「いやあ~、すごく良かったですね! 感動しました!」
「ああ、前評判や口コミに違わぬ素晴らしい展示内容だった」
オタク仲間がイベント後に集まってすること、それは二次会である。会って数時間しか経っていないはずのオールマイトオタクである2人もその例に漏れず、サー・ナイトアイ行きつけの(秘匿性抜群の)喫茶店でオールマイト展を見た感想を語り合っていた。
「『オールマイトのこれまでの活躍、その全てをここに!』の看板通りに充実していましたね! 」
「日本での活動だけではなく、アメリカ在留時のものも押さえられていて運営の本気度が伺えた」
「最盛期はもちろん、デビュー当初の貴重な写真や資料もありましたね! でも、さすがにデビュー前、雄英高校時代のものはありませんでしたね」
「それは致し方ない部分もあるな。彼の正体は今をもっても秘匿されているからね。しかし、これほどのものを今後やるのは難しいだろうね。それほどのレベルの高さだった」
出久は嬉しかった。ヒーローやオールマイトの話で盛り上がれるような友人はおらず、これほどまでに話が弾んだことは幼少期以来ほとんどなかった。気が付けば喫茶店に入ってから2時間近く語り合っていた。
「……ふむ、もうこんな時間か。緑谷君は大丈夫なのかな?」
「え?……うわ、もう5時半なんですか!? 楽しい時間って本当にあっという間なんですね。こんなに楽しく話せたのははじめてです!」
「私も、オールマイトについてこれほど語り合えたのははじめてだよ。君が誘ってくれたおかげだ、ありがとう」
「そんな、僕の方こそ、ありがとうございます……」
出久はこれまでにない充実感を噛み締めていた。憧れのオールマイトの限定イベントに参加するだけでも奇跡なのに、オールマイトのサイドキックだったサー・ナイトアイと一緒に見て回るという大奇跡。おまけに見終わった後も感想を語り合うという素晴らしい時間も過ごせた。彼女の人生において、今日という日は忘れられない1日になるだろう。
そう思う一方で月曜日からの日常が出久の心に重くのしかかって来る。学校生活や進路。考えれば考えるほど今まで感じていた充実感は霧散し、出久の表情に影を落とした。
「……何か、悩み事かね?」
「…………あの、ナイトアイさん。1つお聞きしてもいいですか?」
「……私が答えられることなら……」
「…………無個性でも、ヒーローになれますか……?」
出久はそう尋ねて、サー・ナイトアイを見つめた。サー・ナイトアイも出久から向けられる視線から目を逸らさず、出久の真意を測るように見つめ返した。
どれくらい時間か経っただろうか。サー・ナイトアイは視線を出久から外し、中身が冷えたコーヒーカップを手に取り一口飲む。そして、再び出久へ視線を戻し重い口を開いた。
「緑谷君、逆に質問してもいいかな?」
「え? はい、なんですか?」
「
「え?」
「当然のことだが、ただ個性があるからと言って誰もがヒーローになれる訳ではない。ヒーロー科進学のために個性だけでなく、身体や頭脳も鍛えなければならないし、ヒーロー免許取得後も敵犯罪への対応や災害救助などを遂行するための鍛錬や情報収集、分析などやることは多岐にわたる。個性の性質上得手不得手はあるが、それでもある程度自力で戦えるための身体能力が必要だ」
「……」
「君と会ってから数時間しか経っていないが、君という人物をある程度把握できた。人を思いやる優しさを持ち、一定以上の学力も有している。しかし、見た目や身のこなしから判断すると身体能力は平均的な女子中学生並か、それよりやや下といったところだろう」
「……」
出久は驚いた。オールマイト展を見て回っているときや会話しているときのやり取りだけで自分の性格や身体能力を正確に推し測っていたことに。そして、恐怖した。彼の分析力を持ってすればあることを導き出せることを。
「ヒーローを目指しているはずなのに、そのための努力が見られない。それに、先程の君の質問のウラを読むと『個性があればヒーローになれる』、そのような考えがあるのではと思えてしまうんだ」
「……」
「……そして、これらを総合すると1つのことが推察される」
「……」
「おそらく、君は心の奥でこう考えている……」
どくん
心臓が握りつぶされるような感覚
「『自分はヒーローにはなれない』と……」
世界が……
暗転した……
「……う、うん……」
身じろぎをして出久は目を覚ました。仰向けに寝ていて、一瞬どこにいたのかわからなくなるがすぐに先程までサー・ナイトアイと喫茶店にいたことを思い出した。ゆっくりと身体を起こすと、座っていた席ではなく、簡易ベッドの上に寝ていたことがわかる。
「……ここは、休憩室、かな?」
部屋を見回すと余りものは置いてなく、小さなテーブルが1つとパイプ椅子が2脚、物置台が1つくらいしかなく、自身の荷物が置かれていた。どれくらい時間か経ったかわからなかったが、見上げると壁掛け時計があり、時間にすると最後に確認してから15分ほど経過していた。
「……思ったより時間経っていないんだ……」
先程のことを思い出す。
『自分はヒーローにはなれない』
「う、うぅぅ……、ふうぅ……っ、うう……」
わかっていた。
サー・ナイトアイに言われる前から。
「うぅ、うぐっ、うぅぅ……」
幼馴染の勝己に言われたときから。
「ひっ、ひぐ……っ、うぅぅ……」
それでも認めたくなくて、諦めたくなくて、半ば意地になって勝己や同級生に馬鹿にされても言い続けてきた。
「うぐぅ……っ、うぅぅぅ……」
夢から目が覚めた。
さらに10分ほど経っただろうか。
ひとしきり泣いて出久がようやく落ち着いたとき、ノックの音が響いた。返事をするとサー・ナイトアイが部屋に入ってきた。
「緑谷君、気分はどうかね?」
「はい、あの、大丈夫です」
「……これを」
「あの、これは……」
「目が腫れている」
「あ、はい、ありがとうございます……」
差し出されたハンカチを受け取り、まだ涙で濡れる目元を拭った。
「……申し訳ない」
そう言って、サー・ナイトアイは頭を下げた。
「え!? ナイトアイさん!? 頭を上げてください!」
「君が思い悩んでいるにも関わらず、厳しいことを言ってしまった。まだ未熟な学生に対してかける言葉ではなかった。本当に申し訳ない」
「ナイトアイさん! 僕は大丈夫ですから! 頭を上げてください!」
出久に懇願されてようやくサー・ナイトアイは頭を上げた。表情が大きく崩れてはいなかったが、出久に向けられた瞳から真摯な想いが感じられた。
「……様々な情報から答えを導き出す。悪い癖、職業病だよ」
「そ、そんなことないです! ナイトアイさんのような前線ではなく、後方で情報収集・分析して、指示を出すタイプのヒーローには必要な能力だから仕方ないです!」
自嘲した表情のサー・ナイトアイだったが、出久のよくわからないフォローにやや弱々しい笑顔を浮かべた。
「君は本当にヒーローが好きなんだね……」
「……小さい頃からの夢でしたから……」
「……」
「小さい頃からオールマイトの活躍をテレビや動画見てて。かっちゃん、幼馴染や他の友達とも一緒にヒーローごっこして、大人になったらヒーローになるんだって毎日はしゃいでいました」
「でも、無個性って診断受けて、そしたらみんな僕を馬鹿にするようになって、いじめられたりして。それでも言い続けていたんですけど、中学生になると同級生のみんなの個性も成長して、僕だけが何も変わらなくて、勝手に焦っちゃって、追い込まれちゃって……」
自分の中にあったぐちゃぐちゃになったものを言葉にしていく。また涙が流れるが、不思議と不快感はなかった。
「……意地になっちゃっていたんでしょうね、僕。子供特有の頑固さ、というか。それを今まで拗らせてしまっていたんです」
「……辛いことを思い出させてしまったようだね」
「いえ、たぶん家族やかっちゃんみたいな身近な人だとまた意地になったと思います。ナイトアイさんが客観的に見て、遠回しな言い方をしないで言ってくれたおかげで認めることができました。ありがとうございます」
「……君は本当に賢くて、心優しい子だね」
サー・ナイトアイが目を細めてそう呟くと、スマートフォンが鳴った。
「こちら、サー・ナイトアイだ。……そう、もう着いているか。わかった。もう少ししたら店を出るから、待っていてくれ」
「何か事件でもあったんですか!?」
「いや、事務所のサイドキックを呼んだ。君を自宅まで送るように伝えてある。」
「ええ!? そんな、大げさですよ!? もう身体も大丈夫ですし」
「君は気を失って倒れたんだ。自分で思っている以上に身体に負担がかかっている。私のせいでそうなったのだからそれくらいさせて欲しい。そのサイドキックは女性だし、気配りもできるから安心してくれ」
「……わかりました」
出久が身支度を整えて外へ出るとショートヘアーで青色の肌をした活発そう女性が2人を待っていた。
「サー、お疲れ様です」
「急に呼び出してすまない。事務所にまだ君が残っていてくれて助かったよ」
「それで、彼女を家まで送り届ければいいんですね?」
「ああ、私の責任だが女性の君と一緒の方がなにかと都合がいいだろう」
「わかりました。ちなみにこれ、残業代と経費大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。無事送り届けたら直帰して構わない。緑谷君、こちらは「今若手注目ヒーロー、バブルガールですよね!? キュートでセクシーで明るい性格で人当たりが良くてヒーロー活動時は泡の個性を活かして敵制圧から火災の初期消火、怪我の応急処置など幅広く活躍していて最新のヒーロービルボードチャートJPで『新人ヒーロー部門』でトップ3に選ばれた!」
「…………そのバブルガールだ」
「サー! めちゃくちゃいい娘ですね! お持ち帰りしてもいいですか!?」
「……バブルガール、この状況でそのジョークはあまり感心しないな。やはり君はもう少しユーモアを鍛えなければいけないな」
「ああ、ごめんなさい!? 可愛くてつい!? お仕置きは勘弁してください! ……こほん、こんばんは、緑谷さん。バブルガールです。あ、今はヒーローコスチューム着てないから『泡田薫子』でお願いね」
「あ、緑谷出久です。ご迷惑おかけしてすみません」
「いいえ、大丈夫よ。サーから連絡受けたときはどういうことと思ったけど、話を聞いて飛んできたわ。ちょうど帰ろうとしていたとこだったし。あ、サー。センチピーダーが今日のことについて明日話したいと言っていたのでお願いします」
「……わかった。……緑谷君」
「はい」
「あらためて、今日は本当にありがとう。久しぶりに楽しい時間を過ごせた」
そう言って、サー・ナイトアイは右手を差し出した。
「……僕の方こそ、あんなに楽しかったのははじめてでした。ありがとうございました」
出久もそれに応えて右手を差し出し、握手を交わした。
「……あの、ナイトアイさん? どうかしましたか?」
「……いや、すまない。なんでもない」
一瞬サー・ナイトアイの表情が変わった気がして出久が声をかけるが、彼は何事もなかったように応えて握手を終えた。
「サー、出久ちゃんに変なこと考えたら許さないですよ〜」
「バブルガール、やはり今日の残業代は無しに「スミマセンデシター!」
即座に謝るバブルガールに出久は苦笑していると、バブルガールに注意したサー・ナイトアイが胸元から1枚の紙を取り出し、出久に差し出した。
「あの、これは……?」
「私の名刺だ」
「ええ!?」
「ヒーローの活動は一見華々しいものだが、その裏で行われていることは世間ではあまり話題にならない。警察や役所、政府機関への報告書の提出や他事務所との連携、連絡網の構築、メディアへの対応など幅広く多岐にわたる。時には多くの事務作業を強いられることもある」
「……」
「もし君がヒーローへの道を諦めたとしても、それでもヒーローへの憧れを持ち続け関わっていきたいと思うならば、その部分を知ることは決して無駄にはならないだろう」
「……事務所へ行ってもいいんですか!?」
「正式なインターンではないから給料やアルバイト代は出せないが、社会勉強の一環ということで私やバブルガールが対応しよう」
「……どうしてここまでしてくれるんですか?」
(僕は無個性の木偶の坊なのに)
出久の心の声が聞こえたかのようにサー・ナイトアイが言葉を続けた。
「久しくいなかった『同好の士』が困っていたら助けたくなるものさ」
「……へ?」
「『人助け・お節介はヒーローの本質』ということさ。3日前までに連絡を貰えれば時間を作ろう。バブルガールとも連絡先を交換しておくといい。君もそれで構わないだろう?」
「はい! 大丈夫です! 出久ちゃん、あとでいろいろ教えてね~!」(ガバッ)
「きゃ!?(す、スキンシップが激しいよ~///)」
「バブルガール、そろそろ出ないと遅くなってしまうぞ」
「はいはい、わかりました~。それじゃあ、出久ちゃん行こうか!」
「は、はい、お願いします。あの、ナイトアイさん! 今度、時間作って事務所に行きます! 本当にありがとうございました!」
「こちらこそ、ありがとう。気を付けて帰りなさい」
電車に揺られながら、出久はバブルガールに今日1日の出来事を話した。
「私、サーがあんなに穏やかに話しているの始めて見たよ。事務所だとテキパキ指示して、時間にも厳しいし」
「やっぱりそうなんですね~。事務所に電話かけてるときがまさにそんな感じでしたよ」
「出久ちゃんが事務所に来てそんなサーを見たら他の2人もびっくりしちゃうかも」
「事務所は全員で4人でしたか? イメージより少ないんですね」
「うーん、少数精鋭、と言えるかはわからないなあ。私は若手注目って言われているけど、まだまだデビューして日が浅い新人だし。センチピーダーはもちろん優秀だけど、人気や知名度はそれほど高くない。1人インターンの学生がいるけど、新人の私から見てもまだまだ荒削りかな~って感じ」
「インターンってことはまだ学生なんですね? ヒーロー科ってカリキュラムがだいぶ早いんですね」
「インターンの子、通形ミリオっていうんだけど、彼はあの雄英高校だからね~」
「あの雄英高校の!? でも、僕春の雄英体育祭テレビで観ていたんですけど、そんな名前の人いたかなぁ?」
「まあ、一年生ではビリッけつだったみたいだけど」
「……こう言っては失礼ですけど、そんな成績の人がよくナイトアイさんの事務所にインターン来れましたね」
「うーん、なんと言ったらいいかな、ミリオ君ってさっきいったみたいに成績そんなに良くないんだけど、性格がとても明るくて、困難なことがあっても凹たれず、こちらが元気になるくらいの笑顔で頑張れるの。そこがサーがミリオ君を指名した理由なのかも」
「ナイトアイさんの指名ですか!?それって凄いことですよね……。会ってみたいな〜」
「ふふふ、出久ちゃんが事務所に来るなら会う機会はあるよ、そのときは紹介するね。出久ちゃんの進路の参考になるだろうし」
「はい、家に帰ったら予定確認します!」
「楽しみだね。……それにしても、サーが出久ちゃんに名刺渡したのはちょっとびっくりしたな~」
「僕もびっくりしました。『同好の士』って言ってましたけど、僕なんてただのヒーローオタク、オールマイトオタクなだけなんですけど」
「うーん、何か考えがあるんだろうね。いや、悪いことではないと思うよ。サーも基本的に善人だし。でも、いろいろ緻密な作戦を練るタイプの人だし、無意味・無駄なことはしない人でもあるからなあ……」
「なんか、少し不安になってきました……」
「そんなに心配しなくて大丈夫よ! 必要なことは教えてくれる人だからそのうち教えてくれるわ。それより、今度は出久ちゃんの話が聞きたいな~」
「ええ!? 僕のこと聞いても何も楽しくないですよ!?」
「そんなことないよ〜。学生といえば恋バナでしょ、恋バナ! さあ、出久ちゃんの好きな人、タイプとかもろもろ教えなさ〜い」
「ええ!? す、好きな人なんて!?」
「さあさあ、吐きなさ〜い♪」
『女三人寄れば姦しい』とよく言われるが、2人でも十分に騒がしくなること(この場合はほとんどバブルガールのせいだが)を、同年代の同性と付き合いが薄い出久ははじめて知った。押しの強いバブルガールの質問に困惑しながら、これまであまり感じたことのなかった温かさを胸に抱えながら家への時間を過ごした。
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Side:Sir Nighteye
緑谷君とバブルガールが去った後、1人佇み先程起こったことを思い返した。
「緑谷君と握手をしたときに見えた
不定形型のヴィランに乗っ取られようとしている少年を必死の形相で助けようとする緑谷君。そこへ突如現れたオールマイトがこぶしの風圧でヴィランを制圧。
住宅街で緑谷君に何か語り掛けているオールマイト。しかもマッスルフォームではなく、トゥルーフォーム。
……『個性』を発動する意思はなかった。しかし、それにも関わらず予知が行われた。こんなことは個性発現時以来だ。
「…………まさか、彼女なのか?オールマイトが選ぶ後継者は……。」
女子中学生、しかも無個性者がオールマイトの個性『ワン・フォー・オール』を受け継ぐ者となるのか?
……有り得ない。『ワン・フォー・オール』はそんな軽いものではない。彼の意思で譲渡できるとはいえ、そんなことが認められるわけがない!
だが、不可抗力とはいえ自分の個性で見た以上、その未来が確定していることも否定しようがない。
「……この目で確かめるしか方法はない、か……」
頭に残る映像からその日を特定し、その場に居合わせ真意を正す。そのためには……。
「緑谷君、利用するようで悪いが済まない。これもオールマイトを救うため、ひいては平和を守るためなのだ。」
今日できたばかりの『同好の士』への言い訳を独り言ちて、すっかり日の暮れた街中を事務所へと足を向けた。
さあさあ、このペースで完結できるのか?今から不安です。一定以上ペースを上げることはできませんが、のんびり待っていただければ幸いです。
次こそはオールマイトは出るのか!?こうご期待です♪
4/2追記 書き忘れていましたが、この作品でのサー・ナイトアイのイメージは『無愛想だけど、何かと気を遣って優しく接してくれる親戚のおじさん』です♪