『それじゃあ今から一時間程昼休憩を挟んでから午後の部だぜ! じゃあな! オイイレイザーヘッド、飯行こうぜ……!』
『寝る』
『ヒュー』
プレゼント・マイクによって午前の部終了と昼休憩が告げられ、それを合図に生徒や観客は食事や買い物、トイレ休憩など一斉に移動を始めた。
「悔しいわ。三奈ちゃんおめでとう」
「爆豪、轟の氷対策で私入れてくれてただけで実力に見合ってんのかわかんないよー」
「飯田君、あんな超必持ってたのズルイや!」
「ズルとは何だ!! あれはただの『誤った使用法』だ!」
「ウエ〜〜〜イ(楽しかったアレ)」
騎馬戦に参加していた1ーAの生徒も昼食のために食堂に向かいながら談笑をしていた。
「どうにも緑谷君と張り合いたくてな」
「飯田君があんな啖呵切るなんて思わへんかったわ。……ていうか、その緑谷君、デクちゃんは……どこ?」
「はて? 麗日君達と一緒だったのではないか?」
「そうなんやけど……おかしいな、どこ行ったんやろ……」
一緒に勝利を喜び合っていた出久がいなくなっていたことを不思議に思い麗日は周囲を見渡すが、見つけることができなかったため仕方なく他のクラスメイト達と食堂へ向かっていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
「…………」
「え〜っと……轟君。話って何かな?」
「…………」
「早くしないと食堂すごい混みそうなんだけど……」
「…………」
「えと……」
どうしてこうなっちゃったの!?
麗日さん達と食堂に行こうと思ったら、轟君に話があるって呼び止められたけど一向に話をする素振りがない。
なんか、睨まれてる?普段から物静かであまり誰かと話をしている様子はないけど、こんな風に強い視線を誰かに向けているのは見たことないし、それが自分に向けられるなんて思わなかったよ……。かっちゃんとはまた違う、冷たい威圧感……。
「……気圧された、
気圧された? 僕に? 誓約って左側のことかな? 確かに使えば有利な場面でも使わなかった、最後の攻防まで……。
「あのサポート科の奴は知らねえが、飯田も上鳴も八百万も常闇も麗日も……感じてなかった。最後の場面、あの場で俺だけが気圧された。本気のオールマイトを身近で経験した俺だけ」
「……それ、つまり……どういう……」
「おまえに同様の何かを感じたってことだ」
これは……ちょっとマズい。僕とオールマイトの関係、OFAについて何か気付かれちゃったかも……。
「なァ……オールマイトの隠し子か何かか?」
「…………へ?」
『おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな?』
な……なるほど……そうなるのか!! そうなるよね! 『個性を受け継いだ』より『個性が遺伝した』って考える方が自然だもんね!
「違うよそれは………! って言ってももし本当にそれ……隠し子だったら違うって言うに決まってるから納得しないと思うけどとにかくそんなんじゃなくて……! そもそもその……逆に聞くけど……なんで僕なんかそんな……」
「……『そんなんじゃなくて』って言い方は少なくとも何かしら言えない繋がりがある、ってことだな」
僕のバカーーー!! もっと別な言い方あったでしょーーー!! ますます怪しまれちゃったじゃないかーーー!!
「俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ」
もちろん知ってる。でも……それが今なんの関係が……。
「万年
―――――――――――――――――――――――――――――――――
昼休憩に入って多くの観客がスタジアム内を行き来していた。その中には一般人にもスカウト目的のプロヒーローもいて、ヒーロー同士で予選・本選を見た情報交換も行われていた。
そんな中で一際大きな体格のヒーローが1人歩いていた。ヒーロービルボードチャート
……一部を除いて。
「よっ! 久し振りだな! お茶しよエンデヴァー」
「オールマイト……」
「超久し振り! 10年前の対談振りかな!? 見かけたから挨拶しとこうと思ってね」
「そうか。ならもう済んだろう、去れ」
気さくに話しかけるオールマイトだが、声をかけられたエンデヴァーは忌々しげに言葉を吐いた。
「茶など冗談じゃない……便所だうせろ!」
「つれないこと言うなよーーー!!」
「ぐっ……」
話を終わらせてこの場を去ろうとするエンデヴァーの前に移動しなおも話しかける。そんな態度に不快感を隠さないエンデヴァーだが、当のオールマイトは全く気にせず話を続ける。
「君の息子さん、轟少年。力の半分も使わず素晴らしい成績だ。教育が良いのかな?」
「何が言いたい?」
「いやマジで聞きたくてさ。次代を育てるハウツーってのを」
「……? 貴様に俺が教えると思うか? 相変わらずそのあっけらかんとした態度が癪に触る」
「ごめん」
自分より格下の者に他意なく教えを乞うオールマイトにエンデヴァーは一層不快感が増してオールマイトを押し退ける。
「これだけ覚えとけ。
「…………何を……」
エンデヴァーの言葉にオールマイトは怖気を感じた。普段は敵相手にもほとんど感じることはない感情を同じヒーローであるエンデヴァーから受けるとはオールマイト自身も思ってもみなかったことだった。
「今は下らん反抗期だが、必ず超えるぞ……超えさせるぞ……!」
そう言い放ってエンデヴァーはその場を離れた。残されたオールマイトはエンデヴァーの言葉を思い出していたが、その真意を測ることはできなかった。
「……む? オールマイト! こんなところで何をしてるんだ?」
「ナイトアイ! 来てるとは聞いてたけどまさかここで会うとはね」
「挨拶に行こうとは思ったんだが、忙しいと思ってね。それにしても貴方がこんなところにいたらパニックになるのでは?」
「それが……エンデヴァーを見かけたんで声をかけたんだがいろいろ言われてね……」
「エンデヴァー……確か息子が緑谷君と同じクラスだったね……」
「ああ、轟少年だよ! そのことで教育方法を聞いたら何か気に障ったみたいでね……」
「ふむ……」
流石のオールマイトもエンデヴァーが言っていたことを全て話すのは憚られたのでナイトアイにはぼかして話した。ナイトアイもエンデヴァーが一方的にオールマイトを敵視していることは知っていており、また本選での轟の戦いぶりが少し気になっていたがあえて聞かなかった。
「それにしても緑谷少女の戦いぶりは素晴らしいね! 体育祭の前はあまり乗り気じゃなかったんで少々無茶を言ってしまったんだが、ここまで勝ち残ってくれて嬉しいよ。通形少年も手伝ってくれたみたいだね」
「ミリオも緑谷君のことは気にかけているからね。正直ミリオの方も見たかったんだか緑谷君を応援するように言われたよ。ところで、ここからは例年通り一対一の戦いになると思うが、どこまで行けると思う?」
「私としては優勝してもらいたいが、彼女以外の生徒も優秀な子が多い。そう簡単には行かないだろう。ただ……」
「ただ……?」
「彼女には『私が来た!』と知らしめてほしいと伝えたからね、頑張ってくれると思うよ!」
「フッ……私も同じことを彼女に伝えたよ」
「君もか! 考えることは同じだね」
2人は声を上げて笑い合い、昼休憩終了の5分前までその場で語り合っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
『勝たなきゃならない』? 一体どうしてなんだろう?
「親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せたが……それだけに生ける伝説オールマイトが目障りで仕方なかったらしい」
そう話し始める轟君の目は強い感情……憎悪や敵意を感じさせる者だった。それこそ『親の仇』を見るかのような……。
「自分ではオールマイトを超えられねぇ親父は次の策に出た」
「何の話なの轟君……。僕に……何を言いたいの……」
オールマイトとエンデヴァーの仲が悪い、と言うよりエンデヴァーが一方的にオールマイトを毛嫌い……と言うより敵視しているのは広く知れ渡っている。でも、そのことが何で轟君や僕に……。
「個性婚、知ってるよな。『超常』が起きてから第二〜第三世代間で問題になったやつ……。自身の『個性』をより強化して継がせる為だけに配偶者を選び……結婚を強いる倫理観の欠落した前時代的発想」
「!?」
もちろん知ってる……。授業でも習ったことのある、時代錯誤の考え方。……でも、ここでその言葉が出るって、まさか……。
「実績と金だけはある男だ……。親父は母の親族を丸め込み……母の『個性』を手に入れた」
そんな! あのエンデヴァーが! 敵出現時は誰よりも迅速に出動して脅威的な比率で制圧・拘束する、オールマイトに次ぐNO.2ヒーローが……そんな悍ましいことを……。
「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい……! そんな屑の道具にはならねえ」
「…………」
「記憶の中の母はいつも泣いている……。『おまえの左側が憎い』と母は俺に煮湯を浴びせた」
そんな……そんな酷いことが……。
「ざっと話したが、俺がおまえにつっかかんのは見返す為だ。クソ親父の『個性』なんざなくたって……いや……使わず『一番になる』ことで奴を完全否定する」
あまりに違う世界の話で……正直ビビって理解が追いつかない。目指す場所が同じでも……こうも違うのか……。
「言えねえなら別にいい。おまえがオールマイトの何であろうと、俺は右だけでおまえの上に行く。時間取らせたな」
コミックだったら主人公、それ程の背景だ。それに対して僕が言えるなんて……。
「僕はずうっと助けられてきた……。さっきだってそうだ……僕は誰かに救けられてここにいる」
オールマイト、ナイトアイさん、ミリオさん、バブルガールさん、センチピーダーさん、お母さん。雄英に入ってからも麗日さん、飯田君、相澤先生、蛙炊さん、峰田君、常闇君、発目さん、それに……かっちゃん。
皆に救けられている。
そんな僕がなりたいもの……笑って人を救ける最高のヒーロー……。
「オールマイト……彼のようになりたい……その為には1番になるくらい強くならなきゃいけない。君に比べたらささいな動機かもしれない……」
小さい頃からの淡い憧れだけど……それでも、ここまで大切に持ち続けてきた。
「でも僕だって負けらんない。僕を救けてくれた人達に応える為にも……! さっき受けた宣戦布告、改めて僕からも……僕も君に勝つ!」
強く右手を握り締め、轟君を見ながら宣戦布告を返す。轟君は僕を一瞥して何も言わずその場を離れていった。
……疲れた。
エンデヴァー、個性婚、轟君の目標、左目の傷痕の理由、家族のこと……。
ダメだ、いろいろ情報が多すぎて頭が回らない。
……!? なん…だか…身体に力が入らない!? それに……気持ち悪い……。
午前中の疲労に加えて短時間に普通じゃ考えられない話を聞いて精神的に負担が大きかったせいか、僕はその場で立てなくなり蹲ってしまった。
「う、うぇぇ……」
気分が悪くなって堪えきれず嘔吐してしまう。そのため、一時的に呼吸困難になって手足が痺れてくる。
息ができない!? どうしよう!? 誰か……!
意識が遠のきそうになったところで誰かが僕を支えて背中をさすってくれる。
「落ち着け。中途半端に止めねえで吐き出すなら全部吐き出せ」
誰だろう? 背中をさすりながら声をかけてくれる。すごく、落ち着く声だ。それに……何だか甘い匂いが…。何だろう? 昔から嗅いだ事のある懐かしい匂い……・
「次は深呼吸だ。大きく吸って大きく吐き出せ。ゆっくりだ」
声に従ってゆっくりと息を吸い、そして吐き出す。一つ……二つ……三つ……1分ほど経ったところでだいぶ落ち着いた。誰か知らないけど指示のおかげだ。お礼を言わなくちゃ。
「その、ありがとうござい……かっちゃん!?」
「あ? 俺じゃあ悪いか?」
「そ、そんな事ないけど、何でかっちゃんがここに!?」
さっき背中さすってくれたのも声かけてくれたのもかっちゃんだったの!? ていうか、僕かっちゃんに吐くところ見られたの!? やだ汚いところ見られちゃった! 恥ずかしい!!
「てめえがゲロ吐いたりべそかいたりを見たところで今さら何とも思わねえわ」
「僕また声に出てた!?」
「うっせえ黙れ! 急に動くな、また倒れんぞ」
「う、うん……ごめん……」
「オラ、これで口ゆすげ。息がゲロ臭えぞ」
「そんなこと言わないでよ! もう!!」
デリカシーないんだから! 手渡されたペットボトルの水で口をゆすいで、その後少し飲む。……ふう、何とか落ち着いた……。
「かっちゃん、どうしてここにいるの?」
「……飯食いに行こうとしたらてめえと轟が一緒にどっか行くのが見えたんだよ!」
「……それで後を追ってきたと?」
「ああ? なんか文句あるか!?」
「いえ、何でもありません!」
本当は言いたいことあるけど、いろいろ救けてもらった手前何も言えない。
「それで……僕達が話していたことも聞いたの?」
「……ああ」
「そうなんだ……」
エンデヴァーのこととか轟君のこととか……僕とオールマイトのこともかな……?
「正直、あいつが言ってたことが事実だとしても俺達がどうこう言える立場じゃねえ」
「……うん」
「そして、そんなことはどうでもいいことだ」
「え……?」
「あいつの生い立ちや家庭環境がどんなに複雑だろうが、それであいつが一番になるってことにはならねえ! 俺は俺が一番になるために
「かっちゃん……」
そうだよ……。轟君には轟君なりの一番を目指す理由があるけど、僕には僕の一番を目指す理由があるんだ! オールマイトのような最高のヒーローになるって言う理由が!
「てめえも分不相応な夢見てるんならこの程度でゲロってんじゃねえよ!」
「うるさいな! 僕だってやってやるよ!」
「……ふん! オラ! とっとと行きやがれ! 俺も休みてえんだよ!」
「ちょっと押さないでよ! もう、乱暴なんだから!」
かっちゃんに押しやられて僕は食堂のある建物へ歩みを進める。結構時間経っちゃったから食べ物あんまりないかもしれないけど、とりあえずお腹に入れておこう。
あ、そうだ!
「かっちゃん!」
「ああ!?」
「その、救けてくれて……ありがとう」
「うっせえ、とっとと行けや!」
ちぇっ! せっかく人が感謝してるのに! でも、以前よりは話せてる、かな……。
『さあ、昼休憩終了だー!!! こっから午後の部に突入していくぜー!!』
マイク先生のアナウンスで昼休憩の終了が告げられる。結局食堂に行っても大したメニューが残っておらず、購買に売ってたサンドイッチを食べてお腹を満たした。あんなふうに吐いた後はそんな重いものは食べられないからむしろこれでよかったのかも。早くスタジアムに戻らないと。そういえば、麗日さん達を探したけどどこにもいなかったな。もう戻ってるのかな?
『そんじゃあ最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』
レクリエーション種目か、そりゃそうだよね。障害物競走や騎馬戦みたいな殺伐とした種目じゃ見る人は楽しめてもやってる人はそうじゃないもんね。
『本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん? アリャ?』
『なーにやってるんだ……?』
? マイク先生も相澤先生もどうしたんだろ? 何かおかしなものでも見たのかな?
『どーしたA組!!?』
A組!? 僕達のクラスに何かあったの!?
そう思って急いでスタジアムの中に走っていく。そして、そこで僕が見たものは……。
オレンジ色のヘソだしノースリーブにミニスカという衣装と応援によく使われるポンポンを手に持った……『チアリーダー』の格好をした僕以外のA組女子の面々だった……。
「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」
「う、麗日さん……あの、その格好は一体……?」
「あ、デクちゃん、これはね……」
「緑谷いたーー!!」
「ここまで来たら一蓮托生、道連れだー!」
「1人だけ着ないなんて許さないからね!」
「出久ちゃん、観念してね」
「ちょ!? ちょっとみんな待って! 何が何だか……」
「ええと、簡単に説明するとね……」
〜〜〜〜〜回想〜〜〜〜〜
「午後は女子全員ああやって応援合戦しなきゃいけねえんだって!』
「聞いてないけど……」
「信じねえのも勝手だけどよ……相澤先生の言伝だからな」
〜〜〜〜〜回想終了〜〜〜〜〜
「というわけなんよ……」
「そ、それは……」
「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「アホだろアイツら……」
八百万さんは項垂れて耳郎さんは持ってたポンポンを忌々しげに投げ捨てた。そりゃがっかりもするし、呆れもするよね……。峰田君も上鳴君も行動力の使い方を間違ってるよ……。
「まァ本戦まで時間空くし張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!!? やったろ!!」
「透ちゃん好きね」
まあ、葉隠さんってノリもいいし、こういう盛り上がる系って好きだもんね。レクリエーション種目も全員が同じ種目に出るわけじゃないからいいんじゃないかな……?
「それじゃあ緑谷、脱げ!」
「へ!? 芦戸さん何言ってんの!?」
「さっき葉隠が言ってただろ、『一蓮托生、道連れだ』って。緑谷だけ着ないなんてフェアじゃないよね……」
「耳郎さん!? 笑顔だけど圧が強くて怖いよ! それに衣装の創造は八百万さんの個性だから本戦前に負担かけるのは……」
「私は一向に構いませんわ緑谷さん」
「や、八百万さん……」
「これもA組女子の結束力を高めるため! ご安心ください! 緑谷さんのサイズに合わせて完璧に創造いたしますので!」
「そんな気遣いはいらないよ!」
「出久ちゃん」
「蛙吹さんも何とか言って!」
「ここまで来たら一緒にやりましょ」
「そんな、僕こんな衣装なんて今まで着たことないし……」
「デクちゃん」
「麗日さん」
そうだ! 麗日さんなら僕の気持ちをわかってくれて……!
「チア衣装、みんなで着れば、怖くない!」
「そんな五七五いらないよ!」
「緑谷確保! ほらちゃっちゃと着替えるよ!」
「ちょっと!? ここで脱がすのはやめて! せめて更衣室で!!?」
「よっしゃ言質取った! ミッドナイト先生、ちょっと緑谷着替えさせてくるんで少し待ってもらえませんか?」
「青春っていいわね! もちろんオッケーよ!」
「ミッドナイト先生!?」
「ほらほら、往生際悪いよ! ここで駄々こねてたら晒し者になっちゃうよ」
「着た後にも晒し者になっちゃうでしょ!」
「さあ緑谷さん、皆さんをあまりお待たせするといけませんわ」
「ちょっとーーーーー!!!?」
こうして僕は皆に連れられて、今まで着たことのないチア衣装を着ることになってしまいました……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
『さァさァ面白いハプニングもあったところで皆楽しく競えよレクリエーション! それが終われば最終種目、進出チーム4チーム総勢16名からなるトーナメント形式!! 一対一のガチバトルだ!!』
「トーナメントか……! 毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ……!」
「去年トーナメントだっけ」
「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラしたハズ」
「麗日さん、僕大丈夫? 変なとこない?」
「大丈夫! デクちゃん身体相当鍛えてるからめちゃくちゃ似合ってるよ!」
「つーか緑谷腹筋すげえな! うっすらどころかガッツリ割れてんじゃん!」
「なるほど、緑谷は太ももが一推しだな」
「上鳴君、峰田君。次ふざけたこと言ったらただじゃ置かないからね……」
「「はい……」」
出久が連行されてチア衣装になって戻って来た後、プレゼント・マイクによってレクリエーションと本戦の概要が知らされた。雄英に進学する生徒は当然進学前も雄英体育祭を観戦しており、その舞台に自分がこれから立つことに深い感慨を覚えていた。
「それじゃあ、組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります! レクに関しては進出者16人に関しては参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね」
ミッドナイトがレクリエーションの進め方とくじ引きの説明を行う。本戦進出者は自分の体力やレクの種類を勘案して、最終的に参加するかどうか決めていくこととなる。
「んじゃ1位チームから順に……」
「あの……すみません」
いよいよくじ引きが始まろうとした時、トーナメント進出者の1人の尾白が手を挙げた。
「俺、辞退します」
「尾白君! 何で……!?」
「せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
突然の辞退申し出にA組生徒から疑問の声が上がる。相澤が体育祭前に言っていたようにこの体育祭の結果次第でプロへの道筋が大きく変わる。にも関わらず尾白は辞退することを告げ、その理由を語り始めた。
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分奴の『個性』で……」
「!?」
「(尾白君が組んでたのは確か……)」
尾白の言葉に出久は視線を『奴』、騎馬戦時に尾白が所属していたチームの心操に視線を向ける。同じクラス同士でチームを組むのが通常であるので、何故あのようなチームメンバーになったのか疑問に思っていたのだ。
「……」
視線を向けられた心操は特に驚く様子もなく話を聞いていた。まるでバラされることは想定済みかのように。
「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かなことだってのも……!」
「尾白君……」
「でもさ! 皆が力を出し合い争ってきた座なんだ。こんな……こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて……俺には出来ない」
「気にしすぎだよ! 本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
「違うんだ……! 俺のプライドの話さ……、俺が嫌なんだ。あと何で君らチアの格好してるんだ……!」
そう言って尾白は手で顔を顔を覆った。尾白自身もこれが貴重な機会であることは十分わかっている。だが、それでも彼自身が自分の力を発揮した結果ではないことで勝ち進むのをどうしても受け入れられなかった。
「僕も同様の理由から棄権したい! 実力如何以前に……
「なんだこいつら……!! 男らしいな!」
尾白と同じチームだったB組の庄田も同じく棄権を申し出た。彼も尾白と同じようなモヤモヤを胸のうちに抱えていたのだった。
『なんか妙な事になってるが……』
『ここは主審ミッドナイトの采配がどうなるか……』
今日の競技中の数々の判定は主審であるミッドナイトがその判断を行なっている。これまでにも様々な采配をおこなっているミッドナイトに今回もどのような判定を行うか、注目が集まる。
「そういう青臭い話はさァ……好み!!! 庄田・尾白の棄権を認めます!」
「「「(好みで決めた……!」」」
ミッドナイトの鶴の一声で2人の棄権が認められた。
「僕はやるからね?」
心操チームの最後の1人、青山はトーナメント進出を受け入れた。所属していたチームが進出を決めているので彼の判断も決して間違いとは言えず、そのことを咎める者は誰もいなかった。
「繰り上がりは5位の拳藤チームだけど……」
「そういう話で来るんなら……ほぼ動けなかった私らよりアレだよな? な? 最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?」
「「!」」
「馴れ合いとかじゃなくてさ、フツーに」
「お……おめェらァ!!!」
「というわけで鉄哲と塩崎が繰り上がって16名! そして、組はこうなりました!」
拳藤チームの棄権と鉄哲チーム内の泡瀬・骨抜の辞退で鉄哲と塩崎の進出が決まり、彼らを新たに含めた16名によるトーナメント分けが決定した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
Side:Izuku
トーナメントの組み合わせが決まった。僕も勝って、轟君も勝ったらもう……こんなに早く当たるとは思ってなかったけど、やるしかないよね。
でもその前に初戦に集中しなくちゃ。心操って確か……騎馬戦で尾白君と青山君が同じチームだった……。
「あんただよな? 緑谷出久って」
「!」
不意に後ろから声をかけられた。振り向くと以前A組に来て不敵な宣戦布告をした長身で紫髪の姿があった。
この人が……! 尾白君は『奴の個性』って言ってたけど、一体どんな……。一応挨拶は返しておこうかな。
「よモッ!?」
「緑谷!!」
この声は、尾白君!? それに、これは尻尾も! なんで!?
「奴に答えるな」
「!?」
答えるな? どういう意味なんだろ?
「訳は後で話す。とりあえず……痛!?」
突然尾白くんが声を上げた。どうしたんだろ?
「尾白君! チアにお触りは厳禁だよ!」
「お触りって! 別にそんなつもりじゃ……」
「じゃあ、どんなつもりだったのさ!?」
尻尾を外しながら後ろを見ると葉隠さんが尾白くんと何か言い合いをしていた。そっか、いきなり僕に尻尾を巻きつけたから何か勘違いしちゃったのか。
「出久ちゃん大丈夫!? 尾白君に変なことされなかった?」
「大丈夫だよ葉隠さん。尾白君は僕を守ってくれたんだよ」
「守る? どういうこと?」
「今ここじゃ言えないかな……。それよりちょっと尾白君と話してきていい? トーナメントについて相談があるんだ」
「うん、いいよ。戻ってきたら一緒にチアやろうね♪」
「そ、それは……できれば体力温存したいんだけど……」
「うんわかった。じゃあ代わりに試合までその衣装でいてね♪」
「は、はい……」
うう、なんか上手く丸め込まれちゃった……。この衣装着るならいっそ一緒にチアした方がいいのかな?
そんなことを考えながら尾白君に心操君の個性を聞くため、その場から控室に戻った。
『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』
『サンキューセメントス! ヘイガイズアァユゥレディ!? 色々やってきましたが!! 結局これだぜガチンコ勝負!!』
マイク先生のアナウンスでスタジアムの歓声が大きくなる。さっきまでのレクリエーションでは和やかな雰囲気だったけど、ここからはトーナメントの本番。否が応でも緊張感が高まる……。
『頼れるのは己のみ! ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ! わかるよな!! 心・技・体に知恵知識!! 総動員して駆け上がれ!!』
心臓の鼓動が自分にまで聞こえるみたいだ……。落ち着いて、深呼吸して……一つ……二つ……三つ……。
「HEY!」
声をかけられて後ろに振り返るとトゥルーフォーム姿のオールマイトが立っていた。
「ワン・フォー・オール、いい感じだね!」
「……オールマイト。体育祭までミリオさんが特訓を見てくれたお陰です。でも、安定はしてきましたけど集中が乱れたり感情が昂るとまだ暴発しそうで不安です……」
「確かに今はまだ5%しか使えていない。しかし、それでもここまで来れたのは君がその力を戦術的に活かすことができたからだよ」
「そうですかね……皆と運に恵まれたって感じがしますが……」
実際僕が取った作戦なんてたまたま上手く行ったようなもんだし、騎馬戦なんか麗日さんたちの助けがなければダメだった……。
「そこは素直に『ありがとう、頑張ります』でいいんだよ! ナンセンスプリンセスめ! 君の目指すヒーロー像はそんな儚げな顔か!?」
「ぐえっ!?」
試合前に頭や喉打つのやめてくださいよ!
「いいかい? 怖い時、不安な時こそ笑っちまって臨むんだ!! ここまで来たんだ、虚勢でもいい。胸を張っとけ! 私が見込んだってこと、忘れるな!」
マッスルフォームになってサムズアップで僕を鼓舞してくれる。1日50分前後しか変身できないのにこんなところで使っちゃっていいのかな? ……でも、勇気がもらえました!
「ありがとうございます、オールマイト。行ってきます!」
そう言って僕もサムズアップを返す。
オールマイトにここまで言われたんだ! やってみせる!
というわけで昼休憩からのトーナメント前までになりました!いやあ、今回の出久ちゃんはゲロ吐いちゃったりチア衣装着せられたり散々でしたねw書いててめちゃくちゃ筆が乗っちゃってこんな分量になっちゃいましたwいかがでしたか? 自分に絵心があればチア衣装の出久ちゃんの絵を描くんですがいかんせんそこは全然ダメダメなので、描いてやってもいいよって心の広いお方は是非お願い致します!
今後も頑張って投稿していきますので、応援よろしくお願い致します!