マギアレコード外伝 - Rough World   作:HAL@夜勤閣下

7 / 14
隠された秘密

 昼食を終え、俺はみかづき荘の住人と雑談に励んでいた。

 

 俺が魔法少女のことを知ったキッカケやらなにやらを聞かれるんじゃないかともやもやしていたが、意外にも誰もその話題に触れてはこなかった。どこ出身なのか、趣味はなにか……そういったごく普通の雑談だった。

 

 俺が高校までは宝崎市にいたということを知ると、やはり「いろはちゃんと一緒だねー」とか「もしかしたらどこかで会っていたかもよ」と言った話に発展した。神浜ほどではないが宝崎も広い街故に、当然昨日まで面識はなかったわけだが。

 

 趣味についてだが、思えば語るのは初めてかもしれない。ゲーセンには子供の頃から行っているが、そこで何をしているのかというと主に格闘ゲームやガンシューティングゲームをすることが多い。そんな話の中で、俺がプレイしている格闘ゲームをフェリシアもプレイしていたことがわかった。しかも彼女は家庭用も持っているとのことで、機会があれば対戦して欲しいと言ってきた。ゲーセンの筐体でもネットワーク経由で他の店舗のプレイヤーとの対戦が一般的になりつつある今の世の中でオフラインで対戦するのは新鮮味があると思い、俺は喜んで承諾した。

 

 …こんなにも大勢の人と一緒に会話をしたのも久しぶりだ。多分高校を卒業した後の打ち上げ以来か。こうして盛り上がると中学時代に俺と妹の友人を交えてパーティーのようにわいわい遊んでいた自分を思い出す。いろは達みかづき荘の人たちは、俺のような不幸に見舞われないで欲しい…心の中でそう願った。

 

 

―がちゃ

 

 

 雑談につい夢中になり気づかなかったが、時刻は13時。玄関の方からドアが開く音が聞こえ、一同は視線を向けた。程なくしてリビングのドアが開き、一人の女性が現れる。白髪のショートカットで、頭頂部は動物の耳のように毛がはねている独特な髪型。肩を出した長袖服とショートパンツという出で立ちは、このみかづき荘のメンバーの中では一番大人らしく見えた。

 

 

「ごめんなさい、やっちゃん。遅くなりました」

 

「おかえりなさい、みふゆ」

 

 

 彼女こそ、やちよさんが教えてくれた“梓 みふゆ”という人物だった。口調と声色を聞いた限りだと、やはり大人の女性の雰囲気を感じた。やちよさんもこの中では十分大人だが、それ以上の貫禄があるんじゃないだろうか。

 

 

「―失礼。野上さんでしたね。梓 みふゆと申します。いろはさんの件、ワタシからもお礼を言わせて下さい」

 

「いえ、そんな…。野上 紫音(のがみ しおん)です。よろしくお願いします」

 

 

 鶴乃とフェリシアへの挨拶よりも畏まってしまう。なんだろう、みふゆさんからはお嬢様というか、そんな感じの雰囲気が感じられる。もしかしたらどこかの企業の社長の娘だったりするんじゃ…。

 

 そんなことを思っていると。

 

 

「みふゆー!わたくしたちを置いて先に行くなんてずるいよー」

 

 

 初めて耳にする子供っぽい声。その声を聞いて、いろは達は玄関へと視線を向けた。

 

 みふゆさんの後ろから現れたのは二人の少女。一人はマルーンのストレートヘアーで小柄な少女。もう一人は車椅子に腰かけていて、髪は小柄な子よりも薄い茶色で両サイドの三つ編みが目立っている。眼鏡をかけているのもあるかもしれないが、どこか理知的なように見える。

 

 

「灯花ちゃん!ねむちゃん!」

 

 

 ういは嬉しそうな声をあげ、二人のもとへと駆け寄っていく。その後に続いていろはも駆け寄っていった。

 

 

「二人とも、どうしてここに?」

 

「くふふー。お姉さまが倒れたって聞いたから心配でみふゆについてきちゃった」

 

「見た感じ、特に問題はなさそうだね。良かったよ」

 

 

 いろはが無事だったことに安堵したのか、車椅子の少女が笑顔を見せる。そして二人の少女は、揃って俺のほうに視線を向けた。

 

 

「お兄さんがお姉さまを助けてくれた人だね。わたくしは里見 灯花(さとみ とうか)。里見メディカルセンターの院長の娘で、ういとねむは一緒の病院で過ごした仲だよ」

 

「僕は(ひいらぎ) ねむ。いろはお姉さんのこと、僕からもお礼を言わせてもらうよ」

 

 

 里見灯花と柊ねむと名乗った二人の少女。――俺はその名前を聞いたことがあった。

 

 灯花は、実は俺の祖母が病気を患った時に入院していたのが里見メディカルセンターであり、お見舞いに行った時に待ち時間でロビーの掲示板を眺めていた際に院長とその娘が写った写真を見たことがあった。その写真の下に「娘の灯花」と書かれていたのを思い出したのだ。

 

 ねむは、ネット上の有名な小説掲載サイトにその名前を見たことがあった。常に人気ランキングの上位にランクインしているほどの人気ぶりで天才作家だという声が挙がっているほどだったが、哲学的な内容が多く俺にはとても理解が追い付かない物語ばかりだったのを覚えている。だが目の前にいる柊ねむが本当にその小説家と同一人物なのかはわからない。なので俺は思い切って単刀直入に聞いてみることにした。

 

 

「ねむ。君はもしかしてネット小説サイトに投稿していた人かい?」

 

「うん?ああそうだよ。お兄さんはもしかして読者かい?」

 

「いや、俺の妹がね」

 

 

 聞いた理由はそれだった。妹が中学生になってから読み始めていて、魔法少女になってからもスマホとにらめっこしていたのを思い出す。案の定妹は俺にも薦めてきたので読んだのが、さっきも言った通り俺には合わなかった。もし妹が生きていたら、サインやら何やらを貰いたくて大騒ぎしているだろうに…。

 

 しかし、まさか“中の人”が子供だったとは驚きだ。うろ覚えだが、かなりボキャブラリーに富んだ文が多かった記憶がある。多分ういと同じ歳くらいだろうか、まだ年端もいかない子供が全国の読者を絶賛させる物語を創造できるなんて、まさに天才少女という言葉が相応しい。

 

 

「二人も一緒とは予想外だったよ。今からチャーハン作ってきたほうがいいかな?」

 

「大丈夫だよー最強さん」

 

「うん。連絡もせずに来たこっちが悪いからね。お気遣いは無用だよ」

 

 

 灯花とねむは俺の後ろを横切り、窓際にある一人用の椅子のある場所へ移動した。

 

 ねむが手元のコントローラーで車椅子を操縦して先に移動する中、灯花の足がふと俺の後ろで止まった気配がした。恐る恐る振り向くと、先ほどまで無邪気な笑顔を見せていた灯花の表情が打って変わって真面目な目つきで、俺を見つめていた。いろはややちよさん達もこの状況を理解できず不思議そうに俺を見ていた。

 

 

「お兄さん。ちょっといーい?」

 

「うん?」

 

 

 数秒の間の後、灯花はそう言って俺の前に回り込んできた。一体何がなんだかわからず、俺は怪訝な表情を浮かべる。そして灯花は真面目な目つきを崩さず、俺の胸のあたりに右手をかざしはじめた。掌から何かが出ているといったこともなく、灯花は瞬き一つせずにそのまま10秒ほど手をかざし続けていた。

 

 灯花はかざしていた手を離すと、微笑を浮かべて口を開いた。

 

 

「お兄さんってさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一 度 死 ん じ ゃ っ た 人 だ よ ね ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っ!」

 

「え?」「えっ!?」「え゛?」「は?」「はい?」「え…!」「どういうことです?!」

 

 

 ――開いた口が塞がらなかった。

 

 俺だけじゃない。この場にいる殆どが灯花の言葉に耳を疑った様子を浮かべている。そりゃそうだ。唐突にそんな発言が出たら誰だって寝耳に水に違いない。

 

 一度死んだ……打ち明けたいろは以外は、灯花のその言葉の意味を恐らく理解できていないだろう。

 

 

「……何故そんなことを言えるんだ?」

 

 

 蜂の巣をつついたような状況になっている中、俺は灯花に否定も肯定もしない言葉で返した。何故そんなことがわかったのか。生殺しにはしたくない。

 

 

「くふふー。お兄さんの側を通った時に、身体から本当に僅かな魔力を感じたんだよねー。それで気になって調べてみたら、やっぱりお兄さんの心臓から魔力を感じたってわけ。この魔力パターンは魔法少女が願いを叶えた時に発生するものと同じ。――つまり、お兄さんは心臓が傷ついたりして一度死んじゃったけど、誰かの願いで心臓が元通りになって生き返った」

 

 

 「そうでしょ?」と付け足す灯花。何も間違っていない灯花の推理に対して口をつぐむ。沈黙は時に口より雄弁である、とはまさにこういうことか。

 

 気遣ってなのか、無言のままいろはが俺の隣に腰かけてきた。いろはの顔を見ると目が合い、そのままこくりと頷く。

 

 ……気乗りはしないが、灯花の雄弁な推理をはぐらかすわけにもいかず、俺はあの出来事を話すことにした。

 

 

「…灯花の言う通りだ。俺は3年前に魔女の口づけを受けた男に心臓を刺されて死んだんだ。そして、死んだ俺を――妹が魔法少女の願いで生き返らせてくれた」

 

「妹さんが?じゃあ、昨日電話で言っていた魔法少女っていうのは…」

 

「――これから話すことは、出来れば口外しないで欲しい。俺にとっては一生のトラウマだから」

 

 

 俺は昨日いろはに話した3年前の出来事を、みかづき荘で再び語った。その間も、いろはは側に座っていてくれた。

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

◇   ◇   ◇

 

 

 

「――これが、俺が魔法少女を知ったキッカケ。そして、その真実を知った出来事さ」

 

 

 実は家を出る前に仏壇の前で手を合した際にふとソウルジェムが気になり仏壇から持ち出していた妹のソウルジェムの欠片を皆に見せ、話は終わった。 

 

 話し終えても乾ききった唇が重い。最初こそは妹の写真を見せたら「可愛い」とか「紫音さんとはあまり似てないね」とか色々言われたり、妹との関係について質問されてそれに答えたりして盛り上がったが、血塗れのソウルジェムの欠片を見せると、やはり魔法少女達にはショックが大きかったのか皆は顔色無しとなっていた。そんな中でも灯花だけは表情を崩すことなく話を聞いていたあたり、随分と肝が据わっているようだ。多分後ろにいるねむも灯花と同じだろう。

 

 

「…なるほど。お兄さんの事情は把握したよ」

 

 

 重い空気をなんとかしてくれたのは、俺の後ろで話を聞いていたねむだった。ねむは俺の側まで移動してきたが、やはりその表情は灯花同様、俺が話を始める前と変わっていない。……この二人、今いるメンツの中ではういと同じくらいの歳だろうに、何故ここまで冷静でいられるのだろうか?

 

 

「でも妙だね。お兄さんの例だと、願いで亡くなった人を生き返らせた場合は、亡くなった本人含めて周囲の人間はその出来事を忘れてしまうはず。だけど、お兄さんは自分が刺されたことを覚えていた…」

 

「どういうことだ?」

 

「例えば、誰もが知っている有名人が亡くなったとするよね。当然その訃報がテレビとかネットですぐに広まっちゃう。そんな中で誰かがその人を願いで生き返らせたら『死んだはずのあの人が生き返った』って世間は大騒ぎになるでしょ。だから、願いが果たされた時点で世界では亡くなったこと自体がなかったことになるってワケ」

 

 

 ねむに言われるまで、思えば気にしたことがなかったが、確かにそうだ。灯花の言う通り、そうじゃなければ今頃魔法少女の存在は世間一般に知られているはず。しかし昨今のネットを見てもそのような様子は見られない。生き返った本人も、その記憶自体が消えているわけだから、他の人間に言いふらしたりすることもない。魔法少女の存在は、こうやって上手く世間から隠されているのか?

 

 

「だけど、何故俺は死んだことを覚えていたんだ?いや、死んでなかったとしても本来なら俺は刺されたことを忘れているはずなんだろう?」

 

 

 疑問が残る。俺が刺されたあの日、日が沈んでいたとはいえ住宅街での出来事だったから俺の声や妹の悲鳴を聞いた人がいたはず。その人たちは恐らく願いの影響で“なかったこと”にされ、記憶に残っていないだろう。だが俺は、あの時のことは今でもしっかり覚えている。全身に走る痛み、口から溢れる大量の血液。忘れられるわけがない。

 

 

「…これは僕の仮説だけど、お兄さんは魔力に耐性を持っているんじゃないかな。それも、かなり強い耐性をね」

 

「耐性…ですか?」

 

「魔法少女じゃないのに魔力に耐性があるってどういうことかしら」

 

 

 久しぶりにさなとやちよさんが口を開く。魔力の耐性という言葉は初耳だが、まあなんとなく想像は出来る。ウイルスに対する抗体みたいなものかと聞いてみると、ねむは「そんな感じだね」と返してきた。

 

 だが問題は、その抗体が何故俺の中に存在しているのかということだ。妹の願いで生き返るまで魔法少女の存在は知らなかったし、過去に無意識に魔法少女と関わった記憶もない。

 

 

「お兄さんのお母さまが魔法少女だったってことはないかなー?」

 

「母さんが…?」

 

「僕と灯花の研究でわかったんだけど、魔法少女になった人間が子を産んだら、その子にも魔力が多少なりとも受け継がれるみたいなんだ。それがお兄さんがさっき言っていた抗体のような働きとなって、願いによる忘却の影響を受けなかった――そんな感じじゃないかな。勿論、自分が対象になった願いにだけ働く感じだろうけどね」

 

 

 冷静な口調で話すねむの言葉に、先ほど口を開いたやちよさんも「そういうことね」と小声で呟くのが聞こえた。

 

 …思えば、俺は祖母に両親がどんな感じの人だったかなんて聞いたことは一度もなかった。祖母も悲しくなるからか、その手の話は自分からしてくれなかった。でもまさか母さんが――いや、わからない。さっきも言ったが、物心がついたばかりの頃に死んでしまったから素性を全然知らないのだ。もし灯花の推測通り、母さんが魔法少女だったとしたら一体何を願って魔法少女になったのだろうか。

 

 

「でーも、本題はここからなんだよねー」

 

 

 俯いて考えに耽っていた俺は、灯花の一声を聞いて顔を上げた。本題…その言葉を聞いて思った。何故灯花は、皆がいる前で俺が一度死んだ人間だというのをバラしたのか。そんなことをするメリットが思い当たらない。

 

 

「お兄さん。解決策がある前提で話すから、落ち着いて聞いてねー」

 

 

 灯花はふぅっとわざとらしく深呼吸をし、そして答えた。

 

 

 

 

 

「本題は、お兄さんの心臓に残っている魔力が残り2日くらいしか持たないってことなんだよねー」

 

 

 

 

 

 

「――なんだって?!」

 

 

 心臓のことを見透かされた時以上の驚きに、思わずソファーから立ち上がってしまった。俺だけじゃない。他の皆も声を上げて驚いている。

 

 残り2日の命…所謂余命宣告というものをこの年でされることになるとは思わなかった。普通ならそれが自分のことではなく身内のことだったとしても絶望してしまうだろうが、灯花が前置きに「解決策がある」と言ってくれたおかげでそこまで焦ることはなかった。

 

 

「そんな…紫音さん……」

 

 

 顔を曇らせながらいろはが俺の手をぎゅっと握ってくる。先ほどの心臓の一件から妙にいろはが献身的な気がしたが、今はそんなことを聞いている場合じゃない。

 

 

「お兄さん。最近何か心臓に違和感を感じたりしたことはなかったかにゃー?」

 

「先月あたりから、バイトとかゲーセンの帰りに胸に痛みが走ることがあった。まさかそれが?」

 

「多分ねー。魔力が切れかけていて、心臓に異常が起きているってサインってとこかなー」

 

「どういうことだ。俺は妹の契約で生き返ったんじゃないのか?」

 

 

 疲れた後に唐突に来ることがある心臓の痛みの原因が解決したのは良いが、俺の身体は妹の契約通りなら死ぬ前に戻っているはずなのだ。なのに心臓の魔力が尽きかけているというのはどういうことなのか、腑に落ちなかった。

 

 

「確かにそうだよ。魔法少女の契約というのは、願い叶えることと引き換えに魂を代償として成立するものだからね。だけど、生物を生き返らせるというのは、その代償が大きいことでもあるんだよ。要は魂だけじゃ代償が足りないってことだね」

 

「わたくしが聞いた話だけどね。とある街に姉弟がいました。ある日、弟が原型をとどめないほどの交通事故に遭って死んじゃったの。だけどそこにキュゥべえが現れてお姉さんは弟を生き返らせることを願って魔法少女になった」

 

「でも、人を生き返らせる願いは相当素質が高くないと代償が大きすぎた。弟の肉体と魂を維持するために常にソウルジェムから大量の魔力が失われていった。わかりやすく言えば、常に魔法を使っている状態だね」

 

「結果、お姉さんは魔力の補充が追い付かなくなって魔女になってしまった。生き返った弟も魔力が供給されなくなって死んでしまった」

 

「つまり、妹も自分の魔力を使って俺を?」

 

「そういうこと。だけど、お兄さんは特異な例みたいだにゃあ」

 

「そうですよね。灯花の話だと、本来なら妹さんが亡くなったら紫音さんも…」

 

 

 俺が突っ込もうと思ったことと全く同じことをみふゆさんが言ってくれた。

 

 灯花が話してくれた例なら、妹が死んで間もなく俺も死んでいるはずなのだ。だが妹が死んで3年間も俺は生き続けられていたのは一体…。

 

 

「うん。心臓を刺されて死んだのなら魔力で補われているのは心臓部分だけ。それだけなら魔力の供給が切れても数か月程度なら持つだろうけど、お兄さんは3年も生き続けている。お兄さんの妹さんが魔法少女としての素質が極めて高かったのならその魔力は死ぬまで持つだろうけど…こればかりは調べてみないと僕にもわからないね」

 

 

 初耳だった。隣で目を丸くしているいろはを見るからに、きっと彼女も初耳だったのだろう。

 

 ねむ曰く、キュゥべえが見える人はとりあえず魔法少女になれる素質がある人間であり、どんな少女でも魔法少女になれるわけではないという。そりゃそうだろう。じゃなきゃ世の中は今頃魔法少女にまみれている。その中でも特に魔法少女としての素質が高い少女がいるようで、その人物が他者の蘇生を願って契約した場合はデメリット無しでそれを叶えることが出来るらしい。言ってしまえば世界の秩序そのものを変えることすら造作もないという。勿論、そんな少女が簡単に存在するわけがなく、キュゥべえも今のところ数人しか出会ったことがないとのことだ。

 

 

「――灯花。最初に言っていた解決策っていうのは?それをすれば俺は死なずに済むのか?」

 

「くふふー。よくぞ聞いてくれました。じゃあ今からその説明をするねー」

 

 

 待ってました、と言わんばかりに灯花は人差し指を立てながら、皆の視界に入る位置に移動しておさらいも兼ねて説明を始めた。

 

 まず今の俺の状況だが、妹の願いによって構成された魔力で心臓が機能しており、それがあと2日ほどで切れてしまうため魔力を補う必要がある。いろはの治癒魔法の効果では供給できないのかと思ったのだが、灯花曰く心臓が怪我をしているわけではないから治癒魔法では効果がないらしい。なので、別の方法で俺の心臓に魔力を供給してやる必要があるのだという。

 

 

「そんなことが出来るのか?」

 

「僕と灯花が作った願いの源を他の魔法少女に移動する通称『魔力スワップシステム』を使えば、理論上はできるはずだよ」

 

 

 二人が作った、という言葉に俺はますます灯花とねむに対して疑問が浮かぶ。まるで魔法少女のことを全て網羅しているかのような様子。そうでなきゃ「作った」なんてことはできないし、ましてやまだ年端もいかない少女だ。

 

 二人は一体何者なのか、そんな疑問が心の中で湧いてきたがここで話を逸らすのも悪いと思い、内に留めておくことにした。

 

 そして、ねむの“理論上”という言葉から察するに、恐らくこのシステムはまだ実際に使ったことが無いのなのだろう。……正直なところ、かなり不安がある。だってそうだろう。わかりやすくいえば、新開発のワクチンの臨床実験を行うようなものだ。だけどそれをしなければ俺は死んでいく身。それなら希望があるスワップシステムとやらに賭けるしかない。

 

 …だが、一つ気がかりなのは、

 

 

「……他の魔法少女に移動ってことは、誰かが俺に常時魔力を供給するってことだよな?」

 

 

 ねむが言っていた「願いの源を他の魔法少女に移動」ということは、恐らく誰かが俺のために魔力を供給し続けなければならないということだ。もしそれで魔力を供給する魔法少女が、さっき灯花が言っていた弟を生き返らせた姉の話のように頻繁にグリーフシードが必要な身になったとしたら素直にお願いしますなんて言えるわけがない。誰も今日会ったばかりの男相手に命を捧げるなんて普通はしないだろう。

 

 

「鋭いねー。そのとーり!ただし、誰でも良いわけではなくてお姉さまじゃないとダメなんだよねー」

 

「えっ、私?」

 

 

 いろはと視線が合う。お互い真顔のまま数秒ほど見つめ合い、すぐに視線を灯花へと移した。灯花は「くふふー」といつもの笑い声をあげると、俺といろはの手を掴んでくる。

 

 

「魔力スワップシステムに適応するには、魔力を供給する魔法少女の願いが供給される側の人間に影響しているものと同じでなければならないんだよねー」

 

「どういうことだよソレ。紫音の妹は“紫音を生き返らせる”ことを願って契約したんだよな?それじゃあいろはの願いと違くね?だっていろはは―」

 

「フェリシア!」

 

 

 険のある表情でやちよさんがフェリシアの言葉を阻む。その声に圧倒されてフェリシアは黙り込んでしまった。恐らくいろはの願いを俺に知られるのを防ぐための咄嗟の判断だったのだろう。しかし既にいろはの願いを俺は知っている。いろは自身が話してくれたからだ。

 

 いろははやちよさんに俺に既に願いの内容を話していることを打ち明けると、先ほどまでとは打って変わって申し訳なさそうな表情になりフェリシアに謝罪する。フェリシアも「別にいいよ」と返し、この件は丸く収まった。

 

 落ち着いたところで、俺はフェリシアが言いかけた話に戻す。

 

 

「――えーと、いろはの願いと俺の妹の願いは別じゃないかって話だったな。ねむ、灯花。そこんところはどうなんだ?」 

 

「お姉さんはういの病気を治すことを願って魔法少女になった。そしてお兄さんの妹さんはお兄さんを生き返らせることを願って魔法少女になった。聞こえは違うけど本質的には“生き返らせる”のと“治す”のは同じ意味なんだ。だから問題はないはずだよ」

 

 

 つまり“死”という病を治した、と考えれば妹が俺を生き返らせたのは“治した”ことになる、という意味なのだろう。…そういった捉え方をする物語を、漫画やアニメで見たことがある。

 

 そもそも世間一般的には死んだ者がどうなるのかというのは未だに解明されていない。――いや、一生解明されることはないのかもしれない。魂が天へと行く、というのが通説だが本当にそうなのかは死ななければわからないのだから。

 

 

「それからもうひとーつ!」

 

「―!?」

 

 

 そう言って灯花は素早く手を伸ばし、俺の胸ポケットに入っている妹のソウルジェム入りの箱をひょいっと取り出した。まさかそんなことをするとは思っておらず、気づいた頃には箱は灯花の掌の上にあった。妹の形見を盗んできた行動に一瞬嫌気が差したが、何か考えがあるのだろうと思い口を出さずにその後の行動を見守ることにした。

 

 

「お兄さんが見せてくれた妹さんのソウルジェムの欠片。これを使えば、お姉さまの魔力消費を抑えることができるんだよねー」

 

「なんだって?」

 

「ソウルジェムの欠片に遺された微量な魔力と願いの源。それを経由して魔力をスワップすれば、お姉さんの魔力消費を抑えられるんだよ。あくまでも僕の理論上だけどね」

 

「はぁ…」

 

 

 ……色々なことが起こりすぎて、頭が追い付かなくなってきているのが分かる。昨日の出来事でも十分驚いたというのに、今日はそれ以上のことが待ち受けているとは全く予想していなかった。俺の中ではいろはを送り届けて少し雑談して終わり……のはずだったのだが。

 

 ここまで色々な話を聞いたが、つまるところいろはの魔力と妹の遺品で俺は助かるということだが、肝心のいろははどうなのだろうか。魔力消費を抑えられるとはいえ、絶対にそうだという確証はないわけで不安は拭えないはず。

 

 俺はいろはにどうするかを聞こうと思ったのだが、

 

 

「紫音さん、やりましょう」

 

 

 いろはのその一声に、部屋にいるほぼ全員が一驚する。やはりというか、灯花とねむだけは表情を変えずに皆の反応を見ている。灯花に関しては「やっぱり」と言った表情で微かな笑みを浮かべているように見えた。

 

 

「いろは。大丈夫なのか?」

 

「はい。勿論少し不安はありますけど、灯花ちゃんとねむちゃんが言っているのなら大丈夫です」

 

 

 一点の迷いも見えない、毅然とした表情のいろは。多分二人との付き合いが長いからこそ言えるのだろう。俺はかなり不安だが。

 

 やちよさんと鶴乃は灯花とねむの開発したシステムの安全性を疑っているようで、灯花に本当に大丈夫なのかと聞いているが灯花は笑顔を絶やさず「大丈夫」と返している。みふゆさんも不安そうな表情でねむと何やら話しているが、ねむはその落ち着いた表情を変えることなく応対している。

 

 だが、どうにしろそれに頼るしか俺が助かる道はない。俺はいろはの顔を見て一度頷き、灯花に「頼むよ」と一言かける。

 

 

「くふふー。合意とみてよろしいかにゃー?」

 

 

 何故か嬉しそうな反応を示した灯花は俺の隣に座ると、肩から下げているバッグからノートPCと見たことのない機器を取り出し妹のソウルジェムの欠片をその機器の上に置いて何やら分析を始める。PCの画面には、見たことのない文字と波長グラフのようなものが映し出されており、何をやっているのか伺い知ることすら出来なかった。

 

 

「ちょっと準備をするから、しばらく待っててねー」

 

 

 どのくらいかかるかと聞くと大体30分くらいとのことだったので、俺はソファーから立ち上がり玄関へと続くドアへと向かった。

 

 

「紫音さん?」

 

「…ちょっと心の整理をさせてくれ。色々なことがありすぎて、少し考え事をしたい」

 

 

 




書き溜め分が尽きたので次回は少し遅くなります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。