【前回のあらすじ!】
・テンプレ転生者丸山彩!
・アッ、アヤサヨトウトイ…
・病みポテト一丁!
「…貴女が丸山さんね」
「んむ?」
そう振り返った顔には大きなエビの天ぷらを頬張られていた。一瞬、虚を突かれる。
丁寧に敷かれたシートの上で重箱と共にあぐらで座っている少女、丸山彩。彼女は海老天弁当を食べていた。
「…まだ昼食には早いですよ。それにここは屋上です。一般生徒は立ち入り禁止なのですが」
「…ん、ゴクッ。そんな細かいこと気にしちゃダメだよ。人間自由じゃないと」
「知りません。学校の規則です」
「規則は破るためにあるのだ!」
「ふざけたこと言わないでください!…丸山さん、貴女は中等部の時から問題ばかり起こしているそうですね。先生たちも辟易していましたよ。良いですか?私たちはもう高等学生です。いつまでもそんな小学生のようなお気楽気分でいられれば困ります」
「貴女は説教が得意なフレンズなんだね!私は手品が得意だよ!」
そう言って手からポンとたんぽぽの花を出した。そしてそのまま食べた。…それ重箱に入ってたたんぽぽじゃない!
「というか誰かと思ったら風紀委員長様じゃん!キビキビしすぎていつか禿げるってもっぱらの噂の!」
「どうりで最近頭に視線が集まるわけですよ!誰ですかそんなふざけた噂を流したのは!」
「私」
「い、良い度胸ですね。説教と呼び出しの準備は出来ていますか?職員室で先生と一緒にみっちり指導してあげます…!」
「あ、それは嫌」
そう言うとあっという間に空の重箱とシートを片付けて、そそくさと退散しようとする。
「待ちなさい!逃しませんよ!」
「えーい!離せー!」
「貴女は厳重指導対象です…!大人しく来てもらいますよ…!あっ!コラ頭を掴むのをやめなさい!」
「やだ!」
「離しな、さい!」
ばっと丸山さんの腕を引き剥がす。すると、はらりと細やかな感触が手筋を伝った。
「…?」
不思議に思い、丸山さんの手を見てみると、その手には大量のアイスグリーン色の髪の毛のようなものが。思わず血の気が引く。
「あっ…、あっ!あっ!!?」
咄嗟に頭部を確認するが、実際にどれくらい減ったか分からないので全く安心できない。
「はいどうぞ鏡」
「…!」
差し出された手鏡を奪い取り必死に頭を確認する。しかし特段変わったことはなかった。
え?じゃあさっきの髪の毛は…
そう思い振り返った時には既に丸山さんは屋上から出ていた。そんな彼女の制服のポケットからは私の髪の毛と同じ色のカツラがはみ出ている。私は全てを察した。
「コラコラ!屋上は一般生徒がいたらダメなんですよ!風紀委員長が何をやっているんですかー!」
「…ッ!…!!…っ!!!まっ、丸山さん!!!」
怒髪天になった私はそのまま爆笑する彼女を追いかけ回した。その後、廊下で走っているところを先生に見つかって2人仲良く説教されることになる。
これが私と丸山さんとの出会い。
……正直良い思い出ではないが、確実に私の人生が変わる大きなターニングポイントだった。
●●●
「ただいま…」
玄関の扉を開ける。疲れの重さを伴っているからかやけに重い。玄関横の置き時計を見ると8時過ぎだった。
共働きの両親はどうやらまだ帰ってきていないらしい。この様子だとまた残業だろう。
「おかえりー、今日も遅かったね。おねーちゃん」
そう言って現れたのは妹の日菜だ。
自他共に認める天才肌。一度見たことなら大抵はできてしまう。そんな子だ。最近アイドル活動を始めたらしいけど、詳しくは知らない。
「どうしたの?今日はRoseliaの練習もお休みってリサちーに聞いてたのに」
「…少し寄り道してきただけよ。貴女には関係無いわ」
「ふーん、最近多いよね。おねーちゃんそういう意味のなさそうな寄り道、あんまり好きそうじゃ無いのに」
「唯の気まぐれよ」
「誰かと一緒にいたの?」
「別に…」
「いたんだ」
「…誰と一緒にいようと私の勝手でしょう」
「………」
日菜の視線を感じながらも、逃げるように階段を登り、自室の扉を閉めた。
「……はぁ」
日菜は変に勘が良い。天才故なのか、日菜は僅かな情報で答えに辿り着けるだけの能力がある。仮に日菜に丸山さんとの交流がバレれば、確実に丸山さんに干渉してくることだろう。丸山さんは日菜と同系統のタイプだ。日菜が彼女に興味を持たないわけがない。
ダメだ。それだけはダメだ。なんとしてもそれは阻止しなければいけない。あの時間だけは奪われたく無い。
「…ぐぅ」
ああ、ダメだ。こんな考え方はらしく無い。どうにかして気を紛らわせないと…
「…あ」
そういえば丸山さんが、帰ったらさっきの曲を投稿すると言っていた事を思い出す。
動画サイトを開き、登録しているチャンネル欄を見ると、すでに動画はアップされていた。…少しこれで気を落ち着かせよう。
携帯にイヤフォンを挿して椅子にもたれかかりながら音楽を聴く。…やっぱり良い曲だ。さっき聞いた時と違ってドラムやピアノ、ベースも入っていて曲の完成度が上がっている。多幸感で自然と顔に入っていた力が緩んでいくのを感じる。
動画の内容は静止画に音楽が流れているだけというシンプルなものだ。時折自作のMVなどを作る事もあるようだが、基本的に顔出し無し、演奏光景無しが丸山さんのスタンスだ。登録者も40万人と個人活動にしてはかなり多い部類だ。演奏風景を流せば更に爆発的に登録者は増えるだろうが、本人がそれを望んでいない。飽くまで趣味らしい。
…この完成度で趣味、か。正直嫉妬する。だが彼女の前ではこの嫉妬すらどうでも良くなってしまう。なんとも不思議な感覚だ。あれほど日菜に向けていた醜い自尊心からの嫉妬が彼女の前だと唯の悦に変わってしまう。そして彼女と一緒に音を奏でられる時間が私にとって何よりも幸福で、この人と並び立てたという充実感すら出てくる。それが錯覚だと理解していても、そう思わずにはいられない。
そんなことを考えていると曲が終わった。もっと聞いていたいが、今はギターの練習を優先させよう。丸山さんも大事だが、今はRoseliaだ。
丸山さんに魅せられたのなら、今度は私がRoseliaとして丸山さんに魅せる番だ。そんな一心でギターを掻き鳴らし始めた。
ーーー
「よぉ紗夜ちゃん!ライブ出よーぜ!」
「はい?」
次の日の放課後早々、丸山彩はチラシ片手にそんな事を言い放った。
「このライブハウスでやるんだってー。2人でも参加できるからさ!一緒にやろーよ!」
チラシには一月後にライブハウスで小さなライブが行われる旨の内容が書いてある。
「昨日紗夜ちゃんに言われて色々考えてさー。折角ならちょっとチャレンジしてみようかなって!」
紗夜は悩む。
無論、如何にして丸山彩をライブに出させないかだ。たとえどれだけ小さなものであってもライブはライブだ。現代の情報拡散力を持ってすれば周知は一瞬である。何とかして参加を阻止しなければいけない。
手っ取り早いのは紗夜が参加を拒否することだ。このライブ、どうやら1人では参加できないらしい。紗夜以外に特別組む相手がいない彩は参加する術を失う。
「せっかくのお誘いだけどお断りさせていただきます」
「まぁ、もう登録しちゃったんだけどね」
「何やってるのよ!!?」
今日一大きな声が出た。
「チームアオハル!いやー、我ながら良い名前だ」
「きゃ、キャンセルしますよ!大体私はこの日用事が…!」
「え?でもそっちのライブが終わったらしばらく何も無いって言ってたじゃん」
「う…!きゅ、急用ができたんです!ですのでその日は…!」
「ねぇ」
ピタリと紗夜は言葉を止める。彩はゆっくりと此方に近づいて、ついにはお互いの鼻が当たりそうなほどに接近する。紗夜の目の前には桃色の瞳がいっぱいに映る。
「…そんなに私と演奏するの、嫌?」
「え、と…」
断らないと断らないと断らないと
そう順考するが、少しずつ頭がぼうっとしてくるような感覚に陥る。うまく考えがまとまらない。瞳に映る光が目に焼き付く。
(あ、れ…?何考えてたんだっけ…)
「一緒に行こ?」
「…………はい」
「じゃあこれにサインしてくれる?」
「………はい」
彩がどこからか取り出したライブの出席登録の紙を机に置いて、紗夜はそれにサインを書く。
「よし決まり!じゃあこの日準備しといてね!私バイトあるから行くよ!じゃあ!」
そう言って彩はそそくさと教室を出てしまった。紗夜は1人ぽつりと取り残される。
それから数秒後、紗夜はハッと意識を取り戻す。
「丸山さん!!!またやりましたね!!しかもさっき書かせたの登録書でしょう!?おかしいと思ったんですよ私の了承も無しにライブ登録なんて!コラ待ちなさい!!」
「待てって言われて待つ阿呆はいませんよーだ!言質と書類は取ったからね!!」
ーーー
結局彩には逃げられてしまい、ライブに参加を防ぐことは叶わなかった。ああなった彩を説得するのは非常に困難だ。しかしあんな強引にしてくるとは紗夜も予想外である。こんなことなら昨日あんなことを聞くのではなかった。
「はぁ…」
「お、紗夜の珍しい顔発見!眉を寄せてるのはよく見るけどそんな深刻そうな顔見るのは初めてだなー」
そう声をかけたのは、紗夜の所属するバンドユニット『Roselia』のメンバーである、今井リサだ。彼女は紗夜に限らず何かとバンドメンバーの気配りをしてくれている。今回もいつもと様子の違うバンドメンバーを心配して話しかけたのだろう。
「はい、まぁ色々ありまして…」
「色々ねー、まぁでも紗夜って生徒会で風紀委員で弓道部も兼用してるんでしょ?そりゃ疲れるよね」
「…ええ、まぁ、そうですね」
珍しく歯切れの悪い回答にリサは首を傾げる。
「もしかしてまた丸山さん絡みですかね」
そう言ったのは同じメンバーの白金燐子だ。紗夜のクラスメイトでもある彼女は問題児である彩が紗夜に叱責されている光景を何度も見ている。
「まるやまさん?」
「私と氷川さんと同じクラスにいる方です。一年生の頃から色々とトラブルばかりを起こしていたので、花咲川ではちょっとした有名人ですよ。最近は少し大人しくなったのですが…」
「へぇー。因みにトラブルってどんなこと?」
「そうですね…、私が知っているものでは、授業中に持参した重箱のお弁当を食べていたり、時間問わず勝手に放送室を使って先生方の秘密を暴露するゲリララジオをしていたり、校舎でロッククライミングをして遊んでいたりとかですかね」
「思ったより無茶苦茶だった!?」
「そしてその度に氷川さんと先生方に追いかけ回されています。大体3割の確率で御用になりますね」
「しかも結構逃げ足速い!!」
「おかげで先生方も手を焼いてるんですよ。あっ、でも最近は氷川さんと仲良くしているところもよく見ていて…」
「リサ、燐子」
突然聞こえた突き刺すような声色に思わず2人は会話を止める。
声のした先にはRoseliaのボーカルである湊友希那が立っていた。友希那は責めるような冷たい視線を2人に送っている。
「2人はここに無駄話をするために来たのかしら。もう予定していた練習時間よ。やる気が無いなら帰って頂戴」
その有無を言わさない圧力に2人は思わず言葉を詰まらせてしまう。
「あはは…、いやーごめんね友希那。思った以上に話が弾んじゃって。すぐ準備するよ。ほら行こ燐子」
「は、はい…。すみません、友希那さん」
そう言って2人は各々の楽器を取りに行った。
それを見た紗夜もチューニングを終えたギターを持って所定の位置に行こうとする。
「紗夜」
「…なんでしょうか」
「私は貴女の学校生活にまでとやかくは言わないわ。…けれどその丸山さんとやらがRoseliaの練習に影響するのなら、すぐに縁を切りなさい。特に、今回の様なことが続く様ならね」
「…ええ、わかってます」
バンドグループ『Roselia』。
彼女、湊友希那が中心となって構成されたバンドユニット。その目的は、世界中のトップクラスのバンドが集うFUTURE WORLD FESの出場、及び優勝。バンドとしての実力と技量のみを追求するこのRoseliaに、一切の不純物が混ざることを友希那は許容しない。紗夜もそれを理解しているからこそ、何も言い返せなかった。
「Roseliaに妥協は無いわ」
彼女たちは本気で頂点を目指している。並のスクールバンドの様なたるみや馴れ馴れしい雰囲気は一切感じない。その証拠に彼女たちはほんの一部を除いてプライベートの全てをそれぞれの研鑽に当てている。
それもあって彼女たちの技量は既にアマチュアのそれを優に超えていた。しかしそれで彼女たちは満足しない。もっと先に、もっと上に。一切の妥協無しに。
「さぁ、練習を始めましょう」
ーーー
「ちわーっす!出前でーす!!」
そう言って彩は勢いよく玄関扉を開ける。
ここはライブハウス『SPACE』。数多くの有名バンドを輩出したその界隈ではちょっとした有名どころだのだが、そんなもの関係なしとずかずかと出前のケースを持ちながら彩は人を探す。
「喧しいよ丸山。ここはライブハウスだ、他人の迷惑になるから音量を下げな」
そう言ったのはこのライブハウスのオーナー、都築 詩船だ。
いつも通りはち切れんばかりの元気を振り撒きながら参上した彩に半ば呆れと諦観のため息を落とす。
「あれ?この日って誰も入ってなかった気がするんだけど…」
「最近入ったんだよ。気骨の良い娘たちがね」
「へー。あ、はいこれ頼んでたラーメン定食ね」
「私はこんなもの頼んで無いよ」
「あれれ?確かに住所はここなんだけど…」
持っている住所が書かれている紙を睨みながら呻く。
「貸しな。……あんたこれお隣じゃないか」
「うっそ!?うわ本当だ!おかしいと思ったんだよ詩船おばちゃんがこんな重いもん頼むなんて!」
「だれがおばちゃんだ!!失礼が過ぎるよ小娘!」
「えー、でも事実でしょ。こんな胃にきそうなもの食べれる?」
「ふん、私を舐めちゃ困るね。この程度軽く平らげられるわ」
「やめときなよ、血圧上がるぜ婆さん」
「上等だ、その喧嘩良い値で買ってあげるよ」
その言葉に詩船は額に青筋を立てる。
詩船はその厳かな雰囲気と冷徹な物言いから怖がる人も多い。そんな彼女にこんな命知らずな物言いができるのは、この辺りでは丸山だけである。
「あ、そんなことよりもさ!これ私出るから。はい登録表」
「ん、ああ、来月の箱ライブね。…丸山、あんた出るのかい」
「うん、良い感じのパートナーも見つかったし」
そう聞くと詩船は心底驚いた様な表情をする。
「…この氷川ってのはアンタについて来れるのかい?」
「無問題!!最近ちょっとずつ良い感じになってきたんだよね」
「……良いわ。だけど登録は保留だよ。今度その娘、こっちに連れてきな。私が見分けてあげる」
「おっけー!じゃあラーメン伸びるからそろそろ行くね!また後で収録来るから!」
「だからウチは収録現場じゃ無い…ってもう居ない…」
彩は既に台風が如くライブハウスを飛び出していた。勢いよく開けたであろう玄関扉がぶらぶらと揺れている。
「しかし、あの娘に相方ねぇ…」
正直、かなり驚いた。
相方ができたこと自体よりも、丸山彩の音楽について来れたという人間がいたことにだ。
丸山彩は唯我独尊だ。これは彼女の音楽を知る少ない人全員に聞けば必ず返ってくる答えだ。彼女の音は丸山彩以外の世界を許さない。圧倒的な技量と、そして溢れ出る異常なカリスマ。普段の彼女とは正に豹変と言えるレベルの変わり様に、初めて彼女の音を聞いた詩船も度肝を抜かれた記憶がある。
───完成している。
それが第一に出てきた感想だった。ギターと歌だけの非常にシンプルなものにも関わらず、5人、いや6人で組まれたバンドの演奏にも引けを取らない圧力。本来多数で成し遂げる演奏をたった1人で完成させる。こんな娘は見たことがなかった。
…しかしそれ故に丸山彩は孤独だ。
理由は単純、彼女と釣り合う人間が今に至るまで見つからなかったから。一緒に演奏した人間は皆心が折れるか、彼女に魅入るかのどらちかだった。そこに本来のバンドにある各々の個性の輝きなど無く、唯々丸山彩という一等星が、目を焼く光を放つだけの独壇場があるだけだ。故に彼女にとって誰かと演奏することは1人でするのとなんら変わらなかった。
だがそれでも丸山彩は前を向いて生きていた。詩船に見せた演奏でも、たった1人で「やりきった」演奏を見せてくれた。だから詩船は彩がこのライブハウスを利用することを許可している。
そして今、彼女はそんな自分の前に立ちはだかる巨大過ぎる課題をどうにかしようともがいている。
彩がこのライブハウスに通い始めてもうすぐ一年が経つ。詩船はいつもたった1人で練習部屋に篭る彼女を見てやるせない気持ちになっていた。いつかの彩との会話で、彼女は『みんなで一緒に楽しく演奏したい』そう言っていた。
(…あの子はきっと本当の意味で誰かと演奏する楽しさってものを知らない。共に自分たちの音と個性を共有する嬉しさを知らない。己の才能故に)
だからこそ見極める必要がある。この氷川紗夜という人間が、丸山彩の隣に立つに相応しいか。
詩船が思うに丸山彩について来れる人間は、才能やセンスの持ち主などでは無く、何がなんでも彩に食らいつく様な強靭なメンタルと、地道を積み重ねられる努力を持ち合わせた人間だ。
そして仮に半端であれば即関わりを断つことを勧める。非情な選択だが、それが1番お互いのためになる。それ程に丸山彩の音は危険なのだ。
「こっちも、腹括らないといけないねぇ」
詩船は丸山の音楽の幸福を願っている。故に彼女が幸せになれる様に努めるのだ。
自分の音楽で孤独になってしまう人間なんて、いてはいけないのだから。
転生彩ちゃんのヒミツ①:実は数学が超苦手!テストではいつも散々な点数だぞ!
主はバンドリ初心者だぜ!
何か原作設定と齟齬があればやんわり教えてくれると有り難いだぜ!