「ほら座って座って」

 

「うわっ、ちょっと…!」

 

 私は無理矢理席に座らされる。そうして丸山先輩がもう一つ椅子を持ってきて私の隣に座った。

 

「私も一緒にやるからさ、やってみようよ。何事もチャレンジだぞ!」

 

「丸山先輩キーボード弾けるんですか…?」

 

「お遊びレベルなら……よし、じゃあ何でも良いから鍵盤叩いてみて」

 

「何でもって……じゃあ…」

 

 目の前にある白の鍵盤の一つを叩く。ポーンと、電子音が鳴り響く。

 

「よし、じゃあ私も」

 

 丸山先輩が叩いた別の音が跳ねる。

 私は何となくそれに釣られて別の鍵盤を押す。それを返すように丸山先輩が再び。

 そうしてまだ私が。

 先輩が。

 私が。

 先輩が。

 私が。

 

「……」

 

 それは曲とは呼べないし、そもそも形すら成していない支離滅裂なピアノの音。ただ適当に鍵盤を叩き合っているだけだ。

 けど、それなのに不思議と指が動く。まるで子供にでも戻ったみたいに、好奇心に駆られて鍵盤を叩いていく。少しペースが上がってきた。

 

(…なんか、ちょっと楽しいかも)

 

「あーーーっ!!」

 

「!?」

 

 声の飛んできた方に目を向けると、そこには遊びに行ったはずのこころがいた。こころは目を見開いた目を戻すと、珍しく目を吊り上げてこちらに走ってくる。

 

「美咲ったらズルいわ!!彩とそんな楽しそうなことしてるなんて!!私もやる!!」

 

「おやおや、彩の帰りが遅いと思って来てみれば、珍しいものが見れたね」

 

「みーくんがキーボードやってる!はぐみもやるー!」

 

「み、美咲ちゃん…」

 

 こころだけではない、続々とハロハピの面子が流れ出てあっという間に私の周りはわちゃわちゃになった。

 

「あはははっ、皆んな愉快だなぁ」

 

「言ってる場合じゃないって…!ちょ、こころ!無理矢理座んないで!流石に一個のキーボードに6人は…!」

 

 当然こんな状況で続きをできるわけもなく、丸山先輩とのキーボード体験コーナーはハロハピのお遊戯会に変わっていった。

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

「…はぁ、ホント酷い目にあった」

 

 夜もふけて、美咲は一人家につながる岐路を辿る。

 普段からハロハピの活動は疲れるものだが、今日は一際だった。特に丸山彩は弦巻こころと同じくらい意味不明な人で、まるでこころがもう一人増えたかのようだった。一人でさえ手を焼いているというのにプラスワンなど冗談ではない。きっと来週の開園にも来ることだろうし、中々に頭が痛い。

 そんな来週の本番に押し寄せるだろう疲労を思い、少し億劫になる。

 

「………」

 

 けれどもそんな疲れに塗れた今日1日の中でも、あのキーボードを叩いた感覚は忘れられなかった。音と共に指が踊り出すかのようなあの感覚は美咲の心に鮮烈に刻まれている。

 

「…結構楽しかったな」

 

 こころたちも歌や楽器を使っている時はあんな感覚だったのだろうか。だとするなら、案外楽器を使うという選択肢もアリかもしれない。

 …楽器を使えるようになれれば、こころも自分をもっと見てくれるかもしれない。

 

「あ、そういえば…」

 

 明日は確か有咲たちにライブに来てほしいとチケットを渡されていたことを思い出す。有咲たちPoppin'Partyも出るようだし、折角なら見にいってみようか。キーボードを使っている人を見れるし、丁度良い。

 

「美咲ーっ」

 

「…こころ?どうしたのあんた、家真逆でしょ」

 

「ちょっと美咲とお話したくなっちゃって」

 

「話?…ってあんた鼻血出てるじゃん!どうしたの!?」

 

「…あら?本当だわ。なんでかしら」

 

「そういえばあんただけ彩と二人残ってたよね!なんかされてない!?」

 

「美咲は彩が私に何かしたと思ってるの?ふふ、本当美咲は心配性ね!でも彩はそんなことはしないわ!ただ最後に二人で演奏しただけよ!本当に最高だったわ!」

 

「そ、そっか。なら何で鼻血なんて…」

 

「わからないわ!」

 

「えぇ…」

 

 原因不明の鼻血をその一言で済ませるのは実にこころらしいと言えばそこまでだが、もう少し自分の身体を気にかけて欲しいと美咲は思う。

 一先ず危害を加えられたわけではないとホッと胸を撫で下ろし、こころにティッシュを一枚渡す。

 

「それより話って?」

 

「ええ、彩と何話してたのかしらって」

 

「丸山先輩と…?まぁ、特別なことは何も。ただ普通にふざけてそれで何でか流れでキーボード触ることになってていうだけだよ」

 

「…ふぅーん」

 

 こころは訝しむように美咲を見る。美咲は頭に疑問符を浮かべる。一体どうしたのだろうか。

 

「…彩ってね、美咲が思ってるよりもずっと変なの。一目見たら我儘で自分勝手。でも友達にはすっごく優しくて、大切に思っているところもあってね、甘いのと辛いのと不味いのとか、色々混ざってるみたいでよく分からないの」

 

「…?」

 

「でも彩は全部が正直なの!それでいてとっても眩しくて、ずっと上のお空から照らしてくれる光。歌ってる姿はまるでお星様よ!…だから美咲が彩を魅力的に思うのも分かるわ」

 

「魅力的って、こころあんた何言って…」

 

「でもね」

 

 こころはいつもとは違う含みのある微笑浮かべて、黒の焼き跡がある瞳で美咲を見上げた。

 

「……ぇ」

 

「彩は私のモノなの。…勝手に取ったり、しないでね」

 

 そう言った後、直ぐに元の明るい笑顔に戻り、こころは家に帰っていった。

 

 こころと別れたその後でも、脳裏に焼きついたその瞳が美咲の頭から離れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 今日1日遊び散らかして大変満足な彩。たらふく貰ったお土産を両手に下げながら、自宅の玄関にまで辿り着く。さぁ、今日の楽しかった思い出を沢山紗夜に話さなければ!そう思い玄関を開ける。

 

「ただいm──ぐええぇぇっ!!?ハエトリグサぁ!?」

 

 玄関を開けた瞬間に彩は吸われるようにリビングに引き摺り込まれた。犯人は当然紗夜である。逃がさないと言わんばかりに彩の身体をがっちりホールドしている。

 

「おかえりなさい丸山さん…。ええ、ようやく帰ってきたわね…!!私がどれだけ待ったと思ってるか分かるかしら!」

 

「うごごごぉ!?れ、連絡したじゃん!今日は帰り遅くなるって!」

 

「うるさいっ!私のいないところで弦巻さんとゆ、ゆゆ、遊園地なんてズルい…じゃなくて、せめて前日までには行くことを言ってほしかったわ!私も行ったのに!」

 

「いや練習は!?本番明日だよ!」

 

「関係ないわ!」

 

「大いに関係あるよ!?」

 

「……もちろん明日は来てくれるわよね?」

 

「うん、行く!行くから離して!このままだと逝く…!」

 

「…嫌です今日はこのまま寝ます。おやすみなさい」

 

「あれ、私まだお風呂入ってないんだけど?お布団敷いてないんだけど!?私死んじゃいそうなんだけど!?」

 

「うるさい」

 

「ぴぇ…」

 

 この日彩は人生で初めて眠れない夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 







Q.皆んなが遊戯王やってたとしたら?

・紗夜ちゃん:青眼
・こころちゃん:EM、オッドアイズ
・友希那ちゃん:サイバー
・香澄ちゃん:スターダスト
・リサちゃん:サンダードラゴン
・日菜ちゃん:銀河眼
・千聖ちゃん:ギミック・パペット
・あこちゃん:ブラマジ
・美咲ちゃん:魔術師
・転生彩ちゃん:時械神



転生彩ちゃんのヒミツ⑮:意外と勉強は苦手!最近は嫌いな数学も含めて紗夜ちゃんに教えてもらっているぞ!


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