マギアレコード外伝 - Rough World   作:HAL@夜勤閣下

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紫音といろは

 家へと辿り着き、少女をソファーへと寝かせてバスタオルで水気を拭きとる。こういう時、本当は衣類は脱いだほうが体が冷えるのを防げるようだがまだ名前も知らぬ少女にそんなことが出来るわけがなく、電気ストーブをソファーの前に置き、それを最大出力にして対応することにした。

 

 

「…しかし目が覚めたらどう切り出そうか」

 

 

 勢いで連れてきたは良いが、攫われたと勘違いされたら困る。最近は親切心で人助けをしたらそういったことに発展することが多い世知辛い世の中であるため、そんなことで人生が狂ったら破滅だ。

 しかし魔法少女の姿であのような場所で倒れていたとなると、十中八九魔女に襲われたと思って良いだろう。

 

 

「まあいい。とりあえず、目が覚めればいいんだが…」

 

 

 徐に独り言ち、俺は自分の濡れた衣服を着替えることにした。

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

「…ん」

 

 

 少女を家に運んでから1時間ほどが経った頃。パソコンで今日のこの後の天気を調べていると、ふと傍のソファーから声が聞こえたので目をやると少女が目を覚ましていた。まだ俺の存在には気づいていないようなので、出来るだけ驚かさないように声をかけることにする。

 

 

「気が付いたかい」

 

「!」

 

 

 俺が声を掛けると、どうやら意識はしっかりしているようで少女は一瞬ぴくっと驚いた反応をしつつ俺のほうに顔を向けたので俺はそのまま続けた。

 

 

「君が公園で倒れているのをたまたま見つけたから、勝手ながら俺の家に運ばせてもらったよ」

 

「え?公園で倒れて…――あ、そうだ。私…」

 

 

 少女は何か言いたそうにしていたが、口をつぐむ。表情を見るに恐らく言えないような事情があるのだろう。

 それはきっと……俺は恐る恐る先に切り出した。

 

 

「――君は、魔法少女だね」

 

「―っ」

 

 

 目が覚めて半開きになっていた少女の目が一気に開き、白黒させる。やはり魔法少女だというのを知られるのはマズいことだったか。そして俺に言われてようやく気づいたのか、少女は自分が魔法少女の姿のままであることに気づき慌てるそぶりを見せる。

 

 

「あっ!私、…そのっ!」

 

「あー、ごめん。魔法少女のことは知っているんだ。大丈夫。口外するつもりもないから安心して欲しい」

 

 

 俺はそのまま魔女、グリーフシード、ソウルジェム…魔法少女に関係することを話し、ついでに救急車を呼ばずに俺が保護した理由も話して敵意がないことを示した。

 

 

「そうだったんですね…すいません。助けてくれてありがとうございます」

 

「わかってくれて良かったよ。――失礼。俺は野上 紫音。神浜市立大学に通う大学生だ」

 

「あ、すいません。――私は『環いろは』と言います」

 

「――っ!」

 

 

 いろは…俺はその名前を聞いて心底動揺した。何故ならその名前に縁があるから。どんな縁かは……まあ今話すことではないので置いておこう。

 

 いろはは自分の身に起きたことを俺に話してくれた。推測通り、魔女の攻撃を受けて倒れていたようだ。ただ、受けた傷による出血によって倒れたならともかく自身の魔法で治癒した後に倒れたというのがどうも引っ掛かるが…。

 

 とりあえずこの後どうするかを話そうと思っていると、いろはは自身の魔法少女の変身を解除した。光に包まれて一瞬のうちに服が変わるというまるで手品のような現象。普通の人が見れば手品の一種だと思うだろうが、これは紛れもなく魔法による力だ。砂や泥で汚れていた先ほどの衣装とは打って変わってピンク色のセーターと白いコート、茶色いチェック柄のスカートというお洒落な服装だった。

 

 

「ソウルジェムは穢れていない…よかったぁ」

 

 

 そう独り言ちると、いろははソファーから立ち上がろうとした。が、足に力が入らなくなったのか、歩き出そうとしたところでバランスを崩し、そのまま床にうつぶせに倒れ込んでしまった。

 俺は急いでいろはの元へと駆け寄る。

 

 

「大丈夫か?」

 

「はい…。でも、足に力が入らなくて…」

 

「足は痛むのかい?」

 

「いえ、全く」

 

 

 意識はしっかりしているし、足に怪我を負った様子もない。魔女の攻撃の影響で何かしらの障害が起きてしまったのだろうか?いろはは倒れたまま再び魔法少女へと変身し、両手を合わせて魔法を唱えると両足が光に包まれた。

 

 

「(治癒魔法…)」

 

 

 確証はないが、同じような魔法を見たことがあるので恐らく間違いないだろう。光が消えたのを確認していろはは再び立とうとしたが、結果は変わらなかった。

 

 

「そんな…!どうして」

 

 

 変身を解いて呟いたいろはの表情は明らかに焦っていた。それはそうだ。外傷が何も見当たらず、足に痛みがあるわけでもないのに立てないのだから。

 俺はいろはの肩を持ち上げ、ソファーへと運んだ。どうやら事態はそれなりに重いようだ。

 

 

「とりあえず、君の親に連絡したほうがいいんじゃないか」

 

「…そうですね。やちよさんに連絡しないと」

 

「やちよさん?それってもしかして…」

 

 

 俺はその言葉に反応してしまった。

 神浜市でやちよといえば、神浜でファッションモデルとして活躍している『七海やちよ』と同じ名前だ。俺と同じく神浜市立大学に通っていて姿を見たことはあるが話したことはない。ファッションモデル故に忙しいのか、講義が終わったらすぐに教室から出ていく姿をよく見かける。

 

 

「はい。七海やちよさんです。私、両親が海外に行っているので今はやちよさんの家に住んでいるんです」

 

 

 やはり七海やちよさんだったか。いろはが神浜の有名人と接点、それも一緒に住んでいるとは驚いた。しかし、そうとなればもしや七海やちよさんも…?

 

 そんなことを考えていると、いろははスマホを取り出して電話をかけ始めた。コールが鳴っている最中に「俺が魔法少女を知っているのことは遠慮せず話しても良い」と伝え、いろはは無言で頷く。しばらくしてスマホから「もしもし」と女性の声が聞こえ、はっきりとはわからないがテレビやネットで耳にしたことがある七海やちよさんの声に似ており、いろはが「やちよさん」と言ったことで電話の相手が七海やちよさんであるとわかった。

 

 いろはは自分に何が起きたのかをやちよさんに話し始めた。盗み聞きするつもりはなかったが、静かすぎる空間であるがゆえに聞こえてしまった。なんでも見滝原に行った帰りに魔女と戦っていたらしい。俺に助けられたことや、俺が魔法少女のことを知っている等、ある程度話したところで、

 

 

『―いろは。野上さんに替わってくれる?』

 

「…俺に?」

 

 

 スマホから聞こえてくるやちよさんの声につい反応して口が開いてしまった。本当は俺からやちよさんと話したいと切り出そうと思っていたのだが、どうやら向こうから出向いてくれたようで手間が省けた。何故俺と話をしたいのか真意はわからないが、保護者的な位置にいるが故に見知らぬ男に保護されたというのは心配なのだろう。

 俺はいろはからスマホを受け取り、画面を見た。そこには青い長髪の端正な顔立ちの女性。間違いなく七海やちよさん本人がいた。面と向かって話したことがないので、こうしてみるとファッションモデルやCMに出ている理由も頷ける。

 

 

「――七海やちよさん?」

 

『ええ。野上紫音さんね。いろはを助けてくれてありがとう』

 

 

 まず警戒心を向けてくるのかと思っていたが、声色と表情を見るにどうやらそういう感じではないようだやちよさんはそのまま続けた。

 

 

『いろはから聞いたわ。魔法少女を知っているって』

 

「ああ。だから、ソウルジェム、グリーフシード、魔女。そのあたりのことは知っている」

 

 

 その切り出し方だとやちよさんも魔法少女なのだろうか。そんなことを思いながら魔法少女について俺が話し終えると、やちよさんは自ら自分も魔法少女だということを明かしてくれた。

 

 しかし神浜の有名人が魔法少女というのは驚いた。そして有名人なのにも関わらずそのような情報がネットやSNSでも見かけたことがないあたり、魔法少女に関する情報は流出しないようにしっかりブロックされているということか。――今の情報漏洩だらけの世の中は見習ってほしいものである。

 

 それなりに会話をしたところで、やちよさんは眉を曇らせて俺に言った。

 

 

『――じゃあ、魔法少女の真実のことは知ってる?』

 

 

 その言葉を聞いて息を呑んだ。

 ――魔法少女の真実…それは恐らくソウルジェムが黒く染まる時、魔法少女は魔女になるということだろう。魔法少女の本来の魂はソウルジェムにあり、肉体は仮の身体でしかない。故に何もしていない状態でも肉体を維持するだけで魔力を消費するため、魔法少女は定期的にグリーフシードで魔力を補充しなければならない。魔女と戦う使命を背負う――その言葉の本当の意味は『死ぬまで魔女を倒し続けなければならない』という意味でもあるのだ。

 

 だが、そんなことをいろはがいる側で喋っても良いのだろうか?それを知らずに契約し今日まで生き、初めて聞いて絶望に打ちひしがれる魔法少女だっているに違いない。――現に俺は、そんな魔法少女をこの目で見たことがあるのだから。

 

 

『気にしなくていいわ。いろはも知っていることだから』

 

 

 やちよさんの返事を聞いてからふといろはの顔を見ると、いろはは俺の顔を見て無言で頷いた。いろはは真剣な表情だったが、この事実を初めて知った時はどう思ったのだろう?そんなことを思いつつ、俺はやちよさんの言う”魔法少女の真実”であろう内容を語った。

 

 

『……そこまで知っていたのね』

 

「知った経緯は、話すと長くなる…」

 

 

 俺の意味深な言葉にやちよさんは何かを悟ったかのように一瞬表情を変えた気がしたが、軽く深呼吸をして口を開いた。

 

 

『いえ、もういいわ。とにかく、貴方が魔法少女のことを知っているのは本当みたいね』

 

 

 俺は内心、経緯を話す覚悟までしていたが、そこまでする必要はないとわかるとホッとした。実を言うと、この話はあまり続けたくはなかった。俺にとって思い出したくない記憶が絡んでいるものだからだ。

 

 

「信じてくれて良かったよ。――ところで、いろははどうしたらいい?そちらに送ろうにもバイクしか持ってない身でね。この悪天候じゃとても…」

 

 

 やちよさんからの質問がひと段落したと判断し、俺はやちよさんに話したかった内容を問いかけた。

 いろはがやちよさんの家に住んでいると言っていたので今の保護者はやちよさんとみていいだろう。外は大雨で遠くからは雷の音も聞こえてきている。11月ということもあり日の沈みも早いため、いろはの年齢的にそろそろ帰らないといけない時間でもある。

 

 

『野上さん。貴方は家族と一緒?』

 

「…いや、俺一人だけだ。祖父母から貰った一軒家住まいだけど」

 

 

 俺がそう返すと、ソファーに座って会話を聞いていたいろはの表情が驚いたように見えた。一軒家なのだから家族と住んでいると思っていたのだろうか。実際この家は2人は勿論、4,5人住んでも余裕の広さがあり、今は俺一人しか暮らしていないので殆どの部屋は物置と化している。とはいえ、誰かが来たときのことも考えて客人用の寝室は用意してあるが、未だそこが使われたことはない。

 

 

『――なら、いろはを今日だけお願いできない?』

 

 

 やちよさんの意外な言葉に俺は面を食らい、つい声を大きくして「え?」と、返事をしてしまった。側で聞いていたいろはも俺とほぼ同時に同じ声を出していた。

 いろはと出会ってまだ1時間も経っていない俺にそんなお願いして良いのだろうか?俺はこのことをほぼそのままやちよさんに言ってみる。車でもあれば悪天候でもいろはを乗せて送ることができるだろうが、生憎バイクしか持っておらず、この天候の中をバイクを出すのは自殺行為に等しい。俺にお願いしてきたということは、やちよさんも車は持っていないということだろう。

 

 

『貴方は魔法少女という身を案じていろはを助けてくれた。それに貴方の顔を見て、敵じゃないということが私にはわかる。だから私は貴方を信じるわ』

 

 

 …思えば七海やちよともあろう有名人が初対面の俺に魔法少女であることを明かしたりするだろうか?俺は自分が知っていることを正直に伝えただけだったのだが、どうやらそれだけでやちよさんの信頼を得ることに成功したらしい。

 

 しかし、やちよさんの提案に対していろはの考えはどうなのだろうか?抵抗があるんだったら無理に泊めてもストレスが溜まるだけだろう。もしそうなら何らかの手段で意地でもやちよさんの元に送らなければならない。

 

 

「聞いてたと思うけど、いろははどうなんだ?」

 

「私は紫音さんが迷惑でなければ大丈夫です」

 

 

 少しか悩むと思っていたのだが、笑顔で即答するいろはに俺は少し驚いてしまう。

 「そんな簡単に承諾してしまっていいのか?」なんてことは言わずに、俺はまだ何かを言おうとしているスマホ越しのやちよさんの言葉に耳を傾ける。

 

 

『明日の午前中に私の家まで来て欲しいの。場所はいろはに教えてもらって』

 

「わかった」

 

 

 幸いにも明日は何も予定がないため、やちよさんからのお願いを承諾することにした。

 

 いろはを一日泊まらせるという予想外のことにはなったが、それ以外はスムーズに事が進んでくれて良かった。スムーズすぎるともいえるかもしれないが、とにかく面倒なことにならなかったのが何よりである。 俺はスマホをいろはに返し、やちよさんとの会話に耳を傾けていると、やちよさんではない声がスマホから聞こえ、その声の相手といろはは会話を始めた。

 

 

『―お姉ちゃん!大丈夫なの?』

 

「うん。大丈夫だよ、うい。ごめんね、今日は帰れなくて」

 

『ううん。お姉ちゃんが無事なら私は全然大丈夫だから』

 

「ありがとう、うい」

 

 

 …いろはには妹がいたのか。スマホ越しで笑顔で話しているいろはを眺めていると、スマホから俺を呼ぶ声が聞こえてきたのでいろはからスマホを受け取る。

 

 

『あの、紫音さんでしたよね。お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます!』

 

 

 画面の向こうには幼い感じの顔立ちをした、いろはに瓜二つの少女がいた。この子がいろはの妹、うい…か。いろはと比べるとかなり年下のように見えるが、人見知りもせずスマホ越しの俺に向かってしっかりと挨拶をしていた。

 

 

「――気にしなくていいよ。君のお姉ちゃんは俺がしっかり看病するから安心していてくれ」

 

『はい。どうか、よろしくお願いします!』

 

 

 俺は笑顔でういに頷き、スマホをいろはに返した。

 それから数分程いろははういと話し、そして通話が終わった。10分ほどの通話だったが、終わってみると何故かとても長く感じた。

 

 ういと楽しそうに会話をするいろはを見ていて、俺はある決心がついた。先ほどやちよさんと話していた時に出てきた魔法少女の真実の話。それを俺が何故知っているのかをいろはに明かそうと思ったのだ。

 

 ――だが、今はよすことにしよう。いろはが目を覚ましてまだ一時間も経っておらず、無理して話に付き合わせて体調が悪化したらまずい。そしてさらにここで1日過ごすとなった以上まずはこの後のことを話さなければならないだろう。

 既に夕方なのであとはここにいれば良いだけだが、彼女のことは可能な限り補助してやらなければならない。

 

 まさか知らない人を緊急で家に泊めることになるとは一度も考えたことがなかったが、一軒家故に寝る部屋は別にあるため人を泊める条件は上手い具合に揃っていた。

 

 俺はソファーに座っているいろはの隣に間隔を空けて座り、深呼吸をする。色々なことが短時間の間に起きたせいで妙に気疲れしてしまった。

 

 

「……やちよさんが初対面の俺にこんなお願いをしてくるとはね」

 

「あはは…。でも、変わったなぁやちよさん」

 

 

 意味深ないろはの言葉…。確かにやちよさんは誰かに頼るようなことはしなさそうな雰囲気はあるかもしれない。少し気になったが、人のプライベートに首を突っ込む趣味はない。

 

 

「しかし、やちよさんの前ではああ言っていたけど、本当に良いのかい?俺みたいな独り身の男子大学生の家に女の子が一人でいるっていうのは……」

 

 

 実際、この状況は世間的に見たらかなり特異だろう。知り合ったばかりの男の家に年端もいかない少女が滞在するなんてイレギュラーにもほどがある。そういったことに敏感な今の世の中故に、いろはだって今の状況に少なからず抵抗感を持っていてもおかしくはないのだが、先ほどのやちよさんとの話の最中ではそのような印象を持っているようには見えなかった。純粋すぎるのか、それとも…。

 

 

「……万が一、俺が血迷って君に手を出したりしたら、その時は容赦しなくていい」

 

「いえ。やちよさんと同じで私も紫音さんを信じます。それに、私は思うんです。紫音さんは悪い人じゃないって」

 

 

 一体俺のどこにそんなに信用できる要素があるのかわからないが、信用されている以上その期待に応えなければならない。とにかく、いろはの体調が悪化しないように努めなければ。

 

 

「まあいいか。――改めてよろしく頼むよ。いろは」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 俺は右手を差し出すと、いろはは笑顔でためらいなくその手を握り返してくれた。力を入れすぎると簡単に折れてしまいそうなその手の感触は、亡くなった妹にそっくりだった。




半年以上前に書いた部分だったので見返してみたらツッコミどころ満載で投稿する前に手直しRUSHでした。
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