「…錆びてる」
私の手には買い置きしていた弦がある。ギターの弦を張り替えようと思ったのだけど…よく見ると錆が付いてしまっている。『うーん』と少しだけ考えて窓に目を向ければ、しとしとと静かな音を立てて小雨が降っていた。梅雨入りしたから湿気で錆びちゃったのかな?…今度からはしっかりとした入れ物で保存しなきゃ…と考えつつ出掛ける準備をする。今日は定休日じゃないからお店も開いてるよね?
「ちょっと楽器屋さんに行って来るねー?」
「はーい!お風呂沸かしておくー?」
「うん、おねがーい!」
リビングで寛いでいる日菜ちゃんにそう伝えては何時もの雨傘を手に取りゆっくりとした歩調で歩き出す。傘に当たる雨の音、雨の日の雰囲気を楽しみ乍ら弦以外に買って置きたい物を決めておこっと…
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
「むぅ…」
小さく唸る私が見上げる先には商品棚の上段にあるギターの弦。うん…間違いなく届かない。…けど…!
「…!く…ぅ…!」
もしかしたらを願って背伸びをして全力で両手を伸ばす。両中指の指先が包装に僅かに触れるけどとてもじゃないけど取るのは難しそう…跳ねるのは流石に危ないし
「店員さんは…?」
ならばと店員さんに取って貰おうと思いレジカウンターを見るがタイミングが悪く裏に行っちゃったみたい。…台とかないよね…
「むぅ…」
もう数cm身長があれば…そう思いながら再び手を唸りながら伸ばすと横から別の手が出て来て私の指先に触れた
「きゃっ!?」
「あ、わりぃ。驚かせたか?…ほら、これ」
びっくりして声を漏らすと隣から低めの声が聞こえた、横を見れば金髪で強気そうな女性が立っていて…あれ?どっかで見た事が…?
「あ、ありがとうございます」
「いいよ、別に。隣のドラムスティックを見に来ただけだからさ」
取って貰ったギターの弦を買い物かごに入れ、思い出そうと思いじー…と彼女を見つめてしまう
「…どうしたんだ?…あれ、あんた確か…」
「ん-…」
思い出せないので今度は彼女の周りを回りながら色んな角度から眺めてみる。むむ…ドラムスティック…ドラマー…
「「あ…!」」
「氷川さん!」「佐藤さん!」
私はぽんっと手の平を鳴らし、佐藤さんは驚きながら私を見つめる。何処かで見た事ある…と言うよりは音楽雑誌で顔写真付きで紹介されているのを見た事がある。って、なんで私の名前を?
「っと、申し訳ないっす。その、動画の方で知っていて…」
「ふふ、そっか♪それじゃ…改めて、私は氷川夕凪。取ってくれてありがとうねー♪」
ぺこりっとお辞儀をして頬を緩めると照れた様子で頬を掻く佐藤さん。弾いてみたの動画で私の事を知ってるんだっ!…動画サイトって凄いね
「その、危なそうでしたし。…あたしの事は?」
「佐藤さんの事は音楽雑誌で見た事があって…ごめんね。思い出すのに見詰めちゃって…」
「い、いえ!別に嫌な気分とかしてないんで…大丈夫っすよ。後…ますきって呼んで下さい、氷川さんの方が先輩ですし」
「そう…?じゃ、そう呼ばせて貰うね♪」
「はいっす!」
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
「ったく、こんな日に折れなくてもいいだろー…ついてねぇ…」
そろそろ変えた方が良いかもしれないと思っていた矢先、不幸にも雨の日にドラムスティックがあたしの演奏に耐えられずに折れてしまった。慌ててドラムを確認し傷は無いので一安心したが…
「予備も無いし…明日買いに行くか?…いや、今日は思いっきり叩きたい気分だし。はぁ…買いに行くか」
予備を買い忘れていた自分に文句言い、気分的に今すぐ練習を再開したい事もあり楽器屋に行く事にした。本当は雨の日に出歩きたくねぇんだけどなぁ…
「…」
行きつけの楽器屋に入り、真っすぐドラムスティックが置いてある棚に向かう途中で小さい少女が懸命に棚の上に両手を伸ばしていた。…小学生ぐらいか?はぁ、両親と一緒に来いよなぁ…全く。そう思いながら隣に立ち取ってやろうと手を伸ばすと…タイミング悪く必死に手伸ばしていた少女の指があたしの手に触れた
「きゃっ!?」
「あ、わりぃ。驚かせたか?…ほら、これ」
声を上げる少女にやっちまったと思いながら声を掛けると丁寧にお礼を言われた。何て言うか…お嬢様っぽい雰囲気だな…?
「ん-…」
「…どうしたんだ?…あれ、あんた確か…」
急に黙って身長的に上目遣いであたしを見つめる少女に首を傾げる。…どっかで見た気が…物凄い最近…そう考えている間にあたしの周りを回りながら見つめて来る少女を見つめ返す、整った顔立ち…あたしから見ても可愛いと思う…何より翡翠色の髪と瞳に見た目には合わない落ち着いた雰囲気…あぁ?!
「氷川さん!?」「佐藤さん!?」
思い出した!?最近バズってる弾いてみた動画のRoseliaの紗夜さんとパスパレの日菜さんのお姉さんだ!?…って、なんであたしの名前を知ってるんだ?
「っと、申し訳ないっす。その、動画の方で知っていて…」
「ふふ、そっか♪それじゃ…改めて、私は氷川夕凪。取ってくれてありがとうねー♪」
ぺこりっとお辞儀をして頬を緩める夕凪に雰囲気も相まってドキっとしてしまう、思わず目線を晒し頬を掻いて誤魔化す。…めっちゃ綺麗な人なんだな
「その、危なそうでしたし。…あたしの事は…?」
「佐藤さんの事は音楽雑誌で見た事があって…ごめんね。思い出すのに見詰めちゃって…」
あの不思議な行動はあたしの事を思い出そうとしてたのか…何て言うか、子供っぽい所もあるんだな
「い、いえ!別に嫌な気分とかしてないんで…大丈夫っすよ。後…ますきって呼んで下さい、氷川さんの方が先輩ですし」
「そう…?じゃ、そう呼ばせて貰うね♪」
「はいっす!」
「えっと…少しだけ買い物に付き合って貰っても良いかな?その…」
申し訳なさそうにあたしにそう言って来る夕凪先輩に首を傾げると先輩は棚を見上げて…あ、そう言う事か
「大丈夫っすよ、このぐらい」
「ごめんね、ますきちゃん。ありがとー♪」
「このぐらい問題無いっすよ!」
さて、それじゃ移動してさっさと買ってしまおう。夕凪先輩を先頭に店内を歩こうとすると
「先輩…?」
「あれ?瑠唯ちゃん?」
キリっとした印象の女性が夕凪先輩に声を掛けていた…ん?先輩呼び?…どう見ても大学生の様に見えるけど
「知り合いっすか?」
「うん、後輩の瑠唯ちゃんだよー♪」
「お初にお目にかかります。八潮瑠唯とお申します」
「お、おう。あたしは佐藤ますきだ」
す、すげぇ固いな…てか、後輩ってマジか…どう見ても大人の女性って感じだぞ…
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
ますきちゃんに買い物を手伝いをお願いして一緒にドラム関係の棚に向かう途中で瑠唯ちゃんと会った、雨の日なのに意外と皆来るんだね
「なるほど…そう言う事でしたか、ありがとうございます」
「え?あぁ…別に構わないけど…」
「…何で瑠唯ちゃんがお礼を言うの?」
「私がもう少し早く来ていれば先輩が楽出来たと思いましたので…」
「もぅ…そんな事気にしなくても良いのに…」
苦笑いし乍ら一緒に店内を回る、確かこの辺だよね?
「お…このメーカー新しいの出したのか…いいな」
ドラムスティックの包装を手に取り真剣な表情で見つめるますきちゃん。私は邪魔にならない様に下の棚に手を伸ばし目的の手入れ用のワックスを手に取りかごに入れて隣の手入れ用の布を見に行く
「…こうやって直接見ると私の知識は浅いと分かりますね」
「ん-?これはお手入れ用のワックスだよー、塗装面に使うの♪」
「なるほど…バイオリンの手入れは職人に任せているので…やはり自分で手入れをする方が良いのでしょうか?」
「うーん。バイオリンは特殊だからメンテナンスは職人さんの方が良いかも…私達が出来るのは弦の張替えやお掃除だから、本格的なメンテナンスはお店に預けるんだよー?」
「…夕凪先輩。提案なんですが…バイオリンを始めてみませんか?楽器は私の方で用意しますので」
「ふぇ?私がバイオリンを…?」
「はい、どうでしょうか…?」
真顔で私を見つめて来る瑠唯ちゃんに驚きながらも少し考えてはこくりと頷く
「うん、やってみようかな?」
「…なら、用意出来ましたらお伝えします」
そう言うと頬を緩める瑠唯ちゃんに私もころころと笑って見せる、バイオリンかぁ…弾けるかな?ふと、お店の入口の方を見ると見慣れた二人が入って来た
「あ、ナギ姉だー!」
「あこちゃん?」
勢いよく飛んで来るあこちゃんをキャッチしすると苦笑いし乍ら巴ちゃんも近寄って来る
「こら、あこ!いきなり抱き着いたら危ないだろ?すみません、夕凪先輩」
「ぅ、ごめんなさい…」
「ふふ♪大丈夫だよー、日菜ちゃんで慣れてるし」
あこちゃんを叱る巴ちゃんにそう言いながらあこちゃんを少し撫でて離すとますきちゃんが戻って来た
「何かあったんっすか?…あ、Afterglowの宇田川さん!?」
「え?あ、はい…?」
巴ちゃんを見てますきちゃんが驚いた様子で声を上げ、反対に巴ちゃんは余り慣れていないのか首を傾げ乍ら頷いていた
「えっと、此方はますきちゃん。ドラマーで音楽雑誌で紹介されるぐらい演奏が上手なの」
「凄いな!あたしは宇田川巴、こっちは妹のあこだ。よろしくな!」
「そんな、まだまだ未熟ですよ!佐藤ますきっす!」
二人共似ている部分もあるし仲良くなれそうだよねー。そう思っててふと気が付いた
「…背が高いって良いなぁー…」
「ナギ姉?」
私とあこちゃんを除いて皆背が高い、数年もすればあこちゃんも背が伸びるだろうし…多分、Roseliaの中で一番背が伸びるかも?巴ちゃんの妹だし…むむぅ
「大丈夫です、夕凪先輩も…」
「待った、瑠唯」
何かを言おうとした瑠唯ちゃんを止めるますきちゃん。私に背を向けてこそこそ話し始めるのを後ろから眺める…会話の内容までは聞こえないけどね?
『気持ちは分かるが下手な事は言わない方が良いって』
『ですが…』
『これから急激に背が伸びるのは割と絶望的だからなぁ…期待されるとあたし達が辛い…』
『…そう、ですね』
ますきちゃんは苦笑いで瑠唯ちゃんは真顔で戻って来た、何を話してたんだろう?…巴ちゃんも苦笑いしてるし…??
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
皆で買い物をして別れると外は小雨から大雨に変わっていた。日菜ちゃんにお風呂を頼んでてよかった…
「あれ?」
傘をさして早歩きで歩いていると雨宿りをしている少女がいた。大人しそうな雰囲気で銀色のショートボブ…なんだか不思議な雰囲気のある子が困った様子で空を見上げていた
「…大丈夫?」
「え?は、はい…?」
思わず声を掛けるとびくっと跳ねて驚く少女ににこりと笑うと傘を差し出す。家も近いから走れば問題無いし…
「えっと…?」
「良かったらどうぞ、私の家は此処から近いから…濡れない様に気を付けるんだよー?」
戸惑っている少女の手に傘の持ち手を押し付けてはそのまま家に向かって走り出す、後ろから『あの…!』と聞こえたけど気にせず走る。急がないと私も濡れちゃうからごめんね!
ますき=直ぐに打ち解けた
瑠唯=バイオリンを教えたい
巴=意外と有名になってる事を知る
夕凪=身長…(クスン
少女=不思議ちゃん(中2)
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