まるやまっ!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ】
・千聖ちゃんとの禁断の時間…♡
・空中盤解寸前バンド!その名はパスパレ!
・アヤチャン・くいーんは触れたものを何でも(修羅場の)爆弾にできる。そう、何でもだ。例え若手女優であろうともね…





ここころ!

 

 

 

 

 

 

 

 彼女はすぐに察した。これは夢だと。

 

 真っ白な世界。自分以外は何も無い無垢の大地。物はおろか影すら無い。

 ただ、何も無いまるで白紙のデジタル用紙のような世界にたった1人、ぽつりと置いて行かれていた。

 

 不安から、ふと辺りを見ると、誰かがいた。先程まであんなところには誰もいなかったはずなのだが、いつの間にかいた。…人影だろうか。

 かなり離れていて豆粒程度にしか見えないが、確かにそこには何者かがいた。逆光に当てられているかのように白い世界では不自然なほどの黒。

 人影は何かを持っていた。ギターか、ベースか、分からないがそれは確かに何かを持ち、棒立ちをしている。

 

 次に襲ってきたのは衝動だった。猛烈にあの人影に近づきたいと言う抗い難い衝動。気がつけば自然と足は動いていた。

 少しずつ、少しずつ影に近づいていく。ついにはその全身がはっきりと見えるぐらいに近づいた。

 影は女性だった。しかしそれ以外はわからない。まるで黒塗りのように真っ黒で、目も口も鼻も、髪や衣服の境界線すらも全く見えなかった。

 不気味、不可思議、しかし奇妙な魅力を持っていた。正体を探ろうにも、頭がぼうっとして、うまく考えがまとめられない。

 しかしそれでも理性を振り絞り言葉を発する。

 

「…貴女は、誰なの?」

 

 返事は無い。

 ただ人影はじっとこちらを見ているだけだ。そこに何かの思慮が含まれているとは考えられない。唯々こちらを見ている。

 しかし、人影を見ていくうちに妙な親近感を感じた。まるで昨日まで楽しく一緒に話していたかのような、友達のような馴れ馴れしい雰囲気。

 

「貴女は、私を知っているの…?」

 

 返事は無い。

 

「私は、貴女を、知って、いるの…?」

 

 返事は無い。

 

「ねぇ、教えて…。お願いだから…!じゃないと私…!」

 

 人影がこちらに近づく。

 

「!」

 

 気がついた時には既に視界は黒に占められていた。

 その両腕で優しく頬を包まれ、そのまま視界を上に上げられる。

 

「……ぇ」

 

 そこには、両の眼があった。黒の中に真っ白な白目に真っ黒な瞳。そして瞳孔の中に光るヒカリがあった。

 優しく、妖しく、星のような魅惑的なヒカリ。一気に思考能力を奪われる。ただ、彼女を手にしたいという衝動に駆られ、彼女の頬に手を伸ばさずにはいられなくなる。

 

 欲しい、欲しい、欲しい、欲しい、欲しい。

 このヒカリを、星を、彼女を、この手に収めたくて仕方がない。

 そうして手が爪先程の距離まで彼女の身に近付いて、そして、そして、そして、そして。

 

 

『✴︎✴︎✴︎』

 

 

「──ぁ」

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ…!ハァッ…!」

 

 

 弦巻こころは現実の豪華なベッドで飛び起きた。

 身体には凄まじい量の汗が滴っており、小刻みに震えている。時刻を見ると朝の5時。いつもならまだぐっすり寝ている時間帯だった。

 頬に軽く手を添える。そこには未だに暖かな感覚が宿っていた。

 

 こころは数日、あんな夢を何度も見る。

 真っ白な空間に1人立っている。その後は決まって視界の奥に人影が現れて、現実のことを何もかも忘れた自分が、それを追いかける夢。

 

 近くに掛けてあるタオルを手に取り、顔の汗を拭き取る。

 …未だに心臓の高鳴りが抑えられない。この感情は一体何なのだろうか。恐怖、とはまた違う不可思議な感情。

 

「はぁ…、はぁ…!」

 

 どうにも落ち着かない。ここ最近は夢と一緒にこの感覚が身体を蝕んでいる。そのせいでこころは数日学校を休んでいた。弦巻こころという人間を知っている人にとっては信じられないことだった。

 

(ダメ…、我慢できない…)

 

 こころは側にあったスマートフォンを手に取ると、動画アプリを開く。そしてイヤフォンを耳に挿すと再生ボタンを押して音楽を流した。

 

 心地良くも優しい調律と歌声が流れてきて、こころの中に安堵が満ちる。まるで児童向け番組のOPようなポップな曲。

 顔色の悪さも引いていき、身体に取り憑くようにあった重さも消えていく。

 

 これは『くいーん』が投稿した曲の一つだ。とても明るい曲調で、今の自分に元気を与えてくれる。彼女の曲の中ではこれが1番好きだった。体の不調もくいーんの曲を聴いていると不思議と治るのだ。

 

(…本当、どうしちゃったのかしら私…)

 

 この原因不明の明らかな不調。著名な精神医師に見せても、ライブの疲れが出たとしか結論が出せなかった奇妙な症状。

 心当たりがあるとすれば…やはり、あのライブだろうか。

 ハルカたちの演奏は一言で言えば強烈すぎた。演奏が始まった瞬間、辺りに散らばる光のアーチ、幸福な音色の嵐。まるでその会場だけが別世界に変貌してしまったかのような、圧倒的な演奏による支配。感情が強制的に多幸感に変換させられ、まるで吹き飛ばされるような圧巻のパワー。その全てに気押されて、あまりの多幸感にこころは笑うことすら忘れていた。

 気がついた時には全てが終わっていて、こころ以外のハロハピの面子は地に伏していた。手洗いから戻ってきた美咲が慌てふためいていたのをぼんやり覚えている。

 

 そして、ハルカたちの演奏を聴いたあの日以来、この夢を見始めて、体調不良も起き始めた。他のメンバーも、あの場にいなかった美咲以外は皆んな調子が悪いらしく、現在ハロハピは実質的に活動休止となっていた。

 

 いつもならば楽しいことをしたいと思えるはずなのに、まるで心が雁字搦めにされたかのように調子が出ない。

 

(…夢に出てくる人影、ハルカ、そして『くいーん』…。きっとこの三つは同じなんだわ!)

 

 くいーんはハルカで人影はくいーんだ。

 ハルカの音楽を聴いた瞬間から疑念に、そして今日の夢で確信に変わった。

 

 だとするなら、することはただ一つだ。

 ハルカを、くいーんを、人影さんを探す。そうすれば、自分も幸せになれるし、この不調も元に戻るだろう。失われていた気力が少しずつ戻ってくるのを感じる。

 そうと決まれば一刻も早く動かなければ!とベッドから飛び降た。今日は休日なので一日フリーだ。できることはやり尽くそう。

 

 するとふと、部屋の机に立てられているカレンダーが目に入り、今日の日付に印が書いてあるのが見える。

 

(あ、そう言えば今日は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿は風邪ひかないって言うけど私はアレに異議を唱えたい。

 

 時には馬鹿だって風邪ひいたり、病気になったりするよ!まぁ、私は前世含めて生まれてこの方風邪にも病気にもなったことないけどね!(ドヤァ)

 おかげで私の自宅には小中学の皆勤賞の賞状がコンプリートされてたりするのだ!ワハハハハハ!!見よ!これが全てのパーツが揃った皆勤賞の姿だ!これで貴様に無限ポイントのライフダメージを与える!!無休の業火 カイキンショー・フレイム!!

 

 閑話休題。

 とまぁ、結局何が言いたいのかというと、完璧な人間ってこの世にいないわけで、当然こころちゃんも風邪の一つや二つひくわけである。

 最初黒服さんから聞いた時は紗夜ちゃんと揃ってエネル顔になりましたよ。

 

 いやー!まさかこころちゃんが体調不良なんて、正直一番縁の無いものだと思ってた。

 しかしひいてしまった以上、心配もするわけで、今日はこころちゃんのお見舞いに行くわけなのだ!そして到着!

 

「……でっけー豪邸!」

 

 漫画とかアニメぐらいでしか見ないような超☆ビッグスケール!ラスボスとかいそう!

 

「お待ちしておりました、丸山様」

 

「あ、黒服さん!お疲れでーす!それで、こころちゃんの調子はどう?」

 

「現在はだいぶ回復していらしています。今は元気に部屋で丸山様を待っております」

 

 お、なら良かった!門前払いってことにはならないみたい!いやー、アポ取っといて良かったー!

 

「うわー、中広ー!天井たっかー!」

 

「ここは御当主様がこころ様の為に建てた屋敷。つまるところ、別荘になります」

 

「別荘!ひぇー!流石金持ちはやることのスケールが違うね!」

 

 高そうな装飾品とか芸術品とかがなんか芸術的っぽく置かれてる。ザ・お金持ちの家って感じだ。

 わ、私の家も負けてないけどねー!…前世のだけど。

 

「……丸山様」

 

「なにー?」

 

「丸山様は………いえ、やはり何でもございません」

 

「??」

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

「こんにゃくちわー!」

 

「彩!来てくれたのね!」

 

「お友達のピンチに駆けつけないマイフレンドはいないぜ!はいこれお見舞いのこんにゃく型クッキー」

 

「まぁ!どうして蒟蒻なのかは分からないけれどありがとう!」

 

 ポリポリとこころはこんにゃくクッキーを頬張る。味はチョコ味だった。

 

「思ったより元気そうで良かったー。紗夜ちゃんも心配してたよ」

 

「彩が来たから元気になったのよ!私とっても嬉しいわ!」

 

 いつもの調子でキャッキャと騒ぐ2人。

 

「あ、ならテレビゲームしない?今日ソフト持ってきたんだー」

 

「ええ!とても良いと思うわ!やりましょう!」

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

「ワハハハハハー!受けよ!丸山秘伝必殺アルティメット・エクスプロージョン!(自爆特攻)」

 

「ああ!…ってあら?彩、貴女穴に落ちちゃってるわ」

 

「ほんぎゃー!何故ー!?」

 

「ふふ、また私の勝ちね!」

 

「ふぐぐぐ…、何故だぁ…」

 

「彩はあまりゲームが得意じゃないのね」

 

「得意じゃないわけではない!何故か命中しないだけだよ!」

 

「それを下手って言うのよ」

 

「えーい、見てろよー!次はさっきこころちゃんが使っていたのを……!」

 

「あ、そのキャラクターさん技を溜めすぎたら自爆しちゃうわよ」

 

「ぎゃーっ!!?」

 

「あはははは!」

 

 結局ゲームは彩の全敗で、あまりにおかしな死に方をしてしまう彩にこころの笑いは収まらなかった。

 ひとしきり笑った後、2人は一度ゲームを切り上げて、今度は彩が気になると言う屋敷の中を散策することにした。

 

「それでここが34個目の使用人さんのお部屋よ」

 

「多い!広い!迷わないこれ!?ここでかくれんぼしたら一生見つけられない自信があるよ!」

 

「私は全部覚えてるから問題ないわ!それに彩ならどこに隠れていても見つけられる自信があるもの!」

 

「む!なら私だってこころちゃんがどこかに隠れたら絶対見つけてあげるんだから!」

 

「え!本当!?」

 

「あたぼーよ!寧ろこころちゃんの方から来るぐらいにしてやるんだからね!」

 

「あははは!よく分からないわ!よく分からないけど、とっても嬉しいわ!そう言ってくれて!」

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

「おー!この部屋楽器だらけ!演奏部屋だったりするの?」

 

「ええ、この部屋はレッスン部屋。少し前まではここで音楽の先生にいろんなことを教えてもらっていたのよ」

 

 部屋にはピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、トランペット、トロンボーンなど、所狭しとクラシックに使うような洋楽器が並んでいた。

 

「あ!これストラディバリウスじゃん!ウルトラレアだ!」

 

「ええ、少し前の誕生日にお父様の知り合いから頂いたの。正直、あまり使ったことはないけれど…」

 

「おー!これ何!?見たことない形!凄い!」

 

「…彩は楽器が好きなのね」

 

「ん?好き…うん、好きかも」

 

「私ね、あまりここのレッスンは好きじゃなかったの。特別嫌いってわけでもなかったけれど、とても退屈だったわ」

 

「こころちゃんそういうの苦手そうだもんね。私も無理だなー」

 

「レッスンだけじゃないわ。私は弦巻家の一人娘。色んなことを学ばないといけなかった。お父様の交友関係の集まりにも沢山行ったわ」

 

 しかしこころがそれらの経験を通して思ったことは、やはり退屈の一言だった。

 教える教師も、父に世話になっていると嘯く大人たちも、皆心の底から笑っていなかった。何かしら腹の底に何かを抱えているような気味の悪い笑顔。それが弦巻こころが見てきた世界だった。

 

「私は我慢できなかったわ!だって世界にはもっと幸せで心の底から笑えることがあるはずなのにそんな退屈な笑顔ばっかり浮かべるなんて勿体無いじゃない!」

 

 こころはばっと両手を広げる。

 

「だから私は作ったの!ハロー、ハッピーワールドを!世界を笑顔にする為のバンドを!おかげでとても楽しい毎日になったわ!」

 

 自分がつまらないと思う世界なら、面白く楽しい世界に変えて仕舞えば良い。世界中に笑顔を届けて、その笑顔を絶やさない世界を作る。それが弦巻こころの野望だった。

 

「良いなー、そんな世界できたら最高じゃん!一生退屈しなさそう!」

 

「そうよ!それに私、そんな世界を1番彩に楽しんでもらいたいの!」

 

「私に?」

 

「……会った時から思っていたわ。彩は私に似ているって。でも少し違う。貴女の目は常に今と未来の二つを一緒に見ているわ。今あるものを楽しんで、そうして出てくる結果に胸を躍らせて、いつだって自由に世界を駆けている。まるで絵本の中の主人公みたいに」

 

「ふふ、絵本かぁ。そう言われるのは初めてだなぁ」

 

「ええ!彩はいつも私を笑顔にしてくれるもの!私にとって天文学部はハロハピと同じくらい最高の居場所なのよ!」

 

「私もだよ。今まで生きてきてこころちゃん以上に気が合う人はいなかったな」

 

 すると、辺りから陽光がふっと消える。日が沈んだのだ。

 彩が来たのは昼過ぎ、屋敷を見回るのにもかなり時間が経っていた。ふと窓の外を見てみると幾つかの星が見えた。

 

「よし!折角だしここで天文学部の活動をしよう!」

 

「え?」

 

 そう言って彩は椅子の上にどかりと座り、グランドピアノの前框を開けた。

 

「ちょ、ちょっと彩!?」

 

「ふふ、休んだ分まで楽しい時間を過ごしたいじゃん。今日は課外活動ってことで、ね」

 

「彩…」

 

「いくよ、今日のテーマは『星は音楽でより綺麗に見えるのか』だよ」

 

 そう言って彩が弾き始めたのは『きらきら星』だった。

 かつての恋の歌、今の星の歌。キラキラとピアノの美しい旋律と共に流れる光の粒子は彩を中心に部屋を満点の星空に仕立て上げた。

 こころは呆然とそれを眺める。

 

(とても、綺麗だわ…)

 

 それはあまりにも、美しい光景だった。

 幻覚だとは理解していても、音というたった一つの要素がそれを作り上げていることに、こころはこの上なく胸を踊らされた。

 

「〜♪」

 

 いつの間にか彩は歌い始めていた。

 穏やかに、子供に聞かせるように、とても優しく。

 それは、よく知っている音だった。よく知っている声だった。思わず声を張り上げたい気持ちに襲われるが、この幸福と美麗に満ちた世界を壊したくないあまりに、口を噤む。

 

 ふと、一瞬彩がこちらを振り向いて、目が合う。

 その目にはあの時、夢で何度も渇望した光があった。まるで一等星のように夜空に一つ浮かぶ、優しくも強い綺羅星を。全てのピースが綺麗に頭の中で当てはまる。

 

(ああ…、私が欲しかったものは…こんなにも近くに…)

 

 そうして、演奏が終わる。音の星空はまるで最初からなかったかのようにフワリと消える。夢の時間が終わってしまった。

 

「どうだった……ってあれぇ!?なんで泣いてるのぉ!?どうしたの?ぽんぽん痛い!?」

 

「…………やっと」

 

「え?」

 

「やっと見つけたわっ」

 

「うぇあ!?」

 

 こころは彩をその場で押し倒す。珍しく彩は素で困惑した表情を浮かべる。

 

「ねぇ彩、貴女ハルカでしょう?アオハルの」

 

「え"」

 

「それに『くいーん』よね?動画投稿してる」

 

「うぼぉ!?」

 

「ふふ、その反応は図星ね」

 

 突然ひた隠しにしていたものを引っ剥がされて、彩は冷や汗を流す。

 一瞬誤魔化そうとも考えたが、こころの目を見て、その類は意味を成さないと察して観念することにした。

 

「えへへ、バレちった…」

 

「ふふ、一緒に弾いていたのは紗夜かしら」

 

「うん、一緒に仮バンド組んだんだ。最高だったでしょ?」

 

「ええ、本当に、最高に楽しかったわ。あんなにも幸せな時間は今まで体験したこと無かったくらいに…。みんなが倒れたのはビックリしたけれど」

 

「えへへ、ごめんね。でもアレが私の伝え方。見る人聞く人に最高のひと時をプレゼントするのが私の音楽なの」

 

「その後のことは考えないなんて、酷い人ね、彩は」

 

 おかげで私たちはこんなにも掻き乱されたというのに。

 でも今思えば苦しいと思うと同時に、生きようと前を向こうという希望も胸に溢れていた。特にくいーんの曲を聴いた時は顕著に。

 もしかすれば彼女の音楽は人に本物の希望を与えてくれるものなのかもしれない。笑顔になるのに最も必要不可欠な生きる活力という希望を。

 こころは押し倒した彩にそのまま抱きつく。…ああ、この温もり、間違い無い。あの夢の手の感触のままだ。

 

「彩は私たちの演奏見てくれたでしょう?」

 

「うん、最高に楽しかったよ。まるで遊園地のパレードみたいにみんな愉快で楽しく歌って奏でて踊ってた」

 

「ええ、ええ!ハロハピは私にとって最高のバンドよ!」

 

「ふふ、ちょっとだけ羨ましい」

 

「…彩はみんなと演奏したいの?」

 

「うん!だからその為に今頑張ってるんだよ。今はまだ紗夜ちゃんの2人だけだけど、いつかもっとたくさんの人と!最高のバンドを作って!世界を私たち色に染め上げてやるのさ!」

 

 そう自分の夢を語る彩の瞳は見たことないくらいに輝いていた。

 彩がいつか自分だけのメンバーを集めて演奏する。そんな姿を思い浮かべると、何故か心に妙なモヤが残った。

 

「ねぇ彩!」

 

「なに!」

 

「私、貴女が欲しいわ!」

 

「ひょ?」

 

「ハロハピに入りましょう!私たちが貴女の最高のバンドになってあげる!」

 

「ヤダ!」

 

「……え?」

 

 まさか真っ向から拒否されると思わなかったのか、こころは数秒フリーズする。

 

「ど、どうして…?私の…ハロハピの何がダメなの…!?」

 

「ハロハピやこころちゃんが悪いわけじゃないよ。ただ、私自分のメンバーは自分で集めたいの。誰かに与えられたり、既にできてるものを奪うことはしたくない」

 

「奪うなんてそんな…」

 

「奪うよ、私は」

 

「………ぇぁ」

 

 瞳の光がこころを射抜く。その光に彼女が言いたいことの全てが詰まっていた。

 

「…ま!こころちゃんが私のバンドに入りたいって言うなら、超ウェルカムだけどね!あはははっ、なんちゃって!」

 

「……」

 

「こころちゃんにはこころちゃんのバンドがある。もしかしたら今こころちゃんには私がどうしようもなく眩しく見えるのかもしれないけど、そんなの今だけ!こころちゃんは今ある居場所を大事にしてあげて」

 

「………わかったわ」

 

 こころはすっと彩の上から離れる。ちょっぴり暗い顔をしているこころに彩はにっこり笑いかける。

 

「そんなしょぼくれた顔しちゃダメだよ!ほら、笑顔笑顔!世界を笑顔にするんでしょ?だったらまずは自分が笑顔にならないと!私はここにいるし、ずっと友達なことには変わりないでしょ?」

 

「…ええ、そうね!」

 

「よし!じゃあ今度は一緒に演奏しよう!私チェロ使いたい!」

 

「だったら私はこのピアノにしようかしら!」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 彩が私の隣で小さく寝息を立てている。

 

 本当、優しいのね彩は。態々夢見の悪い私のためにこうして一緒に夜を過ごしてくれるんだもの。ああ、とても可愛らしいわ。

 

 …ごめんなさい、彩。

 ああ言われたけど、やっぱり私貴女のことが諦め切れないわ。どうしても貴女を手に入れたいの。

 私の夢の最後のピースだからだとか、一緒に世界を笑顔にしたいとか、そんなのは全部建前。本当は私が貴女を隣に置いておきたいだけ。私のためだけに一生音楽を奏でて欲しいだけなの。私、貴女無しじゃあもうロクに生きてもいけないみたいだから。

 でもきっと簡単なことじゃないわよね。貴女はとっても強いもの。お金だとか、軽い情だとかでブレる人じゃない。優しく愉快だけれど、その中身はとっても傲慢不遜で大胆不敵。決して誰かに靡かないし、誰にも縛られない。

 でも私、諦めないわ。だって私が求めてやまなかったキラキラ星がこんなにも近くにあるんだもの。そんなの見逃せるわけないでしょう?絶対に、貴女の全部を私が手に入れてみせるわ。

 そしたら私と一緒に今日みたいに最高にハッピーな世界で毎日楽しく暮らしましょう?

 

 だからもう少し待っていて、私だけのお星様。

 

 

 

「ん……あぁ、天ぷらがいっぱい…ふへへ…」

 

「うふふ、明日の朝は天ぷらねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「…どうしたのおねーちゃん、そんな怖い顔して…」

 

「………なんでもないわ」

 

 なんだろう、無性にイライラする。

 今日は丸山さんと会っていないからだろうか。…確か今日は弦巻さんの家にお見舞いに行くと言っていた。丁度今日は用事があって一緒に行けなかったのが悔やまれる。

 

「おねーちゃん」

 

「…何?」

 

「おねーちゃん、最近ずっと変だよ。ずっとよそ見してるっていうか、何も見てないって言うか…」

 

「…貴女には関係ないことよ」

 

「どこを見てるのおねーちゃん」

 

「……」

 

「ねぇ、ねぇ答えてよ!!何処なの!?何処を見てるの!!」

 

 日菜が私の肩を掴んでくる。…今日はしつこいわね。言ってる意味もよくわからないし。まぁ、この子の考えなんて理解しようとするだけ無駄だけれど。

 

「別に、何処も見てないわ」

 

 しつこく掴む日菜を引き剥がして私はリビングを出る。

 …確か明日は丸山さんと遊ぶ約束があったわ。昼からとは言え、きちんと用意をしておかないと。どんなところに行こうかしら。いつものジャンクフード店や公民館でも良いし、普段は行かないような大きなショッピングモールにでも行こうか。いっそ思い切って動物園や遊園地でも…

 

 

「私を見てよ…、おねーちゃん…」

 

 

 

 ──ああ、明日がとても楽しみだわ。

 

 

 

 

 

 

 







好きの反対は無関心♠︎



転生彩ちゃんのヒミツ⑥:実はめちゃくちゃテーブルマナーが上手だぞ!こころちゃん曰く、今まで見てきた中で1番綺麗に食べるそうだ!但し普段は面倒なので野生動物みたいにがっついて食べてるぞ!色々もったいない!



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