【前回のあらすじ】
・香澄ちゃん「シ… シ… シカリ…!」
・彩ちゃんが 解き放つ 全力の Zワザ!
・Fate構図で運命の出会い(?)
白鷺千聖は女優である。
娯楽、バラエティを人々に提供する若手女優。人によれば羨望の的になることもある存在だ。だがそれ故に普通の同年代とは違った悩みを持つことも多い。特に彼女は子供ながらにさまざまな経験を積んでいるので、大人からも頼られることが多い。なので常に気苦労が絶えず、学校生活でも疲れを思い出すことも多かった。
しかし、最近は調子が良い。
ここ数日はこれまでの気苦労が嘘のことだったかのように体が軽い。自身の背負ったベースの重さを忘れてしまうほどには。
理由は明白。千聖にとって素晴らしい精神安定剤を得たからだ。目立った仕事もレッスンも無い今日はそんな最高のセラピーを受けに行くわけだ。
思わず足取りが軽くなり、小刻みにスキップしてしまう。
そうして千聖は彼女が待つ音楽室の前にまで着き、スライドドアをガラリと開ける。
「あっ、来た!やっほー千聖ちゃん」
「ごめんなさい、少し遅れたわ」
「全然いいよ。私もさっき来たばっかりだったし…」
「珍しいわね、彩ちゃんが遅れるなんて」
「いやー、紗夜ちゃんに追いかけ回されちゃって…。今日がバンドの練習日で助かったよ」
「ふふ、今日は何をやらかしたのかしら?」
「やらかしたなんて失礼な!ただ廊下をセグウェイで走行しただけなのに!」
そう言って彩はピアノのそばにある椅子の高さを調節し始める。そして楽譜も載っていない鍵盤に向かい合う。
「今日はピアノかしら?」
「うむ!弾き語り。新曲だじぇ!」
「あら、3日前に作ったばかりなのに、もう新しいのができたの?」
「昨日落とし穴に落ちた時しゃべるモグラみたいなのと会ってね!その時思いついたの!」
「??? そ、そうなのね」
「目んの玉かっぽじってよく聞くのだな!」
「彩ちゃん。それだと失明しちゃうわ」
そう言って彩はピアノを弾きながら歌を口遊み始める。
綺麗な歌だ。綺麗な音色だ。あの時、ライブで聴いた音とはまた違うタイプの音。ああ、彼女はこんな音も出せるのか。まるで人肌に包まれたかのような緩やかな安心感が心に充満する。
そうして歌が終わり、ピアノの音も消え入るようにおさまる。音が抜けた千聖の心からは、名残惜しさだけが残る。
「どうだった?」
「…ええ、とても良かったわ。もっと聴いていたいぐらいには」
なぜあの話題からこんな哀愁漂う曲が生まれるのかは謎だが、そこは丸山プロセスを経由しているので考えるだけ無駄である。
「そっかそっか、今日はこれの無限ループコースだね!」
「いえ、もっと別の曲が聞きたいわ。私、彩ちゃんのこともっと知りたいもの」
「そう言うなら、この前作ったこのハイパーデスボイスロックを…!」
「…ふふっ」
どんな曲を演奏するか悩んでいる彩を見て千聖は思わず笑いが溢れる。音楽を楽しんでいる彼女の姿は、見ていると自然と心を解かれる思いになった。
「エレキギター…は今ないから、ここのギターを一つお借りしよっと」
彩は適当な椅子に腰掛けて、ギターを携える。
これから彼女からどんな音が生まれるのか、知ることができるのか、それが千聖には楽しみでならなかった。
ーーー
千聖ちゃんとお友達になったぜ!(白目)
はい、ファンに正体がバレてしまった情けねぇ女、丸山彩です。
完全にやらかしてしまいました。結局あの後、根堀り葉掘り事情を聞き出されて、私と紗夜ちゃんのこと含めて概ね全部バレました。
それでこれは流石にまずいということで、なんとか頼み込んでこのことを内密にしてもらうことに成功!
しかし条件として二つのお願いを出されました。一つ目はこうして時間が空いた時に演奏をこの千聖ちゃんに聴かせること。二つ目は千聖ちゃんに歌とベースの弾き方を教えることである!なんでも千聖ちゃんはバンドを組んでいて、それで自分だけがチームの中で初心者だから是非アオハルのボーカル兼ベース担当の私に練習を見るのをお願いしたいそうなのだ!
なんと言うか、初対面の相手に頼むようなことでない気もするけど、お断りなんぞ出来るわけなし。何よりその時の条件を提示してきた時の千聖ちゃんの顔が怖いの何の。最早あれは脅迫だったね。うん。
それに私としても決して都合が悪いわけでもなかったのでこれを快諾!私としては友達が増えるのは有りがたかったし、特別問題があるとすれば何でかこの関係を紗夜ちゃんには内密にしないといけないことぐらいかな!理由は知らんけど!
なので千聖ちゃんがやってくるのは紗夜ちゃんに何らかの用事が入ってる時だけなのだ。
そんなわけで、こうして私と千聖ちゃんの奇妙な時間が生まれたわけである。
「…彩ちゃんはいろんな楽器を使えるのね。他にはどんな楽器が使えるのかしら」
「んー…、パッと思いつくのはギター、ドラム、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、トランペット、太鼓、三味線…とかかな…?」
ほとんど前世で習得したやつだけど。他になんかあったっけ?
「…凄いわね。洋楽器や和楽器まで網羅してるなんて」
「網羅は大袈裟。唯の趣味だよー。作曲に必要っていうのもあるし」
「それでも普通はできないことよ。私は凄いと思うわ」
「照れますな☆」
「私のバンドにも彩ちゃんと似た子がいるわ。その子も何でもできるのよ。いつも陽気で彩ちゃんとよく似ているわ」
へー、なんかその子とは気が合いそうだなー。
「まぁ、最近はなんだか怖い顔をしてることが増えたけどね。……じゃあそろそろ練習を見てもらえるかしら?」
「おけまるっ!なんだかんだで千聖ちゃんの演奏聞くのは初めてだからね」
ー
「どうだったしら?」
「うーん、100点満点中15点!」
「厳しいわね…」
こりゃ完全に初心者ですね!多少練習してる跡は見えるけど、ネットとかのばっかり見てたんだろうな。やり方が噛み合ってないですねクォレハ。
しかぁし!この私がいれば無問題な訳ですよ!
「大丈夫だよ、私が手取り足取り百足取りで教えてあげるよ!」
前世の音楽教室でバイトをして積み重ねた私の教鞭力がついに火を吹く時が来たようだな!
「ふふ、彩ちゃんは優しいのね」
「ん?」
「私あの時結構脅迫紛いでこの練習をお願いした自覚はあるのよ。普通なら嫌がっても仕方ないのに、彩ちゃんはあっさり受け入れてくれた。…どうして?」
「そりゃ決まってるよ!私がしたいと思ったから!千聖ちゃんは悪い人じゃないって一目で判ったし、この人は間違いないって私の面白センサーが受信したからね!事実私は今結構楽しい」
「……ええ、私もよ」
「ようし、この話終わり!まずはベースからだね!私と同じ風に持ってみて!」
「彩ちゃん、普通の人間はそんな指の曲げ方はできないわ」
ー
「──あら」
千聖の携帯からバイブ音が鳴る。
名残惜しさを感じながらも一旦練習を切り上げて、通知を見る。そして顔を顰めた。
「…ごめんなさい、今日はここまでだわ」
「ん、なんか用事?」
「ええ、急に練習が入っちゃったみたい」
「? 千聖ちゃんのバンドって千聖ちゃんがリーダーなんでしょ?予定も千聖ちゃんが決めてるんじゃないの?」
「…ええ、私たちのバンドは事務所に所属してるの。だからフリーのバンドとは違って事務所側がスケジュールを決める。だからこういうことも良くあるのよ」
だとしてもこんな急に予定が入る事は業界的にも非常識なのだが、彩がそんなことを知る余地はない。
「そっか、窮屈なんだね」
「……彩ちゃんから見ればそうかもしれないわね。でも、それが仕事だから」
「それって楽しいの?演奏をすることを義務に入れ替えてない?」
「…それでもやらないといけないの」
「じゃあ私と一緒に練習してるのも義務?」
「それは違うわ!!」
千聖自身も驚くぐらいの大声が出た。彩が目を丸くしているが今更退き下がれない。
「今こうしているのは私が、私自身が彩ちゃんと一緒にいたいからよ!…私ね、彩ちゃんたちの演奏を聴いてとても幸せな気持ちになったの。今まで義務感だけで音楽をしていた擦り減った私に希望を見せてくれた!だから、だから私も貴女みたいに音楽を心から楽しみたくて…!そんな貴女と一緒にいたくて…!」
「………」
「それにね、私目標ができたの。彩ちゃんのおかげで。前までは義務感だけでしていたバンドを続けていく意味が」
「…そっか!ならライブする時は教えてよ!絶対行くからさ!」
「…………ええ、近いうちにメンバーも貴女に紹介するわ。彼女たちにも貴女の歌を聴いてもらいたいもの」
「いいよー。ふふ、その時は紗夜ちゃんも呼んでちょっとしたライブでもしようかな!」
それは少し困るわね、と内心言葉をこぼしながらもベースをケースにしまい、その場を後にする。
「…じゃあ、また今度ね」
「うん、またね!」
「……あ、バンドの名前聞くの忘れてた。まぁ、また今度でいっか」
ーーー
とても。
とても幸福な時間だった。
彩ちゃんとの2人きりでの練習時間。この時間は私にとって最大の楽しみとなっていた。
正直、あの時咄嗟にあの約束を取り付けた私にいいねを連打せざるを得ない。
しかし、まだ足りないと言っている私もいる。
私はあの日以来、彼女の歌に姿に、魅せられてしまった。私の脳から網膜から、彼女の姿が離れなくなってしまった。
だからか、あんな幸せな時間を得たにもかかわらず、もっと欲しいと私の心が渇望している。まるで麻薬の中毒症状のように、少しでも彩ちゃん情報をあらゆる感覚で収めたいと思わずにはいられない。
その感情は彩ちゃんのことを知ったあの時から日に日に強くなっている。そうして彼女の事を知っていくうちにライブで見た偶像としての彼女から、丸山彩個人に私の心の関心が動いているのを自覚した。
正直、少し前まではこんなことになるとは思っていなかった。
彩ちゃんの事自体は前々から知ってはいた。花咲川に君臨する究極の問題児だと教師たちが話していたし、やたら風紀委員の紗夜ちゃんに追いかけ回されていたのも印象に残っている。
そんな問題児と関わろうとも思っていなかったし、正直嫌悪すらしていた。
しかし今や私の心は今丸山彩という人間を中心に回ってしまっている。どうしようもなく、彼女の隣にいたい衝動に駆られる。
だけど私は若手女優。そんなことを自由に出来る立場ではない。だけどそれでも少しでも彼女と一緒にいたい。その想いだけが日に日に積み重なっていった。
いっその事、今までのキャリアを全て投げ打つということも一瞬考えたが、今のメンバーにも多少思い入れがある。彼女たちを捨てるようにあそこを去るのは戸惑われた。
それに、もっと良い方法を思いついた。そう、どうせなら今ある立場というものを最大限使ってしまおうというわけだ。
しかし私の考えるプランには幾つかの無視できない問題があった。その一つが今目の前の状況だ。
「こんにちは、麻弥ちゃん」
「あ、千聖さん。来たんですね…」
「ええ、まぁ急とは言えレッスンですもの。無視するわけにはいかないわ」
「あはは、そうっスよね…」
「ところで、イヴちゃんと日菜ちゃんが来てないみたいだけど…」
「イヴさんは丁度アルバイトが入っていたみたいなんでお休みっス。日菜さんは…連絡が付かないので多分サボりかと…」
「そう…」
これが今私が所属しているバンドユニット『PastelPalettes』の現状だ。メンバー全員の心がバラバラになってしまって、収拾のつかない事になってしまっている。
正直に言ってしまえば、全てはこのバンドを管轄している事務所側が悪いと言わざるを得ない。
まず当初5人で発足するはずだったが結局人数を集めきれず4人で決行、結果私がボーカルを兼用する事になった。
そして初ライブでの口パク、当て振りでの強制決行をして活動自粛に追い込まれたことに始まり、それに伴う突然の個人アプローチへの方針変更、私のツテ以外では殆ど仕事も獲得できないといった呆れるくらいの無能っぷり。正直、彩ちゃんと麻弥ちゃんの事がなければ、あと一月も経たずに辞めていた自信すらある。
しかし事務所以外にも深刻な問題はある。それがこのメンバーを纏める存在がいないという事だ。パスパレのメンバーは個性の塊だ。今は私がリーダーという事にはなってはいるが、恥ずかしい話彼女たちを纏めるには力不足と言わざるを得ない。その結果がこの有様。それぞれの方向性が合わず、何をしてもチームとして失敗してしまう。このこともあって世間からの評価は散々だった。
無能な事務所と何をしても裏返しになる現代の批判の的となったバンドユニット。それが今のパスパレだった。
「……千聖さん、正直ジブンもうどうしたら良いのか分からないんです。パスパレに入って何をしても失敗ばっかりしてしまって、その度に謂れのないことを言われ続けて……こんな事ならジブン、パスパレに入るんじゃなかったって、そう思っちゃうんっスよぉ…!」
掛けている眼鏡に涙が落ちることを気にも留めず、ボロボロと涙をこぼし始める麻弥ちゃん。
「…ごめんなさい、私が貴女を誘ってしまったばっかりに…」
「…いえ、千聖さんは悪く無いんです。最終的に入ることを決めたのはジブンです…。でも、でもその結果が、こんなのって、あんまりっス…!」
麻弥ちゃんはあまり前に出たがる性格じゃ無い。この世間からも批判が止まらない現状で、1番最初に根を上げたのは彼女だった。
私は麻弥ちゃんを優しく抱きしめる。
「……大丈夫よ、もう少しの辛抱だから」
「うぅっ…!」
そう、この状況を打開する方法はある。
一見、世間の批判も相まって殆ど詰みと言っても良いこの現状。たった一つ解決策があった。
それは他ならない丸山彩をこのパスパレのリーダーに据えること。
圧倒的カリスマを持つ彼女なら今までの悪評をお釣りが釣るレベルでまとめてひっくり返す事ができるだろう。今組んでいるバンドも飽くまで臨時のようなものらしいので勧誘自体はできるだろう。
しかし今のこのパスパレを見て彼女が入りたいと思うかと言われると当然否だ。だからまずは変えないといけない。このパスパレを事務所を、まとめて全部。彩ちゃんに振り向いてもらえるくらい魅力的に仕上げなければならない。
幸運にも今のメンバーは個性の塊。今日の反応を見ても、きっかけになる程度の興味は持ってくれるだろう。
利用していると嘲れば良い。
私がしようとしている事は今彼女たちを餌に自分の欲を手に入れる行為に他ならないのだから。
だが、現状パスパレにこれ以外の打開策がないのも事実だ。私は彩ちゃんの演奏を聴いて自分のいるバンドと向き合うと決めた。多少無茶をしてでも彩ちゃんをパスパレに入れる。
そして彼女の隣に立ち、共にステージを駆けてみせる。
麻弥ちゃんに今日はもう帰宅するように言っておいて、私はスタジオを後にする。
「…さて」
まずは邪魔な無能スタッフ共から処理しようかしらね。
●●●
「あ、紗夜ちゃーん!!」
「はいなんd、ぐはぁっ!?」
不意をついた超速弾丸マルヤマが紗夜の鳩尾に突き刺さった。紗夜は悶絶し、その場でうずくまる。
「あ、めんご」
「ぐふっ…!あ、後で覚えておいてくださいよ…!」
「それにしても今日は早かったね!練習終わったの?」
「いたた……はい、皆さん調子が悪い様子だったので今日は早めに切り上げました」
「風邪かなー?」
「…十中八九私たちのライブのせいだと思いますよ。Roseliaのメンバーもあのライブに来ていたので」
「ありゃ、そうなの!じゃあ紗夜ちゃんには悪いことしちゃったかな?」
「…いえ、あのライブをしたことに全く後悔はありません。それがこの結果なのであれば……きっと仕方のなかった事なんだと思います」
「紗夜ちゃんに後悔ないならそれでヨシ!さて、今日暇になっちゃったね!どこか遊びに行く?」
「ではいつもの公民館で。丁度練習が足りないと思っていたところでしたので」
「じゃあ行こう!鍵は持ってるぜ!」
「あ、丸山さん」
「ん、なに?」
「………いえ、やっぱり何でもありません」
彩からいつもは無い上等な香水の匂いがした気がしたが、どうやら気のせいだったようだ。
千聖ちゃん:自分の有利なフィールドで戦う系の敵
紗夜ちゃん:戦いの中で成長する系の敵
彩ちゃん:ラ ス ボ ス
転生彩ちゃんのヒミツ⑤:実はべらぼうにゲーム全般が苦手だぞ!直近では格闘ゲームでは見知らぬ小学生に10連敗した記録を持つ!逆にリズムゲーは得意だぞ!
今更ですけど、主要なとこ以外の時系列は超適当だぜ。時系列把握しながらストーリー組んでたら作者の頭が爆発します。