数分後、家庭科室では真剣な顔で料理をするユウの姿があった。フライパンの上にひかれた油の上では綺麗な焦げ目がついたハンバーグが踊り、電子レンジやオーブンを使いながら流れるような動きで調理を続けるユウの姿にキハダは口をポカーンと開けていた。
「ス、スゴいな……サワロ先生から調理実習中の話は聞いていたが、学生とは思えないくらいに手際もよくまるで舞踏を観ているみたいだ」
「ありがとうございます。さて、さっき怒った内容ですが、まず料理をする時ってあんな風にバタつく必要はないんです。包丁や火を扱ってる時は却って危ないですし、ほこりなどを立てて料理の味や見た目を損なう原因にもなるので」
「うむ、そうだな。そうなってしまっては体調不良の原因にもなりえるというのもあるな」
「それと、たんぱく質を求める姿勢やボリュームを大きくするというのは料理を作る上で決して間違いではないです。けれど、あんなにお肉ばかりだと栄養も偏る上に見た目もちょっと良くない。それは他のみんなの反応を見てもわかりますよね?」
「ああ……」
「それじゃあたんぱく質も求めながらも栄養やボリュームを考えるならどうするか。それならお肉だけじゃなく魚のフライを使ったり野菜や卵を使った物を挟んだりすれば良いんですよ。要はバランスです」
「バランス……」
キハダが呟く中、ユウは手早く料理を続けた。そしてそれから更に数分後、テーブルの上には美味しそうな香りを漂わせるボリューミーなサンドイッチが二つ載せられた。
「マスターボリュームサンド、完成です。味つけには最近手に入れた秘伝スパイスを使ってみました」
「ああ、ミミズズのミミから貰ったすぱスパイスか。けど、いつこのサンドイッチを考えてたんだ?」
「サンドイッチ屋さんにいた人に教えてもらったんだ。どう使おうか考えていた時にその人がすぱスパイスを見て話しかけてきたから、話してる内に仲良くなってこういうのはどうだろうって教えてもらったんだよ」
「うわ、めっちゃコミュ強じゃん。ユウ、実は思ったより人見知りしない方?」
「ネモ達と一緒にいる間に鍛えられたのかもね。さあどうぞ、召し上がれ」
そう言った後、ユウはサンドイッチを切り分け、ネモ達はいただきますと口にしてからマスターボリュームサンドを口にした。
「……美味しい! たしかにボリュームはあるけど、すぱスパイスの酸味で爽やかになるし、しっかりと調理されてるから香ばしさも温かさもちゃんとあって本当に美味しい!」
「流石だな、ユウ!」
「本当に旨い……けど、どうやったらここまでになれるんだ?」
「僕だってまだまだ上達は出来ますよ。ただ、さっきも言ったようにバランスは結構大事で、それを怠るとやっぱり味も栄養も偏る事になります。ポケモンバトルや育成だって配分のバランスは大事ですよね?」
それを聞いたキハダはハッとした。
「そうか……バトルと同じで料理にはそれなりのバランスが必要なのか」
「そうですよ。攻め攻めなポケモンだけじゃそれをいなすポケモンを持っている相手には弱くなってしまうし、タイプが偏っていてもそう上手くはいかない。それでも上手く出来る人はいたとしてもそれはその中でも考えながらバランスを取っているから。ジムリーダーや四天王の人達が良い例ですね」
「ふふ、今のユウさんは本当の先生のようだな。ところで、キハダ先生はどうして料理を上手くなんて?」
「それは──」
その時、家庭科室のドアが開いた。そしてユウ達が視線を向けると、そこにはジムリーダーのリップと白衣を着た紫色の長い髪の女性が立っていた。