マギアレコード外伝 - Rough World   作:HAL@夜勤閣下

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紫音とみふゆ

 時刻は深夜の2時を回ったところ。

 なかなか眠れず、ベッドの上で仰向けになり無意識に天井を眺めていた。

 

 あれからのことだが、やちよさんが作った焼きそばを皆で喋りながら食べた後にみかづき荘での過ごし方について話していた。

 すぐにでも3日分の着替えやら何やらを自宅から取りに行きたかったが、気を失っていた反動が大きくまだ本調子ではなかったので断念。とりあえず今日の夜だけということで以前やちよさんの父が来た時に置いていったというルームウェアを借りることになった。

 

 寝る場所はというと、倒れた俺が運ばれた部屋が現在みかづき荘に残っている唯一のゲストルームとのことだったのでこのまま使うことになった。ベッドが2つ置いてあるので2人用の部屋、もしくはやちよさんの両親が来た時用の部屋なのだろうが、そこを3日も占有するのは申し訳なく感じるが仕方がない。

 

 明日の予定は、やちよさんはモデルの仕事で朝から外出。みふゆさんも勉強のために外出するらしい。鶴乃は実家の店を手伝うために不在…というか、鶴乃は普段みかづき荘には寝泊りしていないらしいから当然か。フェリシア、さな、ういはここに残って留守番といった感じだ。朝から早速俺が朝食を作ろうと思っていたのだが、体調のこともあるから朝食は明後日からで良いということになり明日はいろはが作るとのことだ。

 

 

「――っしょっと」

 

 

 気分転換をしようと身体を起こしテラスへと出てみる。11月ともなると夜は冷え込んでくる季節。Tシャツの上にスウェットを着ているがそれだけでは寒い。とはいえリビングにある上着掛けから上着を持ってくるのも面倒だったので我慢することにした。

 

 

「…あれが中央区のビルか」

 

 

 夜通しで復旧作業行われているようで、作業用の電灯が一部のビルを照らしているため深夜でも損傷具合が見える。南凪区の自宅からは見えなかったためこうして実際に見るのは初めてだ。復旧までどのくらいかかるのかはわからないが、この神浜市の中核となる区画なのだから早急な復旧が求められるだろう。夜通しの作業でも今年ではきっと無理だろうが、来年の夏頃までには一部が復旧しているのではないだろうかと勝手に思い込む。

 

 

「(俺の身体は本当に大丈夫なんだろうか?)」

 

 

 灯花たちは副作用的なものがありながらもとりあえずは成功したと言っていたが、俺自身その実感がないので一抹の不安が残っている。あの二人が作ったとされる魔力スワップシステムの第一被験者なのだから、想定外の問題が残っていても不思議ではないのだ。もしそれが死に直結するようなことだったらと思うと少し怖くなる。

 

 

「<野上さん?>」

 

「…みふゆさん?」

 

 

 突然頭に響いたみふゆさんの声に反応し振り返る。部屋には誰もいないが、ドアの向こうから人の気配がしたのでゆっくりとドアを開けると予想通りみふゆさんが心配そうな顔つきで立っていた。

 

 

「みふゆさん。どうかしましたか?」

 

「いえ。物音がしたので、起きてらっしゃるかと思いまして」

 

「ああ、はい。眠れなかったので気分転換にちょっとテラスに出てまして」

 

 

 そういえば俺の部屋の隣はみふゆさんの部屋だった。故に俺がこんな夜中に起きたことで体調が悪くなったのかもしれないと思ったのだろう。起こしてしまったかと思ったが、みふゆさんの表情を見る限り寝ていたようには見えなかった。眠れずにベッドに入りながら考え事でもしていたのか、それとも眠らずに勉強でもしていたのか。

 

 

「…野上さん。せっかくなので少しお話しても良いですか?」

 

「え?―ああ、はい。勿論です」

 

 

 突然のみふゆさんの言葉に戸惑いつつも俺は平静を装い彼女を部屋に入れ、一緒にテラスへと出る。俺にテレパシーを送ってきたのは二人で話をしたいから、ということか。思えばみふゆさんと二人で話をしたのは俺の意識が戻った後に状況を説明してくれた時くらいで、雑談という雑談はほとんどしていない。

 夕食の後はここでの過ごし方を聞いた後にフェリシアのゲームに付き合っていたらすっかり寝る支度をする時間になってしまっていたからだ。俺も俺で熱中してしまい、やちよさんの一声が無ければ延々とゲームをしているところだった。久々に誰かとワイワイ喋りながらゲームをしたからか…全く、らしくない。

 

 

「野上さん。マギウスの翼の話はご存じですか?」

 

「ええ。いろはから聞きました。まだ年端も行かないあの灯花とねむが創設者だったなんて…」

 

 

 俺が灯花とねむの話を出すとみふゆさんは「なら話が早い」といった様子で表情を変えた。思えばいろは以外からマギウスの翼の話を俺にしてきたのは初めてだ。彼女たちにとっては命を懸けた出来事だったが故に話をするのはやはり気が引けるのだろう。

 

 

「…実は、私もマギウスの翼の一人だったんです」

 

「えっ?!」

 

 

 突然の言葉に俺は思わずびくっと身を動かして驚く。こんなに挙動をするとは思わなかったのか、みふゆさんは流し目で俺を見ながらふふっと笑ってみせた。

 

 去年のこと。みふゆさんとやちよさんの他に二人の魔法少女とチームを組んでいた時期があったそうだ。そんなある日のこと…いつもと同じく魔女をせん滅するべく戦っていた時にその二人の魔法少女のうちの一人が魔女にソウルジェムを破壊され命を落とした。まだ魔法少女の真実を知らなかった彼女達はキュゥべえが語らなかったソウルジェムの秘密の一端を知ったのだ。

 

 そしてその後、もう一人の魔法少女も魔女との戦いでソウルジェムに穢れを溜めすぎたために魔女となって死亡し『魔法少女がいずれは魔女になる』という受け入れがたい真実を知ることとなった。

 

 これによりみふゆさんは絶望しやちよさんの元から失踪。そして自分も魔女になって死ぬことを選んだが、その時にちょうど自動浄化システムが神浜市内に広がっていたために魔女化を逃れ、その場に現れた灯花に魔法少女を救うためにマギウスの翼へと誘われたという。

 

 先週の事件までの間にも何度もやちよさんとも衝突することがあったらしく、一度は「二度と顔を見せないで」と拒絶されたこともあったのだという。その時のみふゆさんはマギウスのやり方に疑問を感じていなかったようだが、その後苛烈化する活動に疑問を抱きついに離反。最終的にはやちよさん達の元へと戻り、中央区で共に戦ったのだ。その戦いにより命を落としかけたようだが、いろはの魔法により奇跡的に助かったらしい。

 

 

「そんなことが…」

 

「…突然こんな話をしてすいません。妹さんの話を聞いていて思ったんです。この人もワタシとやっちゃんと同じ思いをしたんだって。だから機会があれば話そうと思って…」

 

 

 話を終えたみふゆさんは俯き、暗い表情を浮かべていた。

 

 俺がみかづき荘に来てすぐの雑談タイムでの楽しそうな会話と、先ほどの夕食後に鶴乃やさなと楽しそうに絡んでいるみふゆさんの様子を見たが、そんな過去を持っているなんて微塵にも思えなかったために心底驚いた。

 

 チームを組んでいたやちよさんの元を離れてマギウスの翼へと入ったのがキッカケでそのやちよさんと幾度も兵刃を交えたみふゆさん。だが彼女はまたここへと帰ってきたわけだ。

 

 

「寝る前になるといつも思うんです。勢いでまたやっちゃんのところに戻ってきちゃって、皆さんは歓迎してくれましたけど、本当にここに居ていいのかって。灯花とねむが罰として変身を制限されたのにワタシは何もなくて良いのかって」

 

 

 みふゆさんが話をしてくれた理由がわかった気がした。マギウスの翼に身を寄せ、結果的に誤った道に進んでいた自分がここにいても良いのか、という悩み。灯花とねむのように自分も何か罰を受けるべきではないのか。それほどまでにみふゆさんはマギウスの翼にいたことを後悔しているのだろう。

 

 

「……俺がこんなこと言って良いのかわからないですけど…皆が戻ってきたことを歓迎してくれたのならここに居ても良いってことなんだと思います。もしまた辛いことがあったとしても一人で逃げたりはしないでやちよさん達と一緒にそれを乗り越える。それが大事なんじゃないでしょうか」

 

 

 しばらく無言の時間が続き、俺は俺なりに考えたことを言おうと口を開いた。ありきたりな言葉かもしれないが、何も言わずにただ話を聞くことは出来なかった。成り行きとはいえ俺も過去の辛い話を聞いてもらったのだから。

 

 

「……ふふ」

 

「?」

 

 

 暗い表情を見せていたみふゆさんが突然笑い出す。それを見た俺は戸惑って首をかしげてしまう。

 

 

「野上さん。いろはさんと似てますね。いろはさんも言ってくれたんです。この先にどんな困難があっても私たちで一緒に頑張りましょうって」

 

「いろはも?」

 

 

 なるほど。確かにいろはなら言いそうな言葉だ。

 

 

「ワタシ、もう悩みません。いろはさんと野上さんが言うように、皆で頑張っていきたいと思います」

 

 

 そう言ってみふゆさんは椅子から立ち上がり、得心がいった…というような表情で俺の隣にやってくると右手を差し出してきた。…皆には「よろしく」とは言ったが、そういえば握手をしていなかったか。

 

 

「野上さん――いえ、紫音さん。改めて、これからよろしくお願いしますね」

 

 

 俺はみふゆさんの手をゆっくりと握り返して「こちらこそ」と返した。大人の女性の手を握るのは初めてだが、みふゆさんの手指は力を入れるとすぐ折れてしまいそうなほどに細く感じた。

 

 数秒の握手の後に手を離すと俺に向かってふふっと笑みを浮かべるみふゆさんに妙に気恥しくなり目を逸らす。

 

 その後はお互い魔法少女とは関係ない話をして過ごした。その中で、みふゆさんは自身の実家が呉服屋で子供の頃は箱入り娘だったことを話してくれた。誰に対しても丁寧な言葉で話していたのを見てなんとなくお嬢様っぽいとは思っていたが本当にそうだったとは…。さらに驚いたことに、薬学部に入るために灯花の父親が営んでいる財団が支援しているとのことだ。マギウスの翼の一件の最中も合間に勉強に励んでいたようだが、灯花とねむの活動が過激になってからはほとんど集中できなかったそうだ。マギウスが解散してからはその分を挽回するために魔法少女稼業がない時は基本的に灯花の家に終日通うことを決めたようで、灯花もそれを歓迎しているという。

 

 一方、俺の話はというと、そういえば趣味の話をしたのはみふゆさんがまだみかづき荘に帰ってくる前だったので一通り話すことにした。趣味はテレビゲームとモデルガンの収集だと話すと、みふゆさんはどういうモデルガンを持っているのかと踏み込んできたのでスマホに保存されている写真を見せてあげた。中学生の頃からお年玉やお小遣いで集めていたハンドガン4丁と、大学を卒業してから買ったアサルトライフル1丁が壁に飾られている写真だが、驚いたことにみふゆさんはハンドガンの中の1丁を有名な映画シリーズに登場する銃だというのを当ててきた。幼少期、まだ魔法少女になる前に家で親が持っていた映画を見ることが多かったようで、見ているうちに銃の形状を自然と覚えていたらしい。

 ちなみにその銃の名前は“GLOCK 17”。オーストリアのグロックという会社が作った拳銃で、飾りつけの少ないシンプルな見た目で俺がハンドガンの中で最も好きな銃の一つだったりする。

 

 

「――運動していないのにその体型を保っているなんて羨ましいです」

 

「いや、それはなんというか…男性と女性で違ったりとか個人差があったりとかって気がしますけど」

 

「紫音さん。機会があれば詳しく聞いてもよろしいですか?薬学部に入れたらいつまでもやっちゃんと一緒に居られる保証はありませんし、自立したらどういうものを食べたら良いか聞きたいんです」

 

「え?…まあ、俺で良ければ」

 

 

 一人暮らしのことを聞かれたのでその話をしていると、食生活とかいつ寝ているのかというリアル事情についての話に発展した。食事バランスに関してならいろはの方が考えていそうですが…と言いたかったが、このみかづき荘にいる人達の力になれる良い機会だと思い、みふゆさんの頼みを承諾することにした。恐らく20代前半くらいの歳だろうし、体型とかには気を付けたいと思っているのだろう。

 

 そんなこんなで雑談に耽っていると気づけば時刻は夜中の3時になろうとしていた。俺は午前中に家へと戻り荷物を持ってくる必要があるし、みふゆさんも朝から灯花の実家へと行く予定があるのでこれにて解散となった。

 

 最後にスマホの連絡先を交換し、そのプロフィールを部屋に戻るみふゆさんを見送った後に確認したのだが、年齢の欄に“19”と書かれているのを見て俺は目を丸くした。身なりや顔つきから21か22くらいだと思っていたのだが、彼女は俺とやちよさんと同い年だったのだ。

 

 

「…箱入り娘の貫禄ってやつなのかね」

 

 

 そんなことを独り言ちてベッドに戻ると先ほどまで全く眠れる気がしなかったのに一気に眠気が襲ってきた。考え事で脳を使いすぎていたのをみふゆさんと話したことでほぐれたのだろうか?目を瞑り、心を無にしているといつの間にか俺の意識は夢の中へと落ちていた…。




書いていて紫音のやちよとみふゆは「さん付け」呼びのほうがしっくりくると感じたのでそのスタイルで行きます(でも話すときはやちよはタメ口、みふゆは敬語です)。
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