公民館前から歩く事数十分、ユウは吹いてくる風を感じ、気持ち良さそうな顔をした。
「ん……良い風だなぁ。昨日も思ったけど、景色も綺麗で食べ物や空気も美味しいし、キタカミの里って本当に良いところだなぁ」
「にへへ……そう言われるとスッゴく嬉しいべ。でも、ねーちゃんはパルデアさ行きてぇって言いそうだ。パルデアだって良いとこなんだべ?」
「うん。まだ全部は廻れてないけど、色々な人がいて色々なところがあって楽しいし、ネモ達にだって会えた。だから、パルデアはもう第二の故郷みたいなところかな」
「そっか……そういうのなんか良いな。旅にはちょっと憧れはあっけど、実際にやるだけの勇気は出ない。だから、旅をしてるユウ達は本当スゴいって思う。旅もして色々なトレーナーとバトルして……そうしていけばやっぱり強くなれんのかな?」
「色々な経験は出来るし、ポケモン達との出会いもあるしね。でも、僕は強くはなれなかった。少しずつポケモンバトルは勝てるようになったし、仲間だって増えていった。けど、決して強くはなかったんだよ」
「ユウ……」
スグリが心配そうな顔をする中、ユウは哀しそうに微笑む。
「ごめんね、空気を暗くしちゃって。でも、これだけは言っておきたいんだ。強さを求める事自体は悪い事じゃない。けど、求める強さを、そして力の求め方を間違えちゃいけないんだ」
「求める強さ……ユウはそれを間違えたって事だよな?」
「そう。強ければ色々な事が出来る。誰かを守る事も出来るし、誰かと競い合って高め合っていく事も出来る。当然、それを振りかざして好き勝手する事も。僕は危うくそうなりかけたんだ。元々はネモやハルト君のライバルとして恥ずかしくない強さを求めてたのに……!」
ユウは悔しそうに歯をギリッと鳴らす。
「あの時はオモダカさんがいて、僕に勝つ事で止めてはくれたけど、あのまま勝ってしまっていたらきっと僕は色々な物を失っていたよ。友達や僕を認めてくれた人達との絆もポケモン達からの信頼も。あんな僕を見てもネモやハルト君は僕を見捨てないでくれたし、手持ちポケモン達は変わらず僕を慕ってくれている。それは本当にありがたい事だと思っているし、失わなくて本当に良かったと思ってる。もっとも、ここまで僕をサポートしてくれていたシュリは失望させちゃったけどね」
「ユウは仲直りしたいんだよな? そのシュリと……」
「うん。バトルをしない事はガッカリされるだろうけど、それでもシュリとは仲直りしたい。いや、しないといけないんだ。それがシュリを失望させてしまった僕のやるべき事でやりたい事だから」
「そう、だよな……なら、おれはユウを応援するし、相談にも乗る。だから……け、けっぱれ!」
「けっぱれ……もしかして頑張れって事?」
不思議そうなユウに対してスグリはふにゃっとした笑みを浮かべる。
「うん。そっちじゃ聞かない方言だろうけど、意味が伝わってくれて嬉しいべ」
「僕も嬉しいよ。スグリ君、ありがとう。改めてこれからよろしくね」
「にへへ……うん、こちらこそ。さて、一つ目の看板はそろそろ……あ、あれだ! あれが一つ目の看板って……あれ?」
「誰かいる……って、あそこにいるのは……!」
シンとオオタチを連れてユウとスグリが看板に近づくと、そこには小さく丸っこい身体をしたモノがおり、額に宝石を嵌め込んだ碧のお面を被ったその姿にスグリが驚く中でユウはゆっくりと近づいた。
「君は昨日の夜に来てくれた子……だよね?」
「ぽに」
黒い角を持ち、緑色の身体をしたモノは静かに頷いた。