マギアレコード外伝 - Rough World   作:HAL@夜勤閣下

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はじまりの紫音
Prologue-出会い-


 最大の魔女ワルプルギスの夜の襲来から一週間。甚大な被害を受けた神浜市の中央区は復興の真っ只中にあった。

 

 当然世間にはワルプルギスの夜の存在は認識されておらず、大規模な自然災害ということで連日テレビで報じられている。ビルの倒壊や地割れなど大地震が発生したかのような被害が受けたのにも関わらず死者が出ていないことは様々なメディアが称賛していた。神浜市の人口は約300万人と大都市であり、普通であれば死人が出てもおかしくはない。なのにも関わらずそういった結果になったのは市民一人ひとりの災害に対する意識の高さだと、専門家は口を揃えて言っていた。

 

 

「――はあぁっ!」

 

 

 いろはは左手に装着されたボウガンから勢いよく矢を発射し、使い魔に当てた。使い魔は悲鳴を上げながら消滅し、自分以外誰もいなくなった道をいろはは小走りで進んでいく。

 

 この日、いろはは友人である鹿目まどか達に会うべく見滝原市へと足を運んでいた。神浜市内の多くの学校は臨時休校となり、それはいろはが通っているところも例外ではなかった。休校中の過ごし方については『各自心のケアを優先する様に』とのことで制限はされず、この機会に朝から見滝原へと行っていたのだ。いろはだけでなく、みかづき荘を拠点に置く鶴乃とフェリシアも用があるということでそれぞれの場所へと赴いていた。

 

 見滝原のまどか含む5人の魔法少女も神浜市に応援に駆け付けていたために怪我などがないか心配していたいろはだったが、マミ以外は何事もなく無事だった。マミに関してはマギウスの翼にウワサとして利用されていたことにより肉体的にも精神的にかなり疲弊していたようで、ワルプルギスの夜との戦いの後に倒れてしまい入院。幸いにも命に別状はないとのことだが、歩けないほどに衰弱しているために1か月ほど治療が必要とのことだった。「私が元気だったらお茶でも一緒にしたかったのにね」なんて笑いながら言っていたが、表情はどこかやつれているように見えた。

 

 まどか達と交流し見滝原から帰る電車に乗っている最中、いろはは魔女の気配を察知し本来降りるはずだった新西区駅よりも前の南凪区駅で降車。魔女の場所を探っていると、立ち寄ったことのない公園内に結界を発見した。神浜市は地区によって魔法少女の派閥があり、勝手に他の地区の魔法少女が活動することに難色を示している地区もある。南凪区も例外ではないのだが、いろはは南凪区に知り合いの魔法少女がいないために連絡を取れる相手がおらず、かといって魔女を見つけてしまった以上見過ごすわけにもいかず単身結界へと乗り込んだのだ。

 

 数か月前まで魔女との戦いは不慣れで、両親の海外赴任により神浜市に引っ越してからは危うく命を落としかけることもあったいろはだが、仲間との交流やマギウスの翼が生み出したウワサの討伐。そしてワルプルギスの夜との戦いを経て単身でも戦えるほどに成長していた。

 

 

「これが魔女…」

 

 

 程なくしていろはは結界の主であろう魔女のもとへと辿り着いた。魔女は倒された使い魔の仇を討とうとしているかのような形相でいろはを睨んでいるが、いろはは躊躇うことなくボウガンを構え、魔女に向けて矢を放とうとした。

 

 

―ざざっ!

 

 

 刹那、魔女から現れた触手のようなものが数本、いろはへ向かって勢いよく飛び出してきた。いろはは一瞬驚いた表情を見せたものの、向かってくる触手を華麗な身のこなしで回避した。触手が後方の地面に刺さり動けなくなっているのを確認し、今度こそ矢を放った。

 

 

――どすっ!

 

 

 放たれた矢は魔女の頭部と思わしき位置にヒット。魔女は黒い血のような液体を撒き散らしながら悶え苦しんだ。

 

 

「これで終わり…!」

 

 

 いろはは魔女の頭上にボウガンを向け、光り輝く無数の矢を振らせ、魔女に浴びせる。魔女は悲鳴のようなものをあげながら悶え苦しむ。やがて動きが止まり、生命活動を停止したのか一切動かなくなってしまった。

 

 強い魔女だったらどうしようか、といろははいささか不安であったが、無事に倒すことができホッとした表情を見せる。

 

 あとは結界が消えるのを待ち、グリーフシードを回収すれば終わり。――そう思っていた矢先の出来事だった。

 

 

「――あぐぅ!」

 

 

 何の前触れもなく、先ほど襲ってきた触手がいろはの体を貫いてきたのだ。まるで頭を撃ち抜かれたかのように目を見開き、口から大量の鮮血を吐き出すいろは。普通の人間であればまず助からない状態だが、魔法少女は違う。いろはは何とか力を振り絞り、自身を貫いてきた触手にゼロ距離で矢を放つ。触手は2本に分断され、うねうねと激しく動きながらいろはの体から抜けていった。

 

 最後の悪あがきだったのだろう。触手を破壊された影響か、魔女はついに力尽きパラパラと紙のように分解され消滅した。

 

 

「あ…ぐ……あぁ、…痛い…!…でも、…治さないと…っ!」

 

 

 いろはは地面に倒れ苦しみながら今度こそ魔女を倒したことを確認すると、すぐに治癒魔法で自らの体を癒した。腹部に空いた穴は瞬時に塞がり、今にも生気が消えそうだった表情はすぐに元に戻っていた。

 

 やがて結界が消え、周囲の景色は公園に戻っていた。結界に入る前と違い大粒の雨が降っており、それは魔女との戦いを終えたいろはの体を濡らしていった。

 

 

「はぁ…はぁ……グリーフシードを回収して帰らないと…」

 

 

 もう少し休んでいたかったがこのままだと雨で濡れてしまうため、いろははゆっくりと立ち上がり魔女が落としたグリーフシードを回収する。それをポケットにしまい、駅に戻ろうと歩みを進めようとする。

 

 

「……あれ?力が入ら…ない」

 

 

 いろははフラっとよろけ、そのまま草が生い茂っている地面へと倒れてしまった。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

「――ありがとうございました」

 

 

 勘定を終えて店を出る女性を見送り、俺はその女性が座っていた席の食器を片付けるべく厨房へと向かう。

 

 俺の名前は『野上 紫音(のがみ しおん)』。神浜市南凪区に住んでいる大学生だ。

 

 去年までは宝崎市に住んでいたが、今年から亡き祖父母が神浜市に所有していたセカンドハウスに引っ越して神浜市立大学に通っている。

 

 両親とは幼いころに死別。妹も、とある出来事がキッカケで数年前に亡くなり、唯一の肉親だった母方の祖母も病気で他界。今の俺に家族はいない。広い家で孤独に過ごす日々は最初こそ落ち着かないものだったが、今では過ごしやすいと感じるようになってしまった。引っ越して半年以上経ったが未だに神浜では友人はおらず、大学とバイト以外は家にこもってパソコンでゲームをするか、ゲームセンターでビデオゲームに励む日々。高校までは友人に恵まれていたのだが、大学生になるとどうも見知らぬ人と話すのは気が引けるようになってしまいその結果今に至る。

 

 そしてここは神浜市南凪区にある個人経営の喫茶店。神浜市に来てからはここでアルバイトをしつつ大学に通っている。家族が遺してくれたお金があるのでそれを生活費に充てて勉学に専念することもできたのだが、それだと就職した時に“働く”ことに関するスキルを何一つとして身に付いていない状態となる。いくら勉強ができても、実際に働いてみないと得られないことは多い。…祖母が言っていた言葉だ。

 

 

「すまないね紫音君。上がりの時間を過ぎてまで手伝ってもらって」

 

 

 下げた食器を厨房の食洗器にセットしている俺にねぎらいの言葉をかけてくれたのは喫茶店の店長。俺はマスターと呼んでいる男の人だ。

 

 さっきも言ったがこの喫茶店は個人経営なので決して大きな店ではない。席は8組分しかないため混雑することはほとんどないとのことだが、今日だけは別だった。俺がここでアルバイトを始めてから半年が経つが、席が全て埋まったのは初めてだった。

 

 

「いいんですよ。混んでいるのにマスター一人にして上がるなんてできません。それにしばらく大学も休みでやることもありませんし」

 

「いやはや。明日からしばらくお休みだからか、常連のお客さんが一気に来るとは思わなかったよ」

 

 

 毎週水曜日以外は営業しているこの喫茶店だが、明日からマスターが法事により一週間ほど神浜を離れなければならず予定の前後も考えて10日間の臨時休業に入るのだ。そのせいか、休業前にということで夕方になりお客さんが一気に増えたのである。ほとんどが見たことのある顔ぶれ――所謂常連さんというやつだ。マスターはまさか混むとは思っていなかったようで、俺は自ら希望して上がり時間を超えて手伝うことにしたのだ。そして先ほど見送った女性が今日最後のお客さんだった。

 

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「いえ。俺も今月末に妹の命日で休みますし…」

 

 

 あと3週間ほどで妹が亡くなって4年目を迎える。三回忌は去年済ませたので行事はないが、それでも宝崎市にある家族の墓に行くつもりだ。最後に墓前に行ったのは祖母の一回忌である5月だったからほぼ半年ぶりか。毎年、この日が近くなると妹が亡くなった時のことを嫌でも思い出してしまう。

 

 

「さて、残りの片づけは僕がやるから今日はもう上がりなさい」

 

「…わかりました。マスター、明日から気を付けて」

 

「はっはっは、大丈夫だよ。電車と飛行機で半日移動するだけだからね。ちょっとした旅行気分で行くことにするさ」

 

 

 マスターは愛想笑いをしながら手を振り、更衣室に行く俺を見送ってくれた。本音を言うと最後まで手伝いたかったのだが、マスターの厚意にあずかって素直に上がることにした。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

「――酷い雨だ」

 

 

 喫茶店を出る前から察していたが、外は滝のような大雨が降り注いでいた。傘をさすとそれに当たる雨粒の反動が手にまで伝わってくる。先ほどまではここまで大粒の雨が降る空模様ではなかったのに、最後のお客さんが退店してから天気が豹変したらしい。

 

 

「…仕方がない。今日は帰ろう」

 

 

 先ほど言った通り明日はバイトが休みのため、今日のバイトの後はゲーセンに行って夜遅くまで遊んでいようかと思っていたのだが、あまりの大雨により気分が変わり直帰することにした。アスファルトに勢いよく叩きつけられた無数の雨粒が跳ね返り、足元を容赦なく濡らしてくる。

 

 最近、何故かこういう突発的な悪天候が多い気がする。今日の雨はともかく、先週の自然災害は異常としか言いようがない。例えば台風は概ね進路がわかっているため数日前から災害に対する準備ができるものだが、中央区を壊滅させたあの大規模災害は当日―しかも数時間前に突然発生が報じられたのだ。あんなことが普通起こりうるのだろうか?そう思って軽くネットで調べたのだが、どうやら海外でも同じような事例がいくつもあったようで、それが今回神浜で発生したと思うのが自然だろう。

 

 スマホで天気予報を見終えると、俺はいつもの通り道から外れて公園へと入った。大雨の日の道路沿いは車の水しぶきで濡れるリスクがある。しかも今は夕方ということでちょうど仕事帰り、平日でも朝に次いで車通りが多い時間帯だ。

 公園は舗装されている通路があるから水を含んだ砂で靴が汚れる心配もない。それでも雨が強すぎるのでズボンの裾は濡れてしまうだろうが、靴の中が濡れるよりはマシだ。

 

 

「…っ!」

 

 

 一瞬、心臓に痛みが走った。先月あたりからだろうか、バイトの帰りやゲーセンで遊んだ後に不定期に起こっている現象だ。とはいえ、痛みはほぼ一瞬で身体に支障が出るわけでもないので様子見としている。自覚していないだけで身体が疲れているのかもしれない。明日からは休みだし悪化するようなら病院にでも行くとしよう。

 

 そんなことを考えながら俺は土砂降りの公園の通路を歩く。

 

 

「…ん?」

 

 

 俺はふと、公園の植木の隙間から何か大きいものが地面にあるのを見つけた。枝に邪魔されてよく見えないが、桃色をした何か…。

 

 

「なんだ?」

 

 

 落とし物にしては大きすぎる。俺は不思議に思いその物体が落ちている場所に行ける方向から回り込み、それを確認した。

 ――それは物体ではなく、人だった。うつ伏せなので表情は見えないが、桃色を基調とした服を身にまとった少女。腰まで伸びた髪は大雨で濡れて乱れてしまっている。

 

 

「人?!こんなところに何故?」

 

 

 俺は焦りながらも、学校で軽く習ったことがある意識確認をうろ覚えながらも行った。外傷は見当たらず、呼吸もあるようで死んでいるわけではないようだ。だが呼びかけても返答がないのでとりあえず救急車を呼ぼうとスマホに手を伸ばしたが、あるものが目に入り番号を打つ指が止まった。

 

 倒れている少女の左手にあるボウガンのようなもの。そしてポケットからこぼれている黒い物体。それらを見て、俺はある存在だということを確信した。

 

 

「――魔法少女…」

 

 

 魔法少女。どんな願いでも一つ叶えて貰える代わりに、人知れず魔女という存在と戦う使命を背負った者のこと。左手のボウガンはその魔女を倒すための武器であり、黒い物体は魔法少女の魔力を回復させるためのアイテムである『グリーフシード』だろう。世間では認識されておらず、SNSなどが発達した今日のネット社会でも存在を明かしている者や信じている者を見たことはない。

 

 そんな存在を何故俺が知っているのかというと――いや、今はそんなことは後回しだ。この少女が魔法少女だとしたら救急車を呼ぶと少々厄介になるだろう。俺としては問題ないのだが、彼女としては面倒なことになるに違いない。

 

 

「…ひとまず、家に避難させるか」

 

 

 俺は意を決して少女を背中に背負った。倒れてからどのくらい経っていたのかはわからないが、大雨のせいで衣服に含まれていた雨水があっという間に俺のパーカーに染み込んできた。家まではここから5分ほど。その間に人目に付かないことを祈りながら俺は家へと歩き始める。

 

 俺は知っている……どんな願いでも叶えるという奇跡と引き換えに待ち受ける、魔法少女として契約した者が迎える残酷な末路を。

 

 

 ――妹も、それによって死んでしまったのだから…。




…そんなわけで始まりました。
実は去年から執筆していたのですが、とても見せられるクオリティではなかったのでちょいちょい続きを書きつつ寝かせていました。
とりあえずプロローグだけは、ということで本日より投稿開始です。
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