ウソ予告から始まるのは間違っているだろうか   作:ししお

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ベル君告白するも恥ずかしさから逃げ出した!空気に耐えられなかったとかじゃないんだから
ベル君牛さんの血をぶっかけられる前から7割血塗れだったんだ(バフォ戦で出血、呪い状態


第十二話「舞台裏での台本渡し」

 豊穣の女主人から放り投げられ通りに転がるベートは、自分を投げ飛ばした相手を睨む。

 投げ飛ばしたサトルは悠々と扉を潜り、カフェテラスを通り大通りへと足を進める。

 

「ふざけやがってっ!俺らに喧嘩売ってただで済むと思ってんじゃねぇぞ!」

 

 サトルは肩をすくめベートに向けて馬鹿にしたような視線を向けたまま、駆けだすベートを眺める。

 

「何を勘違いしているのやら……」

 

 飛び上がりベートお得意の蹴り技を繰り出してくるが、それを軽く左腕一本で掴み取りベートの体ごと振り上げる。

 

「っち!」

 

 身体を動かして逃れようとするががっちりと掴まれた手は緩むことなく、瞬時に叩き付けるための振る下ろす運動が開始される。

 それに対し上半身に力を込めて衝撃に耐えようとするが、その途中で止められ振り下ろすスピードと自身の体重が右足に集約されて聞きたくもない音が獣の耳に鳴り響く。

 メキ、ブチ、ゴキリ、ブチブチと筋が伸び、腱が引き千切られ、膝が壊れ、関節が外れた分右足だけが不自然な風に伸びた想像だにしていなかった光景に思考が止まる。

 衝撃に備えたクロスさせた両腕の隙間から目に映る逆さまになっている視界に映るのは、ブラリと在り得ない方向に曲がって伸びたベートの右足。

 回転させるように放されゴロリと再び地面に仰向けにされ、たっぷりと一拍経ってから脱臼と筋離れをさせられた傷みが脳天を貫き、目を閉じ絶叫を上げようと口が開かれる。

 

「がっ───」

 

「とっとと起きなよ」

 

 開かれた顎にボールでも蹴るようにつま先が突き刺さり地面を滑っていく。

 ガチリと無理矢理閉じられた歯と赤い舌先が滑るベートを追うように地面に落ち血を撒き散らし、通りの一部を鮮血で赤く染める。

 

「やれやれ……いつもの訓練でも反撃の一つは狙ってくるものだが。傷みに耐性がなさすぎる」

 

 靴底が腹部に押し付けられたと思えば震脚を叩きつけられ、そこでベートは気を失う。

 ごそごそと裾を探りポーションを一つ取り出しベートに振りかけてやり、カフェテラスから呆然と見ているだけの【ロキ・ファミリア】の面々を無視して店内に戻っていく。

 

 

 

 扉をくぐって戻れば視線が一様に向けられて、元の自分の席に着き口を開く。

 

「根性なしでしたよ。最低限の『喧嘩吹っ掛けてきた狂狼がレベル1の団長に負ける』位しか達成出来ませんでした。申し訳ない、ぷにっとさん」

 

 溜息を吐きながら頭を下げるが、そこには『自分たちの異常さ』よりもどこまでも『レベル5』と言われる一線級冒険者と呼ばれる存在の脆さに落胆していた。

 

「まさか右足を不意にぐねった位で傷みに動きが止まるとか……戦闘中にやってはダメでしょうに」

 

「ベル君も訓練中でも足を斬った程度では止まりませんしね」

 

 はぁとため息をつくサトルとたっち二人にロキは思わずツッコミを入れる。

 

「それ普通にやりすぎや。って訓練でそれって怖いで」

 

「んー、そっかそっか。了解、それじゃちょっとミアさん個室借りるよー。ロキ・ファミリアとはお話と行こうか―」

 

 ロキはツッコミを入れたポーズのまま襟首をつかまれて引き摺られていく。

 それに続くようにガレス、リヴェリアもついて行き、ミアに軽く挨拶をして個室へと消えていく。

 

「ポーションある世界で傷み耐性無いとか大丈夫なんですかね?ここの冒険者は」

 

「さすがに死んで死体もないってなるとどうしようもないしねぇ……」

 

「一応……所縁の深いものがあれば成功率は落ちるそうですけど……いけなくはないそうですよ」

 

 簡単に説明するとHP制のRPGにおけるダメージ量でのCoCのようなTRPGで発生する気絶(スタン)が発生する致命的な隙をサトル達は警戒している。

 死ななきゃ安い、というように過激な訓練をベルに課しているのもこれの延長で、傷みを覚えさせることで傷みに慣れさせる事が目的である。

 技術の習得、振るい方の見覚え、戦いの運び方は副次的なものであり、これだけのトレーニングをしているという精神的バックボーンを形成し、致命的な怪我を負っても死を決定的な物にしないための行動をさせるためのもの。

 結果、ベルの耐久が大きく伸びることになっている。

 これらの事柄はサトル達が戦ってきた者達との経験から来ているものであり、また先達の教えでもあった。

 

「その……ごめんなさい……」

 

「ん?」

 

 ロキ・ファミリアの方から頭を下げて謝りに来るアイズにサトル達は疑問符を頭に浮かべる。

 少なくとも彼等にはアイズに謝られる事に覚えがない。

 

「その……少年を血塗れに……してしまったのは私だから」

 

「なるほど。まぁ、そう見えるように振る舞ったのは確かだからね。でもぷにっとさんが怒ったのはそこじゃないんだ……んー、ベル君の告白はどうだったかな?」

 

 サトルの言葉にアイズは微妙にわかりづらく困ったような顔をしながら、しばらく考えてから言葉にする。

 

「なんて返事をすればいいのか……わからないです」

 

 絞り出すように出された言葉に、サトル達は満面の笑みを浮かべる。

 

「思った以上に好印象だね」

 

「初対面に近い状態ですからね」

 

「これからもよく考えればいいのよ」

 

「これは揶揄い(応援)のし甲斐があるのう」

 

「恋の相談ならわたしも聞くわよ。手取り足取り腰取り教えられるわよ」

 

 血生臭く辛気臭い話題よりも酒場では、こんな風に明るく話せる馬鹿話か恋愛話に限る。

 残っているロキ・ファミリアのメンバーも巻き込みながら姦しいながらも宴は進んでいく。

 小さく手を挙げてたっちに無言の断りを入れて、サトルはぷにっとたちの消えた個室へとその身を滑り込ませる。

 

 

 

「さて……詳しいこと聞きたいなぁ?僕、君たちの団長のフィンさんが事の顛末伝えてきたときに箝口令布けって命令したはずなんだけどなぁ?」

 

 淡々と聞こえる声は隠しきれない怒りを内包していて、下手に手出しをすれば爆発しかねない危機感を抱かせるには十分だった。

 

「レベル5、6に恐れて逃げ出した上層のモンスターが居る、これはまだいい。まだそういうこともあるだろうと納得できる」

 

 トントンと指でテーブルを叩かれる音を聞きながらロキとロキ・ファミリアの三人は蒼い顔をして黙ったまま俯き震えていた。

 

「オラリオでは大半の連中がレベル至上主義だ。レベルが1離れれば勝つのは難しい、レベルが2離れれば絶望的、3離れてれば不可能だ、とな。そんな中レベル5がミノタウロス打ち損じて逃げ出すのを許しました延々逃げられ続けて第5階層まで無事無傷で逃げ続けました、なんて説明誰が納得してくれるんだ?説得力の無い話から何かあると考えるのが普通だろう?」

 

「う、むぅ……確かに」

 

 その現場に居ながらその逃走劇を見ておきながらも、ギルド長から説明される説得力の無さに思わず呻きながらも納得してしまうガレス。

 

「い、いや。だがそれが起きたことで……」

 

 まるで親に怒られる小娘のように言い訳を口にしようとするリヴェリアだが、恐怖に麻痺する思考に言い訳しようにもしどろもどろになる。

 

「嘘だとは言ってねぇよ?説得力の欠片もねえからこっちで状況利用してブック用意してやるって言ってるんだよ」

 

「ブック……やと?」

 

 暗黒微笑を浮かべながらぷにっと萌えは、ギルドからの箝口令を目の前で破ったファミリアへの罰を言い渡す。

 

「あのワンコがやったことにして、ロキ・ファミリア、お前らが今回の泥をすべてかぶれって事だ」

 

 勇者の勇名を地に堕としかねない今回言い渡される罰に重すぎるとロキたちは口を開こうとするが、それをぷにっと萌えは手で制する。

 

「お前らは重すぎると思うかもしれんが、気付いた僕達からすれば軽すぎるぞ?今回の件、主導したのは何だと考えている?偶然?そう思いたいなら好きに腐っていけばいい。ミノタウロスが逃げられたのはモンスターが大量発生下から足止めを喰らった、何が目的だ?ミノタウロスが逃げ出したのは何故だ?怯えたから?それとも怯えた風を装わせて上を目指させたか?さぁ……今回の騒動は何を目的とされた騒動だったのか……」

 

 その説明にガレスとリヴェリアはなにの話をしているのか理解しきれていなかったが、ロキだけはその顔を青色から血の気を失った土気色にさせて呆然としていた。

 

「いやいや、嘘やん?ギルド長の言葉は嘘やない?……あかん……あかん……」

 

 ロキとて今回のミノタウロス騒動は初耳だった、ベートの話を聞きながら「その男の子は無事だったん?」と聞く程度には温情はあったが、酒も入っていたこともあってそんなことまで頭が回っていなかった。

 もしも素面の時にフィンらから説明されていたらロキでも箝口令を強いていただろう。

 

「まさか……ダンジョンが意図的に、起こした?」

 

 ロキの口から絶望と共に吐き出される答え。

 ロキの口から出てきた言葉を聞いてもピンとこない二人に対して、ようやく理解したかと溜息をつくぷにっと萌え。

 がちゃりと扉を開く音が聞こえ酒場の喧騒が小さく部屋の中に入りながらも、静かに閉められる扉に再び静寂が戻ってくる。

 

「どこまで話は進みました?」

 

「主神のロキがようやく状況を飲み込めたところだね。ギルマスはどこで気が付いたんだい?」

 

「張本人がいますからね。更新の時に。おかげでトレーニングを三段飛ばしに加速させてますよ」

 

 自分で椅子を引き傍観者を気取るように横に座り、持ってきた二つのグラスに酒を注ぎ一つをぷにっと萌えに渡す。

 

「ありがとう、それで彼は?」

 

「どういたしまして。無手でダンジョンに突撃して……例のアレにぼっこぼこにされてますねぇ」

 

 自分でも酒を飲みながらここではない風景を見ながら中継するようにベルの現状を話す。

 

「んー……まーだピンと来てないみたいだから、とりあえず……お前らん所の主神が取り乱すような事態が起きてんだって理解しとけ。お前らの説明じゃ納得できるところなんぞ最初のミノタウロスが逃げ出したってところだけだ。しかも第5階層までわざわざ逃げておきながら冒険者を見つけたら襲ってました?地上に出ているわけでもなく?何故第5階層などという中途半端な場所で?全部の出来事並べてそうなる理由を考えてみろ。どこからどう見てもミノタウロスが群れで逃げだしたのも、途中で集団で沸いて邪魔をしたのも、第5階層で追いかけるのも、不自然だろうが」

 

 半眼で二人を見つめ、わざわざ説明してみせる。

 逆説的に、結果から逆算すると『ベルにミノタウロスをぶつける』為に今回の騒動は起こされたと考えられる。

 ならそれを主導したのは何か、ミノタウロスをベート達から逃がすために足止め用のモンスターを沸かせた存在。

 ミノタウロスを第5階層で恐怖心よりも冒険者への殺意を向けさせたのは何か、そんなことが出来るのは……人ならざるダンジョンしかないだろう。

 目的は正確には不明、だが二人の出した答えは『物語の主人公の選定』が行われたと読んだ。

 だからサトル達はベル(主人公)を鍛える為にトレーニングの質を上げ、ぷにっと萌えは自分と同じ答えを他の神が出す前に箝口令を布こうとした。

 ぷにっと萌えは神が同じ答えを出せば暇を持て余した馬鹿がちょっかいをかけてくることは目に見えていたから、それを阻止する為である……フィンがギルドを甘く見ているために、こうしてご破算と相成った。

 

「あんたらは……それでええんか?」

 

 ようやく再起動したロキが吐いた言葉は疑問だった。

 

「お前のくだらない虚栄心(プライド)なんて知らないね」

 

「僕らは七年前からサポーター(脇役)であることを選んでいる。出しゃばる気はさらさらないね」

 

 ロキの疑問を正確に拾い上げて、自分たちの決めていることを言い放ち、そしてロキの自分が一番になりたいという欲を下らないと切って捨てる。

 

「あんたらは!それだけの力も知恵もありながらっ!なんでやっ!なんでっ!『物語の主人公』になろうとせんのやっ!?」

 

「「自分から七難八苦の七転八倒したいとかマゾなの?」」

 

 両手をテーブルに叩きつけ叫ぶロキに二人はハモらせて返事を即答する。

 

 

 

 鳥のようなトカゲとは違うよくわからないモノにダンジョンで出会い、青いっす、若いっす等と言われながらも強くなりたいと願い、倒すために繰り出した拳は涼しい顔で躱され、捌かれ、返されて、弱いという現実を突きつけられてボコボコにされながらも諦めることだけはしたくなかった。

 何もしていなかった、追いつくために何でもしていなくてはならなかったと気付いた時、僕はダンジョンへと駆け込んでいた。

 惰弱、脆弱、虚弱、貧弱───僕は弱い。

 第6階層に降りようとしてそのよくわからない青く鳥をデフォルメしたような短い羽のような手のようなものを両手にして腹にはポシェットを付けて、両の足は棒という生き物としておかしい、目は死んだ魚のようなよくわからないモノとばったりと出くわした。

 通行止めだと返れと言われて「はい、そうですか」と行くわけもなく僕は押し通るために拳を握りしめ戦闘を開始する。

 

「邪魔を!するなぁっ!」

 

「うぅん……若いっすねぇ」

 

 僕の拳を潜るように潜り込まれ、顔面に突き刺さるのは逆に握りこまれたフリッパの拳。

 鼻が潰れ鼻血を撒き散らしながら、通路に転ばされながらも手をついてブレーキをかけて跳ね起きる。

 呼吸がしにくい。

 血が口内に溜まる。

 

「ああああぁぁぁぁぁぁあっぁああああああぁぁぁぁっっ!!」

 

 吐き出しながら、叫びながら突撃し拳を繰り出すが、やさしくくるりと触れた瞬間に回されて拳の軸をずらされ肩から胸に触れた瞬間にバガンッと床を砕く震脚と共に衝撃が胴を通過する。

 

「いやはや青いっす!」

 

「昔を思い出すっすねぇ」

 

 衝撃で肋骨が悲鳴を上げ、内臓が搔き混ざるような感覚に陥る。

 血が逆流し、毛細血管から血が噴き出て全身を真っ赤に染めながらボタリボタリと床に紅い花を咲かせる。

 

「ア……ガ……ッ……」

 

 プツリと切れそうになる意識を急速に狭まっていく視界で見ながら力の抜けた拳をふり下ろす。

 

「それ以上は、死ぬっすよ」

 

 足を払われ、倒れこむままに抱きとめられて、意識は完全に途切れる。

 

「ベルゥゥーーーッ!」

 

 その寸前にカハクの声が聞こえたような気がした。







プリニー 出展:ディスガイア
罪を犯した魂が詰められた最下級悪魔
持ち上げて投げれば着地点で爆発しHP分のダメージを撒き散らす
レベルによってプリニービームなどの技を覚える
蘇生費は1ゼニー
HPMP回復させるくらいなら投げて爆発させて敵へのダメージソースにする方が良い
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