カハクの過去、お姉ちゃんの過去、二人からすれば隠すようなもんでもない
女神フレイヤはいつものように暇を持て余して外を眺めていた。
変化もなく退屈な神界から地上に降りてきて人の子の魂を見ては、これはと思った
いつものように婿探しが出来ずに暇をつぶすためにバベルの最上階からオラリオを眺めていれば、誰も踏み荒らしていない新雪を広げるような真っ白な、透き通るほどに純粋で何色にも染まっていない
興味を持ったがその隣に在った魂は黒曜石の様に黒と錯覚するような深い深い
「あの子の横に居る女……せっかくの純粋な魂の色が変わってしまうかもしれないわ。消してきてちょうだい」
その言葉にオッタルは跪いたまま微動だにしない。
「申し訳ありません。不可能です」
「えぇ、いってらっしゃ───え?」
いつものように快諾の返事が来るものだとばかり思っていたフレイヤは正反対の拒否の言葉が返ってくるとは思わず、オッタルを二度見する。
全身に玉のような汗を浮かべ、血管が浮き上がり筋肉が隆起しているにもかかわらず微動だにしていないという事実。
「不可能です。動けません」
「ちょっと!?」
現オラリオにて最高レベルの7であるオッタルが動きを封じられる程のものがいるとは信じられる筈もなく、フレイヤですら驚愕の言葉が思わず口を出る。
レベル7なだけではなく試練さえ在ればオッタルはすぐにレベル8に上る、それだけの修練も積んできたし、それだけの修練を積んだという自負もある。
それだけの猛者が何も出来ずに拘束されている。
急ぎアレン達を呼びどうにかしようとするが凡そ二時間もの間その場から動かすことも、攻撃し傷を負わせることもできず、攻撃したことをフレイヤにやんわり咎めながら、オッタルに仕掛けられた拘束をどうすることもできず、効果が自然消滅するまで手をこまねくことしかできなかった。
そしてそれから数日後再びあの時に見た
それが気に入らなかった。
美の女神である自分以外の何者かが純白の魂に変化を与えたことが許せなかった。
そのことに憤り、一体何者が?と思いよりよく見ようとしたとき、双眸に傷みが走り視界が暗闇に閉ざされる。
「いっったいぃぃっっっ?!目があぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
目を押さえベッドの上をゴロゴロとのたうち回るフレイヤだが、原因はアクラの投げた糸の行先はどこだっただろうか? 答えはここにある。
フレイヤの瞼をまつり縫いで表から見えない様に強固に縫い付け、視界そのものを物理的に奪ったのだ。
ヘスティア・ファミリアではバーンを除けば基本的にお人好しと言える善性側の人達ばかり、団長であるサトルが例外的に自身を基にした中立寄りではあるが天秤はやはり善に傾く。
神の悪辣さを知るも、常日頃から警戒の糸を切らせるなとは言えず、二人が率先して動くこととなる。
その結果、もだえ苦しむフレイヤとそれを何とかしようとポーションを持ってこさせたり、回復魔法をかけさせるオッタルがバベルの最上階の部屋での光景だった。
アラクからすれば『バベルの最上階にはフレイヤが居る』と聞き、思い浮かべるのはブリーシン・ガメンと呼ばれる神器に纏わる話であった。
それに関してアラクは、「姉としてそんな貞操観念緩い
ベルが選ぶのであってアラクには関係がないと思うかもしれないが、義妹という形で家族になるのだからアラクとしてはベルにはまともな子を選んでほしいと願うのは当然だろう。
ガネーシャの思考を放棄させた一行は門番のハシャーナに挨拶もほどほどに今度こそはギルドへと向かう。
換金している僕達の横で、団長はギルド長と話し合っている。
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま、と」
はなしあっている?
訳の分からない略語のようなもので一言ずつ交わしたと思えばギルド長が頭を抱え叫びだす。
「あーーーっもう!A級職員以上集合!明日から残業覚悟しておくように!」
「なんで!?」
「み、三日後には娘の誕生日があるんです!定時に!定時に帰らせてください!」
ギルド長へと詰め寄り叫ぶもの、残業を何とか逃れようと懇願するもの、それらを血走った瞳の笑顔の一睨みで黙らせる。
「とりあえず、今日家に帰りたいならギルドのマ石の貯蓄の確認、各ファミリアとの会談、ダンジョン調査の選抜、商会との調整、オラリオの整理に闇派閥のこれからの動きも見なきゃならない。喚く暇があったら……は た ら け」
「「「サー・イエッサー!!」
蜘蛛の子を散らす様にそれぞれの担当する部署に全速力で駆けだす職員の人達。
「いや、私の上司の上司も走り出してるんだけど……何が起きるのよ」
エイナさんもその騒動に驚いたのかいつものきりっとした顔をぽかんとさせて僕の近くにやってくる。
「えっと……僕にも何が何やら……」
「ベル、好奇心猫をも殺す、だよ。変に首突っ込まない方がいいと思う」
「で、でも気になるよ?」
ぺしぺし額を叩いてくるカハクの注意に、でもそれでもと食い下がろうとするけど。
「男なら団長信じて話してくれるまで待ってればいいのよ。必要な話ならしてくれる人なんでしょう?それを信じてればいいのよ」
「
「精神的疲労には効果ないんですけどぉ?場合によっちゃ工場も一部止にゃならんとか頭が痛い問題ばっかなんだよ。維持費キープするの大変なのギルマスも経験してるでしょうに」
「あーあー、聞こえなーい」
渋い顔をしながら話しながら近づいてくる二人、団長は耳を塞いでギルド長からの愚痴を聞こえないようにしてるけど、ファミリアの運営ってやっぱり大変なんだろうか。
維持費がどうとか聞こえたけど。
「今日は明日からのために食うぞ!ギルマスの奢りで!」
「ほどほどにしてくださいよ」
奢りだと叫ぶギルド長にはてなと首をかしげる、ギルマスってギルドマスター、ギルドの長の事じゃなかろうか?
団長はどんな過去を持っていて、どんな事を目指しているんだろう。
次期団長は僕だ、なんて言って色々と勉強させられてるけど、その頃に僕は団長のような立派な人になれるだろうか。
「仕事はけた奴から、この人が『豊穣の女主人』で奢ってくれるからな。気合い入れろよ!」
「そこ迄言ってないでしょ!?……はぁ……全くしょうがないですね。俺が!『豊穣の女主人』での支払いをすべて持つ!だから、よろしく頼んだ!」
「ふぁっ!?」
僕達のヘスティア・ファミリアって発足して一年くらいしか経ってないんじゃなかったっけ?そんなにもお金払って大丈夫なの?
驚きから変な声が出る、周りからは大喝采の「お大尽!」のコールにかき消される。
僕の稼ぎはバフォメット?とかいうモンスターに襲われたせいで普段よりも少なくて5000ヴァリスを切るくらいだった。
「???」
普段と同じ位なんだけど、なんで?と手の中にあるヴァリスを見て再び首をかしげる。
ギルド長は一度仕事に戻るそうで、夜にニシキさんと合流するらしく僕の装備を買うためにバベルに出店しているヘファイトス・ファミリアのお店に行く。
自動的に上や下の階に行くボックス、エレベーターというものに乗ってヘファイトス・ファミリアの借りだしているお店の上の階へと着けば、そこかしこに箱や樽に装備が入っているのが見えてくる。
「あ、あの僕そんなにもお金持ってないですよ?」
「ん?あぁ。そこの樽から適当に一本抜いて値札を見てみるといいよ」
よくヘファイトス・ファミリアのショーウィンドウに並べられているナイフを羨望のこもった瞳で見るのだがそのお値段なんと18億ヴァリス1,800,000,000、ゼロが八つもついてとても手が出せるような品じゃない。
たまに留め金を自重で切り落として刺さっているのも見てきた、そのくらいすごい切れ味を持った緋色のナイフに憧れていた。
そして今の僕には分不相応だってわかっている、意を決してえいやと引き抜いた剣に付けられている値札には3000と書かれていた。
「あれ?」
「うん、思ったより安いとか思ったことだろう。ここは普段ベル君が見てるドレッド・ノートのようなショーウィンドウに並べるのとは別でね、ヘファイトス・ファミリアに所属する駆け出しの鍛冶屋が作った作品を展示、販売しているところなんだ」
つまりここには、僕のような駆け出しとしても買いやすい武器防具が揃っているという事。
でも……あのナイフを見ていたのを知られていたのは恥ずかしい。
「わ、わかりました。それじゃ自分に合いそうな装備を探してきます!」
恥ずかしさを誤魔化す様に駆けだして良さそうな防具を探しに行く。
装備の選び方はダンジョンに行く前に教えられた、ソロ活動をすることになるから防具重点、怪我しても回復するのも自分なのでその危険を少なくするため。
価格は十日で稼げる値段までにする、仮に装備を壊すような事態に陥ってもそれまでの稼ぎで補填することが可能なようにするため。
僕の武器は『素早さ』なので重装備よりも軽装になる様に注意すること。
そうなるとハード・レザー・アーマーかブリガンダイン、ブレスト・アーマー、鎖帷子辺りだろうかブレスト・アーマーは最悪肩や邪魔になるようならスカートの一部を外すのも視野に入れてもいいかもしれない。
そんなことを考えながらまずは防具をと探していると隅の方に置かれた箱から覗く白い光沢。
気になって手に持ってみれば驚くほどに軽い軽鎧に分類されるチェスト・プレートだった。
「(かなりいいものだと思うけど何でこんなと……ころ……に……)」
それがその鎧に銘打たれた名前だった。
「すみません、これ試着出来ますか?」
名前で装備の質が変わるわけがないし、ちょっと気になるかなってくらいで問題はないと思う。
「あいよ……ってその装備の名前はわかってんのかい?」
「あ、あはは。個性的な名前ですよね」
会計用のカウンターに座っているおじさんに声をかけると僕の持ってきた鎧を見て、心配そうな声をかけてきたが僕はそれに苦笑いを浮かべながらそれに応える。
「フィッティングルームはこっちだ。鎧だからそうごちゃごちゃ言う必要もねぇんだがな、サイズ調整とかくらいはしてやれるからよ」
「わかりました」
親切にも細かく調整してくれて、事細かく注文をしてしまったがその言葉におじさんは笑って返してくれた。
「なーに冒険者ってのは俺らの作った武器防具を使って切った張ったして命張ってんだ。武具に不備が在っちゃいけねぇ」
そう言って僕にはよくわからない道具を使って締めたり緩めたりで動きにくくないか確認したり、肩部分の可動域に問題ないかと僕からの注文と相違ないくらいこちらに確認を取ってきてくれた。
「ヴェルフの坊主ももうちょいネームセンスがありゃ、こいつももっと早くに売れてたろうによ」
「なら、僕はそのネームセンスに感謝しなきゃですかね」
「クッ、ハハ……坊主も言うじゃねぇか」
フィッティングルームから出て見ると他の人が店番に立っていて、お姉ちゃんが何か籠手のようなものを買っていた。
「あら、ベル。ふーん……悪くない物を買ったみたいね。はい、これもつけてみなさい」
「え?高かったんじゃ?」
鈍い金属色のままで表面がガラスみたいになってるのかな、防具としてはどうなのかと思いながら右腕に通してみる。
「program start。アクマ召喚プログラム及び管理AIとして電霊バロウズ・レプリカ起動します。ハロー、マスター」
右腕に通した瞬間にガラスだと思っていた面に光が走り、文字みたいなのが高速で流れていった。
そしてその面には前髪を切りそろえ目を隠す様に鼻辺りまで被っている女性の姿がバストアップで……なにも着ていない状態で映っていた。
「あ、あわわっ!?」
僕はその画面から慌てて目を逸らす。
「マスターの生体マグネタイト登録完了、契約状況を把握、契約数に応じた電子異界作成完了、マグネタイトバッテリー駆動開始、保護結界発動。準備完了しましたマスター、いつでも戦闘可能です」
「おー、COMPだぁ」
カハクは頭の上で目を逸らした分だけ移動して、右腕の画面を見る。
「ふ、服くらいは着てくださぁぁぁぁい!!」
「ベル以外にその画面見えるの契約してるカハクだけよ」
叫ぶ僕にお姉ちゃんの声が届くが、周りの人たちからは何だ何だと興味深そうに見られる。
人の注目を浴びる恥ずかしさと、女性の上半身だけとはいえ裸を見てしまったことで顔を真っ赤にさせながら駆けだす僕をお姉ちゃんはその瞬間に襟首をつかみ持ち上げて脚は空回りする。
「マスターは初心と、パーソナル・データを更新します。マスターはレディ・キラー(年上)を持っていることが判明しました」
「女性アクマが増えるかもねー」
「捨て値みたいなもんだからね。生還祝いのプレゼントよ、きちんと生きて帰ってくるように次は武器よねー、バロウズちゃんもよろしくね」
吊り下げられたまま武器の置かれているコーナーへと連れられて行く。
手に収まりのいいナイフが買えました。
バロウズ・レプリカ 出展:真・女神転生Ⅳからのオリジナル
種族:電霊 Lv0 属性:L-N 大種族:電霊 小種族:霊子体族
本来はバロウズと呼ばれるCOMPに付属されるサポートAIなのだがヴィクトルがそれらの性能をオミットした電霊としてCOMPとして機能するように調整したもの
カズトのCOMP(後にスティグマとなる)として働いていたバロウズと違いレプリカは戦闘能力を持たず電脳世界に小異界を創り出しアクマを収納することができる
その特性上、野良アクマを召喚することは出来ず、あくまで電脳世界の異界から現世へと召喚するためのものとなる
アプリ管理も行いアクマ会話や取得経験値の増加など多くのサプリメントを備えているがその発現は装備者の素質や性格に左右される
アクマ合体機能は持っておらず、MAP機能もない、エネミーソナーもない、基本的にはガレージのようなものだが、マグネタイトバッテリーの機能もあり基本壊れることはない(例外的にマスター死亡後の破壊行動で壊れる事、アクマ召還プログラムの起動で自壊が確認されている)
現在発現アプリ:取得経験値増加(小)(5%)、レディ・キラー(女性アクマとの会話成功率UP)