Side:Izuku
「よし、潜入成功!」
「死角が多いから気をつけよう……」
麗日さんと共に一階の窓からビルに潜入した。屋内は電灯が点いていなくて、窓際はまだ外の光が入るけど奥の方はそれほど届かないからよく注意しないといけない。
……こんな狭いところだと調整が甘いことを差し引いてもOFAを迂闊に使うことはできない。
なんとか、敵側に察知されずに核の場所を把握したいけど……かっちゃん達がどう動くか。思考をフルで回せ……。屋内……狭い中での戦いの記録。
思い出せ!!!
そう考えながら、一階の様子を見ながら上へ行く階段を探していると……。
バッ!! BOOM!!!
「うわ!!」
やっぱり来た!!
「かすった……! 麗日さん大丈夫!?」
「うん! ありがと」
かすった打撃でマスクの左半分がちぎれた! いくら訓練とはいえ、ここまで躊躇なく個性を使ってくるなんて……。
「おいデクこら! 避けてんじゃねえよ」
「やっぱり。かっちゃんが敵なら、まず僕を殴りにくると思った!」
かっちゃんが爆破した瓦礫をどかしながら、こちらへ向かってくる。……オールマイトは『敵の思考を学ぶように』って言ってたけど、もう十分に敵の姿だよかっちゃん!
「中断されねえ程度にぶっ飛ばしたらぁ!!」
かっちゃんが大きく右腕を振りかぶる。
今だ!!!
ガシィ!!
「なっ!?」
右腕の引きに合わせるように素早く懐に潜り込む。左手で右腕を掴み、踏み込みながらかっちゃんの胴に右肘をぶつける。
「ぐっ!?」
さらにぶつけた反動で左手を引き、そのまま一本背負い投げを喰らわせる!
「はあっ!!」
「ガハッ……!?」
「デクちゃんすご!! 達人みたい!」
よし! なんとか対応できた……。
「てめえ……! 一体何しやがった!?」
「かっちゃんは……大抵最初に右の大振りなんだ。どれだけ見てきたと思ってるの……!
「なんだと!?」
それだけじゃない。分析だけじゃかっちゃんの動きの速さについていけなかった。ナイトアイさんの助言、ミリオさんとの特訓が僕に予測と動きを与えてくれた!
「いつまでも『雑魚で出来損ないのデク』じゃないぞ……。かっちゃん、僕は……」
麗日さんが僕の『名前』に新たな意味を与えてくれた!
「『頑張れって感じのデク』だ!!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Katsuki
「『頑張れって感じのデク』だ!!」
クソ!! やられた! デクに完全に読まれた!! あいつ、いつの間にこんな動きを身につけやがった!?
「ムカつくなあ……!」
俺が知らない間に!!
「ムカつくなああああ!!!」
「オイ爆豪君!! 状況を教えたまえ! どうなってる!?」
クソメガネが通信機で話しかけてくる。ただでさえムカついてんのに話しかけんじゃねえ!
「黙って守備してろ……!ムカついてんだよ俺ぁ今ぁ……!!」
「気分聞いてるんじゃな……」
ぐちぐちうるせえ!
デク! てめえの立場をもう一度わからせてやる!
どちらが上かってことをな!
ここでぶっ潰す!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「アイツ何話してんだ? 定点カメラで音声ないとわかんねえな」
切島鋭児郎が疑問を口にする。モニターには臨戦体制をとり続ける出久と激しく感情を露にする勝己が写っているが、声が全く聞こえない。音声はオールマイトが装着するイヤホンだけに聞こえるように設定しているようだ。
「小型無線でコンビと話してるのさ! 持ち物は+建物の見取り図、そしてこの確保テープ! コレを相手に巻き付けた時点で『捕えた』証明となる!!」
「制限時間は15分間で『核』の場所は『ヒーロー』に知らされないんですよね?」
「Yes!」
「ヒーロー側が圧倒的不利ですねコレ」
芦戸三奈の質問にオールマイトが答える。ヒーロー側に不利な状況というのは現実にも起こり得る。そんな状況を常に想定し在学中から経験することは雄英に限らず、ヒーロー科に共通する方針となっている。
「まあ、それは仕方ない。実際の現場はこれ以上に不利な状況もあるからね。それに相澤君にも言われたろ? アレだよ、せーの!」
「Plus U「あ、ムッシュ爆豪が!」
青山の空気を読まない言葉にオールマイトも他の者も一瞬固まるが、モニターに視線を移すと勝己が爆破で一気に距離を詰めて出久に襲い掛かっていた。
出久は顔を守るようにガードを上げるが、それを察知した勝己が攻撃箇所を変更して右側頭部に左足で蹴りを浴びせる。なんとか間に合ったガードの上からでも衝撃が強く、出久の体がよろけるが手に持っていた確保テープを勝己の左足に巻き付けようとする。確保されまいと勝己も身を翻し、同時に右手で爆破を浴びせるが出久もギリギリでこれを躱す。一進一退の攻防に地下室にいる者の目はモニターに釘付けとなっていた。
「すげえなあいつ!!」
「『個性』使わずに渡り合ってるぞ! 入試一位と!」
砂藤力道と瀬呂範太が出久の動きに声を上げる。爆破という攻撃力に優れた個性に一歩も引かず、なおかつ個性を使わずに対応している出久に多くの生徒が持っていた、個性把握テストでの印象が少しづつ変わっていく。
「(元々咄嗟の判断に優れていたっちゃ優れていた! 少女が何年にも渡って書き溜めて……頭に染み込ませたであろうオタク知識! それにナイトアイや通形少年から学んだことが組み合わさって今、報われているんだ!!!)」
オールマイトが見るモニターの中では、互いの動きを読み合う出久と勝己が映っている。
「(それにしても……、やはり爆豪少年は少し危ういな。緑谷少女から聞いた感じは自尊心の塊なんだろうが……。肥大化しすぎているぞ……ムムム……!)」
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
なんとか攻撃の読みは当たってるけど、動きそのものが早いから捌くのがだんだんキツくなってきた。
「やるじゃねえか! 中学ん時はあんなに運動音痴だったくせによお!」
ちょっと! もはや鬼の形相だよかっちゃん!? ヒーローがしちゃいけない顔だよそれは!
「それとも、俺にずうっと隠してたのか!? ああ! さぞ楽しかっただろうな! 俺を騙してなあ!! 『個性』もそうなのか!? なあデクよお!」
……騙していたことなんてないよ! 確かに僕は何もできない『木偶の棒』だったけど、あの日から! ナイトアイさんに会った日から! オールマイトに会った日から! 変わろうと、ヒーローになれるように努力してきたんだ! 昔からなんでもそつなくできたかっちゃんとは違うけど、『ヒーローになりたい』って気持ちなら絶対負けない!
でも、やっぱり正面から張り合うのは厳しい。それに核と飯田君の場所は麗日さん突き止めてもらわないと! ここは一旦引いて作戦を考えなきゃ!
「な!? デクてめえ逃げんじゃねえ!」
……それにしても、思った通りかっちゃんと飯田君の連携、上手くいってないみたいだ……。勝機があるとすればそこ、僕と麗日さんで2対1の状況を作れるかどうか。それまで、なんとかかっちゃんにやられないようにしないと。
頼んだよ、麗日さん!
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出久と分かれて、麗日は上階を目指していた。始まる前の出久との打ち合わせで「核を1階に配置するのはほぼあり得ないから上の階に進もう」と決めていたからだ。勝己が単独で突っ込んでくることは……出久しか予測していなかったので二手に分かれることとなってしまった。幸い、出久が勝己を引き付けてくれたおかげで麗日は各階をスムーズに探索でき、そのままビルの5階に着いた。注意深く探っていると、核の前で待機している飯田の姿を発見した。
「(飯田君と核発見! あとはデクちゃんが来るまでに見つかんないように……ん?)」
見つからないように麗日が柱に身を潜めていると飯田の方から声がする。耳を澄ませてみると……。
「爆豪君はナチュラルに悪いが、今回の訓練に関しては的を射ているわけだ……。ならば僕も敵に徹すべきなのだ。そうだ、これも飯田家の名に恥じぬ立派な人間になるための試練! なりきれ!! ……俺はぁ……至極悪いぞぉお!」
「(真面目や!!) ブフッ!」
飯田なりに敵になり切ろうとしているが真面目さが滲み出てしまっており、その滑稽さに耐えきれず麗日は吹き出してしまった。
そのため、麗日は飯田に見つかってしまった。
「来たか、麗日君! 君が1人で来ることは爆豪君が飛び出した時点で予測していた! 触れた対象を浮かせてしまう『個性』、対峙する側として非常に厄介だ! だから先程……、対策としてこのフロアの物は全て片付けておいたぞ!」
「な!? 私らが大変な時に1人で片付けしてたの!? あかん、想像したら……ブフッ!」
「君も大概失礼だな! だが、これで小細工できないだろう! ぬかったなヒーロー!! フハハハハハ!!」
「様になってる!!」
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Side:Katsuki
『出久ってデクって読めるんだぜ!! んでデクってのは何もできねーやつのことなんだぜ!!』
『かっちゃんやめてよぉ……』
ガキの頃から鈍臭いやつだった。
『すげえ! かっちゃん何回跳ねた!?』
『7だぜ! デクは!?』
『0回……』
何もできねーくせにチョロチョロと着いてきやがった。
『ヒーロー向きの派手な『個性』ね、勝己君!』
『デクって『個性』がないんだって』
『ムコセーっていうんだって』
『ダッセー』
さらに無個性だった。どう考えたって俺より下の存在だった。
『かっちゃん落ちた!』
『おーい、大丈夫かー!?』
『大丈夫だろ、かっちゃん強えもん』
『おー、ヘーキヘーキ!』
……なのに。
『大丈夫? 立てる? 頭打ってたら大変だよ?』
あいつは自分が汚れるのも構わず、自分も危ないかもしれないのに、俺に手を差し伸べてきた。
……ここで使う気はなかったが、『こいつ』で思い出させてやる。
俺とお前の『
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
『もしもしデクちゃん!』
「麗日さん! 状況はどう!?」
『飯田君に見つかっちゃった! ごめん! 今ジリジリと……』
「場所は!?」
『5階の真ん中フロア!』
ここのほぼ真上だ! もう時間もそんなにないハズ! タイムアップは敵側の勝ちだ!
ここは勝負に出るしかない!
「見つけたぜ、デク!」
……しまった、かっちゃんに見つかっちゃった! 先に麗日さんと合流したかったのに!
「せっかく発現した個性、なんで使わねえ? 舐めてんのか?」
使いたいのは山々だけど、調整ミスったら君が死んじゃうんだよ! でも、もうそんなこと言ってられない! なんとか状況を整えれば……やれる! やれるさ!!
「……ここぞというときに使うからだよ!」
「……なるほど、奇遇だな…俺も同じようなこと考えてたぜ」
「え?」
同じようなこと? 一体何を……?
「てめえならもう知ってんだろうが、俺の爆破は掌の汗腺からニトロみてえなもん出して爆発させてる」
……? それは知ってる。小ちゃい頃から見続けてきてヒーロー分析ノートにも書いてある。でも、それが一体?
「『要望』通りの設計なら、この籠手はそいつを内部に溜めて……」
え!? それってまさか!!
『爆豪少年、ストップだ! 殺す気か!』
「当たんなきゃ死なねえし、死なねえ程度に加減してやるよ!」
オールマイトの制止を聞かず、かっちゃんは籠手の放出口を僕に向けて、ピンを引いた。
ピン! ドオオォォォン!!!
「な、なんて威力!? こんなのアリなの?」
かっちゃんが爆破を凝縮して放った1発は凄まじい破壊力で、僕らのいるビルは1階から3階にかけての壁や床が吹き飛んでしまった。
絶対手加減してないでしょ!
「はは! すげえなおい! 自分でも驚きだぜ。てめえも個性を使ってこいよ。全力のてめえをねじ伏せてやる!」
『爆豪少年。次
オールマイトから厳重注意が入る。
当然だ! いくら敵でも自分達の拠点を潰しかねない攻撃なんてしないし、ヒーロー側も無闇に敵を殺しちゃダメだし人質がいるかも知れないからこんな破壊はあり得ないよ。
「っくそ!? なら、殴り合いだ!」
「麗日さん、窓側柱に! また後で!」
「余裕かましてんじゃねえ!」
く! だめだ、ダメージが残ってて避けられない! 攻撃場所を予測して、カウンターを!
……今!
ボン!
な!? 爆破で目眩し!?
ボボン!!!
「ガハッ!?」
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「目眩しを兼ねた爆破で軌道変更、そして即座にもう1回……、考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」
「慣性を殺しつつ有効打を加えるには左右の爆発力を微調整しなきゃなりませんしね」
「才能マンだ才能マン、ヤダヤダ」
A組の推薦合格者、轟焦凍と八百万百が勝己の動きを分析し、上鳴が嫉妬の混じった感想を述べる。それほどまでに勝己の動きと個性の扱いは並外れていた。勝己はうめく出久にさらに追撃を加えていく。右手で出久の右腕を殴りつけ、そのまま掴み爆破で回転・加速させて地面に叩きつけた。
「リンチだよコレ! テープを巻きつければ捕えたことになるのに!」
「ヒーローの所業に非ず……」
「緑谷もすげえって思ったけどよ……、戦闘能力において爆豪は間違いなくセンスの塊だぜ」
芦戸、常闇踏影が勝己の容赦ない攻撃に非難の声を上げるが、上鳴の言葉がそこにいる者の考えを代弁していた。
「逃げてる!」
「あんなにやられたら仕方ないぜ。しかし変だよな……。緑谷は個性使わねえし、爆豪は爆豪で押してるはずなのに余裕なさそうだし」
『とっとと個性使ってこいや! 俺を舐めてんのか!? ガキの頃からずっと!! そうやって!! 俺を舐めてたんかてめえはぁ!!!』
『違うよ! 君が凄い人だから、勝ちたいんじゃないか!!』
「(これ以上は危険だ! 止めるべきだ!! だが、止めて
オールマイトだけが通信機を通じて2人の会話を聞いている。教師として危険であることはわかっているが、幼い頃から続く2人の複雑な関係を感じ取り、このまま止めることもまた正しいとは言えないのではと思い、中止の判断を取れずにいた。
『勝って!! 超えたいんじゃないかバカヤロー!!!』
『その面やめろやクソナード!!!』
「(『ヒーローになる』以外で初めて見せる激情!! きっと君の、君たちの見据える未来にこれは必須なんだろう!?)」
2人が同時に振りかぶり接近する。互いに個性を使った攻撃で相討ちとなれば、どちらも無事では済まない。
「先生!! やばそうだってコレ! 先生!」
「(確かに、これ以上はまずい! すまん緑谷少女、爆豪少年!)双方……! 中止……!」
出久と勝己、2人が交錯しようとしたその瞬間!!
『麗日さん行くよ!!!』
「!?」
出久から麗日への合図が告げられた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
「麗日さん行くよ!!!」
『はい!』
かっちゃんにはまだ、タイマンでは敵わない!!! だから……
右手の軌道をストレートからアッパーに変えて、今だ!
「DETROIT SMASH!!!」
「喰らえ!!!」
BOOOM!!!
ボゴオォォォン!!!
ぐあ!?
両腕が、痛い! 右腕はOFAの反動で、左腕はかっちゃんの爆破をモロに受けたからだ……。左腕は折れてはいないだろうけど、しばらくは動かせないなこれは。
麗日さんはどうなった!?
『飯田君! ごめんね、即興必殺技! 彗星ホームラン!』
「ホームランではなくないかーーーーー!?」
麗日さんの声が通信機越しでも遠くに聞こえる。まだ意識を切らすな! 勝敗はまだ決まってない! ……それにしても、飯田君の声大きいなあ……。麗日さんの声より聞こえるなんて……。
『回収!!!』
「ああーーー! 核ーーーーー!!!」
……やった。麗日さんがやってくれた。正直言って作戦と言える作戦じゃなかったけど、なんとか上手くいった。
「てめえ……! はなっからそういうつもりで! やっぱ舐めてんじゃねえか……!!!」
意識が朦朧とする中、かっちゃんが怒った声を僕に向ける。
「使わないつもりだったんだ。調整が上手くいかないと身体が衝撃に耐えられないから……。相澤先生にも言われていたんだけど……。でも、かっちゃんに勝つには……これしか思いつかなかった……」
『ヒーローチーム、ウィーーーーーーーーン!!』
勝敗を告げるオールマイトの声が遠くに聞こえる。
ああ、もうだめだ……。立ってられない。
そのまま倒れ込む僕の体を誰かが受け止めてくれるのを感じながら、僕は意識を手放した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Katsuki
『ヒーローチーム、ウィーーーーーーーーン!!』
……負けた。
動きや攻撃を読まれて、それを逆手に取られた戦略で最後の1発しか個性を使ってねえデクに負けた……。
俺が! デクに!
視線をデクに向けると、緊張が切れたのか、意識を失って前のめりに倒れかかる。
咄嗟に身体が動き、デクが倒れる前に受け止めることができた。
……中学ん時より筋肉は付いているが、それでも俺より小さく細い身体。
こんな、こんな奴に! 『 奴』に負けるなんて!!!
俺は……、俺は!!!
「戻るぞ爆豪少年。講評の時間だ」
いつの間にかオールマイトが来ていた。
「勝ったにせよ負けたにせよ、振り返ってこそ経験ってのは活きるんだ」
そんな必要はねえ! 俺はこいつに! 石ころだと思ってた奴に負けたんだ!
「それから、倒れる緑谷少女を支えたこと、ナイスだったぜ」
…………うるせえ、そんなんどうでもいいわ……。
気を失ったデクがロボに搬送されるのをオールマイトと見届けてから、俺は他の奴らのところへ連れていかれた。
「それでは講評の時間! まあつっても、今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」
「なな!!?」
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「何故だろうな〜〜〜〜〜? わかる人!!?」
講評が始まった。オールマイトの問いにポニテ女がつらつらと理由を述べていくが、俺にとってはそんなものはどうでもよかった。
デクに負けた。
この事実だけが俺の頭の中にあった。ガキの頃からあいつに、いや、あいつ以外の周りの連中にも負けたことはなかった。俺以外の連中はみんなモブだった。みんなが俺に歯向かうことなく、愛想笑いや上辺だけの付き合いをしていた。
デクだけは違った。俺がどんなにヒーロー目指すのやめろって言ってもやめなかった。無個性で力もなくて弱っちくて泣き虫だから反抗はしなかったが、自分を曲げることはしなかった。
……そんなデクに、負けた……。
「よし、それじゃあ第2戦目いってみようか!」
講評が終わり、次の訓練が始まる。
全ての訓練が終わった。普段だったら他人の個性なんて気にしねえが、負けたことでメンタルが弱ってて全員の個性が俺より優れたものに思えた。中でも氷の奴とポニテの奴の個性、鳥頭の個性は抜きん出ていた。
……俺はこいつらに、勝てるのか……?
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
気づいたら保健室にいて、すぐリカバリーガールに怒られた。
「ポンポン身体を壊すんじゃないよ。私の個性は本人の治癒力を底上げするだけでなんでも治せるわけじゃないんだよ。治癒自体に体力もいるからあまりに頻繁だと回復が間に合わず最悪死ぬよ!」
入学前も含めて既に三度お世話になっているため、ひたすら謝ることでなんとか許してもらった。
あまり急激に治癒力を高めると僕自身が危険なので日数をかけて治癒を進めることになった。……お母さん、びっくりしちゃうだろうな……。
保健室を出ると、放課後であるからかあまり生徒は残っていないようだった。なんとか歩けるまでは回復したけど、今後もこんな怪我を続けるわけにはいかない。リカバリーガールだけじゃなく、相澤先生からも何か言われるだろうし、なんとかOFAのコントロールを上達させなくちゃ! ミリオさん今度いつ特訓できるかな? ナイトアイさん達にも会いたいなあ……。
「おお、緑谷来た!!!おつかれ!!」
そんなことを考えながら教室に着くと、赤い髪が特徴的な切島君、だったかな? 彼が僕に声をかけてきた。それを合図にクラスのみんなが近づいてきた。放課後なのに、こんなに残ってたの!?
「いや何喋ってっかわかんなかったけど、アツかったぜおめー!!」
「よく避けたよー!」
「一戦目であんなのやられたから俺らも力入っちまったぜ」
わわ!? こんなに人から話しかけられること、マスコミの人たちに囲まれた時以来かも!
(※幕間1、2参照)
「俺ぁ切島鋭児郎。今皆で訓練の反省会してたんだ!」
「私、芦戸三奈! よく避けたよーーー!」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「俺! 砂藤!」
皆自己紹介しながら訓練のことを褒めてくれてる。こんなことなかったから、なんだかこそばゆい感じ。
「騒々しい……」
「麗日、今度飯行かね? 何好きなん?」
「おもち」
「机は腰かけじゃないぞ! 今すぐやめよう!」
他の皆も周りで色々話してたみたい。……飯田君相変わらずブレないなあ。
「……あれ!? デクちゃん怪我! 治してもらえなかったの!?」
「あ、いや。これは僕の体力のアレで……。それより麗日さん、あの、かっちゃんは?」
「ああ、爆豪君なら皆止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ。……ちょっとデクちゃん!? そんな怪我で走ると危ないよ!」
校舎から出て周りを見ると校門へ向かうかっちゃんが見えた。
「かっちゃん!!!」
「ああ?」
どうしよう? 何も考えずに追いかけてきちゃったけど、かっちゃんになんて言おう? お母さんにも言ってない、個性の話……。
「なんだよ、負け犬を笑いに来たのかよ?」
「え? 負け犬だなんてそんな……」
「俺はてめえに負けた! 無個性で弱かったはずのてめえに! これが負け犬でなくてなんだってんだ!」
こんなかっちゃん初めて見た……。うんと小っちゃい頃、かっちゃんがかっちゃんのお母さんに怒られた時に似てるけど、こんな自暴自棄な感じではなかったはず。
……こんなのかっちゃんらしくないよ。
「……たった1回負けたくらいで拗ねてるの?」
「!? なんだとてめえ!」
「だってそうじゃないか! 今まで僕は君に数えられないくらい負け続けてる。でも、それでも雄英に、この場所に来ることができた! 僕よりずっと勉強もできて運動もできる君がたった1回僕に負けた程度でこの世の終わりみたいな顔してるなんて僕が許せない!」
「……てめえ」
「かっちゃんにそんな顔は似合わない! 傍若無人で自信満々で不敵に笑ってるのが君じゃないか!」
大声で言い続けて息が上がる。感情が昂って色々ぶちまけちゃった。でも、今言ったことは全部僕が思っていることだ。
口も態度も悪くて、それどころか手を出しそうなぐらい素行も悪いけど、常に自信に満ち溢れていて努力を怠らなくて自身の夢を実現させるっていう強い意志がある。
それが、僕が昔から見続けてきた、身近にいる凄い人だ!
「なんなんだよ、てめえはよ……。自分が勝った癖に負けた俺を持ち上げるようなことを言いやがって! 頭おかしいんじゃねえか!」
自分でもおかしいと思ってる。
でも、これが僕の正直な考えだから。
「……言えよ」
「へ?」
「てめえが勝ったら願いを言うんだろ、とっとと言えや!」
「全然聞く態度じゃないよね、それ。わかったよ、ええと……。」
「………………」
「………………」
「おい、なんとか言えや。それとも何も考えてなかったんか?」
どうしよう!? あの時はなんとか話を終わらせようとして言っちゃったけど、願い事なんて考えてなかったよ!
「どうやら図星らしいな……」
「ご、ごめん」
「じゃあ、今決めろや、ここで!」
「ええ!?」
「10秒で言え。言えなかったら無しだ!」
ちょっと! そんな勝手に! 10秒で何か思い浮かぶわけないよ!
「おーい! デクちゃ〜〜〜ん!」「緑谷大丈夫〜〜〜!? 爆豪そこ動くなーーー!!!」
声がする方を見ると麗日さんと芦戸さん、だけじゃない! さっきまでクラスにいた何人かが一緒になってこっちに向かってくる! なんで!?かっちゃんも怪訝そうな顔してる……。
「緑谷、まだ爆豪にお願いしてないよね!?」
「え!? なんで芦戸さんがそれを!?」
「ごめんデクちゃん。私が喋っちゃった……」
「麗日さん!?」
「緑谷が爆豪追いかけたから、なんでか麗日に聞いたんだよ! まさか、そんな約束事していたとはな」
「言っておくが、俺は君達が授業で賭けを行ったことは納得していないからな! 先生にいうことは控えるが、今後はそんなことはするんじゃないぞ!」
「飯田カタイよ〜! こんな面白そうなこと黙ってるなんて!」
「でも飯田ちゃんがいうこともわかるわ。勝った方がいうこと聞く約束だなんて、ちょっと良くないわよね」
「へ?」「ああ?」
なんだか微妙に話が変わってる。僕が勝ったら願いを言うだったけど、かっちゃんが勝ったら僕の個性について話すだったはず。
「なんか話てる内に混ざって伝わっちゃって、訂正もできずにここに着いちゃったていう……」
「爆豪てめー! 幼馴染の女子に何エロいことさせようとしてんだこのムッツリスケベが!」
「男だからしょうがないけどよ、実行するのは良くないぜ爆豪」
髪型が特徴的な峰田君がかっちゃんに食ってかかる。血の涙まで流して何言ってるのさ……。流石のかっちゃんも呆然としてたが、我に返ると暴言マシンガントークを炸裂させた。
「何ふざけたこと言ってやがる! 俺とデクの勝負に関係ねえてめえらが口挟むんじゃねえ! クソボール誰がムッツリスケベだゴラァ!!! アホ面も調子乗んじゃねえ!」
「とにかく、緑谷は安易なお願いしちゃダメ! まだしてないなら取っておいてここぞと言う時に使っちゃいなよ! 爆豪はちゃんと緑谷のお願いしたらちゃんと聞くんだよ! 破ったら私らが黙っちゃいないからね!」
「うっせえ! てめえに言われるまでもねえわ! 勝負事の約束を破るなんて俺のプライドが許さねえ! おいデク、願いはちゃんと考えとけよボケ!」
「あ、逃げた! 捕まえて吐かせろー!」
怒ったかっちゃんは帰ろうとして校門を出たけど、上鳴君や切島君達が追いかけていって歩きながらギャアギャア言い合ってる。……こんな光景見たことない。
かっちゃんが今まで付き合っていた人達はかっちゃんのご機嫌とりに終始していて、対等な関係を築けてはいなかった。ある意味、かっちゃんは僕とは逆のベクトルで孤立してた。
雄英に入ってそんな彼になんの引け目も感じることなく接してくるクラスメイト達ができた。
そのことが、なんだか嬉しかった。
「あ、デクちゃんやっと笑った」
「そ、そうかな?」
「あ、緑谷にも聞きたいことあるよ! 爆豪のこととかいろいろ!」
「そ、それはちょっと、手加減して欲しいかな〜」
戦闘訓練はかっちゃんと戦ったり怪我したりで大変だったけど、得るものもたくさんあったいい授業だったと思う。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「爆豪少年、なんか持ち直したみたいで良かったけど、教師としての立場がないなこれ……」
身長2m超えのオールマイトであるが、校舎の陰に身を隠す彼の姿はとてもそうには見えなかった……。
いや〜、長いですねwどこで切るか悩んじゃってなかなか切れず、この文量となってしまいましたw描写は途中端折ってる部分もありますが、視点が誰かとか場面転換とかでそうなっちゃってるので大筋は原作と変わっておりません。
そして、出久ちゃん、願い事考えていませんでしたwすぐさまあの場でかっちゃんの要求と同じレベルのものを思いつくことができなかった、ということになります。さて、この『お願い』は今後どこで出てくるんですかね〜w自分も忘れないようにしないといけませんね〜w
週一投稿を初めて2ヶ月を超えますが、なんとか続けられてます。いつ遅れが出るかはわかりませんが、完結まで頑張ろうと思いますので、今後も応援よろしくお願い致します!