アラクの軽い言葉でその話題は終了する。
普通であれば何かしら思うことはあるのだろうが、この場ではカハクと訳の分かっていないベル、それだけである程度察してしまったヘスティアを除く四人もまた転生者、転移者であるために話すときが来れば話してくれるだろうと思っているし、最悪それらを話さなくてもいいと考えている。
人によってはそれらを話したくない、思い出したくないと思うことだってある。
それはそれとして食事を終えてベルの
ベルだけを裏手に作ったお風呂に追いやってヘスティアに不機嫌だった原因を相談されたのだが、この世界におけるスキルの不思議という一端に触れた気がする。
「不思議なものですね。一つのスキルに派生して付随したってことでしょうか?これは」
憧憬一都、これはヘスティアに初めて恩恵を刻まれてから存在しているスキルだが、ヘスティア曰くスキルとは強く精神に影響を及ぼしている物事が神の力をもって表に表された可能性のはずとのこと。
では、なぜベルにはあのようなスキルが発現しているのか。
憧憬とはあこがれ、一つの都に、だがその内容は成長を促進させるもの。
ベルのスキルが発現するまで神であっても知られていなかったレアスキルと呼ばれるもの、出会ってからすぐに知らない自分についてくる程度には純粋過ぎるから、そのスキルはベルには秘密にされている。
憧れが続く限り、願いが続く限り、ベルは成長し続ける。
では、続かなくなった時ベルはどうなってしまうのか、それが心配だった。
「おぉのぉれぇボクのベル君にいぃぃぃぃ……ヴァレン何某がなんだい!ボクだってベル君が好きだぁ!」
恋敵が出てきたからなのか黒いツインテールをあらぶらせながら叫び声を上げるヘスティアだが、いつもの愛してるだの好きだの言っては撃沈している。
「はいはい、言ってなさいペド趣味女神」
酷い言いようではあるが、年齢差を考えると即ち間違いだと言い切れないのがなんともひどい現実である。
そしてこのアラクさんからの口撃にダメージを受けて涙を流すまでがベル君たちが来てからの日常。
日常は日常としていつもと変わらないように見えながら少しずつ少しずつ変わっていく、今はそののんびりとした変化を楽しもう。
ヘスティア・ファミリアの朝は早いもので農家であったアラク、ベル、エンリが太陽が顔を覗かせる頃に起きて、ベルは街の外周を重りをつけてジョギングに、女性二人は朝ごはんの準備に入る。
その頃にはサトル、タッチ、バーンも起き本日のベルの朝練の準備へと入るのだが、先日のスキル発言の件もあり話し合いを始める。
「一段階特訓を進めておきます?」
「いや、二段階でいいんじゃないかな?あのスキルを見る限り、厄介ごとに巻き込まれていくでしょうし、どの程度効果があるのかも知っておきたいです」
「そうじゃな。スキルは発動しておるものの魔力は上がったが魔法は覚えておらん、覚えるよう働きかける特訓へと移行してもよいじゃろう」
そう話しながら軽い組み手をしていたサトルはウェイト・トレーニングの機材を作り、タッチはそれぞれの真剣に布を巻き、バーンは幾つもの氷柱を作り上げて特訓の準備を整え終わる頃に約120㎏の砂袋を二つ担いだベルが帰ってくる。
その姿は汗だくでズシリと重々しい音を立てて大きな土嚢を思わせる重りが下ろされ、上半身を包む服はすっかり汗を吸い込み肌にぴっちり張り付いて薄くも鍛えられた胸板、割れた腹筋が浮かび上がって、自慢と言えるのかはわからないが白い髪も汗にまみれて顔に張り付き、下半身のズボンも汗に濡れ普段よりも暗い色合いになっている。
今のベルを見てベルに色目を使う者はどう思うのか、頭の上に乗っているカハクはそんな疲労困憊のベルを心配そうに見ている。
「大丈夫?ほんとにつらくないの?」
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……はぁ……だ、大丈夫……だよ」
心配するカハクに、息も絶え絶えになりながらも声を絞り出し何とか大丈夫だと返すが、その姿はとても大丈夫そうには見えない。
それでも桶に汲まれていた水を持ち上げ、水を被るためにカハクには頭の上からどいてもらって盛大に被り、汗をとりあえず流す。
「じゃ、今日からちょっと質を上げていくから、これで試合と行こうか」
そう言ってタッチから渡されるのは布の巻かれた真剣であり、普段タッチたちが使っている今のベルの稼ぎではとても手の出せないような上級武器。
重さも威力に見合うものを持っており、バフォメットに追われる際に壊れてしまった初心者用のナイフと比べればズシリと手にその重さを伝えてくる。
「多分に重たいとは思うけど、慣れれば大概の武器は軽く扱えるようになる。しっかりと型にはめて扱えるように打ち合おうか」
その日のうちの特訓では扱いきれずに身体は流れる、大振りになる、スピードを乗せきれないと散々な振り具合で、正に武器に振り回される結果になりながらも、タッチはそんなベルを見ながら昔を懐かしむように笑いながら滅多打ちにしていく。
「足がお留守だよ」
踏み出した膝を砕きながら地面に叩きつけられ、「ほらほら、早く立ち上がらないと。敵は待ってくれない」
倒れたベルに向かって剣が振り下ろされ、反撃のために転がったまま回転し武器を振る。
「うん、いい攻撃だけどそこは前に転がって姿勢を整えるべきだね」
顔面を踏まれ意識は闇に落ちる。
気絶したベルにポーションをかけ傷を治療して、水をかけて起こしたら笑顔のタッチが「さぁ、もう一本いこうか」と都度五回繰り返される。
終わる頃にはそこかしこが血で汚れながらベルの目がいろんな意味で死んでいた。
「さて次はウェイトトレーニングといこう。今度は死ぬようなことはないから安心してくれ」
そう言いながら城壁をパンパンと叩くサトル。
「えっと……城壁、ですよね?」
「うん、魔法で作り出した要塞の一部、これを持ち上げてみようか」
禍々しい絵本に出てくるような魔王城を思わせるような城の一部、それを持ち上げろという。
「いやあの……無理では?」
「アイソメトリックス・トレーニングとかいうものでね。絶対に動かない物に対して全力で挑むことにより短時間での高トレーニングになるんだ」
冷や汗を流しながらベルは城壁を指さし、サトルを見るがそう言ったトレーニングだと取り付く島もなく、アダマンタイトよりも硬度が高いと豪語する城壁の下にねじ込まれる。
「ふんぬぅううううううううううううっ!!」
「がんばれがんばれ!本気で持ち上げる気概を見せつけてやれ!出来る出来る、自分なら出来ると信じるんだベル君!英雄になるんだろ?英雄なんて不可能を可能にして見せてこそ英雄っていうんだ!だからこのくらいできなきゃ!」
顔を真っ赤にして両足で踏ん張って、両手に力を込めても強固な城壁がびくともするはずもなく、力を籠める分だけ身体は熱を持ち、先ほど水をかけられた体に玉のような汗が浮かんでくる。
「限界を超えないと君が言うような強さは得られないぞ」
「んぎぎぃ……!」
歯を食いしばり、血管が浮き上がるほどに力を込めても城壁はピクリともしない。
しばらくすると息が続かなくなって倒れてしまう。
「初回だし、こんなもんかね」
「これ持ち上げれるようになったらどうするんだい?」
「丸まったガルガンチュアを持ち上げてもらうつもりだよ」
「かっかっか、持ち上げられるようになる前提か。信じておるんじゃのぅ」
「べ、ベルーーーー!?」
倒れたベルに飛んでいくカハクを笑顔で見ている三人。
そしてバーンの特訓では氷柱の上で座禅を組み、超局所的な吹雪の中生命的な危機状況に陥らせて体内の気を感じさせ、放出させるという無茶がされている。
「魔力とは気とか闘気などと呼ばれることもある、人によって魔法が千差万別なのは捉え方が違うからじゃ。その扱い方、その在り方が精神によって様々な変化を物質界に発現させる、それが魔法というもの、操り方を知ればこのように掌に集め目に見えるようにすることも可能」
そう言いながらバーンは手の平に暗黒闘気を集め炎のように揺らめかせる。
「そして
そんな説明をする中、当のベルはと言えば。
「あぁ……なんだかこんなにも寒いのに暖かくなってきた感じがするぅ。そっかぁこれが魔力なんだぁ……でもなんでお花畑が見えてるんだろぅ……」
「ベル―っ!ベル―っ!しっかりしてーっ!そこ行っちゃいけない場所―っ!」
寒さで幻覚を見ながら体感温度の勘違いが始まっていた。
魔力感知の手助けにくっついていたカハクはベルが意識を失わないように必死に額をペチペチと叩く。
オラリオ城壁の外、門番をしているガネーシャ・ファミリアが見える場所で特訓している。
「え?あれ大丈夫なんです?」
「慣れろ、あの坊主が入ってからあんなもんだ。今日は前よりもきついみたいだがな」
ボロボロになったベルを俵担ぎにして特訓を終えて、教会へと帰路につく際に門番の二人に挨拶をして一人は顔が引きつりながらも返事を返し、新人らしき方は「お、おう……」といった感じで唖然としながらから返事をしていた。
いつもの特訓よりもきつい特訓を乗り越え……乗り越え?途中で気絶してたような気がするけど、とりあえず五体満足で教会に戻ってきて、姉さんやエンリさんが用意してくれていたご飯にかぶりつく。
今日の朝ご飯は大きな
村で生活していたころよりも豪勢になっている毎日のご飯は何気にオラリオに来てから僕の楽しみになっている。
「そういえばベルは今日はガネーシャ・ファミリアにいくんだっけ?」
「うん、カハクの事でテイムって格好で報告しなきゃいけないんだって」
テイム、【ガネーシャ・ファミリア】の
サマナーには何でも
「それじゃ私もついて行くわ。あの象頭に話しておかなきゃいけないこともあるし、ペニテンスは今日はこっちね」
神様の頭の上に両手を持っていくと、両手に収まるくらいに小さくなっていたペニテンスをお姉ちゃんが抱えた。
「アラクさん、それは俺も聞いてもいい事なのかな?問題なければ聞いておきたいんだけど」
「んー、そうね。それじゃ交換条件で今日そのあとにベルの装備を買い直すつもりだったんだけど、その代金でどうかしら」
「え?いいの?」
「「ベル(君)の財布が上限で」」
その言葉に基本的に自分の稼げる武具になるようにされている。
これは武具に僕が頼りすぎないようにする為なんだそうだ、いい武器があれば、いい防具があればと思わなくはないけど、それを恵まれればメンテナンスもろくに出来ず早死にする、なんて言われれば頷く他ない。
団長たちは僕なんかよりも遥かに多くの冒険をしていて、そう言った経験じゃどうしても差を見せつけられてしまう。
悔しいという思いもあるけれど、先輩というものはそういうものなのだと笑いながら言われてしまった。
早く団長たちのようなすごい冒険者になりたいという憧れもある、僕も団長たちの様に誰かからすごいと言われたいと期待している。
「あ、昨日の拾ったマ石換金するの忘れてた」
換金はギルドの中にある【生体エナジー協会】というところで量や質を計ってもらいヴァリスへと変換される、日によって変動はあるけど基本的には安定している。
何のために利用するのかわからないけど逆にマ石を買うことも出来る。
換金しているのはルキフグスさんという人で中性的な見た目をしていてスーツを着ている人、男性か女性なのか聞いてもはぐらかされ、神様からも冒険者からもよく質問されるそうだ。
「じゃ、象頭のところに行く前にギルドに寄っていきましょうか。換金もすぐでしょ」
「うん、わかった」
朝ごはんを食べ終わり、後片付けを手伝って五人でまずはギルドへ、団長はギルド長と少し話があるらしく席を外していると珍しくルキフグスさんが話しかけてきた。
「おや、これは珍しい顔ぶれですな。此度は一体何用でございましょうか?」
「あなたのところの頭はまた要らないちょっかいかけようとしてるんじゃないでしょうね、と少しくぎを刺しに、かしら」
「ははは、これは手厳しい。閣下はこれませんのでこちらとしては気ままに羽を伸ばすつもりなだけでございます。気楽に銭勘定出来るのは貴重なのですよ……あぁ、ですが。実に珍しい顔ぶれだ」
目を細め僕を覗き込むように視線を向ければ頭の上に掴まっていたカハクがカタカタと震え、ルキフグスさんは含み笑いを零す。
「弟に要らないちょっかいかけないでくれる?」
「ああ、申し訳ない。ついつい好奇心から覗き込んでしまいました。こちらから手を出すつもりはございませんのでご安心を、これは私の名ルキフゲ・ロフォカレの名において誓いましょう。と、換金でございましたね。今回の事もありますので少々勉強させていただきます」
ルキフゲ・ロフォカレ 出展:神学、真・女神転生、他色々
通称:ルキフグス
ルシファー、ベルゼビュート、アスタロトに仕える上級精霊の一人
世界の富と財宝を管理しているとされ、魔界の宰相を務めている
この作品では生体エナジー協会を設立し、ギルドに寄るマ石の独占を防ぐことで闇派閥への資金源となる商会を牽制している役割にもなっている
契約者はウルベルトさん、ネタでやった中二的魔方陣から召喚された経緯を持つ