ヴィクトルはアクマ合体施設の業魔殿にいるぞ
「アイズ=ヴァレンシュタインさん!一目見た時から好きでした!」
『豊穣の女主人』でロキ・ファミリアの遠征から無事に帰ってきた打ち上げをしている中で、唐突に告白された私はアイズです。
「えっと……」
「……っ!!」
そして返事を聞く前に駆けだして行ってしまった。
「ベルぅ!待ってー!」
そして物理的に小さな女の子が空を飛んでその男の子を追いかけていった。
「ど、どうするのがいい……の?」
ティオナ、リヴェリアに視線を向けて質問をしてみるが、頭を押さえるだけで何も教えてくれない。
その少年には見覚えがあった、先ほどベートさん……『名字呼びに戻しちゃいなよ』頭に響く声になるほどと思いながら昔の呼び方に戻す。
ローガさんが散々こき下ろしていた、ミノタウロスを倒したときに血塗れにしてしまった少年だった。
「いやー、いい告白だった」
「はっはっは、若いというのはいいですね。告白して恥ずかしくなって逃げちゃいましたけど」
「うむ、これも青春じゃろう」
「まさか焚きつけた矢先、告白相手が来るとは思ってもいませんでしたが……まぁ、早い方がいいでしょう」
少年の……先の少女が叫んでたのが名前ならベルっていうみたいだけど、白い髪に赤い瞳、駆けだす様は兎のようだった。
「……っ……か!?……はな……」
後ろから首を掴まれて持ち上げられてるベー……ローガさんからミシミシって音が聞こえてくるけどそれを誰も止めようとしない。
「それとは逆に……酷い告白もあったものよね」
「えぇ、冒険者以前に人として男として情けない負け犬の、負け犬ですと告白するような物を聞くとは思わなかったわ」
「表層を行く初心者と何年冒険者やってるのかっていうのを比べて自分は強い、とか本当に情けない以前にバカなんじゃないかって白けるのよ」
「食事処で血生臭いことを話題にするなんてなに考えてるんだろうね」
「女の子をそんな風に思ってるだなんてサイッテー」
ローブをつけていることから魔術師系の人だと思うけど、持ち上げてる人が連れてきた女性陣からローガさんは散々にこき下ろされている。
その辺り止めそうなリヴェリアやガレス、ロキはなぜか一緒に居たらしいギルド長にいつの間にかに捕まって今回の騒動の発端であるミノタウロスの事を聞かれている。
「ほうほう?リヴィラ手前の階層で出てくるミノタウロスは怯えたのに、それよりも上の階層のモンスター達は怯みもしなかったと?そもそもミノタウロスにも追いつけないレベル5って何よ、それも速度特化のワーウルフがそれってちょいと猜疑的になるのもしょうがないと思うんだが、そこら辺どう釈明してくれるのかな?」
「いや、ウチもそう聞いてて嘘はないって判断できててな……」
「神の言葉だから信じたいんだけどねぇ?さすがにこれは第三者の神に判断仰がないとダメでしょ。しかも今回の酒の肴に堂々と公的に宣言してるんだ。状況証拠的にロキ・ファミリアが意図的にミノタウロスを上階に持ってきた、と考えられてもおかしくないのはわかってるんだろう?ただ一時の享楽に表層に居る弱い初心者を笑い話にしてやろうって考えでやったんじゃないか?と僕は考えてるんだけどねぇ……」
「我らを、ロキ・ファミリアを闇派閥と見ているように聞こえるのだが?」
「イエローカードは渡しておくよ。聞いた話が本当だとしても五階層だけではなく打ち漏らしがあったかもしれないと、地上に出たかもしれないと警戒しなかったのはロキ・ファミリアがそこ迄持ってきたミノタウロスが一体だった以外にそれ以上捜索しない理由がないだろう?個人の能力を過信するわけでも無かろうに」
「そのようなことする筈が無かろうがっ!」
「そのような阿保な事を自慢げに話してた馬鹿がそこに吊られてるんですよ」
ロキ・ファミリアの首脳陣が集められて、ギルド長は両肘をついて両手を組むようにして覗き込むようにして、三人を覗き込むようにして淡々と不手際を指摘している。
その言葉一つ一つが突き刺さる様に苦虫を嚙み潰すような苦々しい顔をしながら、矛先を逸らそうとしているがにべもなく反論の言葉が潰されているがわかる。
自分たちは二大ファミリアだから、その考えが甘えた考えだと叩き潰す様に上から言葉の金槌で押し込まれる。
自分たちは強い、だから粗暴も文句も力で黙らせると驕っていたツケを払わされているように見えた。
私は今、この場に居ることが逃げ出したいほどに恥ずかしいと感じている。
「アイズはあの子への返事どうするの?」
「どうしたらいいんだろう……」
ティオナの言葉に告白されたことに引き戻されて悩む。
愛とか恋とかよくわからない。
強くならないといけない、ただただそう思って今迄走ってきたから、わからない。
「でも、あの子両腕ボロボロになるまでミノタウロスと戦ってたんだよね……走り去る時、両腕プランプランしてたもん。それを笑えるなんて何考えてんだろ」
笑っていた同ファミリアの団員を見ながらティオナはそう呟く。
時間は少々遡って、ベルこと僕は『豊穣の女主人』という酒場に連れられてきていた。
「いらっしゃいませー、何名様でしょうか?」
「後からの合流も含めて……11人、かな」
今いる人数の倍くらいの人数(団長、エンリさん、タッチさん、バーンさん、お姉ちゃん、最期に僕で6人)で言ってるけどそんなにも来るんだろうか。
「11名様ですね。お客様11名はいりまーす!」
「(酒場ってこんなこといちいち言うのっ?)」
村にはこんなところ無かったから来るのは初めてで、案内してくれる鈍色の髪のウェイトレスさんにどぎまぎしながら店内を見れば、最初に目についたのはカウンターの中で料理やお酒を振る舞う恰幅のいいドワーフの女性で、ちらりと見える厨房ではネコ耳を生やした獣人のキャットピープルの少女たちがてんてこ舞いに動き回り、そして客に注文をとる給仕さん達もさも当然のように全員ウェイトレス。
店員の中にプライドの高いエルフまで紛れ込んでいることに驚きながら、僕はごくりと喉を鳴らした。
「それもそうか。ベル坊にはちょいと早かったかのぅ?」
バーンさんはカラカラと笑いながら僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしながら、テーブルをガタガタ動かしてセッティングされていく様を見ている。
店内は本当に明るい雰囲気だった、店員さん達は皆はきはきとして元気がいいし、飛び交うのは笑い声ばかり。
客はほぼ男性の冒険者で鼻を伸ばしている人も一杯いるけど、みんな純粋にお酒を飲んで楽しんでいる。
「人間というのは存外脆くも強かじゃ。こういった酒場が明るい雰囲気なのかなぜか分かるかの」
「???」
僕には問われた意味がわからなかった。
みんなお酒を飲んでいい気分だからなんじゃないのか、と思ったけどそれだと問いかけの前の言葉が繋がらない気がする。
言われて店内を入り口からぐるっと見てみる。
笑顔に包まれている、笑う声ばかりの明るい雰囲気で、男性の冒険者がほとんど。
脆いと強かというのはどこに繋がっているのだろうか。
「明日、同じ顔を、同じ連れ合いを連れてこれるのは、一体どれほど居るんじゃろうな」
ぽつりと喧騒に消える様に呟かれた言葉はいやに僕の耳に残った。
そうこうしているうちにテーブルに12の椅子が用意されてそれぞれ好きな場所に座り、料理を注文していく。
「ビール二つにエール二つ、水、ジンジャーエール二つにメガ盛りミックス、LLサーロイン・セット、卵スープ、エビのチリソースがけ、青椒肉絲、ペペロンチーノ、サンドイッチ・セット、茹でそら豆、サーモンのソテー、カルパッチョ、チャーハン大盛、最期にボールサラダで、飲み物は御代り時に呼ぶよ」
採譜を畳み一通り全員からの注文を纏めてウェイトレスさんに渡す団長。
注文を終えてからしばらく待つと料理がどかどかとテーブルの上に並んでそれぞれに取り皿が回されていく。
その頃になるとギルド長にニシキさんが一人の女性と僕と同年代位の一人の少女を連れてやってくる。
「お、丁度いいところだったかな。ビール三つにジュース一つ追加で」
「は、はーい」
なぜか、いそいそと僕の隣の空いてた席に座ろうとしていたウェイトレスさんが注文を受けて、ビールとジュースを受け取りに行っている間に僕の隣には少女、ニシキさん、女性、ギルド長の順で座っていく。
「それじゃ黒龍討伐されてました記念にカンパーイ」
「「「「「かんぱーい」」」」」
「「「「かんぱ……え?は?」」」」
「わはは、乾杯じゃな」
そしてギルド長の音頭で乾杯をするのだけど、わけのわからない、わかりたくない乾杯だった。
黒龍と言えば英雄譚でよく読む敵役として僕でも知っている存在で、お姫様をさらったり国を亡ぼしたりと色々と悪いことをする物語最期の敵として登場する。
「えー……詳細としては伏せますが。七年前に黒龍は討伐されていた証言が取れました……が依然ダンジョンからモンスターが現れる事からまだまだ問題は山積みです。皆さん頑張って逝きましょう、おー」
「字が違う気がしますよ、ぷにっと萌えさん」
「逝っちゃダメでしょう」
「まー、下手な奴に任せたなら逝くんじゃねえかな」
「冒険者なんぞやっておれば不慮の事故で明日には居なくなっててもおかしくないからの、いつものことであろうよ」
どこか四人はその事実に深く思うことも無いようで軽く受け止めていて、バーンさんに至っては喉を鳴らしながら笑ってすらいた。
「ふむ……黒トカゲのことよりも儂にとってはベルの恋煩いの方が
「うぇっ!?」
乾杯が終わってそれぞれに料理を取り分けているところにバーンさんから爆弾が投下される。
「ん?ベルは好きな人が居るの?ルルはパパが好きだよ」
「人は脆い、首が折れれば死ぬ、血を失いすぎれば死ぬ、酸素を失えば死ぬ。死因はそれぞれじゃろうが砂上の楼閣、薄氷の上に立つという現状を理解しておく必要がある。特に兵だの、冒険者だのを食うための職にするのであればの」
バーンさんは言葉を区切るように、カルパッチョの一切れをトングで取り、ボールサラダからサラダを魚の切り身で巻くようにして口に運ぶ。
僕はそれを見ながら、昨日のバフォメットに襲われたことを思い出す。
遊ばれていた、弄ばれていた、本来の力を出せば僕程度瞬時に膾にできていた。
僕はもしかすれば昨日に死んでいてもおかしくなかった。
剣姫と呼ばれる程のヴァレンシュタインさんが死ぬところなんて想像も出来なかったけど……。
「明日にはどうか?一週間後は?一月後、一年後……ただ待つだけでは好機もなければ、死に別れの確率ばかりが上がるものじゃ。せめて後悔の無いようにの」
その言葉に僕は次に会う機会があれば告白をしようと心に決める。
「あの時、助けてくれてありがとうね。とてもカッコ良かったよ」
そうはにかんでルルちゃんは僕に微笑む。
「え……っと……」
「ベル?覚えてないの?魔石を使え!行け!ってミノタウロスにアッパーカットかましてたじゃん」
すみません、全く覚えてないです。
ミノタウロスの拳が振り上げられて、銀閃が走ったと思ってたんだけど……右腕がボロボロになってたのはそんなことがあったのか。
小皿に取ったパスタにサーモンのソテーを絡めて食べながら、記憶の無いことに思いを馳せる。
料理が三分の二くらいなくなると追加の料理を頼むのだが、にわかに酒場の中が騒がしくなる。
「……おい」「おお、えれえ上玉ッ」「馬鹿、ちげえよ。エンブレムを見ろ」「……げっ」
ステーキと格闘しながらもその方向に視線を向けると、砂金の如き輝きを帯びた金の髪。
周囲の客も彼等が【ロキ・ファミリア】だということに気付いた途端、これまでとは異なったざわめきを広げていく。
憧れの人に思わぬ再会をするだなんて全く思っていなくて、先ほど決めた覚悟も何のその、手の平から力が抜けてナイフがステーキの弾力に負けて弾き返される。
「お、ベルの憧れの人だな」
「がんばってベル君」
タッチさんやエンリさんがそう声をかけてくれるが、心臓が止まったかと思えば今にも爆発しそうなほどにバクンバクンと痛いほどに動き出す。
ヴァレンシュタインさんの席は丁度こちらを真正面に向く形。
「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」
一人の神物が立って音頭を取るがそれをギルド長さんは冷ややかに視線を向けてぽつりと呟く。
「よくも言えたもんだ。遠征は到達階層を伸ばすこともできずに武器を失って失敗だったのに」
ヴァレンシュタインさんの動向を見逃さないように、と集中していた五感はそんな小さく口の中で呟かれた言葉まではっきりと聞こえてしまった。
【ロキ・ファミリア】の人たちはジョッキをガチンと音を鳴らして乾杯しあうと料理とお酒を豪快に口に運びながら騒ぎ出す。
ヴァレンシュタインさんは小食のようで、マイペースにフォークを運んでいる。
飲め飲めと勧められるお酒に困ったように微苦笑していたり、隣に居る元気のいいアマゾネスの同僚と会話していたり、小動物のような仕草で口元をナプキンでこしこしと拭っていたり……どうしようどう声をかけようと頭の中ではぐるぐると同じような言葉が回りながら、僕の二つの目を釘付けにする。
「そうだ、アイズ!お前のあの時の話を聞かせてやれよ!」
「あの時……?」
席が二つほど離れたはす向かいの獣人の青年が、ヴァレンシュタインさんに何かの話をせがんでいるようだが、彼女はどの話か分からずこてんと首をかしげている。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃したミノタウロス!最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」
───これまでとは違う意味で、心臓が平静さを失った。
宴会の場だった、それが極寒の地獄に変わった気がする。
ギルド長がジョッキを傾けてゴッゴッゴッと喉を鳴らしてお酒を飲み干している、団長の料理を進めていた手が止まったのを見た、タッチさんも目が細まって剣呑な気配が漏れ出ている気がする。
「ミノタウロスって?」
アマゾネスの女性が獣人の青年に聞き返す。
「一七階層で襲い掛かってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げやがってよ。奇跡みてぇにどんどん上層に上がっていきやがってよっ、俺達が泡食って追いかけていった奴!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによー」
獣人の青年が話を進めれば進めるほどに、その場にいる人達の目が据わっていく。
ここはいつの間に
「それでよ、居たんだよ。いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ
ピシリと空気が固まったような気がする。
「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!」
異界から出たら袋小路だったんです。
「可哀想なくらい震え上がっちまって、顔を引きつらせてやんの!」
「
カハクが水を飲みながら励ましてくれるけど、今はそうじゃない。
「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」
今は何とかこの空気をどうにかしなくちゃいけない。
「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトなっちまったんだよ!」
今こそ僕はありったけの勇気を振り絞ってヴァレンシュタインさんの方へと歩いて行く。
「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ!」
笑い声が聞こえてくるが、他ならぬヴァレンシュタインさんも困ったような顔をしている。
「しかしまぁ、久々にあんな情けねえ奴を目にしちまって胸糞悪くなったな」
一歩一歩血の気が引くような思いしながら歩いて行く。
「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。……何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちが───」
「アイズ=ヴァレンシュタインさん!一目見た時から好きでした!」
「───腰を振るって……ん?」
獣人の青年の言葉を遮るようにヴァレンシュタインさんを真っすぐに見ながら叫ぶ。
スタンス 出展:真・女神転生シリーズ
LAW─NEUTRAL─CHAOSを横軸に
LIGHT─NORMAL─DARKを縦軸に形成される思考方式だとか好みといったもの
単純に頭文字のみをとって表記されることが多い
LAWは法を重んじ秩序を守ろうとする事を好む……が自身の置かれている法を重視する為やらかすことが多い
CHAOSは自身の感情を重視すること好む、決して力に傾倒するわけではない……が我を通すために力を求めることが多い
LIGHT、DARKは人間に付くことはないスタンスで人間は必ずNORMALとなる
LIGHTは創造を司り既存のモノに加えての法則や世界を作る
DARKは破壊を司り既存のモノを破壊し自身の法則や観点を作る