翌日に控えたクリスマスライブのリハーサルでライブ会場を訪れている。各楽器の位置や音響、どの位の声量で声を出せば隅々まで歌声で満たせるのか…妥協せずにチェックし全てを終えた頃には太陽は傾き夜の帳が下りていた。疲れた身体を動かし急いで後片付けをしているとリサ達が近寄って来るのが見えた
「ゆーきな♪後片付けはアタシ達がしておくから早く帰ってあげて!」
「友希那さん!お疲れ様です!私達なら大丈夫ですよ!」
「お疲れ様…です。あこちゃんの言う通り大丈夫ですから…気にしないで下さい」
「でも…」
「友希那、今日は夕凪の傍にいてあげて?」
「…ありがとう、みんな。そうさせて貰うわね」
皆に頷いて控え室から裏口へと向かうと紗夜が立っていた、私を見ると小さくお辞儀をし
「姉さんをお願いします。友希那さん」
「大丈夫よ。起きてたら無理矢理にでも寝かせるから」
「すみません…」
「構わないわ、…私に気を遣ってくれてありがとう」
「このぐらい当然です。明日ライブが終わり次第見舞いに行きますので」
「分かったわ。必ず成功させるわよ」
「勿論です」
紗夜に『お疲れ様』と伝えて裏口の扉を押し開けようと力を込めると隙間から冷たい風が吹き込み頬を撫でる
「あら…寒い訳ね」
裏口から外に出て駐車場に向かえば月明かりに照らされた輝きが空から私に降って来る、手の平に触れると消えてしまう…夜空を見上げれば雪が降り始めていた。吐き出す吐息は白く鞄からマスクを取り出し身に着けると道を早歩きで歩く。今日はクリスマスイブの為、何処も賑わっており煌びやかな装飾やライトアップされた飾りが目を引く。電車に揺られ乍ら何時もの駅で降り、スーパーに寄っては夕食の食材を購入した
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
部屋の鍵を差し込み回せばカチャっと音を立てて鍵が外れる音が聞こえた、ドアを開けて入れば薄暗い廊下が見え微かに堰き込む声が手前の部屋から聞こえる。慌てて靴を脱ぎ捨て部屋に飛び込むと彼女が上半身を起こして私の方を向いていた
「あ…おかえりー、友希那」
「ただいま。大丈夫かしら…?」
辛そうな夕凪に近寄ると額を触る。じっとりと汗ばみ熱い…熱がまだ下がっていないのね。
「うん…朝よりはマシかな…」
「そう…ご飯は食べれる?」
「ん-…少しだけなら」
「わかったわ。お粥を作って来るから寝ていなさい」
弱々しく頷く夕凪をベッドに寝かせては調理する為にキッチンへと向かう。消化に良いお粥を作ろう、リサに頼んで料理が出来る様になっていて良かったわ…。
大学に入ってから夕凪と私は同棲を始めてる。もうすぐ3年目…だったかしら?私はRoseliaの活動と大学の勉強を夕凪は事務所の運営と大学の勉強を互いに頑張っている状態ね、…分からない所を教えて貰ったり作曲作詞の手伝いもして貰ったり…夕凪には頭が上がらないわね…そんな私の大好きな夕凪が今日の朝から熱を出して寝込んでしまった。今は冬休みだから大学は無いけど…正直、リハーサルに集中出来なかったわ。皆がフォローしてくれて…本当に感謝ね
「うん、美味く出来たわ」
「にゃ?」
「あら…ただいま。ぱんにゃ…♪」
「なー♪」
「ふふ、後で撫でさせてね?」
お粥を作り終えたタイミングで足首に一匹の小さな黒ぶちの猫が擦り付いて来た。パンダの様な柄の猫、と言う事でぱんにゃ。私と夕凪の言葉を時々理解している時がある不思議な猫よ、撫でさせてくれる様にお願いすると尻尾を揺らして小さく鳴きお気に入りのソファの上に飛び乗り丸くなった。お粥を一口食べ舌の上で転がす、不味くは無いはず…器に移しトレーに乗せては薬と水の入ったコップ…後はリンゴ味のゼリーも乗せ寝室に運ぶ
「出来たわ。…起きれる?」
「うん…ありがと。今ベッドから出るね」
「出なくて大丈夫よ。私が食べさせてあげる」
「ぅー…恥ずかしいのに」
そう言い乍らも嬉しそうに大人しくなる夕凪を優しく撫でる。体調の悪い時の夕凪は甘えたがりに変わるのよ?普段から甘えてくれればいいのに…
「あむ…」
「どうかしら…?」
夕凪の小さな口にスプーンを差し出すとぱくりと咥えたのを眺めゆっくりと引き抜く、緊張しながら待って居ると
「美味しいよ…♪」
「良かったわ」
美味しいと言って貰えてよかった…ほっとし乍らタイミングを見てスプーンを差し出しお粥が無くなるまで食べさせ続けた
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
「ありがとう。美味しかったよー♪」
「貴女の体調が悪いのだから作るぐらい当然よ。…身体拭く?」
「ん…お願いしようかな」
友希那の提案に少しだけ頬を染めて頷くと友希那も何処かソワソワと落ち着きのない様子で寝室から出て行った
「はふ…私ってこんなに体が弱かったかな…」
確かに昔から風邪を引いて熱になる事は多かったけど…高熱になる事が高校から多くなった気がする。むむ…栄養は偏っていないはずなのに
「準備出来たわ…どうしたの?」
「ううん、ちょっとだけ考え事…わっ」
「今ぐらい何も考えずに忘れなさい。良いわね?」
急に抱き締められて声を漏らし驚いてしまう。緩やかな友希那の心音を聞きながら優しく撫でられると無意識に擦り付いちゃう
「ふふ…猫みたいで可愛いわね」
「あぅ…でも、ありがと…♪」
「このぐらい当然よ。ほら、拭くわよ?」
「うんっ」
上着を脱いで友希那に背を向けると温かいタオルが押し当てられる、少し擽ったく感じる程ゆっくりと丁寧に動くタオルに身体を震わせちゃう
「擽ったいかしら?」
「少しだけね、でも大丈夫だよ」
「分かったわ。…そうね、手短に済ませないと寒いわね」
友希那の呟き声を聞きつつ大人しく拭かれていると不意に友希那の手が私の胸を揉み上げる様に触れて来る。びくり!と跳ね上がり慌てて顔を向けるとくすりと笑う友希那と目が合った
「あの…友希那?前は自分でやるよ?」
「あら、今更恥ずかしいの?色々したくせに…♪」
「あぅー…」
「ほら、私の方を向きなさい」
恥ずかしがる私を見てニヤニヤと笑う友希那に非難の目を向けるけど効果なし。寧ろ嬉々として手を近づけて来るので仕方なく指示に従う事に
♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪
ぱんにゃと一緒に夕食をとり、撫でさせて貰った後に入浴も済ませた。この後は普段なら曲作りやリサ達と通話アプリで話すけど…今日は真っすぐ寝室に向かう。ドアを開ければ明かりが点いており夕凪が本を読んでいた
「寝なくても大丈夫なの?」
「うん、寝付けなくて…明日の練習?」
「いいえ。今日は何もしない、貴女が心配だもの」
「ごめんね…タイミングが悪くて…」
「謝る事じゃないわ。誰でも体調は崩すし甘えて来る貴女も好きよ」
「もー…恥ずかしい事ばかり言う…」
「あら、そうかしら?」
「うん…それじゃ、一緒に寝て欲しいな」
「喜んで…♪」
夕凪の隣に潜り込むと彼女を抱き締める。柔らかく良い香り…腕の中で上目遣いで見つめて来る夕凪の額に口付けをしてはぺろぺろ…と毛繕いの様に舐めてあげると可愛らしい声が聞こえた
「んぅ…私病人だよ?」
「つい魔が差したのよ。だって、可愛いんだもの」
「あぅー…元気なら反撃するのに」
「反撃されない今はやりたい放題ね」
ゆったりと夕凪を撫で回し続け歌を口遊む、夕凪に作った曲だから誰にも聞かせていない歌
「♪~♫~」
「…良い歌だね」
「気に入って貰えたかしら?」
「うん…曲名は決まってるの?」
「『一逢のFull Glory』…そう付ける事にしたわ」
「ふふ…詞にぴったりだね」
ふにゃふにゃに笑う夕凪をしっかりと抱き締めると緩んだ両腕で抱き返して来る彼女に私の頬も緩んでしまう
「明日…本当は絶対行くねって言いたいんだけど、まだ分からないから…」
「夕凪…」
「ライブ、楽しんで来てね…♪」
「えぇ、勿論よ」
「春になったら…桜、見にいこっか…♪お弁当持ってぱにゃちゃん連れて…♪」
「そうね…でも、まだ気が早いわよ?」
「えへへー…♪」
そこで会話が途切れると静かな寝息が聞こえて来た、夕凪の手を優しく握り私も目を閉じる。明日のクリスマスライブは特別気合を入れて臨もう。後で映像を見た貴女が驚くぐらい完璧な物に…
あの時、私は貴女に会えて本当に良かったと今でも思ってる。…此処まで貴女を好きになるなんて思っていなかったけど…ね。…大好きよ、夕凪
友希那=夕凪にデレッデレ,孤高と言われたのはもう昔
夕凪=後日,仕事の量を徹底的にスタッフに管理された
ぱんにゃ=定位置は夕凪の頭の上
感想及び評価ありがとうございます。誤字報告、大変助かっております。
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活動報告 リクエスト箱
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=295397&uid=311928
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番外編 リクエスト
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=297771&uid=311928