Empty 短編集   作:音門ヤイバ

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識る者と世界

 やぁ、君。どうしたんだい?こんな山奥に。何?ここにいけば知りたいことを何でも教えてくれるという噂を聞いたから、と。そうか、しかしそれは少しだけ違うよ。ここで知れることはタカが知れている。第一、今はインターネットなんかで簡単に物事を調べる事ができるだろう。こんなとこまで来る必要ないんじゃ無いかな。ん?調べても出てこないだろうからここへ来た。まあそれはそれは。因みにどうやってきたんだい?なに純粋な疑問さ。ほう自転車でか。てっきり、最寄駅から車で1時間以上かかるこんなとこまで来るから自動車だと思ったんだが。へ?そもそもまだ免許を取れる歳じゃない、だと。だからと言って知ることができるかどうかもわからない質問のために、普通山を自転車で登るかい?なら、そんな君の努力に免じて君の知りたいことを教えてあげよう。

 [神がいるか]だと?アハハ、そんな事を聞くために来たとは。ここで君にいないと言ってもいいんだが、何か神がいるのではないかと感じ取るものがあってきたんだろう?なら特別にその答えを教えてあげよう。[神はいない、ただそう呼ばれているモノはいる]それは神ではないのか、だと。違うぞ。何故なら君の思っている神はこの世の悪に罰を与えたり、願いを叶えてくれたりする奴らだろう?そんな都合のいいモノなんていないさ。ただ、今の世の中で神と呼ばれているモノはいる。いや、いたが正しいかな。これからの話を信じるかどうかは君次第だ。まあ、せいぜいここまで頑張ってきた休憩時間に聞く暇つぶしとでも思ってくれればいいさ。

 まず君質問だ、この宇宙ができる前一体そこに何があったと思うか、だよ。ん、ブラックホールが大量にあったとどこかで聞いた事がある、か。不正解だよ。そこには何も無かったんだ。本当に何もね。そうだな、言ってみれば白い紙さ。綺麗な一色の白で何も書かれていない、そういう白い紙。それが元々のこの宇宙さ。え、じゃあ宇宙は白くて何も無かったのか、だって。ああ、別に色は関係ないから好きな色を想像してくれればいいさ。そもそも色という概念さえ無かったからね。どんな色だったかは正直どうでもいいんだよ。それじゃあ2つ目の質問だ。君は、マルチバース理論や三千世界なんかを知っているかい?知っているのか。なら、話が早い。今この世界で言われているビックバンという事象を起こしたのは、その別世界からきたモノ達さ。まあ、これからはその侵入者たちを[彼ら]と呼ぶことにしよう。彼らは自分の世界に住めなくなった研究者さ。しかも科学力がこの世界の現代の何百倍も発展した世界のね。島流しみたいなモノだったようだけど彼らは何も無い世界に漂着した。ただ、腐っても研究者だった彼らはここに自分たちの楽園を作ろうとした。しかし、彼らの世界の研究で世界の全ての理を書き換えてしまうとその世界が崩壊すると出ていたらしくてね。彼らはある程度[無]を残しそれまでは広がる世界を創った。それがこの宇宙だよ。だから、君の考えている神は元々彼らということさ。

 何か言いたそうな顔をしているね。何か気に入らないことでもあるのかい?え、その人たちの子孫が自分たちなのか、だって?何だ、そんなことか。それは無いよ。言ったろう、彼らは研究者だ。つまり、彼らにとっての楽園は、好きなように実験が出来る世界。だからこの世界は、都合のいい実験場ということさ。彼らは、この世界を基本的には観察しているだけだ。だから、生物の進化の中で生まれたこの宇宙の生き物は別に彼らの子孫では無いよ。しかし、ごく稀に干渉してくる事がある。そう言った時に神話になる様な大きな事をやるのさ。特に昔は、神話に出てくる様な怪物が多かったらしいしね。その怪物についても、少し話してあげよう。どうせ、今話さなくてもまた来そうだしね。何、君の顔を見ていて僕も何となく察したのさ。

 おほん。では話を戻そう。彼らは理を幾つか書き換えて無にモノを定着できる様にした。しかし、無いはずのモノができてしまった関係上どうしてもバグは出てしまう。それが怪物や邪神と呼ばれるモノになった。そうした奴らを総称して[欠落者]と呼ぶ。この欠落者は、何か一つが完全に欠落しているのさ。例えば今までに出てきた欠落者の一つに[飢えるモノ]という奴がいる。その名の通り、食欲に際限が無い故に永遠に満腹にならない、という特性の欠落者さ。因みに一部の欠落者の欠落部分は伝染して[眷属]と呼ばれるモノを生み出す。この欠落者もそうで、出現時にどれだけ食べても栄養にならず、常に空腹な生き物が大量に生まれた。ただ、それらは所謂ゾンビの様でね、体が死んでも、脳みそが残っている限り、他の生き物を食い尽くす、という特性を持っていたため、当時の人間にはどうしようもなかった。そこで、[彼ら]はこれを駆除するために、この実験場へ降りてきて戦った。実験を無駄にしないためにね。そういった[欠落者]と[彼ら]の戦いが後世に神話として語られている。まあ、武器だけ渡す時もあったようだけど……。

 あと教えておくべきなのは、欠落者の名前についてぐらいかな。なんだいそのキョトンとした顔は、何故そんな事が大事なのかという顔をしている。まあ、その反応が普通なんだろうけど、大事な事だからしっかり聞いてくれ。さっき一例としてあげた欠落者だけど、名前を聞いて適当すぎると思わなかったかい?その感想は当たりだよ。彼らの名前は全てその力を現すものになっている。勿論、この名前以外に真名と呼ばれるものがあるんだが、それを呼ぶと一部が顕現してしまうらしくてね。意図的に隠された。だから彼らの名前は彼らの力を表す記号に過ぎないのさ。少し違うかもしれないが、名は体を表すというやつさ。というわけで、もし知っていても彼らの真名は言ってはいけない。わかったかい?……よろしい。

 もうこんな時間になってしまったか。時間の流れは早いな。ついつい話し込んでしまった。というわけで、もう帰る事をお勧めしよう。帰りは下り坂とはいえ、時間がかかることは目に見えている。暗くなる前に帰って方がいいさ。ああ、これを渡しておこう。なに電話番号さ。今日は私がいたから良かったが、何せこれでも忙しい身だからね。いない時もある。もし次に聞きたい時があればここに連絡を入れてくれてばいいさ。そうすれば都合を合わせよう。ではまた、お茶でも飲みながらゆっくり話そう。

 

 

 

 

 

 

 帰ったか。久しぶりにこんなに話したね。そこで聞いている君たちも、暇つぶしには良かったんじゃ無いかい?多分、映像としてでは無く文字としてこちらを観察しているから、こちらの様子まではわからないようだけれど、話を聞く分には問題ないだろう?何故そちらが見ているのかわかったのか、だって?これでも、知識量が豊富だからね。監視を掻い潜る術は持っているし、見られていることには敏感だからねわかるのさ。そういうことにしておいた方がお互いのためだと思うよ。私の正体を突き止めても、何にもならないだろうからね?

では、そろそろお別れの時間だ。また、どこかで会おう。

 

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