僕のヒーローアカデミア~諦めから始まる物語~   作:キョンP

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第2話① 緑谷出久:オリジン(前編)

 4月、新学期が始まる。3年生に進級した出久は始業式に遅れないようにいつもより少し早めに家を出たが、通学路では普段以上に人通りが多かった。

(何かあったのかな?……もしかして!?)

 予想したことを確認するために出久は人の流れに沿って足早に歩く。少しすると大きな人だかりができており、その数10m先に2階建てビルほどの高さのヴィランが出動している警察やヒーローを威嚇していた。

「うわ~、おっきいヴィラン!」

 

 人混みをかき分けながら、野次馬の最前列まで移動する。不謹慎ではあるが、ヒーローが活躍する姿を見るのはやはりワクワクするものがある。

「誰が戦ってますか!?」

 移動した先で誰に問いかける訳でもなく、そう言葉を発した時にはその答えの人物が今まさにヴィランに対峙していた。

 

「通勤時間帯に能力違法行使及び強盗致傷、まさに邪悪の権化よ」

 

「『シンリンカムイ』!! 人気急上昇中の若手実力派!!」

「聞いといて解説か? 嬢ちゃん…オタクだな!!?」

「あ、いや、その、あはは……」

 

 見知らぬ人でもわかるほどのヒーローオタクっぷりを披露している間にシンリンカムイが動いた。

 

「懲戒……」

 

「一発派手に見せろよ樹木マン!!!」

「あ! 出ますよ『先制必縛…ウルシ鎖牢』!!!」

 出久達が見守る中、暴れるヴィランを制圧すべく、シンリンカムイの必殺技が炸裂した!

 

 ……かのように見えた刹那。

 

「キャニオンカノン!!」

 

 大型ヴィランを上回る巨体が飛び蹴り一閃。ヴィランは大きな音と土埃とともに地面に倒れた。

 

「本日デビューと相成りました! Mt.(マウント)レディと申します! 以後お見シリおきを!」

 

 Mt.レディの活躍により、ヴィランは警察へと引き渡された。わかりやすい巨大化の個性と派手なデビュー戦により、今後も注目されていく存在となるだろう(既に「キタコレ」を連呼する謎の集団に人気となっていた)。

 

「巨大化か…人気も出そうだし凄い『個性』ではあるけれど…それに伴う街への被害も考えると割と限定的な活用になっていく? いや、大きさは自在かそれかブツブツブツブツ……それにしても、あのスタイルで身体の線の出るコスチュームを着る度胸と自信があるなんて…、羨ましい……」

「おいメモて!! ヒーロー志望かよ!」

「……いや、これはただの趣味です……。」

「……そうかい。まあ、それでも頑張れよ嬢ちゃん!!」

「……はい!! 頑張ります!!」

 

 ヒーロー分析ノートを書き終えると、出久は思いの外時間がかかったことに気付き、学校へと駆け出していった。

 

 

 

「えーお前らも3年ということで!! 本格的に将来を考えていく時期だ!! 今から進路希望のプリントを配る!」

 

 始業式後の教室、新学期の挨拶もそこそこに担任が進学を念頭に置いた最終学年について言及していく。生徒の1人1人が自分の将来について考え、それを実現できるような進学先をプリントに記入していく。

 

「……だけど皆、だいたいヒーロー科だよね~」

「「「ハーーーイ」」」

 担任が言うように現在の個性前提の『超常社会』において『ヒーロー』が最も人気の職業であり、自ずと中学生の進学先もヒーロー科が人気となる。返事とともに生徒が各々勝手に個性を発動する。火を出す者、身体を石化させる者、首を伸ばす者、物体を浮かせる者、エトセトラエトセトラ……。多くの生徒が自分がヒーローとして活躍する未来に目を輝かせていた。

 

 1人を除いて……。

 

「うんうん皆良い『個性』だ。でも校内で『個性』発動は原則禁止な!」

 

 担任が個性使用を諫める中、1人の男子生徒が尊大に言い放った。

 

「せんせえー、『皆』とか一緒くたにすんなよ!」

 口元に不敵な笑みを浮かべながら『彼』は不遜に話を続けた。

 

「俺はこんな『没個性』共と仲良く底辺なんざ行かねーよ」

「そりゃねーだろカツキ!!!」

「モブがモブらしくうっせー!!!」

 

『爆豪勝己』。金髪につり上がった赤い瞳、『爆破』という優れた個性を持った、出久の、物心がつく前からの幼馴染。

 

 そんな勝己の物言いに教室中の生徒がブーイングを行うが、担任が放った言葉に次は別の意味で教室が騒然とした。

 

「あー確か爆豪は……『雄英高』志望だったな」

「国立の!? 今年偏差値79だぞ!!?」

 『雄英高校』。No.1ヒーローであるオールマイトの出身校としても有名であり、彼以外の他のトップヒーローも多くが雄英卒業生である。それ故、現在日本の最難関かつ最高峰のヒーロー科を有する高校と認知されている。

 

「そのざわざわがモブのモブたる所以だ!」

 

 ざわつく周囲を歯牙にもかけず、机に立ち上がると己の優秀さを高らかに謳い上げた。

 

「模試じゃA判定!! 俺は中学(ウチ)唯一の雄英圏内!! あのオールマイトをも超えてトップヒーローと成り!! 必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!!」

「あ」

 

 そんな政治家か革命家さながらの勝己の大演説に水を差すように担任が声を発した。

 

「そいやあ緑谷も雄英志望だったな、……普通科だが」

(そこでなんで僕のこと言うの!?)

 

 その瞬間、教室中の視線が出久に集まる。

 

「はああ!? 緑谷が!? ムリっしょ!?」

「無個性のお前が入れるわけないだろ!」

「いや、普通科ならヒーロー関係ないし無個性でも別にいいんじゃない?」

「実技試験ないなら緑谷だったらイケるんじゃないかな?」

 

 反応が意外にも分かれているのは出久は無個性でヒーローオタクなだけで、勉強面では成績トップクラスで他の生徒に一目置かれる存在だからである。……あくまで一目置かれるだけであって特に仲の良い生徒がいるわけではなかったが。

 

「おいデク! てめえ、普通科受けるたあどんな風の吹き回しだ!? 今までは無個性の癖にヒーローになりてえなんてウゼえくらいだったのによ~、ああん!?」

 

 両手で個性の爆破を発動しながら勝己は出久を問い詰める。出久の重度のオタクっぷりを知っている勝己ですら、疑問に思う程の衝撃だった。

 

「うん、かっちゃんの言うように無個性だからヒーロー目指すのは止めたんだ」

「なん、だって……」

「いろいろ調べたり考えたけど、やっぱり個性がないとヴィラン逮捕や救助活動とかできないから、普通科に入ってヒーローを支える仕事に就こうって思って。でも、やっぱりヒーローが好きだから、同じ普通科でも雄英を目指すことにしたんだ」

 

 サー・ナイトアイと会って、長年自分が無視していた本心を自覚してから出久は自分の進路について改めて考えた。サー・ナイトアイに誘われたとおり月に2・3回、これまでに計5回事務所を訪れてサー・ナイトアイやバブルガール、ときどきインターン生のミリオからもヒーロー事務所の日常を見せてもらった。そうしていく中でより現実的な選択肢を検討した結果、普通科を目指すことにしたのだった。

 

「緑谷の言う通りだ。自分で調べて考えて、時には大人のアドバイスを聞いた上で結論を出すのが大切だ。ここにいる皆も、全員がヒーローになれる訳じゃない。そこんところ、皆もちゃんと考えて進路を決めるようにな。……よし、それじゃあこれでHRは以上。次の授業に遅れるな~」

 

 出久の言葉に勝己は一瞬呆然として、我に返って何か言おうとしたが、担任に阻まれるような形になりHRが終わってしまった。クラス中が次の授業への移動を始めたため、勝己は出久に何も言えず特大の舌打ちをして自身も移動の準備を始めた。

 

 

 今日は始業式のため、授業は午前中で終わる。生徒は友人と遊びに行ったり部活動に行ったりと各々の予定をこなそうと我先にと教室を飛び出していく。出久も帰宅部であり、特に学校に残る用事もないので帰り支度を整えながら、スマホを操作していた。

(今朝の事件ヤフートップだ!)

 大型新人ヒーローのデビュー!しかもスタイル抜群の女性ヒーローとあれば様々なメディアが無視するはずがない。

(もうヒーローは目指さないけど、やっぱりやめられないや。……早く帰ってノートにまとめなきゃ)

 あとはノートを仕舞うだけ。しかし、出久がノートに手を伸ばしたが、それより早く誰かがノートを取り上げた。

 

「あっ」

「デク、てめぇヒーロー諦めたくせにまだこんなもん書いてんのか?」

 勝己は取り上げたノートを忌々しげに見た。取り巻きの連中はそれを見たことがなかったようで勝己に何なのか尋ねてきた。

 

「勝己何ソレ?」

「『将来の為の……』、マジか!? 緑谷お前こんなもん書いてたんだ!」

「そりゃ女子連中からも浮くわな」

「べ、別にいいでしょ! 返してよかっちゃん!」

 

 勝己を含めて男子4人にからかわれて悔しかったが、それでも大事に書き綴ってきたノートを返すように出久は叫んだ。だが……。

 

「ヒーロー諦めたんならもう必要ねえだろ? 俺が片付けてやるよ」

 

 ボム!!!

 

「あーーー!!?」

 

 勝己が個性を使用して、出久のノートを爆破した。原型を留めてはいるが、表面は真っ黒に焼け焦げていた。

 

「そんな……、ひどい……」

「てめぇがヒーロー諦めたのは別にいいが、雄英目指すってのは我慢ならねえ。俺が、俺だけがこの学校からの唯一の進学生となって雄英に行く。そうすりゃ箔が付くってもんだ」

(((みみっちいなぁ……)))

「雄英行くのは諦めろクソデク。別んところでヒーローでもオタクでも勝手にやってろ」

「!?」

 

 出久にそう言い放ち勝己は焦げたノートを窓の外へ投げ捨てた。出久はノートが投げ捨てられた窓を見たまま呆然としていた。その姿に勝己は満足げに鼻を鳴らし、他の3人を連れて教室の出口に向かう。歩きながら勝己はさらに続けた。

 

「そんなにヒーローに就きてぇなら効率良い方法あるぜ」

 

 出口の手前で振り返りながら、勝己は出久へ残酷な言葉を……。

 

「来世は『個性』が宿ると信じて……屋上から、ガッ!?」

 

 言い終えることは出来なかった。

 

 出久は振り向きかけた勝己の顔面に平手打ちをぶつけていた。

 

 ぶたれた勝己はもちろん、他の3人も突然のことに反応出来なかった。クラスでも浮いている、運動が人並み以下のヒーローオタクの出久がまさか手を出してくるとは夢にも思っていなかったのだ。

 

「てめぇ何しやが「なんでこんなひどいことするの!?」

 

 打たれたことに一瞬動きが止まっていた勝己が我に返って出久に怒鳴ろうとしたが、それを上回る声で出久が勝己を遮った。

 

「僕は! 無個性だから! ヒーローになれないって! 本当は前からわかってたのに! やっと受け入れられたのに! かっちゃんが言うようにヒーロー諦められたのに! それでも! 将来はヒーローを支えられるって思ったのに! かっちゃんを支えられるって思ったのに!」

 

 勝己を含む4人は何も出来なかった。大粒の涙を流し、感情を露わにしながら自分の想いを吐露する出久など誰も見たことなどなく、先程勝己がぶたれた以上の衝撃だった。

 

「……もう、かっちゃんなんてしらない……」

 

 そう小さく呟いて、出久は荷物を持ち教室を後にした。その動きは決して早いものではなかったが、4人は出久が教室を出た後もしばらく動けなかった。

 

 

 

「……最近涙腺緩いのかな……」

 帰り道をいつもより遅く歩きながら、出久は呟いた。出久がヒーローを諦めるきっかけとなった出来事、サー・ナイトアイと会ったときも今回と同じように号泣してしまった。

 ただ、以前は自分の心の無意識な部分を自覚できたおかげか、泣いたあとは心が軽くなっていたが、今日は泣いても心が晴れることはなかった。

「かっちゃん……僕の何が気に入らないんだろ……」

 

 日頃から出久に対する言葉遣いや態度は刺々しくて荒々しいものではあったが、中学になってから身体や持ち物への攻撃はほとんどなくなっていたから今回のようなことは本当に久しぶりのことであった。

 

「かっちゃんの顔……叩いちゃった……。跡残ってないといいけど」

 

 自身が傷つけられたにも関わらず、原因である勝己を心配する出久。その優しさが彼女の本質であった。

 

「はあ、次会うのが憂鬱だなあ。……あ、ノート忘れちゃった……」

 

 感情を爆発させて、そのまま学校を出てしまったのでノートの回収を忘れてしまっていたが、戻る気にはなかなかなれなかった。

 

「どうしよう……、ボロボロになってるから捨てられちゃうかもしれないけど」

 

 勝己に爆破されたノートは表面がボロボロに焼け焦げていたので、知らない人が拾ったらゴミとして捨てられる可能性が非常に高かった。

 

「……よし、戻ろう」

 

 どんなに踏みにじられても、ヒーローへの憧れは諦められない。書き綴ってきたヒーローへの想いを捨てたくない。そう自分を奮い立たせて帰り道にあるガード下を通り抜けたところで踵を返した。

 

 ……その時。

 

「見つけた……Mサイズの……隠れミノ……」

「え……」

 

 ズモッ!

 

 濁った緑色のヘドロのような大きなものが出久に覆いかぶさり、口から体内へと侵入してきた。

 

(!? ヴィラン!?)

「大丈ー夫、身体を乗っ取るだけさ、落ち着いて。苦しいのは約45秒……すぐ楽になるさ」

「ん゛ーっ!? ん゛ーーー!!」

「助かるよ、君は俺のヒーローだ……。まさか()()()()がこの街に来てるなんて思わなかった」

「ん゛ーーー!!!」

 

 出久は必死で抵抗を試みるが、ヴィランの身体が全く掴めず、動かせない。

 

「掴めるわけないだろ、流動的なんだから!!!」

(息が出来ない!! 身体が……力が入らっ……! 死ぬ!? 死んじゃうの!?)

 

 だんだん意識が朦朧として視界がボヤけてくる。それに伴うように身近の人の顔が浮かんでくる。優しく微笑む引子、表情はあまり変えないが自分の話をしっかり聞いてくれるサー・ナイトアイ、事務所に来ることを快諾してくれたセンチピーダー、元気いっぱいで接してくれるバブルガール、明るく笑わせてくれて受験のアドバイスをくれるミリオ、……そして、いつもの仏頂面ではない、最近では自分にみせてくれることはない、優しく微笑む幼馴染。

 

(これが、走馬灯!? 嫌っ!!! 誰かっ!!! 助けっ!!!)

 

 意識が無くなるまであと僅か。そう出久が思ったときに声が聞こえた。

 

「もう大丈夫だ少女!!」

 

 画面越しに聞いていた、憧れの存在の声を。

 

「私が来た!」

 

「!?」

(……これも走馬灯なのかな?)

 

「TEXAS……SMASH!!!」

 

(オールマイトが僕を助けに来てくれた……)

 

 ブオッ!!!

 

「風……圧……!?」

 

 オールマイトが繰り出した拳によって生み出された風圧で出久に纏わりついていたヘドロ型ヴィランが吹き飛ばされた。解放された出久だったが、身体に力が入らず後方に倒れかける。

 

(あ、倒れる……)

 

 他人事のように思った出久だったが、誰かに抱き支えられる感覚を感じた。

 

「大丈夫かい?」

(あ、これは夢だ。だって、オールマイトをこんな間近で見られるはずがないもん……)

 

 そう結論づけて、出久は意識を手放した。




 閲覧ありがとうございます。ようやく、他のキャラも出てきましたが、それに伴って各キャラの動きの把握が忙しくなってきました。結構難しいですねwあと、会話文と地の文のバランスもこれでいいのか思い悩んでいます。ちょうどいい部分をこれからも模索していきます。
 まだまだ序盤も序盤ですが、マイペースで続けていきますので、応援よろしくお願いします!

4/18 追記 誤字訂正
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