氷川さん所のゆるふわなお姉ちゃん   作:雪月-dox-

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にゃーんちゃんからの勧誘

まりなさんに呼ばれて慌てて受付に戻ると、そこには見慣れた銀髪の少女が腰を下ろしていた。

 

湊友希那――この場所で何度も顔を合わせ、毎度のように言われる台詞は今日も変わらない。

 

 

「私と、バンドを組みなさい」

 

「うぅ…やっぱり、それ来たかぁ…。ごめんね、私、やっぱりバンドは組めないんだ」

 

 

微かに困ったように笑いながら、やんわりと断る。

友希那ちゃんは少しだけ視線を逸らし、納得のいかない様子で言葉を返してくる。

 

 

「どうしたら組んでくれるのかしら?…やっぱり、何か理由があるのね」

 

「ううん、別に特別な理由ってわけじゃないよ。ただ――バンドよりも優先したいことがあるの。中途半端な気持ちで友希那ちゃんのバンドには入れない。だから、ごめんね」

 

 

その言葉に一拍だけ沈黙が落ちてから、彼女はため息交じりに呟いた。

 

 

「貴女を本気にさせる自信、あるのだけど。…はあ、本当に頑固ね」

 

「それ、お互い様じゃないかな?…あれ、私も頑固?」

 

 

自分の言葉に思わず首を傾げていると、友希那ちゃんの視線がこちらの前髪にある髪飾りに注がれているのに気がついた。

 

 

「…これが気になるの?」

 

「っ…べ、別に。何となく見ていただけよ」

 

 

ふふ、と笑ってカウンターの奥から小さな箱を取り出す。そっと蓋を開け、彼女に差し出す。

 

 

「はい、これ。友希那ちゃんに似合うと思って、作ってみたんだ」

 

「……ありがとう。よく出来てるわね」

 

 

それは、月を見上げて尻尾を揺らす猫を模した黒い髪飾り。私のは翡翠色だけど、彼女の銀髪には黒の方が映えると思って――趣味の裁縫の延長で作ったもの。

実は紗夜ちゃんや日菜ちゃんの分も、既に用意してある。

 

 

「そうだ。…この日のこの時間、またここに来てみて?」

 

「…にゃーんちゃん……はっ!?コホン。何よ、いきなり」

 

「ふふっ、きっと気に入るギタリストが現れるから、って話♪」

 

 

首を傾げながらも、彼女は真剣に時間をメモしていく。

紗夜ちゃんを直接誘ったら勢いで頷きそうだから――あえて、彼女に任せる。きっと相性は悪くないと思うんだけどな。

 

 

「分かったわ。…でも、私、貴女のことはまだ諦めてないから」

 

「ふふ、もっと素敵な人がきっと見つかるよ?」

 

「少なくとも、この辺りには見当たらないから誘ってるのよ」

 

 

少しだけむくれたような表情の友希那ちゃんに、思わず苦笑い。本当に、この子も不器用なんだから――。

 

 

「夕凪ちゃーん! もう上がって大丈夫だよー! 雪、積もってきちゃってるから!」

 

「え、でも閉店までは……」

 

「今日は人も少ないし、一人でも平気! 暗くなる前に帰って帰って!」

 

 

まりなさんの言葉に頭を下げてロッカーに向かおうとしたその時、ふと思い出す。

 

 

「あっ、友希那ちゃん! ちょっとだけ待っててくれる?」

 

「え? えぇ……。転ばないでね」

 

 

何か小さく呟かれた気がしたけど聞き流して、そのままスタジオへと駆ける。

扉を開けると、スマートフォンを見つめたままぼんやりしている姿があった。

 

 

「ごめんね、待たせちゃって。…お家、送っていこうか?」

 

「ひゃっ!? え、えっと……お仕事は……?」

 

「雪の影響で早上がりになったの。暗くなってきたし、危ないから…どうかな?」

 

「…お、お願いします」

 

 

少しだけ俯いて、それでも確かに頷いたましろちゃんの姿が、どこか頼もしく見えた。

ロビーに戻ると、友希那ちゃんは既に猫特集の雑誌を閉じてこちらを見ていた。

 

 

「着替えるのでしょう? 待っているから、早く行きなさい」

 

 

その声に小さく笑いながら、私はロッカーへ向かった。

 

 

 

♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪

 

 

 

「お待たせ、帰ろっか♪」

 

「そ、そんなに待ってないので大丈夫です…!」

 

「……今日は冷え込みそうね。明日が憂鬱だわ」

 

 

CIrcLEを出て、ましろちゃんと友希那ちゃんと合流。三人でゆっくりと歩き始める。

夜の街に雪がしんしんと降り積もる中、いつもの見慣れた道が少しだけ違って見えた。

 

道すがら、自己紹介や今日二回目となる友希那ちゃんからのバンド勧誘(そしてやんわりと断る私)、さらに――

 

 

「…その、友希那さんの言葉って、時々すごく真っ直ぐで……」

 

 

ましろちゃんが頬を染めながら小声で呟いてる。どうしたのかな?

 

 

「そう、バンドを始めるのね」

 

「はい。…まだ何も分からないので、今は勉強して、高校に入ってからメンバーを探そうって思ってます」

 

「色んなバンドの演奏を聴いたり、ライブを見たりすると良いわ。自分のやりたい方向が見えてくるはず」

 

「スタジオの予約とかは私に言ってくれれば取ってあげられるし、来たらお話ししながら実際に演奏とかもできるし♪ もちろん、私と練習してもいいしねっ」

 

 

受験も、音楽も。ましろちゃんが両方頑張るって聞いて、つい二人で応援モードに。

 

 

「にゃーんちゃん……」

 

「可愛いよねー♪」

 

「友希那さんも……ギャップ属性……?」

 

 

ペットショップの前で猫にロックオンされてしまった友希那ちゃん。

必死に誤魔化そうとする様子に、ましろちゃんが涙目になるまでツッコみが止まらなくて、私が慌てて止めることに。

 

 

「な、生野菜……ですか?」

 

「意外ね。甘い物って言うかと思ったわ」

 

「そうかな? サラダ、美味しいよ?」

 

 

好きな食べ物の話題に、ましろちゃんは何とも言えない顔。

そして友希那ちゃんは明後日の方向を見て、目を合わせてくれない。

……あれ? 二人とも、もしかして野菜がちょっと苦手?

 

 

「…あ、私はここで。今日は本当に、ありがとうございました…!」

 

「また会おうね♪ 滑らないように気を付けてー!」

 

「私も、気が向いたら……手伝ってあげるわ」

 

「はいっ!」

 

 

ましろちゃんと出会った橋のところで手を振って別れたあと、私は友希那ちゃんと並んで歩き出す。

 

雪は変わらず、静かに、優しく降り続けていて。

街灯に照らされた雪の粒がきらきら光って、とても綺麗。

 

 

「何を見てるの?」

 

「あ、ごめんね。……私、雪が好きなの」

 

「雪が? 私は……どちらかといえば不便さを感じる方が多いわ」

 

「ふふ、だよね。普通はそう思うかも」

 

「……やっぱり、夕凪は変わってるわね」

 

「えー、それ言うなら、変わり者を勧誘してる友希那ちゃんも変わってるんじゃ?」

 

「私の場合は目利きってだけよ。……どうせ雨も好きって言うんでしょう?」

 

「……うん。雨を見ると、ちょっと辛いこと思い出すけど……でも、大切な思い出もあるから。好きだよ」

 

 

雨。あの日の記憶。

一度はバラバラになってしまったものが、また元通りに戻れた、奇跡みたいな日のこと。

 

 

「……夕凪?」

 

「あっ、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」

 

「……すごく優しい顔をしてたわよ」

 

「え?」

 

「……なんでもないわ」

 

 

そっか、残念。って笑ったら、友希那ちゃんがじっとこちらを見つめてきた。

不思議そうに首を傾げた私を見て、ふと口を開く。

 

 

「さっきの言葉、訂正するわ。変わり者じゃなくて……不思議な人って印象ね。年上のような雰囲気があるのに、妹みたい」

 

「えっ、それ身長の話ならちょっと怒るよ?」

 

 

ぷいっとそっぽを向いたら、横からクスクスと笑い声が聞こえてくる。

 

 

振り向くと、友希那ちゃんが珍しく、声を出して笑ってた。

その顔が何だか悔しくて、私はそっと耳元で囁く。

 

 

「今度会ったら、青汁飲ませるからね?」

 

「……っ!?」

 

 

ピタリと笑いが止んだ。効果てきめん♪

 

 

「……なんでかしらね。貴女と一緒にいると、気が楽になるのよ。にゃーんちゃんたちとは、また違う……癒し、というか」

 

「ん~? 何だってー?」

 

「……なんでもないわ。また会いましょう。そのときは――組んでもらうわ」

 

「バンドは無理だけど、セッションなら大歓迎だよ?」

 

 

さすがに毎回断るのは心苦しくて、私なりの提案をしてみたら、彼女は少し驚いたように目を丸くして、ふっと微笑んだ。

 

 

「ふふ……。貴女ほどのキーボード奏者となら、良い練習になるかもしれないわね。……ボーカルとしてのレベルも高いし」

 

「ふふっ♪ じゃあまた今度、受付で待ってるね」

 

 

夜の街に、粉雪が静かに降り積もっていく。

この寒さが、ほんの少しだけ優しく感じるのは――たぶん、今のこの時間が温かいからなんだろう。

 

 

 

♪♬♫♫♬♪♬♫♫♬♪

 

 

 

そう言って友希那ちゃんと別れた後、近くのスーパーに寄り道した。そこで、偶然喫茶店のマスターと出会い、軽く世間話を交わす。穏やかな時間が流れた後、家に帰れば、いつものように日菜ちゃんミサイルが飛んできた。

 

撫で回しながら居間へ向かうと、紗夜ちゃんが「……ああ、いつもの」と言いたげな表情でギターを磨いていた。

 

 

「ただいまー」

 

「お帰りなさい、姉さん。……日菜?」

 

「はぁ…はぁ…今日はいつもより激しかった……」

 

 

気合を入れて撫で回し過ぎたせいか、ぐったりした日菜ちゃんをソファに転がし、私は手早く夕食の準備に取り掛かる。紗夜ちゃんも手伝ってくれて、すぐに完成。献立は、わかめの味噌汁と鶏胸肉の簡単なソテー、少しのフライドポテトとサラダ。

 

食べ終わったら、約束の時間までにお風呂を済ませて、のんびりくつろぐ予定。日菜ちゃんは「アロマオイル作るー!」と言い残し、自分の部屋へ行ってしまったので、居間には紗夜ちゃんと私だけが残った。

 

 

「早いね……NFOに行くの?」

 

「うん。フレンドから誘われたから、約束の時間までゆっくりしようかなって思って」

 

 

ソファに座って犬の動物番組を見ていた紗夜ちゃんの背中にそっと抱きつき、肩に顎を乗せる。

 

 

「ふふ、可愛いね♪」

 

「えっ、えぇ……そうね……飼えないのが残念だけど」

 

 

そのまま一緒に番組を眺めていると、約束の時間が近づいてきた。

紗夜ちゃんをなでなでしてから、気合を入れて部屋へ向かう。




友希那=連日不思議オーラを浴びて軟化。疎遠になって居た幼馴染に久しぶりに連絡を取る
友希那のお隣=翌日から一緒に登校する約束をされて大喜び
ましろ=友希那さんの勧誘が完全に告白
日菜=激しく撫で回されてぐったり、でも癖になっちゃう
紗夜=風呂上り、至近距離(耳元)、密着から体重載せ、付けてない、付けてない!?
夕凪=寝る時は付けてない

感想及び評価ありがとうございます。誤字報告、大変助かっております。
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