「あ、サワロ先生。 こんにちは」
「うむ、こんにちは。ユウさん、今お時間よかっただろうか」
「はい、大丈夫ですけど… 家庭科の授業の件ですか?」
「いや、ちょっと私用なのだが……ユウさん、小耳に挟んだ程度の情報ですまないが、ひでんスパイスを持っているというのは本当だろうか?」
「ひでんスパイス……ああ、ありますよ。ちょっと待っててくださいね」
そう言うとユウは部屋に備えつけの棚に近づいて戸を開けて中からひでんスパイスを取り出した。そしてサワロの元へ戻るとサワロは驚きで目を丸くする。
「そ、それが……!」
「はい。ヌシだったオトシドリから持っていっても良いと許可をもらったので……でもどうしてひでんスパイスを……?」
「そ、それは……」
サワロは言い淀んだが、やがて諦めたような表情を浮かべた。
「……それはあまスパイスというのだが、それは知っているかね?」
「あ、はい。ペパー先輩からも聞いたので」
「それでなのだが……キミ達は私にどのようなイメージを抱いているだろうか?」
「イメージ……とても良い先生というイメージですよ? あまり料理や裁縫が得意じゃない生徒にも親身になってくれますし、質問にも丁寧に答えてくれますし」
ユウの言葉に同意するようにネモ達が頷いていると、サワロは嬉しそうに微笑んだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。だが、成績に手心は加えないつもりだ。もっとも、ユウさんに関しては授業態度も含めてとても優秀だからそもそもその必要もないのだが」
「あはは、好きが高じてこうなっただけですけどね。でも、どうして突然イメージがどうかと聞いてきたんですか?」
「うむ……その前にまず私が他の生徒から抱かれているイメージについて話すのだが、どうやら辛い物などを平気で食べたり男らしさがあったりするイメージのようなのだ」
「パッと見はたしかにそうだと思います。今はとても優しい先生だとわかっていますが、初めは厳しそうな先生なのかなと思いましたし」
「そうか……だが、私自身はそのイメージとはかけ離れた存在なのだ。特に好みは違っていて、本当は甘い物や可愛い物が大好きなのだよ……」
「アマイモノヤカワイイモノ……タシカニイメージカラカケハナレテイルシ」
「たしかに……あ、もしかしてあまスパイスの件って……!」
ユウが納得した様子で言うと、サクロは静かに頷いた。
「そうだ。生徒であるユウさん達に頼むのは本当に申し訳ないのだが、よければ少し分けて頂けないだろうか? ひでんと呼ばれる程の甘さとなれば
やはり興味が湧いてしまうのだ……」
「サワロ先生……」
頭を下げるサワロを前にユウはその姿を見つめていたがやがて優しい笑みを浮かべた。
「良いですよ。サワロ先生なら」
「ほ、本当か!?」
「はい。本当はあまり誰かにあげるというのはよくないですけど、サワロ先生なら悪いようには使わないと思うので」
「そうか……信じてくれてありがとう、ユウさん」
「いえいえ。その代わりと言ったらなんですが、今からちょっと何かを作るところだったので一緒に食べてもらえませんか?」
「それは構わないが……本当に良いのか? あまスパイスまでもらった上に料理までごちそうになって……」
サワロが申し訳なさそうに言う中、ユウは微笑みながら頷いた。
「はい。家庭科の先生であるサワロ先生の意見や感想も欲しいので」
「なるほどな。わかった、それならばしっかりと味わせてもらおう」
サワロが頷きながら言うと、シュリはやれやれといった様子でため息をついた。
「ユウハヤッパリヒトガヨスギルシ」
「でも、ユウのそういうところは嫌いじゃないでしょ?」
「ヒテイシナイシ」
シュリが答えた後、ユウは少しだけ照れ臭そうに笑ってから作業に取りかかり始めた。そして十数分後、部屋の中は美味そうな香りと楽しそうに話す声で満ちていた。