マギアレコード外伝 - Rough World   作:HAL@夜勤閣下

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11か月ぶりの更新です。
書いているうちに「ここなんでこうしたんだろう」という部分が増えまくって直しながら書いていたら年が変わっていました。


実戦、再び

 ――翌朝。

 筋肉痛が残っているものの身体自体は昨日の倦怠感が嘘だったかのように回復していた。予定通りの時間に起きて朝食を作っていると、俺が起きるより前に起きて既にみかづき荘を出ていると思っていたみふゆさんが起きてきて昨日酔いつぶれたことに対して頭を下げてきた。どうやらやちよさんに部屋に運ばれた後もそのまま寝続けていたようで、髪は寝癖でぼさぼさになっており着ている私服にはところどころシワができていた。そんな姿を顧みずに俺と会話を済ませるとすぐに洗面所へと向かって身支度をし、俺が作ったサンドイッチを一つ渡して受け取ると急いでみかづき荘を後にしていった。きっと寝坊だったのだろう、アレだけ飲んでいたら無理もないか。

 

 灯花の言葉を思い出す、俺の身体といろはのソウルジェムリンクを解消できるものが完成するという期日は明日。恐らくみかづき荘で丸一日過ごすのも今日で最後になると思う。

 振り返ると色々なことがあった。神浜に引っ越してから知人や友人を作らずに過ごしていたのだがこの数日で一気に交流が増えた。妹と同じ名前のいろはと偶然出会い、そこから有名人のやちよさん、いろはの妹のうい、みかづき荘の住人であるフェリシア、さな、みふゆさん。そして鶴乃と、幅広い年齢の女性と出会い、一つ屋根の下で過ごしている。俺以外女性という環境に最初は少し緊張したが、すぐに打ち解けることができた。彼女たちは俺をすんなり歓迎してくれたが、本当にそうなのか?…という一抹の不安もある。いろはに至ってはソウルジェムリンクのせいで常に俺の側にいなければならないのだから尚更だ。

 

 

「…まあいい」

 

 

 そう独り言ち、俺は朝食の準備を進めた。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

「そしたらフェリシアちゃん。なんでオレには来ないのに鶴乃には一発で来るんだーって」

 

「ガチャっていうのはそういうものさ。いろははそういうゲームはやらないんだな」

 

「元々あまりゲームをやらないっていうか、私ってあんまり上手じゃないので…」

 

 

 時刻はもうすぐ昼になるところ。

 今日は特に予定が無いためいろはと早めに夕食の買い出しに行くことになり、いろはと他愛のない話をしながらショッピングモールへと向かう。

 天気は良いものの気温が低く、風もやや強めという天候だからか、歩いている人はまばらだ。買い出しにはういも一緒の予定だったのだが、寒いから無理をせず留守番するようにいろはに言われたのだ。元々病弱で入院生活をしていたということだし身を案じたのだろう。思えば、買い出しでいろはと二人きりなのは今日が初めてか。昨日はさなが一緒だったし、一昨日は電波望遠鏡の帰りだったからういが同行していた。

 

 

「<モキュ!>」

 

「今日のキュウは俺たちの買い物に同伴ってわけか」

 

 

 魔法少女にしか見えない存在であるキュウは猫のように自由気ままに過ごしている。一昨日は鶴乃とフェリシアと共に万々歳に行っていたし、昨日はみふゆさんと一緒に外出していた。いろは曰くキュウは元々警戒心が強く、いろは以外には懐かなかったようだがマギウスの一件を終えてからはみかづき荘のメンバーにも懐くようになったらしい。

 

 

「そういえば、紫音さんが今アルバイトをしているお店って、どういう経緯で入ったんですか?」

 

「どうしたんだ突然」

 

「いえ。私も高校生になったらアルバイトをしてやちよさんに恩返しをしたいなって思っていて。紫音さんの経緯を聞いて参考にしたいなと」

 

 

 思えば、今みかづき荘に住んでいる人の中で、近いうちにやちよさんの家計の手助けができるのはいろはだけか。鶴乃は実家の中華飯店で働いているし、みふゆさんは浪人中。さなとフェリシアはまだ働ける年齢には遠い。フェリシアは手伝いという名目で万々歳で働いているが。

 …実は、アルバイト先のマスターとの出会いは少々複雑だったりする。

 

 

「マスターのお店は元々アルバイトを募集していなかったんだ」

 

「どういうことですか?」

 

「俺が神浜に引っ越してきてすぐの時に転んで足を怪我したマスターを偶然見かけて、俺が荷物を運ぶのを手伝ったのがキッカケで知り合った。その時に、もしアルバイトをするつもりならうちで働かないかって言われたんだ…」

 

 

 俺は言おうか言うまいか迷ったが、話の続きを語ることにした。

 

 

「…マスターの喫茶店は元々奥さんと一緒に始めたお店だったんだ。けど奥さんが2年前に白血病で亡くなって、それ以降はずっと一人で切り盛りしていたらしい」

 

「………」

 

 

 別に口止めされていたわけではない。せっかくの相談事なのに暗い話になるのはどうかと思っただけだ。やはりというか、いろはは少し暗い表情をしている。

 

 

「俺が働き始めて3か月くらいした時だったかな。マスターに聞いたんだ。なんで俺をバイトで雇ってくれたのか?って。そしたら『私が困っている時に助けてくれた君が妻と出会った時に似ていたから』って」

 

 

 話によると、二人の出会いは奥さんが道端で体調を崩していた時に偶然通りかかったマスターが助けたことがキッカケで、その後紆余曲折を経て結婚したのだという。奥さんは元々身体が弱かったようで、それによりまだ40代という若さで白血病でこの世を去ってしまった。マスターは「いつかこの日が来るのは誰も同じだが、何もこんなに早くなくても良かったんじゃないか」と言っていた。俺の妹もそうだ。まだ中学生、人生まだまだこれからという時に亡くなったのだから…。

 

 

「<…キュ!>」

 

 

 突然いろはの肩に乗っていたキュウが鳴き声を上げて地面に飛び降り、俺といろはの前でぴょんぴょん飛び跳ねて何かをアピールする。

 

 

「キュウ?」

 

「<キュ、モキュ!>

 

 

 キュウは俺といろはが立ち止まったのを確認すると振り向き、まるでついてこいと言っているかのように人間の脚の速さで容易に追いつけるスピードで走っていった。

 

 

「え、待って!」

 

「ついていってみよう」

 

 

 キュウの後を追うべく、俺といろはは駆け出した。

 

 200mほど走ってキュウが立ち止まった場所は二棟の雑居ビルの間にある路地。その中に入り、行き止まりまで行くと昨日の瓦礫置場にあったものと同じような魔女の結界が存在していた。

 急に走ったために息があがってしまい、俺もいろはも結界を見据えながら呼吸を整えた。

 

 

「魔女の結界か。キュウはこれを感じ取って俺たちに伝えたわけだ」

 

 

 昨日の魔女のように開けた場所ではなく建物の間という狭い空間故に気配が遮られて居たからか、いろはでも建物の側に来るまで気配はわからなかったようだ。

 

 どうしようかといろはに問おうとしたが、彼女は結界の前で目を閉じて反応を探っていた。数秒ほどで目を開けたが、その表情は少し慌てた様子だった。

 

 

「まどかちゃん…?」

 

「どうしたんだ?」

 

「はい。私がウワサを解決している時にたまたま出会って友達になった見滝原のまどかちゃんの反応が結界からするんです」

 

 

 ”反応”ということは魔法少女か。この結界を見つけて討伐するために自ら入ったのだろう。見滝原といえば宝崎よりも遠い場所にある街で風見野のすぐ側だったが、俺は一度も行ったことがなかった。見滝原の魔法少女が果たして神浜の魔女と渡り合えるのか?他の街から来た魔法少女は調整屋で調整して貰わないと神浜の魔女に苦戦する……昨日のももこの話が頭を過った。

 

 迷うことはない。俺は着ていたコートを脱ぎ、力を解放した。

 

 

「紫音さん?」

 

「助けに行くんだろ?昨日の特訓と実戦で動き方はわかったから大丈夫だ。それに俺としてもこのまま見守っているのは性に合わない」

 

 

 そう言っていろはの顔を見て頷くと、彼女は不安げな表情をすぐに変え、そして頷いた。いろはは俺が脱いだコートの側にポーチを置き、魔法少女の姿へと変身する。

 

 

「―行きましょう!」

 

「ああ!」

 

「<モキュ!>」

 

 

 キュウがいろはの肩に飛び乗ったのを合図に、同時に結界へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 結界の中は薄暗い森の中だった。自然界には存在していないであろう、枝と幹がぐにゃりと曲がったアンバランスな木々が生い茂っており、まるでおとぎ話の絵本に出てくるお化けが出そうな森といったところか。車が1台通れるほどの横幅がある獣道を俺といろははひたすら走る。

 

 

「――まどかちゃん!」

 

 

 昨日の結界の中と同じように、一寸先は闇しかなかった一本道から突然視界が歪むようにして変わり、開けた場所へと出た。そこにはピンク色を基調としたワンピースに身を包んだ少女が片膝を付いてやや上方に向けて弓を構えていた。いろはの声を聞き、その少女はこちらに顔を向ける。

 

 

「いろはちゃん!どうしてここに?」

 

「たまたま結界を見つけて気配を探っていたらまどかちゃんの反応があったから、何かあったらと思って助けにきたの」

 

「そうなんだ、ありがとう。この魔女、動きが早くて全然攻撃が当たらなくて…」

 

「…素早い魔女か」

 

「へ?男の人…?この反応……魔法少…女?」

 

 

 俺の声を聞いたまどかという少女は目を丸くする。魔女の結界に魔法少女以外の人間、それも男がいたら驚くか。魔女の姿は見えないが、禍々しい気配は伝わってくる。剣を手に取り臨戦態勢を取ると、それを見たまどかはさらに吃驚した顔つきになった。

 

 

「まどかと言ったな。俺の話は後だ。魔女の姿が見えないけど、どんな魔女なんだ?」

 

「あ、はい!狼みたいで、姿を消しながら突進してきたり引っ搔いてきたり―」

 

「<―モキュッ!!>」

 

「―っ、上だ!!」

 

――どごぉ!!

 

 

 キュウの声が聞こえてからワンテンポ遅れて上から気配を察し、俺の一声で三人とも散り散りになってその場を離れた。それと同時に強い衝撃がその場に響き、巻きあがった土煙から現れたのは狼のような姿をしているが顔面はいくつもの腫瘍のようなもので膨れ上がった大人のゾウほどの体格を持つ魔女だった。俺たちがいた場所の地面はそれが現れた時の衝撃で僅かに凹んでおり、避けなければ致命傷だっただろう。

 

 

「くっ、アレが魔女か」

 

「―はぁっ!」

 

 

 まどかが弓から生成した光の矢を魔女に向けて放つ。しかしそれはあっけなく避けられ、矢は背後の木の幹に刺さった。魔女は矢が自分の身体を貫く寸前のところで異空間のようなものを出現させ、その中に入ることで姿を消した。魔女の姿は再び見えなくなり、気配はするもののどこからするのかはわからない。

 

 

「<モキュ!>」

 

『''!%)}!!!』

 

 

 キュウの声の直後に後方から気配を感じ、俺は咄嗟に左方に身を翻した。

 

 

「―ぐっ…!」

 

 

 魔女の突進しながらの鋭い爪による攻撃が左上腕部を掠り、パーカーの生地を容易に切り裂きそのまま俺の皮膚をも引き裂いた。

受け身を取り、魔女が突進したほうへと身構えるが既に奴の姿はなかった。その隙に傷口に目をやると、4つの爪痕が残されていてそこから流れ出た血はすぐに袖口から滴ってきていた。だが不思議なことに痛みはほとんど感じず、出血量も少ない。常人ならのたうち回るくらいに痛いだろうが、まるで麻酔がかかっているかのように感覚がマヒしているような感じだ。

 

 

「紫音さん 怪我が…」

 

「大丈夫だ。まずは奴をなんとかするぞ」

 

 

 とりあえず支障は無いと判断し、魔女の攻撃に備えるべく剣を構える。すると魔女は俺たちの真正面に姿を現し、咆哮して威嚇すると今度はいろはに向かって突進する。いろはは高く跳びあがって攻撃を避けると、空中からクロスボウから矢を放つ。魔女はそれを容易く回避しつつ、そのまままどかへと爪で攻撃を仕掛ける。

 

 

「―はっ!ふっ!やぁっ!」

 

 

 魔女の爪による連続攻撃をまどかは華麗に回避し、近くに生えている木の幹を蹴って宙へと舞う。魔女も高く跳びあがったが、まどかはその動きを予想していたのか光の矢を同時に三本発射する。今度こそ当たったかと思われたが魔女はその矢を爪で薙ぎ払い、宙に舞うまどかへ嚙み付こうと襲い掛かる。

 

 

「危ない!」

 

―ずしゃ!

 

 

 寸でのところでいろはが放ったクロスボウの矢が魔女の首元にヒットした。その衝撃で魔女は吹き飛ばされ、その隙を逃すまいとまどかも空中から再び矢を放つ。しかし魔女は即座に体勢を立て直し、その攻撃を爪で搔き消してしまった。

 

 

「たぁ!でやぁ!」

 

 

 地面に着地した魔女に俺も攻撃を仕掛ける。魔女は身体を翻して悉く斬撃を回避し、数回躱したところで後方へと下がり、その身をぐるりと横方向に高速で回転させた。体長と同じくらいの長さのある尾が鞭のように襲いかかり、俺はそれを辛うじてジャンプで躱す。そしてそのまま魔女の脳天に目掛けて剣を突き刺そうと急降下するが、魔女は再び異空間へと姿を消した。

 

 

「<ちっ、なんて奴だ。このままじゃ埒が明かないな>」

 

「<どうしよう。私といろはちゃんの攻撃だと届くまでに避けられちゃうし…>」

 

 

 まどかの言う通り、遠距離攻撃では攻撃が届くまでのタイムラグで簡単に避けられてしまう。だからといって俺が真正面から攻撃を仕掛けても驚異的な反射神経で躱され、さらには反撃までしてくる始末。

 だが、あの魔女は空中でまどかに攻撃を仕掛けようとしたところでいろはが放った攻撃を首元に受けていた。もしそれが”攻撃に夢中であるが故に被弾した”のだとしたら、奴が攻撃を仕掛けている時にこちらも攻撃を仕掛ければチャンスがあるかもしれない。それに魔女が初めて姿を現した時、キュウは俺たちより先に気配を察知していた。それならキュウに魔女の出現した時に合図をしてもらえればいち早く攻撃ができるはず。

 

 

「<…キュウ。さっきみたいに魔女が現れる時に合図を頼む>」

 

「<モキュッ!>」

 

 

 キュウがひと跳びで俺の左肩に乗ったのを確認し、空間の中央に移動して居合をするように剣を構え身を屈めた。

 

 

「<紫音さん?>」

 

「<考えがある。二人は奴の隙ができたら攻撃してくれ>」

 

 

 いろはとまどかは俺の後方から魔女の襲撃を警戒しつつ武器を構えた。奴がどこから現れるか、その気配は空間が歪む瞬間にしかわからない。そしてそれが分かった時には既に奴の攻撃がこちらに届いており、俺の攻撃は間に合わない。

 

 

「………」

 

「<―キュッ!>」

 

 

――フォン!

 

 

 キュウの声が聞こえてすぐに魔女が異空間から現れる気配が俺の後方から感じた。

 

 

「(――ここだ!) でやあっ!」

 

 

 俺は一か八かで、その場でぐるりと身体を一回転させながら両手で握った剣を振り回した。

 

 

『&#”!%!!??』

 

 

 俺に嚙み付こうとしていた魔女の顔面には剣による傷が横一文字に付いており、それにより魔女は怯んだ。その隙を逃さず、俺はすぐに奴の間合いに反射的にそのまま左手でアッパーを見舞う。

 

 

「でやあああ!!」

 

―どごぉ1!

 

 

 魔女の身体は数メートル高く飛ばされ、俺はさらに追い打ちを仕掛けるべくその後を追い飛び上がる。そして空中で両手で剣を握り、魔女の身体に渾身の力を込めて剣を振り下ろした。

 

 

「はあああ!!」

 

『($!%”(!!』

 

―どしゃあ!!

 

 

 空中で剣の一振りを浴びた魔女は、そのまま勢いよく地面へと叩きつけられた。奴の身体は見た目とは裏腹にかなりの強度を持っており両断することは出来なかった。しかし十分にダメージは入ったようで腹からは魔女特有の黒い霧状の血液が吹き出すのを見逃さなかった。

 

 

「<二人とも、今だ!>」

 

「<はい!>」

 

 

 着地してすぐにその場を離れ、後方で待機していたいろはとまどかに合図を送った。二人は最早万事休すとなった魔女に向けてとどめの矢を放つ。ピンク色の小規模な爆発と共に土煙が舞い上がる。やがて上半身部分が吹き飛んだ魔女の身体が徐々に見えてきたが、それは土煙が完全に晴れる前に霧となって消滅していった。

 

 周囲の景色が元の路地裏へと戻り、魔女が倒れていた場所には黒い物体『グリーフシード』が落ちていた。いろはとまどかに代わり、俺はそれを拾い上げた。

 

 

「紫音さん!」

 

「いろは。無事か?」

 

「はい。でも紫音さんが」

 

 

 昨日のやちよさんとの訓練の前にねむがスマホ越しに言っていたのを思い出した。魔法少女はソウルジェムが本体であるが故に、身体にダメージを受けても痛覚がある程度カットされる、と。それなら、俺が力を解放している時もその痛覚カットが適応しているのかもしれない。

 

 

「大丈夫だ。痛みは全然無い」

 

「変身は解かずにそのままにしていて下さい。私の魔法で治しますから」

 

 

 そう言っていろはは出血している俺の左腕に手をあてる。やがて手先から光が溢れ出し、それは傷口へと集中していった。すると数秒ほどで傷口があった箇所は綺麗になっていた。引き裂かれたパーカーの生地も、服に染み付いていたであろう血も跡形もなく消えている。魔法には慣れたつもりでいたが、こうして自分の身にそれが使われるとやはり驚きを隠せない。

 力を解除して立ち上がり身体の状態を確認してみるも特に違和感は感じられないため、いろはのおかげで身体は元の状態に戻ったようだ。

 

 

「ありがとう いろは。助かったよ――ああ、失礼。まどかだったね」

 

「は、はい!鹿目 まどかです」

 

 

 俺といろはのやり取りを不思議そうに眺めていたまどかに声を掛けると、畏まったように表情を変えて自己紹介をする。

 

 

「無事でよかったよ。俺は―」

 

「―まどかー!」

 

 

 俺も自分の名前を言おうとしたところで、路地の入口からまどかを呼ぶ声が聞こえてきたため皆一斉にそちらに振り返る。その少女は猛ダッシュで来た様子で、かなり息が上がっている。

 

 

「さやかちゃん!」

 

「美樹さん?」

 

「はぁ…はぁ……、あれ、いろはも一緒?スマホで連絡しても返信来ないし、もしかしたらって思ってまどかの魔力を探っていたんだけど、なんとか片付いたみたいだね」

 

「うん。危ないところだったけど、いろはちゃんと紫音さんって人に助けて貰ったの」

 

「そっか。紫音さん――って、男の人!?」

 

 

 さやか、と呼ばれた水色のショートヘアーの少女は俺のほうを見て目を丸くする。説明するより見て貰ったほうが早いと思い、俺はいろはと一瞬顔を合わせた後に力を解放させた。その様子を見て案の定声を上げて驚くさやか。まどかも戸惑いを隠せない様子で、お互い顔を見合わせて「何が起こっているんだ?」といった表情で俺の姿を眺めていた。

 

 

「とりあえずここで話すのもアレだ。場所を変えよう」

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 ちょうど昼時ということもあり、俺たちは近くにあったファーストフード店へと足を運び、それぞれ食べるものを注文して人気の少ない二階のボックス席へと座った。俺といろは、まどかとさやかで隣同士で対面に座る。

 

 

「いやーすいませんねぇ。奢ってもらっちゃったりして」

 

「気にするな。俺が言い出したことだし」

 

 

 まどかとは対照的にフランクに接してきた少女の名は『美樹 さやか』。見滝原に住む中学生2年生で、まどかとは幼馴染で同じ魔法少女。二人が遠い神浜まで来た理由は、さやかの幼馴染のバイオリニストが探しているCDが神浜のショップにあるということを知りそれを買うためだった。まどかはその付き添いとして同行し、せっかく神浜に来たということで母親が欲しいと言っていた美容器具が売っていないか探していたそうだ。

 どうやらこの二人も先週神浜で起きた騒動に巻き込まれていたらしく、なんでも敬愛する先輩がマギウスの翼に洗脳されて一時は敵対関係になっていたとのことだ。その先輩は無事だったものの洗脳の影響が大きかったようで戦いの後は衰弱し、今は病院に入院しているらしい。ちなみに俺がいろはと出会った日、いろははその先輩含む見滝原の魔法少女達に会いに行っていたそうな。

 

 二人の事情を聞いた後、俺は少し重い話になると断ってから自分の身に起きていることと、そのキッカケとなった三年前の出来事、そしていろはと出会った経緯を話した。席に着く直前にいろはには魔法少女の真実をまどかとさやかは知っているのかをこっそり聞いておいたため、包み隠さずに全て話した。魔法少女はいずれ魔女になることを知った時は二人も心底落ち込んだようだが、お互いの支えで立ち直り神浜での戦いに加勢したとのことだ。

 

 

「なるほど。それにしても、紫音さんの妹の名前がいろはと同じ名前で、そのいろはに今はこうして命を繋いで貰っているって、なんか運命感じちゃいますね。それでいて紫音さんは魔女と戦える魔法少女――いや、男だから魔法少年?」

 

「さやかちゃん。紫音さんは大学生だよ?」

 

「はっ!じゃあ魔法青年か」

 

「あのなぁ…」

 

「あはは…」

 

 

 どうやら大人しい性格のまどかに対し、さやかはかなり活発な性格のようだ。鶴乃とフェリシアを足して割った感じといったところか。いろはとのリンクがある関係でみかづき荘にお世話になっていることも話すと、今度は「家政婦もとい家政夫か」なんて言い出すさやか。…割合的には鶴乃属性のほうが多めか。

 

 

「紫音さん、今度見滝原に来てくださいよ。まどかを助けてくれたお礼もしたいですし、あたしも魔法少女になったばかりだからなんなら手合わせもお願いできたらなーなんて」

 

 

 見滝原といえば風見野の側にある街で、地方都市ながら近未来的な技術が多く取り入れられていると聞く。なんでも学校の生徒用机は床に収納される電動式だったり、ここ数年の間に経ったマンションやアパートには指紋認証式の玄関が搭載されているらしい。

 

 

「良いのか?俺が行って何か魔法少女絡みのことで面倒なことになったりするんじゃ」

 

「いやいや。神浜と違ってテリトリーとかもありませんしお気になさらず」

 

「というか、多分魔法少女って私たちくらいしかいないよね。他に会ったことないや」

 

 

 神浜はみかづき荘だけで既に7人と灯花とねむを入れても9人。ももことレナとかえでも入れたら俺が知っているだけでも12人もいるのにこの差は一体…。前にいろはから話を聞いたグリーフシードの奪い合いも人数が少ないから発生しにくいだろうが、まどかが言うには5人で見滝原の魔女の討伐は間に合っているのだろうか?

 

 

「わかった。そちらが良いのなら都合が付けば行ってみよう」

 

「よっしゃあ!お手合わせ、楽しみにしてますからね!」

 

「…俺は魔法少女じゃないんだけどなぁ」

 

 

 まあ経験を積めるのは良いことだし、この機会に見滝原がどのくらい発展している街なのかを見ることもできるはず。行くのはいつになるかはわからないが、声がかかったら検討してみるとしよう。

 さやかは俺に連絡先を交換するよう求めてきたので素直に応じた。プロフィールのアイコンがグレーの髪の美少年と寄り添っている写真なのが少し気になったが、まあさやかの性格なら彼氏がいても不思議ではないか。

 

 

「しっかし、この子はキュゥべえと違って可愛いなぁ。あいつと違って表情豊かだし」

 

「そういえばこの子、無事だったんだね。あの時はもうダメかと思ってたけど」

 

「キュゥべえだって?」

 

 

 妹を魔法少女にした存在。妹だけじゃない。今この世の中にいる全ての魔法少女はキュゥべえと契約したことで存在している。生前の妹と最期に会話した時、魔法少女が魔女になる際のエネルギーで宇宙を延命させている、と言っていたのを思い出す。勿論そんなことを契約を持ちかけた時に話したりはしないのだろう。命がけで魔女と戦う使命を負うことになる、それだけで十分な代償だと判断してしまい契約をする者が後を絶たないに違いない。

 

 

「はい。ちょうどこの子を大人にしたような感じの猫とウサギと組み合わせたような奴なんですけどねぇ」

 

「キュウを大人に?」

 

 

 窓際に座ってこちらを見据えているキュウに目をやると、キュウは怯えたように表情を曇らせた。きっとキュゥべえと関係があるのかもしれないと思われて何か良からぬことをされるのではないかと不安になったのだろう。キュウという名前はキュゥべえに因んで付けられたということか。ここでようやくわかった。

 

 

「大丈夫だ。お前はキュゥべえとは違う。キュウはキュウだろ?」

 

「そうそう。あんたのおかげでエンブリオ・イブを鎮められたんだし」

 

「大丈夫だよキュウ。あなたは私たちの仲間なんだから」

 

「<…モキュ!>」

 

 

 皆に励まされ、キュウは嬉しそうな声を上げてその場で飛び跳ねた。魔法少女にしか見えず、犬でも猫でもなく人間の言葉を理解できる生き物…改めて思うと不思議な存在だ。

 

 

「そういえばキュゥべえ、あたしたちの前に現れなくなったよね」

 

「うん。きっと私たちが魔法少女の真実を知ったからじゃないかな」

 

「あー、出会ったら恨みをぶつけられて殺されるかもしれないから?ま、今あいつと会ったらあたしはそうしちゃいそうだけど」

 

「いろはも会えていないのか?」

 

「はい。というより、確か今は神浜には干渉できないって灯花ちゃんが言っていました」

 

 

 なるほど。だから魔法少女にしか見えないものが見えるようになった俺も会えないわけだ。この3日間を思い返しても心当たりはない。俺がキュゥべえに会う機会が訪れるかどうかはわからないが、もし会った場合には最大限警戒することにしようと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 まどかとさやかとは14時になりそうなところで解散となった。まだまだ雑談を続けられそうな雰囲気だったのだが、魔女騒動のせいで二人はまだ神浜に来た目的を果たしておらず、さらに11月ということで日の入りが早く16時には暗くなるため早めに行動を再開したほうが良いと俺が勧めたのだ。

 

 

「ただいま」

 

 

 買い出しを終えて帰宅し、みかづき荘の玄関ドアを開けるとすぐに二階のどこかの部屋のドアが開く音が聞こえてきた。靴は二人分しかなく、多分ういとさなの物だろう。そんなことを考えていると、ういが階段を下りて出迎えてくれた。

 

 

「おかえりなさい――って、その袋は何ですか?」

 

「ただいま うい。聞いて驚け。今日の夜は――」

 

 

 いろはと俺で大きな袋を手に下げてみかづき荘へと帰ると、出迎えてくれたういが目を丸くしていた。

 買ったものは食材ではなく寿司。ポラーノマーケットの側にある回転ずし屋の持ち帰りコーナーで50貫入りのセットを2つ注文し、30分ほどで出来上がりそれを持って帰ってきた。いろはには事前に献立を決めていると伝えていたものの、何なのかは買う時のお楽しみとしており、まさかそれが寿司だとは予想していなかったようで驚きを隠せない様子だった。勿論これは全額俺の負担である。4人前で新作ゲーム1本買えるくらいの値段をするものを無断で2つも買ったら、いくら俺が半分負担しているとはいえ倹約家のやちよさんが黙っていないからだ。

 だが、全額負担にした理由はもう一つある。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 夕方になり、帰ってきた面々は揃って驚いていた。やちよさんは「お寿司ですって?」と言って目を丸くし、フェリシアは目を輝かせて夕食の時間が待ち遠しい様子を隠しきれない様子で、鶴乃は「ホントのホントにお寿司!?」とかなりオーバーリアクションで反応。出かけているみふゆさんは昨日のように遅い時間に帰るのではないかと思い電話したところ「それでしたら夕食の時間までには必ず帰ります!」と返答をいただき、滞在初日ぶりに夕食を全員揃って食べることになった。

 

 

 いざ夕食の時間になり、俺は吸い物の入ったお椀を全員の前に置いてから自分の場所に座る。

 

 

「「いただきます!」」

 

「みんな。この3日間ここに居させてもらったお礼で今日は俺の奢りだ。遠慮せず食べて欲しい」

 

 

 挨拶の後にすぐ俺は今日の夕食を寿司にした理由を皆の前で打ち明けた。全額負担にしたもう一つの理由がこれだ。ここに居る間の食事代の半分を出すと言ったものの、それだけでは見返りとして足りないとずっと考えていて、苦肉の策として導き出したのが今日の夕食だった。なんせこのみかづき荘は現状女性しかおらず、そんな中に俺のようなぽっと出の男が来たら急に生活環境が変わって過ごしにくくなるに違いない。特にいろはは常に俺と半径100m以内に居なければならなかったのだから感謝してもしきれない。

 

 

「マジで!?やりぃ!」

 

「ちょ、フェリシア!」

 

 

 「遠慮せず食べてくれ」と真に受けたフェリシアは鶴乃の制止も聞かずサーモンやらホタテやらいくらやら好きなものを次々に口へと運んでいく。案の定喉を詰まらせ、呆れた様子で背中を摩る鶴乃と温めのお茶を用意するさな。

 

 

「紫音さん もしかしてこのためにお寿司を」

 

「そうだよ。俺が今できる最大限のお返しっていったらこれくらいだからさ」

 

「野上さん 何もここまで気を使わなくても良かったのに」

 

「いいんだ。俺を受け入れてくれた皆にも感謝しているし、やちよさんだって家計があるだろ。気休め程度だろうけど、これで少しでも出費を軽減できたらって思ってさ」

 

「私のことまで考えて… ありがとう」

 

 

 それじゃ頂くわね、と言って対面に座っているやちよさんは大皿から雲丹の軍艦を運び、丁寧に醤油に漬けて口に運んだ。美味だからか、目を瞑りながら味わいながら食べている様子は流石神浜の人気モデルの風格といったところか。

 

 

「みふゆさん。昨日のシャンパンまだ余ってますけどどうです?」

 

「あら、そうだったんですね。でしたら頂きましょうか」

 

「みふゆ 昨日みたいに酔いつぶれちゃダメよ」

 

「大丈夫ですよやっちゃん。反省しましたから」

 

 

 昨日何があったのかと鶴乃が訊いてきたので俺は軽く説明をした後に立ち上がって冷蔵庫から昨日みふゆさんと飲んだシャンパンを持ってきた。左隣に座っているみふゆさんのグラスに注ぐと開けてからもうすぐ1日経っても注がれたそれは昨日と変わらずきめ細やかな泡を放っていた。俺も自分のグラスに注ぎ、みふゆさんと乾杯をしてそれを口に運ぶ。その様子をまだ飲める年齢には遠いさなとういは珍しいものを見るような表情で見つめていた。

 

 

「お酒かぁ。私も大人になったら万々歳で出しているビールでデビューかなぁ」

 

「鶴乃は酒癖悪くなるイメージしか浮かばねーな」

 

「なっ!フェリシアの方がよっぽど酒癖悪そうだけど!」

 

「なんだと――うっぷ」

 

 

 鶴乃に反論しようとしたフェリシアだったが先ほど喉に詰まらせた症状がまだ完治していないようで咄嗟にお茶を口に運んだ。右隣に座っているいろはが困り顔で笑ったのに釣られて俺も鼻で笑ってしまった。

 

 

「野上さん。さっきは私とういちゃんにハンバーグの作り方についてアドバイスしてくれてありがとうございました。明日早速試してみますね」

 

「いやいや。アレくらいは大したことでもないよ」

 

「紫音さん。また機会があったら教えて欲しいなって」

 

「勿論だ」

 

 

 今日の買い出しに行く少し前のこと。さながハンバーグを上手く焼くにはどうしたら良いかをういと話していたところで俺が中学生の頃にテレビで見たのを何故かずっと覚えていて自分で作る時にいつもやっている『ハンバーグの生地の中心に直径2センチほどの大きさの氷を埋めて焼けば良い』とアドバイスをしたのだ。その時に側で聞いていたいろはもこの話に入ってきて明日さなが作る時にどうなるか見てみる、とのことだった。

 

 

「―はっ!なんか、私だけ紫音さんに何もして貰ってなくない!?」

 

「鶴乃は万々歳に居ることが多かったしな。じゃあ近いうちに俺が万々歳で何か食べにいくってのはどうだ?」

 

「おっしゃー!じゃあ紫音さんにも魔法少女盛り適応しておくね!」

 

「俺は魔法少女じゃないんだけどな。まあ、鶴乃が良いなら頂こう」

 

 

 ”魔法少女盛り”が何なのかはわからないが、それは来店した時のお楽しみにしておくとしよう。

 

 

「フェリシア。俺が持ってきたコントローラー、欲しいなら譲るけどどうする?」

 

「マジで?アレ結構いい値段するやつだろ」

 

「最近は大学かバイトの帰りにゲーセンにふらっと行って遊ぶことの方が多くてめっきり使わなくてね。それにゲームセンターで誰かと対戦するなら同じようなコントローラーで練習するのがいいだろ」

 

「マジかよ… ありがとな紫音!」

 

 

 フェリシアはそう言って小皿に置いて確保しておいた中トロを口に運んでいった。しかし噛むのが不十分だったのか、再び苦しそうな表情を見せて咄嗟にお茶を口へと運んでいた。やれやれといった様子でやちよさんはその光景を見ながらフェリシアとは対照的に行儀よく食事を嗜んでいる。

 

 

「いろは。成り行きとはいえ君には迷惑をかけた」

 

「そんなことありません。私はむしろ、紫音さんと一緒に居られて色々学びましたし」

 

 

 いろはが言っている学びというのはきっと料理のことだろう。一昨日に豚汁を作った時も野菜の切り方を俺に聞きながら手伝っていたし、寿司だけでは物足りないということで俺が吸い物を作る時もメモを取っていた。料理が趣味だと言っていたし、みかづき荘の食事のレパートリーを広げるために違いない。

 

 

「紫音って料理スキルたけーよなぁ。ここの専属料理人にでもなればよくね?」

 

「そうなったらみんなで当番を回しているのが破綻するだろ」

 

「いや、そのほうがオレらの負担も減るというか…」

 

「フェリシア… それって、あなたが料理をしたくないだけでしょ」

 

「そ、そんなことねーぞ!」

 

 

 やちよさんに対してのフェリシアの見え見えな反論に皆が笑って場が和む。何笑ってるんだよー、とフェリシアは赤面しながら言い返すも三度喉の調子が悪くなり胸をトントンと叩いて症状を和らげようとする。

 こういう飲み会みたいなノリで食事をするのはいつぶりだろう…。そんなことを思いながら、俺も最初の寿司を大皿から運んで口にするのだった。

 

 そういえば、昨日はこの時間になると疲労感でダウンしてしまっていたが、今日も魔女との戦いがあったのにも関わらず昨日とは打って変わって急な疲れに襲われることも何か違和感を感じたりもしていない。たった1日で激しい動きに身体が順応したのだろうか?

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 全員で寿司を平らげて片付けを終えた後は昨日は疲労の影響でキャンセルしたフェリシアの格闘ゲームの相手に2時間ほど付き合い、その後は自分の風呂の時間まで自室でバイト先のマスターからの依頼をこなしていた。喫茶店の営業再開後にメニュー表をリニューアルしたいとのことでそのデザインを3日後くらいまでに作って欲しいと先ほど連絡があったのだ。俺がバイトに入る前まではマスターが一人でメニュー表を作っていたらしいのだが、一人で切り盛りするのは大変だと思い俺が担当したいと言って以来は俺の仕事の一つとなっている。マスターはだいぶ助かっているとのことで、今までメニューを作る時間を休息に充てることができて身体が楽になったと言っていた。

 

 それから夜9時を過ぎたところでねむから連絡が入った。明日のことについていろはとういも交えて話がしたいということで、風呂に入る直前だったういを呼び止めて俺のパソコンでねむとビデオ通話をすることになった。話の内容はなんとなく予想が付いていたが、準備に3日かかると言われたいろはとのソウルジェムリンクの解除が明日無事にできるとのことで、いろはとういを連れて昼過ぎに電波望遠鏡まで来て欲しいとのことだった。

 どういう施術をするのかを軽く聞いてみたところ、いろはからの魔力を供給しているという首飾りに魔法を掛けていろはから離れていても魔力供給が途絶えることは無くなるという。

まさか最初の施術のように気を失うようなことは起きないかと念のため確認すると、ねむは即答でその可能性を否定した。「僕が保証するよ」と付け足してきたくらいだし大丈夫だろう。

 明日のことを話した後、ついでに今日の魔女との戦いのことも話した。一昨日の電波望遠鏡では「防御面だけは人間のままのはず」とねむは言っていたが、実際には攻撃を食らっても負傷はしたものの痛覚が遮断されており、出血も抑えられていた。俺の身体が予想外に丈夫だったことにねむはかなり興味深い様子で話を聞いていたが、その表情は全く揺らいでいなかった。

 

 

『なるほど、それは予想外だね』

 

「どう思う?」

 

『情報だけじゃなんとも言えないよ。明日お兄さんの時間があるなら施術が終わった後に灯花の器具でまた調べてみようか。もしかしたらお兄さんの身体がより魔法少女に近づいているのかもしれないからね』

 

 

 確か45%って数値が出ていたアレのことだろう。俺の身体は魔法少女と人間が混ざり合った状態らしいが、それがさらに進行しているということか。もしかしたら身体が疲れていないのもそれが影響しているのかもしれない。

 

 

『ふぅ…』

 

 

 一通りの話を終えると、ねむは溜息を吐いて眼鏡を外し手で右目をこすり始める。画面に映ったねむの顔は通話を始めた時から疲れている気がしたが、どうやら気のせいではなかったらしい。今は自宅にいるようで、背景には厚手の本がびっしりと並んだ本棚が見える、如何にも小説家らしい部屋だ。

 

 

「ねむちゃん、大丈夫?もしかして、足以外にも痛いところがあったんじゃ…」

 

『大丈夫だよ、お姉さん、うい。お兄さんのことを調べているおかげで自動浄化システムを全世界に広げるために一歩前進したような気がするしね』

 

「寿司でも持っていこうか?今日の俺らの夕食が寿司だったんでね」

 

『おや、それはありがたいね。なら灯花の分はわさびを抜いておいてくれると助かるよ』

 

 

 灯花の性格的に辛いのが苦手なのはなんとなく想像ができた。わさびを入っていると知ったら「わさび抜きじゃないといーやっ!」とかごねるに違いない。今日頼んだ寿司もそうだったのだが、寿司は全部さび抜きにしてわさびはつけたい人が各自醤油皿にとかして食べるタイプにするつもりなので問題はない。

 

 

「じゃあね、ねむちゃん。おやすみ」

 

 

 おやすみなさい、とねむが言ったのち通話は終わった。ビデオ通話をしたいと連絡が来た時は僅かながら嫌な予感がしたが杞憂に終わって良かった。俺はノートパソコンを閉じ、安堵の溜息を吐く。

 

 

「新たな問題が起きた、とかじゃなくて良かった」

 

「あはは… そうですね」

 

「ねむちゃん、疲れていたみたいだけど本当に大丈夫かな」

 

 

 夜だからただ眠いだけという可能性もあるが、まあ本人が大丈夫と言っているのなら深追いはしないほうが無難か。

 

 

「あ、お姉ちゃん。紫音さんにあのこと話すんだよね」

 

「うん」

 

「…なんだ?」

 

 

 いろはとういは俺の横に並び、表情を固くする。何かサプライズでもするのだろうかと思い、俺は首を傾げた。

 

 

「紫音さん。来週の妹さんの命日の法要、私とういも参加していいですか?」

 

「え、どうして?」

 

「紫音さんの妹さんの話を聞いてからお姉ちゃんと考えていたんです。同じ魔法少女なら弔わなきゃって。それに紫音さん一人だけじゃ妹さんも寂しいよねって」

 

「うん。 私は紫音さんの妹さん――彩華さんとは会ったことはないですけど、灯花ちゃんとねむちゃんの力で彩華さんの願いを受け継ぐことになったのならもう無関係ではないと思うんです」

 

 

 ここまでしっかりとした理由が返ってくるとは思っていなかったために内心動揺してしまう。二人の真剣な表情を見たら断れるわけがない。まあ、どんな理由だったとしても断るつもりはなかったのだが。

 

 

「わかった。ありがとう二人とも。詳細は近いうちに連絡するよ」

 

「―っ はい! わかりました」

 

 

 いろはとういはお互い安堵の表情を浮かべて一礼する。その二人を見て俺も自然と笑みがこぼれてしまう。

 一周忌の法要は宝崎にあるお寺で行い妹の友人と妹のクラスの担任が参加してくれたが、今年の三回忌は神浜の自宅で行う予定で前回参加してくれた人たちには事前にハガキで連絡をしていた。しかし遠くに足を運ぶことになるためか誰からも参加の連絡が無く俺だけの法要になると思っていたため、俺以外の参加者がいるということだけで嬉しかった。

 

 首から下げているリングを握りしめ、妹のことを思い出す。ふと窓に目をやると、満月が雲間から顔を覗かせていることに気づいた。妹が亡くなった日の夜もこんな満月だったと苦い記憶を思い出すも、いつもの気が沈む感情には不思議とならなかった。




次はもっと早く投稿できると思います(大体どういう風にするか頭の中で出来ているので…)。

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スロ打たない人もスロでしか見られない演出があるのでお暇な方は来場をお待ちしております!
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